[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.2939] 携帯獣九十九草子【鳥居の向こう参考作品】 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:11:16   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
携帯獣九十九草子【鳥居の向こう参考作品】 (画像サイズ: 600×719 60kB)

2011年冬コミで発行したものです。
鳥居の向こうの参考になればと思い、少しずつ公開を始めます。


  [No.2940] 【1】隈取(くまどり) 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:12:46   142clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【1】隈取(くまどり) (画像サイズ: 800×572 143kB)

 カントーの中心地が江戸と呼ばれていた頃です。
「控えい! 御用の筋である!」
 いかめしい面をした男達がこのように言って、大勢なだれ込んできたものですから、賑やかな歌舞伎小屋は騒然といたしました。三味線の音は掻き消され、豪勢な弁当を食べていた町人は箸を落としましたし、芝居見物の女達は悲鳴を上げました。
「江島との密会の廉で詮議(せんぎ)致す! ひっ捕らえい!」
 捕り手の頭が命じます。舞台の中央で一人の役者が捕らえられました。
 捕らえられたのは村山座の看板役者で、名を生島新五郎(いくしましんごろう)と言いました。
 大奥――つまりは将軍の寝所、その大奥の重役に就く女中、江島と通じたとして、彼は舞台の上で捕らえられたのでした。
 確かに数日前の夜、新五郎は江島を茶屋でもてなしておりました。大事な客は舞台の後でそのようにするのが慣わし。それはよく見られる光景でした。しかし、茶屋遊びに夢中になるあまり、江島は門限に遅れてしまったのです。
 大奥の規律が緩んでいる――燃え上がった火が瞬く間に広がるかの如く、事件は大きく大きくなっていきました。
 火は多くの者に飛び火致しました。江島のお付の面々は大勢が裁きを受け、その多くが追放されたといいます。女中達だけではありません。歌舞伎小屋の面々にまで火の粉は降りかかりました。新五郎はもちろんのこと、彼の属する山村座の座長も裁きを受けました。
 大規模な風紀粛清(ふうきしゆくせい)事件となったこの出来事は、後の世でも小説や映画、お芝居で語られていくことになります。
 新五郎と座長に下された処罰は流罪、今で言うナナシマへの遠島でした。ついに山村座は興行できなくなってしまったのです。

 さて、ここに新五郎の帰りを待つ者が一人おりました。新五郎に師事していた若き歌舞伎役者でした。咎こそ軽くて済んだものの、彼はすっかり途方に暮れておりました。
「兄さん、あんたがいなくなっちゃあ、誰が俺を仕込んでくれるんだい」
 幕府に夕刻の営業が禁止された歌舞伎小屋に人はおらず、静まりかえっておりました。彼は新五郎の残した黒い小さな獣を抱きかかえながら、ただ空っぽになった席を見るばかりでした。
 彼にとって新五郎は恩人でした。大胆に立ち回る荒事(あらごと)を作り上げた自らの父とは違い、体格に恵まれなかった彼は、父のように演ずるには力量不足と悩んでおりました。ですが、そんな彼を支えたのが新五郎だったのです。
 新五郎は細やかな男女の情愛を扱う和事(わごと)に優れておりました。ですから彼はつとめてそれを取り入れようとしてきたのです。けれども新五郎はもういません。和事の艶を教えてくれた師匠はもういないのです。
 黒い獣がするりと手を離れました。藍に近い黒の毛皮に朱の色の麻呂眉。珍しいもの好きの新五郎がどこからか手に入れてきた獣でした。主人がいなくなってしまったので、今は彼が世話をしているのです。新五郎から、豊縁にあるという「出島」を通してやってきた舶来の獣だと自慢されたことがありましたが、よくは知りません。ただ、在来の赤い犬などとは明らかに姿が違っておりました。
「兄さんをはじめて見たのは、「夕霧名残の正月」を演じた時だったか。子供心にも艶っぺえと思ったもんよ」
 若き歌舞伎役者は客席に降りると、舞台を眺め回想しました。
「俺は兄さんの艶を自身のものにしたいのだ。だから、こうして俺は、兄さんの演技を毎夜浮かべ確かめるのだ。だが、足りん。どうも俺の想像力だけでは足りないのだ。俺はどうしたらいい……」
 床に置いた行灯だけが光る舞台を眺めながら、彼は嘆きました。
 行灯の火が揺らめきます。大きく大きく伸びた獣の影も同時に揺れました。

 ある時、獣がいなくなりました。若き歌舞伎役者は江戸中の芝居小屋や新五郎と行ったであろう場所を探しましたが見つかりません。珍しい獣でしたから、攫われてしまったのかもしれないと彼は思いました。それでも新五郎の残した獣だからと、律儀に人に聞いて回ったりもしておりましたが、公演に向けた稽古の忙しさもあって、だんだんと忘れていってしまいました。

 それから一年ほど経ってからのこと。
 書き入れ時の公演も終わって、ひさびさにゆったりとした眠りに落ちていた彼は、誰かの声で目を覚ましました。
「……郎、二代目……郎、目を覚ますのだ」
 誰かが言います。懐かしい声のように思いました。
 目をこすりながら、体を起こして声のする方向を向くと、少しばかり開いた部屋の襖から光が漏れて、一年程前に居なくなった黒い獣が覗いておりました。
「ああ、お前は!」
 彼は飛び起き、近くに掛けてあった羽織を身に付けると、とたとたと駆けてゆく獣を追いかけました。外の寒さが肌を刺しますが、お構いなしです。獣を追いかけて入っていった先は先日まで自身が出演していた芝居小屋でした。そうして、深夜の暗い席に入った時に、彼は目を見開きました。ぱっと無数の明かりが灯り、三味線が鳴り出したのです。
 舞台を見ると幼い頃に見た「夕霧名残の正月」、その最初の場面でありました。上方、城都(じようと)にある扇屋という店で、主人と女房が遊女夕霧の四十九日(なななぬか)の法要の支度をしているというところです。広間の中央には夕霧の形見である打掛(うちかけ)を飾っておりました。
 そうして二人が去ると、ついに舞台の主役が現れました。遊女の夕霧に肩入れしすぎて、実家を追い出された豪商の若旦那、伊左衛門(いざえもん)でありました。金子がないのか、紙衣に身を包んだ姿です。
「紙衣ざわりが、荒い粗い」
 そう言って姿を現したのは七島に流されたはずの新五郎その人でありました。そうして彼は思い出しました。自分を起こしたのはこの声であった、と。
(ああ、兄さん! 新五郎兄さん……!)
 若き歌舞伎役者はその名を叫ぼうとしましたが、うまく声になりませんでした。
 舞台は進んでいきます。夕霧の死を知った伊左衛門は嘆き悲しみ、せめて供養にと念仏を唱えます。すると内掛けの裏側から夕霧が姿を現しました。
 二人は再会を喜んで昔を懐かしみ合います。恋心を語る男女の動き、その駆け引き。その艶こそが新五郎の芝居なのです。
(ああ……兄さんだ。これこそが兄さんの芸なのだ!)
 男女は再会に涙します。若き歌舞伎役者の男も新五郎の芸が見れたその懐かしさ、嬉しさに涙致しました。
 しかし、喜びを分かち合ったのも束の間でした。夕霧の姿は突如消えてしまいます。
「伊左衛門さん、伊左衛門さん、目を覚ましてくだしゃんせ」
 扇屋の主人と女房の声で目を覚ます伊左衛門。そうして、夕霧だとばかり思っていたのは形見の打掛だったと知るのです。
 けれどせめて夢でも会えたことを伊左衛門は感謝します。そうして芝居は終わりました。
「兄さん! 新五郎兄さん!」
 終劇と同時に何かから開放され、若き歌舞伎役者は声を張り上げました。やっと声を上げた若き歌舞伎役者に応え、舞台袖に去ってゆく新五郎は振り向きました。
 しかし、その顔は新五郎ではありませんでした。
 振り返ったのは長細い獣の顔でした。黒い獣で、目や口に赤い縁取りをしています。改めて見ると紙衣すら着てはおりませんでした。黒い身体に赤い爪。長い長い赤い鬣(たてがみ)が伸び、先のほうで結んでおりました。
 驚愕する若き歌舞伎役者に、獣が言いました。
「我は新五郎の悪狐……人を化かす修行を重ね、今は化け狐である」、と。
 そうして化狐は続けました。
「案ずるな、二代目よ。この私ですら、新五郎になれるのだ。現にお前を騙したのだ。お前にやれぬはずはない。己を信じ精進せよ、二代目よ」
 獣の声。それは新五郎の声でした。少なくとも若き歌舞伎役者にはそう聞こえたのでした。
 化け狐は鬣の中から派手な色の傘を取り出すと開き、決めの型をとると、放り投げました。その傘の動きを追ううちに狐の姿は忽然と消え失せてしまいました。

「團十郎(だんじゆうろう)さん、團十郎さん、目を覚ましてくださいな」
 若き歌舞伎役者が居なくなったのを心配して、探しに来た部屋子がそう言って、彼は目を覚ましました。薄い光が差す芝居小屋はもぬけの空。團十郎と部屋子以外は誰もおりませんでした。

 それから、若き歌舞伎役者――二代目市川團十朗は修行を重ね、ついに江戸一番の人気役者となり、ついには千両役者と呼ばれるまでになりました。彼は荒事に和事、実事、あらゆる役柄を演じこなす幅の広い役者であったと伝えられています。
 歌舞伎役者のメイクとして有名な、あの赤い隈取。最初にやったのはこの二代目であると言われています。


  [No.2952] 隈取の解説 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/19(Sun) 09:49:24   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子

ゾロアークってマジ歌舞伎役者。
それがそもそもにきっかけであります。たぶんデザイナーは意識してると思います。
あの目のアイライン(隈取)、ふっさふさたてがみ……どう見たって連獅子やん。

連獅子って何? って方はこちらをご覧下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/wakadanna009/49445378.html


さて組合せが決まったら、どうデッチ上げるか、であります。

今回、取り上げたのは実際の事件「江島生島事件」。
何で知ったかというと「大奥」って漫画なんですけど。男女逆転してるほうね。
夕霧名残の正月もこの話にちらっと出てきますので、そこから調べ始めました。

登場人物は以下の通り

・市川團十郎(主人公)
・生島新五郎
・大奥のエライ人

生島新五郎というイケメンは團十郎の師匠なんですけど、
大奥のエライ人とチョメチョメして、これが大問題になっちゃったのね。
それで島流しになっちゃった。

「おいおい師匠が島流しになっちゃったよ。どーすんだよ」
途方に暮れる主人公。

これはこういう構図です。

また、團十郎について調べた結果、
使える! と思ったネタが何個か散見されました。

・市川團十郎のお父さんも役者で体格がよくて 荒事が得意だった
・対する息子はあんまり体格がよくなくて 芸に悩んでいた
・でも生島新五郎に可愛がられて、そこから艶っぽい芸を吸収した
・隈取りってメイクをはじめたのは市川團十郎

おお、役者の葛藤いいね!
じゃあ、それをゾロアークが導くような形にしよう。
というような形でこのストーリーになりました。

この話ではゾロアークの外見を強烈に覚えていた主人公が自分のメイクに取り入れた。
という事になっています。
実際は逆なんですけどね。


恨人形心中語もそうですが、九十九草子の収録作品は

「絵になる組合せを決める」
(例)歌舞伎とゾロアーク
 ↓
「テーマについて調べて、使えそうなパーツを探す」
 ↓
「使えるパーツ同士を組み合わせて、ストーリーを組み上げる」

という手法をとっている作品が多くあります。

「ポケモンの二次創作」であると同時に、
「実際にあるもの、実際にあった事件の二次創作」でもあります。

ポケモンを入れずに後者だけを採用すると
一次創作、オリジナルと言われてるものになります。
「一次創作、オリジナル」という名前はついていますが、あれは二次創作だと私は思っています。
つまりなぜ二次創作が、二次かといえば
著作権やら版権がついてるかの違いでしかないんじゃないかな、と。


  [No.2941] 【2】詠い人 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:13:43   146clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ナマズン】 【短歌】 【短歌】 【携帯獣九十九草子】 【豊縁昔語
【2】詠い人 (画像サイズ: 800×572 221kB)

 私の通っているタマムシ大学には様々な学科があります。その中にある国文学科のゼミで、私と彼は出会いました。
 別に容姿が私好みだったとかそういう訳ではありません。ただ、彼の発表が、想像力と類稀なる妄想力の結果、自爆というか大爆発を引き起こしていたものだから、私の印象に残ったのでしょう。
 その日のゼミは第一回で、著名な歌人の和歌を論評し合い、解釈を述べるといった内容でした。取り上げられたたのは豊縁(ほうえん)の女性歌人、蓮見小町(はすみのこまち)の和歌でした。

 水芙蓉(みずふよう) 咲き乱れるは さうざうし
 うるわし君を 隠す蚊帳(かや)なり

 水芙蓉とは、蓮の花のこと。その意味は、水芙蓉(蓮の花)がたくさん咲いているのは寂しいものだ。なぜなら、水面いっぱいに咲き誇る花は、水面に映る美しい貴女(貴方)の顔を隠す蚊帳となってしまうからだ。というものです。
 この歌が出された歌会の題は「水面(みなも)」であったと伝えられています。蓮見小町は、その昔、古代ホウエンで大きな勢力の一つだった海や水といったものを信奉する一族の出身とされ、彼らの歌会の題は水に関するものが多かったようです。だから彼女は水に纏わるすぐれた和歌をたくさん残しています。相手を直視せずに水に映した姿を見るというところがなんというか女性らしいですよね。
 ゼミの参加者が一人ずつ、意見を述べていきます。時代背景の掘り下げですとか、他の歌との関連を指摘する内容が多かったのですが、最後の最後、教授に指された彼は突拍子も無いことを言い出しました。
 一言目から彼は言い放ちました。
「これは水ポケモンが作った和歌です」
 教室がシーンとしました。ですが、彼は構わずに続けます。
「これは陸地に棲んでる者の歌じゃありません。陸地にいるんなら水面に映る君なんて見ていないで、直接見ればいいじゃないですか。むしろ、作者は水の中から想い人か想いポケモンを見てると考えたほうが自然です。だから水面に蔓延ってる蓮が邪魔でしょうがないのです。水の中から上が見えなくなっちゃいますから」
 そこまで一気に言うと、更に続けました。
「いや、和歌では邪魔な蚊帳なんて奥ゆかしい表現を使ってますが、実際の作者は好都合と思っていたかもしれません。だって水面に蓮が蔓延っていればちょっと水から顔を出しながら、自分の姿を隠しつつ、美人を覗き見できるわけでしょう。きっとあんまり容姿に自信がなかったんだと思います。とにかく、蓮見小町をこそこそ覗いてた野郎がいて、自分の行為を格好つけて表現した上に、彼女に送った歌なのではないでしょうか。ものは言い様ですね」
「………………」
「あ、誤解の無いように言っておくと僕は好きですよ? ポケモンが詠んだって考えるだけでワクワクしますね」

 これが彼との最初の出会いでした。
 ちなみに教授は「あ、ああ、蓮見小町のことだから、水ポケモンになりきって詠んだ可能性は否定できないですね……」と、言っただけでした。
 ですが気に入ったのか、いつも一番最後に彼を指名します。彼はそのたびにポケモンにこじつけた解釈を聞かせてくれるものですから、今はみんなが楽しみにしています。


  [No.2953] 解説になってない詠い人 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/19(Sun) 10:09:33   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子

あの有名な和歌は実はポケモンが詠んだのでは?
という話ですが、今回は正直、解説する事があんまりありません!

詳しくは、豊縁昔語の「詠み人知らず」読んでね!
http://pijyon.schoolbus.jp/mukasigatari/n-yomibitosirazu.html

今回のテーマは日本の伝統文化の為、
歌舞伎、人形浄瑠璃、能、和歌はおさえておきたかったのです。

豊縁昔語を別視点から見たお話になっています。
彼と彼女の出番はもう少し続きます…


  [No.2942] 【3】羽衣 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:14:45   122clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:クレセリア】 【ハクリュー】 【】 【携帯獣九十九草子
【3】羽衣 (画像サイズ: 800×572 161kB)

 先日の土曜、彼の誘いで能楽堂に行きました。
 誘われたのは公演の前日のことでした。いつもの事ではありますが、どうも彼はギリギリになってから誘う癖があるみたいです。まあ、暇だったらから行くのですけど。
「いつ買ったの? そのチケット」
 私が訪ねると、
「国文学科なんだから伝統芸能くらい見とくもんだよ」
 などと言ってはぐらかされました。

 今回見るのは三番目物「鬘(かづら)物(もの)」と言われるジャンルに属する「羽衣」という演目だと彼は説明しました。優美な女性達を主人公とした作品群なのだそうです。
 ポポンと打ちものの鼓が鳴ります。神秘的な増(ぞう)の面を被った役者が橋掛(はしがかり)を通って現れます。これがこの演目、「羽衣」の主役(シテ)である天女でした。
 相手役(ワキ)である漁師、白龍はミホマツバラの浜で、美しい羽衣が松の枝に掛けてあるのを見つけます。白龍はこれを家宝にしようと考え、持ち帰ろうとしますが、そこに持ち主である天女が現れる、という筋書きです。
 天女は白龍に羽衣を返して欲しいと訴えます。しかし、白龍は聞き入れません。天女は羽衣がないと天界に帰れないのだと訴え、悲嘆に暮れます。それでさすがに白龍も哀れと思い、条件付きで返してやることにしました。
 天人の舞楽を見せて欲しい。それが白龍が出した条件でした。天女はそれに応え、羽衣を受け取ると、舞を披露しながら、シロガネ山を越え、天に戻っていくのです。
 天女の舞は、序之舞から破之舞へと移り変わり、今まさに曲は最高潮に達しようとしていました。周囲に黄金を降らせながら、天女が舞い上がっていく様が表現されます。
 ちらりと横を見ると、彼は感慨深そうにその舞に見入っていました。能は最小限の舞台装置と最小限の動きで事象を表現しますので、観る人の想像力に委ねるところが大きいのでしょう。彼はすっかり自分の世界に入り込んでいるように見えました。

「羽衣に出てくる天女ってクレセリアのことだと思うんだ」
 夕食の席で彼はそう語りました。
 クレセリアというのは、シンオウ地方での目撃証言があるとても珍しいポケモンです。
 そのクレセリアの持つベールのような羽。羽衣とはまさにその羽のことだと言うのが彼の弁でした。
 クレセリアは飛行する時、そのベールのような羽から光る粒子を舞い散らせながら飛んでゆく。その様子は黄金を降らせながら天に昇ってゆく天女の姿と重なるのだと彼は熱っぽく語り続けました。
 きらびやかな衣装を纏った天女も彼の目を通すとポケモンに変換されてしまうようです。
「でもミホマツバラがあるのってジョウトでしょ。クレセリアはシンオウ地方のポケモンなのだから違うんじゃないかしら」
 私はいつものようにちょっとだけ反論します。
 すると彼はいつものように答えます。
「いや、天女の言う天界をシンオウと捉えることも出来るし、シンオウ地方であった話がジョウトのミホに伝わって定着するまでに形を変えたのかも……」
「でも羽を松の枝に掛けたりするかしら」
「それは演出とか物の例えさ」
 彼は言いました。
 ちなみに、能「羽衣」の天女は羽衣を返してもらい、天界に帰りますが、漁師が羽衣を隠してしまって、帰ることが出来ず漁師と結婚するというエピソードも説話の中には存在します。この場合、彼の大好きなシンオウ神話の「むかし、人とポケモンが結婚していた」という話に結びついていくわけですが、もちろんその手の話題が出たのは言うまでもありません。
「そういえば漁師の名前、白龍なのよね。白龍自体がポケモンのハクリューの例えだという可能性は? カイリューとかでもいいけれど」
「あ、それは気がつかなかった」
 そんなやりとりがずっと続いて夜も更けていきます。

 困ったことに、帰ろうという頃になって雨が降り出しました。
「あちゃー、傘持って来てない」
 私が言うと、
「じゃ、送ってくよ」
 と、彼が言いました。
「別にいい」と断ったのですが、何だかんだで押し切られる形になりました。駅への道すがら彼は言いました。
「実は人形浄瑠璃のチケットが二枚あるんだけど」
「いつ?」
「明日」
「…………」
 私は呆れたような視線を送りましたが、彼は彼は視線を逸らして黙っています。
 ……まあ、明日は日曜日ですし、いいですけれど。
 ぱたぱたと雨粒が傘を鳴らします。
 雨はまだまだ止まなさそうです。
 もしあの漁師がハクリューであるのなら、こうやって、天女を留めたのかもしれない――私は密かにそう思いました。


  [No.2954] お前らに言いたい事がある 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/19(Sun) 10:23:19   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
お前らに言いたい事がある (画像サイズ: 800×360 93kB)

正直、作品中で言いたい事は言ってしまったのであまり語る事がありません。
そうですね、あえて一言だけ。











リア充爆発しろ。


  [No.2943] 【4】恨人形心中語(うらみにんぎょうしんじゅうがたり) 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:17:42   159clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【4】恨人形心中語(うらみにんぎょうしんじゅうがたり) (画像サイズ: 800×577 177kB)

 近松は悩んでおりました。
 竹本義太夫との約束の時期が近づいているというのに、脚本(ほん)がちっとも出来ないのです。
 彼は人形浄瑠璃の作家でした。有名な脚本をいくつも書いて、その名と作品は広く知れ渡っております。けれどそんな近松にだって不調な時はあるのです。
 彼はここのところ毎日のように、朝から晩まで、机の和紙に筆を入れては丸め、入れては丸めとそんな作業を繰り返しておりました。あれもだめ、これもだめ、座敷の畳の上には大量の紙くずが恨めしげに転がっています。あれやこれやと頭に案を浮かべるのですが、どの案もそれとは違うと頭の中で何かがささやくのです。彼は大衆の求める刺激を提供するのに優れておりましたから、そういった勘が働いたのでございましょう。しかし、大衆が何を求めているのか。その輪郭がはっきりとしないのです。困ったことに、脚本がなければ、人形の衣装を揃えてやることも稽古もできません。
 彼は斬新な発想を必要としておりました。というのも、彼が属する竹本座のお膝元、黄金(こがね)の町に、円寿(えんじゆ)から宇治座がやってきて興行を始めたからでした。
 依頼主の竹本義太夫も、作家の近松門左衛門も元は、宇治座の出身でありましたが、それぞれが野心を抱き独立し、手を組んだのでした。宇治座はそれがおもしろくありません。だから彼らの町にやってきて、それを潰そうと目論んだのです。そのような経緯で二つの座は興行合戦を繰り広げておりました。
 当時の人形浄瑠璃といえばずいぶん昔の戦や武家のお家騒動を扱った歴史物や伝説・伝承を扱ったものでした。ですが、いつもの筋書き、いつもの脚本ではだめなのだと依頼主の義太夫も近松も感じておりました。彼らは新しい何かを求めていたのです。
「困ったのう。困ったのう」
 門左衛門は嘆きました。歴史物は散々やってきましたし、宇治座とも被ります。そこに語りの違いはあっても目新しさはありません。
 連日悩む様子の近松に妻が言いました。
「あなた、少し気分を変えたらどう。歌舞伎でも見てきたら如何」
 それもそうだと思って、近松は芝居見物に出かけていきました。
 このところ歌舞伎の流行は世話狂言でありました。密通や殺人事件など何かスキャンダラスな事件があると、歌舞伎役者達はすぐさまそれを演じて見せるのです。即興に近い形ですから演技の質は高くないのですが、人々は食いつき、芝居小屋は盛況でした。
 この日見た演目は、江戸城大奥の女中と売れっ子歌舞伎役者が密通をし、それが大奥の面々と歌舞伎に関わる面々の双方に大勢の処罰者を出す大規模粛清事件に発展した、というものでした。
 やはり出来は荒いのですが、人々は食い入るように見入っています。
 ああ、今大衆が求めているものは遠い日の出来事ではなく、もっと近くで起こっている出来事なのかもしれない――近松は何かの取っ掛かりを得た気がいたしました。
 歌舞伎を見終わった夕刻、帰ろうという頃に、困った事が起きました。黒い黒い雨雲が町全体を覆って、ざあざあばたばたと大粒の雨が降り出したのです。
 近松は蕎麦屋に入って、やり過ごそうと致しましたが、蕎麦を食べ終わっても、酒を飲んでも一向に止む気配がありません。しかもそこそこ遠出をしてきたので、家まではずいぶん距離があります。仕方ない、どこかに宿を求めようと近松は考えました。
 近くで見つけた宿はお世辞にも、よい宿とは言えませんでした。中はどんよりと暗いですし、なんだかじめじめとしていました。しかも玄関に飾られた黒髪の人形が、人形浄瑠璃作家から見ても何とも言えず不気味なのです。けれど雨宿りには代えられません。近松はさっさと布団に入ることに致しました。しかし、雨の音がうるさくてうるさくてなかなか寝付けませんでした。
 そんな折、すすすっと部屋の襖が開き、何やら光が揺れました。
 宿屋の主人か、それとも盗みか。近松は毛布から顔を出し襖の方向に目をやりました。そして、目を見開きました。
 襖から部屋を覗いていたそれは人間ではありませんでした。身体は黒く、血のような赤い割けた目が輝いておりました。三本の角を持ち、口がぱっくりと裂けています。明らかに物の怪の類でございました。その物の怪の背後で火の玉が二、三踊っております。
 近松と目の合った物の怪はにいっと笑みを浮かべて言いました。
「人形浄瑠璃の近松門左衛門だな」
「そうだが」
 近松は答えます。するとすぐさま物の怪は続けました。
「お前、浄瑠璃の題材を探しているのだろう? どうだ、ひとつ俺の話を取り入れてみないか」
 瞬間、近松の目は作家の目に変わりました。ギラリと眼光が走りました。
「なにかあるのか」
 布団から体を起こし、近松は物の怪に尋ねます。物の怪は再びにいっと笑いました。そうして、
「心中(しんじゆう)だ」
 と言ったのでした。
 すすすっとさらに襖が開きました。物の怪が長い腕を動かし手招きをすると男女の人形がふらふらと浮きながら入って参りました。物の怪は男女の人形を操りながら事の顛末を語りました。
「男は徳兵衛、女はお初という……」
 物の怪は言いました。
 広大な姥女森に分け入って、徳兵衛という男とお初という遊女が情死したのだと。二人は将来を誓い合っていたが、事情が生じたのだと語りました。
 徳(とく)兵衛(べえ)は黄金の町で親方につき、商売をしていた。非常によい働きをしたので親方が自身の娘と結婚させようと考えた。そこで親方は徳兵衛の母のところに結納金を持っていった。だが、お初を想う徳兵衛はその話をあくまで固辞したのだった、と。
 怒った親方は結納金を返せ、そして黄金の町から出て行けと要求した。徳兵衛は母から結納金を取り返す。親方に金を返して、あくまで自身の気持ちを貫こうとしたのだ。
 そこに徳兵衛の友である九平次が現れた。どうしても金が要るという九平次に徳兵衛は三日限りの約束で結納金を貸してやった。だが約束の日、九平次は裏切った。証文があるにも関わらず「借金など知らぬ、証文も偽物だ」とのたまった上、公衆の面前で散々に痛めつけたのだ……。
「徳兵衛はすっかり面目を失ってしまった。親方に金を返すことも出来ぬ。とどめはお初に舞い込んだ身請け話よ。それでとうとう決意したのだ」
 物の怪の赤い目が爛々と輝きました。そうしてかっと両腕を上げました。
「徳兵衛はお初と姥女森の奥に分け入り、共に死ぬことにした……」
 見ると物の怪の前で男の人形が刀を振り上げておりました。振り降ろされた刀は女に突き刺さり、瞬間、糸が切れたように女の人形が崩れ去ります。後を追うように男は自らの喉に刀を差し、重なるように崩れ落ちました。
「これが事の顛末だ。だが、死んだ場所が悪かったよ。あいつらはあんまりにも奥に行き過ぎたのだ。おかげで見つかりゃあしない。世間じゃ二人がどっかへ逃げたことになっているが……」
 黒子のような物の怪は恨めしそうに語りました。そうして近松の顔を覗き込みました。
「どうじゃ?」
 物の怪は尋ねました。ですがすぐに答えは出ていると確信し、笑みを浮かべました。というのも、近松の目が作家としての野心を滾らせ、鋭く光っていたからでした。
「お前が脚本(ほん)を書き、義太夫が語ったなら、必ずや黄金の衆は飛びつこう。宇治座との客入り勝負にも勝てようぞ」
 物の怪は予言致しました。
「今夜、俺が語った出来事はお前のやり易いよう書き、語るがいい。ただし、これから言う箇所だけは変えるなよ」
 そう言って物の怪は男女の人形を担ぐと、襖の向こうに消えていったのでありました。

 近松は帰宅をすると、早速執筆に取り掛かりました。
「この世の名残、夜も名残、死に行く道をたとふれば……」
 さらさらと筆を進めます。
 眠ることも、飯を食らうこともなく、まるで何かに取り憑かれたかのように近松は書き進めました。
 物の怪の言う通り、まだ世間に心中の噂は流布しておりません。誰より先に竹本座で取り上げるのだ。その気持ちが筆を押し進めました。
 そうして飲まず食わず寝ずの三日三晩でののちに脚本が仕上がりました。近松は義太夫に使いを出すと、憑き物が落ちたような面持ちになって、妻に布団を敷かせると、グーグーと眠り始めました。

「さあ、さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 姥女の奥で男女が情死、心中事件だよ! 男のほうは手代の徳兵衛、女は遊女のお初。そこにお初の身請け話、徳兵衛は借金を踏み倒されたって話だ! 続きは浄瑠璃で見ておくれ! さあ、入った!入った!」

「死にゆく道をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えていく……」
 近松の道行の文句を、義太夫が情感たっぷりに語ります。人形が刀を振り上げ、そして崩れ落ちます。愛を貫くお初と徳兵衛のその姿に人々は熱狂し、芝居小屋は連日押すな押すなの大盛況でした。こうして竹本座と宇治座の勝負は、竹本座に軍配が上がったのであります。

「近松、徳兵衛とお初が見つかったぞ」
 興行が始まって三日目の晩、そう言ってあの物の怪が近松の家に現れました。
「あれから姥女森に入ってくもの好きがたくさん出てなぁ。ついに森の奥で二人を見つけたのよ……それともう一つ」
「もう一つ?」
「借金を踏み倒した九平次も捕まった。取調べはこれからだろうが、奴はもう黄金の町では生きていけんだろうなぁ」
 物の怪はそう言うと、裂けた口に長い手を入れて、浄瑠璃人形の首をひとつ、取り出しました。そしてごろりと床に転がし、けけけ、と笑いました。
「お前の狙いはそれか」
 近松が言います。
「そうとも。俺の力でもって奴を取り殺すことは簡単だった。だがそれではつまらんだろう? そこでお前に頼んだのよ。名前は変えずに、脚本を書いて欲しいとな」
 物の怪は満足げにそう答えました。
「お前はなぜそこまでしたのだ? お前は徳兵衛とお初の何だ?」
 近松は尋ねました。すると、物の怪その問いを待っていたとでも言いたげに笑ったのでした。
「俺か? 俺はお初の人形よ。尤も、とうの昔に忘れられちまったがなぁ。小さい頃にあんなに遊んでやったのによ」
 物の怪は言いました。可愛がられた人形ほど強い呪いを生む、恨人形になるのだと。
「お前さんも浄瑠璃人形を処分するときゃあ、せいぜいこうならぬよう扱うことだ。でなければ、呪いを撒き散らすようになる。俺のようにな」
 けけけ、くくくと人形は不気味に笑いました。そうしてこう言ったのでありました。
「いいか近松、これの本質は呪いなのだ」
 近松はぞぞっと何かが背を走り抜けるのを感じました。何かとんでもないことをしでかしてしまった気がしたのです。
「呪い? お前の持ち主の復讐ではなかったのか?」
「それもある。だがこれは俺の性質(たち)ってやつなのさ。なぁに今に意味が分かる。今にな……」
 そして、人形は近松を称えました。
「お前は大した作家だよ。お前が書き、義太夫が語り、傀儡師(くぐつし)が介する。浄瑠璃を通し我が呪いは最高の形になった。世に染みわたったのだ」
 そう言い残して、物の怪――恨人形は闇の中に消えてゆきました。

 恨人形が語った「呪い」のその意味。それは言葉の通り、しばらく後になって分かりました。
 浄瑠璃を通し、男女の心中はたちまち人々を魅了し、世に染みわたったのです。後を追うようにして、様々な芝居小屋が取り上げました。それによりますます多くの人々が事件を知り、酔いしれていったのでありました。そして――
 巷には心中が蔓延るようになりました。若い男女が次々に命を断つ事件があちこちで起きました。姥女森にほど近い黄金の町だけでなく、円寿に、巡り巡って江戸にまで心中の波紋は広がってゆきました。
 ――これの本質は呪いなのだ。
 恨人形の言葉は現実となったのです。
 これを重く見た時の幕府は、とうとう心中ものの上演を禁止する触れを出しました。近松の名を世に知らしめたこの脚本(ほん)は、時代が変わって支配者が変わるまで、上演されることはありませんでした。


  [No.2951] 恨人形作品解説 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/19(Sun) 09:13:58   90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子

ジュペッタと人形浄瑠璃。
組み合わせたいという希望は前々から持っていました。
ただ筋書きがちゃんと決まっていなかったので、以前に本で得た知識をもとにネットの関連ページや該当本を読み直す事から始めました。
人形浄瑠璃といえば近松門左衛門で、曾根崎心中という事もあり、そのあたりを中心に調べる事に。
デPの曲にも取り上げられてますネ http://www.youtube.com/watch?v=6fvS81_fciE

以下、いろいろ拾い読みして解った事

・近松門左衛門は古巣を抜け出して独立した
・古巣と興業合戦を繰り返した
・演目のテーマは「歴史の事件」から「より身近なもの」へとシフトしていった
・結果、曾根崎心中が成立した

ちなみに、竹本座と宇治座が興業合戦をしていたのは、
曾根崎心中の成立よりだいぶ前なので、興業合戦に勝つ為にこの作品を作った訳ではありません。
この点に関してはストーリー展開上の創作になります。

ただし、

・曾根崎心中がブームとなり、心中ものがいろんなところで争うように上演された
・結果、心中が流行って 実際に死人が出た
・幕府に禁止された

というのは「マジ」です。
私の創作ではないです。
実際調べてみるといろいろ使えそうなエピソードが拾える事が多々あります。

いやあそれにしても。
創作というか芸術って人を殺せるんですね。
近松……アンタ恐ろしい男や。


  [No.2956] 【5】昇竜ノ祭 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/21(Tue) 22:20:01   114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【5】昇竜ノ祭 (画像サイズ: 800×531 247kB)

 私の生まれ育ったチョウジタウンでは、毎年秋になるとお祭があります。
 その日、中央広場の太鼓が荒波の押し寄せるような音を奏でると、昇龍――ギャラドスの群れが現れて、町の通りという通りを泳ぎ回るのです。
 その様子は、町の若者達が巨大な張子のギャラドスを棒で支え、突き上げ、その長く巨大な身体をうねらせることで表現されるのです。
「龍がくっどー!」
 と、誰かが叫んで回ります。
 するとほどなくして、昇龍が現れます。チョウジに古くから伝わる威勢のよい歌を口ずさみながら、若者達が龍を泳がせ、くねらせて町を練り歩いてゆくのです。
 青い数珠のような身体をくねらせながらギャラドスが通ると、子ども達は泣いたり笑ったり。普段は落ち着きを払っている大人達も大げさに驚いてみせます。
 特にたくさんの昇龍達の中に一匹だけいる、赤い鱗のギャラドスが通るとワッと歓声が上がります。赤いギャラドスは商売繁盛に恋愛成就、とにかく厄を遠ざけて福を授けてくれると昔から信じられていて、祭の中でも特別な存在なのです。お祭中に赤いギャラドスに遭遇すると次の年は幸福に過ごせると言われています。
 とにかくこのお祭の日ばかりはみんな羽目を外して、飲んで、踊って騒ぎます。
 けれど、私はこの祭が嫌いでした。
 この日が来なければいい、そう願っていました。
 今考えれば何をそんなにこだわっていたのかと思いますが、とにかくあの頃の私はこの行事を疎ましく思っていたのです。
 それはこのお祭の由来と関係していました。

 あの頃、まだ小学生だった私は飼育係でした。
 学校の校庭の奥に大きな池と原っぱがあって、小さなポケモン達が放し飼いになっていました。春に学年が上がって、係になった私の日課は毎日放課後に小さなポケモン達にエサをやることでした。原っぱにはコラッタやポッポ、ハネッコがおりますし、池にはハスボーやニョロモ、そしてコイキングが泳いでいます。私の姿を見かけるとみんな近寄ってきてくれます。私はそれがうれしくて、毎日放課後が来るのが待ち遠しかったものです。
 けれど、ある日を境に平穏だった日々は乱されました。
 十歳になってポケモンを貰ったというクラスの男の子が一人、たびたび現れては、特訓と称し、ここにいるポケモン達にバトルをしかける様になったからです。
 バトルといってもそれは非常に一方的なものでした。攻撃をしかけられるとポケモン達は一目散に逃げていきます。初心者用といってもある程度戦えるように訓練されていた彼のワニノコに敵うポケモンはいませんでした。中には戦うポケモン達もいて、コラッタはたいあたりで、ポッポは小さな風を起こして少しばかり抵抗するのですが、結局は負けてしまうのです。特にコイキングは情けないもので、池の外に投げ出されては、ただはねているだけでした。これはもうポケモンの性質なので仕方ないのですが、彼はそんなコイキングを特に馬鹿にしているようでした。
「こんな弱いポケモン、誰も捕まえないぜ」
 いつもそう言っていました。
 そうしてコイキングが池に落ちるまでひたすら攻撃を加えるのでした。
「やめてよ、やめてよ」
 私は何度も男の子に訴えました。けれど彼がそれを聞き入れることはありませんでした。彼はたびたび現れては逃げ回るポケモン達を追い回し、攻撃しました。
 私は先生や大人達に訴えました。
 ここのポケモン達にバトルを仕掛けるのをやめさせて欲しい、と。
 けれど、私の願いは聞き入れられませんでした。ある先生はポケモンはバトルをする生き物だ。ケガしたってすぐ治るから大丈夫だと言いました。ある先生は少しは同情してくれましたが、仕事が忙しくて構っていられません。信じられないことにお父さんに至っては
「それはお前のことが好きなんだよ。一緒に遊んであげたらどうだい」
 などと言いました。
 お母さんは放っておきなさいと言ったまま、何も考えてはくれませんでした。
 大人なんてアテにならない。みんな一緒。
 しばらくの間、それが原因で両親と口を利きませんでした。

 私が祭の由来を知ったのはそんな頃のことでした。たぶん社会科の一環か何かだったでしょうか、地域の歴史を知ろうというような授業があって、その日は白い不精ヒゲの町内会長さんがお話をしたのです。そこで会長さんは次のようなことを語りました。
 昔むかし、まだ土地を殿様が治めていたころ、いかりの湖からギャラドスの大群がやってきて、所構わず暴れまわった。人々とそのポケモン達は力を合わせて戦ったが何せ相手が強すぎて勝ち目が無い。そこでシロガネ山近くの竜の里に住む高名な巫女に頼んで神に伺いを立てたところ、ギャラドスを奉るようにすればいいとのお告げがあった。それがこの町の祭の始まりである――と。
 私はなんだかとても情けない気持ちになりました。つまり私達が毎年楽しみにしていたお祭というのは横暴な者の機嫌をとるために始まったというのですから。
 それで私は祭のことが嫌いになってしまいました。だって、私には暴れ回るギャラドスと、手の付けられないあの男の子とが重なって見えてしまったのですから。こんなことが許されていいのだろうか。私は憤りを覚えました。だから、そういう行為を働く者の機嫌をとる町の大人達が、ひどく憎く思えたのでした。
 ああ、これが大人達の正体なのだ。みんな敵わない者に媚びるんだ。媚びへつらうんだ。
 最初から、私に味方なんていないんだ。
 いないんだ。
 秋のお祭が近づく度に憂鬱でした。祭に向けて、町全体が盛り上がっていくのに反比例して、私の気持ちは沈んでいきました。
 お祭の日なんて来なければいい。来なければいいのに――。
 私はそう願っておりました。

 祭の日の三日程前だったでしょうか。まるでバケツの水をひっくり返したような大雨が降りました。
 次の日になって登校した私が、小雨の、まだ水の引ききらないべちょべちょの校庭を長靴を履いて歩いていくと、原っぱの一部は水没し、池の大きさが二倍ほどになっておりました。
 そうしてぬかるみに足をとられながら池に近づいた私は妙なものを見つけました。
 池の一角を見慣れないポケモンが泳いでいるのです。
 ですが、よくよく目を凝らしてみると、それは知らないポケモンというわけではありませんでした。むしろ毎日接しているポケモンでした。
 けれど、いつも見ている「そのポケモン」とは明らかに違う点がありました。
 それは「色」でした。
 私が見つけたのは金色のコイキングだったのです。
 いわゆる色違いというやつです。増水した池の中をゆったりと泳ぐそのコイキングは口の先から髭(ひげ)、尾鰭(おびれ)の先まで全身金色でした。コイキングが泳ぐ方向を変えるたびに金の鱗がキラキラと輝きます。大雨の時にどこからか流されて来たのでしょうか。私はしばしその姿に見入っておりました。
「すっげー! 色違いじゃん!」
 聞き覚えのある声が聞こえて、私は振り返りました。見るとあの男の子が私の後ろに立っていました。私は顔をしかめました。彼が何を考えているかすぐに読めてしまったからです。
「いけ! ワニノコっ!」
 予想通りです。男の子は金のコイキングにワニノコをけしかけました。ボールから出された彼の相棒はすいっと池の中を泳いでいくとその大きなアゴでコイキングを掴みにかかりました。そうしてコイキングを捕らえると池の外に投げ出しました。
 男の子はもうひとつのボールを手に取りました。こんな弱いポケモン誰も捕まえないなどと豪語していた彼ですが、やはり色違いとなると目の色を変えたのでした。どんなに弱いポケモンでも色違いならクラスの皆にも自慢できると考えたのでしょう。
「ひっかけ、ワニノコ!」
 彼はコイキングにダメージを与えるべくワニノコに命令します。池から投げ出され、びちびちとはねるコイキングにワニノコが向かっていきます。
 しかし、その攻撃は不発に終わりました。
 私の目の前で信じられないことが起こったのです。
 ビチビチとはねる金色のコイキングの口元がカカッと光ったかと思うと、炎のような雷のような波動が発せられ、ワニノコに命中したのです。ワニノコはビリビリと痺れ、目を回してその場に倒れてしまいました。
「……ウソだろ」
 男の子はしばし口をあんぐりあけて突っ立っておりました。
 私も口をあんぐりとあけていました。
 あれほど馬鹿にしていたコイキングに自慢のポケモンがやられたことがよほどショックだったのでしょうか。それ以来、男の子がこの場所に現れることはありませんでした。
 次の日にはもうコイキングはいなくなっていました。大量の雨を降らした暗い雨雲が引くのと同時に、金のコイキングも姿を消してしまったのです。池にはいつも通りの赤いコイキングだけが泳いでおりました。
 炎のような雷のようなあの技が「りゅうのいかり」だったことを知るのは、私がもう少し大きくなってからのことです。

 お祭の日がやってきました。
「龍がくっどー!」
 威勢のいい太鼓と共に中央の広場からギャラドス達が押し寄せてきます。
 屋台のオクタン焼きを口にほおばりながら待っていると一匹目がやってきました。
「赤だ!」
「赤がきたぞ!」
 と人々が口々に叫び、歓声を上げました。
「来年はいい年だぞ!」
 誰かが言いました。
 私は人々の間を縫って、赤いギャラドスを一目見ようと人だかりの前に立ちました。するとちょうど龍を操る若者達がやってきたところでした。私のちょうど頭上でえっさえっさという掛け声と共に赤い龍がくねっています。一瞬でしたが、赤い龍と目があった気がしました。
 私の後ろで、誰かが言いました。
「知っとるか。ギャラドスってえのはコイキングの進化系なんやて」
「知っとる、知っとる。けどはじめて知ったときゃホンマまにおったまげたわー。
なんたってあのコイキングだしな」
 見ると町のお年寄りが二人、通りを泳ぎ進んでくギャラドスを見送りながら会話しています。
「そんでもってな、赤いギャラドスになるコイキングはな、全身金色なんやそうや」
「知っとる知っとる。ホンマおめでたい色やなー。見たことはないけどな」
 がはは、と二人は笑いました。

 
 あれからずいぶん時が経って、私もすっかり大人になりました。今は別の町で働いていますけれど、毎年この時期だけは里帰りします。この町で生まれた人はみんなそうです。
 日が落ちて夜の帳が降ろされます。
 そうして、どこからか威勢のいい声が聞こえてきます。
「龍がくっどー!」
 波の音に似た太鼓が響き、昇龍が、ギャラドスがやってきます。
 今年も、お祭が始まります。


  [No.2957] 【6】招き猫 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/24(Fri) 22:49:31   175clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【6】招き猫 (画像サイズ: 800×534 183kB)

 招き猫は、前足を上げて人を招く仕草をした猫のポケモンの置物である。商売繁盛の縁起物として親しまれている。
 この起源には諸説があり、南ではエネコが殿様を寺に案内し雨宿りさせたからだとか、北ではニャルマーが豪商を宿に招いたからだとかいろいろあるが、やはり一番有名なのはニャースのエピソードであろう。

 カントーの中心地が江戸と呼ばれていた頃、一人の老婆がニャースと共に暮らしていた。老婆はとてもニャースを可愛がっていたが、暮らし向きは思わしくなく、それはそれは貧乏だったという。老婆には一人の息子がおり、近くに住んでいた。が、真面目なのにもかかわらず何をやってもうまくいかなかった。貰ったばかりの嫁には逃げられ、職を転々としていたという。
 老婆は息子がうまくいくようにと、近くの今戸神社によく詣でては願を掛けていた。賽銭はニャースがときたま拾ってくるお金だった。老婆にとっても貴重なお金であったのだが、それで息子がうまくいくならと強く願っていたのであろう。着る服も日々の糧もぎりぎりに切り詰めて、老婆は一心に願をかけた。
 年の瀬も迫った頃、ふとニャースが姿を消した。いつものように二、三日したら帰ってくるだろうと思っていたのだが、いつまで経っても帰ってこない。隙間風の寒さに震えながら、老婆は帰りを待っていたが、十日経っても帰ってこなかった。そうして十五日目の夜のこと、夜も更け、いつの間にか眠ってしまった老婆の夢枕にニャースが立ったのだった。
 夢に現れたニャースは後ろ足で立ち上がり、人の言葉を巧みに話し、猫撫で声で次のことを語ったという。
「自分はあの今戸神社の神様の下でご奉公することになった。なのでもう会うことが出来ないのだ」
「神様の下で働く代わりに、福を授かる方法を教えてもらったので、伝授しよう」
「私の姿を人形にしなさい。そうすれば必ずや福を授かるであろう」
 ニャースはそう言い残して消えたという。
 老婆がその事を息子に伝えると、息子はさっそくニャースの置物をこしらえた。浅草の参道で売りに出したところ評判がよく、近年にない正月を迎えることが出来たのだった。それから風向きのよくなった息子は、新しい嫁を貰い、商売も繁盛し、よい家に引っ越すと、老婆をそこに呼び寄せた。孫にも恵まれて老婆は大いに幸せであったが、時々奉公に出てしまったニャースのことを思い出しては涙したという。

 ちなみに老婆のかつての住居地は、現在のタマムシシティ、それもタマムシマンション付近であると紹介されることがあるが、定かではない。


  [No.2962] 【7】達磨 投稿者:No.017   投稿日:2013/06/01(Sat) 13:46:52   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
【7】達磨 (画像サイズ: 800×572 226kB)

 だるまは宗教、宗派を超えて親しまれる縁起物で、多くは赤色の張子(はりこ)として製作される。目の瞳の部分は白とし、願掛けをし、叶うと書き入れるが、近年は観賞用のものや、様々な色をしたものが多く出回っている。
 やはり縁起物だけに需要のピークは年末年始である。その為、師走になると職人達はだるまの絵付けに忙しい。

 さて、このだるまだが、全国に男人、女人、ホーホー、コロボーシ、プリンなど様々なバリエーションが存在し、それぞれに云われがある。が、どうもその大元を辿ると、オリジナルはヒヒダルマらしい。最初にヒヒダルマを模すことから始まり、派生していったという説が有力である。だが、ヒヒダルマは(一部帰化している個体群を除き)我が国には生息していない。どのようにしてこのポケモンがだるまのモデルとなり、デザインとして広がるに至ったのであろうか。

 その謎を解く鍵は室町〜戦国時代にかけて成立した興(おこり)猿(ざる)記(き)にある。
 それによれば、その頃のわが国に壱(いち)集(しゆう)国(こく)(現在のイッシュ地方)からの帆船が出入りするようになり、宣教師ルイス・ハルモニア・グロピウスがやってきたという。
 時の有力大名であった織田氏は、家臣との獣相撲(今で言うポケモンバトル)に勝ったなら布教をさせてやろうと云い、ルイスを試した。そこで彼が繰り出したポケモンが炎の狒々であった。これこそが現在ヒヒダルマと呼ばれているポケモンで、これが大変に強かったのだという。
 城下でたちまちこのポケモンのことは評判になり、これに目をつけた商人、夏備(かび)権兵衛(ごんべえ)がその姿を模して縁起物として作らせ売りに出したところ、大当たりした。こうしてヒヒダルマのデザインは形を変えながら全国に広がってゆくことになる。
 達磨の種類によってご利益や目的は異なるが、オリジナルのヒヒダルマ型はその云われからも、バトルでの勝利を願うトレーナーや、その実家で子を待つトレーナーの親達が買い求めることが多いという。


  [No.2963] 【8】替わらずの社(上) 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/02(Sun) 19:29:32   112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子】 【豊縁昔語】 【スリープ
【8】替わらずの社(上) (画像サイズ: 1200×425 225kB)

 私のおじいさんは宮大工です。宮大工というのは神社やお寺を建てる大工さんのことで、何年も家を離れては、社寺のある地に住んで、仕事をするのです。
 今から私がお話しするのは、私のおじいさんから聞いた話で、おじいさんが若い頃にホウエン地方のさる大きな社殿の建て替えに関わっていた時のことだそうです。
 おじいさんが仕事をしていたのは職人の仲間内で、「赤の神宮」と呼ばれているそれは大きな神社でした。建物の外壁を赤く塗っているのが特徴的な建造物です。その昔ホウエンの民を洪水や長雨から救ったという日照と大地を司る神様を奉っているところだそうです。
 赤の神宮は敷地を東西の区画に分け、二十年ごとに建て替えを行っています。これは、職人の技術を継承することがひとつ、そして決まった年ごとに新しく建て替えることによって永遠を目指したからなのだそうです。建物を支えていた木材自体はまだまだ使えますから、橋になったり、もっと小さな神社の建て替え材料になったり、鳥居になったりするのだそうです。
 おじいさんがやってきた年は、東の建て替えが行われる年でした。
「よく来たな。まずは社殿を案内しよう」
 棟梁(とうりよう)が相棒であるゴーリキーと一緒に若き日のおじいさんを歓迎しました。棟梁とゴーリキーの後ろについて、おじいさんとその相棒は社殿を見学しました。
「にしても獏(ばく)が相棒たぁ珍しいなぁ」
 棟梁が言います。獏とは催眠ポケモンのスリープのことです。
 宮大工は仕事の相棒としてポケモンを何匹か持っておりますが、その大抵は格闘タイプのポケモンでした。特に重い荷物を運搬できるワンリキー・ゴーリキーや高所を移動できるマンキー・オコリザルが重宝されたのです。
「獏蔵(ばくぞう)と言います」
 と、おじいさんは答えます。
「ケガしてたのを助けてやったら懐いてしまって。でも木材を念力で持ち上げたり出来ますから、重宝しますよ。大食いなのが玉にキズですが」
 若き日のおじいさんは笑いました。
 二人と二匹は広い敷地内を歩き周りました。棟梁はあの建物は何に使うとか、あの建物に見合う立派な柱を探すには苦労したとか、いろいろ聞かせてくれました。二十年に一度建て替えをしているというだけあって、今まで巡ってきた全国の社殿と比べても、建物は新しい感じです。
 しかし、回っていくうちに妙なことに気がつきました。
「棟梁、よろしいですか」
 おじいさんは尋ねました。
「何だ」
 そして、東の離れたほうにあるひとつの社殿を指しました。
 いくつもの大きな木と茂みに囲まれて、ひっそりと立っています。
「さっき通った建物だけ妙に旧いように見えますが」
 すると、棟梁が答えました。
「ああ、あれはな、替わらずの社だ」
「替わらずの社?」
「そうだ。昔は宝物殿として使っていたらしい。東にあるあの社だけは遷宮の年になっても建て替えんのだ」
「なぜですか」
「建て替えたくても建て替えられないからだよ。あの社に手を出そうとすると職人やその相棒がケガをしたり、いつの間にか材木が消えてたりするのよ。居なくなった奴もいる。忽然と姿を消してしまってな。それで何十キロも離れた町でぼーっとしてるのが見つかったんだそうだ」
「…………」
「とにかく、こいつを相手にしてると他の仕事に差し障るってえんで、誰も手を出さなくなった。神宮側も諦めとってな、あれには外壁の色を塗る以外は手を出さない約束になっとる。触らぬ社に祟り無しってとこだな」
「中を見てもいいですか」
「お前も物好きだなあ。長生きしないぞ?まあ、見るだけや掃除するだけなら問題ない。ただし、見たって面白くも何とも無いぞ。何も無いからな」
 そうして、若き日のおじいさんは社殿の中を見せてもらったそうです。
 観音開きの旧(ふる)い扉を開いて、中に入ってみると言われた通り、壁と床と屋根があるだけでした。
「本当に何もないですね……」
「だろう? 一体何が理由なのかさっぱりなのだ。さ、気が済んだろう。行くぞ」
 棟梁はそう言うと背を向けました。
「おいで、行くよ」
 なぜかスリープの獏蔵が社の中空をじっと見つめているので、おじいさんはそう声をかけて連れ出しました。
 後でよくよく思い返してみると、おじいさんが妙にはっきりとした夢を見るようになったのは、その夜からだったそうです。


  [No.2964] 【8】替わらずの社(下) 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/02(Sun) 19:33:45   115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子】 【豊縁昔語

 一日目の夜に見た光景は、赤い炎の燃え盛る建物から人々が逃げ出している光景でした。泣き叫ぶ者もおりましたし、中に残した品を取りに行こうとして制止される者もおりました。火の粉が風に舞い上がり、熱風が頬に触れました。あまりにも熱かったものですから、自分の寝泊りしている宿舎が火事になったのかと思ったそうです。うなされて目を覚ますと、獏蔵が心配そうに覗き込んでいました。
 二日目も火の夢を見ました。おじいさんはノミで何かを一生懸命彫っています。それはネイティオの木像でした。ふと気がついて後ろを見ると今までつくったたくさんのネイティオ像が並んでいます。今まで一生懸命彫り上げてきたものでした。けれど一体に火がつき、二体に火がつき、それはどんどん燃えてなくなっていきました。
 三日目もまた火の夢でありました。今度のおじいさんは欄間(らんま)の職人でした。木をノミで彫って水流を表現しました。そこに遊ぶアズマオウやギャラドスを泳がせました。けれどもまた火がつきました。欄間は消し炭になってしまいました。
 四日目は赤色に悩まされる夢でした。おじいさんは青や緑を使うポケモンの絵を描いているのですが、色を足そうとして絵皿を見ると、赤い顔料しか乗っていないのです。橙、朱、緋色、どこを見ても赤系の色しかありません。
「色を、別の色を持ってきてくれ!」
 おじいさんは言うのですが、運ばれてくるのは赤い顔料ばかりなのです。赤。赤。赤。みんな赤です。
 仕舞いには描いている絵が下から赤い色に染まり出しました。
「違う! 違う! その色じゃない!」
 そう叫んで目が覚めました。
 そうやって、五日目も六日目も、燃えたり赤く染まったりする夢が続いたそうです。どういうわけか形のあるものを作ると燃え落ちて形が崩れてしまい、色とりどりの絵を描いても赤く染まってしまうのでした。
 その日の夢では何かが割れる音がしました。丁寧に絵付をされた色とりどりの皿が粉々に割られていました。
「さあ、こちらに来るのだ。仕事をやろう」
 誰かが言っておじいさんの手を引っ張りました。
 気がつくとおじいさんは夢の中で、炎のポケモンの像を彫ったり、赤い顔料で炎を描いたりしていました。皿を絵付けする時の色も赤です。赤。赤。赤。みんな赤い色をしていました。これは違うのだと自分の中の何かが言うのですが、それ以外を作ることは許されないのです。
「違う。違う。この色じゃない。この色じゃないんだ……」
 気がつくと、昼間の仕事で柱に朱の色を塗っている時もそんなことを呟いている始末でした。
「すまないが、一緒についていてくれないか」
 そう言っておじいさんは獏蔵を抱いて眠るようにりました。すると獏蔵が夢を食べるからでしょうか。悪夢の内容がぼやけて、うなされて目を覚ますことが少なくなるのでした。
 そうして、工事に加わって一月程が経ったでしょうか。もう大丈夫だろうと思って、獏蔵を抱いて寝なくなったのが失敗でした。おじいさんはまた夢を見ました。
 しかし、今度は少しばかり内容が違っていました。
 今度のおじさんは棟梁でありました。彼の役割は造営だけでなく、神宮に飾る襖の絵や絵皿、欄間その他もろもろの進行を管理する役柄であるようでした。そしてどうもその風景に見覚えがあることに気がついたのでした。
 おじいさんが歩いているのは、赤の神宮の境内でした。しかし今と様子が違うのは、いくつかの社殿が建っていないということ、特徴的なあの朱の色が塗られていないということでした。どうやらこの神宮は今まさに造営中らしいのでした。
 そして、おじいさんはひどく悩んでいました。それと言うのも自分が監督している時以外、職人達が仕事をしないからでした。彼らは意図的に仕事を拒否しているようでした。彼らはホウエンの様々な地域から集められてきた、様々な技能を持つ職人達でありました。
「欄間はどうじゃ」
「天井の絵の進み具合は」
「朱の色は」
 そう聞いて、見て回りますが、職人達ははぐらかすばかりなのです。
 時々赤い服を来た役人がやってきて、進み具合が遅いと苦言を呈しました。
「造営が進まねば、いずれお咎めを受けることになろうぞ」
 しかし、彼らの士気は上がりませんでした。
 そしてある晩のことです。
 おじいさんが眠りにつくと、夢の中で職人の一人が棟梁を尋ねて参りました。そうしてこう言ったのでした。
「棟梁よ。いくら脅しても無駄です。我々の意思は決まっています」
 それは造営に関わる職人達から一目置かれた年老いた宮大工でした。
「我々は赤に手を貸さぬ。ある者は故郷の神の像を焼かれ、ある者はその姿を赤く染められた。我々の腕はこんな馬鹿げたものを建て、飾り立てる為にある訳ではないのです。このまま奴らの言われるままの形を作って、言われたままの色を塗るくらいなら咎を受けます」
「今はいい。だが、こんなことを続けていればいずれ殺されるぞ」
 棟梁は言いました。けれど老職人はこう言いました。
「それで職人がいなくなれば、造営は大きく遅れる。やつらが面目は丸潰れでしょうな。いいですか棟梁よ。これは我々の精一杯の抵抗なのです。それで死ぬというなら、私達は命を捧げる覚悟です」
 老職人の決意は固いように見えました。そうして彼は突き刺さる矢のような問いを放ったのでした。
「貴方にこそ誇りはないのか。貴方だって奴らに無理やり連れてこられた一人だろう」
「私は」
 棟梁は言葉に詰まりました。彼自身もその昔、遠いところから連れてこられた職人の一人だったのでした。
「私は……それだけが道とは思わぬ」
 棟梁はやっとそれだけ言いました。けれど具体的な言葉を返すことが出来ませんでした。

 あれは、この神宮を建てる時の出来事だろうか。
 おじいさんは仕事をしながら、何度もその言葉を頭の中で反芻していました。
 別におじいさんはこの仕事が嫌ではありません。旧い社殿の修復依頼があればどこにでも行きました。そうして、仕事をすればみんな喜んでくれました。ぼろぼろだった社殿が蘇った、当時の姿を取り戻したとみんな喜んでくれたのです。それが技を継いだおじいさんの誇りでした。
 そんな折、おじいさんはホウエンの職人からこんな話を聞きました。
 その昔、ホウエンでは二つの有力豪族が争っていた。ひとつは日照の神を擁する赤い衣の一族で、もう一つは雨の神を信奉する青い衣の一族だった。彼らは領地の広さを争って、そして権勢を争った。その力の象徴がこの神宮や多くの宝物なのだ、と。
 彼らは支配した土地から腕のいい職人達を連れてきて、自分達の神の姿や力を表現させた。より多くの職人を囲っているというのは、それ自体多くの地を支配しているという証だった、と。
「今の我々は、赤の建てた社だろうと青の架けた橋だろうと、必要とする者あればそこに駆けつける。古より伝わる知恵と技の伝承こそが役割だからだ。誇りだからだ。だが、一方でこんな詩(うた)が伝わっている――」
 柱に朱の色を滑らせながらそう職人は詠いました。

 豊縁の その掛軸の絵の青の色
 それは人の涙の色
 精霊達の涙の色

 豊縁の その像を塗る赤の色
 それは人の滲んだ血の色
 獣の流した血潮の色

 今は耐えて 血を繋げ
 技を磨き 技を継げ
 耐えて 絶やすな 夜明けまで

 旧い、雅楽のような旋律に乗せて、そんな意味の詩を歌いました。
 そうして、これは職人への技の精進と継承を怠るなとの戒めであると説きました。各地を巡る自分達には本来、帰るべき故郷があって、その腕はそこでこそ発揮されなければならないのだと。渡り歩いて仕事をする我々だが、いつか忘れてしまった故郷に帰った時、腕が衰えていないように、途絶えていないように、今はこうして仕事をしているのだ、と。

「何を見てるんだ」
 スリープの獏蔵が仕事に集中しないので、おじいさんは声をかけます。すると獏蔵ははっと気がついたようにして作業に戻るのですが、しばらくしてまた落ち着きがなくなるのでした。よくよく観察しているとどうも獏蔵は、替わらずの社を気にしているようでした。
「あそこには何もないよ。お前だって見ただろ」
 おじいさんは言いました。けれども獏蔵はやはり終始気にしているのでした。
 そうしてここの二、三日に至っては、社のほうに歩いていっては観音開きの扉を開けて中をしきりに覗くのです。ですが、やはり何もありません。
「気が済んだか」
 おじいさんはため息をつくと。獏蔵の背中を押すようにして、外に連れ出そうとしました。
「ん?」
 その時、おじいさんは一瞬誰かに見られている気がしたそうです。
 けれど振り返ってもそこには空間があるだけで誰も立ってはいませんでした。

 また夢の中に妙な変化がありました。
 夢の中でおじいさん――あの棟梁が神宮近くの山や草原を彷徨っているのです。たしかに宮大工は造営の材料となる木を山や森に求めたり致しますが、どうもそういうことではなさそうでした。
 彼はその手に丸い木の実を握っていました。それは緑色のぼんぐりでした。上部に丸い穴を開けて、栓をしています。ぼんぐりはポケモンを入れることが出来る不思議な木の実です。探しているものは明らかにポケモンでした。
 日差しが強い日も、雨が降り続いている日も彼は探し続けました。何日もそんな夢が続きました。
「精霊を。精霊を見つけねばならぬ」
 棟梁はうわ言のようにそう呟きました。
 きっと、きっと自分の気持ちを分かってくれる精霊がいるはずだ。彼はそう自分に言い聞かせて草原や山を歩き回っていたのでした。

『……。……』
 誰かが自分を呼んだ気がして、おじいさんは振り返りました。けれど自分の後ろには誰もいません。あるものと言えば、その先にある替わらずの社だけです。見ると獏蔵も同じ方向を見ていて、おじいさんに目配せしました。
 おじいさんは何か少し怖くなりました。
 替わらずの社には何も無い。何も無いし、誰もいないはずなのに。
 けれどあそこには何かがある。何かがいるというのを、その時はっきり感じたのだそうです。

 山と草原を歩き続けた棟梁はついに精霊を見つけました。それは彼が木陰で一休みしていた時のことでした。がさがさと茂みが鳴ったかと思うと、そこから精霊が現れたのでした。
「お前は、私の心を知って現れたのか」
 棟梁は小さな精霊に問いました。
「旅の操り人から聞いた。お前は、人の想いを受け止めて強くなると。だから私はお前を捜し求めていたのだ。もし私がお前を私のものにしたのなら、きっと私の……否、私達の想いでもって、お前は強い力を持った精霊になるだろう。だがそれは長い間お前を苦しめることになるやもしれぬ」
 再び棟梁は問いました。
「それでもいいのか」
 小さな精霊はこくりと頷きました。

『……して。ここ……ら……して』
 おじいさんは声を聞きました。前よりもはっきり聞こえました。もはや気のせいではありません。それはやはり替わらずの社の方角から聞こえてくるように思えました。
 おじいさんはいよいよ恐ろしくなりました。そうして替わらずの社には近寄らなくなりました。本当は実家に帰ろうと思ったそうですが、さすがに仕事を投げ出すわけにはいきませんでした。昼間はなるべく社から離れて仕事をし、夜は漠蔵にしがみついて眠るようになっていました。
 けれど毎夜見る夢は、ぼやけるどころかますますその輪郭をはっきりさせていきました。

「さあ、お前達の望む者を連れてきた」
 棟梁は月の無い夜、密かに職人達を集めて言いました。皆の前に姿を現した精霊は、棟梁に出会った時より一回り大きくなっていました。
「皆聞け。東の離れた場所に宝物殿を建てようと提案した。私はそこに我らのすべてを納めようと考えている」
 棟梁が続けました。
 すると次の日から職人達は、まるで人が変わったようにきびきびと働きはじめました。
 赤の神宮の造営は瞬く間に進んでいきました。その中を飾る絵や欄間も次々に形を成しました。
 夕刻に仕事を終えると棟梁は言いました。
「伝えるべき我らの形と我らの色、夜の暗き色、あらゆる色を内包する黒の色に紛れて、密かにそれを作るのだ」
「木を隠すには森の中。案ずるな。精霊の力を持ってすれば見つかることはない。昼間の仕事も怠るな。今後は我らの作るすべての赤のもの、我らの建てるすべての赤ものが、我らが技に磨きをかけ、我らの宝を隠す木となり森となろうぞ」
「生きようぞ。血を繋ぎ、技を伝えようぞ」
「いつの日か時は変わる。永い永い夜は明ける」
「その時まで――」
 赤い二本角の精霊がすっと白い手を上げました。その手が中空を切ると、空間が裂けました。その先に見たこともない風景が見えました。

 カーン、カーンとノミの音が響きました。
 木材を削るノミの音です。
 その道具を操って、職人達は様々な形を成すのです。
 その音がだんだんと曖昧になって、自分の心音になっていることにおじいさんは気が付きました。

 はっとおじいさんは目を覚ましました。
 まだ空気の寒い夜明け前でした。けれど、おじいさんは誰かに呼ばれた気がしたのでした。
 おじいさんが布団から這い出すと、一緒に獏蔵が目を覚ましました。
 襖をあけて、廊下に出ると声が聞こえました。
『……して。……して』
 不思議ともう怖ろしさは感じませんでした。
 おじいさんは宿舎の外に出ると、玉砂利を踏みながら走っていきました。走りにくかったけれど、おじいさんと獏蔵は走りました。耳に響く声がだんだん大きくなっていきました。
『出して』
 もうはっきりと聞こえます。何を言っているのかがはっきりとわかりました。
『出して』
『出して。ここから出して』
 複数の声がそう言っていました。
 夜明け前。一人と一匹は荒く肩で息をしながら替わらずの社の前に立ちました。
 そして、替わらずの社の扉を開け放つと、おじいさんは叫びました。
「夜明けだ!」
 と、おじいさんは叫びました。
「聞け! もう夜は終わったんだ! もうどんな形を彫ってもいいんだ。誰もそれを燃やしたりしない! どんな色を使ってもいいんだ。誰もそれを赤に染めない! 好きな形を作っていい、好きな色を塗っていいんだ!」
 太陽が顔を出しました。東の空と地の間から光が生まれ、空は瞼を開くように目覚めました。
 その時、おじいさんは目撃しました。社殿の部屋の中心の空間。そこに異次元の入り口のような小さなヒビが入っているのを。ぴしり、ぴしりとヒビが広がっていきます。
「獏蔵!」
 おじいさんがそう言うと、スリープの獏蔵が両腕に念の刃を構えました。
「きりひらけ!」
 獏蔵が光る念(サイコ)刃(カツター)をしならせ飛ばしました。いつもは材木を切るときに使っている技です。
 パーンと何かが硝子の割れるような音を立てて弾けました。社殿の空間のあちこちにヒビが入って、これまで何も無いと思っていた風景が崩れ落ちてゆきました。そうしておじいさんは目を見開きました。崩れ落ちた風景の先に、今まで見えていなかった様々なものが姿を現したからでした。
 最初に目に入ったのは、自分の身長ほどもある大きな彫像でした。ネイティオのように見えました。それだけではありません、様々な色をした様々な彫像がそこには並んでいました。魚の形をしたもの、竜の形をしたもの、獣の形をしたもの。海の者、山の者。奥にはたくさんの巻物が積んであります。その更に奥には色とりどりの色で描かれた屏風がいくつも立っておりました。
 今まで見ていた何も無い風景が完全に崩れ落ちたその時、おじいさんは彫像の並ぶ部屋の真ん中に一匹のポケモンがぽつんと立っているのに気がつきました。
 小さな、踊り子のような白い身体、頭には両端に伸びる緑の傘のようなものを被り、二本の赤い角が生えていました。
 そのポケモンと目が合いました。踊り子に似たエスパーポケモンはにこりと笑うとすうっと消えていきました。
 おじいさんは屋殿の中を進んでいきました。職人達の故郷の神を象ったものでしょうか、床にも数え切れないほどの小さな彫像が並べてありました。
 そうして、その中に何か丸いものが転がっているのを見つけました。すっかり黒くなったぼんぐりでした。周りにある彫像達はみんな仕上がり後のように真新しい感じがするのに、それだけがひどく旧いのでした。手にとるとぼろぼろと形が崩れて、無くなってしまいました。
 若き日のおじいさんは涙を零しました。その場に崩れ落ち、涙を止めることが出来ませんでした。身体中が熱くなって、血が沸騰するのが判りました。

 豊縁の その掛軸の絵の青の色
 それは人の涙の色
 精霊達の涙の色

 豊縁の その像を塗る赤の色
 それは人の滲んだ血の色
 獣の流した血潮の色

 今は耐えて 血を繋げ
 技を磨き 技を継げ
 耐えて 絶やすな 夜明けまで

 いつか職人が歌った詩のその意味を、おじいさんはその時、真に理解したのだそうです。

「ホウエンの神宮から大量の彫像発見」
「例を見ない発見、ホウエン古代史研究に新たな光」
「――ほとんどが重文級か」
 当時の新聞の見出にはそんな文字が躍りました。

「呼ばれたのだ。たぶんずっと呼んでいた。彼らは時を知りたがっていた。外に出る時を。私がたまたま声を聞いたのだ」
 おじいさんは語ります。
「夢の報せがあったのは、お前が相棒だったからかもしれんな」
 ゆったりした椅子に腰掛けたおじいさんはそう言って、今ではすっかり背の高くなった催眠ポケモンに同意を求めました。
「あの出来事だけは色褪せぬ。つい昨日のことの様だよ」

 今はもう、替わらずの社はありません。
 あれから月日が流れ、遷宮(せんぐう)の年がやってきて、その時に建て替えられたのです。
 今はその場所におじいさんの建てた新しい社殿が構えています。

【8】替わらずの社(下) (画像サイズ: 600×454 43kB)


  [No.2965] 出典・参考資料 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/02(Sun) 19:37:39   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:携帯獣九十九草子
出典・参考資料 (画像サイズ: 800×572 223kB)

 本作はポケットモンスターの各設定はもとより、様々な日本の伝統文化から題材をとって創作いたしました。末筆ではございますが、ここに紹介いたします。


 隈取

題材―歌舞伎
演目―夕霧名残の正月、郭文章
出来事―江島生島事件
人物―生島新五郎、二代目市川團十郎
ポケモン―ゾロア、ゾロアーク
舞台―カントー地方のどこか


 詠い人

題材―和歌、短歌
人物―小野小町
ポケモン―ナマズン
舞台―カントー地方、タマムシ大学
補足―短歌は創作


 羽衣

題材―能、羽衣伝説
演目―羽衣
ポケモン―クレセリア、ハクリュー
舞台―カントー地方、タマムシシティ周辺


 恨人形心中語

題材―人形浄瑠璃
演目―曾根崎心中
出来事―竹本座と宇治座の競演、幕府による曾根崎心中の上演禁止
人物―近松門左衛門、竹本義太夫
ポケモン―ジュペッタ
舞台―ジョウト地方、コガネシティ
補足―宇治座との競演、曾根崎心中の成立時期は実際には異なる。


 昇竜ノ祭

題材―祭、悪石島のボゼ神
ポケモン―ギャラドス、コイキング
舞台―ジョウト地方、チョウジタウン


 招き猫

題材―招き猫
縁の場所―今戸神社、豪徳寺
ポケモン―ニャース
舞台―カントー地方、タマムシシティ?
補足―招き猫の成立には諸説があり、本作は今戸神社説より創作した。


 達磨

題材―だるま
人物―織田信長、ルイス・フロイス
ポケモン―ヒヒダルマ
舞台―ジョウト地方のどこか
補足―だるまの実際のモデルは仏教禅宗の達磨大師という僧侶であるとされる。


 替わらずの社

題材―宮大工、匠、伊勢神宮の遷宮
ポケモン―キルリア、スリープ
舞台―ホウエン地方のどこか
補足―キルリア…… あたまの ツノで ぞうふくされた サイコパワーが つかわれるとき まわりの くうかんが ねじまがり げんじつには ない けしきが みえると いう。(ポケモン図鑑より)


参考・引用

 日本の伝統芸能(篏佝納辧ヒ
 能ガイド90番(成美堂出版)
重修 装束図解 服制通史(関根正直)
 和楽器の世界(西川浩平、河出書房新社)
 ウィキペディア、各種ウェブページ 他


 この作品はNo.017の個人的な趣味で作成されたものです。ポケモンの諸権利を有する企業様とは関わりがありません。