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  [No.3043] タマザラシと私。 投稿者:αkuro   投稿日:2013/08/22(Thu) 18:41:04   173clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 8月も終わりに近づき、そろそろ学生が慌て出す時期だと言うのに何だこの暑さは。午後からうちの球体どもと一緒にコンテストでも見に行こうと思っていたが、冷房が効いている、強者どもが集まるマスターランク、更に今日は現チャンピオンのミクリ氏が出場するらしい。となれば当然凄まじい混み具合になるだろう。行きたくない。
「きゅー……」
 縁側で暑さに耐えながら寝っ転がっている私の上で、すぴすぴと寝ていた球体3号が目を覚ました。
「玉三郎、起きた?」
「もきゅう……」
 おい、また寝ようとするな。こっちはそろそろ限界なんだ。私は玉三郎の頬っぺたに人差し指を刺した。第二間接まで埋まった。大丈夫かこいつ。
「きゅ……」
 そんなうらめしそうな顔で見るな。というかこの暑さの中で寝たら死ぬんじゃないのかお前。
「もきゅきゅきゅー!」
「きゅーうー!」
 玉三郎のもふもふから指を抜いた私に、球体1号と球体2号がなにやらわめきながら畳を転がってきて引っ付いた。恐らく暑いとか何とか言っているのだろうが、私に言うんじゃない。
「あーもー分かった。涼しくしてやるからどけ」
 冷房が壊れてなきゃ無駄な苦労をしなくても良いのだが……はあ。

 十数分後。庭に出した子供用ビニールプールに球体どもを放り込むと、きゅっきゅと愛らしく涼み始めた。庭の水道からはぬるま湯が出たので、冷蔵庫の氷を全部使った。こいつらに凍える風でも指示すれば良かったのだろうが、バテている愛らしいもふもふのタマザラシたんにそんなことをさせるやつはホエルオーに潰されてしまえ。
「もきゅきゅきゅ!」
「きゅーうー!」
「もきゅ……」
 玉一郎と玉二郎がころころじゃれあっている中、玉三郎はぷかぷか浮いて恍惚の表情を浮かべていた。
 さて、もうそろそろ妹が夏期講習から帰ってくる頃だな。おやつにかき氷でも作ってやるか。

 数分後、氷が無いことに気付いた私は大慌てで買い物に行くのだった。


  [No.3056] おまけ。 投稿者:αkuro   投稿日:2013/09/01(Sun) 00:29:43   106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 買い物から帰ってきて庭の球体達の様子を見ると、ブロック塀の向こうから青い髪の男の子が球体を見ていた。
「こんにちはー」
 庭に降りて声をかけると男の子はビクリと肩を震わせこちらに目を向けた。
「あ……こんにちは。勝手にすいません」
「いえいえ。取っていかないなら見学自由ですよ」
「え?」
「あはは、冗談冗談。可愛いでしょ。うちのタマザラシ」
「はい……凄く可愛いです」
 視線の先ではきゅっきゅと泳ぐタマザラシたん。そろそろ水も温くなるだろうし、引き上げようかな。
「あー、こんなとこにいた!」
 違う声が聞こえたのでそちらを見ると、おだんごとツインテールを組み合わせたような髪型の女の子がいた。年は私よりすこし下だろうか。
「ほら行くよー、他の奴らも探さないと」
「……ああ。じゃ、俺はこれで」
 男の子は軽く頭を下げると、女の子の後を追いかけていった。後ろから見ると、着ているパーカーのフードには兎耳がついていた。可愛いけどタマザラシたんには叶わないな。私は鼻で笑った後、首をかしげた。
「……ここら辺じゃ見ない子達だなー」
 旅行者だろうか? この時期は多いんだよなー。友人の家がやってる民宿もエネコの手も借りたいって言ってたし。実際借りてるらしい。
「ほーら、そろそろ出て。ふやけちゃうよー」
「きゅー!」
「だーめ。温くなってきたでしょ」
「うきゅう……」
 最後までぐずる玉二郎を最初に抱き上げふと振り替えると、あの女の子が見えた。けど。
「あれ?」
 男の子がいなくなっていて、代わりにマリルリが早足で隣を歩いている。
「……?」
「きゅっきゅきゅー!」
「ああ、ゴメンゴメン」
 暴れだした玉二郎を縁側に乗せる。玉一郎は水の中でぼんやりしている玉三郎に体を押し付けて起こそうとしていた。可愛いなこのやろう。
「ま、いっか!」
 難しいことは嫌いだ。タマザラシたんがいればそれでいい。
「ただいまー! おねーちゃーん!?」
「おーお帰りー! 庭だよー!」
 夏の終わり。私のちょっとだけ不思議な昼下がり。


  [No.3321] 約1年後のセルフ描いてみた(ω・ミэ )Э 投稿者:αkuro   投稿日:2014/07/09(Wed) 00:23:06   106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:描いてみた】 【もふもふ】 【(ω・ミэ )Э
約1年後のセルフ描いてみた(ω・ミэ )Э (画像サイズ: 1024×768 156kB)

この投稿から約1年経ちました。暑いです。αkuroです。
ポケモンアートアカデミーでイラストを描くことを始めたので、セルフ描いてみたしてみました。
左上がどんかんな玉一郎、右上がおネエな玉二郎、真ん中があついしぼうもふもふな玉三郎です。もきゅー(ω・ミэ )Э


  [No.3965] 夏の終わりに 投稿者:αkuro   投稿日:2016/10/12(Wed) 04:32:39   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「夏の終わりに、かぁ」
「あん?」
 テッカニンの煩い求婚がぐわんぐわんと鳴り響く。
 縁側から外を眺めタマザラシ型の丸い小さなアイスを頬張りながら呟いた言葉に、俺の後ろでマッギョの形をした魚のすり身の駄菓子をかじりながら数式を解いていた奴が反応した。
 8月の末、残りの宿題を一緒に片付けようぜと転がり込んできたこいつは俺のダチ。家が隣の腐れ縁だ。俺の親父もじいちゃんもひいじいちゃんも、こいつのそれとダチだ。つまりは先祖代々ってやつ?
「なんだよいきなり。暇なら手伝えよ」
「やなこった」
 ピンク色のタマザラシを口に入れて噛み砕く。これは一袋に3つしか入ってないモモン味だ。俺は普通のサイコソーダ味の方が好きだが。
「思い出したんだよ、タイトルを必ず『夏の終わりに』にする小説のコンテスト」
「なんだよそれ、出したのか?」
 奴は聞きながらずりずりと畳を這いずって俺の隣まで来た。
「俺じゃねえよ、クラスの女子。あのみつあみの」
「ああ……あいつ、顔は可愛いけどよく分かんない奴だよな」
 なに食わぬ顔でモモン味のタマザラシをつかみ、ひょいと口に放り込んだ奴のもごもごと動く頬と喉仏から目が離せない。
「お前ああいうのが好みなのか?」
「ひえーお」
 ああ、こいつアイスはしゃぶる派だったな。頭が痛くなるからとかなんとかかわいこぶりやがって。こういうのは噛み砕くのが醍醐味だろーが。
 つかなんだよその格好は。タンクトップとか無防備にも程があるだろ。ご丁寧に汗まで流しちゃってよ。
「あー、美味かった。俺モモン味大好き」
 そうかそうかそんなに良かったか。おいやめろその笑顔暑さを忘れるだろうが。
「……もういっこやるよ」
「マジで!? さんきゅー」
 にぱっとか音がしそうに笑うんじゃねえ。
 若干溶けかけた最後のピンクのタマザラシを口に含んで、奴を押し倒して口付けた。
 親父、じいちゃん、ひいじいちゃん、すまねえ。この血筋は俺で途絶えそうだ。
 テッカニンさんよ、俺も便乗させてもらうぜ。

 夏の終わりに、ダチと一線を越えた。
 
 
 
 その日の夜。俺は畳に突っ伏しながら頭を抱えていた。
「やっちまった……」
 というかヤっちまった。以前からヤバいヤバいとは思っていたが理性で封じ込めていたというのに。クーラーが壊れていて暑さをまともに食らっていたのが不味かったのか? 恨むぜまったくよ。
「陸太、あんた何やってんの。夕飯の準備するんだからそこどきな」
 不躾な物言いが降ってきた頭上を見上げると、腰に手を当てた姉貴が見下ろしていた。
「やなこった。俺ぁ今人生最大の危機に直面してんだ」
「訳わかんないこと言ってないで暇なら手伝ってよ」
「やーだね……うおっ」
 ぷいとそっぽを向くと机の下にタマザラシが3匹いた。きゅっきゅっきゅーと騒がしい。
「なんだお前ら、くし団子みたいな並び方しやがって」
「ああ丁度良い、 玉一郎たちの面倒見ててよ」
「しゃーねえなあ……」
 俺は起き上がると、ころころとじゃれついてくる球体どもを受け入れた。まだ外は明るいとはいえもう夜の6時だ。全く感じなかったが確かに空腹かも知れない。
 球体どものもふもふアタックをかわしながらも奴――海人のことは頭から離れない。
 
 初めてムラッときたのは中1の時だ。あの夏も今年の様に蒸し暑くて、親の七光りでしかない芸能人がカロスから連れてきたカチコールが蒸発したっつーニュースがテレビで流れていたのを覚えている。
 気温が急に上がってバテそうになった俺は海人を誘ってプールに行った。それ自体は毎年のことなのだが。ひとしきり泳いでそろそろ帰るかと奴の方を見た時、思わず目眩がした。
 夏の日差しを浴びて健康的に焼けた肌、ほどよく肉付き始めた腹筋を伝うしずく、額から滲む汗……成長と言う名の性の芽生えに、危うく俺の股間がハンテールになるところだった。
 
「……お兄ちゃん何してるの?」
「ほっとけ……」
 タマザラシの下敷きになり過去に思いを巡らせていた俺に、今度は妹が声をかけてきた。
「今お母さんから電話あって、これから帰るから先食べててって」
「親父は?」
「海人くんのお父さんと飲んでくるって」
「へーい」
 球体共は飯の時間と理解したのかぞろぞろと俺の体から移動し、それぞれのエサ入れで行儀よくポケモンフーズをかじり始めた。俺もテーブルの定位置へと移動する。
「「いただきまーす」」
 姉と妹は俺の向かいで揃って手を合わせ、呑気な顔でそうめんをすすり始めたが、俺はどうも食べる気にならなかった。ため息を吐くと、姉貴が怪訝な顔でこちらに目を向けた。
「陸太、あんた今日本当にどうしたの」
「……今日、海人を抱いた」
 一瞬の沈黙、後。
「マジでっ!? っしゃあ!」
「えええええーっ!? 海人さんが抱く方じゃないのー?」
「あぁ? んなこたどうでもいいだろ」
「良くないよ! 私には地雷なのー!」
「知るか」
「お兄ちゃんひどーい」
「まあまあ妹よ……負けは負けだ、大人しく認めたまえよ」
「何その口調……分かったよう、デパ地下のゴクリンケーキね」
 こいつら俺で賭け事してやがったのか……家族じゃなかったら絶対一発殴ってるな。
「で、それから?」
「は?」
「それからどうしたかって聞いてるの」
「それから……あー、汗だくんなったから交代でシャワー浴びて」
「そこで何故一緒に入らない!」
「うっせーよ腐れ姉貴……あーさっぱりしたっつって、そのまま宿題終わらせたら帰ってった」
「……それだけ?」
「ああ」
「ギクシャクとかメロメロとかにならなかったの?」
「いつも通りだったぜ」
「うそぉ!」
 気まずくなるなら分かる。俺の都合がいいように考えれば甘い雰囲気になるのもまあ分かる。でもよ、なんも変わらねぇってのはどういうことだよ。
「なにそれ、なかったことにされたとか?」
「そりゃねぇだろ……」
 またため息を吐く。沈んでいる俺を放ってふたりは食事を再開した。
「それにしても随分遅かったね」
「ねー。お兄ちゃんと海人さん、昔はよく一緒に寝てたもんねー」
「小学生の頃だろ……」
「小学生同士はセーフじゃない?」
「知らねーよんなこたぁ……」
 あの頃は3日に一度海人が泊まりに来ていた。姉と妹がいる俺と違ってあいつは一人っ子だ。海人の両親も仕事で帰りは夜遅くになることが多く、学校から帰ってきたら即遊びに来てそのまま泊まることが常だった。さみしがりやの海人を幸せにしたくて、ずっと一緒にいるという約束をしたのを今でも鮮明に覚えている。
「そういや今年はデパートの七夕イベント行かなかったね」
「七夕ぁ?」
「小1から毎年短冊に書いてたじゃん。『海人とずっと一緒にいられますように』って」
「あー……まあな」
「ジラーチに叶えてもらうってはりきってたのに」
「もうジラーチを信じる歳でもねぇだろ」
 思えば、今年の夏は最初からおかしかった。
 七夕の件もそうだし、確実に俺と距離を取っていた。けど、今日はいつも通りだった。それで安心していたのも一線を越えてしまった原因かも知れない。
 ぼんやりしていると、腰の辺りできゅーと鳴き声がした。見れば球体トリオの次男が俺を見上げていた。エサ場の方を見ると、長男と三男が互いに頬を擦り付けあいにんまりしていた。完全に自分達だけの世界に入ってるようで、次男は避難してきたのだろう。
「お前も挟まれて大変だな」
 頭をつつくと、玉二郎は諦めたようにきゅうと鳴いた。
 その時、不意に玄関の方でがちゃがちゃと物音がしたかと思うと、汗だくで首にタオルをかけた母親が顔を出した。
「ただいまー、あー暑い」
「お母さんお帰りー、陸太、海人くんとヤったんだってー」
「あら、まだだったの?」
「それもお兄ちゃんが攻めたんだって!」
「あらまあ勿体ない、陸太も抱かれれば良かったのに」
「……」
 この母にしてこの娘らあり。俺は玉二郎に肘を埋めながらそう思った。
「じゃあ丁度良かったわね、はいこれ」
 母さんはデパートの袋から透明な小さい円柱を取り出して俺に渡した。
「ナマコブシローション……?」
「アローラからの輸入品でね、今日から試供品として配り始めたの。結構イイらしいわよ」
 パッケージには『ポケモン由来の成分で安全安心! あなたのとびだすなかみもアクセル全開☆』と書かれている。
「……サンキュー」
 そういや母さんの職場はデパートのドラッグストアだった。
 
 
 食後、冷凍庫から昼間のと同じアイスを出して食べていると皿洗いしていた姉貴が振り向いて顔をしかめた。
「あんたまたアイスのタマザラシ食べてんの」
「いいじゃねーか。噛み砕きやすいんだよ」
「やだ野蛮。ホエルオーに潰されろ」
「なんとでも言え」
 もうひとつタマザラシをつまみ出すと、それはピンク色だった。なんとなく、歯を立てずにもごもごとしゃぶってみる。
『陸太っ……!』
 赤い顔、甘い声、とろけた眼差し……汗だくになりながらも腰の動きは止まることを知らない。腕を引いて無理やりひっくり返して、うなじに噛みついて……。
「……」
 思いだしちまったじゃねぇか、こんちくしょう。柔らかくなったタマザラシを噛み砕いて飲み込んだ。
 
 翌朝。いつものように窓を開けると、ちょうど海人も起きたところだったようだ。
「はよー。今日も暑くなりそうだな」
 いつも通りだ。すこぶるいつも通りだ。気に食わない。俺はそのまま返事もせずにぴしゃりと窓を閉めた。
 階段を下りると、妹が朝っぱらから掃除機の音を響かせていた。
「何してんだ」
「今日業者さんがクーラー直しにくるの! お兄ちゃん邪魔だから、朝ごはん食べたら出かけてて」
「この暑い中どこに行けってんだよ」
「海人さんと水族館でも行ってくれば? 今夏の特別展示やってるんだって」
「へー……」
 
 バスで20分程のところにある水族館は定期的に集客効果を狙ってか、特別展示を行っている。チケットを買ってふと横を見ると、『特別展示ラブカス 是非カップルでお越しください』と書かれたポスターが貼ってあった。
 
 ラブカスの水槽の前はたくさんの人で埋まっていて、どことなく甘ったるい雰囲気が充満していた。水中ではピンクのハートがふよふよとあちらこちらに泳いでいる。時折集まり大きなハートを形作れば、観客は沸き立ち拍手が起こる。俺達は後ろの壁にもたれかかり、それをぼーっと見ていた。
「混んでるな」
「そうだな」
 5匹程黄色いのが混じっていて、その内2匹は水槽の片隅でひっそりと寄り添っている。おいいいのかサボって。お前らはアクセントなんじゃねぇのか。
 心の中でツッコミを入れていると不意に、ミロカロスの鳴き声を加工したチャイムが鳴りアナウンスが流れ始めた。
『お客様にお知らせ致します、ただいまより屋外プールにて、トドゼルガの砕氷ショーを行います……』
「トドゼルガのショーか……行くか?」
「いいや」
 この水族館のトドゼルガはカントーやシンオウからも見に来る客がいるくらい有名らしい。他の客はぞろぞろと移動し、水槽の前の人もまばらになった。自然と口が開く。
「昨日は悪かったな。勝手にあんなことしちまって」
 海人は何も答えない。
「本当に、悪かった」
「……お前は悪くないよ」
 ぽつりと呟かれた言葉に隣を見ると、海人はそっぽを向いていた。これは強がりな海人が泣く前の癖だ。
「どうした」
「っ……何でもない」
 こいつ、何か隠してやがるな。
 とはいえ今問いただしても何も答えてはくれないだろう。
 これは長くなりそうだ。そっと頭を撫でると、海人はぐすりと鼻を鳴らした。


  [No.3966] 秋の始まりに 投稿者:αkuro   投稿日:2016/10/12(Wed) 04:34:47   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 幼い男の子が泣いている。その隣には、同じ年くらいの男の子が寄り添っていた。
『ひっく、うっ……ぐす』
『かいと、きょうもおとうさんとおかあさんかえりおそいのか?』
『うん……さみしいよ……』
『だいじょうぶだ。おれはこれからずっと、かいとといっしょにいるから』
『……ずっと?』
『ああ、ずっとずーっといっしょにいる。やくそくだ!』
『うん……りくたとずっといっしょ、やくそく』
 幼いふたりは小指を絡ませて、永遠に寄り添うことを約束する。
 ……懐かしい、夢だ。
 
 
 
 新学期が始まって2日。俺のモヤモヤは頂点に達していた。
 海人のやつ、一体何を隠してやがる。あれから何度問い詰めても口を割らない。
「暁」
 俺に隠し事なんてしたことねーのに。
「おい、暁」
 俺はあいつのことなら何でも分かる。俺が隣にいないとよく眠れないことだって、お見通しなんだ。幼馴染みなめんなよ。
「返事しろ、暁陸太!」
「あぁ? んだよてめぇか」
 けたたましい怒号に重い頭を動かし見上げると、そこには担任の教師がいた。
「先生と呼べ先生と!」
「あーはいはい、なんの用だよ」
「くっ、こいつは本当に……。月影どこいったか知らないか」
「海人ならトイレだぜ」
「そうか……プリント1枚配り忘れてしまって急いで戻ってきたんだ。でもこれから職員会議だからまたすぐに行かないと……」
「バカだなてめぇは」
「先生に向かってバカとはなんだ!」
「一年目だからって2学期にもなってプリント配り忘れる先生がどこにいんだよ」
「ここにいるだろ!」
 ああ分かった。こいつは馬鹿じゃない、大馬鹿だ。
「……海人になら俺が渡してやんよ、どうせ帰り一緒だし」
「そうか、助かる!」
 あいつのことはなんでも分かるが、今回のことは皆目見当がつかない。
 
 帰り道。沈みかけた夕日を横目に海人と並んで歩く。海人は相変わらず何も喋らない。
「ん」
「……なんだこれ」
「配り忘れだとよ」
「ふーん」
 海人は俺から受け取ったプリントをカバンにしまうとまた黙りこんでしまった。
 さて、どう声をかけたもんか。
 川原に差し掛かりふと下を見ると、そこではポケモンバトルが繰り広げられていた。自然と足が止まる。
 ダブルバトルで、手前はグラエナとマッスグマ、奥はライボルトと……水色のツインテールの見たことないポケモンだ。色からして氷タイプだろうか。
 水色のポケモンが冷気を放ち足止めし、ライボルトの電撃が確実に当たるようにサポートしている。
 奥側の方が有利と思ったその時、マッスグマが砂かけで2匹の目を眩ませ、その隙にグラエナが水色のポケモンの後ろに回り込んで硬い尻尾の一撃を食らわせる。ライボルトがそれに気をとられていると、マッスグマのタックルが直撃。勝負は手前のトレーナーの勝利で終わった。
 海人は瞬きすらせずに、それをずっと見つめていた。その瞳はきらきらと輝いていて……。
「海人」
「っ! な、なんだ?」
 声をかけると海人は肩を大げさに震わせていた。
「今日、うち誰もいねえんだ。泊まりに来いよ」
「お、おう。いいぜ」
 
 
 大体の地方では子供は10歳になるとトレーナーになる権利が与えられる。ホウエンも例に漏れず、10歳の誕生日が近付くとやたらとダイレクトメールが届いていたのを覚えている。内訳はトレーナー入門口座だの、新型モンスターボールの紹介だの。中には怪しげな宗教の勧誘も混じっていた。
 混乱を防ぐため、小学校では4年が終わった春休みに希望者にまとめて講義を行い、5年が始まる前に一斉に旅立たせる。子供は大体トレーナーに憧れて旅立つから、4年までは3クラスあったのが5年は1クラスなんてザラだ。6年は挫折して戻ってきた子供を受け入れるため2クラスに増えていたりするが。
 俺達はトレーナーにはならなかった。理由は、単純に興味が無かったから。
「おい、人にデカブツぶちこんどいて何考えてるんだよ」
「……ああ、悪い」
 止まっていた腰を動かす。例のローションはなかなかに使い心地がよく、既に一度なかみがとびだしてしまっていた。
 俺はポケモンなんざ興味ない。4年まではトレーナー学の授業があるから最低限の知識はあるが、トレーナーになろうなんて微塵も思わない。姉貴がタマザラシを拾ってきた時もどうでもよかった。
「はっ、は……」
 俺には海人がいる。それでいいんだ。海人以外、何もいらない。でも、こいつは。
「んっ、くっ……!」
 体を震わせイった海人に続いて思い切りナカにぶちまける。2回目だっつーのに量が凄まじい。引き抜くと糸を引いていて、まだまだイケそうになるがこれ以上は海人の負担が大きい。そのまま出したモノを掻き出すことにした。
 2回分の濃厚な液体を掻き出し終わると海人は起き上がった。なにやら呆けている。それを横目で見ながらベッドの下に脱ぎ捨てた下着に伸ばした俺の手を、海人が掴んだ。
「なんだよ」
「……お前ばっか不公平だろ。俺にも抱く側やらせろよ」
「あぁ? 出来んのかてめぇに」
「馬鹿にするなよ」
 ま、こいつにも童貞捨てさせてやるか。
「いいぜ、ほらさっさとしろよ」
「言ったな? 泣かせてやるから覚悟しろ」
 押し倒された俺の上に海人が覆い被さる。あの日よりも数段たくましくなった腹筋がよく見えて、ごくりと唾を飲み込んだ。
 
 10分後。後ろを解して挿入した海人に、俺は冷や汗を流しながら声を噛み殺していた。
 上手いのだ。俺より遥かに。指使いも愛撫も。
「陸太……気持ちいいか……?」
 腰使いもヤバい。なんだこいつ、キリンリキか。いやその例えはよく分からないし多分双方に失礼だ。俺が言いたいのはつまり、頭が機能を放棄するほど、きもちいい。マジ何なんだこいつ。あ、やばい、声出る。
「うぐっ……ん、あっ……!」
 抱かれる側が癖になったらどうしてくれんだこの野郎。
 
 事後、ぐったりしている俺を放って海人は服を着始めている。この薄情者め。
「おいてめぇ、なんでんなうめぇんだよ。本当に俺が初めてか?」
「は? 誰がいつそんなこと言ったよ。俺、経験あるぜ」
 ……今こいつなんて言った?
「あぁ!? んだそれ聞いてねえぞ」
 がばりと起き上がった俺を見ても、海人は表情ひとつ変えなかった。
「言ってないからな」
「なんで言わねぇんだよ」
「……逆に、なんで俺が童貞だと思ったんだよ」
「俺がそうだったからに決まってんだろ。俺はお前じゃねえと勃たねえんだから」
「……帰る」
「は? おい、海人……!?」
 けたたましい音を立てて閉まるドア。階段を駆け降り、玄関から出ていく音もしっかり聞こえた。
「んだよ、それ……」
 
 
 翌日。今日は朝からほっとんど口を聞いてない。事態が悪化してるじゃねぇかこの野郎。
 それでも帰りは一緒なのは、小学生の頃からの習慣だからだろう。
 ふと、前を歩く海人が話し出した。
「コンテスト会場、改修工事で半年休みだってよ。サファリゾーンも無料になって、ポケモン戦わせられるようになるんだってさ」
 早口でまくし立てる海人の声は、かすかに震えていた。
「俺達も……変わるのかな」
 立ち止まった海人の背中が、やけにちっぽけに見えた。
 おい待て、それはどういう意味だ。
 肩を引っ付かんで振り向かせると、海人はぼろぼろと涙を流していた。
「なんつー顔してやがる……」
「陸太……陸太ぁっ……!」
 そのまま胸に飛び込んで泣きじゃくる海人を抱き締める。辺りには海人の泣き声と、風の音だけが響いていた。

 
「で、何があったんだよ」
 あの後、嫌がる海人を無理やり家に連れてきた。海人の泣き顔は姉貴にも妹にも見せたくなくて、挨拶もさせずに自室に引きずり込んでベッドに座らせた。
 ぐすぐすと鼻を鳴らす海人の涙を拭ってやろうと手を伸ばすと、海人はそっぽを向いてしまった。
「陸太は、俺以外に興味無いんだろ。その……性的な意味で。俺もそうだって、ずっと、思ってたんだ」
「違うのか?」
「お前じゃなくても……」
 うつむいた海人の手の甲に、ぽとりとしずくが落ちた。
「隣のクラスの女子に、好きだって言われて。俺には陸太がいるからって言っても諦めてくれなくて、それで……陸太以外をそういう目で見れないって証明してって言われて……」
「……ヤれちまったのか」
「まさか勃つとは思わなくて、頭真っ白になっちまって……勿論避妊はした、というか相手がゴム持参で来てた」
「……女ってこええな」
「顔面蒼白すぎて謝られたし、無かったことにするって言われたけど……無かったことになんかならない。俺はお前を、裏切ったんだ」
「この場合そうは言わねえだろうが……で、それいつの話だ」
「7月の頭……」
 ああ、そういうことか。こいつはそんなくだらねぇことで悩んで俺から離れたのか。
「お前がそばにいないと何も手につかなくて」
「で、宿題ためてたって訳か……あのな、お前は俺以外に勃つからって、他の奴とヤりたいって思うのか」
「思う訳ないだろ……俺はお前以外となんかヤりたくない」
「じゃあなんの問題もねーだろ」
「そう、だけど……陸太と違うのが、怖くて……ずっと一緒だったから、どうしたらいいか分からなくて……っ」
 ああ、また泣き始めた。めったに泣かねー癖に、一度泣き始めるとなかなか泣き止まないのが海人だ。そっと抱き寄せて背中を撫でる。こいつは俺が触れているのが、何よりも安心するんだ。
 ずっと一緒にいたいからこそ、些細なズレに酷く怯える。それでも俺と共に生きることを願うこいつが、愛おしくてたまらない。
 きっとこれから、違うことはたくさん出てくる。でも。
「大丈夫だ。俺が側にいる。どれだけ違おうが、俺はお前を手放したりしない」
 というか手放せる訳がない。例え海人の方から離れようが、俺は大地の果てまで追いかけていく。
 約束しただろ? ずっと一緒にいるって。
 しばらくそうして撫でていると、海人はやっと落ち着いたのか、やわらかく息を吐いた。
「……陸太って、太陽みたいだよな。あたたかくて、いい匂いがする」
「落ち着いたか」
「うん……ありがとう」
 ああ、久々に海人の笑顔を見た気がする。
「海人……」
 自然と唇が近付いていく。
 
 その時、部屋の扉がバタンと乱暴に開かれた。
「海人くーん!! 今日泊まっていくんでしょー!」
「ちょっとお姉ちゃん邪魔しちゃ駄目って言ったでしょ! ほらもー、どうみてもいい雰囲気じゃん!」
 顔を出したのは空気の読めない姉貴と妹だった。
「燐華さんと梨緒奈ちゃん……お邪魔してます」
「邪魔すんなよテメーら……!」
「……あ、あはは、ごめんねー、また夕飯の時に話聞かせてねー!」
「もうお姉ちゃんはー! ごめんなさい、海人さん!」
 再びバタンと扉が閉まってうるさい女ふたりは去っていった。
「ったく……」
「なんか、泊まることになってるけど、いいのか?」
「ああ? 当たり前だろ、お前なんだから」

 
 
 狭いベッドにふたりで寄り添って眠る。海人のぬくもりを存分に堪能できるこの時間が俺は何よりも好きだ。
「なあ、お前はガキの頃トレーナーになりたいと思ってたか?」
「……うん、まあ、人並みには。でも陸太は違っただろ。俺は陸太と一緒にいたかったから、旅には出なかったんだ」
「悪かったな」
「な、なんで謝るんだよ。別に後悔なんてしてないぜ」
「今でもそう思ってんだろ」
「うっ……」
 沈黙は肯定の証しだ。
「なるか。トレーナー」
「いや、だから、陸太と離れるのは……」
「バーカ、誰が離れるなんつったよ。ふたりで一緒に旅すりゃいいだろ」
 コツリと拳で額をつつくと、海人はポカンとしていた。
「え、陸太もトレーナーになるのか? あれだけ興味無いって言ってたのに」
「気が変わった。タッグバトルなら、俺達最強だろ」
「タッグバトルか……いいな、それ」
 ほがらかに笑う海人と目が合って、自然と唇が重なる。
 絶対に離さない。死ぬときまで一緒だ。
 
 
 秋の始まりに、ふたりの未来を誓った。


  [No.3968] Re: 秋の始まりに 投稿者:   《URL》   投稿日:2016/10/23(Sun) 06:43:49   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

読みました。

「夏の終わりに」はホワイティ杯へ投稿頂いた内容からさらに加筆されたことで、主人公の心情がより分かりやすくなったと感じました。姉妹達とのやり取りもコミカルで微笑ましかったです。あと、部屋の中をコロコロ転がってそうなタマザラシたちがカワイイです。

「秋の始まりに」は、一線を超えた後の二人の様子が丁寧に描かれていて、二人の信頼というかいやむしろ愛情というか、そういった良い関係が伝わってくるお話でした。さりげなく新ポケであるナマコブシの特性が混じっていたりして、ちょっとクスッと来たりもしました。

10歳になると旅立つ、といったところを含む社会制度に関する設定は、私がお話を書くときに使っているものと近しいながら細部に違いが見られて、なるほどこういう解釈もあるのか、と勝手に納得したりしていました。この辺り、自分のお話でももっと掘り下げてみたいと思いました。

手短ですが、以上となります。お話を投稿頂きありがとうございました(*'ω'*)


  [No.3967] あとがき 投稿者:αkuro   投稿日:2016/10/12(Wed) 15:06:34   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:語り

みなさまお久しぶりです。ホワイティ杯に投稿した作品の完全版がやっと完成しました。2000文字くらいは今日の午前1時から4時までに書いたものでろくに見直してないので間違いがあったらすみません。見つけ次第直します。
ここではあとがたり的な感じで色々語ろうかなあと。
 
この話の発端は586さん主催のホワイティ杯です。大会の話が出たとき私はとあるカップリングに夢中で他の話に時間を取る余裕も無かったのですが、夏の終わりってことは夏休みの宿題ネタは定番だろうなあとぼんやりと考えていたら、なんか降ってきたので即書きました。アイスのタマザラシはアイスの実モチーフで、仮面企画ならタマザラシ食っときゃバレないだろうという思考ですが、分かる人には分かっていたようです。
ホワイティ杯スタート直後に投稿し、その短さと異質さで話題をかっさらいましたが結果は最下位。ですが皆様の評価自体は悪くはなく、7年やってきただけはあるなあと成長を実感しました。
話の全体像を考え始めたのはホワイティ杯しめきり後。例のカップリングも一段落したので落ち着いてがっつり書くことにしました。
 
では本編の話に。
暁陸太、月影海人という名前はホウエンとアローラの伝説ポケモンから。時期的にぴったりだと思いました。
過去作品と繋げる案はわりとすぐに出てきました。昔のあの話と繋げればタマザラシを無理なく出せますし、世界観を一から考える必要もない。あの話も夏の終わりだし、丁度クーラー壊れてるし。一線を越えた彼らに対してはあたたか〜く見守ってやってほしいなという思いから腐女子一家に。父親に唯一無二の相手がいて、母親が腐女子ならあり得なくはないはずです。父と母のなれそめはきっと、仲良しの男性ふたりを見守りたいという母の想いからでしょう。
せっかく腐女子が3人揃ってるんだから姉は王道タイプ、妹はマイナータイプ、母はリバ推奨タイプに。母は強しです。
彼らの仲良しっぷりも最初から考えていました。ただのダチではなく、唯一無二の大切な人だからこそ一線を越えたことに悩む。深い絆で繋がっていることが分かるように描写には気を使いました。
家族構成も陸太に合わせる形で決まりました。陸太に姉と妹がいるなら海人はひとりっこ。ならさみしがりやだろうし、家が隣なら毎日泊まりに来れる。合法化するために両親の帰りが遅い設定に。
アローラの情報でナマコブシが登場した時に、これは是非出したいとねじ込むことに。同時にしめきりがサンムーン発売までに設定されました。
ポケモン要素が少ないと指摘されていたので、出来るだけ取り入れようと努力しました。あのポケモンバトルに出ていた水色ツインテールはグレイシアです。主人公は基礎の基礎は習っているのでホウエンのメジャーなポケモンは分かりますが、他地方のポケモンは知らないだろうなあと。
 
ここからは後編の話です。
一応名前の読みを出すのと、約束のシーンを入れるために冒頭で夢を出しました。どちら視点かは分かりませんが、彼らのことだから同時に同じ夢見てても不思議じゃないです。
トレーナーになるならないの話はポケモン要素を出そうと入れた物なので、本当の問題点は性の違いということになります。
問題になる性の話って大体同性愛者じゃないですか。いつまで入り口で立ち止まってるんですか。正直見飽きてるし、うんざりなんです。だから海人はバイセクシャル、陸太はデミセクシャルです。
流石に説明しますがデミセクシャルとは、簡単に説明すると『性別は関係なく、深く愛しあった者にのみ欲情する』という物です。分かりやすく言うと、エロ本やAVがオカズにならないということらしいです。デリケートな話ですし、もし間違ってたらすいません。ですが私はこれに計り知れない尊さを感じました。
男だからではなく、お前だからというテンプレを裏付けてるんです。この存在を知った時、私は神に感謝しました。深く愛しあった者のみに体を許す……尊いです、すこぶる尊いです。以後私の作品にはデミセクシャルのキャラが出てくるようになりました。
海人は陸太といつも一緒です。作中では文字数の都合で書けませんでしたが、当然行動や思考も似てくるはずです。大切な人と同じということが安心材料になるでしょう。ですがもしも、どうしようもない部分が違ったとすれば……違うことに不安を覚え、精神的に不安定になってもおかしくありません。でも陸太はそんなこと気にしません。彼にとってはどれだけ違おうが、海人であることに意味があるのです。だから優しく抱き締めて、大丈夫と背中を撫でるのです。彼らの未来が明るい物であることを願います。
 
……寝起きなのでこれ以上頭が働きません。まだまだ語りたいことはありますが、ひとまずこの辺りで。
最後に、この作品を生み出すきっかけになったホワイティ杯主催の586さん、評価してくださった皆様、リバだといいぞやれと背中を押してくださったGPSさん。本当に、ありがとうございました!