「がぶっ、ごぶっ」
べきべきと俺の体の骨が折れて行く。頭が沸騰しそうだ。意識が爆発しそうだ。
こいつの腹を裂いたというのに、こいつは最後の力を振り絞るかのように俺を締め上げた。
「あぐぅっ、いぎぃ」
両脚の感覚が消えたのが分かった。
そして、この野郎の締め付けは終わった。
指一本、爪ももう全く動かせねぇ。
ハブネークも、俺を締め上げた後は動かなかった。
くそったれ、相打ちかよ。
俺もハブネークもこのまま死ぬのだろう。馬鹿みてえにいつも通り、青い空と白い雲が流れて行くのを見ながら。
「げぶっ」
血を吐くと、目が霞んで来る。
死、はそう大して怖くない。後悔が無い訳じゃない。俺の子供は俺の死体を見た後に何を思うだろう。俺の番は泣き崩れるんだろうか。
そんな事も考えたが、すぐに消え去った。
「……なあ」
消え入りそうな声。ハブネークが話し掛けて来た。
「……何だ」
「楽しかったか?」
朦朧とする頭で、ゆっくりとした思考の後で俺は言った。
もう、青い空も霞んできやがった。ったくが。
「そうだな」
いつからこいつと戦い続けた。
何度爪を尻尾の刃を打ち合わせた。
何度こいつの毒をこの身に受け、何度こいつを切り裂いた。
そして、今、こいつの腹を掻っ捌き、その代償として俺は全身の骨を砕かれた。
当然の結末っちゃあ、そうなんだろうな。どっちかが強かったらさっさとどっちかが殺してる。
体が冷えて行く。俺が掻っ捌いた腹から出て来る血が温かい。
「お前に巻かれて死ぬなんてな」
「お前を巻いたまま死ぬなんてな」
互いの体温を感じながら死ぬなんてな。
俺達は敵同士でありながら、互いの事を誰よりも知っていた。
苦い物が好きだ何て事も知ってたし、こいつは俺が甘い物が好きだ何て知っていた。
吐き気がする。けれど、悪くない。
暗闇が近付いて来た。
「……なあ」
「何だ、早くしろ」
こいつも、近いか。
死ぬタイミングまでそっくり一緒らしい。悪くない。
「……いや、いい」
「……そうか」
いや、やっぱり、と口を開こうとしたが、もう口も動かない。
くそったれ。でも、まあ、後悔はない。
俺だけが死のうが、こいつだけが死のうが、こうなろうが、俺とこいつは全力で戦って来た。
それだけで、後悔はない。それ以外の事がどうだろうとも、それに比べたら全て些細な事だ。
体が軽くなる。全ての感覚が失せて行く。
「あの世でもな」
そう聞こえた気がした。
「ああ」
答えられた気がした。