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  [No.3015] 倹約上手 投稿者:フミん   投稿日:2013/08/05(Mon) 22:10:27   116clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「私は節約上手ね」
 
一人の女が自画自賛した。
彼女は幼い子供と、複数のポケモン、それに真面目で誠実な夫と暮らしている。それなりの家に住んでいる普通の主婦である。
女は、日々の生活で節約を心がけていた。食費をなるべく浮かす為に安い食材を購入する。化粧品はなるべく試供品で済ます。必要な雑貨はもちろん安物で、多少使いにくくても壊れるまで使い続ける。風呂場の水で洗濯をするし、どうしても必要で頻繁に買わないといけないもの、例えば子供の洋服のような物は、なるべく知人や親戚から貰うことが多かった。
とにかく、彼女はお金を使わなかった。特に夫が無駄遣いをしようものなら厳しく叱責した。と言って、女も贅沢をしている訳ではなかったので、夫も女に自分の意見を強く言えずにいた。
 
将来の為。それが女の言い分だった。夫が定年を迎えた時、ゆっくりと生活をしたい。その為に、今は苦労を惜しまない。自分が歳を取った時、安心して毎日を送れるようにする。彼女は、日々努力を重ねている。



「さあ、ご飯よ」
 
ある日の昼時、自分の子供がようやく寝てくれた頃、女は、自分のポケモン達にもご飯を与えていた。
 
ライチュウ。ロトム。エレキブル。
 
共通していることは、全てが電気タイプということだった。
管理された餌できちんと育てられたポケモン達は、割り当てられた昼食をきちんと完食する。
その後、リビングの隅に置いてある大きな機械へと近づいていく。

それは、蓄電器だった。大量の電気を貯めておける優れた機械で、蓄えておいた電気を家庭で使う照明や娯楽、空調や電化製品などに利用することができる。
三匹のポケモン達は、自らの体にケーブルを繋げると、体内で作り出した電気を機械へと送り出していく。沢山食事を喉に通した彼らは、苦しむことなく電気エネルギーを放出し続けた。
数分経つと、機械の蓄電量は九割を超えた。そこで、女はポケモン達に電気を送ることを止めさせた。汗が滲む家族に、タオルと水分を手渡していく。

「お疲れ様。今日もありがとうね」
 
女は、実に満足していた。
彼らのお陰で毎月の電気代はほぼ0円に近い。つまり、毎月数千円の出費を抑えていることになる。それを積み重ねれば大きな金額になる。機械の値段は少々高かったが、この調子なら直ぐに元が取れるだろう。そう、女は確信していた。

「今月も、出費を抑えることができたわね」
 
しかし、先程まで嬉しそうだった女は、細かく手書きで書かれた家計簿を確認してため息をついた。

「でも食費が増えているのよね…」
 
そして直ぐに笑顔になる。

「まあ、仕方ないわね。大切な家族の為ですもの」
 

独り言を呟く女は、ポケモン達を見つめながら一人頷いた。
彼女は、満ち足りた生活をしていると疑わなかった。




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フミん