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  [No.4013] バトル描写書き合い会 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/07/07(Fri) 20:16:01   67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

Twitterで突発的に行った【バトル描写書き合い会】の作品投下スレッドです。
指定されたポケモン同士のバトルを1週間で書き、同じ対戦カードで作者ごとにどれだけの違いが出るのかを楽しむ企画です。

ルール
・オオタチVSゾロアーク の勝負を書く
・シングル1VS1のトレーナー戦で書く
・自分らしさが出ていればどう書こうが自由

 任意事項
・オオタチのトレーナー名はレットもしくはセント
・ゾロアークのトレーナー名はコタロウ
・ゾロアークが何に化けているかは自由


  [No.4014] Re: バトル描写書き合い会 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2017/07/07(Fri) 20:25:32   88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「お前は辻斬り小太郎の噂を知っているか?」


 とある小さな町のポケモンセンターにやってきたトレーナーに、白衣を着た男が声をかける。この町に入り、パートナーのオオタチを回復させるために預けたトレーナーの少年セントはつまらなさそうに返事をした。

「何それ、そいつを振ん縛って捕まえてくれば謝礼でもくれるの?」
「……人の質問に質問で返すなと学校で教わらなかったみたいだな」
「俺トレーナーだから学校とか行ったことないしー」

 イライラしたような白衣の男の声にセントはあっけらかんと答える。舌打ち一つした後、男は続けた。

「捕まえて警察に持っていけば金にはなる。だが俺が言いたいのはそいつはトレーナーを斬る奴だから気を付けろってことだ」
「へえ、見ず知らずで教養のない俺のこと心配してくれるんだ?」
「そんなわけねえだろ。ここ二ヶ月で旅の途中でこの町に訪れたトレーナーが五人死んでる。あまり流れ者に死なれるとこの町自体に変な噂が流れるし遺体を片づけるのも面倒だ」
「ふーん。まあ普通の人にとっては怖いよね」
「ああ、今もこの町にトレーナーを殺した奴がいるかもしれないと怯える奴らも多い」
「うわーいかにもホラーとかでありがちー」

 セントはへらへらとパートナーの回復を待ちながら答える。旅のトレーナーが何らかの理由で死んでしまっても自己責任だしそれを利用して襲うやつもいる。だからトレーナーにとっては珍しくもない。

「でもさ、辻斬りナントカってことは全員刀とかで切られてたの?」
「いや、刀じゃねえ。死んだ奴らの体には鋭く一閃、獣の爪による切り傷があった。それなのにポケモンの毛みたいな痕跡がねえ」
「おっさんやけに詳しいね?」

 セントはそう呟いた。白衣の男はまたため息を吐く。

「……俺はこの町唯一の医者なんだ。死体を運んで埋葬するなら男手もいるし、ずっと駆り出されてる。うんざりだ」
「へー、ご苦労さま」
「だからお前が犠牲者にならんようこうしてわざわざ声をかけてやってるんだ。感謝の一つくらいしたらどうだ」
「はいはい、ここで俺がお墓作ってもらうことになったら感謝しまーす」
「ちっ……縁起でもねえこと言いやがる」

 ポケモンセンターのジョーイさんに番号を呼ばれて回復したオオタチの入ったボールを受け取る。セントは話をした医者に何の興味もなさそうに立ち去ろうとした。その背中に、男が声をかける。


「いいか、辻斬りはポケモンを操る奴の仕業だ。そういうポケモンを持ってるやつに会ったら十分注意しろよ」
「おーしダチ。すっかり元気になったなー」
「聞いてねえ……」
 
 ため息を吐く医者に一応セントは振り返ることなく右手をひらひらと振り、ダチとニックネームをつけたオオタチを連れてポケモンセンターを出る。ただ旅の途中で寄っただけの町だったし、こういう話を聞いて長居するつもりもなかった。適当に昼食を取ってしばらく足を休めた後、次の街へ行くために草むらへと入る。

「おーい!そこの少年、バトルしようぜ!」
「!」

 あまり人通りのない道だったため周りに注意しつつも気軽に歩いていたのだが向こうから歩いてきた男に勝負を仕掛けられる。トレーナーとトレーナーが目を合わせたらそれはバトルの合図。断ることは許されない。

「……ああいいよ。ちゃちゃっと俺が勝つけどね! 行くよダチ!」
「オオンッ!」
「余裕だな、楽しませてもらおうか、出てこいランクルス!!」

 オオタチが長い体をぐるりと丸めた隙のない体勢を取り、ランクルスがすとんっと軽い音と立てて着地する。プルプルとした液体の中に入った胎児のようなポケモン、ランクルスは念力や拳を操り戦うなかなか強力なポケモンだ。でも相手を切り裂くような技は覚えない。 

「オオタチか……割とよく見かけるポケモンだな。いかにも少年らしい」
「馬鹿にしないでほしいな。俺のダチはそんじょそこらのオオタチとは違うからね!」

 オオタチはどの地方にもいるノーマルタイプの進化系の一匹でありその中でも能力は低いと言われている。セントはそれを知ったうえでただ一匹の相棒として連れ歩いているのだ。そこには、彼なりの揺るがない自信がある。
 
「それじゃあ見せてもらおうか、行けランクルス、『ピヨピヨパンチ』!」
「ダチ、『突進』!」
「オオッ!」

 相手のポケモンが特殊な液体でつくられた腕を振り上げて向かってくるのをオオタチは突進で迎え撃つ。ランクルスはスピードが遅いポケモン。腕を振り下ろす前にオオタチが本体へと一撃を入れる方が本来早いはずだ、しかし。

「躱せランクルス!」
「!!」
「そのままやれ、『サイコキネシス』!!」

 ランクルスの体がオオタチをすり抜けるように突進を交わしてさらに前に出る。そのまま肉食獣のような速さでオオタチから距離を取り、セントの目の前へ向かう。そして振り返りオオタチの方を向き直して攻撃を仕掛けようとするのを。セントは不敵に嗤って言った。


「やらせねえよ、辻斬り野郎」

 
 まっすぐ突っ込んだはずのオオタチが、細長い体でとぐろを巻きながらセントの盾になった。ランクルスは指示に反して念力など使っていない。使われたのは鋭い爪で相手を切り裂く――『辻斬り』だ。防御姿勢を取った細長い体が浅く切り裂かれたものの大したダメージにはなっていない。相手の男とポケモンが驚く。その隙を見逃さず、セントは指示を出す。

「ダチ、『捨て身タックル』!」
「オオンッ!!」
「ゾアァ!?」

 丸めた体を伸ばしながらの強烈な一撃に獣の様なうめき声をあげ相手のポケモンは大きく吹き飛ばされる。それはもうランクルスではなかった。ダメージを受けると同時に緑色の液体に包まれた体が真っ黒な獣へと変化し、化け狐ポケモンであるゾロアークになる。

「失敗したなおっさん。ゾロアークの特性『イリュージョン』で姿は相手を切り裂く攻撃とは無縁のランクルスにして警戒を解いたつもりだろうが、いくら姿をそっくりに変えても地面に降りた時の音は消せねえ。そしてランクルスは宙に浮いたポケモンだ。最初っからあんたのポケモンがゾロアークってばればれなんだよ。まあ、他にもわかった理由なんていくらでもあるけど」

 だからセントは最初の攻撃で『突進』を命じた。そもそもオオタチは技としての『突進』を覚えない。セントが『突進』を命じたらそれは『影分身』で偽物を作ってそれで突っ込ませろという合図だとセントとダチは決めている。そうすることで迂闊にポケモンとの距離を離したと見せかけ、相手の化けの皮が剥がれるのを待ったのだ。

「ちっ……小賢しいガキが……」
「はいはい小悪党のテンプレ台詞お疲れ様。それで? 俺に直接辻斬りしようとしてくれたのはどう落とし前つけてくれんの?」

 セントは自分に向けて明確な殺意を向けた辻斬り男ににやにやして言った。ポケモントレーナーの旅には危険がつきもの。これくらいの事でビビっていてはやってられないとセントは思っている。相手は顔を青ざめさせながらも殺意を緩めず激昂する。

「黙れ……てめえはここで死ななきゃいけねえんだよ! ゾロアーク、あのガキを殺せ!」
「全く、そんな風に殺気を見せるからばれるんだよ……ダチ、いくよ」

 ゾロアークが本来のしなやかな動き、鋭い爪を槍のように構えながらセントに迫る。今度は真正面から切り裂くつもりかとオオタチは慌てず再び『とぐろを巻く』姿勢を作って相手の攻撃に備えた。体を丸め防御、伸ばす勢いをくわえることで攻撃時に素早さを上げることが出来る万能の体勢。しかしゾロアークはセントとオオタチから直接体の届かない距離で急停止し、口に力を蓄える。セントがはっとしたが、既にゾロアークの口にはその種特有の一撃が蓄えられている。

「『ナイトバースト』!」
「ちっ……! ダチ、奥の手を使え!」

 オオタチが一瞬のうちに動いた後、ゾロアークの口から暗黒の衝撃波が放たれる。オオタチとセントにダメージを与えつつも両者の視界を月も出ない闇夜のような黒に変えて視界を奪う。セントもオオタチの瞳は焦点が合わず、ゾロアークを捕らえられていないと辻斬り男は判断し、ゾロアークに止めを刺させようとする。

「これは俺の復讐だ……止めだゾロアーク、『辻斬り』でこいつを殺せ!」
「ゾアアア!!」

 ゾロアークの鋭い爪がセントの喉を切り裂こうとする。しかしその腕が降りぬかれることはなかった。体に触れるほんの手前で、腕が止まり動けない。辻斬り男がゾロアークにもう一度命じる。

「ビビるんじゃねえゾロアーク! これは俺達の復讐なんだ。こいつを殺さなきゃだめなんだ! お前だってわかってるはずだろ!」
「ゾアアア……!」
「ゾロアーク!!」

 辻斬り男の必死の訴えにもかかわらず、ゾロアークは動けない。人間の体などどこであろうと易々と切り裂ける鋭さを持った爪は、セントの体に食い込むことはなかった。目の焦点は合わぬまま、次のセントが放ったのは命乞いではなくやはり嘲笑だった。


「そんなに吼えるなよおっさん。こいつは動かないんじゃねえ。動けねえんだよ」
「……!! 急げゾロアーク、間に合わなくなる!」
「もう遅え! ダチ、『捨て身タックル』だ!」

 視界が効かなくとも、すぐそばにいる獣の気配を感じ取れないオオタチではない。とぐろを巻いた姿勢から二度目の『捨て身タックル』でゾロアークを吹き飛ばす。動けない体勢から腹に痛烈な一撃を食らい、ゾロアークは仰向けになって倒れた。

「あ……あ……何故、だ……」

 この世の終わりのような顔で絶望する辻斬り男に、セントはようやく回復し始めた視界で無様な相手を見る。そして肩を竦めて説明した。

「こいつは単純な『トリック』だよ? 俺のダチには最初から『後攻のしっぽ』を持たせてた。こいつを持ったポケモンは絶対に後攻めしか出来なくなる。こっちが攻撃してないのに自分から攻撃することができない。あんたのゾロアークは『気合のハチマキ』を持ってたよね。『ナイトバースト』を使われる直前に入れ替えてそっちから攻撃できなくしたってこと、わかったぁ?」

 オオタチの特性は相手の道具がわかる『お見通し』を持つものもいる。セントのダチがまさにそうで事前に相手が道具を持っているのもわかっていた。また耐久力の高いランクルスに『気合のハチマキ』を持たせることにも違和感があったのも『イリュージョン』を見抜いた要因の一つである。だが男はそんなセントの説明を聞いていない。ゾロアークをボールに戻すことすら忘れて腰を抜かし、それでも後ずさってセントから逃げようとしている。

「まあそれを気取られないように『とぐろを巻く』のポーズを取らせて相手の出方を伺ったりそもそも先手で攻めることの出来ない道具を持たせて戦う俺とダチが凄いってことで……って、おっさん聞いてるー?」
「み、見逃してくれ……」

 セントが震えあがった男にやれやれとため息をつく。辻斬り男は必死に逃げようとするが、腰を抜かしていてまともに動けていない。少しずつ距離を離そうとする男に構わず、セントは生意気な笑顔を浮かべて言う。

「ダチは肉食だけどあんたみたいなおっさんを取って食ったりしないって。これくらい慣れてるし見逃してあげるよ」
「ほ、本当か……」
「うん本当本当! 俺って優しいなあ。なあダチー」
「オオッ!」

 屈託のない笑みでオオタチを抱きしめるセント。命は助かったと思いようやく少しは安心したのか辻斬り男は立ち上がりセントから背を向けて逃げ出した。二人の距離が離れ、そして。


「……って。正体知ってて突っかかってきたくせにんなわけねーだろバーカ」


 無防備に向けられた背中を、まっすぐに伸びた真っ黒い爪が切り裂く。それはゾロアークのものでは勿論ない。セントのオオタチが『シャドークロー』で伸ばした影の爪だった。背中に一直線、刀で切られたような大傷を受けて男は倒れる。もぞもぞと動いて何かを訴えるが、既に致命傷だ。セントもそれがわかっているから、助けることもせず何かそれ以上声をかけることもない。

「それにしても笑っちゃうよなーダチ。なんだよ辻斬り小太郎って。小太郎どっから来たんだよ。俺そんなだっせえ名前じゃないのに」
「オオッ?」

 オオタチはセントがポケモンセンターでした会話を知らないので首を傾げる。それが可愛くてセントは頭を撫でてやった。己のポケモンに人を斬らせて、そのことに何の感慨もなく。

「そんな噂が立ってるなら、この町に寄るのは最後にした方がいいかなあ。そろそろ別の地方に行ってみるのもありかな? さて、お前も飯食ってこい。ロコンならともかくゾロアークなんてなかなか食えないからね」
「オオン!」

 辻斬り男が完全に事切れたのを確認して、セントは男に近寄り金目のものを奪う。しかし大したものは持っていなかった。財布のお札だけ抜いて自分の懐にしまう。オオタチの見た目は愛らしいが生態としては完全に肉食だ。意識を失い倒れたゾロアークを、臓腑の詰まった腹から食べていく。パートナーの食事の間、セントは切られて死んだ辻斬り男の顔を見て呟く。

「復讐って事は、俺がこの前殺した奴の家族か何かかな? まあ、どうでもいいけどさー」

 言葉に明るさと生意気さを併せ持つ少年、セントこそがここ二ヶ月でトレーナーを切り殺した張本人だった。男の顔を見て今まで殺した奴と似てるやつがいないかなと考えてみたのだが、そもそも今まで殺した相手の顔を覚えていないことに気付きやめる。

「あのお医者さんもまた苦労することになるねー。今まで片付けありがと。そしてさよならっ!」

 セントはにこりと笑って、さっき出た町の親切な医者に向かってするつもりで敬礼した。まさか彼も警告した相手が辻斬り小太郎張本人だとは夢にも思わないだろう。食事を終え、血まみれの身体で帰ってきたダチを用意したタオルでくるんで血を拭いてやりつつセントは旅を続ける。パートナーのオオタチ一匹と、あてどなく誰かを殺める日々を。

「たまには返り討ちも悪くないけど、やっぱり自分から行く方が性に合ってるなあ……次の街ではどんなトレーナーを狙おうかな?」
  







 


  [No.4015] Re: バトル描写書き合い会 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/07/07(Fri) 20:40:29   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]





「対戦よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
 対戦前に、お互いに挨拶を交わして相手と向き合う。
 トレーナーのセントがボールから繰り出したポケモンは、オオタチ。
 対して、相手のポケモンは―― ドーブルだった。
(ドーブルかぁ……)
 何をやってくるか分からないポケモンの筆頭である、絵描きポケモンのドーブル。
 ポケモンのワザならばなんでも『スケッチ』でコピーできるため、全てのワザを使えるとされるが、攻撃力が皆無なので主に補助技を駆使して戦うことが多い。
 だが、稀にアタッカーとして戦ってくることもあり、昔セントが戦ったトレーナーのドーブルは『シードフレア』『裁きの礫』『断崖の劔(つるぎ)』『破滅の願い』『Vジェネレート』などの見たことのないワザを使ってきた。
 相手トレーナー曰く「見たことのない物を描くのが絵描きというもの」であるらしく、伝承や文献を調べあげて伝説ポケモンの使う伝説のワザというものを想像で再現していたそうだ。実際に見たわけではない想像で作った劣化コピーの上に使用者がドーブルということもあり威力は全く無かったが、見た目のワザエフェクトだけはひたすら派手で完成度が高く(本物を知らないので比べようが無いが)、ワザを次々と繰り出すごとにこの世の終わりとも思える景色が広がり、ワケが分からないままに負けてしまった。
 さすがに今回はそんなことは無いだろうとセントは思っていたが、相手の交代が無いルールである以上、サポート要員ではなく何らかの攻撃ワザを使って、戦闘不能にする手段があるに違いない。
 何をやってくるか分からない。
 だが、問題はなかった。
 幸いなことにこのオオタチに持たせている道具は《こだわりスカーフ》。これをワザのトリックを使い相手に押し付ける。
 どんなワザをどれだけ持っていようと、一つのワザしか使えなくなってしまえば。ワザの種類が命であるドーブルにとって致命的な痛手となる。
「ト……」
「ちょうはつ」
 相手トレーナーの指示が先に入り。
 ドーブルの口からとてもノーマルタイプとは思えない、悪どく下種びた罵声が発せされ、[ちょうはつ]を受けたオオタチは逆上し「キシャアアアア」と反射的に威嚇を返した。
「しまった」
 と後悔しても、もう遅い。スカーフの効果で先手は取れそうだったにも関わらず、現れたドーブルを目にしてつまらない考え事をしてしまった結果、まんまと先手を奪われて絶好のチャンスを棒に振った上に、一気にピンチに追い詰められた。
 オオタチの基本戦術は多彩な補助技を起点として自身の火力の無さを補って攻撃をしていくものだが、まずは持たせた《こだわりスカーフ》を外さないと動くことはできない。
 どんなワザをどれだけ持っていようと、一つのワザしか使えなくなってしまえば。ワザの種類が命であるオオタチにとって致命的な痛手となる。
 幸いなことに、道具の効果でワザは縛られておらず、《ちょうはつ状態》でトリックが使えなくなっても攻撃ワザの投げつけるがある。あとは《ちょうはつ状態》が解けるまで時間稼ぎをすればいい。
 だから、次に出すワザは投げつける一択。

 いや、しかし……
「まふまふ、すまない。今は避け続けろ」

 それが正解なのか? とセントは迷っていた。
 ここからの選択が勝敗のすべてを握っている、その決断こそが司令官たるトレーナーの辛いところだ。
「チェ……」
 オオタチのまふまふには、自分の背中越しに主人が迷っていることが分かっていた。
 ドーブルが放った[悪の波動]を、オオタチはワザを使わずに避ける。《こだわりスカーフ》の効果で平常時の素早さが上がっているため、比較的に楽に避けることができた。
(まふまふの基本戦術は、電光石火や不意打ちを使って相手の出鼻をくじいてワザを妨害させながら隙を作り、とぐろを巻くを何度も使って攻撃力を上げて、最後はとっておきで一気に押し通す。
 もしくは高速移動で素早さをあげた上で、距離を取りながらシャドーボールや10万ボルトなどの特殊ワザちょっとずつ削り、痺れを切らした相手のワザを先取りで盗みとって使っていく。
 ノーマルタイプの持ち味である柔軟な対応が強み。相手はドーブル、どう動いてくるのか分からない。だが素直に殴ってくるのではなく、多彩なワザであらゆる妨害をしてくると考えるべき。挑発にフェイント、デリケートなワザの積み上げはリスキー、ならば……)
 オオタチがその場を凌ぐ中、セントは頭をフル回転して考えをまとめ上げ。

「決めた」
 顔を上げて、叫ぶ。
「プランDだっ! まふまふ!」
「タチェ!!」

 その指示が入った時、相手のドーブルはブツブツと謎の単語を詠唱して悪巧みをしている最中だったが。
 ワザの妨害には間に合わず、相手の[わるだくみ]が完了したところに、オオタチの[でんこうせっか]が命中した。
 攻撃がヒットした直後に、ドーブルの姿が一瞬ゆがみ、大きくブレだした。
「?! ゾロアーク、だったのか」
 特性の《イリュージョン》が解除されて、赤と黒の鬣が特徴的な大型の黒キツネポケモンが姿を現す。だが、ドーブルではなくゾロアークだろうとしても、セント達がやることは変わらない。
 あらゆる妨害をして、こちらのやりたいことを潰して来るならば、逆をすればいい。
 無理にたくさんのワザを使って戦うことはない、ワザなんてたった一つだけ使えればいい。
 こだわりスカーフの効果は、ワザを一つしか使えなくなる代わりに素早さが一段底上げされる。デメリットの多い効果だが、ワザ以外の通常攻撃はいくらでも使えるのでそれを活用したり、汎用性の高いワザを使えばそのデメリットは気にならなくなる。

 暗闇色の波紋が地面を通して放射線状に広がり、[ナイトバースト]は襲い掛かる。オオタチはその場で跳躍して地面から離れる。飛び上がり自由が利かない相手を狙って、ゾロアークは[悪の波動]を放ち、撃ち落とそうとする。
 オオタチはそこの空中を強く踏み切って、[空中ジャンプの電光石火]で二段跳躍をして回避をした。
「接近して攻撃! 特殊ワザを使う隙を与えるな」
「迎え討て!」
 着地をして、オオタチはゾロアークに向かって突っ込んでいく。
 あちらから来るならば望むところとゾロアークは何らかの物理ワザで迎え討とうと構えたが、オオタチは相手に辿り着く2m程手前で[遠当ての電光石火]を叩き込み、反撃を受けないようにすぐに引き下がった。
 使用者が多く研究が進んだ基本ワザの『でんこうせっか』には多数の亜種派生が確認されており、それらは同じワザとして使うことができる。うまく使い分けることができればワザの制限のデメリットもさほど気にならない。

 戦局は拮抗していた。ゾロアークの攻撃に対してオオタチは電光石火で躱しながら牽制を加えていく、お互いに出方を伺いながらの攻防を繰り返していた。
 ゾロアークのトレーナーは、迷うことなく攻撃ワザの指示を送っていく。
 ドーブルに化けていたのは『対面した時相手が一番悩むであろう姿』である以上に意味は無く、いつバレても構わないし、はなからアテにしてなかった。とは言え、イリュージョン中はバレないように多少行動を控えなければならなかった。だが、イリュージョンが解けた今は遠慮はせずに、どんどん攻撃していける。
 ゾロアークのトレーナーはオオタチが首に巻いている水色のスカーフは、ただのオシャレなファッションではなく《こだわりスカーフ》であることは、察しがついていた。だが、叩き落すなどで没収するよりは、今後の相手の行動が読みやすい今の状態の方が、こちらとして都合が良い。
 オオタチの特殊耐久力を考えれば、悪巧みで特攻がぐーんと上がった今のゾロアークの特殊ワザが一発でも入れば勝てる状態だった。単純に持久戦になった時に体重差でスタミナがあるゾロアークの方が圧倒的に有利。このまま押して行けば勝てる流れだ。
「騙し、からの、ロー!」
 ゾロアークのトレーナーが合図をすると。
 不意に、ゾロアークの姿が視覚で捕捉することが出来なくなり、目の前から消えた。
 その刹那、必中技である[騙し討ち]が命中し、オオタチの真横に現われる。
 そこから連結させて、[ローキック]を繰り出すのだが、オオタチは間一髪回避して、ローキックは大きく空振った。
 仮に勝敗の分岐点を挙げるなら、ここでゾロアークが攻め急いだのが悪かったのだろう。オオタチに疲れが出て回避できなくなるタイミングまでもう少し待つべきだった。
 ここに隙が生まれた。
「今だ、コイルドライバーっ!」
 セントの合図に応えて、オオタチはゾロアークの足元に滑り込む。
 そこから尻尾で相手の足を掬い上げて体勢を崩し、相手の重心を自分の体の上に乗せる。
 そして、全身を大きく捻じりながら撥ね上げて、ゾロアークの身体を真上に向けて大きく蹴り上げた!
 直後に、自分自身も真上に跳躍して追いかける。双方が上下逆になるように空中で相手の身体を捕らえると、すぐに長い体で巻き付いて締め上げ、相手の自由を奪い取ると、ゾロアークの頭が下になるように地面に向かって落下する。
「くっ 火炎放射っ!」
 顔が真下に向いているならば、下向きに炎を吐いて落下の威力を弱められるだろうと考えたのだろう。相手トレーナーの指示が飛ぶが、それは叶わない。
 尻尾でゾロアークの首筋が締め上げられており、呼吸すらままならず、何かを口から出すことはできなかった。

  ドシュ

 ゾロアークは顔面から地に叩き付けられた。オオタチとゾロアーク、合計120kg以上の負荷が、ゾロアークの首にダイレクトで衝撃が入る。
「――――!!」
 トレーナーのゾロアークを心配する声が聞こえる。
「まだだ。地面をしっかりと踏んで、捉えろ」
 成功して一瞬ふにゃぁと満面の笑顔に成りかけたオオタチの顔が、その言葉で再びキリッとした顔に戻る。
 そう、高威力のワザを使っていたわけではなく、こんな程度の攻撃では、ゾロアークのHPを削りきるには足りず、まだ倒れるには至らない。
 ゾロアークが意識を朦朧としながらもよろよろと立ち上がろうとした。その瞬間を狙う。
 最後のワザも、もちろん――。

「でんこうせっか!」

 本来加速の為に使われる強い踏み切りを、加速ではなくすべて攻撃力に変換して叩き込む。地面を捉えて静止し、走らない電光石火――。
 [ゼロ距離でんこうせっか]
 を受けて、今度こそゾロアークは沈黙したのだった。



**************

あとがき

Q.ゾロアークはなぜ[いちゃもん]を使わないの?
A.使っても[でんこうせっか]→[わるあがき](空振り)→[でんこうせっか]の順にオオタチはワザを使えるので、戦闘のテンポは遅くなりますが、戦局を大きく変えるほどでない、とはいえ選択肢の一つとしてはアリでした。

・頭脳戦が好きなのですが、毎回力任せにぶん殴る脳筋バトルになってしまう。
・オオタチもゾロアークも戦法が幅広いのでどういう戦いにするべきか悩みましたがが、初手スカーフトリックにすることでだいぶ絞れました。
・当初は[とっておき]ルートで考えてましたが、挑発などの妨害を躱す手が浮かばなかったのでボツにしました。
・勝負らしいものが始まるまで半分くらいの文字数を取ってますね。
・作中の情報量を削るためにゾロアークのトレーナー名とゾロアークのニックネームは削りました。コタロウ君ごめんね。
・戦闘中にトレーナーは「そこ!」とか「下がれ!」とか「後ろ危ない」など、掛け声をしていることになってますが、テンポの都合で省略してます。
・電光石火の派生形は、空中ジャンプはスマブラ、遠当てはポケダンで見られます。ゼロ距離はオリジナルです。アニポケの電光石火は反復横跳びでしたね。
・最後のコイルドライバーはワザ扱いなのか通常攻撃扱いなのか決めてませんが、めちゃくちゃ痛いです。人間にやると死にます。
・まふまふは♂です。


↓ ボツ展開

「それはどうかな?」
「何っ」
「名前の異なるワザを3つ以上使うことで、このワザの発動条件は満たす。さらにとぐろ2回で威力は倍」
「ま、まさか……」
「いくぞ、まふまふ!」
「タチェ!」

「 [とっておき] だ!」

 オオタチは[でんこうせっか]を使い、一瞬で距離を詰めて相手の懐に潜り込む、そこから次なるワザを連結させて発動させる。
 オオタチは全身に黄金の輝きを身に纏い、相手の頭上に向けてキラキラと光る尻尾を振り下ろす。
 間に合わないと判断し、ゾロアークは速やかに[まもる]を展開して、その攻撃を迎え受ける。

   ゴシュッ

 ファンシーなワザエフェクトからは想像ができない、鈍い音がする。この状態でのとっておきの威力は420、そこからワザの連結の減衰によって威力が下がっているので、今回はまもるでギリギリ防ぎきれたが、素の威力ならばまもるすら貫通できるだろう。

 だが、そこで終わりではない。
 まもるを使ったことで、生まれたその隙。
 そこをオオタチは逃しはしないっ!
 空中でくるっと一回転をして、煌びやかな金色の輝きをそのままに、二発目の[とっておき]をゾロアークの鳩尾(みぞおち)を目掛けて、まっすぐ叩き込んだ!


  [No.4016] Re: バトル描写書き合い会 投稿者:空色代吉   投稿日:2017/07/07(Fri) 20:41:31   107clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

〜目と目を合わせて〜





湖畔に佇んで居たら、目が合うはずのない奴と、目が合ってしまった。

「そこのキミたち! バトルしようよ!」

その胴長のポケモン、オオタチを連れた同年代のトレーナーはオレと相棒に向けて、声をかけてくる。
一瞬戸惑い、周りを見渡すとオオタチ使いに呆れられた。それから彼は、オレの相棒の種族名を言い、こちらを指差す。

「キミたちに言っているんだよ? ゾロアーク使いさん?」
「お前……よくオレたちに気が付いたな。幻影で隠れていたはずだが」
「へへっ、僕のオオタチはそういうの見破るの得意なんだ! にしてもゾロアークの幻影の力で隠れているなんて、トレーナーを避けているのかい?」

かぎわけるとか、みやぶるの類で見つけられたのだろうか……と思考を巡らしていたら、からかい交じりの質問をされた。事実その通りだったので、首肯する。あっさりとした返答に彼は得意げになるわけでもなく、驚くこともせず受け流す。それから笑みを湛え、トレーナーの決まり文句を言った。

「でも目と目が合ったからには?」
「ポケモンバトル、だな。受けてたとう。ルールは?」
「シングルバトルの一対一で!」
「いいだろう。っと、名乗るのを忘れていたな……オレはコタロウ。こっちは相棒のゾロアークだ」
「僕はレット、こっちはパートナーのオオタチだよ! よろしく!」


*************************


湖の傍でオレとレットは向かいあい、お互いバトルさせるポケモンを選ぶ。

「任せたよ、オオタチ!」

レットは連れ歩いていたオオタチをそのまま出してきた。すると、オレの相棒が服の裾をつまむ。『ここは自分に行かせてほしい』というサインだった。
ゾロアークが素の状態で先陣を行くことに不思議そうにするレット。おそらく、ゾロアークの持つ手持ちのポケモンに化ける幻影の能力、イリュージョンを使わないことに疑問を持ったのだろう。そんなレットにオレはゾロアークの代弁をしてやった。

「多分、ゾロアークはオオタチに対抗心を抱いているのだろう。本来の役割とは違うが、こいつがオオタチに挑みたいって気持ちを今回は優先させていただこうと思う」
「なるほどなるほど、オオタチもどんと来いってさ!」
「では、レットにオオタチ、バトルよろしくお願いします」
「コタロウにゾロアーク、こちらこそよろしくお願いしますっ!」

互いに礼をし、バトルの火ぶたは切って落とされる。

「いくよオオタチ、こうそくいどうで翻弄させるんだ!」

レットの指示を受けたオオタチはその場でバック転をし、着地と同時にするりと滑らかな動きで駆け出す。短い手足にも関わらずどんどん加速してゾロアークを惑わしていくオオタチ。だが惑わすことにかけてはゾロアークの方が上手だ。それをこの技で見せてやる。

「翻弄とはこういうものだ! ゾロアーク、だましうち!」

ゆらり、とゾロアークの身体が揺れる。すると、ゾロアークの幻影による分身がオオタチの四方に出現した。包囲され、立ち止まってしまうオオタチにレットは取り乱すことなく指示を出す。

「辺りを確認して、キミなら見破れる!」

その言葉を受け、オオタチはすかさず頭を回して四体のゾロアークすべてを目視する。
全ての分身を見終えたオオタチは――――その場で首を横に振った。

「OK! 上から来るよ! 防いでオオタチ!」

だましうちが必中技ということも含めてのレットの防御指示に、オオタチは見事に応えてみせた。オオタチに攻撃をジャストガードされ、ゾロアークは焦燥感を覚える。

「ゾロアーク、落ち着いていくぞ……初見でこの技を対処するとは、やるな」
「へへっ、ギリギリだけどね! それじゃあ次はこっちの番! オオタチ、連続できりさく!」
「かわせゾロアーク!」

砂利を蹴り、小刻みに跳ねながら踊るように、じゃれつくようにその小さな爪でゾロアークに切りかかるオオタチ。紙一重のところでかわし続けるゾロアークだが、たぶん長くは持たない。
どうも、オオタチのペースに引きずり込まれている。なんとかして持ち直せないだろうか?
余裕のなくなり、斬撃を受け始めたゾロアークに、一旦オオタチの間合いから離れせるためだましうちを指示する。

「だましうちで距離を取れ!」

後転をし、再び幻影の分身を展開させるゾロアーク。オオタチは分身体を一つ一つ見て、ゾロアークの本体を見つけてくる。ゾロアークの突き出した爪をオオタチも両手の爪で受け止め、鍔迫り合いになった。

「今度は分身に紛れて来たね! でもオオタチに幻影は通じにくいって言っているよ!」
「通じにくいだけ、だろう?」

彼は、レットはオオタチがゾロアークの幻影を「絶対」見破れるとは一言も言っていない。恐らく、100%確実に見抜けるわけではないのだ。それでもここまでゾロアークの本体を見つけてくるのは、オオタチの熟練した経験による賜物なのだろう。
そのオオタチがゾロアークの幻影と本体を見分ける手段とは、それは恐らく――――観察眼。

「視界を制せ! ゾロアーク、ナイトバースト……!」

ゾロアークの影が広がっていく、それは地面だけにとどまらず辺り一帯を、空をも侵食していき、まるで夜の帳に包まれたかのように湖畔のフィールドを暗くした。
もちろんこの景色を映し出すのもゾロアークの幻影の力のなせる業である。

「凄い、本物の夜みたい」
「朝と昼に活動することが多いオオタチには、慣れないだろう?」
「決して夜が苦手なわけではないけれどね。オオタチ、こうそくいどうで走って!」
「逃がすものか、行くぞゾロアーク!」

二回目のこうそくいどうで素早さをさらに上げ、走って回避を試みるオオタチ。
ゾロアークを中心に、暗夜の力を纏った衝撃波が地を這うように飛んで行き、オオタチを襲う。吹き飛ばされ、砂利の上に落ちたオオタチの目もとに暗闇の霞がまとわりついた。ナイトバーストの追加効果の命中率ダウンの効果だ。

「オオタチ! くっ、命中率が下がっちゃっ――――」
「――――ては、いないはずだよな」
「……バレてるか」

レットの動揺したフリを、オレは指摘し暴く。レットは苦笑いしながらフェイントだったことを認める。
霞の奥でオオタチは……黒々とした小さな目を鋭くし、爛々と輝かせていた。

「オオタチの特性はするどいめ、だろ? 今までの幻影への対処はそのオオタチの目による観察のなせる業、なんだろう?」
「そうだよ。僕のオオタチは目が良くてね、オオタチは景色の揺らぎからキミのゾロアークを見つけていた……こうも背景ごと変えられちゃうと、ちいとばかしキツイけどね」

キツイ、と言う割にはまだ余裕の残る笑みを見せるレットとオオタチ。実際、ゾロアークがオオタチに繰り出した攻撃で、まともに通ったのはさっきのナイトバーストのみ。そのナイトバーストもいつ対策を練られてもおかしくはない。まだ奥の手を隠しているとはいえ、素早さの上がったオオタチにどこまで攻撃を当てられるのか……なかなか厳しいバトルである。

「ゾロアーク、ここはナイトバーストで畳みかけるぞ!」
「今だオオタチ! さきどり!」
「何っ?!」

オオタチが身構え、エネルギーを溜め始める。それは紛れもなくゾロアークの持ち技のナイトバーストの構えだった。
さきどりとは、相手より素早さが高い時に発動できる技。相手の出そうとした攻撃技を1.5倍にして、相手より早く叩きこむ技。こうそくいどうはかく乱ではなく、さきどりに繋げるための布石だったのかっ。
薄闇の中で互いのナイトバーストの衝撃波が炸裂する。ゾロアークの方が威力負けしており、押し切られてしまう。

「ゾロアーク!!」

今のダメージで暗闇の幻が少し剥がれかけた、なんとか幻影を留めるゾロアーク。次、ナイトバーストを放ったら、しばらく幻影を使いながらの戦いは出来ないかもしれない。

「まだナイトバーストで仕掛けてくるのなら、もう一度オオタチがさきどりしちゃうよ!」

分かっている。だからこそ、次のナイトバーストは絶対に当ててやる……!

「ゾロアークっ――」
「オオタチもう一回さきどり!」
「――いちゃもんで連続攻撃を封じろ!」
「え、攻撃技じゃないの!?」

ゾロアークが悪態を吠え、オオタチの動きが止まる。
さきどりは相手の攻撃技を奪い取る技。ゾロアークが攻撃技ではなく変化技を使ったことにより、オオタチのさきどりが不発に終わる。そして、いちゃもんをつけられたことによって、オオタチは連続して同じ技を出すことができなくなった。
つまり、先程のさきどりによるナイトバースト封じを破ったということである。

「さきどり封じたり! チャンスだゾロアーク、ナイトバースト!!」

ゾロアークのナイトバーストがオオタチに食い込み、突き飛ばす。波間に飛沫を上げて落下するオオタチ。それを見たレットはオオタチへ叫ぶ。

「オオタチ!!」
「やり過ぎたか、ゾロアー……なんだあれ!?」

湖の流れが、変わる。
ゾロアークにオオタチの救出指示を出そうとしたオレは驚愕する。ゾロアークもその光景に呆気にとられていた。
何故ならオオタチの落水した場所に渦が巻き起こり、黒い水流の中心点に何かが居たからだ。
幻影のタイムリミットを超え、太陽が姿を現す。光に照らされ、真っ青になった水の壁の真ん中。回転している水流にオオタチは――――乗っていた。

「がんばれオオタチ、なみのりだ!!」
「! こらえろ、ゾロアーク!」

波と呼ぶには激しい、輝く激流に乗って、オオタチはゾロアークに突っ込んだ。
水に揉まれ、ゾロアークは近場の岩に叩きつけられる。
波が引き、辺りの砂利石を濡らす。さんさんと輝く太陽に石粒の面が反射して輝いた。その濡れた砂利の上でオオタチはぶるぶると体を震わせ、湿った身体を乾かしていた。

「ゾロアーク……」

小さい声で呼びかける。そのオレの言葉にゾロアークは、弱弱しくも気合の入った鳴き声で応えてくれる。
岩を背に、ゾロアークはなんとか立ち上がってくれる。
ゾロアークはまだ、諦めちゃいない。

「そうだなゾロアーク、まだ終わっちゃいないよな」
「そうだよコタロウ、まだ終わっちゃないさ」

レットもオオタチも、まだ終わりを望んでいない。二人ともまだまだ戦いたいと、笑っていた。
けれど、決着の時は刻々と近づいているのは、オレもゾロアーク、そしてレットもオオタチも感じていた。
だからこそ、オレは宣言する。
勝利をつかみ取るための、宣言を。

「次で終わらせてやる!」
「それはこっちの台詞だよ!」
「いくぞレット! 解き放て、ゾロアーク!! ――――うおおおおおお!!!」
「させないよ! さきどりで決めるんだオオタチ!!」

オオタチが駆け出す。ゾロアークが構える。
技を出すスピードは、オオタチの方が上だった。
だが、技の威力は――――ゾロアークが勝っていた。
オレの咆哮と共に、ゾロアークはオオタチにクロスカウンターを叩きこむ。

「おしおき!!!」





決着は一瞬だった。
激しくぶつかり合う衝撃音の余波が止んだ頃、オオタチは砂利の上を転がり、そして目を回していた。
オレとゾロアークの、勝利だった。

相手のステータスのランク変化に応じて威力の上がる技、おしおき。オオタチはこの戦いでこうそくいどうを二回行っていた。つまりは素早さが4ランク上がっていたことになる。その素早さ分の威力がゾロアークのおしおきに加わっていたのだ。
オオタチが1.5倍の威力でおしおきを放ったとしても、それよりゾロアークのおしおきの威力が勝っていた。それだけの話である。
それに、同じ技のぶつかり合いで威力が高い方が勝つ可能性が高いのは、オオタチがさきどりのナイトバーストで証明していたことだった。

オオタチのもとに歩み寄り、抱きかかえてげんきのかけらを与えるレット。それから彼は悔しそうしながら、それでも笑っていた。

「やられたよ。ゾロアークが最後のひとつ、なにか技を隠し持っていそうだなとは思っていたけど、おしおきとはね……」
「なんとかさきどりを誘導できたからこそ、勝てた……こうそくいどうを使われていない場合や、なみのりとかを選ばれていたら押し流されていた……ギリギリの戦いだった」
「お見事。それにしても、あんな大声も出せるんだね、コタロウって。もっとクールな人かと思ってたよ」

そのレットの言葉に対して、オレは思わず笑ってしまった。
不思議がるレットとオオタチに対し、オレはゾロアークの肩に手を乗せ、言ってやった。

「バトルになったら、誰でも熱くなるものだろ?」

そう言ったら、何故かレットは爆笑した。オオタチも転げまわりながら笑いをこらえている。ゾロアークは動揺していた。オレも困惑していた。というかなんだか恥ずかしくなってきたぞおい。

「そこまで笑うことはないだろうふたりとも!!」
「くく、ごめん、そういうことさらっというタイプに見えなくて……」
「他人を見た目で判断するな」
「ごめんて、にしてもやっと目を合わせてくれたね」
「目? バトルする際合わせたじゃないか」
「違うよ。どうにも人の目を避けていたじゃん。でも今はこうして見てくれている。それがー、そのなんか、ちょっと嬉しいっていうか」

言われてみて、確かにレットたちの目を見ながら話せていることに気づいた。
彼に差し伸べられた手を取る。その行為にもなんの抵抗もない。
自分の中で、何かが変わっている、そんな気がした。
それもこれも、ポケモンバトルってやつのせいなのかもしれない。そう今は思うことにした。



* あとがき及び感想

私のスタイルはアニポケよりなのでたまに自分ルールを入れてしまうのを何とかしたいなと思いました。
とにかく技が豊富でどれを選んだらいいか迷いました。でもなみのりだけは入れたかったのでそこからフィールドを湖畔にしようと思いました。
あと書いてて思ったのはこのオオタチ全然可愛くないぞ……!
とにかく新鮮な対戦カードで戦えて楽しかったです。拙いながらもありがとうございました。

* 技構成

オオタチ 特性するどいめ
技 なみのり こうそくいどう さきどり きりさく
ゾロアーク 特性イリュージョン
技 ナイトバースト いちゃもん おしおき だましうち