◆冬の神
ファイヤーが姿を見せると春が訪れるという。ファイヤーの伝説、すなわち火の鳥伝説は世界各地に残っている。
フリーザーは、ファイヤーと並ぶ伝説の鳥ポケモンである。長い尾をたなびかせ、氷でできていると伝えられる翼で飛ぶ姿は優雅で美しいとされる。
しかしながらファイヤーとは違い、フリーザーに関する伝承は数が少ない。氷タイプであるため生息域が限られていることや、人は春を寿ぐが寒い冬は敬遠する、といった理由が考えられる。
フリーザーに関する伝承として、最も知られているものは、雪山で遭難した人間が死を迎える時、その前に姿を現すというものだ。また、空気中の水分を凍らせるためか、フリーザーが飛ぶと雪が降るとも言われている。
これに関連して、シンオウ地方キッサキシティにはフリーザーを冬の神とする言い伝えがある。
冬の神はその名の通り、訪れた土地を冬にする。北から南へ、各地を冬にするため飛び回る。ところが、冬が終わったとき冬の神には居場所がない。なぜなら、冬の神がいる限り、冬は終わらないからだ。
困り果てた冬の神に、北の果てに住むキッサキの民が言った。
「この土地の民は皆、寒さにも雪にも慣れています。どうか我らの土地へおいでください」
冬の神は居場所を与えた彼らに深く感謝し、キッサキの民にこう告げた。
「私はお前たちから大地の恵みを奪うだろう。しかし、代わりに冬がお前たちを守るだろう」
それ以来、キッサキは雪の止まない土地になったという。
キッサキシティ周辺では、一年中低い気温と少ない日照時間のため、ほとんどの植物は生育することができない。気候に適応した植物が数種類確認されているが、それらは食用に適しておらず、寒冷地向けに品種改良された農産物も現在のところ充分な収穫量を得るまでには到っていない。
その代わり、養分が豊富な北の海は大変豊かな漁場であった。人々は海から恵みを得て暮らしてきた。また、農産物こそ育たないが、雪の積もった草原や山は獲物の発見が容易であった為、猟が盛んに行われていた。
キッサキは年中雪に覆われ、決して暮らしやすい土地ではなかったが、冬の神が言った通り冬はキッサキの人々を守った。時の支配者たちがシンオウ地方を蝦夷地とし、徐々にその版図を拡大、シンオウ全体を平定していく中、最後まで残ったのがキッサキである。
キッサキシティへ行くには陸路の場合、テンガン山を越え、さらに常に吹雪で荒れる道なき道を行くしかない。道を作ろうにも万年雪がそれを阻む。また、周辺の海は非常に荒れやすく、慣れた者でなければまともに渡ることすら敵わなかった。そんな環境が時の支配者たちから差し向けられる人間達を遠ざけ、キッサキを長く守ったのだ。
そして現在、キッサキの人々の生活を支える上で大きなウェイトを占めるのは観光である。
例えば、伝説を今に伝えるキッサキ神殿やエイチ湖は重要な観光資源だ。昔に比べ道路やバスなどの交通手段も整備されてアクセスしやすくなった為、キッサキ港を玄関口として訪れる人も増えている。
また近年は「スノースポーツの町・キッサキ」として、一年を通して降り続ける雪を生かしたスキー場をシンオウ内外にアピールしている。
その昔、冬の神は「冬がお前達を守るだろう」と言った。その言葉通り、長い間キッサキは独立を保ち続けた。
そして今もその形を変え、キッサキを守り続けている。