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  [No.4050] メリークリスマス! 投稿者:まーむる   投稿日:2017/12/26(Tue) 01:22:16   150clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ゾロアーク】 【ルカリオ

注!
この話は自作の、
・夏の終わりに(ホワイティ杯)
・新入り(ハワイティ杯)
・チキン・デビル(ポケスクの覆面小説企画)
の続編となります。これ単体でも楽しめるかと思いますが、上記を読んでいない方はそちらを読んでからの方が良いかと思います。
因みに全て下から読めます。
https://syosetu.org/novel/106512/

-----

 冬、という季節が人間の暮らす街では忍ぶものではない、と知ったときには驚いた。
 冬であれど、人々はいつもとそう変わらず暮らし、人と暮らすポケモン達もそれに倣って、またその人々の発展させてきた物に囲まれて、温かく暮らしていた。
 まあ、それは人と暮らすポケモン達であって、俺やゾロアークにはぴったしとまでは当てはまらない。
 俺もゾロアークも、人と暮らすというよりかは、人の営みを利用して暮らしている、と言った方が正しい。誰かに仕えている訳でもなし、飼われているでもなし。
 でもまあ、冬はやっぱり寒いし、火を勝手に焚こうならば人が飛んで来るしで、正直辛い。
 人の下に就いてしまおうかという思いは、こんな季節には頭を過る。
 ぽかぽかとした温かい部屋で、美味しいものを満足いくまで食べられる。そんな生活。寝るのにもそう周りを警戒しなくても良いだろうし。
 でも、やっぱりそれは無いな、とも思う。
 俺とゾロアークを戦力として捕まえようとする輩も居るし、人と生きようと思えばなそうれる。なった方がきっと人が生きる場所で生きるには楽だろう。
 でも、それは何か違うと思う。
 その何かは考えても中々良く分からないけれど、何と言うか、そうしたら、俺の中の大切なモノが一つ、失われてしまうような気がする。
 けれど、雪が降り始めてしまうと、より一層寒さが身に染みるようになって、やっぱり迷ったりもする。
 ふらふらと落ちて来る雪。
 昨日からずっと、強くなることも、弱くなることもなく、ただただ、しんしんと降り続けている。
 歩くとその後ろに足跡がしっかりと残る。足裏はとても冷たく、ぼうっとしていれば雪が体にも積もってしまい、振り落さないと湿って凍えてしまう。
 寒さに耐えかねて空き家をこっそり借りて昨日も寝たし、寒いのはやっぱり辛い。腹が減るのも、寒いとより堪える。
 そんな時に、腹を満たそうと思えば大抵満たせる場所があるのは、とても幸いだった。
 春ごろから、その飯に釣られて顔を出すようになった場所。
 格闘タイプのポケモンが多く居る、道場とか呼ばれる場所。

 冬でもその道場は毎日のように続いている。
 行くのは毎日じゃないけれど、その人間のポケモンや人間達に付き合えば美味しいものを食べられるし、温かいし、それに捕まえようとしてくる輩もいないし、中々良い場所だ。
 正直、会いたくない奴もその中には居るんだが、それを含めても良い場所は良い場所だ。
 入ると、その会いたくない奴に真先に目を付けられた。
 あー……。
 キテルグマ。ミョーな顔つきをした、頑丈な怪力バカ。
 普通の攻撃何故かあんまり通らないし、パンチの一発が驚くほど重いし。そして最悪なのは、何故かこいつと初めて会う直前に、こいつに殺された夢を見たこと。
 夢の中のそいつとは全く関係ない事は分かっているんだが、どうも慣れない。
 でも、何度も戦わされたりして、勝てないこともないことまでは分かって来た。
 波導弾とか使わないと、正直本当に辛いけれど。
 手合わせ願おうと、その何考えているか分からない顔で、早速俺に構えて来る。
 あー、はい。
 昨日、俺が辛うじて勝ったからな。悔しいよな。

*****

 今日もルカリオは道場だろうな、と思って中に入ってみると、必死な顔してキテルグマの攻撃を躱しているそのルカリオがすぐに目にはいってきた。
 ぶおん、と恐ろしい音がする腕の振り回しを屈んで避け、どん、足を踏み鳴らしながらその脇腹に発勁を叩き込む。
 けれどそう大して怯む様子もなくキテルグマは続けて掲げられた腕を叩きつけ、それをまた寸前でルカリオは躱した。
 一発当てられたらもう負けに等しく、この障害物も特になく、広くもない道場では、波導弾を練る時間もそう与えてはくれない。
 ルカリオはちまちまとダメージを与えていくしかないわけだ。
 その顔は、俺と戦っているときより真剣だ。いや、真剣というよりはやっぱり、必死という方が合っているな。
 単純に力任せではなく、体全体の捻りを加え、足腰をちゃんと据えて繰り出される攻撃。力任せなだけでも必殺に近い威力を持つのに、ちゃんと武道を覚えている動き。誰だってあんなもの当たりたくない。
 暫くそんな攻防が続いた後に、流石にそんな一触即発を続けられなくなったのか、ルカリオが大きく宙返りをした。
 一旦距離を取りたいと考えたのだろう、小さめの波導弾を両手に拵えていた。
 ただ、キテルグマは全く今までの攻撃が通じてないと言うように、肩を前に出して突進して来た。丁度、ルカリオが着地する場所に目掛けて。
 ルカリオの目が死んだのが見えた。
 小さいその波導弾を二つ当てても全く怯まずに、キテルグマは突進を続け、その全体重が乗ったタックルをルカリオはモロに食らった。弾き飛ぶように吹っ飛び、そして壁までごろごろと転がって、そして動かなくなった。
 あーあー……。
 近寄って顔を見ると、白目を剥いていた。
 キテルグマは膝を付いていた。……まあ、全く無傷な訳はないよな、流石に。
 その後、そのキテルグマがやってきて、別の場所にあるソファにそっと寝かせた。流石にやり過ぎかと思ったのか、俺に頭を下げて来た。
 まー、お前が勝てるのは道場だけだぞ? 俺に対してもな。
 そんな事を、言えたら言ってみたかった。
 暫くの間、目を覚ましそうになかったから、隣に居てやることにした。

 ソファでだらりと横になっているルカリオ。
 流石に骨までは折れてないし、口から血を吐くということもなく、気絶はいつの間にか眠りに変わっていた。
 まあ、寝かしといてやるかと思っていると、テレビの音が聞こえて来た。
「今日はクリスマス! そんな日にとっておきのレシピをお教えします! 必要なのはワカシャモの鶏もも肉2本、メェークルの首の葉っぱ数枚、塩、コショウ、......」
 チャンネルを変えたようで、聞こえてくる内容ががらっと変わった。
「続いて次のニュースです。先日〇〇タウンが一夜にして壊滅した事件に関してですが、警察からの情報は未だにありません。
 辺り一帯への侵入は禁止とされていますが、その理由もはぐらかされるばかりで、近隣の住民からは不安が広がっています……」
 またチャンネルが変わった。
「今日はジョウトタウンに来ています。この日本でもクリスマスや行われるようで、ジョウトの光景とクリスマスの装飾が合わさって中々カオスな事になっていますね……」
 それからチャンネルが変わることはなかった。
 テレビの音を聞いてかルカリオが唸り始めたので、顔を叩いて起こしてやると、はっ、と目を見開いて、それから大きく深呼吸を何度かして、ゆっくりと落ち着いていった。
 はぁー、と溜息を長く吐いて、ぐったりとソファに座り直した。

 その後昼になって、飯を食べながら人に混じってテレビを見る。
 食べ物は今日も相変わらずワカシャモの肉で、あいつも確か格闘タイプだったよなー、とか思ったり。
 夏の終わりか秋の始め頃に、そのワカシャモを育てている場所で脱走事件があったとかテレビで聞いたが、俺があの場所でワカシャモとして生まれていたら、とか考えたっけ。
 正直まあ、深くは考えたくない。知りたくもない。それで終わりだ。
 美味しいものの裏には、闇がある。それを知ってしまった。
 いや、気付かされた、か。知っていたと言えば、多分知っていたんだよな。店とか覗くと、そういう肉とかも売ってたし。
 知っていて、全く考えた事は無かったんだ。

*****

 昼が過ぎて、今度は他の人やポケモンと、普通に稽古をする。普通に。
 ゴーリキーだってあんなタックルして来ないし、カイリキーだって多分しないと思うぞあんな事……。
 本当に痛かった……。この鈍い痛みは数日は続きそうだった。
 そんな事を思いながらも、この道場のリオルと手合わせをする。俺の半分位の身長だが、妙にすばしっこくて、偶に攻撃を貰う。
 将来良い奴になる、こいつは。
 少なくとも俺は越すだろう。過去の記憶もそう大して覚えてない、ぶらぶらと生きているだけの俺よりは肉体的にも精神的にも、良い奴になる。
 ただ、人の街以外では暮らせなくなるであろうという事とも同じだろう、それは。
 当然のように飯があって、良い場所で眠れて、生きる上で最低限何も考えないで良いからこそ行けるところだ。
 このまま成長して、人と暮らせなくなったとき、俺のようにはきっとなれないだろう。
 それが良い事が悪い事かまでは分からないが。

 昼も暫くが過ぎて、帰ろうかと思ったとき、珍しく止められた。
 波導を読むと悪い事を考えている気はなかったので留まる。
 ……?
 何か、ぞく、とした。
 辺りを見回す。注意深く、波導を感じ取る。……ここじゃない、な。遠くまで感じ取ろうとしてみたが、その最中にゾロアークが俺を見て来た。
 引き留めた理由を聞いたらしく、わくわくしてる様子だった。
 ……まあ、大丈夫だろう。
 そう決めて、他の人間の稽古に付き合う事にした。

 そして夜が来た。
 トイレに行って、人間の見様見真似で覚えた便を済ませる。ここまで行くと、もう人間と暮らしているようなもんだよな、と思いながら蛇口を捻って水道も使う。
 トイレから出ると、食堂からとても良い匂いがしてきて、ああ、これの為だったんだな、と思った。
 そういや、今日はクリスマスとか言う日だったっけ。それがどういう日かは知らないけれど、どうやらめでたい日であることは確からしかった。
 微かに聞こえる賑やかそうな声。
 美味しい肉の匂い。……もう、俺は人と暮らしているんだな、と思う。
 ボールに入ることのない形であるけれど、それだけが人と暮らす形じゃない。ボールに入る、人の下に就く、そんな事だけが人と暮らす形じゃない。今更、そんな事に気付いた。
 人と、暮らす、かぁ……。俺がボールに入る事は無い、それは絶対として思える。俺は人と暮らすとしても、俺の場所はこういう人工物に囲まれた場所じゃない。ここは落ち着く場所ではあるが、住む場所ではない。
 さて、行こうかな。そんな時ふと、俺は昼の事を思い出した。
 ぞく、としたあの感覚は何だったんだろう。
 波導を感じ取ってみて、

*****

 良い匂いだ。とても。
 こんがりと焼き上げられた鶏肉。ただ焼いたんじゃなくて、色んなものを詰めて、そして表面も何か塗って焼いたみたいで、カリっと焼き上がっている。本当に、良い匂いだった。
 それに加えて芋や野菜も茹でたりされていて、肉に負けず劣らず美味しそうだった。
 つまみ食いしたい欲求にとてつもなく襲われるが、それをしてしまったら、ルカリオはともかく俺は、ここに入れなくなってしまうだろう。
 ああ、くそ。
 ルカリオ何してるんだ? そろそろこれを食えるんだぞ?
 トイレにしては長すぎるし、何だろうな。
 皆、食べ始めないでくれよ、と思いながらさっと食堂から出た。

 稽古も終わり、誰も居なく、薄暗い通路。誰もが食堂に集まって今か今かと待ちわびているのに、ルカリオだけまだトイレだった。
 トイレの扉は開いていて、中に入ると、一つ、大の扉が閉まっていた。
 ノックすると、がたがたっ、と思い切り震える音がした。
「ウゥ?」
 ルカリオか? そこにいるの。
 暫くして、鍵を開く音がして、扉が開いた。中には、今までにないほどに怯えているルカリオがいた。
 ……何があった? 浮かれた気持ちがその異常な様子に一気に上書きされる。
 呼吸を酷く荒くして、どこか遠くを酷く気にしている。
 その波導の目に、何かが見えている。とてつもなく恐ろしいものが。
 それは、確信だった。
 キテルグマなんかが取るに足らないように思えるような。ルカリオがここまで怯える、どうしようもない程の何かが。
 はぁっ、はぁっ、と酷く息を荒くして、何をどうしたら良いのかも分からないようで、縮こまるしか出来ないようで、俺は戸惑った。
 何があるんだ?
 いや、きっと何かが来るのだろう。波導、感情や色んなものを読めるルカリオは、それに対して諦めに近いほどの絶望を抱いている。
 と、とにかく、ここが危険なら逃げないと。ここで隠れているよりはマシなはずだろう。
 そう思って取り敢えずルカリオを外に出そうとすると、止められた。
「ア、……ア……」
 声にならない恐怖。
 その時、ずん、と何かが響いた音がした。
 恐怖が俺にも伝わって来る。まだ、遠くだ。けれど、この街に、その何かがやってきた。とても恐ろしい何かが。
 それはいきなり激しくなった。建物が崩れる音さえしたような気がした。物が燃えるような音がした気がした。
 ルカリオの震えがより一層激しくなった。体ががくがくがくがくと震え、もう全く収まらない。その恐れだけで死んでしまうほどに思えた。
 どうすれば良い? そう思ったとき、上に目が行った。屋根裏……。それに通じる蓋が真上にあった。
 外に出るのさえ危ないのなら、そこしかないのでは。
 ルカリオも上を見た。
 頷いた。

 埃塗れの中、真っ暗闇の中。
 ぎゅっ、と互いに抱き締め合った。
 震えが少しでも収まるように。ルカリオにもまた、とても強く抱きしめられている。それでも動悸は収まらないようで、息は荒い。
 静かだった。
 何も無ければあの美味い飯を食べることが出来ていただろうに。そう思いながら。
 その、食堂の方からも何も聞こえなかった。破壊の音だけが、断続的に聞こえる。
 そして、段々と近付いて来て、人々の悲鳴さえ遠くから聞こえて来た。
「逃げろ! 何かが、どうしようもない何かが、やってきている! とにかく、遠くに逃げろ!!」
 道場主の声が聞こえて、その直後一際でかい爆発音が聞こえた。
 阿鼻叫喚。一気にパニックに陥った声。けれどそれは、ほぼ一瞬で掻き消えた。天井裏に、激しい炎が吹き込んで来たのと同時に。
 がくがくがくがくとルカリオの震えが止まらなくなった。俺の震えも、激しくなった。
 なんだ、あれは。なんなんだ、あれは。今の一瞬で、何人死んだ? 何人? どれだけ? あの食堂に居た皆が、死んだ?
 そんな力を持つポケモン? なんだそれ。なんだよ、何なんだよ。
 激しい動悸が微かに音を出していて、そして下からは必死に走る音が聞こえた。
「はぁっ、はぁっ」
 ルカリオと口を合わせた。胸の棘が体に刺さるのも堪えて、とにかく強く、抱き締めた。
 気付かれてはいけない。動いてはいけない。
 口を合わせて、背中を抱き締めて、頭を抱えて、じっと、じっと、やり過ごす。
 バン、とトイレの扉が開き、個室に閉じこもった誰か。
 ひたり、ひたりと歩いて来る何か。
 トイレに入って来た何かは、個室の扉を叩き壊した。
「ごめんなさいごめんなさいたすけてたすけてたす」
 ぐちゃり、と音がしてその声は止まった。
 静寂。
 心臓が激しく動いている。気付くな気付くなとにかく気付くな。
 頼むから、助けて。とにかく。嫌だ、死にたくない。
 ぐちゃり、ともう一度音がした。
 またもや、静寂が訪れた。何も考えられない。体が、完全に固まっている。
 ぐちゃり、ぐちゃり。
 ただ、その音だけが何度も響いている。
 恨みが、怒りが、それだけで感じられた。途方もない負の感情。目にしてしまったらそれだけでもう、逃げたくなる程に感じられる、ゴーストタイプですら逃げ出すような感情。
 ぐちゃり。
 ぐちゃり。
 べき。ばき。ごりゅ。
 ……。
 …………。
 そして、去って行った。
 その後の事は、覚えていない。

*****

 天井裏から出て、真先に目に付いたのは原型がなくなる程にぐちゃぐちゃにされた人の死体だった。
 吐いて、よろよろと歩いて、目に見えてしまった食堂の中は、真っ黒だった。
 何もかもが。全てが。食べ物も、椅子も、机も、人も、ポケモンも。
 また吐いて、そして、外に出ると、そこはもう、街ではなかった。
 崩れ、燃えている建物。立ち上るどす黒い煙。肉の焼ける匂い。肉の、焼ける臭い。
 倒れている人々。倒れているポケモン。誰も、生きていない。目に付く限りは。
 何、だったんだ、あれは……。
 ルカリオは、未だに怯えていた。呼吸も荒いまま、俺の腕に抱き付いている。目を開けようともしない。
 何を見たんだ、お前は? 一体あれは何だったんだ?
 その問いを聞けないまま俺はただ、立ち尽くすしか出来なかった。
 ごうごうと燃える建物と、充満する嫌な臭いの中で、ただただこの地獄絵図を茫然と眺めているしか出来なかった。
 クリスマスの夜。燃えている赤い光景。


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