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  [No.4012] イリュージョン・アクト 投稿者:きとかげ   投稿日:2017/07/01(Sat) 00:16:52   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ――この町には、ゾロアとゾロアークのみが所属する劇団があるらしい。
 まるで人と見分けがつかない外見と演技。イリュージョンで彩られる演出の数々。
 劇場を訪れた観客は、夢幻のようなひと時を過ごすであろう。

「そこのチケットを貰った」
 と上司が言った。
「貰えるものなんですか、それ」
 とキランは一度は驚いてみたものの、目の前の上司はゾロア使いと呼ばれる人である。チケットを貰っても不思議ではない。
「そこのゾロアは私が育てたから」
 そんなところだろうと思った。
「二枚、もらった。この後空いてたらいっしょに行こう」
「いいですよ」
 キランが安請け合いした後で。
「もしも、チケットを貰ったのに行かなかったら、大変なことになるからな」
 そう言って、上司はすっと目を細めた。
「大変なことって」
 キランが唾をのむ。
「具体的に、何が起こるんです?」
「劇団のゾロアとゾロアークたちが、一斉に」
「一斉に?」
「スネる」

 ◇

 演じるは幻影劇団、演目はかの有名な『ロミオとジュリエット』。
 愛し合う二人は家のために結ばれない。バルコニーから愛を叫ぶジュリエットの姿は幻影と溶け、ロミオは心によぎるジュリエットの姿を振り切ってその場を去る。
 特性“イリュージョン”を最大限利用した演劇鑑賞は、3D映画を生で見ているよう。

 ジュリエットが仮死毒の小瓶を呷る。手から滑り落ちた小瓶が砕け散り、キランの耳元でガシャリと小瓶の割れる音がする。
 青白いジュリエットの体を抱いて、ロミオは慟哭する。冷たい夜の墓場は土の匂いでむせ返る。
 後を追おうとロミオが短剣を自らに突き立てようとしたその時、両家の大人たちが止めに入る。若き二人の悲恋を知った両家は仲直りし、ジュリエットも仮死から起き上がって大団円。

「こんな話でしたっけ」
「まあ、いいんじゃないか」
 あの子たちはハッピーエンドが好きだから、と上司は満足そうに笑っていた。


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