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  [No.3284] コラッタと少年 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/06/03(Tue) 23:36:42   105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:コラッタ

 昔々、というほど昔でもない時代に、一匹のコラッタと一人の少年がおりました。

 コラッタと少年は、ピカチュウを連れた某トレーナーみたいに有名なわけではありませんでしたが、
 コラッタといしんでんしんとか、コラッタとツーカーみたいな称号くらいは貰ってもいいくらいの仲良しでし
た。

 少年がまだ十歳になっていなかったため、コラッタは少年の正式なポケモンではありませんでしたが、少年が
コラッタの元に遊びに来ると、コラッタは気配を感じて顔を出しましたし、少年も他のコラッタと仲良しのコラ
ッタの見分けがついていました。

 少年いわく、仲の良いコラッタは毛並みのふあふあ感が違うのだとのことですが、私達では少年と仲良しのコ
ラッタと他のコラッタの見分けをつけることは多分不可能でしょう。

 少年はコラッタの元に遊びに来るとき、いつも何か手土産を持って行きました。それはドーナッツだったりク
ッキーだったりポテトチップスだったり──つまりサンドの──失礼、三時のおやつだったわけですが、コラッ
タは内心それをとても楽しみにしておりました。もしかしたらコラッタは、少年の気配ではなくおやつの匂いを
察していた部分もあるのかもしれませんね。

 少年とコラッタの住んでいる場所は辺鄙な田舎でありましたから、これといった娯楽はなかったものの、一人
と一匹でおいしい木の実を探したり、川で水遊びをしたり、探せばいくらでも楽しく遊ぶことができました。

 そんな一人と一匹が、ふと遊び疲れて休んでいる時に話す言葉は、

「彼女欲しいなー」
「コラー」

 とんでもなくマセておりました。返事をするコラッタも、うんうんと同意しているようでありました。

 なにしろ刺激のある出来事の少ない土地柄、仲良しである一人と一匹は、道の隅に捨てられている、湿った非
道徳的な、たまにポケモンも交えた本を仲良く読んでいたりもしたもので──再度失礼、とにかくまあ、ちょっ
ぴりマセておりました。

 そんなある日のことです。

 少年の父の仕事の都合で、少年は引っ越すことになってしまいました。少年はまだ十歳になっておりませんで
したので、コラッタを自分のポケモンにして連れて行くことも出来ません。

 少年は友達との別れに涙を流しました。人口の少ないこの土地では、一匹のコラッタだって、大事な大事な友
だちでした。

「ゴメンなコラッタ。お前を連れて行くことは出来ないんだ」
「コラー……」

 もちろんコラッタも悲しみました。おやつが食べられなくなるという食欲的なこともありましたが──少年に
抱き上げてもらった時の、形容しがたいあたたかさは、森のおいしい木の実で代用できる部分もあるおやつと違
って、何にも代えがたいものでありましたから。

 少年は前述の通りのませた子どもでありましたから、子どもらしく悲しい時に泣きはしたものの、コラッタと
一緒にどこかへ逃げるとか現実的でないことを考えることはしません。だけど、その代わりに真っ赤なバンダナ
をコラッタの首につけて、コラッタの鼻先に拳を突きつけました。

「このあかいバンダナは、コラッタとの友情の証だよ。僕は絶対にコラッタの元に戻ってくる。だから、約束」
「コラッ!」

 突きつけられた拳に、コラッタは拳を差し出す代わりに、鼻先を押し付けました。
 鼻先で触れた少年の拳は硬くて──抱き上げられたときの温かい体温を感じられました。

「お互い素敵な彼女を作って再開しよう!」
「コラッ!」

 マセた一人と一匹は、別れの時もちょっぴりおませさんでありました。



 少年が引っ越して、少し経ちました。あれからコラッタは、少年とそうしていた時のようにおいしい木の実を
探したり、川で遊んだりして──時々少年に抱き上げられた時のあたたかさや、おいしいお菓子が恋しくなった
りもしましたけれども──おおむね元気に暮らしておりました。

 そうそう、特筆すべきことに、コラッタにはかわいい彼女さんが出来ておりました。

 彼女さんももちろんコラッタで、赤いお目目は他のコラッタより一際強い輝きを持ち、しっぽの丸まりぐあい
もかわいらしく、毛ヅヤも良い素敵なコラッタです。あかいバンダナをつけていたのが幸いしたのでしょうか、
彼女さんはコラッタのたいあたり的なアタックに折れて、いつも一緒にいるようになりました。

 彼女さんと一緒に食べる木の実は、素敵な味がしました。



 少年が引っ越して、しばらく経ちました。寒い冬がやってきました。リングマさえも洞窟にこもり、春の芽吹
きを待つ季節です。

 小さなコラッタには特に堪える時期でした。

 コラッタは彼女さんと木の根を齧り、身を寄せ合いながら寒い冬を過ごします。彼女さんと身を寄せ合うと、
一匹よりもあたたかくはありましたが──少年に二匹で抱っこしてもらったら、もっとあたたかいのかな、と考
える時もありました。



 少年が引っ越して、だいぶ経ちました。暑い夏は、冷たい冬よりはずっと過ごしやすくて、食べ物だっていっ
ぱいあります。

 かつて少年と一緒にそうしたように、川で彼女さんと水浴びをすれば暑さなんてへっちゃらです。少年も、お
んなじようなことをして涼んでいるのかな、とコラッタは思いました。




 少年が引っ越して、結構な時間が流れました。彼女さんともずいぶん睦まじくなり、あまり寂しさを感じるこ
とはなくなっています。

 だけど夜、ルナトーンみたいな綺麗な三日月が浮かんでいる日。少年と一緒にやった、花火という綺麗な炎を
思い出すことがありました。

 また、昼間日当たりのいい場所で日向ぼっこをしている時。少年のあたたかな、腕の感触を思い出すことがあ
りました。

 彼女さんのコラッタは、かわいいだけではなく賢くもありましたので、そんなコラッタのセンチメンタルな感
情を察していました。寂しげに考え事をしているコラッタに、彼女さんのコラッタはそっと身をすり寄せて、私
達の言葉で言えばこんなことを言いました。

「あなたがさびしい時も、楽しい時も、私はいつも一緒にいるわ。私は、あなたのカッコイイところだけにほれ
たわけじゃないのよ」

 彼女さんの言葉の証拠のように、コラッタのカッコイイあかいバンダナは、ずいぶん色あせてボロボロになっ
ていました。

 コラッタは身をすり寄せてきた彼女さんに、自分も頬ずりをして、ありがとう、と小さく鳴いて返事をしまし
た。



 少年が引っ越して、長い年月が経ちました。少年がくれたバンダナは、とっくにボロボロになって破けて、な
くなってしまいました。

 だけどコラッタの胸の中には、少年との約束が色あせずに残っていました。

『このあかいバンダナは、コラッタとの友情の証だよ。僕は絶対にコラッタの元に戻ってくる。だから、約束』

 友情の証のバンダナはなくなってしまいましたが、コラッタは約束をしっかり覚えていました。少年はもう、
そんな約束は覚えていないのかもしれません。

 だけど、それでもいいと思いました。コラッタにはかわいい彼女さんがいて、もう寂しい想いをすることはな
いのですから。

 ただ、少年が彼女を作って幸せに暮らしていたらいいな、と思うばかりでした。

 そんな時、足音が聞こえてきました。この独特の音と気配は、ポケモンのものではありません。どうも人間ら
しい、とコラッタは思い、彼女さんに草むらへ隠れるよう小さく鳴いて促しました。

 近くの村の人間は、故意にポケモンを痛めつけるようなことはしませんが、そこはコラッタも野生のポケモン
でしたので、警戒は怠りませんでした。

 気配と足音が近づいてきます。

 だけどコラッタは既に警戒を解いていました。

 何故って、

「ねえ、本当にこんなとこに、あなたの仲良くしてたコラッタがいるの?」
「うん。だってあの時、僕とコラッタは固い約束を交わしたんだ」
「そうは言ってもさー、コラッタだってあなたのことを覚えてるとは限らないじゃない」

 コラッタは、少年が来れば気配を察して、姿を表していたのですから。

「コラッタ!」

 人の足音が、駆ける騒がしい音に変化しました。コラッタもそちらに向かって、前足と後ろ足を懸命に動かし
て駆けて行きました。

 腕を広げた人影の胸目掛けて、たいあたりをかまします。人影はバランスを崩して尻もちをつきましたが、し
っかりとコラッタを受け止めました。

 優しく自分を抱き上げる腕は、懐かしいあたたかさがありました。

「遅くなってゴメン! 僕のことを覚えててくれていたんだね!」
「コラーッ!」

 当然だ、というようにコラッタが鳴きました。字に表すとまるで怒っているみたいに見えますが、別に怒って
はいません。

 怒るよりも、少年に会えて嬉しい、という気持ちが、小さな体いっぱいに広がっていたからです。少年はずい
ぶん背が伸びてずいぶん印象が変わってはいましたが、それでもおやつを分けてくれて一緒に遊んでくれた、優
しい雰囲気はそのままでした。

「でも、約束通り素敵な彼女が出来たんだよ、ほら!」
「その素敵な彼女さんをほっぽり出して、コラッタとラブラブしてるのはどこの誰かしらね?」

 長い髪をポニーテールにした活発そうな彼女が、一人と一匹の感動の再開をちょっぴりあきれ顔で眺めていま
す。すぐ怒りそうだけどすぐ笑って許してくれる、そんな感じの顔をしていました。

「それで、コラッタには素敵な彼女は出来たかい?」
「コラーッ!」

 字にすると同じですが、さっき少年に返事したのよりも少し高い声でコラッタは鳴きました。もう大丈夫だと
仲間に知らせる合図です。合図の鳴き声を聞いて、コラッタの彼女さんが草むらからひょっこり、顔を出しまし
た。

「へえ、この子がキミの彼女さんかい?」
「コラーッ!」

 コラッタが少年の腕の中で再び鳴きました。今度のも合図の声です。平気だからみんな、怖がらずに出てきな
さい──そんなニュアンスを含んだ鳴き声に、
 一匹、
 また一匹、
 さらにもう一匹、
 と、次々にちっちゃなコラッタたちが草むらから飛び出してきました。

「「「「「「「「「「「「コラーッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」

 ちっちゃなコラッタ達は、少年のコラッタに返事をするように、一斉に鳴きました。その可愛らしい様子を見
て、先程まで再開の感動に浸っていた少年が何かを悟ったらしく、オニゴーリのような恐ろしい形相になります


「このリア充コラッタめ! 僕だってまだ彼女とキスまでしか行ってないのに! こいつ、コイツう!」
「コラーッ!?」
「ちょっと! ポケモンに嫉妬してどうすんのよ! それと人の恋愛事情をサラッと暴露するのは恥ずかしいか
らやめて!」

 左右のほっぺをグイーっと引っ張られるし、少年の彼女さんは喚いているし、約束を果たしたのにコラッタは
散々でした。

 だけどほっぺを引っ張られるコラッタは、どこか幸せそうでありました。当然といえば当然ですが、少年のい
ない間は、ほっぺたを引っ張られることもありませんでしたから。



 それから、少年と少年の彼女は、コラッタの縄張りの近くに家を立て、暮らし始めました。もちろんコラッタ
とその家族も一緒です。

 コラッタは一匹みつけたら四十匹はそこに住んでいると言われる、家族の多い種族でしたが、少年とその彼女
の間にも、たくさんのかわいい赤ちゃんが生まれました。

 たくさんのコラッタの家族と仲良く暮らす少年とその家族は、村の人たちから『コラッタ一家』と親しみを込
めて呼ばれるようになり、幸せに暮らしたそうです。



 おしまい  


  [No.3285] Re: コラッタと少年 投稿者:No.017   投稿日:2014/06/04(Wed) 23:21:23   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:鼠算式

彼女欲しいに吹きつつ、思わず萌えてしまいました。

「「「「「「「「「「「「コラーッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
さすがコラッタ…繁殖力がすさまじい。


  [No.3286] コメントありがとうございます。 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/06/09(Mon) 18:59:56   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

No.017さん、どうもコメントありがとうございます。
コラッタがいっぱいいたらかわいいなあと思いながら描いた
&ピカチュウverの図鑑説明が印象に残ってたので増やしました(笑)

彼女欲しいのくだりはこのくらいおませじゃないとオチに繋げられないかなあと思ってこうなりました。
アレな本はべ、別に誰もスケベ本なんて言ってないんだからねっ!///