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  [No.3018] 鳥の威を借る 投稿者:MAX   投稿日:2013/08/06(Tue) 00:52:40   115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 しゃらりきゃらりと風鈴が鳴る。
 山麓の町に風が吹き、あちこちで風鈴が鳴っていた。

 複数の金属片を束ねて作られた風鈴。町の特産品であるそれは、山に入る時の虫除けに必要なのだと町の人は言う。
 そしてその風鈴は、エアームドの羽根を集めて作られていた。

 町に近い山々には、人里近くでありながら毒を持つ虫ポケモンが多数生息している。そのため一般人はおろかポケモントレーナーであっても無闇に立ち入っては危険と言われ、町の人々は古くから毒虫への対策を考えていた。
 そして、毒虫たちには天敵がいた。それがエアームドであり、羽音を聞くと虫はたちまち逃げるという。
 町で作られる虫除けの風鈴は、つまりそのエアームドの羽音に似た音を鳴らすものだった。事実、風鈴を持って山に入りながら毒虫に襲われたという人はいない。
 そんな山の事情が世に知れるや、エアームドを求めるポケモントレーナーが何人も山へ入っていった。彼らは風鈴を携えて山を歩き、そして毒虫に襲われることなく町に帰ってきた。
 しかし彼らは口をそろえて言う。
「エアームドなんて、あの山には生息していない」
 それは事実だった。
 町にも山にも、エアームドは生息していない。それどころか町で作られる風鈴にも、本物のエアームドの羽根を使った物はひとつとしてなかった。皆、集めた金物を加工して作った羽根の紛い物だった。

 ただひとつ、山の廃村から移設された神社にのみ、本物のエアームドの風鈴が残されていた。



 昔、毒虫が現代ほど多くはなかった頃のこと。
 山には、落人の一族が残党狩りを逃れて作ったという、小さな里があった。
 その里の一角には祠がひとつ。この祠は、里を作るにあたって農具に作り替えられた刀や鎧が納められ供養されているのだが、不思議な逸話があった。
 かつて残党狩りが里を襲った時、この祠から刀のような羽根を持つ鋼の鳥が現れ、里を守ったというのだ。
 現代ならば不自然な話と切り捨てられるところだが、当時の里に住む人々はそれを不思議な話と言いつつも笑う者はいなかった。
 なにせ、逸話にあるような鋼の鳥が実際に山に生息しているのだから。

 山の毒虫は命を悉く脅かす猛毒を持つ。虫を食べる鳥は多いが、山の毒虫を狙う鳥はいなかった。ただ鋼の鳥という例外を除いては。
 鋼の身体を持つ鳥は虫の毒をものともせずに捕って食うことができた。山で唯一にして絶対優位の捕食者を毒虫たちは天敵とみなし、その羽音が聞こえるや食われまいと逃げ惑った。
 里の人はそれを知ると、鋼の鳥の羽音を頼ろうと考えた。抜け落ちた羽根を山から拾い、集めて毒虫除けの風鈴を作ったのだ。鋼の鳥の風鈴はしゃらりきゃらりと鳴り、人々の期待通りに毒虫を寄せ付けなかった。
 それからは里の人々を守るために重用され、同じように羽根を集めて風鈴は作られた。しかし素材の羽根は刃物のように鋭く、集め加工するのは大人の仕事だった。

 ある時、山に出かけた地主の跡取り息子が煌めく白刃の如き羽根を見つけた。
 危ないとは知っていたが、欠けや折れの無い状態と顔が映るほどの光沢は跡取りの心を強く惹きつけ、年若い跡取りは強がって素手で羽根を摘んで持ち帰った。
「どうだ、おっかさん。こんなきれいな羽根が落ちてたぞ」
 と母親に見せびらかす跡取り。しかし羽根を掲げた拍子に指が滑って取り落としてしまった。
 つるり、すらりと掌は切り裂かれ、手を広げて見ればぱっくりと開いた傷口から骨まで見えていた。
 やがてじわりと流れ出す血潮に親子は大慌て。泣いてわめいた末に医者にかかって傷は塞がれたものの、跡取りは「強がるとああなる」という悪い見本となり、跡取りを猫かわいがりしていた母親は「なんて危ない化け物鳥だ」と怒り狂って鳥を激しく憎んだ。
 母親はそれから鋼の鳥を討たんと用意を進め、止めるよう説得する者にも「しかし息子が恥をかかされたんだ」と耳を貸さなかった。
 そして用意は整った。雷を呼ぶ獣、油の染みた布、鋭い槍。やがて訪れた雨の日に、それは行われた。
 獣を引き連れ母親は山林に出かけると、鋼の鳥を見つけるや獣の力で雷をあびせて打ち落としてしまった。続けて松明のように燃える槍を鳥の腹に、止めとばかりに突き立てた。
 腹を中から焼かれて苦しみ悶える鳥に、母親は背を向けて走り去る。
「いい気味だ。そのまま死んで獣の餌になってしまえ。もっとも、あんなおっかない鳥、食べる獣なんていやしないがね」

 しかし、その次の日から山に出る毒虫の数が急に増えていった。
 風鈴があれば襲われはしないものの、風に乗って飛んでくる毒の粉は風鈴を鳴らしながら人々を苦しめた。里の人たちは一人また一人と倒れ、口々に「腹が焼けるように痛い」と呻く。
 ここに至って母親は「まさかあの鳥の呪いか」と思った。そして鋼の鳥の死体を確かめに再び山林に入ると、見ればその死体から毒虫たちが次々と這い出していた。
 鳥の呪いが毒虫になった。そう信じた母親は恐ろしくなり、油を持ってくると鋼の鳥にかけて虫ごと焼き払った。
「鳥の呪いも、毒虫ごと焼けて無くなっちまえばいい」
 一安心だ、と里へ戻ろうとする母親。
 すると炎の中から、死んだと思っていた鋼の鳥が悲鳴を上げながら飛び出してきた。
 燃えながら鳥は里のある方角へと飛び去った。それを見た母親は「大変だ、鳥が里へ復讐に来る」と慌てて里へ引き返す。
 しかし母親が戻ったところ、里には鳥に荒らされた跡などまるで見られなかった。
 ただ里の一角にある古い祠が燃え崩れ、辺りに焦げた刃物たちが散らばるのみだった。

 以来、鋼の鳥が人目に付くことは無くなり、羽根が落ちていることも無くなった。そして毒虫ばかりが天敵が消えたことを幸いと数を増やし続ける。 
 毒に苦しんだ人々の多くは助からず、生き残った者たちも毒虫に耐えかねて里を捨て、山の麓に新たな集落を作るに至った。
 そして逸話の残る祠を集落に移し、鳥の祟りを恐れて祠を神社へと作り替えた。



 現代に至り、毒の粉こそ風に乗ってはこなくなったものの、毒虫たちは変わらず山に跋扈する。
 人の手にエアームドの羽根はもはや無い。しかし毒虫たちは変わらず天敵を恐れ、人々は紛い物の羽根を作り虫除けの風鈴とする。

 山麓の町に風が吹き、あちこちで風鈴が鳴る。
 鋼の鳥の威を借りながら、しゃらりきゃらりと風鈴が鳴っていた。


  [No.3019] 落人たちの刀 投稿者:MAX   投稿日:2013/08/06(Tue) 00:55:08   140clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 昔々、世には戦乱の嵐が吹き荒れていた。
 戦に臨む武士たちは各々が目的を持つ。信頼か恩赦か、何を求めてかは人それぞれだが、命を懸けていることは共通していた。
 そして戦には勝者と敗者があるもの。命を懸けている以上、目的を成し得なければ明日も知れない身となる。名誉の戦死となればそれまでだが、敗残兵や残された家族たちは落武者狩り、残党狩りにその身を狙われることとなり、人目につかない僻地へと逃げ延びていった。

 ある山奥に、敗軍の武士たちとその家族の姿があった。
 残党狩りに怯えてひたすら山奥へと足を進める落人たち。彼らはここの山間に至り、ついに里を作ろうとしていた。
「家には戻れず、身内を除けば敵ばかり。安寧を求めて山へ入り、いったい幾日歩いたことか」
「よもや追っ手もこれほどの山奥に人が住もうとは思うまい。幸いに川も近く、平坦な土地もある。いっそ、ここらを拓いてしまおうじゃないか」
 里を作るとなれば、自ら土地を拓き田畑を耕さねばならない。しかしそれには農具が足りず、鉈や鍬に代わる道具を落人たちは求めた。そのためならば身に纏っていた鎧兜はもちろんのこと、最後の誇りと帯びていた刀もまた「誇りで腹は膨れませぬ」と鎌や包丁に作り変えていった。
「武士をやめれば、刀も人斬りの包丁に成り下がりましょう」
「人を斬らぬだけまだ良いのかも知れんなぁ」
 そうして農耕に使われる刀たち。やがて削れ壊れて、捨てられることは当然である。しかし元は武士の誇りであり、命をつなぐためにと作り変えたそれをただの壊れた農具として捨てるのはあまりに忍びなかった。
「ここで、供養してあげないか」
 落人たちは小さな祠をひとつ建てた。そして直す事さえ叶わなかった金物たちを、これまでの感謝と、いつか打ち直すという供養のために収めていった。

 それから月日は流れて、落人たちに山里の百姓生活が板に付いてきた頃のこと。
 里の娘が河原へ洗い物に行った際、朱塗りの椀をひとつ川に流してしまった。拾おうと手を伸ばすも深山の川は速く深い。ついぞ叶わず娘は不手際を謝るも、里の者たちは叱りはしなかった。
「お前が溺れなくて良かったよ」
「そう、お椀のひとつぐらい、なんということもないだろう」
 そのように軽く見ていた。
 しかしなんたる偶然か、お椀は下流にある平野の人里近くまで流れていった。やがて浅瀬に流れ着いたお椀は人の目に留まり、「何故お椀が流れてきたか」と疑問を呼んだ。
「朱塗りのお椀なんて百姓が使うもんじゃあるめぇ。こりゃ武士様が流したもんじゃねぇか?」
「なんだって武士様が上流で、お椀なんか川に流すんだい。山奥に住んでるんならいざしらず」
「いや、あるんじゃねぇか。武士様が山奥に住まうようなわけっていやぁ――――」
 かくしてお椀を証拠に隠れ里は人に知られ、残党狩りが川上へ向かい里の存在を確かめる運びとなった。
 余所者が里の近くの川沿いを歩いている。その知らせに落人たちは危険を悟る。
「こんなところまで来る余所者なんて、里を探す斥候に違いない。今に討伐隊を呼び込むぞ」
「なんてことだ。もはや叛意なぞ無く、戦もまっぴらなのに」
「せめてあの祠を見せられれば、俺たちはもはや武士ではないとわかってくれるだろうに」
 せめてせめてと悔しく思えど、しかし里を捨てて逃げようと言う者は一人としていなかった。追っ手を逃れて山を歩き続ける恐怖と新たな土地に馴染むまでの苦労は皆二度と御免であり、なにより祠に納めた鎧や刀たちを見捨てる決断を誰もできなかったのだ。

 しかし残党狩りは確実に里へ迫る。山中に鎧姿の者たちが見られるようになり、落人たちもいよいよ追いつめられた。
「何かの間違いであってくれと願っていたが、もはやこれまでか」
「苦労を重ねた末であったが、しばし追っ手を忘れていられたよ」
「短い、夢でしたな」
 落人たちは覚悟を決め、そして祠の前に集まった。そこに眠るのはかつて戦を共にしながら今や変わり果てた戦友たち。祠の中に集めただけで何もしてやれず、落人たちの声に悔しさがにじむ。
「誇りとして連れ歩きながら、手前勝手な都合でその身を作り替え、そして今、不義理を犯そうとしています」
「いつか打ち直すと約束しながらそれも叶わず。置いて逝くことをお許しください」
 言って、せめてもの供養にと柏手を打つ。
 すると祠の中から鳥の声が響き渡り、屋根を突き破って鋼の羽根を持った巨鳥が飛び出してきた。
 驚きざわめく落人たちを後目に、巨鳥は山林へと飛び立つ。しゃらりと鳴る羽音は、まるで無数の刀を一度に抜き放ったかのようだった。
 ほどなくして山中から刀を打ち合う音と、悲鳴と怒号が響きわたる。
「誰かが戦っている」
「まさかあの鳥か」
 剣戟の音を辿って落人たちが山林へ入ってみれば、今まさに鋼の鳥が鎧武者の一団を相手に大立ち回りを演じているところだった。
 鋼の鋭さを持つ翼や爪、嘴が鳥の速さで飛び回り、武士たちが身にまとう鎧ごと切り捨てられていく。やがて残党狩りは一人残らず血の池に伏し、全身を赤に染めた巨鳥は山の何処へか飛び去っていった。
 後に残されたのは呆然とする落人たちばかり。赤く染まった景色を凄惨と思いつつ、その中にきらりと光る物を見つけた。抜け落ちた巨鳥の羽根。血に濡れたそれを拾い、落人はつぶやいた。
「なんて羽根だ……まるで、刀のようだ」
 その一言をきっかけに落人たちは「祠の刀が鳥に変じた」「刀が俺たちを守ってくれた」と口々に言い始める。里は守られた。その事実に落人たちは喜び、そして刀が鳥となって里を守ったと信じた。

 巨鳥が守るが故か、以降に里を脅かす者は現れず。平和な里で人々はまた百姓生活に戻った。
 里の一角には、ひと回り大きくなった祠が建てられていた。


  [No.3021] あ、あれだわ 投稿者:No.017   投稿日:2013/08/07(Wed) 06:43:41   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

なんか九十九神っていうか瀬戸大将みたいだなと思った。
それよりはだいぶ物騒ではあるけど(笑
瀬戸大将って知ってる? 瀬戸物が集まって妖怪になったやつなんだけど。
それの刀版みたいだなって。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB ..... daisho.jpg
瀬戸大将(せとたいしょう)は、鳥山石燕による妖怪画集『百器徒然袋』にある日本の妖怪で、瀬戸物の付喪神(器物が変化した妖怪)の一種[1]。
瀬戸物の寄せ集めのような妖怪が、瀬戸物の甲冑を身に着けたような姿で描かれている。実際に何らかの伝承を伴う妖怪ではなく、『三国志』の登場人物である曹操と関羽の逸話をもとに、関羽をイメージした創作物として描かれたものといわれており[2]、瀬戸物と唐津物の2種の陶磁器の激しい勢力争いを描いたものとの説もある[1]。


  [No.3025] あ、あまり深く考えていませんでした 投稿者:MAX   投稿日:2013/08/09(Fri) 10:12:18   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

瀬戸大将ですか、妖怪についてwikipediaで調べた際に付喪神の一覧で名前を見た、程度ですね。頭が土瓶のようになっている印象があったんですが違った様子……。
言われてみれば確かに付喪神ですが、思い起こせばこれを書いているときに「付喪神」という単語は頭にまったく浮かばなかった……。
ただ「エアームドの羽根が刃物に使われていた」という記述を逆転させて「使われていた刃物がエアームドの羽根になった」とばかり考えていました。それに平家の落人伝説をあわせて相成ったわけです。
物騒と言えば割れ物の破片も皮膚を切る程度には鋭いですけどね!

コメントありがとうございました。