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  [No.2525] 【ポケライフ】休めないかもしれない夏 投稿者:ねここ   投稿日:2012/07/25(Wed) 15:08:48   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「暑……」

 ちょっとそこの自販機まで、と外出したはいいが、私はあまりの暑さに倒れそうになっていた。久しぶりの外だ。毎日扇風機とクーラーを傍らに置いている私にとっては、この日射しは天敵。自販機で買ったサイコソーダから伝わる冷気を頼りに、むっとする熱気から逃れる為に帰路を急ぐことにした。共にくっついてきたメタモンも、心なしかいつも以上にどろどろになっている気がする。直接灼熱のアスファルトにべたりと張り付いているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

「大丈夫?」

 下方に視線を向ける。また先程よりも弱っているような気がする。蒸発しているようだ。何だか見ていられなくなり、どうしようかと思考を巡らせていると、向こうから一匹のヌオーが現れた。どうやら、野生らしい。ここから少し行ったところにある大きな池――きっとそこから来たのだろう。ヌオーはぺたぺたと歩きながら、道端でしおれている草に適量の冷たそうな水を分け与えている。あの水を貰えれば、メタモンも少しくらいは回復するかもしれない。縋るようにじっとヌオーを見ていると、少しだけ足を早めて此方に来てくれた。そして、正面に立つと、何?と言わんばかりに可愛らしく首を傾げる。

「あ、あのー」

 一応話し掛けてみるだけ話し掛けると、ヌオーはメタモンを一瞥し、分かったというように頷いた。呆気にとられる私。そして、メタモンと少し離れたところに、氷の粒か何かよく分からないが氷らしきものを吐いて、きらきらときれいな氷の塊を作り上げた。太陽光線にも負けない、がっしりとした氷だ。メタモンは冷気につられたのか、ずるずると近寄ってその小さな氷の山に体をくっつけた。とても気持ちよさそうだ。そして、ヌオーは私に向き直り、君は大丈夫なの、とでも言いたげにもう一度首を傾げた。

「え、」

 だが、ヌオーは私が答える前に、空へ向かってそれはそれは楽しそうに水を吹いた。それらは空中で飛沫となり、びしょびしょにならない程度に私に落ちてくる。加減まで完璧だ。目を丸くしてヌオーを見つめていると、誇らしげに胸を張るような動きをした。なんとなく、幼い頃にした噴水遊びを思い出す。それにしても、頭の良い子だ。ヌオーはもっとお馬鹿さんなイメージがあったが、こんなにも頭脳派のポケモンだったとは。

「あ、いた!」

 私はその声に背後を振り返ると、そこには息を切らした一人の、私と同じくらいの歳の、けれど身長はとても高い青年が立っていた。その顔には疲労と安堵の色が浮かんでおり、目尻には涙が滲んでいる。恐らく、このヌオーの主なのだろう。だが彼は何故か一歩、一歩と、じりじり近付いてくる。よく見れば、着ているシャツやズボンは泥で汚れているし、髪からは雫が落ちて、まるで池に落ちたかのような……。だが、ヌオーはそんなことはお構いなしで、相変わらず私の為に水を打ち上げてくれている。

「そのヌオー、俺のポケモンなんだ、けど、さ」
「今そこで会ったばかりなんで、別に捕まえようとかバトルしようとかは」
「何でそんなに懐いてるんだ……!?」

 てっきり、俺のポケモンを盗もうとしたな!などと言われるかと肩を竦めていたのに、彼から発せられた言葉は予想とは違うものだった。彼は心底ショックを受けているようで、今にも崩れ落ちそうだ。思わずヌオーに視線をやると、ヌオーはこれまた嬉しそうに笑ってぺたりと私の頬に手を当てた。冷たくて、気持ちがいい。これまでを見る限りは、人懐っこいヌオーに思えるが……違うのだろうか。

「人懐っこい、ですよね」
「俺には攻撃してくるんだ……。この暑いのに、夏休みに入ってからは毎日追いかけ回さなきゃならなくて……」
「え、じゃあそんな汚れてるのも」
「そう。攻撃された」

 心の中で、お疲れ様ですと呟いた。ヌオーは主を視界の片隅にも入れようとせず、ただ私に甘えてくる。この短時間で随分と気に入られたものだ。嫌な気はそれこそ毛ほどもしないが……この状態は、何だか恋愛の縺れみたいだ。だが、涼を満喫し、元気になったらしいメタモンが足元に来たので、そろそろ私は帰ることにした。このまま去るのも悪い気もしたので、先程買ったサイコソーダを彼に差し出す。

「これ、もしよかったら」
「……あー、サンキュ。ちょうど喉乾いてたとこなんだよ」
「じゃあ、私はこれで」
「何か悪いな。遊んでもらってたみたいで」
「こちらこそ」

 小さく微笑んで手を振る彼に手を振り返し、ヌオーにもありがとうね、と言い彼らに背を向けて歩き出すと、背後からぺたぺたりと足音がした。そして、焦ったように走り出す靴音。まさか、と思い振り少しだけ首を後ろに向けると、そこにはヌオーと青年がしっかりと着いて来ていた。彼は大きくため息をついて……やはり若干泣きそうだ。この夏休み、彼も暇人なわけではないだろうに。ここは知らぬ振りをしてやり過ごした方がいいだろう。メタモンもそれは心得てくれたらしく、少し速めに移動してくれる。何とか接触されることもなく家まで辿り着くと、数秒後、あろうことかインターホンが鳴った。

「ヌオー! お前、何してんだ!」

 そして、外で聞こえる叫び声。

「……」

 思わず笑うと、メタモンは玄関に置いてあったモンスターボールに身を変え、廊下をころころと転がっていった。まったく、先に逃げようだなんて……本当に私に似てしまったのだな。外ではまだわーわーぎゃーぎゃーと声がする。でも、今回限りは、何だか分からないけど、見逃せない気がする。ジムに挑戦する時のような高揚感が私を包む。玄関の扉を開くと、先程よりも確実にぼろぼろになった青年と、水色に輝くヌオーが立っていた。

「……寄っていきますか?」
「え、いいのか? お、おい、ヌオー、ちゃんと挨拶しろ!」

 早速のそのそと上がり込んできたヌオーは、彼の言葉を聞いたのか、私に向かって礼儀正しくおじぎをした。疲れ果てた顔の青年と視線を合わせると、彼もまた嬉しそうにだが複雑そうに笑い、軽く私に会釈。家に誰かを招くなんて久しぶりのことで、少しだけ緊張する。ヌオーは一足先に、リビングのドアを開けているようだった。愛らしい自由さ、とでも言うのかもしれない。

「あー、じゃ、俺もお邪魔します」
「うん、どうぞ」

 今年の夏も、暑くなりそうだ。








二度目まして。ねここです。
始まったばかりの夏休みと、毎日家を訪れるようになったお客様(一人と一匹)。
あったらいいなと思いながら書きました。
大好きなメタモンとヌオーが出せたので本望です!つぶらな目ズ!

……反抗期ってありますよね。きっと。

私はこの夏もひきこもります。はい。だめだ。
たまには飲み物を買いに行く予定です(笑

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】