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  [No.4022] 異説・ジョウト神話 神なる鬼と鎮守の鎧 投稿者:Ryo   投稿日:2017/07/20(Thu) 02:04:22   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 エンジュシティに伝わる焼けた塔とホウオウの伝説は、ジョウト地方を代表する神話として、地方を越えて多くの人々に親しまれている。
 最も一般的に知られている逸話は「カネの塔が雷で焼け落ちた時、そこに住んでいた三体の名も無きポケモンが火事で息絶えた。そこにホウオウが現れて三体のポケモンを、ライコウ、エンテイ、スイクンとして復活させた」というものであろう。
 しかし、神話や伝説というものには異説がつきものであり、このホウオウ伝説も例外ではない。
 以下に紹介するのはその異説の一つであり、オニドリルとエアームドが変じてホウオウとルギアになったとするものである。ある種のポケモンが全く別種のポケモンに変ずるということは、今の時代からすれば一見考えがたい説に思えるが、カロス地方においては、幻の存在とも呼ばれるディアンシーというポケモンが、実はメレシーの突然変異種であることが研究で分かっている。ホウオウとルギアに関しても、別種のポケモンの変異種である可能性が全くないわけではないのだ。
 そうした可能性に思いを馳せながら、一種独特の神話の世界を垣間見てみよう。

***

 昔々、延寿の町には二つの塔が建っていた。
 二つとも立派な塔であったのに、あまりに古いものであるためか、その由来は誰も知らず、ただカネの塔、スズの塔と呼ばれていた。
 その二つの塔の頂に、二羽の鳥がそれぞれ住んでいた。
 カネの塔に住んでいた一羽は鎧鳥、スズの塔に住んでいた一羽は鬼嘴鳥(きしどり、今で言うオニドリル)である。
 元来、鎧鳥は刃のような翼で草木や獣、人をも斬ってしまう鳥として人々に恐れられる鳥であった。このカネの塔に住まう鎧鳥もやはり恐れられていたが、この鎧鳥はいつも塔の頂に居座ったままで、何一つ人に害なすことはなかったという。
 一方の鬼嘴鳥はといえば、こちらは元々、人が近づけばたちまち空へ上がり、一昼夜降りてこないとされるほどに臆病な質であるはずのものが、少しでもスズの塔に近づく者があれば、その長く鋭い嘴で直ぐ様追い払ってしまったという。その時の鬼嘴鳥の怒り狂う様の恐ろしいことは、まさに鬼の如しであったと言われている。

 ある時、カネの塔に見知らぬ獣が出入りしているという噂が延寿の町にはやり、これを一目見ようと忍び込もうとする者がいた。が、カネの塔の頂から鎧鳥が刃の如き羽を一枚落として睨みつけ、スズの塔の頂から鬼嘴鳥が舞い降りて嘴で激しく攻めたてると、一目散に逃げていった。延寿の人々はこの様を見て、最もなことだと噂しあったという。
 カネの塔に住む正体の知れぬ獣の事は、その後も人々の口にのぼるところとなり、一時はその姿を目で捉えたという者も現れたが、いざ正体を掴もうとすると尽く二つの塔に住む鳥たちに阻まれ、誰も事を成し遂げることはできなかった。

 嘉永二年の夏、延寿の町を大嵐が襲った。嵐は風と雷を呼び、雷はカネの塔に落ちた。これがカネの塔を焼いた大火である。
 この時人々はみな家に閉じこもっていたが、大火の報せを聞くやいなや外へ飛び出し、この後のことを見た。
 延寿の町に並び立つ塔のうちの一つが、頂から真っ二つに裂けて燃え盛っている。吹きすさぶ雨風にも因らず炎の勢いはますます強く、人々は恐ろしい光景に身を震わせた。そしてそのうちに、はたと気づく者がいた。
「あの塔に住んでいた鎧鳥はどうなったか」
「あの塔に居着いているという獣はどうしたか」
「鬼嘴鳥の姿もどこにも見えない」
 口々に言う人々の恐怖がいよいよ頂点に達した時、燃えるカネの塔の中から凄まじい鳴き声が聞こえ、続いて一羽の鳥が矢のような勢いで空に向かって舞い上がっていくのが見えた。
 鳥は頭から尾羽根まで炎に包まれていたが、その鬼の角のように長く鋭い嘴を人々が見違えることはなかった。
 鬼嘴鳥は雨風に打たれ、炎に焼かれながら、雲を割るような声をあげて真っ直ぐ空へ上がっていく。その様子はまるで天に怒り、戦いを挑むかのようであった。その鬼嘴鳥を、一つの雷が貫いた。
 この様子を見守っていた人々は、ああ、いよいよあの鬼嘴鳥の命もなくなったか、と嘆息したという。
 ところが、雷に打たれた鬼嘴鳥は命をなくして地面に落ちるどころか、ますます勢いを増して空を舞いだした。見れば、その翼は炎の朱色に染まり、尾羽根は雷のように金色に光っている。姿を変じた鳥が一つ大きく羽ばたくと、雨風はたちまち慈雨に変わり、塔を焼く炎を鎮めた。
 これが鳳凰の起こりである。
 鳳凰が焼けたカネの塔の上を一巡りし、笙の響くような声で鳴くと、声に応ずるように、焼けた塔の中から堂々たる風格の三頭の獣が現れ、何処へか走り去っていった。その姿は、塔を焼いた炎、塔に落ちた雷、塔を鎮火させた慈雨をそれぞれの身にまとったようであったという。
 これが炎帝、雷公、水君の起こりである。
 この時人々は、かなし、かなし、という声を聞いた。そして、焼け焦げた塔の中から、もう一羽の鳥が現れた。 
 その鳥の翼は白く、雨を受けて清らかに輝いていた。鎧鳥の鋼の翼が雷と炎により、白銀と成ったのだ。
 白銀の鳥は、かなし、かなし、と人の声で鳴いた。そして天に向かい、このように告げたという。
「かなし、かなし。炎に焼けて泣く獣の声が。
くちおし、くちおし。雷によりて崩る我が家居が。
おそろし、おそろし。雨風に怖じ恐る人の声が。
水底なれば、炎、雷、雨風、消え返りて事なきものを」
 白銀の鳥が飛び去ると、驚くことに、空を覆っていた黒雲がその後をついていき、延寿の空は一辺、晴天となった。空に虹が渡ると、鳳凰もまた飛び去ったという。
 白銀の鳥には長きに渡り、名がなかった。延寿に起きた災いを引き連れて飛び去ったとされるその鳥の名を呼ぶ時は嵐や雷の名で呼ばれ、災いが去ったままにしておくために塔は焼けたままにされた。
 今でも、スズの塔に鳳凰が舞い降りることはあっても、かつてカネの塔であった焼けた塔に「ルギア」と名付けられたその鳥が現れることはないのだという。
 以上が、ジョウト神話の異説である。


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