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  [No.3624] 一粒万倍日企画ぱーと3―書きかけでもええんやで?― 投稿者:砂糖水   投稿日:2015/03/10(Tue) 01:48:25   210clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:一粒万倍】 【企画】 【書き出し】 【書きかけ小説】 【投稿求む

※ネタに走ったためわかりにくいやも。その場合、前スレを見てください(http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=3428&reno= ..... de=msgview




【企画名】
一粒万倍日企画―書きかけでもええんやで?―

【背景・目的】
小説を投稿する際、特に短編であれば完成品でないと、と気負いすぎてなかなか投稿することが少なくなり、投稿できていないということに焦ってしまうことがままある。
長ければ前後編と分け、前編だけを投稿することも可能であるが、分けるほどの文字数でないとか、すぐに続きが書けるわけではないから最後まで書いて投稿したい、と考えがちである。
また、長編でも区切りの良いところまで書けず、更新できない、などということも考えられる。

このように、なかなか最後まで書き終えられない…そんなことが誰しもよくあるのではないだろうか。
そして書きかけのファイルがごろごろ…、あるいは書きたいけどなかなか踏ん切りがつかない…などということが頻発する。

もし、書きかけ小説でも投稿できる場があれば気楽に書けるのではないだろうか。
そのためのきっかけとして、一粒万倍日のような縁起のいい日に投稿すれば勢いがついて続きが書けるのではないか。
あるいは人目にさらすことで刺激を受けて続きが思い浮かんだりするのではないか、と考えた。

そこで、本企画は書きかけの小説を投稿する機会を提供し、もっと気軽に投稿してもらうことを目的とした。


【目標】
完成させなきゃ…というストレスから作者さんを解放する。
ここに投稿することで弾みがついて続きが書けるようになる。
もっと気軽に投稿していいんだと思ってもらう。
書きかけでも投稿することで掲示板が賑わう。


【実施内容・ルール】
書きかけ小説、あるいは小説の書き出しを一粒万倍日に投稿してもらう。

本企画において書きかけ小説とは、文字通り書きかけの未完成の小説である。
短編に限らず、長編のプロローグの他、第○話といったものの書きかけでも投稿可とする。
WEB上では、特に長編は未完のまま放置されたものが死屍累々たる有様であり、完成しないことは決して珍しいことではない。
そのため、完成・完結にこだわりすぎず気軽に投稿してほしい。


一粒万倍日とは何かを以下に示す。

『一粒万倍日(いちりゅうまんばいび、いちりゅうまんばいにち)は、選日の1つである。単に万倍とも言う。
「一粒万倍」とは、一粒の籾(もみ)が万倍にも実る稲穂になるという意味である。一粒万倍日は何事を始めるにも良い日とされ、特に仕事始め、開店、種まき、お金を出すことに吉であるとされる。
但し、借金をしたり人から物を借りたりすることは苦労の種が万倍になるので凶とされる。』(Wikipediaより)

このように物事を始めるのによい日、ということで縁起を担ぎ、この日に投稿することとした。
今年の一粒万倍日は一番下に記載した。


一粒万倍日の本来の意味を考えれば当日に書き始めた方が望ましいが、それにはこだわらず、広く募集することとする。
したがって、以前書いたものの続きが浮かばず、放置していたような小説の投稿も受け付ける。
どうしても気になる場合は当日に書き足せばよいとする。


投稿する際は、マサポケの投稿規定に従うこと。
http://masapoke.sakura.ne.jp/about.html
http://masapoke.sakura.ne.jp/pokemonstory.html
流血・暴力表現等は冒頭に注意書きの記載を推奨する。
また、長編の第○話といったものの書き出しを投稿する際は、大元の作品URLを記載することが望ましい。ただし強制ではない。


本企画の投稿作品が完成した場合、特に短編であれば新規投稿を推奨する。
強制ではないので、本スレッドに投稿したものを編集する形でも可である。
その場合、編集したことが分かるように、タイトルに完成させた旨を記載することが望ましい。
ただしこの方法だと新着扱いにならないため注意すること。
それを逆手にとって、ひっそりこっそり完成品あげたい!といった場合、せめて企画主に知らせてくれると死ぬほど嬉しいので知らせてください。お願いします。

新規長編の場合はカフェラウンジ2Fへの投稿を推奨する。
また、すでにカフェラウンジ2Fや、他サイトに投稿済み作品の場合は完成した旨をタイトルに記載してくれると企画主が喜ぶ。


企画主は全作品に目を通し、なるべく感想を書き、作者のやる気を引き出す。また、参加者および閲覧者の感想も随時受け付けている。
作者のやる気を引き出すのはあなたかもしれない。
企画主の感想イラネな人はその旨を記載してください。


※連絡先削除しました。



【備考】
マサポケの投稿規定に反しない限りはだいたいOK。
二代目スレ
http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=3428&reno= ..... de=msgview

初代スレ
http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=3368&reno= ..... de=msgview

書き方がわかりにくくて意味不明!な方はぱーと2を参照。

たぶんまだまし。



――――

なんかご大層なこと書いているけど、だいたい後付けです。
実際のところはむしゃくしゃしてやった、です!()
発表用の要旨を参考に、なんかテキトーに仕上げた。特に背景部分(
え、お前こんな低レベルの出してるのwwwwwwって思うかもしれないですが、実際に出す場合は少なくとも先輩の検閲が入るから大丈夫です(^q^)そしてめっちゃ直される…。

つーことで、行ってみよう!やってみよう!
あなたの作品をお待ち申し上げております。




書き書きて倒れ伏すとも文字の原

※元ネタ
「行行て倒れ伏すとも萩の原」
出典 奥の細道
【意味】このまま行けるところまで行って、最期は萩の原で倒れ、旅の途上で死のう。それくらいの、旅にかける志である。
引用元:http://hosomichi.roudokus.com/Entry/106/

いやまあ、こんなに気負わなくていいですけどwwwwww




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今年これからの一粒万倍日

3月
10(火) 15(日)※ 22(日) 27(金)※

4月
3(金)6(月)9(木) 18(土) 21(火)※ 30(木)

5月
3(日)※ 15(金)※ 16(土) 27(水) 28(木)

6月
10(水) 11(木) 22(月)※ 23(火)

7月
4(土)※ 5(日) 8(水) 17(金)※ 20(月) 29(水)

8月
1(土) 11(火) 16(日)23(日)28(金)

9月
4(金) 12(土) 17(木) 24(木) 29(火)※

10月
6(火)9(金)12(月) 21(水)※24(土)

11月
2(月)※ 5(木) 17(火) 18(水) 29(日) 30(月)

12月
13(日) 14(月)※ 25(金) 26(土)


(※)一粒万倍日 + その他の吉日

引用元:http://www.xn--4gqo86mdy5bh3z.net/

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  [No.3625] 紫水晶の太陽 投稿者:NOAH   投稿日:2015/03/10(Tue) 08:17:55   163clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:一粒万倍】 【企画】 【ドレディア】 【サザンドラ

イッシュ地方ヒウンシティ

まだ街は起きず、朝霧が港を優しく包み込む。
ポケモンセンターの電子看板以外は全て、物言わぬただの黒壁の板になってるだけ。
そんな優しい白の世界に、そっと包まれた、2つの影が溶け込んでいた


「朝の散歩には、まだ少し早かったかな。」


右手から肩にかけて痣が残るドレディア。名はジャスミン
紫の影は女性で、ドレディアの主人の『リーリエ』。
仲間や友人、それから双子の弟からは『リア』の愛称で親しまれている。


「ねぇ、ジャスミン。少し……遠出しようか。」


ジャスミンは、車椅子に乗る自分の主の姿を見る。

ロイヤルパープルのウルフヘアー。
チェリーピンクのつり気味の猫目。
左の頬から首、そして肩にかけて残る大きな火傷痕。


「れでぃ……。」

「心配しないで。今日は調子がいいんだ。このまま橋を越えてヤグルマの森にでも行くかい⁇それとも4番道路の方にでも行こうか?」


けど、まだ4番道路の方は冷えるだろうから、森の方かな。のんびりと、そして楽しそうに話す女性の顔を、ただ眺めながら、ドレディアは思案する。
彼女はなぜ、こんなにも強いのだろうか、と。








肉と血が焼ける臭い

大木が燃え、草が燃え、充満する煙と燃え盛る業火が生き物たちを追い詰めていく

雨が降る気配は無い。
いっそのこと清々しいほどに晴れ渡る、とてつもなく憎たらしい星月夜だ。


「っ、……ハイドロポンプは尽きた……水の波動も少ないし、雨乞いをしても、全てを消すほどにはならない………。」


火の粉の中をくぐり抜けながら走る紫の小さな影。
その背中には一匹のドレディア。
右腕には濡れたハンカチが当てられているが、よくみれば赤く爛れているのが布の下から見え隠れしている


「さて……この子を背負いながら走るのもそろそろ限界か………っ、!」


目の前に燃え盛る大木が落ちてきて、思わず足を止める。
散った大きめの火の粉が顔にかかったようだが、ドレディアを背中に抱えた紫の髪の『彼女』はおかまいなく、まだ燃えていない部分に足をかけて飛び越えた。


「っ、……あとで冷やすか。それよりも森を抜けなきゃね。こうなら最終手段だ。」


紫の彼女……リーリエはひとまず飛び越えた大木から少し離れて、一度ドレディアを背中から降ろすと、バックルから下げたモンスターボールのうちのひとつを宙に投げた。

そこから現れた、緑の体の三つ首の巨体のサザンドラが、するりとリーリエの前に降りてきた。


「私は他に逃げ遅れていないポケモンや人がいないか、探せる範囲で探してくる。レディはこの子を背中に乗せて、近くのポケモンセンターまで運んでやってくれ。……そんな顔をするな、レディ。これが私の仕事なんだから。」


頼んだよ、と告げてから、レディと呼ばれた色違いのサザンドラの背に、右腕に痛々しく、そして生々しい火傷を負い、気絶した状態のドレディアを乗せた。ドレディアが落ちないように、近くに運良く、燃えることなく残っていた長めの蔦を使って括り付けると、リーリエは送り出す。

大丈夫、心配しないでと笑いかけた。サザンドラは、主人である彼女のその一言を信じて、背中に乗せたドレディアが落ちぬようにゆっくりと高度をあげて、東に進む。


その先は、シッポウシティ。ここから1番近い場所はそこだろうと判断したらしいサザンドラを見送って、リーリエは視線を未だ燃え盛るヤグルマの森に移す。



「………さて。たとえこの命尽き果てようとも、師匠からの教えと、自らの誓いは守らなきゃね。」



決意に身を固めたその表情(かお)に、いっぺんの曇りも見当たらなかった。









3月10日(火)
一粒万倍企画掲載

砂糖水さんがリラさんのお話しを待ってくださったので
サプライズですわん

あと私事ですが誕生日迎えました。
これからまた1年がんばっていきます。



NOAH
.


  [No.3627] ポケモンと人の関係 投稿者:WK   投稿日:2015/03/15(Sun) 22:08:08   115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※ポケモンと人の恋愛みたいな内容です 苦手な方はバックプリーズ










人がポケモンを選んで捕獲したり、友達になって側にいて欲しいと願うのと同じように、ポケモンが人を選んで側にいて欲しいと考えることだって絶対あると思うんだ。
だっていくら捕獲してボールで縛ったって、その気になれば自分から壊して逃げることだって、ポケモンはできるはずだよ。
何せポケモンは人に出来ないことが、沢山できるんだから。炎を吐いたり、毒を操ったりなんて人はできないでしょ?
もちろん、時間を操ったり空間を歪ませたり、果てにはこの世の裏側に自由に行けるなんてできない。
人には過ぎた能力だ。

ポケモン側が人を選んで、一緒にいたいと思う。でも、もし人がそれを嫌がったら、そのポケモンはどうするんだろう。
反対のパターンは結構聞くよね。珍しいポケモンが欲しくてずっとアプローチしてるのに、肝心のポケモンに拒絶されて泣いてるトレーナー。
私の友達に、初心者ポケモンを選ぶ時にヒノアラシを選んだのに、一緒にいたワニノコがすごい懐いちゃって、どうすることもできなくて、特例中の特例で二匹ともパートナーにした子がいるよ。
ちなみに今、その子はバクフーンとオーダイルをエースにしてる。バクフーンは頼れる相棒なんだけど、オーダイルは大変なんだって。
もう図体がでかいのに、寝る時にベッドに潜り込んできたりするらしい。おかげで今までベッドを三回買い換えたって。
うん、そうだね。
これが前述した『ポケモン側が人を選んで、一緒にいたいと思うパターン』だね。
まあ、彼女は仕方ないな、って感じで嫌がってるわけじゃない。でも、本当に拒絶するトレーナーもいるかもしれない。
小さいポケモンならまだしも、かなり図体がでかかったらどうなるか......。
怖いね。色んな意味で。

これの延長線の話で、ポケモンと人の恋愛がある。シンオウ神話にもあるけど、昔は割と普通のことだったらしいね。
でも、私考えるんだ。もしこの恋愛が、一方通行のベクトルだったら、って。
人がポケモンを一方的に愛し、その反対でポケモンが人を一方的に愛する。
人同士なら、所謂ストーカーの域に入ることもあるかもしれないね。でも、警察が動けるならまだ良いのかもしれない。
いや、ストーカーは最低だと思うけど!
ポケモンが、人を一方的に愛したらどうなるんだろうね。
人は普通のトレーナー。もしかしたら恋人がいるかもしれない。人間のね。
人はポケモンはポケモンとしか思ってない。頼れる仲間や友達として見ているかもしれないけど、所詮それまで。
ポケモンはそれが耐えられない。自分を一人......一体の異性として見て欲しい。
どんな行動に出るか。
さっき言ったように、ボールで縛られていても彼らはそれを壊せる。人よりずっと優れた体や能力も持ち合わせている。
そこから、どんな答えが出るか。
.
.....前にね、ある人に出会ったことがあるの。女の人。とっても綺麗で、賢くて、優しかった。
ひょんなことから出会ったんだけど、友達になってお互いの家を行き来したりしたんだよね。
でもね、後でお爺ちゃんが教えてくれた。
その人、たまにその場所に来るんだって。それも二十年や三十年周期で。.
.....おかしいでしょ? すごい若く見えるんだよ。皺なんて一つもない美女。
どういうこと、って聞いたら、お爺ちゃんが悲しそうな顔で言った。

『あの人はなぁ、時の神に愛されてしまったんだ』

シンオウ神話に登場する時の神、ディアルガ。巷では伝説のポケモンと呼ばれる。
その人は若い時......もう七十年近く前に、ディアルガに出会った。美しいだけじゃなく、優しくて賢いその人に、彼はすっかり心を奪われてしまった。
人には寿命がある。自分が瞬きする瞬間しか彼女と一緒にいられないことを嫌がったディアルガは、彼女の時間を停めてしまった。
彼女の実年齢は、もう九十近いらしい。
いくら生きても、死ぬことを許されない。たとえ発狂したとしても。
全ては神様の気持ち次第。

あり得ない話じゃないんだ。全然例が無いだけで。
ジョウト地方、タンバシティでは昔、大時化になった海を鎮めてもらうために若い娘を海神の花嫁として捧げた話もある。
これは生贄に近いかもしれないけど、とにかく人とポケモンの関係っていうのは、ただの友達や仲間だけじゃない、かなり複雑なところまで来てるってこと。
というか、昔は普通だったんだけどね。いつからタブーみたいに言われるようになったのかは、私にも分からない。


ーーーーーーーーーーーーーー
一粒万倍日だということを思い出して一時間くらいで書いた。
無理矢理感半端ない。


  [No.3630] Re: ポケモンと人の関係 投稿者:あいがる   投稿日:2015/03/18(Wed) 12:28:56   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

人間とポケモンの関係にスポットをあてるとき、恋愛関係にしろ友情関係にしろ、どうしても人間視点を基準にして見てしまいがちですが、WKさんの今回のお話はポケモンの視点を始点としてこの関係を考察していたため、今までにない新鮮な余韻を感じることができました。
一途な片思いで特にこれといった盛り上がりもなく恋愛が終結するという類の話は私たち現実の人間界での飲み会の席でもよく聞くのですが(笑)、ポケモンが自らの想いを素直に表現できないままトレーナーと長い間旅を続け、その結果どうやって自分の気持ちに決着をつけなければならないのかを考えると、ちょっと儚げなドラマが展開しそうでドキドキしました。


  [No.3631] Re: ポケモンと人の関係 投稿者:WK   投稿日:2015/03/18(Wed) 17:50:03   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 コメントありがとうございます!


> 人間とポケモンの関係にスポットをあてるとき、恋愛関係にしろ友情関係にしろ、どうしても人間視点を基準にして見てしまいがちですが、WKさんの今回のお話はポケモンの視点を始点としてこの関係を考察していたため、今までにない新鮮な余韻を感じることができました。

 相手視点で書いてみるのも楽しいんですよね。この時どう思っていたのか、とか。
 本人が気付かなくても、ちょっととした仕草に意味があったりとか。それを書けるのが楽しくて。


> 一途な片思いで特にこれといった盛り上がりもなく恋愛が終結するという類の話は私たち現実の人間界での飲み会の席でもよく聞くのですが(笑)、ポケモンが自らの想いを素直に表現できないままトレーナーと長い間旅を続け、その結果どうやって自分の気持ちに決着をつけなければならないのかを考えると、ちょっと儚げなドラマが展開しそうでドキドキしました。

 反対に、ずっと一緒にいたのに、自分の気持ちに気付いたのはトレーナーがいなくなってから……とか、
そういうのもありそうですね。

 ありがとうございました!


  [No.3628] 祈りが雑音に変わるとき 投稿者:逆行   投稿日:2015/03/15(Sun) 23:30:00   84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

――全ての命は別の命と出会い、何かを失う 


1

 少々の霧に覆い被されつつも、山は幾多の深緑の木々を身に纏って、毅然と広汎にそびえ立っている。
 山の至る所に、ポケモンたちがとても平和に暮らしている。かつては違った。この辺りは、密猟が行われていた。毎日恐ろしくて熟睡さえままならず、仲間が次第に減っていく悲惨な状況に、ポケモン達は心身共に疲れ果てていた。彼らが人間を心底憎んだのは言うまでもない。
 最近密猟の規制が厳重化され、ようやく彼らの元に平穏が訪れた。平和、という状態がどんなものかさえ忘れかけていたポケモン達は、この上ない絶望の反動によってとても幸せだと感じるようになった。最も、人間達への恨みの感情が消え失せたわけではないが。
 種族間で協力して見張り役を割り当てていた経験と、人間に対する共通の思いから、ポケモン達は仲がよく連帯感に優れていた。それぞれの縄張りを荒らすものなどいないし、また、誤って別の縄張りに足を入れてしまった者を、強く責め立てることもなかった。


 そんな森の、おおよそ真ん中に位置する場所。そこは、非常に騒がしい所だった。そこに、ほとんど毎日のように、向かうポケモンがいた。
 彼女の名は、『アラン』という。チルット、という鳥系のポケモンだ。綿雲のようなふわふわの翼が特徴的で、体は空のように素朴な水色一色で塗られている。目はくりんとしており、可愛らしいのでペットとしても人気が高い。
 アランはいつも、ここで歌を歌っていた。歌うときは、がやがやした場所は回避するのが普通だ。アランは違った。むしろ静寂が流れる所では決して、声をメロディに乗せることはしなかった。それは、彼女なりの理由があってのことであった。
 倒れた巨木に、ちょこんと乗る。チルットは綺麗好きな種族だが、野生のポケモンは木に生えた苔は汚いと感じないので、アランは緑のカサカサを避けることはしない。ふわふわの翼を大きく広げ、嘴を開いて息を吸い込む。そして、歌い始めた。
 アランの歌声は、とてもよく響く。しかし森のポケモン達は、ソプラノのその声に特に反応することなく、今までと変わりない振る舞いをする。いつものことであり、気にしていない。それについてアランは特に、何も思っていない。
 自然音と生活音、彼女の歌声。それらの音が、極めて混沌としていた。
 アランは、この混沌が好きだった。自分の歌と森の音が混ざり合う。それが何よりも気持ち良かった。決して、自分が発した以外の音を、うるさくて邪魔なものとは思わなかった。
 アランは歌い終える。拍手などみじんも起こらないが、満足そうな表情で帰っていった。
 このチルットは、誰に聞かせるためでなく、ただ自分の楽しみのために、心の解放を味わうために、歌を歌っている。


2

 突如、あの子は現れた。
 彼女の名前は、『サラ』と言った。アランと同じ、チルットだった。アランよりも体の色が薄く、嘴は若干丸っこかった。しかし、そんな外見の違いは、アランにとってはどうでもよかった。   
 サラのことを知っている者、知らない者、だいたい半々であった。知っているポケモンは少し心配な表情をしつつ、サラの元まで駆け寄った。サラの笑顔を見て、話を聞いた後、彼らは安心したようだった。
 一通り知り合いと会話し、初対面だが声をかけてくれたヒトとも話した後、サラはその場にいた何匹かのポケモンの前で歌を披露した。
 歌うことが同じく好きであり、なおかつ同じ種族であるので、アランは驚くと共にとても親近感が湧いた。もちろんアランは、サラの歌を近くで聞こうとした。
 ところが。
 歌い始めてすぐに、これはあまり自分の好きなものではないとアランは確信した。どこか彼女の歌には、不純物が混ざっている、そんな気がした。何よりも、彼女自身がのびのびしてないように思えた。
 にも拘らず、切りの良い所で歌を切った後、みんながこぞって拍手をしていたことにアランは驚愕した。もっと聞きたかったなあ、などとみんな口々に喋った。
 サラは一匹一匹に丁寧にお礼をして、その後、もう私はここにはいられないなどと悲しげな表情で言った。不意に強風が吹いて、その風に乗るようにして飛び去っていった。
 半衝動的にアランはサラを急いで追いかけた。なぜあんなにあの子の歌が自分に受け付けなかったのか、それが気になっていた。そもそも彼女が何者なのか、どこからやってきたのか、それすら知らない。彼女のことが少し分かれば、その理由がつかめるかもしれない。ちょっと自分は自己中心的すぎるのではとも思ったが、どうしても知りたかった。
 サラが森を出る寸でのところで、アランは追いつくことができた。サラは、焦った表情で振り返った。自分を食べようと誰かが狙ってきたのではないかと思ったのかもしれない。迫ってきた者の正体が同種族だと分かり、ほっとした表情になった。驚かせてごめんと、即座にサラは謝罪する。
「初めまして。私はアランって言います。あなたに聞きたいことがあるのだけど、どこからやってきたの? 後、なんでもう帰っちゃうの?」
 聞いても失礼のないことから聞いていく。サラは極めて丁寧な口調で答えた。
「私は、人間に捕まっているのです。主人がいない間は自由に出入りができます。けれども、そろそろ帰らないと。今日は久し振りに、みんなと話せて楽しかったですよ」
 野生ではないと知って、アランははっとなった。
 人間は、モンスターボールというものを使って、ポケモンを捕まえる。捕まえたポケモンは、戦わせたり、ペットにしたり、仕事を一緒にやらせたりする。一般的にはあまりいい扱いはされないので、野生のポケモンのほとんどは捕まりたくないと考えている。この人間がひどく気に入ったなど言って、自分から捕まりにいく者も中にはいる。野生のポケモン達は、大概その者を行かせまいと食い止めようとするが、大概それでも捕まりに行ってしまう。そして、その後である。野生のポケモン達は、人間の下についた奴の悪口を、口々に言い始めるのだ。例え仲が良かった者でも、手のひらを返すように叩く。あいつはろくでもない奴だと。
 特にこの森のポケモン達は、人間に対する恨みが強いわけだから、その傾向が非常に強く、アランは傍から見て恐ろしいと感じていた。アランはこれといって、人間に自ら捕まるポケモンを、嫌いだとも好きだとも思っていなかった。興味がなかったのだ。
「では、私もう行きます」
 なんと返していいものか分からず、アランは黙りこんでしまった。気まずい沈黙が流れ、サラは丁寧におじぎをして帰ってしまった
アランは高度を上げた。付近の町が見渡せる所まで飛んだ。サラの飛薄い水色の体を、じっと見つめていた。


 アランが戻ると、サラの悪口が耳に入った。やっぱりかと空で聞きながらアランはため息を付く。サラと仲良く話していたヒト達は、手のひらを返して彼女を蔑む。決して本人の前で、その本音を漏らすことはしない。陰湿であり、気分が良くないことだが、仕方がないことだとアランは思っていた。
 どころか、サラが悪く言われているのを知って、笑みが溢れるのを必死に堪えていた。アランはひっそりと喜んでいた。サラに申し訳ないと、罪悪感を抱きつつも。

3 


 翌日のことだった。アランは、サラの家の前まで来ていた。アランは昨日、場所を特定しておいたのだ。
 他人の家を除くという行為は、些か道理に反するかもしれないし、それに、人間の町になんか飛び出しては、捕まる危険もあるけれども、そんなこともお構いなしにできるほど、アランは例の理由に対する関心の気持ちが増幅してしまった。
 サラの家というよりか、サラの主人の家という方が適切だろうか。そんなことを考えつつ、そっと窓から覗いてみる。小刻みに揺れている綿雲をすぐに見つけた。少々見えにくいが、サラは一人の人間と対峙していることが判明した。
 彼女は、その人間に歌を聞かせていた。人間は歌を聞きながらうんうんと頷いていた。
 やはりアランの耳には、その歌は綺麗に届かなかった。そして、なぜ彼女の歌には、不純物が混ざっているように聞こえるのか、その理由は朧気ながら判明してきた感じだった。
 歌い終える。すると、人間があれやこれやとサラに指示を出し始めた。そしてサラはその指示に、時々難しそうな表情を見せつつも頻りに頷き、最後には真面目な表情になった。再び歌い始める。先程言われた箇所を、修正しながら。
 再び歌い終える。サラは不意に、こっちを見てきた。少しだけ驚愕したような顔をした後、主人の方に笑いかけた後、ドアを開けてもらって部屋を出た。
 アランは玄関で待っていた。だがサラは二階の窓から飛んで出てきた。サラは、少しだけ戸惑いを見せるがすぐに、
「とりあえず、人間に見つかったら面倒なので、森の方へ行きましょう」
 彼女の邪魔をしてしまい、アランは申し訳なく思った。とりあえず彼女の指示に従い、森へ移動することにした。


「えっと、その、何のようでしょうか」
 森へ移動し、彼女が口を開ける。歌い終えた後で少々声が枯れていた。
「いや、なんか、その、あなたのことが気になって見に来ちゃって。邪魔してしまってごめん」
「下手に森から飛び出さない方がいいですよ。どうして私のことなんかが気になっているのですか」
「なんというか、人間の下で生活するのってどういう感じなのかなって」
 彼女は遠回しに質問した。すると彼女は途端に笑顔になった。やや早口になって、話始めたのだ。
「とってもいいですよ。人間の下で生活するのは。楽しいです。私が歌を上手く歌い終わると、主人は手を叩いて褒めてくれます。ちゃんと歌っていなかったときは、誠意を込めてしかってくれます。彼と一緒にコンクールで優勝することを目指しているのですよ。優勝すれば、主人はきっと喜んでくれます。だから私はもっと練習しちゃいますよ!」
 話終わって彼女はしまったという顔をして
「すいません、つい熱くなってしまいました。人間を心底憎んでいるヒトもいるのに、こんなことを嬉々と話すのは不謹慎でした」
「あ、大丈夫だよ。私は平気だから。それよりも、そうやって人間を喜ばすために歌うのって、楽しいの?」
 気を取り直して私は一番聞きたいことを質問した。すると彼女はさも当然のように、
「楽しいに決まっているじゃないですか」
 そう言い放った
 人間の下にいること、別にそれはいいと思う。自分の楽しみのために歌を歌わないのはどうかとアランは思った。アランはここで、腑に落ちた表情になった。だから自分は彼女の歌を、あまりよく感じなかったのだと。ぴったりと合点がいった。
「でも、私は自分の楽しみのために歌った方がいいと思う」
 自分の考え強くぶつけてみた。そしたら、彼女は少し考えて、
「でも、それって自己満足じゃないですか。せっかくなんですから、誰かを楽しまさせた方がいいと私は思うのです」
 そこで会話が止まってしまった。胸の中に確かに違和感は存在しているのに、なんと言葉にして言い返せばいいのか分からなかった。


 サラと別れ、帰りながらアランは一匹で考える。
 アランは決めた。また明日も、彼女の姿を見に行くことを。やっぱりどうしても、彼女は腑に落ちなかったのだ。


 4

 ここ最近何やら変なチルットに目をつけられていることに、サラは内心うんざりとしていた。正直面倒ではあるけれども、相手を必要以上に刺激させないように、サラはちゃんと敬語で接していた。心の中でどんなに相手に対して苛立っても、常に敬語に接し、反抗の意思を見せないようにするのが、世の中を上手に渡るコツだ、などとサラは考えていた。アランと名乗っていたチルットは、そこまで怒るようなタイプではないと思うけれども念のため。
 アランはいったい、何を考えているのだろう。自分が人間の下にいるのが、よほど癪に障ったのだろうか。でもそれよりも、歌を自分のためではなく、他人のために歌うって話、そっちの方が、真剣な眼差しを向けてきていた。
 野生のポケモンと価値観が違うのは当たり前。だから、そこまで別に気にする必要はないと自分に言い聞かせる。
 今日もサラは歌を歌う。今度のコンクールでは絶対に一位を取るつもりだ。主人を喜ばせるためには一位を取る他はない。
 主人は現在、買い物に行っていて家にいない一匹で練習することになる。少し寂しいけれども、仕方がないとサラは思った。一人で練習するのは今日が初めてではない。けれども、あの子と話してしまってから、主人が隣にいるという状況を改めてありがたいと感じ、意識してしまったから寂しいと感じてしまった。

 
 



 今日中に完成させる予定てしたが、まだ半分もおわってません。嘘かもしれません。
 自分の小説にしては、かなり平和主義な小説です。嘘かもしれません。
 最初一人称で書いてたけど、三人称に変えました。嘘かもしれません。
 たぶん後一週間くらいで書き終わります。嘘かもしれません。
 

 


  [No.3629] 斜め斬りだ――――――――ッ!! 投稿者:水雲(もつく)   《URL》   投稿日:2015/03/15(Sun) 23:56:15   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



 なんでいあいぎり覚えられないの?
 これが、主人から、ザングースである『あなた』に向けられた言葉だった。
 あってはならない一言だった。

 詳しく話そうとも、それほど長い事情でもない。
 地方はジョウト。地点はしぜんこうえん。季節は春。気候は晴天。時刻は午前。そこを3時の方角へ抜けた先にある36ばんどうろ。次なる目的地はエンジュシティ。
 その途中、一本の木を斬り倒そうとするも、残念ながら鋭利的な手段を持つのは、あなたしかいなかった。
 立ち往生もままならないため、やむえずしぜんこうえんのゲートへと引き返し、対策を練っていたさなか、そんな不満がふと主人の口からこぼれたのだった。

 ううん、これじゃあ先に進めないよね。
 落胆を思わせる主人のつぶやきが、こころに深く差し込まれる。
 あなたは考える。必死で考える。
 借りもある、恩もある。いくつもの昼と夜をともにし、戦火を交えた。斬撃こそ我が生涯であるはずだった。このまま退場を宣告されるのは、ネコイタチポケモンの名が廃るというもの。
 主人の言葉をそのまま裏返せば、自分にも「斬る」ことへのポテンシャルが秘められているかもしれないと言うことにほかならない。この場において期待を裏切るわけにはいかなかった。

 どうしたの?
 あなたはすっくと立ち上がり、パフォーマンスで主人の気を引いた。独特の呼吸術を開始。特有の套路(とうろ)を踏む。目の前に木があると仮定し、音も無く素振りをしてみせる。
 え、自力で覚える?
 意図をつかんでもらったや否や、あなたは何度もうなずき、細く赤い双眸を凛々とさせ、しぜんこうえんへの扉を爪指す。

 よく分からないけど――まあいっか。せっかくだから、わたしたちはここで休憩するね。その間、納得いくまで特訓してみる?
 最後にもう一度、あなたは力強く。


   ― † ―


「いあいぎり知ってるかって――まあ、知ってるけど」
 しぜんこうえんへと放たれたあなたは、一時的に野生の血を取り戻す。草むらへともぐり、走り抜け、一匹の野生のストライクを見事ひっかけた。
「ああ、そういうことね。道中の木が邪魔して、それをぶった斬らないと、あんたとあんたの主人は先に進めない、と」
 さあ教えてくれ今すぐ見せてくれ、とばかりにあなたは研ぎすまされた爪と目を向ける。
「無理よ」
 にべもねえ。
「ちょ、あたしに怒っても仕方ないでしょ。何もいあいぎりにこだわる必要はないんじゃないかってこと」
 ちょっと見てなさい、とストライクは両腕の鎌をもたげ、両翼をゆるく展開した。
 ほんのりと、前かがみになる。

 それは、歩法から始まった。
 勁道を大文字に開く。

 ストライクは踊る。上体は酒に酔っているようでもあり、しかし足取りは実に安定している。体内を静かにうごめくものに身を任せているようにも見える。それらがまとまった一連の動作であるのは、ストライクが両翼を薫風(くんぷう)に沿わせているからであり、しかれどもあなたは気づかない。動きの粘りは中々に強く、利き腕ではないらしい左の鎌は特に鈍く間合いを取っている。両の足は数秒と地を噛むことがなく、過去の踊りは二度と再現されることはなく、型にはまった一挙一動はまるでない。
 片足を振りあげての跳躍。目に定まらぬ何かを背負うような反り。重力に逆らい、ストライクの上と下が入れ替わり、戻り、音もなく着
 その時、臨戦心理の錠が外れる音を、あなたは確かに聞いた。
 突如としてストライクが緑の残像となった。

 木のふもとへ疾風のごとく忍び寄ったストライクが、両翼を完全に開放。渦巻く闘気が足から立ちのぼり、腰にためていた右鎌を振り払った。
 木そのものが、切断されたことを自覚していなかったかのように、妙な間があったのは事実だ。やがて木は斜めに二分され、大きな衝撃音と共に崩れ落ちた。

 ふう、気功のために取り込んでいた空気をストライクは吐いた。
「どう? あたしのとっておきの型。いあいぎりは覚えられないでしょうけど、これでも『斬る』ことに変わりないから。あんたが今まで発揮した勁道がどんなのかは知らないけど、柔よく剛を制すって言うでしょ? 一番やっちゃいけないのは、力任せに引き抜くこと。自慢の爪がぼろぼろになるから。あたしのを完璧に真似しようとするのもバツ。自分の力のバランスポイントを見つけることが大事。分かった?」
 何をやったのかは終始分からずじまいだが、教えたいとする肝はなんとなしに把握した。とにかく、やってみようと思った。


   ― † ―


 見たことを見たままに再構築するのがそもそもどだい不可能な話ではあるが、形から入らぬことには始まらない。

 それは、人間の称する瞑想に近い何かであった。
 四肢を大樹が張る根ととらえ、大地から力を吸い上げるイメージ。
 静かに、勁道を開く。
 目は閉じたまま。

 まぶたの闇。木はまだ視えない。
 己の爪を、腕の延長とする。
 上体をゆっくりと持ち上げ、自分の力が自然と全身に巡るよう、一番無駄のない姿勢をとる。両腕を正眼で構えると、爪の先の集中力が、密度濃いものとなってゆく。
 この瞬間から、両腕から懐までが、あなたの世界の全てとなる。
 この世界の境目は、まさしく生と死を分かつ閃きだ。

 視界の残像が闇に遠のいていき、意識もぼやけてゆく。
 緑の風。
 ゆらり、と上体が右へ傾いた。
 転倒する。
 直前で体がねじれ、左後ろ足が背後へ回った。
 二つの後ろ足で、あなたは、軽く踊ってみせる。
 陽の光を浴びた黒金色の爪は、空を裂いて風に滑る。焼け付くような爪の残滓を曳き、あなたの体は両腕にひっぱられ、独楽のようなたおやかな旋転を得る。円を成すこの世界にて、いよいよ内外の空気の差というものを感じ始める。ここへ踏み込もうとする、生きとし生けるものは全て抜け殻へと還り、二度と生きては帰さない。
 柔らかく地を踏み鳴らし、穏やかに流れるような舞踊。空を制するストライクから学び得た技能による、新たな演舞。風を取り込み、空気と化す。草木とともに風にそよがれ、なおも両腕は円弧の軌跡。

 まぶたの闇。その向こうに、木の気配が視えた。
 開眼。
 液体金属が一滴と遅れることのない滑らかな初動を持って、あなたは猪突。

 豪傑な力などいらなかった。
 流れにあわせて右腕を払っただけだった。
 爪の軌道線を阻むものは何もなく、ただ物体がそこにあるのみ。
 真正面へと接近してきた木の胴体に一振り、登りの斬撃を走り込ませる。

 自重に耐えきれなくなったそれが、斬撃と同じ傾斜角を持って、垂直にずり落ちる。


   ― † ―


 ついにやった。
 やってしまった。
 これをいあいぎりと呼ぶのかはまだ決めかねるが、それ以上の手応えが全身に流れた。主人の行く手を遮る木々どもは今のうちに切り株となる運命を覚悟しておいたほうが後々気楽だ、とすらあなたは思う。
 ストライクはとっくの前に野へ帰ってしまったようだが、これなら及第点くらいはくれるだろうと、自身に信じこませた。

 あ、おっかえりー! なかなか戻ってこないから心配してたんだよ?
 ゲートへ帰還したあなたは主人の足下へとすりより、首尾良く行ったことのサインを送る。

 おお、その感じ、なにか掴んだみたいだね? そうそう、こっちにもいいニュース。新しい仲間が加わったの。
 心臓が石になる呪いをかけられた気がした。
 ものすごく、
 ものすごく、嫌な予感。

「あら、あんたの主人って、この人だったの?」
 あのストライクだった。

 この子ならね、あの木が斬れるかもしれないと思ってお願いしてみたんだ。だから――どうしたの、顔が怖いよ?
「へえ、なんていうか、妙な偶然ね。変なところから始まっちゃった縁だけど、これからもよろ――ちょ、何するの危ないじゃないそんなもの振り回してやめなさいこら! 恩を徒で返す気なの!?」

 悲惨極まりないため、ゲートにて起こったその喧噪劇は、一文で記すにとどめておこう。
「斬」をこころ得た両者による、爪と鎌が交錯しあうその剣戟のありさまは、野次馬目でもそーとーえげつないものであった。

 あなたはもう、訳が分からない。


   ― † ―


 ちなみに、だが。
 当初の目的であったあの木は、なんてこたねえ、ただのウソッキーであり、あなたでもストライクでも役に立たず、これっっっぽっっっちも歯が立たなかった。

 今はただ、あなたと主人とストライクのしあわせを祈るばかりである。


  ――――


 3年くらい前に書いて、そのまま成仏したヤツです。二人称小説にハマっていたころだったかと……。
 サブタイトルは、とある自作への小ネタです。


  [No.3655] the battle 投稿者:WK   投稿日:2015/03/22(Sun) 18:17:56   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ※オリジナルの合間にバトル描写の練習として書いた短編(の短編の短編)です いきなり始まっていきなり終わります
 



 一、ユエ VS ミユ

不思議な雰囲気を持つ子ね、とユエは思っていた。
 黒い髪に瞳、その年齢にそぐわぬ、黒いスーツ姿。おまけに使うポケモンも、トレーナーとしての技術も桁違い……。
 どうして今まで、こんな子が表舞台に名を並べなかったのかしら。ま、いいけどね。
 ワケアリってことも考えられるし、余計な詮索はしないのが、カフェのマスターの仕事の一つでもあるでしょ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
 礼儀正しくお辞儀をするミユを見て、今は試合に集中しよう、とユエは腹を括った。
「――それでは、ライモンシティのユエ対、ミアレシティのミユのバトルを始めます。 使用ポケモンは二体。 入れ替えは自由。 どちらかのポケモンが両方とも戦闘不能になった時点で、勝敗が決定します」
 観客の多さに圧倒される。自分が今、どんな場所にいるのかが嫌でも思い知らされる。
 勝てば進める。負ければそこで即退場。まるで、ピンと張られた綱の上を命綱無しで渡っているようだ。
 カタカタとボールが揺れ、ユエは我に帰った。
「……そうね。 今は集中しましょ」
 試合が始まれば、余計なことを考える暇などない。
「それでは、試合開始!」
 審判の声に、ユエとミユが同時にボールを投げた。

「行くわよ! バクフーン!」
「ゲッコウガ、任務開始です」

 ユエはバクフーン、ミユはゲッコウガを繰り出した。出て来たゲッコウガを見て、ユエがおお、と声を上げる。
 それもそのはずだ。
 本来、ゲッコウガは青色として知られている。しかし、彼女の持つゲッコウガは黒色だった。
 俗に言う、“色違い”だ。
「すごいわね。 色違いなんて」
「ええ。 この色が役に立ってくれるんです」
 どういう意味だろう……。 と思ったが、ユエは黙っていた。
「では、参りましょうか。 ……ゲッコウガ、“うちおとす”」
ゲッコウガが構えた。懐から小さな石の玉を取り出し、如意朱のように打ち出す。
「躱して“きあいパンチ”!」
 ユエの言葉に、バクフーンが飛んできた石を躱していく。細長い、柔らかい体を器用に使ったアクロバティックな動きだ。
 “うちおとす”は、遠距離だからこそ効果を成す技だ。おまけに“きあいパンチ”は、攻撃を受けなければ莫大な威力と共に撃つことができる。そして、極めつけは――。
 間合いを詰められ、行動不能に陥ったゲッコウガの腹部に、バクフーンの固い拳がめり込んだ。
「……かくとうタイプの技でしたね」
「そうよ! ゲッコウガは水だけじゃない、悪タイプも持っていたはず! 効果は抜群よ!」
 押し切られ、ゲッコウガが地面を滑って行く。だが、流石に鍛えられている。キッと目を尖らせ、足で滑りを止めた。
「まだいけますね? “かげぶんしん”」
 ミユの指示に、ゲッコウガが分身した。バクフーンを中心に、合計十の分身が現れる。
 戸惑うバクフーン。
「“ハイドロポンプ”一斉攻撃!」
 十一匹のゲッコウガが飛び上がった。体の中心に水の玉を作り、一斉に放射する。
 絶体絶命――かと思いきや、ユエが叫んだ。
「“ふんか”で本体を見つけるのよ!」
 迷いの色が見えていたバクフーンの目が、再び鋭くなる。唸り声をあげ、地面を叩く。
 背中の赤い模様から炎がぶわっと広がり、巨大な岩が炎と共に波を打ってゲッコウガたちに襲い掛かった。
構えていたものの、発射していなかったことが功を成したらしい。直撃した分身が、一斉に消えて行く。
最後に残ったゲッコウガに、噴火が直撃したのと、“ハイドロポンプ”が放たれたのは同時だった。
莫大な威力の炎と水が合わさり、フィールドに煙が充満する。
『煙で何も見えない! 二体はどうなっているのか――!?』
実況者の声も届かない。二人は完全に、バトルの世界に没頭していた。やがて煙が晴れ、フィールドの全容が見えて来る。
「!」
 ユエは息を呑み、ミユはその目を鋭い物にした。
 フィールドの中心。二体が睨み合っている。両方とも満身創痍だが、睨み合う力は残っているようだ。
『おおっと! 二体ともまだ立っている!』
「バクフーン!」
「ゲッコウガ……」
 それぞれのトレーナーが、それぞれのパートナーの名前を呼んだ時だった。

 ぐらり、とバクフーンの体が傾いた。ユエが目を見開く。
 ミユが肩を下ろした、その時――。

ゲッコウガが白目を剥き、仰向けになる。
両者はそのまま持ちこたえることなく、同時にフィールドに倒れこんだ。
審判が駆け寄り、両方の旗を上げる。

「――ダブルノックアウト! 両者とも、戦闘不能になります!」

 観客席が湧いた。
 茫然としていたユエだったが、不意に状況を確認し、空のボールを取り出す。
「戻って、バクフーン」
 ミユも同じだった。目を閉じ、ゲッコウガをボールに戻す。
「ご苦労様です。 後はこちらに任せましょう」
「ゆっくり休んでね」
 ユエがミユを見た。
「やるじゃない」
「そちらこそ。 うちのエースがやられるなんて、思ってもいませんでした」
 口調とは裏腹に、ミユの顔は能面そのものだ。楽しさも伝わってこないが、悔しさも伝わってこない。
 奇妙な感じがして、ユエはぶるっと体を震わせた。
「貴方、何のためにこの大会に出てるの?」
 質問の内容に面食らったのか、ミユが押し黙った。だが、すぐに答える。
「それは、このバトルの場に必要なことでしょうか」
「……」
「第二試合を始めたいのですが、よろしいですか?」
審判の言葉に、ユエは煮え切らない気持ちを抱いたまま、頷いた。
『さあ、これで勝負が決まります。 二戦目、使用ポケモンは何だ!?』
「お願い、キリキザン!」
 赤と黒の影。ユエが出したのは、悪・鋼タイプのキリキザンだった。素早さが高い、即効型のポケモンとして知られている。
 手持ち登録はしていないものの、ユエの頼れるパートナーとして幾度も危機を乗り越えて来た、大切な仲間だ。
 対するミユは――。
「任務続行です、アギルダー」
 虫・悪タイプのアギルダーだった。進化前のチョボマキを、カブルモと通信交換することで進化するという、不思議なポケモンだ。
 悪タイプ、おまけに素早さ対決となった対戦カード。
「第二試合、開始!」
「一気に決めるわよ! キリキザン、“つじぎり”!」
 一体倒されて焦っているのか、いつものユエらしくない、即効型で決めようとする。キリキザンは腕の刃を構え、アギルダーに向かっていった。
「躱して“アンコール”」
 素早いと謳われるキリキザンだったが、アギルダーには敵わない。渾身の一撃を躱され、キリキザンに隙が出来る。
 そこをすかさず、“アンコール”で技に制限を掛けられる。
「戦いの場において、一番足を引っ張るのは、何も考えず後先突っ走ることです。 慌てた時が、一番危ない」
「っ……」
「終わりにしましょう。 “きあいだま”」
 アギルダーが手の中心に、オレンジ色の力の玉を作りだす。誰もが、これで勝敗がつくと思っていた。
 だが。
「“つじぎり”で真っ二つにして!」
「!」
 ユエの指示に、キリキザンが飛び上がった。放たれた“きあいだま”を避けることなく、見事に“つじぎり”で一刀両断する。
 割れたエネルギー体は、目標を失い離散した。
「……なるほど」
「その技しか使えないなら、その技を使って勝つまでよ」
 だが、これが連発できないことは、ユエ自身が一番よく分かっていた。
 キリキザンの腕の刃は、鋼だ。格闘タイプの技を何度も斬れば、切れ味が落ちてしまう。そしてその先にあるのは、“きあいだま”に直撃されて戦闘不能――だろう。
 一応お互いの刃を当てることで研いではいるが、それでも最初の切れ味には劣ってしまう。
(もって……。 三回斬れればいい方ね)
「キリキザン、接近戦に持ち込める?」
 キリキザンがユエの方を見た。多少焦りは見えるものの、まだ体力的には余裕があるようだ。
『何とかしてみる』という顔で、頷いた。
「遠距離戦のまま、倒してあげましょう。 ――“こころのめ”」
「!!」
 アギルダーの目がカッ、と開く。しまった、と気付いた時にはもう遅い。
「発動しました」
「何処まで斬れるか……。 キリキザン、頑張って!」
「“きあいだま”」
 アギルダーから放たれる力の塊は、“こころのめ”によりキリキザンに逸れることなく向かっていく。
「斬ったまま突き進んで!」
 二回目の“つじぎり”は、どうにか発動できたようだ。観客席から歓声が上がる。
 だが。
「――申し訳ありませんが」
「!?」
「職業柄、長い戦闘はご法度なのです」
 どういう意味よ――。 そう言おうと開いたユエの口が止まった。
 そのまま突き進んだキリキザンが、アギルダーの直前で固まっている。
「どうしたの!?」
 固まっている、という表現はおかしいのかもしれない。しかし、誰が見てもその光景は、固まっているように見えた。
 地面から伸びる、黒い何か。“かげうち”の応用で縛っているのかと思いきや、そうではない。
 蠢いている。一つ一つが細かく独立しており、わさわさと集団で移動している。そして、その移動位置には……。
「キリキザン!」
「“まとわりつく”です。 虫タイプの技ですね。 これをされると、相手はしばらく動けない上にダメージも重なります」
「……!」
「一つだけ教えてあげましょう」
 キリキザンは何とか脱出しようともがく。しかし、苦手な虫タイプの技を全身――それこそ、急所にも受けているのと同じ状態らしく、だんだん力が抜けて行く。
「私がここにいるのは、それを望まれたからです。 “この大会に参加し、優勝せよ”――。 それが撤回されない限り、私は勝ち続け、優勝しなくてはいけない」
「貴方……」
 ユエが何か言おうとした。だが、それよりも先にキリキザンが倒れた。
 審判が駆け寄り、旗を挙げる。

「――キリキザン、戦闘不能! アギルダーの勝ち。 よってこの試合、ミユ選手の勝利となります」



 二、マリナ VS ホタル

「……その気合いの入れ方、やめろよ」
 ショウの言葉に、マリナはきょとんとした顔で振り向いた。それと同時に傍で腹筋をしていたバシャーモも顔を上げる。
 妹の晴れ舞台ということで、ショウは激励をしに控室に訪れていた。緊張しているかと思いきや、そこではいつもの光景が繰り広げられていた。
 マリナは格闘タイプを好んで使用する。修行はいつも自分も一緒だ。裏山で枯れ木に拳を打ち込んだり、庭にボロ布団で作ったサンドバックを置いて、キックの練習をしたり。
 もちろん、特殊技の修行も忘れない。兄であるショウが持っている水タイプを借りて、“かえんほうしゃ”の威力が“ハイドロポンプ”を打ち消せるか、という無茶な訓練をしたことがある。
「こうした方が、緊張しなくてすむんだ。ね、みんな」
 マリナの言葉に、ポケモン達が頷いた。一番の相棒であるバシャーモを始め、ダゲキ、コジョンド、ゴロンダ、そしてこのメンツでは異質な氷タイプであるユキメノコが頷く。
「対戦カードを見る限り、お前と同い年みたいだな」
「うん」
 机の上に、マリナの対戦カードがあった。Bブロック第二試合。相手はアサギシティのホタル。おどおどした印象を与えてくる、マリナとは正反対のタイプのようだ。
「分かっているポケモンは……全部草、もしくは融合か」
「バシャっちがいるけど、ここまで勝ち進んで来たんだから、絶対対策してる。機転と運も重要だね」
 プロフィールの下に、三匹だけポケモンが表示されることになっている。そこには、ドレディア、ユキノオー、そしてジュカインの名前があった。
「ホウエン御三家対決になるかもな」
「たぶん」
 コンコン、とドアを叩く音がした。どうぞ、と言うと審判が顔を出す。
「時間です。フィールドにどうぞ」
「はい」

 マリナは緑コーナーだった。フィールド五十メートルを挟んで、挑戦者が見える。
 ショートカットに水色のトレーナー、そしてスカートはフリルが大量に付いている。この場に慣れていないはずはないのに、おどおどと落ち着きがない。
「あざといわ」
 横から声がした。レイナだった。勝ち進んだのでその表情は余裕がある。
「あれは計算よ。絶対そうだわ」
「そうでしょうか」
 黒髪の美少女が隣で答える。ミユだ。
 一回り近く離れた女性を、ストレートで倒した少女。
「わざわざ計算してまで、あの仕草をする理由が見当たりません」
「油断させるためよ」
「相手は同年代、しかも女性です。そしてここまで勝ち進んで来た実力もある。
経験値はあるはずです」
きっぱり、しっかり言われてレイナは黙り込んだ。
審判が出て来た。
「それではこれより、Bブロック、第二試合を始めます。シンオウ地方・トバリシティのマリナ選手対、ジョウト地方、アサギシティのホタル選手!」
マリナが一歩前に出た。ホタルも前に出る。
 態度は変わらない。こんなに緊張していて、試合になるのだろうか。
 観客も多少ざわついている。
「――それでは、試合開始!」
 瞬間、ホタルの顔つきが変わった。あのおどおどした態度から一転、目が強い力を放つ。その視線はまっすぐマリナを見つめている。足も地面をしっかり踏みしめている。
「試合になると変わるタイプ……でしょうか」
 ミユの声が聞こえた。
「いけっ、ダゲっち!」
 マリナがダゲキを出した。青い人型のポケモン。体の一部が本物の空手着のように見える。イッシュ地方に生息するポケモンだ。
 何故シンオウ在住の彼女が持っているのかといえば、叔父であるアラトが仕事柄色々な場所に行くからだ。その際にひっついて行き、ゲットしたのだ。
 検査が大変だったようだが。
「行こう、ラルさん」
 ホタルが出したボールから、ふわりと白百合の花のように飛び出したポケモン。それを見て、ショウはやべ、と声を上げた。
 サーナイトだった。体の一部である白い裾が揺れる。
 タイプはエスパー。格闘タイプであるダゲキには、圧倒的に不利だ。
「不利だろうが何だろうが、あたし達は勝ってみせるよ!」
 ダゲキも頷く。
「相手が誰だろうと、全力で戦う……そうだよね、ラルさん」
 返事の代わりにサーナイトが優雅に礼をした。
「そちらからどうぞ!」
「ダゲっち、“おんがえし”だ!」
 ダゲキが突っ走って行く。
 先ほどレイナがペルシアンに指示したのとは正反対の技だ。ダゲキもそれに応えるように、全力で立ち向かっていく。
「こちらも“おんがえし”」
 守るのでもなく、状態異常を仕掛けるのではなく、そのまま技を……そっくり技を返すやり方に、観客がどよめく。
 サーナイトはとても育て方が複雑なポケモンだ。補助系も行けるし、ガンガン攻撃させることもできる。そして近年、メガシンカと言われる新たな進化方法が発見された。
 サーナイトはそれが可能だ。それによってまた育て方に分岐が出来た。
 しかし、これは……。
 グラウンドで二匹が押し合っている。優雅に登場した時とは打って変わって、とても激しい顔つきだ。
 オスを選ばなかった――エルレイドに進化させなかった拘りが、彼女にあるのだろうか。
「負けるな、ダゲっち!」
「頑張って、ラルさん!」
 ぐぐぐ、と力が押し合う。先に飛びのいたのは、ダゲキだった。
 息が荒い。申し訳なさそうな顔でマリナを見るが、彼女は首を横に振る。
「気にしない! さあ、“じならし”だ!」
 その声で気を取り直したのか、ダゲキがパン! と両手を合わせた。そのまま地面に叩きつける。
 舗装されていた土のフィールドにヒビが入って行く。振動が伝わり、サーナイトの足元に襲い掛かった。
「おっとと」
 観客席にも振動が伝わって来て、ショウは慌てて椅子を掴んだ。かなりの威力だ。
「“十万ボルト”!」
 しかしサーナイトは怯むことなく、ホタルの指示に従う。両手を前に出し、青白い光の玉を作り出す。
 火花が散る。そのままダゲキに向かって投げた。
「避けて!」
「もらった! “サイコキネシス”!」
 十万ボルトが直撃したのは、ダゲキが立っていた場所。しかしそれでも、広がった火花と光が一瞬、ダゲキの目を眩ませる。
 その隙をホタルは見逃さなかった。即座にサーナイトが赤い目を光らせる。
「あ!」
 ダゲキの体を、赤い光が包み込んだ。ベールのように薄いそれは、しかし力の塊となってダゲキの体を蝕んで行く。
 痛みに唸るダゲキ。頭を抱えることもできない。
「ダゲっち!」
「そのまま地面に叩きつけて!」
 ドスン、という音と共にひび割れた地面に叩きつけられた。観客席から落胆の声が漏れる。
「終わった……かしら」
「……」
 土煙が多くて分からない。審判が様子を見に近寄ろうとする。
「……待って」
「は?」
 ホタルの表情は晴れない。逆にやられたはずのトレーナーであるマリナが、難しい顔をしてずっと地面を見つめている。そして次の瞬間、ニッと笑った。
「! ラルさん、備えて!」
「お、そ、い!」
 青い弾丸が、地面から飛び出した。そのままサーナイトの細い体に直撃する。
「“あなをほる”……か」
 至近距離からの攻撃に、よろめくサーナイト。ダゲキが後方二回転宙返りをして、態勢を整える。
 しかしサイコキネシスのダメージは、着実に溜まっているようだ。
「そろそろ決めないとね……」
「ラルさん、もう少し頑張って」
 人で言えば鳩尾の辺りにヒットしたらしい。ごほっ、と咳き込む音が聞こえた気がする。
「そろそろ双方の体力が切れるわね」
「おそらく、次の一撃で決まるでしょう」
 サーナイトが立ち上がった。

「“きしかいせい”!」

 体力が少ないほど威力の上がる技だ。先制攻撃に弱いが、“こらえる”とのコンボも使える。
 避けるかと思いきや、サーナイトは立ったままだ。目を閉じている。
 迎撃する様子も見えない。
「どうせ倒れるなら、“おきみやげ”」
 直撃すると同時に、今度は黒いオーラのような物がダゲキを包み込んだ。ガクン、と力が抜けて崩れ落ちるダゲキ。
 力が抜けた――そんな風に見える。
 サーナイトが仰向けに倒れた。審判が様子を見に行くまでもなく、旗を挙げる。
「サーナイト、戦闘不能。ダゲキの勝ち!」
 出した技がどういった効果を持つか、審判は分かっていた。そして、観客たちも。
 おきみやげは、自分を戦闘不能にするのと引き換えに、相手のあらゆる能力を二段階下げる技なのだ。
「ご苦労さま、ラルさん」
「ダゲっち、大丈夫!?」
 ふらふらになりながらも立ち上がるダゲキ。しかしその体調は芳しくない。体力だけでなく、力も出ないのだ。
「戻って休んで」
 このまま戦わせる理由は無い。マリナはダゲキをボールに戻した。
「さて、最後の一体といこうか」
「……そうだね」

 三、レイナ VS マダム・トワイライト

「……異色の組み合わせになったな」
 土竜の言葉に、キナリは頷いた。
 ポケモンバトルのトーナメント戦。第一回戦、第三試合。過去二試合はそれぞれ大番狂わせが起きて、観客は大いに盛り上がった。
 歳の差バトルと、同年代バトル。どちらも見事な戦いぶりだった。一癖二癖あるトレーナーばかりだが、皆自分の力を出し切って勝利した。
 そして、今回の試合は。
 カロス人とのハーフで、長身と端正な顔立ちが美しい女性、レイナ。
 カロス貴族の出身で、母の代わりに幼くして当主を勤める少女、トワイライト。
 偶然にも『カロス』繋がりになったこの試合。前試合から察するに、前者が遠慮するということは起きないだろう。
「あ、出て来た!」
 昌の言葉に、周りの人間がフィールドに注目する。
 赤コーナーの門から出て来たのは、レイナだ。美しい金髪を団子に纏め、余裕の顔で歩いて来る。遠目から見ても、スタイルが良いことが分かる。
 対する青コーナーからは、執事である丸眼鏡の男の傘の下。幼い当主、マダム・トワイライトが歩いて来た。
 執事連れということで観客がどよめく。審判が慌てて彼女に駆け寄った。そのまま何やら会話している。
「何だろ」
「流石に助っ人として見られても、おかしくないだろう。どうか執事には退場して欲しいって言ってるんじゃないか」
 しばらく執事と審判の会話が続いたが、マダムが何か言った途端、執事が一礼して再び門に戻って行った。傘はマダムが引き継いでいる。
 ホッとした様子の審判が台に戻った。
「――ではこれより、第三試合、レイナ選手 VS トワイライト選手の試合を始めます!」
「最初に名乗っておくわよ。あたしはレイナ。エンドウ・ソフィー・レイナよ。
――貴方、この世で一番大事な物って何だと思う?」
 突然の質問に、観客たちは顔を見合わせる。キナリも考える。いざ問われると、なかなかはっきりした答えが出ない。
 すると、前方の席から甘ったるい声がした。
「あたしはあ、やっぱりい、愛だと思うのぉ」
 うげ、という声がした。鼻につくような声だ。わざとらしいが、面倒くさいので無視する。だが、隣の彼氏と思わしき男が同調する。
「そうだよね、僕達が出会ったのは、愛のおかげだからね」
「お金なんかよりも、愛が大事だよねえ」
「答えは金よ!」
 フィールド上に思い切り響き渡った声に、観客席が凍りついた。
「世の中ね、お金なの。何をするにもお金が必要なの。愛なんて言ってる生ぬるい奴は、お金のない暮らしをしたことがないのよ!
 洗剤で髪を洗ったことがあるかしら? 賞味期限が一週間過ぎた卵を食べたことがあるかしら? 友達との誘いを断って向かうのは、タイムセール直前のスーパーマーケットよ!」
 端正な顔立ちから放たれる言葉とは、とても思えない。ふと見ると、前のカップルが縮こまっている。
「……まあ、間違ってはいないな」
「そうですね」
 しかし、ここまできっぱり言われると返す言葉が無い。
「あたしがここに来たのはね、賞金五十万円のためよ。それだけあれば、五人の兄弟達にお腹一杯食べさせてあげられるわ。母さんのマッサージ椅子だって中古だけど買えるわ。
 靴下くらいは新調できるわ」
 どれだけ酷い生活をしてるんだ……。皆そう思っているだろう。
「貴方、実家がシャトーらしいわね。きっとお金に困ったことは無いんでしょうね。
 そんな人に、あたしは絶対に負けない!」
 魂の叫びに聞こえた。こんなにみみっちい叫びも、そうそう無いだろうが。
 対するマダム・トワイライトは、扇を口に当てて何やら考えている。
「――妾はトワイライト。お主、お主の娯楽とは一体何だ」
 今度は娯楽と来た。『大切な物』に『娯楽』。ここで、何となく育ちの差が出ている気がする。多分レイナには、娯楽を楽しむ余裕なんてないだろう。
「娯楽? ……強いて言うなら、毎月の給料を全部合わせて精算することかしら」
「まあそれも一種の娯楽であろう。品はこれっぽっちもないがな」
「貧乏人に品を求めること自体、金持ちの甘い考えよね」
 二人の間で火花が散る。まだポケモンを出してすらいない。
「妾は幼い頃から、周りに連れられてあらゆる娯楽を体験して来た。カジノに芝居、乗馬にダンス。金と時間は余るほどあったからのう。
 しかし、時が経つにつれそれらに飽きて来た。どんなに楽しいことでも、長く続けば飽きてしまうものなのだ」
「……」
「妾がここにいるのは、ポケモンバトルという新しい娯楽に手を出したからだ。ポケモン同士が技をぶつけ合い、倒れるまで戦う――これほど素晴らしい娯楽は、今まで見たことが無い」
 不意に、さっきの執事が風のように現れた。ビロウド製のクッションに置かれた二つのボールを手渡し、再び風のように去って行く。
 審判が何か言おうとする前にいなくなってしまった。彼の行き場のなくなった手が、寂しく虚空を彷徨う。
「ここは良い場所じゃ。妾の地位を気にして手抜きする愚かな輩は何処にもおらぬ。
 ……お主の強さがどれほどかは分からぬが、せいぜい楽しませておくれ」
「その減らず口、すぐに叩き割ってやるわ!」
 二人がボールに手を掛けた。時間を計っていた昌が、ぼそっと呟く。
「ここまでで十分は経ってるよ」
「ま、良いんじゃねえの」
 審判がようやく旗を挙げた。
「試合開始!」
「行きなさい、ペルシアン!」
 レイナが放ったのは、毛並が美しいペルシアンだった。プライドが高く、あまり人に懐かないと言われている。
 各地方の猫ポケモンの中でも、一際育てるのが難しいとされる。ホウエンのエネコロロ、シンオウのブニャット、イッシュのレパルダス、カロスのニャオニクス。タイプも外見も様々だが、プライドの高さでは彼が一番だ。
「ほう。随分美しい毛並じゃ。社交界に持ち出しても目立つだろうに」
「さあ、早くポケモンを出しなさい!」
「せっかちじゃのう。 ……ゆけ、ニャオニクス!」
 そう言って出て来たのは、白い体のニャオニクスだった。メスだ。
 進化前のニャスパーは性別関係なく灰色の体をしているが、進化するとオスメスで色と戦闘の仕方がガラリと変わる。オスは青い体に補助系、メスは白い体に攻撃系の技を良く覚えるのだ。
「猫同士の戦いだね」
「……」
「あれ、土竜さん?」
 土竜の目は、赤コーナーのペルシアンに注がれている。
 太陽の光に照らされ、ビロウドのように輝く毛並。双眼鏡で覗いて見ると、額の宝石も綺麗な形をしているし、何より髭が整っている。耳にも怪我一つない。
 ということは、戦闘はあまりしていない、ほとんどペットとして飼われていたということだ。
 しかし……。
「キナリくん、現在のペルシアンの相場は」
「えっと……。野生では見つかることが稀なため、ニャースを捕獲して育てるのが通常のようです。しかし、あそこまで美しいとなると、ブリーダーから買ったと思われます。
 ニャース・ペルシアン専門のブリーダーは数多くいますが、その中でセレブ御用達のブリーダーから買うと、大体一匹当たり五十万から七十万はすると」
「そんなにするの!?」
 昌の悲鳴が響く。愛玩用にそんなに掛けるなんて、理解できない。
「与える餌は」
「ポケモンフーズか木の実でしょう。でも多分、市販の安い餌なんて食べないでしょうね。
 完全オーダーメイドの高級ポケモンフーズ辺りが良い所かと」
「毛並の保ち方」
「シンオウに、各地のセレブ御用達のエステサロンがあります。一番安くて五、六万くらいでしょうか」
「ストレスの溜まらない飼い方」
「元々狩猟系なので、広い場所が必要です。高い木があると、尚最高です」
 ここまで聞いて、昌も理解した。
「……維持費、払えないよね」
「どうして彼女が持っているのか、そこが疑問だ」
 三人の会話も露知らず、レイナはペルシアンに指示を出す。
「まずは能力を上げてくわよ! “つめとぎ”」
「その隙に“チャームボイス”」
「躱しなさい!」
 つめとぎをする前に、チャームボイスが放たれる。それを華麗に避け、距離を取る。
 美しい。バトルだけでなく、確実にコンテストでも通用するだろう。
 コンテストでは技の審査だけでなく、どのように技を出したり、避けたりするかも芸術点として評価される。
 このペルシアン、自分の美しさを分かっている。
「流石ね。パパに買ってもらっただけあるわ」
「……パパ?」
 そこで昌はピンときた。
「そうか。あのペルシアンは、パトロンに買ってもらったんだ」
「ああ。おそらく維持費も、彼に払ってもらっているのだろう」
 トライライトがほほう、と感心した声を上げた。外見年齢は幼く見えるが、その口調はかなり大人びている……というより、老けている。
「パトロンがいるのか」
「バイト先で知り合ったの。すごくいい人よ。彼もペルシアンが大好きで、最高に良いのを選んでくれたわ」
 ニャオニクスが態勢を立て直した。それを確認し、トワイライトが指示を出す。
「“サイコキネシス”じゃ!」
 目が光った。耳が持ち上がる。
 ニャオニクスが技を出す時の仕草だ。
「まだまだ! “かげぶんしん”!」
 直撃の瞬間、ペルシアンが分裂した。さっきゲッコウガが使っていたのよりも多い。
 周りを見渡すニャオニクス。狼狽えているようだ。
「いいわよー、すごくいいわよー! ここらで“やつあたり”ィ!」
 十五匹のペルシアンが一斉に飛びかかる。トワイライトが指示したが、怯んで動けない。どうやら、バトル慣れはあまりしていないようだ。
「愛玩用を急ピッチで育てたんだろう。足が震えている」
「え、ホント?」
 昌は双眼鏡を取り出した。しかし覗く前に、ニャオニクスが宙に舞い上がる。
 そのまま五メートルほど後方に吹っ飛んだ。
「ニャオニクス!」
 審判が駆け寄る。双眼鏡で様子を確認すると、伸びていた。
「ニャオニクス、戦闘不能! ペルシアンの勝ち!」
 トワイライトが頭を抱え、ボールに戻す。しかし労いの言葉は忘れない。一方レイナはペルシアンに何かを上げている。
「ポロック……みたいだ。金色」
「あれも御用達か」
「さっきの“やつあたり”の威力といい、懐かれてはいないようだな」
 やつあたりは、そのポケモンが懐いていないほど威力が上がる技だ。その反対のおんがえしは、懐いていればいるほど威力が上がる。
「さ、次もいくわよ」
「ふむ……。やはりポケモンバトルは奥が深い。即席のパートナー同士に負けるとはのう」
 負けて悔しがっている様子は見られない。むしろ楽しんでいるようにも見える。
「だが、やはりポケモンとの信頼感が勝利の鍵となることもある。今からそれを使って、お主を倒してみせよう」
 トワイライトがボールを取り出した。

「バトルじゃ」


 四、キナリ VS ミドリ

 キナリが首を動かした。バキッ、という耳を塞ぎたくなるような音がする。しかし逆に今の彼にはその音が心地よかった。健康に悪いとは分かっているが。
 何を考えているか分かりにくい彼も、緊張はする。特に大舞台に出るのは久々だったため、肩に力が入ってしまったらしい。
 遠くに緑色の人影が、同じく緊張を解すためにストレッチをしている姿が見える。カードを思い出す。歳は十六で、自分より一つ年下の少女だった。
 カードにはジャローダ、ブルンゲル、フリージオの三体の名前があった。カードに記載されるのは三体だけなので、もっと所持しているかもしれない。
 出身地はイッシュ地方、ヒウンシティらしいが、現在はカロス地方、ミアレシティになっている。
「――準備はよろしいですか?」
 審判が話しかけて来た。頷くと彼が叫ぶ。
「これよりCブロック第一試合、カントー地方、トキワシティのキナリ対、カロス地方、ミアレシティのミドリによる対戦を始めます!」
 ちらりとホルダーを見る。ボールがカタカタと揺れている。早く出せ。タイプ相性なんて知ったこっちゃない。相手を黒焦げにしてくれる。
 付き合いが長いので、大体のことは分かる。荒っぽいのをどうにかしないといけないが、どうにもならない。
「試合、開始!」
「行きますよ、ジャローダ!」
 育ちの良さが分かる投げ方だった。気合いは入っているが、あくまでその動きは静かだ。出て来たのは緑色の大蛇だった。イッシュの御三家、草タイプ。ツタージャの最終進化形。
 イッシュには珍しいポケモンが多数生息しているという。カントーとは全く違った進化を遂げたようだ。
 最近は生態系も変化し、他地方のポケモンも見られるようになってきたようだが。
 いい加減ボールがうるさい。特に一番端。
「ちょっと黙ってろ」
 少し叩くと大人しくなった。キナリは真ん中のボールを投げた。
真っ黒な鬣。金色に輝く目。長くて立派な尻尾。
自分の大きさをアピールするかのように、それは雄叫びを上げた。
「レントラーだ!」
 最前列にいた子供達から歓声が上がる。当の本人は、相手を見据えたまま牙を剥きだしている。
 ジャローダは見下すような態度を隠さない。別段気にしていない。馬鹿にする相手かどうかは、自分がきちんと分かっているはずだ。
「ジャローダ、“へびにらみ”です!」
 相手を麻痺させ、先手を取る作戦だろう。だが、そうはいかない。
「躱して“こおりのキバ”」
 へびにらみを難なく躱し、レントラーはフィールドを駆ける。普通のレントラーよりも大きい体格をしているのに、その素早さは目を見張る物がある。
 “へびにらみ”を躱され、指示を待つジャローダ。ミドリが叫んだ。
「“リフレクター”!」
 ジャローダの周囲に、青色の丸い壁のような物が出現した。直撃は避けられない。ならばさめて、ダメージを軽減させようと張ったのだろう。
 レントラーは怯まない。そのまま突撃した。冷気を纏った牙を、“リフレクター”に叩きつける。
「“ほうでん”!」
 大きな鬣を震わせ、レントラーが放電した。金色の稲光が、フィールド中に網目のように広がっていく。
 あまりの眩しさに、観客が目を瞑った。ミドリも頭に付けていたゴーグルを、目元まで持って来る。
 ものすごい威力だ。
「ジャローダ、“リーフストーム”!」
 しかし彼女も怯まない。そして、彼女のポケモンも。
 耐えていたジャローダの目が開いた。纏っていたリフレクターごと、レントラーを吹き飛ばす。巨大な葉の竜巻が、レントラーを閉じ込めた。
 そのまま三十秒ほど、竜巻は空中に留まっていた。キナリは指示を出さず、そのまま見つめている。
 やがて威力が落ち、風が止み、中にいたレントラーがフィールドに墜落した。
「……」
 誰もが戦闘不能になったと思った。しかし、地面に激突して数秒後、レントラーは立ち上がった。
 ふらふらの体で。荒い息を吐きながら、必死で。
「……随分と冷たいんですね」
 ミドリが呟いた。キナリが何のことだ、と返す。
「自分のポケモンが、技を受けているんですよ。あの時、脱出しようと思えばできたはずです。それに、技を食らう直前も、回避できた可能性はある。
 私が見る限り、貴方のレントラーは強い。さっきの“ほうでん”、今まで見たことがない威力でした」
「だからどうした」
「どう、って……」
 土煙が晴れてきた。
「自分のポケモンなんですよ!? 愛情を持って育てるのが、当たり前でしょう!?」
「お喋りはそこまでだ」
 レントラーが大きく息を吐いた。振り返り、キナリを見る。
 その金色の目を見たキナリが、頷いた。
「俺だって、ポケモンに愛情を持って育ててる。でも、お前の言う“愛情”が俺の言う“愛情”と同じとは限らない。そして、ポケモンが求める“愛情”かどうかもな」
「何を……言ってるんですか」
「“エレキフィールド”」
 バチッ、という音がしてミドリは手を見た。冬によく感じる、あの感触。髪がふわりと浮きあがり、妙な不快感が全身を包み込む。
 ジャローダが慌てたように後ずさる。しかし、既にその技の効果はフィールド全体を包み込んでいた。
「“エレキフィールド”は、少しの間ポケモンを眠り状態から回避させる技だ。効果は全体に影響する。
 そして、もう一つ」
 ミドリはハッとした。目の前のレントラーが、一回り大きくなったように見えたのだ。いや、そんなことはあり得ない。そんな一瞬で成長したように見えるなど……。
「その効果が消えるまで、電気タイプの技の威力は一,五倍になる」
「!」
「真面目だな、アンタ。真面目すぎて、むず痒くなってくる」
「ジャローダ、落ち着いて……」
「悪いな」

「“ボルトチェンジ”」

 レントラーが動いた。まるで黒い風のようだ。
 ミドリが気付いた時には、ジャローダの太い腹部から上が後ろにつんのめっていた。
 キナリがボールを前に出す。攻撃を終えたレントラーは、そのままボールに戻って行った。
「ジャローダ!」
 その瞬間、静電気のような状態が消えた。審判が前に出る。
「ジャローダ、戦闘不能! レントラーの勝ち!」
 ミドリが項垂れながら、ジャローダをボールに戻す。
 震えが止まらない。負けたことではなくて、あのレントラーに。
 何が何でも勝つ、という気持ちがビシビシ伝わって来た。痛いくらいに。そして、その指示を出しているのがトレーナーではなく、ポケモン自身の意志だということも。
「あの……次のポケモンを」
「……はい」
 ミドリは相手を見つめた。言いようのない不安が、胸中を支配していった。
 


  [No.3662] 人形一筋ン十年(仮題) 投稿者:MAX   投稿日:2015/03/27(Fri) 08:01:57   149clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 遠い昔のこと、孤独な巨人は氷と砂と溶けた土からそれぞれ1体ずつ、自らの似姿を作った。
 作られた巨人の似姿は何かしらの力を持ち、自らの意志を持って動くこともあった。
 後年にはその力を人に恐れられ、巨人も似姿もそれぞれ離れた土地に封じられたという。

 それから、この伝説がとある国で掘り起こされた。
 その国は戦争によって存亡の危機に立たされており、とかく兵力増強を求めていた。
 巨人のように人形を作ろう。力を持った人形を作り揃えて敵国の武力を押し返すのだ、と。


 国にひとり、人形職人がいた。土をこねて素焼きの人形を作り、素朴な土産物として売っていた。
 その人形に目が付けられた。
 戦争の駒となる人形を作れ。王命が下り、職人はそれに従った。

 しかしただの土人形では動く由もない。
 執政者たちは考えた。生命がなければ動かないのなら、その生命は他から投入しよう。土人形に小さな生き物を埋め込むことで人形を動かそう、と。
 試みはそして成功し、人形は動き、兵となった。

 人形は埋め込まれた生命を動力源とする。その生命は野鼠や虫のような小さな生命でも問題なかった。
 そうして出来上がった人形は人間の命令に従うだけの能力を有していたため、人形は重宝した。

 小さな生命の犠牲にしながら戦力は増していった。
 しかしこれは一種の生贄であり、嫌悪を覚える人間もいた。
 だから生命の投入は人形の役目となった。


 ある日のこと。
 小さな生命で人形が動くなら、人間ほどの生命ならばどれだけ活躍するか。これを考え試した者が現れた。
 用済みの捕虜を人形に使え、と命令を下し、人形は人間を動く人形に変えた。
 人間の生命を動力源とした人形は小さな生命の人形よりも強い兵となり、執政者たちを満足させた。


 戦争の時代は長く続き、老いた人形職人はついに倒れる。
 もはや人形は作れない。そうなってもなお、職人は命令に従い続けることを望んだ。
 そして職人は、人形となった。
 どれほどの時間が過ぎようとも、人形は人形を作り続けるようになった。


 しかし戦争は終わる。
 戦争の終わった国で、兵士人形は王の塔を守護するよう命じられた。
 また人形職人は次に起こりうる戦争に向けて人形を作り続ける。

 戦わずとも兵士人形はやがて動力が尽き、動かぬ土人形となった。
 役目を終えた土人形は塔の地下にある溜め池に放られ、元の泥へと溶けてゆく。それは動力源とされた生き物の骨身と共に。

 人形職人は命じられるまま、池の底に溜まった泥を次なる人形の素材とした。
 埋め込まれた亡骸たちが溶けた泥で、新たな人形は作られた。その人形は呪いのためかひとりでに動き出したが、それは人形職人の与り知らぬところ。

 それから、兵士人形は残らず池の泥となり、その泥さえも人形職人に使い尽くされた。
 されど命令は消えず。人形職人は土を得るために池の底を砕き、新たに土を掘り始めた。
 しかし新たな土は亡骸の呪いを持たず、その土の人形もまた動かない。ただ人型の土だけが塔の中に並べられた。

 採掘の穴が塔の真下へと広がり深まる程に塔の地盤は脆くなっていった。その上、掘り出された土は真上の塔へと運ばれる。
 増してゆく塔の重さに脆くなっていく地盤は耐え切れず、塔は土の中へ沈んでいく。いつしか入り口さえ土に埋まるほどに。


 時代は流れて、入り口をなくした塔に立ち入る人はいない。
 亡骸の泥人形たちが徘徊する中、人形職人は動かぬ人形を作り続ける。
 新たな王が新たな命を下す、その時まで。


  [No.3663] 水の中(書きかけ) 投稿者:WK   投稿日:2015/03/27(Fri) 20:56:58   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 私が初めて君を見た時、君は水の入ったアクリルガラスの中で泳いでいた。君の動きに合わせて、床に映し出された光の文様は目まぐるしく形を変えていく。そのアクリルガラスは世界最大級だとデータに書いてあった。
 そうだろうな、と私は思った。こんな大きな、そして厚みのある巨大なガラスの中に君は一人きり。そう、一人きりだけで君は泳いでいた。時々上の方に行くこともあったけれど、決まって君は中間にいた。
 周りには何もない。誰もいない。下にうっすら見えたのは砂地。だけどそれ以外には何もなかった。唯一外から入れられるのは、やがては君の血肉となってしまう運命にある餌だけ。それも生きてはいなかった。
 私は一度、あの餌が君のあのギザギザの牙がある口の中に飲み込まれる瞬間を見た。餌の目は開きっぱなしで、抵抗もしなかった。そのまま水と一緒に吸い込まれて、おしまい。
 水は後で吐き出されたけれど、餌は決して返っては来ないのだ。

 ガラスはとても大きかったけれど、君の体もとても大きかった。私が知っていた水ポケモンの大きさは、2メートルがいいところ。でも君の体は4メートル近くあった。
 君はどこから来たの、と私は問うたことがあった。君は答えてはくれなかったけど、君の入ったガラスの横にあるパネルが教えてくれた。
 君は海から来たんだ。広大な海。私が知っている場所を全部足してもお釣りが来てしまうくらい、広い場所。そこで君は生まれ、育った。
 君はここをどう思っているのだろう。外は危険だ。君をどうにかしようと企む奴もいるかもしれない。餌がなくて餓死する可能性もある。ここは安全だ。
 このガラスが壊れなければ。

 君の体は綺麗な藍色をしていた。それに不思議な赤い模様が描かれていて、何だか本当にポケモンなのかと疑いたくなる外見だった。
 太陽の光は変わらず君に降り注いでいた。時間によって君の体の色は少しずつ変わっていく。朝は藍色、昼間は時々スカイブルー、夕暮れは茜色、そして夜になると浅黄色。光によって染まる色が変わるなんて、素敵だ。
 
 私はいつもここにいるから、君は私のことを覚えてしまった。最近君は妙に活発的になったようだ。突然ガラスに体当たりしてみたり、ひたすら上へ泳いでみたり。
 だけど君はその中から決して出ることはできない。もし出たら、君はその出る時に使った力のせいで死んでしまうかもしれない。そんなの、私は嫌だ。
 話し相手がいなくなるのは寂しい。
 だけど、君が本当に心の底から望んでいるなら、私は何かできるかもしれない。
 君は生まれた場所に帰るべきなのかもしれない。こんな狭い場所では、息も詰まってしまう。私だって詰まりそうだ。でも、もうどうにもならない。
 ここから出ることなど、できやしないのだ。

 
 最近、君がうるさいと誰かが言っていた。鎮痛剤を入れたけど一向に大人しくならない。弱っているのではないか、っていう意見も出たらしい。
 君の体は前見た時よりも傷が増えたみたいだ。しばらく眠っていた間に、こうなっていたなんて。
 誰かが君を処分する、なんて物騒なことを言っていた。もう使い物にならないからって。
 処分したらそこから出られるだろうけど、もう故郷に帰ることはできないんだよ。解体されて、多分……ゴミか他のポケモンの餌になってしまうかもしれない。
 君はどうする?

 


  [No.3664] ポケモンちゃんねる 投稿者:NOAH   投稿日:2015/03/27(Fri) 21:08:17   179clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:一粒万倍】 【企画】 【某大型掲示板方式】 【フライゴン】 【書きかけ


※某有名大型掲示板方式の小説です。注意してね。



相棒自慢専用スレッド 18匹目

1.ななしのポケモントレーナー

ここは俺たちの相棒であるポケモンたちへの愛をただひたすらに書き連ねるスレッドである


あくまで自分の相棒への愛なので
「このタイプだから好き。」という類のタイプへの拘りありきの偏愛は各タイプ専用板へ書き込んでください

荒らし・批判・中傷ダメ絶対。
ご新規さんはひとまずROMってからコテハン付けてね

他の人が語ってる最中にコテハン付けて勝手に喋り出した場合荒らしと判断して運営に報告しますのでご注意。


<過去スレ>
全ての始まり→相棒自慢専用スレッド 1匹目
前スレ→相棒自慢専用スレッド 17匹目


次スレは >>900 が立ててください
単発・コテハン・荒らし等だった場合は>>950
それもダメだったら引き続き >>1 こと俺がまた建てます

みんなでにこにこコレ絶対!!


2.ななしのポケモントレーナー

>>1 乙

2getだぜ!


3.ななしのポケモントレーナー

>>1 乙ー


4.ななしのポケモントレーナー

>>1 乙カレー


5.ななしのポケモントレーナー

さて、コレもなんだかんだで18匹目に突入だな。
しかしどいつもこいつも相棒への愛が濃いこと濃いこと。


6.ななしのポケモントレーナー

俺は9スレ目に出てきたドラミドロ一家が未だに忘れられない


7.ななしのポケモントレーナー

>>6 あー、そいつの話しどくタイプ最愛スレの連中が見てたらしくて未だに話題になってるよ


8.ななしのポケモントレーナー

どくタイプと言えば俺は11スレ目に出てきたオスのクロバットの話しが忘れられない。

右目潰されてもトレーナーのためにと奮迅する姿はもう男前すぎてパソコンの前で大泣きした


9.ななしのポケモントレーナー

どくタイプつながりなら俺は6スレ目にでてきた色違いのメスのハブネークを推すぜ!

にこにこ笑いながらかわいいアピールしてる色違いハブネークたんマジかわいかった。


10.ななしのポケモントレーナー

かわいいと言えば俺は7スレ目のあざとメリープ♂を推す


11.ななしのポケモントレーナー

>>10 前スレのミミロップ女史を忘れないでいただこう


12.ななしのポケモントレーナー

>>11 お前その話しで一早く
ミミロップ厨になった前スレ386だろ


13.ななしのミミロップ厨

>>12 な ぜ わ か っ た


14.ななしのポケモントレーナー

>>13 わからいでか


15.ななしのポケモントレーナー

あー……相棒自慢スレはここで合ってるか……?


16.ななしのポケモントレーナー

>>15 お、ご新規さん?いらっしゃーい。そうだよー。
とりあえず >>13-14 は無視しちゃっていいからコテハンとスペックと相棒であるポケモンの名前を書いてくれ


17.竜騎士

んじゃ、コテはこれで


「竜騎士(=俺)
20代/男/ポケモンレンジャー/髪と目の色は緑/前髪一部事故で白髪/父がカロス出身で母がホウエン出身」


相棒=フライゴン♂
ニックネームは「ハイペリオン」

コテハンは俺の通り名。
アルミアに住んでる奴は知ってんじゃないかな?

まあわかっても特定は×で


18.ななしのポケモントレーナー

>>竜騎士 その通り名どっかで聞いたことある気がするが特定禁止なのは承知した

フライゴンかぁ……すらっとしててかっこいいよなぁ。


19.竜騎士

>>18 だろ?これで話題のメガ進化とかあったらとか思うが調査結果は期待せずに待つ

あと特定の件、了承してくれてありがとう。助かった。


さて、スペックに書いた通り、俺はポケモンレンジャーをやってる。

アルミアの本部内の寮で暮らしているが、今から話すのはその前、ホウエンにいた頃の話しだ。

この中で、5年前にあったホウエンの北西沖で起きた地震のことを知ってるやつはいるか?


20.ななしのポケモントレーナー


地元民だ


21.ななしのポケモントレーナー


カナズミのポケモンセンターに泊まってた


22.ななしのポケモントレーナー


家族旅行で来てた


23.ななしのポケモントレーナー


仕事でカナズミシティに来てた


24.ななしのポケモントレーナー


当時新人でカナズミジムに挑戦中だった。

負けたけど。


25.竜騎士
けっこういるみたいだな。
まあわりと大きな地震だったし
それなりに被害もあったから知ってるか。

今からする話しはその地震が起こってすぐくらいのことだ。

当時俺は非番で、カナズミシティの旧ショッピング街の方を歩いてたんだ。

目的はわかるやつにはわかるだろうが、そこにしかなきのみ専門店な。
んで、地震が起きて、俺のスタイラーに出動要請のメールが届いたんだ。

メールの中身は職業状秘密な。
まあ地震のせいで怪我をしたポケモンが出たってのがわかってくれればいいよ


下開けてくれ


26.竜騎士

Mercie.


メールに出動要請が届いて、俺はすぐに来た道を引き返した。

もちろん全力疾走で。

人を助ける仕事は一分でも一秒でも遅れるのはタブー。だからとにかく全力だよ。

それにショッピング街は新旧共にアーケード街。
当たり前だけど空を飛んでは行けないから、とりあえず抜けるまではとにかく走った。


ショッピング街を抜けて右に曲がり、大きな道路に出ると、俺はそこでようやく相棒のハイペリオンを出したんだ。

そいつに目的地を告げて一気に空から現場に向かったんだ


そして、現場に着いた頃に「事件」が起こったんだ

……


ここで力尽きた……orz
この「竜騎士」は我が家のオリキャラのポケモンレンジャーです。
名前詳細共に決まってるけど伏せときます


あとこういう某大型掲示板方式の小説をピクシブの方でよく読むので便乗した感があります。

相棒の自慢スレとかぜったいありそう

あとジムリーダーや四天王たちのファンスレッドもしくはアンチスレッドとか

タイプごとに愛を語るスレとか

旅の途中でよくお世話になった道具をあげて語るスレとか

旅のさなかで起こった珍事件を語るスレとか

あとは大きなバトル大会やコンテストの実況スレとか

「○○(場所)で○○(ポケモン)の色違いを見た」っていう報告スレとか


そんなことを考えながら書いてるから続かないんですね。ごめんなさい。

この形式で書いていいものかどうか
正直悩んだけど書いてみた。お試しで。
.


  [No.3705] 活動停止のお知らせと謝罪(今後も投稿は受付予定です) 投稿者:砂糖水   投稿日:2015/04/11(Sat) 00:27:37   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

花冷えの時節でございますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、タイトル通り、当企画の活動を停止いたします。

新年度ということもありますし、また体調不良も重なり、これ以上の活動は難しいと判断いたしました。
実際、投稿していただいた作品にはほとんど目を通せていません。
このような状態で新たにスレッドを制作してしまい申し訳ありませんでした。
昨年の時点でたびたび感想が遅れていたことを考えればこうなることは容易に想像できたはずですが、性懲りもなく新規スレッドを立ててしまいました。
考えが甘かったと痛感しております。

現在投稿していただいた作品にせめて感想を書いてから、と思っていたのですが、現状それも難しく断念いたしました。
放置した挙げ句に感想も付けずに終わらせるなど、無責任極まりなく、面目次第もございません。

今後についてですが、私個人といたしましては、このまま自由に投稿していただいて構いません。
ただ、他の方から見ると主催不在で存続するのはどうなのかといった意見もあるでしょうから、そういった場合は投稿受付停止の旨をお知らせします。
現状ではとりあえずこのままとさせていただきます。

また万が一、この企画の引き継ぎたい、もしくは似たような企画を始めたい、といった場合にはどうぞご自由に始めてください。
私への連絡は必要ありません。

このような形で終わらせるのは大変忍びなく、また非常に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
これまで投稿してくださった皆様を裏切ってしまうような行為であり、弁解の余地もございません。
皆様には大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。

これからの皆様のご活躍をお祈り申し上げます。

2015.04.10 



※連絡先等削除しました。
放り投げてしまってごめんなさい。
それからたぶん見ないと思いますけど、焼き肉さん、コメントありがとうございました。


  [No.3713] お疲れ様でした 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/04/12(Sun) 11:52:42   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

砂糖水さん、企画お疲れ様でした。

文章って余裕ある時でないと読めないというか字ってだけで重いところがあるので、忙しい時や疲れてる時に目が通せないのは仕方がないと思います。

ですが書きかけでもいいよーって企画そのもの自体がとても気楽な感じがして素敵でしたし、
企画通り主催の砂糖水さんも気負い過ぎることはないんじゃないかと思います。
マサポケってそういう意味でも懐が深いと思いますし。
私も少し参加させていただきましたが、この肩から力を抜ける空気が楽しかったです。
完成させるのも大事ですが、気楽に楽しく二次やるのも同じくらい大切だと思います。

私も気楽にもっと感想送りたいなーってマサポケとかポケ二次に限らず思ってても、なかなか上手く出来なかったりしますんで難しいですね。(特に言葉遣いが怪しいのでそこでも緊張したりします。この文章も怪しいものですが)
砂糖水さんもお身体をお大事に。


  [No.3961] めぐみ(仮題) 投稿者:Ryo   投稿日:2016/09/24(Sat) 21:32:22   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 その白く清潔そうなトラックには、トゲキッスの絵が大きく描かれていた。
 と、そういう風に書き始められればいいのだけれど、そこにいる誰もその生き物の名前を知らないし、第一に見たことすらないのです。埃臭い風の中、村外れの通りに砂像のように立ち並び、そのトラックが来るのを待っていた大人や子供や老人らはみんな、あの変な白いのが描いてある車が来た、としか思っていない。そもそも彼らにとっては車に描かれた絵などより、車が載せてくるものを自分が手に入れられるか、今日自分たちが何を貰えるのかの方がよっぽど大切なのです。
 ざわめきの中、深い青色のフードを被った少女は、大人達に押しのけられて砂像の群れから弾き出されてしまわないように、ぐっと背伸びをしました。色んな食べ物や生活物資をどっさり積んだそのトラックを見る度に、あの卵に翼が生えたようなのは何だろうと思うのだけど、その一瞬の疑問は、座席から降りてくる迷彩服の男の人の大声と、物資を求めて動き始めた人々の喧騒の中、真夏の雪のように掻き消えてしまう。
 迷彩服の人達に向けて、鳥の雛の口のように大きく開いて伸びた手。手。手の群れ達。そこに少女の手も堂々と混じっています。
「早くしろ!」少女のすぐ後ろのおじさんが怒鳴り声をあげた。負けじと少女も一層高く腕をあげ、手を広げます。迷彩服の人達が手振りで人々の昂ぶりを制し、白い紙に書かれた名前を1人ずつ読み上げだすと、にわかに人々は声を潜め、自分の名前が呼ばれるのを絶対に聞き逃すまいと、迷彩服の人達をぎらぎら睨みつけます。殺気めいた緊張感が通りに漂う中、迷彩服の人達は日焼けした腕をせわしなく動かし、呼びだしに応じて前に出てきた人々の手に次々、白い袋を持たせていく。
 袋の中身はどれも同じはずでも、受け取る側の事情はみんな違います。父親が死んで稼ぎ手がいない家の母親、五人目の弟が生まれたばかりの家の長男、家をまるごと失って掘っ立て小屋に住んでいる家族の祖父。だからどうしても、張り詰めた静寂の糸はどこかでとぎれ、あちこちで争いあう声、怒鳴り声があがりだし、時には殴り合いさえ始まってしまう。
 そうなると迷彩服の人達は、どこからか、いつの間にか、大人の背丈よりも大きな花を持ちだして地面に植えるのです。すると人々は自分たちのしていたことを全部忘れて、息を呑んでその魔法に釘付けになる。鮮やかな緑の葉と赤い花びら!風に花のいい匂いがふわっと香ると、もう何で争っていたのかとか、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまう。そこに迷彩服の人達はまた名前を呼びかけ、白い袋を次々に持たせていく。人々が突然の声に驚いた時にはもう、花は夢のように消えてしまっているのです。
 待ちかねた少女の手にそのずっしり重い袋が渡ると、彼女はお礼を言うなり青いフードを翼のように翻らせて、弾むように家へと駆けだしていきます。袋が重くて腕が痛いのなんか、赤ん坊の妹のお守りをするのに比べたら全然平気です。半分ガレキに埋まったような、生まれ育った村の表通りを、砂埃を立てて彼女は走っていきます。
 その村は、外から来た人には、村というよりギャラドスが大暴れした跡みたいに見えるかもしれないけど、彼女はギャラドスどころかコイキングだって知らないし、見たこともない。ここには川も池もなくて、彼女は毎日往復四時間かけて山の方にある井戸まで水を汲みに行かなければならないから。村外れにあった井戸は、果てしない人間と人間の争いの最中に埋もれてしまったから。
 人が人を撃つ。人が爆弾を持って人にぶつかる。毎日そんな事があちこちで起こる場所には、どんな野生のポケモンも近寄ることができません。
 トゲキッスも、ギャラドスも、コイキングも。

 通りに立ち並ぶ土作りの家々は、そっくりそのまま地面の砂の色なので、まるで土から生えてきたように見える時があります。
(本当に、家が勝手に土から生えてくるんだったらいいのに)
 少女は横目で、崩れて壁だけになってしまった家を見ながら思います。だって、それなら、いくら爆弾に壊されても直さないで済むでしょう。
 その壁だけの家の所で通りを外れて狭い路地に入り、少し奥まった所に少女の住む家はあります。
「ただいま、お父さん」
「おかえり、ムニラ」
 お父さんの元気そうな声と、お父さんの腕が体の向きを変える、ずい、ずい、という音を聞くなり、名前を呼ばれた少女、ムニラは急いで家に上がってお父さんの側に座り、抱えてきた袋を降ろします。
「お父さん、『羽の卵』の人達からもらってきたよ」
「ありがとう、ムニラ。いつもすまないね」
「アーイシャは元気にしてた?家は何もなかった?お父さんには悪いことなかった?」
 袋を開き、中に入っていた小麦粉やら調味料やら薬類やらを家のあちこちに片付けながらまくし立てるムニラに、
「そんなに心配しなくても、何もかも問題ないよ、ムニラ」
 お父さんは笑ってそう言うけれど。
「アーイシャもいい子にしていたよ、ほら」
 そう言って両腕だけで妹のアーイシャの所へ這っていくお父さんの、太ももに巻かれた包帯を見ていると。
 包帯の先に、半月前まであったはずのお父さんの両足のことを思い出すと。
 ムニラはいつも、心配でたまらなくなるのです。
 次にまたいつ、あんな事が家族の誰かの身にあったらどうしよう、と。

 ムニラの住む地方には名前がありません。この地方を誰が治めるか、という事で、ムニラが生まれる前からずっと、たくさんの組織が争っているからです。
 ちゃんとした政府もあるにはありますが、どの組織も政府の言うことを聞かずに争いあい、自分たちの決め事に従わない人を虐げることばかりしているので、政府も鎮圧のために軍を出す以外にできることがない。
 お父さんが両足を失ったのも、そうした反政府組織の攻撃に巻き込まれたからでした。お父さんは誰とも戦っていません。どこかの組織と敵同士だったわけでもありません。ただ、市場に買い物に出ただけです。たまたま、通りすがった荷車引きの男の荷物に、爆弾が仕掛けてあっただけなのです。
 荷車引きの男は、荷車ごと食料品店に突っ込んで大爆発を起こし「名誉の死」を遂げました。食料品店の店主が、テロを起こしたその男の敵対する組織と密かに物資をやり取りしていたらしい、という話はムニラも聞きましたが、ずっと爆弾や銃の音ばかりを聞いてきたムニラにはもう、誰が誰と敵同士か、なんて話はうんざりなのです。

 ムニラの住む砂と土の町に四季はありません。死にそうなくらい暑い日がずうっと続いた後に、死にそうなくらい寒い日がずうっと続く、その繰り返し。雨の降る日より銃弾がばらまかれる日の方がずっと多いし、風はいつでも埃と灰ばかり運んできます。
 花が欲しいな、とムニラは時々思います。友達ともそんな話をする時があります。食べ物も薬も服もいつも何かしら足りないし、そのせいで泥棒や喧嘩はいつも絶えないけれど、花は元々ここに「ない」のだから。そのことを思うとき、ムニラの目には、灰混じりの風や銃痕の残る壁、砂埃に霞む青空がとても寂しいものに映るのです。
 そんな時、この頃のムニラが思い起こすのは、最近この村を訪れる「羽の卵」の人達が魔法のように咲かせてすぐに消してしまう、赤い大きな不思議な花でした。いったいあの花は何なんだろう?花が育つには土、水、太陽、それから長い時間が必要なのに。
 でも、もしもあの人達がするように、ムニラも何もない所に一瞬で花を咲かせる事ができたなら、どんなに素晴らしいことでしょう。ムニラのすることを見て、みんな喧嘩を辞めるかもしれないし、美しい花を見て、あの喜びに満ちた香りを嗅いだら、反政府組織も人を襲うのを辞めるかもしれない。
 どうも武器らしい武器を持っていない様子の「羽の卵」の人達が、銃撃やテロや地雷をどうやってくぐり抜けてここまで来るのかムニラはよく知らないけど、きっとあの花のお陰なのだと、何となく納得していました。
 けれど、そんな夢のような考えに浸れるのは、朝と夜の礼拝の時間、神様に感謝を捧げ、心の声で話しかける時くらいです。ムニラのお母さんはアーイシャを産んですぐに亡くなり、お父さんは歩けない体で、妹はまだ赤ん坊だから、彼女がお父さんを手伝って働き、お母さんの分だけ家事をして、妹を守ってやらないと、家族の誰も生きていけない。
 だから、ムニラが自分自身の事を願えるのは、このお祈りの時だけでした。
(神様、私達のあるじさま、花をください。この村はとても寂しいのです)
 一日を無事に過ごせた感謝の祈りの後、こう付け加えることが、いつからかムニラの夜の礼拝の決まり事のようになっていました。
 けれど、その習慣が始まったのと同じくらいの頃から、ムニラは礼拝の後に気持ちが沈むことが多くなったのです。……
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このような話なので制作に時間がかかっていますが(中盤過ぎたくらいまでは書けてる)、できれば今月、最悪でも来月には仕上げます


  [No.3963] 狂おしいほど好き 投稿者:砂糖水   投稿日:2016/09/25(Sun) 00:58:22   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

おあああああ…!
めっちゃ好きです…。

>  と、そういう風に書き始められればいいのだけれど、そこにいる誰もその生き物の名前を知らないし、第一に見たことすらないのです。

こういうとことかね、あのですね、いいですね…。
ポケモンの存在する世界らしいのに、ムニラたちは知らないんですよね。
もうそれだけで、いい…すごくいい…。

語りもね、いいですね。
すっすっと内容が入ってくるけど、内容が、あの、えぐいっていうかひどい状態なんですよね。
それなのにすすすーっと入ってきちゃうんですよね。

なんていうか、この話はいいぞ…いい…としか出てこなくて語彙力がほしいです。


  [No.3964] ありがとうございます〜〜〜〜 投稿者:Ryo   投稿日:2016/09/25(Sun) 14:39:59   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

>砂糖水さん
お読み頂きありがとうございます!
こんな作品なので物凄く難航しておりますが、書き上げるという意思は強いのでなんとしても完成させたく…(資料を読み返しつつ)
読みやすくはしたいし、ポケモンも活躍させたいし、かと言って蔑ろにしてはいけないものが凄くたくさんあるのですが、凄い書きごたえがあります。頑張ります!