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  [No.2141] 1224 投稿者:紀成   投稿日:2011/12/24(Sat) 11:24:42   91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

昔々、火の血を継ぐ家に二人の女の子が産まれました
双子ではありません、二つほど歳の離れた姉妹
上の子の名前は光江、下の子の名前は光葉といいました

大きくなるにつれ、二人の違いが嫌でも見えるようになりました
光江はとても頭が良い子でしたが、性格があまりよくありませんでした
光葉はとても優しい子でしたが、頭があまりよくありませんでした
彼女らを取り巻く男は、皆光葉を愛でるようになりました
光江はそれにとても怒り、嫉妬するようになりました

大学を出た後、光江は光葉より先に親の決めた相手と結婚しました
一方光葉は大学で知り合った男と結婚し、そのまま家を出て行きました
そこで初めて光江は妹に勝ったと思いました 家を捨てた女ほど愚かな物はないと、
――その時はそう思いました

ですがやはり妹には勝てなかったのです

…………………………

世間ではクリスマス・イヴ。人々は皆、何処か浮き足立った様子で街を歩く。着飾った街はそんな彼らを優しく見守っているように見える。
その空間の中で、人には見えない何者かが大量に動き回っていた。揃いの帽子を被り、揃いの鞄を提げ、ビルとビルの間を飛び回る。
時折、鞄の中から何かを取り出す。それは手紙であったり、小包だったりする。
『ゲンガーの宅急便』…… 人で知っている物は数少ない、主にポケモンを対象とした宅急便である。
どんな悪路でも簡単にすり抜けてしまうゲンガー達が荷物を運ぶ。噂では大金持ちのポケモンもリピーターになっているという噂である。
冷たいビル風が彼らを吹き飛ばそうとする。だが彼らも負けてはいられない。今日は一年のうちで一番の稼ぎ時なのだ。必死で鞄の蓋を押さえ、中の配達品が飛ばないように踏ん張る。


「今日は……なんだか風がいやに鳴いていますね」
カフェ・GEK1994の店内。カウンター席に座ってゼクロムを啜っていたミドリがぽつりと言った。その言葉を耳にしたユエが外を見る。
「そうね。なんだか誰かを呼んでいるみたい」
「幽霊ですか!?都市伝説にある、事故で子供を亡くした母親が今でも我が子を呼んでいるという――」
「そんな都市伝説、初めて聞いたわよ」
オカルト好きの店員が興奮して喋りだした。ユエはふと去年の今頃を思い出していた。マスターは元気かしら。こちらからも何かプレゼントをしたいんだけど、住所が分からない限りは何も出来ないのよね。
「……」
ユエのハイネックのセーターには、今朝マスターから届いたプレゼント…… 『不思議の国のアリス』をモチーフにしたブローチがついていた。

ジャローダは目を細めた。ミドリがいないこの時間帯が、一番彼らに来てもらうのに都合がいい。何しろその存在は、一般人には知られてはいけないのだから。
『いつも贔屓にしていただき、ありがとうございます』
『こちらこそ。いつも時間指定が厳しくて、すまない』
『いえ…… それで、今回はこの二点ですか』
ゲンガーがジャローダの尾の上に乗せられた二つの小箱を見た。
『ああ。片方はミナモシティに、もう片方は』
『分かっております。彼女宛、ですね』

十二月二十四日が国際的イベントの日だと知っている者は多いが、巷を騒がせている怪人―― ファントムの誕生日だということを知る者は、少ない。
ジョウト、エンジュシティの外れにある洋館で、彼女はプレゼントに埋もれていた。
「……何処から伝わったんだか」
花束、美しくラッピングされた箱の数々。それの一つ一つを彼女は慣れた手つきで空けていく。
『手伝うか』
「いや、いい。モルテは少し休んでて」
モルテの体は疲労していた。宙に浮いていることすら辛そうな顔をしている。ヨノワールの表情なんて普通の人が見ても分からないのだが、彼女には分かった。長い付き合いだからか……
『しかし、すごい量だな』
「そうだね」
話が続かない。モルテは焦った。
「あそこにいた頃も色々貰ったけど…… 冷たかったな」
『冷たい?』
「所詮はあそこの人間ってフィルターをかけられるんだ。何も篭っていない、無機質な何か」
手を休めて、テーブルの上の花束のうちの一つをとる。時期に合わない明るい黄色。向日葵。
「一体どこから取って来たのかはしらないけど…… これが一番気に入ったよ」
『そうか』

青い空と白い巨大な入道雲。色鮮やかな向日葵たち。そこに、彼女は立っていた。
笑顔で。

「もう、残っているのはここだけになっちゃったな」
花束を抱きしめ、彼女は呟いた。


………………………………
光江は子供を産めない身体だったのです
焦った彼女の父親は、もう一人の娘に子供ができていることを突き止めました
そしてその子を自分の孫として家に呼ぶことにしたのです

光江はその子を養子としましたが、あくまで外側だけ
内側はその子を憎み、殺したいという気持ちが渦巻いていました
ですが、その子を殺すことは最期まで出来ませんでした

彼女は、別の何かに見初められていたのです
本当に血を継いでいたのは、彼女だったのです


  [No.2147] 血筋 投稿者:音色   投稿日:2011/12/24(Sat) 23:18:02   87clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 世間は今日を聖キリストの誕生日前夜だと謳う。救世主の誕生の日には眩いばかりの星が馬小屋の天井で輝き、学者を、羊飼いを導いたとされる。
 そして、その聖なる日に、かのレディはこの世に生を受けた。
「偶然でしょうねぇ」
 知る人が言えばそれは必然だと言うかもしれないが、所詮運命の悪戯。かの火宮の家で気にした者などいないだろう。
 ・・火宮の家では、だろうが。


 めぇら。
 生まれて半年以上たつものの、腕に収まるサイズのメラルバは外の寒さに小さく鳴いた。生まれた当初より一回り大きくなったと言えど、まだまだ幼い炎タイプは本格的な冬に弱いらしい。
 太陽の子を抱いた黒服の紳士は、ショーウィンドウを眺めて何かを思案していたらしいが、小さな生き物の声に現実に戻ってきたらしい。コートの内側にその子を入れる。
「さて、どうしましょうかねぇ」
 いかに美しく着飾るものだろうとも、あの炎の血を引く淑女にはどれも見劣りするだろう。
 何度目かの言葉を口にして、分家の血筋は未だにふさわしい物を見つけられていなかった。
 やはり花束などの方がよろしいか。しかし生花は放浪する彼女には似合うまい。
 口にする物は近くにいる死神殿が難色を示しそうだ。もとより、彼は私が彼女に接触すること自体を嫌うものだが。
 日付が変わらぬうちに、急ぎましょうか。
 そう一人ごちて、彼はくるりと硝子に背を向けた。


 太陽と呼ばれるポケモンに乗り、イッシュを離れて海を渡る。
 エンジュと呼ばれる都市の片隅の洋館に、ゲンガー達が仕事をしにいっているらしい。
 縁のない人間には全く気のつかない事だろうが、霊の動きを見ている者にとってはこれほど分かりやすいものはないだろう。


「失礼しますよ、レディ」
 彼の言葉に、弾かれるようにくるりとファントムは振り返った。
 鮮やかな向日葵、隣の死神はじろりと冷たい視線をこちらに向けた。きっと結ばれた口元が、おそらく私の前で解かれることは有りはしないのだろう。
 それで良いのです、レディ。
「お誕生日おめでとう御座います」
 コートの内側から差し出した包みを、彼女は少々訝しい眼をしながらも受け取った。その視線が、内ポケットから顔を出すメラルバに注がれる。
 無邪気なそれを見て、ほんの少し冷静さが緩んだ表情が映る。メラルバはレディを見て数回瞬きをし、また寒さに潜った。
 それでは、失礼します。礼をして去ろうとすれば、
「これはなんだい?」
 彼女が中身を問うた。
「開けてみれば、分かりますよ」
 するりと包みをほどいて、ファントムは目を細めた。浅葱色のショールは、色とは別の温もりを感じさせる。
「この時期はとても寒いですからね。お体に気を付けてください、レディ」
 炎の御加護を。


 ウルガモスの背に乗って、その場を去って空へ逃げる。
 あぁ、願わくばこのまま、天に融ける事をお望み申し上げましょう。


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余談  レディが御誕生日と聞いてカクライにプレゼント渡しにいかせた結果がこれだよ!

【メリークリスマスイブ&ハッピーバースデー!レディ・ファントム】
【残念クオリティでごめんなさい】