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  [No.3608] ポリゴンと冷蔵庫 投稿者:逆行   投稿日:2015/02/21(Sat) 00:37:06   92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 最近、隣にいる冷蔵庫があーだこーだうるさい。しかも言っている内容が意味不明だ。
 冷蔵庫は、自分は生物なんだと言い張っていた。
 この家には、ポリゴンがいた。ポリゴンは、この家の家族に飼われていた。父親が、ゲームコーナーの景品で取ってきたとか言っていた気がする。
 ポリゴンというポケモンは、人工的に作られたポケモンだ。すなわち、自然に発生したポケモンではないということだ。だからポリゴンは本来生き物でないという方が正しい。けれども、この家の人たちは皆、ポリゴンを生き物として扱った。ポリゴンはちゃんと生きているような振る舞いをする。だから生き物なのだと言っていた。
 このポリゴンが家に来てから、冷蔵庫が変なことを言い始めた。
「ポリゴンさんが生物であるなら、この俺も生物だろ」
 僕にはさっぱり意味が分からない。


 僕は炊飯器だ。一般家庭用の、五合まで炊ける普通の炊飯器だ。
 炊飯器は、米を炊き上げるまでに少々時間がかかる。しかしこの家には食べ盛りの子供がいて、その子たちが「ごはんまだ炊けないの」としきりに聞いてくるものだから、母親は、炊き上がるまで後五分なのに蓋を開けてしまう。一年前は、後一分で開けていた。それからちょっとずつ、開けるタイミングが早くなっていった。
 だんだん許容範囲が、広くなっていったのだろう。炊き上げるまで後一分だけどもういいや、と一回思ってしまって、そこからずるずると許容範囲が広がって、後五分でもいいやと今ではなってしまった。
 許すか許さないかの境界線。それは、必ず太いものでなくてはいけない。後一分までなら構わないというあまりにも細い境界線では、境界線の意味をもはやなさない。炊き上がるまで、という太い境界線をなくすと破綻してしまうのだ。
 このように、勝手に許容範囲を広げる人がいる。そして、この冷蔵庫もまた、
「なんでお前は俺を生物と認めないんだ」
 自分で勝手に、生物だと定義できる許容範囲を広げていた。
「だからお前は違うじゃん。電化製品じゃんただの」
「ポリゴンさんだって電化製品みたいなものだろ」
「全然違うだろ。あんなに動きまわる電化製品見たことあるか」
「電化製品じゃないにしても、人工的に作られたものじゃん。俺と一緒じゃん。だから俺も生物」
「その理屈はおかしい」
「なんでだよ」
「ポリゴンさんは、お前にできないことできるからね。生物じゃないとできない様々なことが、ポリゴンさんはできる」
「俺ができないことって例えばなんだよ。具体例を言えよ具体例を。お前の話は具体的じゃないんだよ」
「例えば、この間父親が昔を思い出したいって言ったとき、ポリゴンさんは父親のアルバムを押し入れから取り出してきた。父親はそのアルバムを見て『懐かしい』って喜んでいた。ポリゴンさんはこうやって、人の気持ちを読んだ行動ができる」
「俺だって、俺の体の奥の方に腐ったものを眠らしておいたんだ。母親がそれを取り出したとき、『懐かしい』って笑ってたぞ」
「お前は何もしていないじゃないか。それは使い手のうっかりが転じた結果だろ」
「他には?」
「他には、母親と子が喧嘩して気不味い雰囲気になったとき、その雰囲気を察して母親の背中をとんとん叩いて和ませたり」
「俺だって気不味くなった雰囲気を察して、『ブブブ』って音鳴らして場を盛り上げられるぞ」
「それは気不味くなったときだけじゃないだろ。しかもあのむしろ気不味くなるし」
「もういいよ具体例は。例えばの話をしてもしょうがない」
「お前が具体例だせって言ったんだろう」
「とにかく、俺はポリゴンと一緒で生物なの」
「うわついに呼び捨てになった」
「同じ地位だからね」
 もう自分は面倒臭くなった。
「分かったよ。認めればいいんだろ認めれば。人間達がどう思うかはともかくとして、俺個人としては、お前のこと生物だと思っているよ」
「『個人としては』とかそういうの止めてくれない。そうやって反論を未然に防ごうとするのは卑怯だよ」
「えーじゃあ。俺はお前のこと生物だと思う」
「『思う』とか言うのも好きじゃないなあ。ちゃんと言い切らないと。自分の意見を言うときに逃げ場を作るのはダメ。ちゃんと言い切って、反論も受け止めて。じゃないと成長しないから」
 本当に面倒臭いなこいつは。こいつが頼んできたのに、なんでこんなに偉そうなんだ。
「お前は生物だ。これでいいか」
「うーん。いいでっ、しょ」
「……」


 翌日。

「聞いてくれよ。昨日の夜中大変だったんだ」
 冷蔵庫が、疲れた声で話しかけてきた。
「何があったし」
「俺の中にいる食品たちに、俺は生物なんだって自慢したの。そしたら、食品たちが口々に、じゃあ自分も生物なんだって騒ぎ始めたの。しまいには、野菜室のキャベツとにんじんが喧嘩して。『俺は生物だけど、お前は違う』なんてことを言い合ってて。最後にはお互いの特徴を罵倒し合ってた。うるさくて眠れやしなかった」
「それは、お前の自業自得だよ」
 僕は、呆れて溜息を付きたかった。溜息の変わりに蒸気を出した。もうすぐ米は炊き上がる。


 

 
 


  [No.3611] Re: ポリゴンと冷蔵庫 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/02/22(Sun) 18:54:58   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

シュールすぎます。何って全てが。炊飯器と冷蔵庫が意思持ってやがるww喋ってやがるwwとその時点で笑えます。
でもそうですよね、ポリゴンがポケモン扱いなら家電製品だって生物でいいじゃんって納得しました。
冷蔵庫さんのウザ可愛さがツボです。
個人的に家具よりは食品たちのが生物扱いに疑問はわきませんかね。だって元は植物か動物ですし。
キャベツとニンジンは両方生き物でいいんじゃないですかね。
すごい楽しかったです。終始フフッてなれる話でした。


  [No.3612] Re: ポリゴンと冷蔵庫 投稿者:逆行   投稿日:2015/02/22(Sun) 19:23:16   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

いやっほう! 感想ありがとうございます。

ポリゴンがポケモンなら、家電達もこういう考えをもつのではないのかと思い書きました。

こういう話はなかなか書いたことなかったので、どういう反応がくるんだろうと思っていましたが楽しんでいただけたようで幸いです。

言われてみればキャベツとにんじんは元々生き物ですね。
すいませんミスりましたw(どんなミスだよ)

改めて感想ありがとうございます!


> シュールすぎます。何って全てが。炊飯器と冷蔵庫が意思持ってやがるww喋ってやがるwwとその時点で笑えます。
> でもそうですよね、ポリゴンがポケモン扱いなら家電製品だって生物でいいじゃんって納得しました。
> 冷蔵庫さんのウザ可愛さがツボです。
> 個人的に家具よりは食品たちのが生物扱いに疑問はわきませんかね。だって元は植物か動物ですし。
> キャベツとニンジンは両方生き物でいいんじゃないですかね。
> すごい楽しかったです。終始フフッてなれる話でした。


  [No.3613] Re: ポリゴンと冷蔵庫 投稿者:小樽   投稿日:2015/02/22(Sun) 23:43:31   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

こんにちは。こちらではご無沙汰しておりました。

人間が「ポリゴンは生物と見なせるか否か」を論じる小説はよく見かけますが、人間以外の場合はめずらしいですよね。しかも今回はその人物(人?)たちが家電。斬新でした。冷蔵庫くんにちゃんとオチがついてたのもクスッとしてしまいました。
ポリゴン自身は話や回想以外に出てこないところも却って想像の余地があるなあと感じます。
あと炊き立て白ごはんが食べたくなりました。自分は時間まで炊き上げた後かき混ぜて蒸らす派です(きいてない


  [No.3614] Re: ポリゴンと冷蔵庫 投稿者:逆行   投稿日:2015/02/23(Mon) 20:51:24   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

どうもです。twitterに引き続きこちらでも感想ありがとうございます!

自分の小説は、このポケモンを使って普通だったらどう書くか、をまず考えて、そこからずらす、という書き方をしている場合が多いので、今回の話もそのような感じで考えました。斬新と評していただき大変うれしく思います。

白ごはんは蒸らしてから食べた方が、おいしいですよね(笑)めんどいですけど。

改めて感想ありがとうございました。
それでは失礼致します。


> こんにちは。こちらではご無沙汰しておりました。
>
> 人間が「ポリゴンは生物と見なせるか否か」を論じる小説はよく見かけますが、人間以外の場合はめずらしいですよね。しかも今回はその人物(人?)たちが家電。斬新でした。冷蔵庫くんにちゃんとオチがついてたのもクスッとしてしまいました。
> ポリゴン自身は話や回想以外に出てこないところも却って想像の余地があるなあと感じます。
> あと炊き立て白ごはんが食べたくなりました。自分は時間まで炊き上げた後かき混ぜて蒸らす派です(きいてない