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  [No.2678] お見通し 投稿者:aotoki   投稿日:2012/10/19(Fri) 20:31:25   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

僕の友人は、突飛なことを言い出すのが多いやつだった。
「なぁ…モロバレルって、怖くねぇか?」
ランチのサンドサンドを片手に持ったまま、友人はぽつりと空を見上げて呟いた。
「はぁ?」
「いやさっきのポケモン進化史の時間さ、ちょっと考えたんだよ。あいつら、なんであんなカッコなのかなって」
モロバレル…ウツギ式タマゴグループでは植物グループ、タイプは草・毒で第一進化体。イッシュ地方にのみ生息する、割とマイナーな草ポケモンを、生粋のカントー人の友人がわざわざ話に出してまで怖がることが、僕には理解できなかった。
「なんでだよ?モンスターボールへの擬態はオーキド博士の時代から既に確認されてるだろ?そんな怖がる必要性ないだろ」
僕はライチュウコッペにかぶりついた。カスタードがこぼれそうなのを、慌てて直す。
「そうだけどさ…アレとは違う気がするんだよな。なんとなく」
「アレって…ビリリダマだよな?」「そうそうそいつ」
友人はびしりと指を伸ばした。
「あいつらは都市部とか工場で暮らしてるだろ?だからモンボに化けて、人間…俺らに生息範囲広げてもらえるから、あぁなってんだろ、多分」
でもモロバレルは違うと思うんだよ。そう言って友人はサンドイッチを一口かじった。
「なんでだよ?」
「モロバレルの住みかは森林……森でわざわざ赤色のモンボに擬態する必要あるか?」
確かに緑ばかりの森では反対色の赤は目立ちすぎるけど、僕はお茶を一口すすって答えた。
「そりゃ、トレーナーを騙して捕まえてもらうためだろ。実際あいつらの生息地はそんな密林じゃないし。実際、騙されたトレーナーの例も上がってるんだから、そんな気にするまでもないんじゃないか?」
それでも友人は納得しなかった。
「いや、違うね。もし捕まえてほしけりゃもっと小型化するはずだ。バチュルみたいに」
「タマゲタケなら小さいだろ」
「そりゃ当たり前だろ。進化前なんだから。俺が言いたいのはなんてかな……最終的な目的なんだよ。意図っていうか、生物としての目的というか」
「生物としての目的、ねぇ……」
僕はさっきの進化史の授業を思い出していた。

様々な姿を持つポケモン、しかしその姿かたちには無駄は一切無くて、きちんとした理由がある。
例えば、ピカチュウのとがった耳は微細電流の充放電のため。黄色い体は警戒色。バッフロンの頭は衝撃からの保護。エアームドのスキマのある翼は空気抵抗を減らすため。
一見僕らには無意味に見えるものにも、きちんとした存在意義がある。その目的を、僕らにわかるよう"翻訳"するのが研究者の仕事だ。

そして今、僕の目の前で友人はまさにモロバレルの姿を"翻訳"しようとしていた。
「オレ…あいつらの擬態は、トレーナーがいたから生まれたと思う」友人は神妙な顔でうつむいた。
「あいつら…笠を動かしてポケモンをおびき寄せるだろ?あれって、モンスターボールが人間の使う、安全な道具であることを利用してるんじゃねぇのか?」
友人は腰から紅白のモンスターボールを外した。つるりとした表面に、歪んだ僕らが映る。
「つまり…あいつらが僕らの"生態"を…」
「そう、利用した」

僕の背中に、何故か急に冷たいものが走った。

「……おいおいおいおい」
「…な?怖いだろ?俺らが利用してきた技術が、ポケモンに使われてんだからな。まだあいつらは騙しで終わってるけど…この先、モロバレルの次にどんな奴がでてくるんだろうって考えたら、急にな」
友人は少しひきつった笑いを浮かべた。
「…手がモンスターボールとかか?」
無意識のうちに、僕は冗談を口にしていた。言うべきではないと分かってはいたけれど、口にしてしまった。
「そうそう。体の中に味方になるポケモンが入ってるとか」
友人は笑い方をいつものものに代えて言った。
「そりゃ大変だな。ボールが二ついる」
「中から別なほうが押し開けてくるとか?」
冗談を言う僕と同時に、一枚の絵を思い浮かべる僕がいる。


草むらを走るポケモン。技を受けて怯んだそこに、投げられる赤と白の人工物。揺れが収まったそれを、同じ姿のポケモンが拾う。

「…そういやそう考えると、イッシュには人間を利用するポケモンが多い気がするな」
僕は頭のなかの絵を振り払い、努めて冷静に言った。これはあくまでも話を元に戻しただけ。そう思い込みながら。
「ヒトモシの生命力吸収だって…トレーナーの来訪前提だし、バチュルもさっきのお前の話じゃないけど、くっついて都市で繁殖する点じゃ、ある意味利用してるよな」
「あぁ。それにイッシュには生物学的に新しいポケモンも多いって聞いたし…」
斜め上を見上げながら、友人は続ける。
「………」
「………」

しばらく、僕らは沈黙していた。

「…ま、俺の考えすぎだろうな」
長話悪かったな、と無理矢理のように言って、友人は残りのサンドを一口で飲み込んだ。さっき外したモンスターボールを腰に戻し、よいしょっと立ち上がる。
「次の講義ってどこだ?」
「あ、えっと……B棟ってヤバくね?時間ないぞ」
僕は慌ててテーブルの荷物をカバンに突っ込んだ。
「走って間に合うか?」
「多分な。おい、一個モンボ忘れてるぞ」
友人の指差すテーブルの足元に、未使用のボールが一つ落ちていた。
「あ、悪い悪い」
僕は一瞬ボールに手を伸ばしかけて、ふと、このままボールを置いておいたらどうなるのだろうと考えた。そして、ボールをつかんでカバンに押し込んだ。

ニンゲンは、考えたくないことを後回しにしたがる。
この生態も利用されてるのかと思いながら、僕は友人の後を追った。

                                        "Shallow belief" is the end....


[あとがき]
かがくの ちからって すげー!なポケモンの世界ですが、正直言って、電子化される生き方ってポケモンにとってどうなんでしょうね。
電子世界での繁栄・人間なしじゃ不可能な繁栄は幸せなのか・・・・というかただの手段なのか。
そんなことを考えました。

ちなみにモロバレルってポケダンで鬼仕様になりそうですよね。