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  [No.3311] 昔の話をしようか 投稿者:マームル   《URL》   投稿日:2014/07/01(Tue) 23:07:41   177clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:オーダイル】 【ゾロアーク

結構前に気分転換に書いてpixivに投稿したものですが、中々良い気がするのでここに投げてみます。
それ以降もちょこちょこ書いてるけど、中々良くならない。



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 さて、昔の話をしようか。
 昔と言っても、むか〜しむかしの話じゃなくて、数十年前の、私が子供の頃の話だけどね。

 ここから南に、普通の人なら半日歩いて行ける所に大きい湖があるだろう?
 そこには主が居た、というのを知っているかい? そう、今は居ないんだ。
 分かってるって? ああ、その主というのは、私がポケモントレーナーとして旅をするキッカケであり、私の目標だった。
 私がまだポケモントレーナーでもない、幼い頃の話だ。
 私と同じ、幼いゾロアを籠に乗せて、自転車でその南の湖に行った事があるんだ。歩きで半日掛かる位のかなり遠い距離だったから、行ってみたいとは思っていたけれど、それまでは行った事は無かった。
 親に頼んでも、何にも無い、名も忘れられているような湖に行ってくれる程、子供の好奇心を広めてくれる親でもなかったしね。
 行く最中、ゾロアが過ぎ去っていくポケモン達に変化して遊んでいたのを、数十年経った今でも私は良く覚えている。私にとって、それはたった一人での初めての遠出だったんだ。
 かなり、わくわくしていた。
 途中、何度か休憩を挟んで、覚束ない命令で偶に野生ポケモンとも戦いながら、昼前にその湖に辿り着いた。
 ゾロアにモモンの実とオレンの実、それと好きだったカイスの実を食べさせながら、私はただ、その湖を見ていた。何も考えずにね。
 何というんだろうかね。初めて海を見た時の衝撃と同じような衝撃を、私はその時味わっていたんだ。
 静かで、音と言えばゾロアが木の実を食べる音と、風の音だけ。
 とっても、神秘的だった。
 私は、持って来たパンを食べて、木にもたれ掛かってぼうっとただ湖を眺めている事にした。湖には近付きもしなかったし、……いや、まだその時は寒い春で、冷たい水に態々触り行く事は馬鹿みたいだった事の方が大きいか。とりあえず、私はただその見ているだけで満足だった。
 ゾロアも木の実を食べ終えてからは、私の膝の上でゆっくりとしていたしね。

 気付くと、私は寝てしまっていたようだった。
 そして、目の前にはその湖の主、オーダイルが居たんだ。……いや、私が勝手に主だろうと思っていただけなんだけどね、どうしても主としか思えなかったんだ。
 ゾロアは、まだ寝ていた。
 湖の中に居たんだろう、オーダイルの体は濡れていて、ぽたぽたと水滴が地面に垂れていた。
 私は、その時寝ぼけていたんだろうね。怖いとも余り思わなかったし、かと言って格好良いとか自分の状況を全く無視した感情も抱いていなかった。ただ、その時私はぼうっとオーダイルを眺めていたんだ。
 2m以上ある巨体で、その気になればがぶりと私を食いちぎれる力も持っているのにね。
 そんなぼけっとしていた私を、オーダイルはじっと見つめていた。観察されているかのようだった。食い物として美味しいかどうかだったのかもしれないけれど、聞く事は出来なかった。私にとってはもう、どうでも良い事だ。
 オーダイルはぼうっとしている私の頭をがしがしと掻いてから、大きな尾を揺らしてまた湖の中へ戻って行った。
 はっきり目が覚めてから、その事を思うと背筋が凍りもしたけれど、それ以上に目標が出来た。
 あのオーダイルをゲットしたい。
 それが、私のポケモントレーナーとしての旅の最終目的になった。あのオーダイルは私の憧れでもあった。
 ゾロアを起こして帰る頃には、もうポケモントレーナーになってすぐにでも旅に出たい欲求が頭の中を渦巻いていたよ。

  そして、私は数年のポケモントレーナーとしての旅をして、帰って来た。……その時の話はまた後でするよ。この話よりもかなり、長いけれどね。ゾロアはゾロアークになり、また、フライゴン、ギガイアス、ギャロップ、ムクホークが私の信頼出来る仲間となっていた。
 友からは、どうして5匹なんだい? と良く言われたよ。
 私はその度にこう答えた。6匹目、それが私の目標だ、って。
 そして、実家に帰って来て、数日経ってから私はその湖に行く事にした。ゾロアーク、フライゴン、ギガイアス、ギャロップ、ムクホーク。彼ら全員を連れて行ったが、私はゾロアークだけを使う気しかなかった。
 一対一で、私は彼を仲間にしたかった。
 その目標は、私にとってのチャンピオン戦だった。
 その時と同じように、自転車に乗って私はその湖に向った。ゾロアークが勝手にボールから出て来て、ゾロアに変身してあの時の事を思い出させたのは、感動したね。
 今まで、目標という言葉は言っていたけれど、明確にはその目標の事は誰にも話していなかった。そして、私は湖に着いてから、ゾロアークに言った。
 あの時、私の目標がここで出来た。その目標と、戦ってくれるかい? と。
 ゾロアークは頷いてくれた。
 それはオーダイル。平均身長は2.3m、平均体重は88.8kg。ワニノコの最終進化系。

 そして、時が経ち、オーダイルは水の中から出て来た。
 私は笑った。オーダイルも笑ったように思えた。そして、戦いが始まった。
 やはり、そのオーダイルは強かったと私はすぐに確信したよ。四つん這いで素早く陸の上を走る事が出来るとは知っていた。ただ、ゾロアークよりは遅いと思っていた。彼の速さも一級品だったからね。
 けれど、オーダイルは一瞬にしてゾロアークに肉薄していた。後ろ脚の力で、跳ぶようにしてゾロアークに突っ込んでいた。
 ゾロアークは私が指示をするよりも前に躱してくれた。一撃でも食らったら、アウトだった。
 ゾロアークは躱しざまにシャドーボールをすぐに放ち、オーダイルはそれを腕で弾いた。
 私はゾロアークにナイトバーストで視界を妨げろと命令した。オーダイルは力も、防御も、速さも途轍もなかった。
 残念だが、正攻法では勝てない。私はすぐにそう判断した。
 けれど、ゾロアークはそれに従わなかった。
 ああ、そうかと私は思った。ゾロアークは、私よりバトルセンスがあった。偶に強敵と出会い、興奮している時は私の指示よりも自分の思考を優先させた。ポケモントレーナーとしてどうかとも思うかもしれないが、私はそうなってしまった時はゾロアークにその場を譲った。私の指示は、ゾロアークの動きに追いつけなかった時もあったというのもあるが、私の指示を聞かなくなった時、ゾロアークは心から楽しんでいたからだ。
 私のゾロアークは所謂、戦闘狂だった。
 そして、ゾロアークはオーダイルを強敵と認め、本気で戦おうと思っていた。私の入る余地はもう殆ど無くなった。
 しいて出来る事と言えば、ゾロアークの視界の助けをする事位だ。
 オーダイルの攻撃をゾロアークは何度も寸前で躱し、何度も火炎放射を放っていた。
 ゾロアークはまずオーダイルを火傷にしようと思ったみたいだった。私は短時間で決着を付けようと思ったけれど、ゾロアークは長期戦に持ち込みたかったみたいだった。まずは攻撃力から削ごうと思っていたんだろう。
 そして、オーダイルは火傷をした。けれど、ゾロアークはその代価以上に疲労していた。スタミナはそんなにある方じゃなかった。
 どうして長期戦に持ち込もうと思ったのか、私は少し混乱していた。
 そして、すぐにその理由は分かった。
 ゆっくりとゾロアークはオーダイルに近付いて行った。ナイトバーストを目前で仕掛けるつもりだと、私はこれまでゾロアークの戦いぶりを見て来て分かっていた。
 火炎放射は保険だった。一撃攻撃を食らってしまっても、踏み止まれるように。
 そして、ナイトバーストでオーダイルの視界を防ぎ、至近距離で決着をつけるつもりだ。スタミナを消耗してでも、ゾロアークは保険を掛けておきたかったんだろう。
 ただ、1つだけ懸念があった。オーダイルはまだ、技を3つしか使っていない。かみくだく、アクアテール、アクアジェット。もう1つは何だ?
 ゾロアークもそれに気付いている筈だ。
 ナイトバーストを、ゾロアークは繰り出した。オーダイルをも包み込んで真っ暗な空間が現れる。
 威力も高く、ゾロアーク特有の必殺の技だ。だが、オーダイルは倒れないだろう。
 そして、1発、鈍い音がした。
 
 暗闇が開けると、ゾロアークは混乱していた。
 みずのはどう……じゃない? ゾロアークの体は濡れていなかった。1発の鈍い音はシャドーボールだったみたいで、オーダイルの背中には黒い痣が出来ていた。オーダイルも、そのダメージは大きかったらしく、大きく息を上下させていた。
 そして、私は1つの結論に至る。
 オーダイルのもう1つの技は、いばる、か、おだてる、だ。
 ゾロアークはふらふらとしていた。スタミナが殆ど切れてしまっている性か、今にも倒れそうだった。ダメージを負っていなくても、あれでは火傷の状態でも、1発食らったら負ける。そして、オーダイルは攻撃姿勢に入っていた。四つん這いになり、アクアジェットを仕掛けるつもりだ。
 飛べ! とオーダイルがアクアジェットを繰り出す寸前に私は叫んだ。
 オーダイルがアクアジェットを繰り出し、ゾロアークに向っていく。
 私はゾロアークが跳ぶ前に、次の指示を出していた。
 真下にシャドーボール!
 混乱していても、上下だけは確実に分かる。自分を痛めてしまう心配も少ない。私はそれに賭けた。
 そして、シャドーボールは見事、オーダイルに直撃した。

 それが、私のチャンピオン戦だった。ゾロアークは疲れ果てて、それでも私に笑ってから、私がここに子供の頃に来た時にもたれ掛かった木に同じようにもたれ掛かり、休み始めた。
 私は、倒れたオーダイルに歩いて行き、言った。
 ずっと憧れだった。……仲間になってくれるかい?
 オーダイルは認めてくれたのか、諦めたのか、分からなかったが、目を閉じた。
 モンスターボールに入れるのは後で良いだろうと私は思い、オーダイルにモーモーミルクとチーゴの実を渡した。そして、頭を撫でた。
 それが、私のポケモントレーナーとしての、一括りだった。

 ……人間ってのは、長生きだよ。うんざりする程に。
 ゾロアーク、フライゴン、ギガイアス、ギャロップ、ムクホーク、オーダイル。彼らと過ごす日々は最高に楽しかった。
 そして、彼らが寿命を迎えていくのはとても悲しかった。
 ああ。私は、彼らの話を、彼らの息子にも聞かせるつもりだよ。
 とても、強く素晴らしいポケモン達だったと


  [No.3491] 付いて来る 投稿者:マームル   投稿日:2014/11/05(Wed) 00:30:15   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

続編のようなもの。
そこそこ良く書けた気がするからこっちにも投げる。
pixivでちょこちょこやってます。

……哺乳類でも卵なんだよなあ(システム上は)。

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 夢を見ていた。
幼い頃、暮らしていた草原の夢だ。
隣にはシママ、今はゼブライカ。僕もまだ、主人と出会ってなく、ポニータだった頃の夢だった。

 目を覚ますと、やけに寝ていたな、とムクホークが呆れたように僕を見た。
確かに、と僕は思う。
秋も過ぎようとする今、炎の鬣を纏っている僕にとっては涼しい今、中々心地いい天気だったからかもしれない

ゆっくりと立ち上がり、僕は森へと行く事にした。
湖の方には、ゾロアークとオーダイル、それとこの頃そこに住んでいるアーケオスとアバゴーラが居るだろうけ
ど、そっちには行かない。
森の中、僕が主人のポケモンとなってからもずっと、僕に付いて来てくれた友であり、番でもあるゼブライカの
所に行こうと思った。

 どうして付いて来てくれたのだろうと、今でも良く思う。
主人がフライゴンに乗って空を飛んでいる時、モンスターボールの中からゼブライカがそれを追いかけて来るの
を見た事がある。
海を越えて、戻って来てその夜、野宿していたその外で、安堵した目つきで僕の方にやって来た時もあった。
……僕は、ゼブライカに惚れられていた、とは思えない。
今でもそうだ。番と言うよりは、とても仲の良い友達、という方がしっくり来る。
どうして、そこまでして僕と一緒に居ようとしたのだろう。いや、旅の途中にばれたけど、どうして主人から隠
れるようにして、主人のポケモンになった僕に付いて来たのだろう。
今でも分からない謎だ。これは。


 ぼふぼふと、腐葉土の上を寂しい音を立てながら歩いて行く。
僕は夢を見たからか、幼少の頃の事を思い出していた。
風で草が良くなびく、のどかな草原。ここからだときっと、走って5,6日した所にある、そんなに広大でもない
草原。
そこで僕は生きていた。
親から早く離れ、でも大して親から距離は取っていない場所で、幼馴染のシママと一緒にのんびり、特に大して
何も考えずにぼうっとのどかに暮らしていた。
しいて気を付けていた事と言えば、トレーナーからは逃げていたのと、凶暴そうなポケモンには近付かなかった
事。
それだけ。
足は元々速かった方だから、大して危険にも出くわさずに、本当にのんびり暮らしていたと思う。

 そんなある日、僕はビブラーバと出会った。出遭ってしまったというべきか。良く分からない。
あそこでずっとのんびり暮らしていても、大して僕の幸せには影響がなかったと思うから。
そう考えると、ゼブライカにとっては出遭ってしまった、になるのかもしれない。
僕に付いて来るのは大変だったろうし、海の向こうに行ってしまった時は、とても悲しんだだろうし。
見慣れない顔だなぁ、と思っているとトレーナーがやってきて、いつの間にかバトルが始まってしまった。
逃げていたら、きっと逃げきれていたんだろうけども、そこまで僕はバトル自体を嫌悪していた訳でもなかった

そして、相性の差で普通に負けて、いつの間にかポケモンセンターで小さいボールの中に入っていた。
シママは、どうしてるんだろうと、最初に思った。


 シママが付いて来ているのに気付いたのは、その数日後だった。
かぽかぽと町の石畳の上を歩くのも良いなと思っていた時、柵の外で僕を悲し気に見ていた。
とても、印象に残っていた。
町の外に出て、野宿する夜に再会して、かなり心配そうに体を舐め回された。鬱陶しいとも思ってしまった程に

……そう言えば、シママには両親が居なかった。
この前の夏、クーラーの効いた部屋で主人に「クーラーをガンガンかけなきゃいけないじゃないか」と愚痴を言
われながらも図々しく居座っていた時に、テレビで見た事を思い出した。
良い個体同士を番わせて、より良い個体を作ろうとしているトレーナーが問題になっているって。
現チャンピオンがそれをやっていて、チャンピオンを辞める事になったとか。
それは強い根拠も無い仮説だった。
僅かな根拠としては恵まれなかった子は沢山色んな所に逃がされたという事と、チャンピオンの手持ちにゼブラ
イカが居た事の二つ。
断定は出来ない。
でも、そう思える。逃がされた、望まない個体だったと。

 僕がギャロップに進化する前に、シママはゼブライカに進化していた。
悔しくもあったけど、納得も僕はしていた。僕は精々一日に数回バトルをするだけで、後はボールの中で過ごし
たり、かぽかぽ主人を乗せて歩いていたりしただけだけど、シママはずっと僕を野生のまま追いかけて、様々な
ポケモンの縄張りの中も通って来たんだろうから。
でも、悔しい気持ちはやっぱりあったからか、僕もその後すぐに進化出来た。
ゾロアがゾロアークになり、ビブラーバがフライゴンになり、手持ちにガントルとムクバードが加わった。
ゼブライカはただ、僕にひっそり付いて来ていた。


 ゼブライカは今日も僕が来ると嬉しそうに喉を鳴らした。
それはやっぱり、番のようなものではなくて、親友のようなものだった。
……僕は、君にとってどのような存在なんだい?
聞いてみたいけれど、それは叶わない。
一体ゼブライカが何を思っているのか、明確な言葉を持つ人間とは違って、僕は聞く事は出来ない。
どうして、僕に付いて来てくれたんだい? どうして、主人にばれても、主人が悪い人じゃないと分かっても、
目の前には姿を現さないんだい?
何も、聞く事は出来ない。
とても、もどかしい。
でも、それでも良いとは思う。
僕達はポケモンだから。人間じゃない。
明確な言葉を持つ必要がない、ポケモンなんだから。
僕は、ゼブライカの膨らんだ腹を見て、耳を傾けた。
もうそろそろ、卵を産む時期だ。冬になる前に、生まれると良いんだけど。
今、何かゼブライカに一つ聞けるとしたら、きっと僕はそれを選ぶだろう。
冬の前に、産めるかい?
それが今、一番重要な事だ。