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  [No.2864] ハロー、マイガール:手 投稿者:砂糖水   投稿日:2013/01/28(Mon) 00:24:23   113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あなたのその首に手をかけたとき、あまりの細さに私は身震いしました。ほんの少し力を入れるだけで、きっと私はあなたの願いを叶えることができるでしょう。
 ああ、あなたはこんなにもか細い。その小さく、弱々しい体に、一体どれほどの悪意が襲いかかっていたのでしょう。
 けれど、けれど、私のこの手は、

 こんなことのためにあるんじゃない。


「わたしを殺して」

 薄暗闇の中であなたがそう囁いたとき、私はどうしようもない無力感に襲われました。私があなたのためにできることは、もうそれしか残されていないのですか。

 あなたに初めて出会ったとき、まだ火の粉を散らすだけの雛だった私は、あなたにただ抱き上げられるばかりで。私は、いつかあなたをこの手で抱きしめたくてたまらなかった。翼とも呼べぬ、未熟な羽しか持たないこの身を歯痒く思ったものです。あなたの腕の中は暖かだったけれど、それだけでは足りなかったのです。
 あの頃の私にはただあなたは大きく、そして強く見えた。けれど、本当は、あなたはとても弱かった。あなたは強くなんてなかった。だから、あなたを守りたかった。なのに私は、あなたを守れなかった。
 あなたと共に成長をして、この手を得ました。ふと酷くむず痒い感覚を覚えたと思うと、瞬きをする間に背が伸び、私は手を手に入れていました。それを知った瞬間、私はあなたに抱きついていました。夢にまで見たひと時でした。暖かなあなたの体を強く強く抱きしめて、もう放したくなどなかった。

 時は流れ、私もあなたも背丈が伸び(私はあなたをゆうに追い越してしまったけれど)、あなたは自ら選んだ新しい学び舎に足を踏み入れました。もし、もしそこを選ばなければ、などと思ったところで意味はないと知ってはいるのです。
 けれど、思わずにはいられない。もしそこでなければ、あなたはこんな残酷な願いを口にすることなどなかったのではないでしょうか。こんなことを願ったりなど、しなかったのでは、と。思わずにはいられないのです。
 あそこはあなたにとって、牢獄のような場所でしたね。いえきっと、牢獄の方がいっそ心安らかに過ごせたのではないでしょうか。何が悪かったのでしょう。私にはわかりません。理解したくなどありません。
 私はあの場所が嫌いです。あなたを酷く傷つけるから。私はあいつらが大嫌いです。あなたにこんな願いを言わせたから。

 私が気がついた時にはもう、随分と手遅れでした。ようやっと私がそれに気がついた時、ボールの中から飛び出してあなたを守ろうとしました。けれど、逆効果でしかなかっただなんて、悔しくて堪らなかった。あんなやつら、私の炎で燃やし尽くしてしまいたかった。けれどそれは許されないこと。私ではなく、あなたに責任があるだなんて。だったらあいつらの行為を罰するのは一体誰なんですか。
 あいつらはあなたの心をずたずたにしたくせに。ありもしないことや、ほんの些細なことをあげつらい、あなたを蔑み、傷つけた。逃げられぬよう取り囲み、小突き、あるいは水をかけるだなんて!
 どうしてあいつらを焼き尽くしてはいけないのですか。悪いのはあいつらなのに、どうして。
 そうしてあなたの目からは光が消え、ただ薄暗い部屋でぼんやりとする。あなたが傷つかないなら、それでよかったのに。どうしてあいつらは、そして横から口出しする人間どもはあなたを追い詰めるのでしょう。
 もっと早く、あなたが無理をして笑っていることに気がつけばよかった。そうしてあなたを抱きしめればよかった。あなたを連れて逃げてしまえばよかった。なのに愚かな私は、あなたが傷ついていることに気がつかなかった。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私は誰よりもあなたの傍にいたというのに。
 全てを焼き尽くしてあなたが救われるなら、私はいくらだって罪を重ねましょう。けれどそうではないのですね。

「お願い、その手でわたしを殺して……」

 私は、私は。
 あなたを救うには、もうこれしかないのですか。
 あとほんの少し力を入れるだけであなたは息をすることもなくなる。とくとくと脈を打つあなたの体は生きている。なのにあなたは、終わりにしたいと願う。
 あなたの命を奪うなんてこと、したくなどないのです。あなたと共にあるだけで私は幸せなんです。だから、私の手は未だ力を込められない。嫌だと叫んで、やめてしまいたい。
 それなのに、あなたが自分で首を括らず、私の手に委ねてくれたことを、どうしようもなく喜んでいる私がいるのです。他の誰でもない、私の手で逝くことを、あなたが望んでくれたから。

 私のこの手は、こんなことのためにあるんじゃない。
 こんなことをするために、望んだのではないのです。

 あなたの虚ろな目が私を見ている。あなたの体温がこの手を通じて伝わってくる。


 私は、この手で、


END





やってしまったかやってないかはご想像にお任せします。
進化して何かを得たけど…という感じでもう二作ほど書きたいなと構想中です。
実現できるかは不明ですw
翼と声(言葉)で書けたらいいなあとか。


  [No.2889] 感情の刃、理性の尻尾。 投稿者:逆行   投稿日:2013/02/17(Sun) 22:50:46   122clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:書いてみた

 ポケモンがリストカットをする場面があります。そんなに過激には書いてませんが、グロイのが苦手な人は注意してください


 もうこの人間の下では生きていけない。私は目撃した。決定的な所を目撃した。まだじめじめとした暑さが残っている季節、彼は瀕死のポケモンに止めを刺した。衝撃的だった。信じられなかった。そして、許せないと思った。私は決意した。決断した。もうこの人間の下では生きていけない。私はもう、ついていけない。私は逃げる。彼から逃げる。私はもう嫌なんだ。ポケモンを殺すような人間の、ポケモンでいるのが嫌なんだ。
 でも、これは嘘。彼はそんなことしていない。ポケモンを殺すなんて、そんな醜いことはしていない。そんなこと、絶対にするわけがない。あの人は、そんな醜い人間じゃない。むしろ彼は正反対だ。彼は優しくていい人だ。とっても綺麗な、いい人なんだ。
 そんな綺麗な人だから"こそ"、私は毎日苦しんでいる。私は悩み悶えている。心は締め付けられている。彼に認められない私は、駄目なんだと思ってしまう。彼から嫌われる私は、もうおしまいだと思ってしまう。
 こんなこと言っていいのかな。彼がポケモンを殺すような人間であれば、私はむしろ苦しまなかった。そんな主人に否定されたって、痛くも痒くもないだろうから。というよりむしろ、喜んだかも。


 彼に初めて出会ったとき、私はまだ小さい尻尾を持っているだけだった。小さい尻尾しか持たないこの身を、とても歯痒く思っていた。とても情けなく思っていた。
 彼は私を指名した。私は彼に抱きしめられた。所々薄い線のある彼の腕の中は、とても暖かくて気持ちが良かった。そしてとても、居心地が良かった。
 彼の声を聞いた。彼の笑顔を見た。彼の少し寂しげな目と、私の目が合った。その瞬間、私は思った。この人にずっとついていきたい。理由は分からないけど、そう思った。そして、彼に認められたい。彼に認められることが、私にとって全てだ。そんなふうに思った。そんなふうに、思ってしまった。
 彼の腕の中で私は鳴いてみた。まるべく綺麗に聞こえるように、頑張って気を付けて鳴いてみた。早く彼に認められたい。早く彼から見て、綺麗に見えるようになりたい。

 
 彼に認められるため、私は頑張って戦った。本当に一生懸命戦った。私がバトルに勝ったとき、彼はすごくうれしそうな顔をした。そして、私のことを誉めてくれた。そんな彼の様子を見て、私は心が躍ったすごくうれしかった。これで彼に認められる。彼に必要とされる。
 日々はどんどん過ぎて行った。楽しい日々だから、どんどん早く過ぎて行った。私は彼に認められるため、一生懸命戦った。そしてそれは、途中まで順調だった。逆に言えば、途中から順調じゃなかった。
 あるときから、彼の様子がおかしくなった。明らかに、どう見ても、絶対に、彼の様子がおかしくなった。そして、彼がおかしくなったのは、私のせいだと思った。私のせいだと、思ってしまった。
 私がバトルに勝っても、彼は笑わなくなった。それ以外でも、少しも私に笑顔を見せなくなった。代わりに私を見て、溜息を付くことが多くなった。非常に寂しげな目をして、溜息を付くことが多くなった。私と目が合った瞬間、頭を抱えてその場にしゃがみ込むこともあった。ときには私を、鋭い目で睨むこともあった。
 怖いと感じた。恐ろしいと感じた。体が震えた。私はもしかしたら、嫌われているのかもしれない。私はもしかしたら、見捨てられるのかもしれない。 
 理由が分からない。何故私は嫌われたのだろう。私は何かしたのだろうか。えっ? 私のせい? そうか私のせいか。あっ、そうか。私のせいなんだ。私が弱すぎるから。頑張ってないから。彼から見て、綺麗じゃないから。私が彼にとって、不都合だから。
 確信した。私は彼に嫌われた。私にとって、彼が全てだった。彼に嫌われたら、私はもうおしまいだった。何と言うか、彼に嫌われると、もう全てから嫌われるような、そんな気がしていた。何者かに後ろから狙われていて、お前は悪者だと後ろから刺してきそうな、そんな感じがしていた。
 この恐怖から逃れるために、私はあることをした。無意識と意識の境目の状態で、私はあることをした

 私は、"いあいぎり"という技を覚えていた。道路にある細い木を切ることができる技だ。私はこれを使って、自分を傷つけた。具体的に何をしたかと言うと、自分の左腕を切った。
 狂っていると思われればいい。頭がおかしいと思われればいい。そうすれば、誰も私を責めないから。狂っているから仕方がないと、たくさんの人が頷くから。 

 
 刃の部分が肌に触れた。すっと軽く線を引く感じで、そのまま手前へと引っ張った。すぐに痛みが来た。そして、私の心は少し落ち着いた。不思議な感じで、すっと落ち着いた。心の底に沈んでいたおもりが、少し軽くなっていくのを感じた。

 切りながら私は思う。私は何にそんなに怖がっているのだろう。
 
 しばらくして、切った部分から血が滲んできた。赤い血が少しづづ出ていって、しずくとなって下に垂れていって、私はそれをただ眺めていた。ただじっと、眺めていた。すると、私の心はさらに落ち着いた。心の底に沈んでいたおもりが、消えてなくなっていくのを感じた。

 血を見ながら私は思う。何故私にとって、彼が全てなのか。何故彼に認められないと、私は正しくないのか。普通に考えたらおかしい。彼が全てのはずがない。でも、何故かそう思ってしまう。いったい、どうして。

 もう一度切った。今度は少し深く切ってみた。私の腕は細いから、あまり深く切ると怖い。でも、少しは頑張らないと、背後から「甘いよ!」って怒鳴られそうな、そんな気がして。だから、私はできるだけ深く、そして長く切ることを試みた。

 この傷を彼に見せたら、彼はどう思うのだろう。彼はどう感じるのだろう。彼は私のことを心配して、それでその後、私に対して、少し用心深くなるだけ。別に私は、心配されたいわけじゃない。決して、そういうわけじゃない。私はただ……
 

 我に帰った。私は我に帰った。
 何馬鹿なことしてんだろうと思った。何でこんなことやってんだろうと後悔した。何の意味もない。確かにやっている間は恐怖から逃れられるけれど、終わった後に残るものはただのむなしさだけ。もうしばらくしたらまた、体が震えてくるのだろう。もうこんなことはやらない。絶対にやらない。そう胸に誓った。

 
 しばらく日にちが経った。私はもう進化を終えていた。ふと酷くむず痒い感覚を覚えたかと思うと、瞬きをする間に体が大きくなり、そして長く立派な尻尾を手に入れた。あ、これ、強そうだと思った。この長い尻尾を使えば、どんな強敵も巻きついて倒せると思った。
 あれから、腕を切ることはやっていない。自分で自分を傷つけることは、一度もしていない。彼の様子はまだおかしいままだ。私はもうずいぶん、彼の笑顔を見ていない。私は彼をみるたびに、また切りたくなったけれど、必死でその衝動を抑えた。


 ある日のことだった。彼が私をボールから出した。最初は戦うのかなと思った。けれど、回りには彼の以外の人間はいない。私以外のポケモンもいない。様子がおかしかった。彼の様子が、おかしかった。
 彼の口が、ゆっくりと開いた。

「僕を殺して」

 意味が分からなかった。彼が何を言っているのか、理解ができなかった。何でそんなこと言うの? 急にどうしたの?
 ふと私は、彼の左腕を見た。私は驚愕に目を見開いた。
 彼は、

 私と同じことをしていた。 

 しかも、私より遥かに多く切っていた。彼の左腕には、相当な数の傷があった。こんなに切ったら、死んでしまうんじゃないかと思うくらい。と言うよりたぶん、死のうとしたんだと思う。死のうとしたけど、死ねなかったんだと思う。
 彼が今まで溜息を付いたり、頭を抱えてしゃがみこんだり、私を鋭い目で睨んだり、おかしくなっていったのは、私が原因じゃなかった。私に問題があるんじゃなかった。彼はもともと、おかしかったんだ。彼はもともと、異常だったんだ。
「お願い、僕を殺して……」
 私は知っている。人間はすごく弱いことを知っている。私が彼の首に巻き付けば、恐らくすぐに死ぬだろう。
 私はするりと、彼の首元へと近寄っていく。彼に認められようとして、頑張った結果手に入れたこの尻尾が、まさかこんな使われ方をするなんて。
 自分の主人に殺してと言われて、その通りに普通はしないだろう。でも、私は何故か、それをしようとしている。何故私は、躊躇しないんだろう。何故私の体は、徐々に彼の首に近づいているのだろう。
 私は、少しだけ喜んでいた。彼の様子がおかしかったのは、私が原因じゃなくて、そしてさらに、彼の最期に私を必要としてくれたのが、こっそり嬉しかった。
 私がどうして、彼にそんなに認められたかったのか、その理由が今なら分かる。私と同じにおいを、彼から感じ取ったからなんだ。恐怖から逃れるために自分を傷つける、同じことをするような性格だったからなんだ。彼の寂しげな目を見て、自然と彼に"共感"したからなんだ。
 どうして彼がこんなふうになってしまったのか。彼をこんなふうにしたのは誰か。そんなことは気にならない。私が興味あるのは、彼に好かれるかどうかだったから。
 本当なら、彼の異常に気付けなかった自分を責めるべきなのに、私はそれをしようとしない。私にとって、彼に認められるかどうかが善悪の基準だった。だから、私は躊躇しないんだ。彼の首を締めることを。
 でも、やっぱりこれは嘘。私は決して、躊躇していないわけではない。まだ彼を殺す、完全な覚悟ができていな
い。だって私の目から、冷たい涙が零れてきているから。そしてその涙は、どんどん溢れ出てきているから。
 この涙は、決して偽りじゃない。やっぱり私は、彼を殺したくないんだ。彼に必要とされても、彼が望んだことでも、でも、でも、やっぱりそれをできないんだ。
 私は本当に、彼に認められたいのか。彼に認められたい、それだけで動いてきたのか。私は何故、躊躇しているのか。分からない。私は、自分の感情が分からない。

 私はいったい……














遅くなってすいません。(土下座
「ハローマイガール:手」の書いてみたを書いてみました。
結局リストカットの描写ちゃんとかけなかったorz
内容がアレすぎて荒れすぎてすいません。


  [No.2902] Re: 感情の刃、理性の尻尾。 投稿者:砂糖水   投稿日:2013/03/15(Fri) 21:38:44   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ああけしからんけしからんもっとやれ(
じゃなかった、逆行さん書いてくださってありがとうございました!
お礼が遅くなりすみませんでした。
いやあ、相変わらず逆行さんらしくってとっても素敵です。
一文一文読むにつれて、逆行さんだ!逆行さんだ!って感じがすごくしてニヤニヤしてしまいます。
我ながら意味がわからないけどこんな感じなんです(

>えっ? 私のせい? そうか私のせいか。あっ、そうか。私のせいなんだ。
ここがなんかかなり好きです。
なんでだろう、なんか逆行さんって感じで机バンバン叩きたくなる。
なんでしょうね、言葉は悪いかもしれないんですけど、ねちっこい感じの文章が逆行さんらしくて、そこがすごく好きです。
あんまりにもあれすぎたので思わず小話書いてしまいました(
ジャローダ様まじふつくしい



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 たしかに私は手足を失いました。けれど、私は後悔していません。

 あなたと出会った頃、まだ私は小さな、蔦蛇とも呼べぬ蔦蜥蜴で、小さな手であなたにしがみつくのが精一杯でした。そんな私を、あなたはまるで微笑ましいものを見るような目で、見守ってくれていました。あなたにぎゅうとしがみつくと、あなたの暖かな体温が伝わってきて、とても安心したのをよく覚えています。それから、小さな足であなたに着いていくのもやっとで、遅れがちだった私を、いつだってあなたは待っていてくれた。だから私は、安心して歩いていられた。あなたが待っていてくれると知っていたから。
 小さな手足は、ほんの少し不満もあったけれど、あなたがいつもそうやって見守ってくれていたから、私にはもったいないくらいでした。
 二度目の進化を迎えたときでした。しゅるしゅると体が伸び、気がつくと私の体からは手足が消え失せていました。私は、長い体を持つ大蛇になっていました。手足を失ったことに、私は驚いて思わずあなたを見たけれど、あなたが笑っていたから、ああこれでいいのだと思いました。
 けれど、手を失ってあなたにしがみつくことができなくなりました。足を失ってあなたと歩くことができなくなりました。私は、どうしたらいいかわかりませんでした。
 歩くあなたの隣を這っていたある日のこと。進化して以来落ち込んだままの私に、あなたがどうしたのと声をかけてくれました。けれど、私は相変わらずどうしたらいいかわからなくて途方にくれてしまいました。そんな私を見たあなたが頭を撫でてくれました。嬉しいけれど、欲しいのはそれではないのです。あなたにしがみついて、その暖かな体温を感じたかった。あなたと同じように歩いていたかった。なのに、もうそれは叶わない。
 たまらなく悲しくなった私は、長くなった体でぐるりとあなたに巻きついてみました。そうしたら、あなたの暖かな温もりが伝わってきました。あなたは驚いた顔をして、けれどすぐに少し困ったように笑いました。
 ああ、手足を失ってしまっても、こうしてあなたと共に在ることはできる。変わってしまったけれど、変わらずにあなたはここにいる。しがみつけなくても、あなたの体温を感じることはできるし、歩くことはできなくても、さっきまでのようにあなたと進むことはできる。
 だから、これでいいんですね。


 たしかに私はあなたにしがみつく手を、あなたと共に歩む足を失いました。けれど、もう私は後悔しません。だってしがみつけなくとも、あなたに巻きつくことができるから。一緒に歩くことはできなくても、共に進むことはできるから。
 だから私は、後悔なんてしていません。あなたと共に在る日々は変わらないのですから。