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  [No.4054] 時代 (前半部のみ) 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/12/30(Sat) 22:51:23   366clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

本は完売していないためすべては公開できませんが、今年の冬コミのゲッコウガ同人アンソロジー「放て!水しゅりけん」 に寄稿させていただいた作品 「時代」 のお試し版です。

〜〜〜〜〜〜〜



 里が、燃える。

 山の上から目下遠くに見える、炎を上げて焼け落ちる家々を見ながら、彼らは黙り、自分たちが生まれ育った里へ永遠の別れを告げる。
 もうこの地に、彼ら『忍び』が生きる舞台は無い。
「行こう。これ以上の長居は無用、名残惜しくなるのみだ」
 誰かがそう呟き、一人また一人と里に背を向ける。幼いながらもカゲマサは、必死にその地の最期を目に焼き付けようとしていた。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 大きく屈曲して流れる川に優しく抱かれたこの町には、日ごろから様々な人やポケモンが行き来している。町の外には豊かな大地が広がり、市街には石畳の細い路地が入り組んでいる。
 目的地へと向かう道は人であふれていた。もともと国の中心へと向かう賑やかな街道だが、普段よりも増して活気にあふれ、酒や食べ物を売る屋台が軒を並べている。
「おい、そこのにーちゃん、にーちゃん、ちょいとうちに寄ってかないか、安くしとくぜ」
 威勢のいいヒゲ面の中年の売り子が声を掛けてくる。何を売っている店なのか知らないが、特に欲しいものもなく、金も無い、彼は何も言わず軽く会釈だけをしてその場を立ち去った。
 この青年の名はカゲマサと言った。姓は久瑞(クズイ)、名は景昌(カゲマサ)、そんな彼の故郷の字は、この異国の地で通じる者はいない。
 使い古されて薄く色あせた藍墨色の外套で全身を覆い隠して、背中には大きな荷物を背負い、襟元に縫い付けられた頭巾(フード)を目深に被って、自らの顔を隠していた。彼の故郷では珍しくなかった漆黒の瞳に黒髪のいでたちは、この地では奇異の眼で見られてるため、人前に出るときは必ずこうして顔を隠していた。全身を覆い隠すこの風貌も充分奇異だが、本日だけは喧騒にまぎれて気にするものは誰もいない。
 道の傾斜を登り終えて、ふと後ろを振り返ると町の一部を俯瞰する形となる、青い空の下に、白く塗られた壁と赤い屋根の四階建ての家が多く建ち並び、その隙間を埋めるように高い木が緑を茂らせて顔を出している。屋根を赤くするという発想は一体誰が考え出したのだろうか、派手さや無いがその優しい色合いには、思わずため息が出るような美しさがある。
 カゲマサがその風景に少しの間だけ見とれていると、連れのポケモンに急かされたので石畳の道の歩みを進める。向かう先は王城の競技場だ。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 
 カゲマサはかつてここから遥か遠く、東の端にある日之本という島国で『忍び』と呼ばれる諜報業を生業としていた。
 戦のある場所、忍びあり。
 とある山奥の里を拠点として日之本の国を飛び回り、主(あるじ)に仕えて、巧みに乱世の世を渡り歩いていた。
 だが不屈の武将イエヤスの元に、世は統一されて乱世は終わり、時代は忍びを必要としなくなった。里はそこで三つの選択をすることになった。

 一つ目は、忍びを捨てて堅気の道を選ぶこと。
 二つ目は、忍びを続けて時代と共に滅びること。
 最後の三つ目は、この日之本を捨て、己の力を欲するであろう新天地を探すこと。

 里の頭首は三つ目の選択肢を選んだ。
 長く続いた戦によって国内の造船技術が大幅に進歩したことで、巨大海洋生物の接触に耐えうる船底を持つ船を作れるようになっていた。また、何匹かの大型水棲モンスターに船を曳いてもらう牽引船(トラクター)の技術が異国から伝わったことにより、より遠い場所にまで、果ては世界の端まで航海することが可能となっていた。遠い異国のどこかには、必ず自らの力を必要とする地はあるはずだと里の皆は希望を抱いていた。
 一度旅立ってしまえば、もうこの地に戻ってくることはない。未練など残らないように住み慣れた故郷に火を放ち、里の金をはたいて購入した大型の牽引船にポケモンたちと共に乗り込んで、一行は海へ乗り出した。

 生まれて初めて足を踏み入れる土地は、どこも驚きに満ちた世界が広がっていた。日之本ではとても想像もできなかった奇想天外な異国の文化に触れて、かつて乱世が終わりを迎えた時のような、変わりゆくものを誰もが感じていた。だがどこも彼らの力を欲する戦のある場所ではなく、ホンコン、インディア、ホープケープ、イスパニア……と世界各国の港を巡るうちに、四年の年月が経過していた。
 そして、とうとうカロスの地にたどり着いた。ここから先に船で進むと極北の地が待っている。だが、長年の航海で自分たちの船は激しく痛んで限界を迎えていた。また極寒の地であるため水温も低く、ラプラスのような寒さに強いポケモンでないととても牽引できない。
 旅を止めて、里の一行はカロスの地に住家を作り、根を下ろすことになった。その頃には一緒に船に乗っていた仲間たちは、旅の途中で亡くなったり、そこまでの寄港地に残り永住する選択をするなどして、半分以下にまで人数が減っていた。
 カゲマサとゲンジは、カロスからさらに陸路で進むことを選び、カロスから東に山を越えたベーメンブルクの地に一人と一匹で移り住んだ。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 ベーメンブルク王国の王の居城は町の高台にそびえ立つ。城が創建されてから、次々と新しい建物が付け加えられ、数多くの様式の建物が調和した複合建築となっていた。城の中には多くの中庭をそなえて、季節に応じて様々な花が咲き乱れる。
 その城の建物の一つとして、水路を挟んで向こう側に競技場がある、ポケモンのワザを防ぐ封印の結晶が混ぜ込まれた煉瓦がふんだんに積み上げられており、城壁と同じように、多少のポケモンのワザを受けてもびくともしない。
 騎士たちの演武や儀礼としての試合の他にも、そこに住む民衆たちが自由に使えるポケモンバトル場としても解放されており、民衆にとっては慣れ親しんだ場所であることから、この競技場のことを城と呼ぶ者もいる。
 競技場に入ると奥の受付で出場者登録を行う、頭巾の奥から見える黒い髪と瞳を、受付をしていた従騎士にいぶかしがられてジロジロと見られたが、いつものことだ。もっとも、見られる視線ならば、この連れの方が辛いのだろうと彼は思う。
『……如何か?』
「ああ、いよいよだな、調子はどうだ?」
『無論、万全』
 相変わらずのいつもの調子で返事をする、この連れのポケモンの名は玄次(ゲンジ)、種族はゲッコウガのオス。
 忍びの里の慣わしとして里の子は人語を解するよりも前からケロマツ族と共に育てられる。そのためカゲマサはケロマツ族の鳴声に限れば、その意味を理解できるようになっていた。とは言え、人とポケモンの種族の隔たりのせいなのか、ゲッコウガのゲンジの言葉は少々カゲマサにとって聞き取りづらく、分かり辛いところがあった。
 ゲンジもまた、鼠色をしたカゲマサと同じような外套と頭巾で全身と顔を覆い隠していた。
 ジメジメした湿気のある暗い場所を好み、ぬるぬるとした肌を持つことから、この土地でカエルは悪魔の化身として忌み嫌われており、童話には醜き者や魔女の眷属として登場している。またゲッコウガという種族のポケモンはこの土地には一切生息しておらず、ここの住民たちにとっては得体の知れないモンスターであった。
 そのため人前に出る際には、こうした外套を羽織り、道行く人を驚かせないように身体を隠していた。できることならばゲンジには、こんな外套などを脱いで、息苦しい思いなどせずに大手を振って街中を歩ける日々が来ることをカゲマサは願っていた。

 宮廷音楽隊がトランペットを構え、開始が間近であることを知らせる、高らかなファンファーレが鳴り響く。すっかりお祭りモード一色となっていた。
「外から来た旅人たちは、これから楽しげな祭が行われるのだろうと勘違いをするだろうな」
『うむ。が、しかしこれは平和な祭に非ず』
「ああ、俺たちは、戦争をしにこの場所に来ているんだ」


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 このベーメンブルク王国の土地には古くから、一つの神及び救世主たる神の息子を信仰する宗教が信じられてきた。
 大昔から脈々と受け継がれてきた教えには、長い歴史の中でさまざまな権威の影響を色濃く受けるようになり、人の欲の垢が付き、教会は私腹を肥やし、国との癒着を繰り返していった。しまいには金を払えば犯した罪が許されるという免罪符なるものまで配られるようになっていた。
 これではダメだと主張する一派が、そうしたものを排除して、かつて千五百年ほど前にあった元々の教義を復活させようとしていた。教会はそれを弾圧しその一派を破門した、破門された一派は新たな教団を立ち上げ、これを新教とし、既存の教会を旧教と呼んで区別した。
 当時のベーメンブルク国王は「新教も旧教も、同じ神を信じ、同じ聖書を守っている。互いにその隣人を愛し、尊重し合うべきである」と諫めて仲を取り持ち、新教徒の教団を認めて、共に手厚く保護をしたために、一つの国の中で仲良くやっていた。
 だが、微妙に似通りながら異なる二つの思想は交わることができなかった、新教に対して猜疑心を抱く新たな国王が王座に就いたことで、国をあげた新教への弾圧が始まった。
 ここで不満が爆発した、旧教は国王側に就き、新教は民衆側に就き、宣戦を布告した。

 戦争。
 と聞くと、土地は焦土となり、両者が血で血を洗う醜い殺し合いをイメージすることが多いが、この当時はそういうわけではなかった。
 戦争で勝利すれば、敗者の土地や人民が手に入る。新たに開墾することはない農地が手に入り、敗者を奴隷としてその農地を耕させることもできる。そうして大量の穀物などを得て、自国の民の腹を満たすことになる。
 いずれ自分のものになると考えれば、相手を殺して土地を焼き払った上で勝利をしても何の意味も無い、それは相手側も同じことを考えている。自軍はもちろんのこと、敵軍の犠牲も出来るだけ出したくない、それでいて敵を負かす必要が出てくる。お互いに示し合わせて、血を流さないような決着を探り合っていく。戦争の目的とは相手を殺したいからではなく、あくまでも自分の利益のためだ。

 かつて五百年ほど前までは、土地は焦土となり、両者が血で血を洗う醜い殺し合いの戦争があった。
 野生のポケモンの襲撃にすら手をこまねくというのに、ポケモンの強大な力に人間の文明と叡智を組み合わせて武器や戦術を練り上げる戦争は、双方ともに布の服で斧を振り下ろし合うようなもので、敵も味方も人間が塵虫(ゴミムシ)のように大量に死んでいく凄惨な戦場に成り果てた。
 ローマ帝国の時代には既に電気ポケモンを利用したレールガンなるものまで発明されていた。東方からの騎馬民族が率いる大量のギャロップ軍団相手に籠城戦を仕掛けたところ、城壁を軽々と跳び越えられて、わずか五日で三つの街が焼け野原になったこともあった。ポケモンの力に対して人間の肉体はあまりに脆かった。
 おびただしい死者に敵も味方も共に悲鳴が上がり、過剰な衝突を避けて双方で代表者を選出して戦わせる形式が生み出されることになった。その決着には文句を挟まず、それ以上の争いをしないという固い誓約が出来上がった。
 この固い誓約の上で行われる勝負は『騎士』という文化と精神に強く結びつき、騎士は勇気と規則をもって国を背負い戦い、その名誉を敬われることになった。

 お互いの大将が五名の騎士を用意し、それぞれが一匹づつポケモンを出して、一騎打ちを行う。
 この形式に至るまでは少々複雑な歴史があり、元々は四名を選出し四対四の勝負であったが、いつしか最後に王自らがポケモンを出して戦うようになっていた。だが、よほどの武勇と指揮に優れた王でない限り、日々の鍛練を重ねている騎士たちに対して勝ち目がないため、最後の王の戦いは飾りになっていた。王侯貴族にとって血を流すことは卑しいこととされていたために、むしろ戦わないことが礼儀でもあった。
 そのため実際には四対四であり、偶数の四名では決着がつかないため、いつしか騎士を五名選出するようになり、この時代では六対六の戦いとなっていた。
 なお、ここでの四人+一は後に『四天王+チャンピオン体制』の元となり、六対六は後世のポケモンリーグ公式試合のレギュレーションとして、手持ち六体がフルバトルというルールに受け継がれている。また、最後の王が飾りと自覚した上で美麗なワザのパフォーマンスを行い、その美しさに相手が拍手して膝をつかせたことから、コンテストバトルという文化が生まれたとされている。

 そうした流す血を無くすための騎士による一騎打ちという形式は、非力な者が犠牲にならず、誰も死なない平和な戦争を作り出すことに成功した反面、多くの者にとって気楽な見世物になっていた。
 戦わないものは遠くで笑って見ていられるが、戦うものはお互いに死力を尽くして命を削りあうものであって、血を流す醜い殺し合いの代わりなのだ、こうした時代の流れを嘆くべきか喜ぶべきか、カゲマサは少々複雑な気分だった。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 競技場の観客席には実にさまざまな人間とポケモンたちが集まっていた。国を挙げてのイベントということで、領主や爵位持ちの諸侯たちが各地から集結し、貴賓室では貴婦人たちがお茶を片手に談笑を繰り広げている。バトルというものに全く興味なく、皆が集まる舞踏会の感覚で出席していると見られる。
 そして爵位持ちの貴族たちの席には、やはりというべきか、ルカリオというポケモンが多い。
 この頃のモンスターを収納するためのボールは、木の実にちょっと手を加えただけのボールであり、中のモンスターが好きなように外に出ることができるという、扉が存在しない入れ物にすぎなかった。そのため人間との信頼が失われれば簡単に逃げ出したり、人間を攻撃するリスクが常にあったため、強いモンスターよりも、ちゃんと人間の言うことを聞くポケモンであることが最優先だった。現代のようにポケモンを沈静化させて落ち着かせたり、多少の抵抗ではびくともしないボール構造になるのはまだ先のことだった。

 強いポケモンほど気性が荒く、手懐けることが難しい中、騎士や貴族たちが従者として所有するポケモンとして、ルカリオが圧倒的な人気を誇っていた。
 特筆すべきは主人たる人間に対する強い忠誠心であり、基礎体術から遠距離攻撃、癒しの波動を用いた回復ワザを持ち、戦闘補助も完備、さらに専用の装備を一から鍛えずとも、人間の子ども用の鎧や兜をそのまま流用できることも評価が高い。多くの人に育てられてきたため育成ノウハウの蓄積があり、育成に悩むこともない。
 また、オルドランの波導伝説や、シャラに伝承されるメガルカリオなど、ルカリオに関する伝説は昔から多く、それにあやかっていた、この頃には実用性ではなく慣習として育てるものとなっていた。
 貴族や騎士は自分たちの子女にはリオルを与えて、従者としてルカリオへ進化させる。その需要の多さから貴族のみを対象としたリオル専門の里子業者も複数存在していた。
 騎士と言えばルカリオであり、ルカリオと言えば騎士のポケモンだった。

 戦いに備える控室の中で、カゲマサは身の周りの装備の確認に入る。ポケモンとポケモンの一対一のバトルであり、トレーナーの人間は指示をするだけで戦いに加わるわけではないが、自らの相棒ゲンジと心を合わせて戦闘態勢に入るために万全の装備で挑む。
 腕には籠手(こて)、足には草履と脛当(すねあて)、腰には大きなベルトを締めてそこに道具袋と金具装備を吊るす、首には忍びの里に伝わる護石を掛けて懐にしまう。
 故郷の里から大事に使ってきたものもあれば、この地で新たに買い足したり修繕し直したものもある、どれもカゲマサにとって体の一部として馴染んでいた。自分のものを手早く終えると、ゲンジの装備も確認にかかる。

 カゲマサとゲンジは新教、つまりは民衆軍の三番手として試合にエントリーしていた。
 多く領地と資金を持ち、たくさんの優秀な騎士を抱える国王軍に対して、民衆軍にはそのようなものは無く、各地の騎士たちは国王および領主からの庇護を失うことを恐れ、ほとんどが民衆の味方につかなかった。
 新教への弾圧に怒って決起してみたものの、今こうして蓋を開けてみれば、自分たちに逆らう不穏分子を新教ごと潰そうという魂胆の、国王の巧妙な挑発に見事に乗ってしまったという形だった。その戦力に悩む民衆軍に、カゲマサは自分を売り込んだ。
 忍びの者は影に生きて陰に死ぬ、とカゲマサは幼き時から教わっており、当然そのように生きるべきだと考えていた。この土地にも影に生きて闇に暮らす生業は存在していたが、主との強い信頼関係によってのみ成り立つものであるため、何代にも渡って王侯貴族と密接に結びついていたそのような仕事を、見知らぬ場所からやってきた余所者がありつけるはずは無い。
 食うためには仕事をしなければならないが、そのためにはまず実績が必要だった。外套と頭巾で顔を隠し続ける影の暮らしにこだわらず、頭巾を脱いで光の前に出なければならない、カゲマサはこのチャンスを逃さなかった。
 五人のうちの三番手とは、あまり期待されていないポジションかもしれないが、悪魔の化身を連れた余所者ごときが、この晴れ舞台に立つなど夢物語だろうと思っていたため、戦いの場に出られるというだけで充分な成果であると自負していた。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「出番だカゲマサよ、出ろ」
 簡易な甲冑を着た従騎士の男が、部屋で控えるカゲマサとゲンジを呼びに来た。
 試合は勝ち抜き制であり、バトルフィールドには既に、騎士の装いをしたトレーナーと、先ほどこちらの軍のポケモンを倒したばかりの、マントのようにして翼を丸めて地面に降り立っているコウモリポケモンが、背筋を伸ばして待機していた。
 決められた位置に着くと、ゲンジは着ていた鼠色の外套を脱ぎ捨てる。観客から大きなどよめきが上がり、先ほどまでうるさかった歓声が水を打ったように静まりかえる。醜い姿を見た悲鳴が聞こえてくるようにも思えた。
「ゲンジ、目の前に集中しよう」
『……御意也』
 出来ることならば姿を晒さずに戦いたいが、そうはいかない事情がある。ゲッコウガは全身の皮膚を湿らせて、そこからも酸素を取り込むために機敏に動き回っても疲れにくいのだが、服を着ていると文字通りに息苦しい思いをしてしまう、そのため戦闘などで激しく動き回る際には脱くことにしている。
 ゲンジの装備は出来るだけ身軽に、皮膚呼吸のために肌の露出を増やすべく、武装は最低限に抑えている。腕には藍色の手甲、足には藍色の脛当を備えており、久瑞家の家紋である『三つ剣紋』が白字で描かれている。ゲンジは手甲と脛当の裏に収納してある武器の苦無(クナイ)を一本だけ抜きとり、右手に構えた。
 戦いには武器と防具の使用が認められている。武器はワザの補助としての扱うのが一般的であり、ゲンジが持つクナイとは忍びの里に伝わる両刃の武器で、大きさはダガーナイフほどだが、刃をあまり研がず、土を掘ったり壁に打ち込んで足場にすることができ、頑丈さに重きをおいた武器となっている。

 相手トレーナーがこちらに向かって歩いてきた。あと二歩ほどの距離まで近づくと、軽く一礼する。
「はじめまして。アルビノウァーヌス子爵の第二子、フィオラケス・アルビノウァーヌスだ。よろしく」
「あ……ああ、はじめまして、名はカゲマサ、姓はクズイ、ご覧の通り爵位も無いの流れ者だ」
「やはり髪が……ふぅん、珍しいな」
「…………」
 カゲマサの髪の色を不審がらず、好印象だったのか嬉しそうに笑みをこぼす。
「良き精神と共にあろう」
「ああ、あろう」
 肩まで掛かるシルクのように透き通った白銀の髪と、突き刺すような目つきを持つ男だった。背が高くよく絞り込まれた体をしている。一般的な甲冑ではなく、馬に跨って狩りに出かける時に使うような軽い鎧で、マントと儀礼用のレイピアを腰に吊るしている。
 軸足でくるりと半回転して、白い蝙蝠ポケモンの紋章が大きく描かれたマントを翻し、すたすたと元の自分の持ち場に戻っていく。
『主、何をやっておるのだ』
「突然のことにびっくりしたんだ、あと名前に、まさか律義に名乗ってくるとは、そういう作法でもあるのか?」
『知らぬ』
「アルビノウァーヌス卿の子だったんだな、子爵とは騎士にしては相当な身分だ、こんな俺が相手で大丈夫かな」
 重圧に押されて気弱になり、このような舞台に日陰の存在であるはずの自分がいることに不安になっていた。騎士でされなくとも参戦できるとは言え、本来ならばあのような気高い騎士がここに立っているべきだろう。
 何も持たず、たどたどしい返事しか返せなかった自分を、彼を笑っているだろうか?
『弱気な。引け目を感じるならば、己の紋でも見ろ』
 ゲンジは自分の手甲に描かれた家紋を見せる。
「ふっ、それもそうか」
 カゲマサの口角が上がった。自分も長らく続いた里の血が流れているのだから、引け目を感じることはない。少々緊張してしまったのかもしれない。

 カゲマサとゲンジは向き直し、対戦相手となるポケモンの姿をしっかりと見据える。コウモリのような姿をした、ここから西の山岳地帯に生息しているとされるオンバーンというポケモンだ。余計な肉はすべて削ぎ落されて、すらりと鍛え上げられた細い体躯には、その見た目からは想像できない大いなるドラゴンの力の秘めている。
 しなやかな体をぴったり包み込むように、飛行能力を邪魔しないかなり薄い鎧を身に着けている。名のある鍛冶屋の手で丁寧に裏打ちされた鎧には、純白のオンバーンをモチーフにした蝙蝠の紋章が描かれている。白い獣は太古より神の使いとされて神聖視され、あれこそがアルビノウァーヌス家の紋章であり、誇り高き騎士の一匹であると言うことを威風堂々と見せつけている。
 アルビノウァーヌス家は、代々オンバーンを育てる騎士貴族として名が知られており、カゲマサもその噂はかねがね聞いていた。ほんの小さく可愛らしいコウモリが巨大な飛竜に変貌することを突き止めたとされ、武芸に優れた名家だと聞く。領内の山から凶暴な野生ポケモンが下りてきて、人家が脅威に晒されれば、当主自らが剣をふるって退治に向かうらしい。
 その息子であるフィオラケスは狩猟マニアの変人であり、家の中は自作の剥製や標本だらけで、黒髪の男娼をいつも連れて街を歩くなどあまり良い噂を聞かない。黒髪の男が好みだからお前は絶対に近づくな、と友人から忠告されていたので、その名を聞いた時に戸惑いがあったが、会った印象は真面目で実直そうな男と感じとれた。

「構え、準備はいいか?」
 審判の問いに、両者は大きな声で了解の返答をする。
「よし!」
「よし!」
「では……はじめっ!」
 審判の合図と共に、オンバーンは大きく翼を羽ばたかせて一気に急上昇しながら後退し、距離を取った。そして、空中で息を吸って蒼白い波動を作り出し、相手をめがけて[りゅうのはどう]を放つ。
 ゲンジは[かげぶんしん]を作りながら、前に転がってその攻撃に避けて、数多くの分身を率いて多方向からオンバーンに向かう。
 トレーナーからの指示を聞いて、すかさずオンバーンは大きく息を吸い込み、すさまじい破壊力を持つ[ばくおんぱ]を顔全体から鳴らした。虚ろな分身たちはたちまち消し飛び、ゲンジ自身はダメージを受けるが、充分な距離があったためかそこまでのダメージは受けていない様子だ。
「なるほど……」
 こちらの攻撃が届かない上空から、貫通力がある高威力ワザの竜の波動と、当てやすく全体範囲ワザの爆音波を使い分けてくる。こちらから遠距離ワザを使えば、その身軽さでヒラリとかわし、ならば近づこうと跳躍すれば竜の波動や爆音波の餌食となるだろう。
 おそらく日々の狩猟で鍛えた長射程の狙撃力を生かし、こちらの攻撃が当たらない距離から、あちらが一方的に攻撃を当て続けるのだろう。
 だが、充分な距離さえ取っていれば、相手の攻撃の発射を見極めた上で避けることができる、避けることに集中して、欲を出さず不用意に近づかない限りは、一方的に攻撃をされることはないだろう。
『如何にする?』
「後の手を取る戦いをする以上は、あちらから仕掛けてくるはないと言える。戦の定石に従えば、攻めに出ずに持久戦を仕掛けるべきだろう。薄い鎧とは言え鉄は重い、飛び続ければ疲労をすることは免れない。こちらが地上にいる以上、先に疲れるのは飛び続ける敵だ」
『為らば、堪え忍ぶとするか。拙者は我が主の判断に従うのみ』
「……いいや、ここは攻めよう。出来過ぎた定石には乗るべきでない」
『御意』
 賢明な者ならば、下手に攻めずに様子を見るべきだと判断する。だからこそこれは罠だとカゲマサは感じ取った。相手は持久戦を誘っている、誘うからには溜め技が存在するなどの奥の手や、何らかの理由があるのだろう、そうして作られた流れには乗ってはいけない、率先して逆らうべきだ。
「跳び、手裏剣を切り口に、斬れ」
『承知っ』
 ゲンジはクナイを収納し、相手に向かって走り出し、大きく上空に向かって跳躍する。
 オンバーンは、しめたという表情を浮かべた。一度跳躍してしまうと空中では自由が効かなくなる、こちらに向かってくる的へしっかりと狙いを定め、今にも竜の波動を撃とうとした、その刹那にオンバーンの額に水の弾丸が命中した。
 奥義、[水手裏剣]。
 極めて短い予備動作から瞬速で撃ち出される水の矢は、竜の波動に先制して命中する。オンバーンは大きく驚き、ひるんで技が不発になった。
 ワザを撃った反動を受けて、跳躍力が足りず空中で失速する中、踏みこむ動作と同時に、足先から真下に向けて水を噴出することで宙を捕らえ、ゲンジは空中跳躍をした。
 そして、手甲から取り出した二本のクナイを両腕に掴み、相手を目掛けて、一気に振り抜く。
「クロスロードスラッシュ!」
 縦方向と横方向の十文字の斬撃。
 相手のオンバーンはとっさに身体を傾けて鎧で、その[つじぎり]の攻撃を受け止めるが、刃を防ぐことはできても、衝撃を受け止めることできない。羽ばたく力を失って空中で完全にバランスを崩したオンバーンの首を、すれ違い際に舌を伸ばして絡めとり、空中で思いっきり引きよせて、地面にたたきつけた。
 審判の旗が振り上げられ、決着の合図がされると。
 民衆の歓声がどっと巻き起こった。


 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「まずは一勝か」
『然り。下の目標には到達できたか』
「ああ、最低限の仕事はできた」
 次の対戦相手が位置に着くまでの休憩時間に話をする。
『仮に勝ち進み、大きな成果を得たならば、主は如何にする? カロスに帰るか?』
「それは……」
 カゲマサは口ごもった、答えは定まっていたはずだが、自分の中でまだ迷いがあったかもしれない。
『御免、無粋な問いだ、忘れろ』
「いや失礼した、何か土産を持って、カロスに寄ってちゃんと詫びの一つは言わなければな、ただ帰るつもりは無い。俺はお前と忍びとして闇に住むんだと決めたんだ」
 そう話しているうちに次の相手が位置に着く。続けての対戦相手はボスゴドラのようだ。
 そのトレーナーもがっしりとしたガタイの良い男で、分厚い甲冑を着こんで彼自身もよく鍛えられている。強いポケモンほど気性が荒くプライドも高く、弱い存在には従おうとしないため、トレーナー自身の強さも必要となる、仮に暴れた際にはトレーナーがポケモンを組み伏せる必要があったため、ポケモンと共に騎士自身の鍛錬も欠かせない。
 先ほどのオンバーン使いのように、相手の詳しい経歴までは分からないが、ボスゴドラを連れた騎士には心当たりがあった、力自慢の重量系戦士であったはずだ。
 彼はこの土地では見ることがなく得体も知れぬゲッコウガの姿を、悪魔でも見るような眼で睨みつけていた。とはいえ軽蔑しているわけではなく、オンバーンを倒した確かな強者として警戒している様子だった。敏捷性に長けており水系統のワザを使うポケモンであるとは既に見抜かれてはいるだろうか。先ほどのように、相手の無知を利用して突破することはもうできないと見られる。
 ボスゴドラは鋼鉄の皮膚の上から、全身を重厚で鈍い輝きをした鋼の鎧で覆い、両手で扱うために作られたはずの無骨な戦斧を片腕で軽々とつかむ。戦斧の柄の先端からはヒラヒラとした糸飾りが翻っていた。
 硬くて重い鎧はポケモンの敏捷性を削ぐ上に、激しく動くと皮膚と鉄が擦れて怪我をするため、できる限りポケモンの鎧の面積は減らすべきだとされるが、鋼の皮膚には鋼の装備はしっくりと良く馴染むため、鋼ポケモンに限れば例外とされている。
「あれは、もしや……」
 カゲマサは相手の装備について、ある疑念を抱いた。
「封印の結晶を埋め込んでいるかもしれない、まず確認をしよう」
『御意』
「波動展開、水と闇」
 試合開始の合図と同時に指示を出す。ゲンジはそれぞれ小さなものであるが、右手に[みずのはどう]、左手に[あくのはどう]を作り出し、両方同時にボスゴドラに向けて放つ。それに対してボスゴドラは猛然と戦斧を振り上げて、まっすぐ走って向かってくる。
 二つの波動攻撃は鎧の表面に触れると、弾けて消し飛んだ。ゲンジのすぐ横を駆け抜けざま、戦斧の一閃が襲う。ゲンジは姿勢を低くして前方に飛び出し、戦斧の軌道を下に避けて、地面で一回転してすぐに立ち上がった。
「やはりか……そして速い」
 カゲマサは一人で頷く。
 《封印の結晶》と呼ばれる、ポケモンが持っている不思議な力を打ち消してワザを無力化する特殊な鉱石がある。本来ならば野生のポケモンの襲撃を防ぐために城壁や人間の盾に用いられるものだが、それを組み込んで鎧を作っているようだ。これを装備にするとワザによるエネルギー攻撃を防ぐことができる一方で、その無力化効果により装備ポケモンはワザが一切使えなくなってしまう。
 だがワザを一切使わずともボスゴドラには元々の筋力と防御力、そして圧倒的な重量がある。ワザをお互いに封じ込め、元々のポテンシャルでの勝負に持ち込む心算のようだ。
 かつ、これだけの重装備に似合わない敏捷性を持っていたことから、ボスゴドラは《疾風の首巻》という『ワザを封じ込める代償に素早さを上げる道具』を身に着けているのだと推測した、これは後世において《こだわりスカーフ》と呼ばれる道具の原型にあたるものだ。
 つまり、唯一の弱点となる鈍足で無くなったこのボスゴドラに対して、純粋な力比べをしなければならないということになる。
「ワザは効かないようだ、構えろ」
『承知』
 再び打ち込もうとする相手に、ゲンジは一本のクナイを両手で構え、間合いから一歩踏み込んで戦斧の柄の部分を捉えて、相手の攻撃を上手に受け流した。相手は無闇に打ち込むだけでは勝てないと察して立ち止まり、それぞれの武器を握りしめて睨み合う。
 柔軟なゲッコウガの身体の欠点を埋めるために、硬く頑丈さが自慢のクナイであるが、戦斧の攻撃を受けることはできない。わずかでも届きさえすれば、鎧も盾も関係ない、すべてを叩き割って、一撃必殺となるのが戦斧という武器だ。
 先に動いたのはボスゴドラだった、ゲンジの脳天めがけ、叩き割る一撃を振り下ろす、ゲンジはそれを回避しつつ斜め前に跳び、相手の背後に回り込んだ。そして、がら空きの背中に突きを繰り出す。しかし、すばやく向き直ったボスゴドラはそれを斧頭で受け止め、さらにゲンジの身体をクナイごと弾き返した。たまらず後退する。速さは互角、膂力(りょりょく)では完全に劣っている。ゲンジの足が半歩だけ後ろに下がった。
「隙は必ずあるはずだ。焦るな!」
 カゲマサの声で、目を凝らして相手の視線の動かし方やわずかな力のぶれを探り出す、そしてゲンジが目を瞑ったその隙を狙い、大きく踏み込んで間合いを詰めて戦斧が振り下ろされる。
 ゲンジは左足で踏み込んで、ワザの[まもる]を展開し、クナイの側面を向けて構える。結晶の効果でワザが大きく弱まっているため、まもるの障壁はあっけない音を立てて砕け散ったが、勢いを削るクッションとしては作用し、戦斧をクナイはぎぎぎと嫌な悲鳴を上げながら受け止める。
 クナイを横にずらして手を離し、戦斧を身体のすぐ横に振り下ろさせる。そして同時に脛当から二本目のクナイを引き抜き、右足を軸に体を一回転半させて、自らの膂力と遠心力が合わさった一撃を背後から、相手の鎧の装備の隙間がある脇腹にねじり込んだ。
 うまく刺さった。
 ねじ込んだクナイをテコのようにしてこじ開けて、出来た鎧の隙間へ更なるクナイを楔として打ち込む、全身をくまなくガードするために複雑に組み合った鎧は、このようにされると関節が固定されて、自由な動きができなくなる。
「渦潮を起こせ」
 ゲンジは地面に両手をつき、大地より大量の水を湧き上がらせて、身動きが取れない相手を巨大な[うずしお]の渦に閉じ込めた。結晶の効果はワザを完全に無力化するわけではない、クナイで作った装備の隙間から水が内部に浸水していく。またたくまにボスゴドラの体力を削りきった。
 審判の旗が振り上げられ、決着の合図がされると。
 民衆の歓声がどっと巻き起こった。


  [No.4055] 後半部予告 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/12/30(Sat) 22:52:59   201clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


次回予告。


『僕はユリアン。ここはいい国だねぇ』

 ゲンジとカゲマサの前に、キュウコンが立ちはだかる。
 大仰な羽根帽子、原色をふんだんに使った胴着、黄金色に光る美しい体毛を台無しにするように、乱暴に絵具をぶちまけたように原色の布を何重も重ねている、本来ならば気品溢れる九つの尾にはまるで統一感がない縞模様や水玉模様の布が巻かれていた。さらに背中にバグパイプのような、ワケの分からない筒を乗せた姿は、背負ったバグパイプをブカブカと吹いて街を練り歩き、騒がしく祭を盛り上げるピエロにしか見えない。
 そんなキュウコンが、ゲンジの放つ水流を炎で焼き尽くし、水をすべて蒸発させながら襲い掛かる。
 悪魔の手先だと罵られてきたゲッコウガよりも、その姿は正真正銘の"悪魔"のようだった。
「時代が……終わったんだな」
 倒れたゲンジを前にして、カゲマサは苦虫を噛み潰したように、重い口を開く。

 今、キズナの力が試される。


  [No.4064] 後日談 フィオラケスとナルツィサ 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2018/02/11(Sun) 22:22:46   1680clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

時代の後日談となるオマケの話となります。
後半部分のネタバレあります。ご注意ください。

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 月に紛れて風でざわめく草の音の中を走る。
 動く影は二つ、人間の影と、この地方には珍しいゲッコウガというポケモンの影。
 二つの影が茂みを抜けると、その目の前には灯りが燈る洋館があった。

 月明かりから避けるように洋館の壁に辿り着き、背を壁に付けて静かに呼吸を整える。
 彼らの名はカゲマサ、そしてゲッコウガのゲンジ。
 カゲマサが指で合図を送ると、ゲンジは構え、カゲマサはそのゲンジを足場にして大きく跳躍し、真上にあった二階のバルコニーにしがみ付き、音を立てずによじのぼる。ゲンジも長い舌を上に伸ばしてバルコニーの手すりへ絡めて上昇、彼も二階へとよじのぼった。
 バルコニーの窓からは、内側からカーテン越しに明かりが漏れていた。
 窓扉を軽くノックすると、中から単語が返ってくる。
「シュトゥルム」
「ドランク」
 その合言葉を言った後、少しするとかちゃりと金具が動く音がして、内側から扉が開かれた。
「やあ、ひさしぶりだな」
 そう微笑みを浮かべて挨拶したのは、今回のカゲマサの依頼人。フィオラケス・アルビノウァーヌスだ。
 カゲマサはバルコニーを背に寄りかかって、腕を組みながら一言。
「……用件を聞こう」
 カゲマサは忍者だ。
 この欧州の地からはるか東方にいた諜報部隊である忍者の生き残りで、故郷を捨ててはるばるこの地まで流れてきた。
 その仕事内容は主に暗殺・諜報・密偵と裏の仕事を一手に引き受ける。
 はるばる手渡されてきた手紙には、詳しい依頼内容は実際に会って話すと書かれてあったが、一体どのような依頼なのだろうか?
 フィオラケスは顔を崩さずにカゲマサに今回の依頼内容を告げる。
「そうだな、 私の明日の狩りを、手伝ってくれ」
「……????」


 その後「今日はもう遅いからここで寝ていい、明日の朝出発する」と言われ、何もない空き部屋に案内された。
 呆然と途方に暮れるカゲマサは、ゲッコウガのゲンジに尋ねる。
「……どう思う?」
『知らぬ』
 罠であることを警戒して、一通り調べてみたがそれらしきものは見当たらなかったため、大人しくその晩はそこで睡眠を取ることにした。


 翌朝、フィオラケスが現われて「友人が来ているから出迎えてくれ」と言うと、また返事も聞かぬままに、立ち去ってしまった。仕方なく玄関に降りてみると。黒髪の娘の姿がそこにあった。
 それはカゲマサの姿を見つけるなり、手を広げながら全力でこちらに走ってくる。
「うおお、ニンジャだ! 本物のニンジャだ!」
 と言って、両手でカゲマサの手を掴み取り、両手で強く握手をして、
 そのまま腕を大きく広げて、ハグをして、
 そして両肩をガッシリを握って、顔と顔と近づけて濃厚なキ

 ……キスは毎日の鍛練で鍛え上げた回避能力で避けた。日々の鍛錬の大切さが分かる一幕である。
 きょとんとした表情を浮かべる娘の姿を見て、カゲマサはしまったなと気付いた。つい突然のことに驚いてしまったが、一応はここではごく当たり前の挨拶だ。これでは無礼にも淑女の挨拶を拒んでしまったことになってしまう。
 少し悩んだが姿相応の対応をするべきだと考え、その場でひざまずき、女性に対する挨拶として相手の片手を取って一礼をする。
「おはようございます。はじめましてニンジャさん、私の名はナルツィサ・メランクトーン。ナルって呼んでください」
「お初にお目にかかる。私は久瑞景昌。姓がクズイで、名がカゲマサ、よろしく申し上げる」
「よろしくね。 クズイか……、じゃあクズィーだね」
 ドレスのふちを摘まんでおしとやかに礼をしながら、それでいて気さくな名乗りを上げる。
 真白い布地に色とりどりの花模様の刺繍が施された豪奢なピナフォア・ドレスを身にまとい、黒曜石のような長い髪は何かの花を模した可憐な髪飾りを用いて結わいている。ドレスの縁はレース飾りが施され、可憐な貴族の娘という装いだ。
 だが男だ。
 なるほど、確かにカゲマサ同様の噂通りの真っ黒な髪だ、ただ瞳の色はカゲマサの黒と異なり、琥珀色の瞳が輝いている。道ですれ違った男が、思わず心を奪われてしまうのも無理もない嫋(たお)やかな美貌を備えている。
 だが、男だ。
 狩りの装束としては一見ふざけているようには見えるが、あのドレスはそもそも掃除や水仕事を行う際の作業服であり、長い髪も上に縛って邪魔にならないようにしている、下にはちゃんと動きやすい服を着ているようで、何も考えてないわけではなさそうだ。
「先ほど、ニンジャと申したが、貴方は忍者を知っているのか?」
「本で読んだ。で、この前忍者についての話をしたら、フィオが『ニンジャ? ああ、あいつだな、戦ったぞ』のことか言ってさ、もうファァァァァ??? って感じだった! そういうことは先に言ってほしいよ、ひっどいなぁ。でも、まさか本当に会えるとは思わなかった!」
 興奮冷めやらず、カゲマサと握手した手をぶんぶんとするナルツィサに、カゲマサは若干引き気味だった。
「そ、そうか……」
 ポケモンが強い力で引っ張っても壊れない頑丈な船が造れるようになって可能になった牽引船の発明で、海を越えてイッシュを始めとする様々な国や地方の、物資や文化がここ欧州にも入ってくるようになった。中でも日之本の国は東の最果てに位置しているため話題性があり、この地では強い関心があった、忍者や侍が登場する小説や戯曲が作られており、文学を嗜む一部の知識階級によく知られている。
 文学少女(?)であったナルツィサは本を読み漁り、そうした本を通して日之本を知り、憧れを持っていたそうだ。
「私はニンジャについては詳しいぞ。 ニンジャとは隠密行動をするために色々な隠語で呼ばれていた。 例えば」
 ナルツィサは得意げな声で言い放つ。
「すっぱだかっ!」
「?! 違う、透破(すっぱ)だ」
「草」
「……ああ、忍びのことを草と呼ぶことはあるな」
「乱太郎!」
「……なんとなくあってる気はするが、おそらく、乱破者(らんぱもの)かな」
 どうしてこうなったのか…… 海を越えて伝わった結果、いろいろと間違って伝わっているようだった。
 だがカゲマサとしてはそれで構わないと思っていた。むしろ間違って伝わっていることはカゲマサにとっては喜ばしいことだった、忍者のことを大いに誤解して、敵が自分達のことを間違えた方向に過大評価してくれるならば、それだけ仕事もやりやすくなる。


「仲良くなったようだな」
「おはよう、フィオ」
 着飾ったナルツィサに対して、フィオラケスの装いは極めてシンプルだった、緑色の狩猟用の服に、白いモフモフしたファーが首に付いた紫のマントを肩にかけて、腰のベルトからは二本の剣、鞭、ロープ、そしてモンスターを入れるためのボールなどの小物をぶら下げている。
 横にはオンバーンと、ポーカーフェイスで表情が読み取れないインディゴとスノーの二色の猫のポケモン、ニャオニクスを連れていた。
「ねえ、クズィー! 何かニンジャっぽいニンジツを何かやってよ」
「……変化の術くらいなら」
「やった」
『カゲマサ、あまり調子に乗るな』
 ゲンジは小さい声でたしなめる。
「まあ、少しくらいならいいだろ? 鏡変化で軽く組手して戻るぞ」
『……承知』
 溜息をつきながら、浮かれているのだ、とゲンジは呆れた顔で思った。
 彼は忍者というものが大好きなのだ、だからこそかつての頭領のあの発言に怒ってしまい、忍者を大好きだと言ってくれたものが現れると、うれしくてしょうがなくなる。ブリガロンを連れたあの男とも、同じように忍者を気に入ったと言われてコロッと仲良くなるなどしていたので、いつかそれで騙されるんじゃないかとゲンジは心配だった。
 カゲマサとゲンジは横に並び、共に静かに両手で印を結ぶ。
 煙幕を発生させ、一瞬だけ姿を晦ますと、二匹のゲッコウガが現れ出た。
「ゲッゲッゲ……」
「ゲッ、ゲコォォォ!」
「おおっ」
「なんと」
 二匹のゲッコウガだが、カゲマサの服装はそのままなので、どちらがカゲマサだったかは一目瞭然だった。だが、だからこそ二人は驚愕していた。これは普通に分身をしたわけではないということだからだ。
 ゲッコウガ達は手甲の裏からクナイを取り出し、互いに刃を交えて組手を始める、縦横無尽に跳び回り、双方共に水手裏剣を放った後、再びクナイを交えたところで煙幕。
 煙が晴れると、元のカゲマサの姿とゲンジが並んでいた。
「忍法、変化の術なりぃ」
 片手にクナイを構えて口上を決めるカゲマサに、二人は拍手で応える。
「これがニンジツか!」
「素晴らしいものを見せてもらった」
 横で見ていたオンバーンとニャオニクスの表情をちらりと見えると、彼らも素直に驚いているような顔をしていたので、成功したと言えるだろう。
 これはタネを明かしてしまえば簡単なカラクリで、ゲンジが『実体を練り上げて、それ術者であると認識操作するワザ』みがわりと、『術者の姿を模した虚像を作り出すワザ』かげぶんしんを組み合わせ、カゲマサに重ね合わせることで姿を変えたように見せかける。あとはゲッコウガの鳴き真似や、自前の体術で動き回り、水手裏剣は身に纏ったみがわりを切り崩して、それっぽく発射したのだ。
 本当はゲッコウガ以外にも化けることもできたり、他にも『認識操作するワザ』みがわりを上手に掛けることで、『相手から自分の存在を認識させなく』する《霞隠れの術》など、ワザを組み合わせで様々なことができるが、さすがにそこまでの手の内を見せることはしない。


 カゲマサはフィオラケスに、アルビノウァーヌス家の厩屋に案内された。
「馬は乗れるか?」
「ああ」
「じゃあ、好きな馬を選ぶといい」
 とフィオラケスに言われたので、ゲンジと相談して気が合いそうなギャロップを見繕って乗ることにした。後ろにはゲンジを乗せるつもりなので、ギャロップには悪いが二人乗りである。
 外に出て少し乗り慣らしていると、フィオラケスとナルツィサも自分達が愛用しているギャロップに乗ってやってきた。フィオラケスが乗っているギャロップは何と、珍しい漆黒の炎をたたえる、漆黒のギャロップだった。
「では、行こうか」
 フィオラケスの案内で馬を走らせて、道を少し進むと、そこには見渡す限りの草原が広がっていた
 山をまるまる一つ抱える、アルビノウァーヌス家の領地は広い。
 ただ、逆に言えばこれだけ手付かずの土地が残っているということは、農耕作に不向きな土地であるということで、持て余しているということになる。
 草や木は充分に茂っているため特別に土地が痩せているというわけでは無かった、ここや近くの山に生息する野生のポケモンが恐ろしく強く凶暴で、耕作地にすると農民が襲われる危険が及ぶために放置している。ポケモン避けの壁の構築や育成技術の進歩に伴い、野生のポケモンに対抗する手段は増えているとは言え、蝙蝠竜の潜む竜穴や、世界の秩序を司る大地の大翠蛇が眠る伝説がある『終焉の山』が近くにあるため、進んで開拓しようとは思わない。
 だが、国に上納する金は土地の広さに応じて上納しなければならず、いくらか免除はあるとは言え、耕作適合地であるか否かに関わらず広大な土地に対して税を納めなければならず、アルビノウァーヌス家は常に貧乏に悩まされていた。先日の戦争にフィオラケスが参加したのも、用意できない上納金を労役で支払うためでもある、という裏事情も存在していた。
 領主にとっては利益を生み出さない土地を持つことはデメリットでしかないが、このような野放しになって野生のポケモン捕り放題の土地は狩猟マニアにとっては天国のような場所かもしれない。


「……あー ……あー 聞こえるか?」
 先に走っていって、数十ヤードも離れている場所にいるはずのフィオラケスの声が、まるですぐ隣にいるかのようにカゲマサの耳に聞こえてきた。
「聞こえるよ」
「聞こえる」
 ナルツィサが返事を返したので、カゲマサもつられて返事を返す。
「よし、繋がったか」
「何をした……?」
「ディーを拠点にして、それぞれの声をリンクして貰った」
「うにゃぁ……」
 フィオラケスは身体の前に抱えていたニャオニクスを抱えあげて指し示し、遠くにいるカゲマサの方に見せる。ディーとはあのニャオニクスの名前らしい。
「狩場は広くて大きな声を出しても届かないから、こうして狩りの間はいつもディーに連係を取って貰っているんだ。ああ、もちろん声に出したことしか伝わらないから、頭で変なことを考えていても大丈夫だよ」
「ナルに言われたくないな」
「ひどい。私がいつもいかがわしいことを考えていると思っているの」
「私はいかがわしいとは一言も言ってないぞ」
「よくも騙したなっ」
「騙してない。少なくとも、そこでいかがわしいという単語が出てくる程度には考えているはずだ」
「……ふむ」
 二人のやりとりは放っておいて、フィオラケスに詳しく聞いてみると、これはエスパーポケモンであるニャオニクスの精神感応(テレパス)を用いた複数人会話(マルチメンバーチャット)らしい、ニャオニクスがそれぞれの感覚を読み取って、それを人間とポケモンを含めたメンバー全員に配っている。エスパーポケモンを親にした無線通信システムということになる。
 後で聞いた話によると、頭の中の思考を直接共有させているのはなく、自分が発した声を自分の耳で聞いた、この時の自分の『声を聞いた』感覚を共有させることで、喋った声を伝えているようだった。
 こうすることによって獲物を捕らえる際に、離れたところから互いに意志の疎通をして、集団の連携で追い詰めることができる。
「面白いな」
『然り』
「興味深い、何かに使えないか?」
『うむ、盗み聴かれる恐れは如何せん。古き歴史を紐解けば同様の手段はあったが、其のために活用も限られていた』
「ああ、そうか……そうだったな、まあ心の隅にでも置いておこうか」
『賢明だ』
 テレパシーを用いた集団通話は昔から知られており、かつては戦いの際に使われていたが、盗聴や妨害念波(ジャミング)を受けるため実戦での運用には注意が必要だった。そもそもカゲマサはエスパーポケモンを所持してないため、思い付きで簡単に導入できるものではない。むしろ、使われる側として傍受の方法を探るべきだろうか。


「オォォォーーン」
「よし、きたか」
 オンバーンの静かな咆哮を聞いたフィオラケスは声を上げて、オンバーンに追い込みをさせながら、合図と共に彼を乗せたギャロップは駆けだす。
 加速し終えたところでフィオラケスは手綱を放し、背中に背負っていた長弓を構えて、矢の代わりに赤い短剣らしきものを矢枕に乗せて、素早くそして強く弓を引く。
「……あれは、ポケモンか」
 カゲマサは遠目から矢に代わりに射ようする正体を見極めた。
 射放たれた赤い剣のポケモンは、上空の鳥ポケモンに目掛けて飛んでいき、吸い込まれるようにして命中する。
 羽ばたく力を失った鳥ポケモンの体を、ポケモンから出た剣の穂(柄から伸びる飾り布)が空中で絡めとり拘束して、草むらの中に落下した。
 フィオラケスは手綱を再び握り直し、長弓を背負い直して速度を落としながら、地に落ちた獲物を探しに向かう。
「お見事、素晴らしい腕前だ」
「ありがとう」
 普通の色とは少し異なっていたが、あれはヒトツキというポケモンだろうとカゲマサは見た。
 矢の代わりにヒトツキを射る、その特性ノーガードにより多少狙いが外れても、届きさえすれば獲物に必ず命中することになる。だが、いくら自力で浮いているとはいえ、一本の剣と同じ重さの金属の塊を支えて弓で引く、しかもそれを走る馬に乗りながら行わなければならない。それを可能にするためには日々の鍛練と並々ならぬ筋力が必要となるだろう。


 向こうではナルツィサがヒノヤコマに指示を出して、獲物のケンホロウを追い詰めていた。
 ヒノヤコマは進化するとファイアローとなり、殖やしやすく手懐けやすいことから、かつて戦場において無類の活躍を誇っていた。
 出撃して数分で敵陣地に到着し、ブレイブバードを放つだけ。その戦術のシンプルさ故に突破が極めて難しい。いかに強固な城壁を築こうとも空を軽々と越えて突撃できた。尖った岩(ステルスロック)を浮かべるなどの対策を打とうにも、高速スピンで弾き飛ばせるポケモンを背中に乗せて飛べばよいなど、ファイアロー側はその対策の対策を打つ余裕があり、応用の利かせやすさも強さの一つだった。
 攻撃力も防御力も並であり、決して単体で強いポケモンではないが、戦闘に使わなくとも伝令や兵の移動、補給手段の確保など、優秀な指揮官にとって極めて秀でた駒となり。とある帝国に代々伝わるファイアローは他の種に比べて特に素早く、飛行ワザを使わせれば誰一種として敵うことは無かったとされ、帝国はそれを巧みに操ってあらゆる戦いに勝ち続け、大帝国を作りあげたという、そのファイアローは『はやてのつばさ』と呼ばれた。まさに一つの時代の構築したポケモンだった。
「そのまま旋回、右に切れ」
 ナルツィサの指示にヒノヤコマは大きく旋回するが、オンバーンのようにうまく追い込むことはできなさそうだ。この間合いでは炎の渦で拘束しきることができず、逃げ道ができてしまう。
「……林に入るな」
「そうなったら、逃げられちゃうか」
 もし木々の中に潜り込んでしまったらもうヒノヤコマでは追うことができなくなる。
「中で待ち伏せして、そこで仕留めよう」
「ありがとうよろしく」
 カゲマサはギャロップを走らせて、林の中に入って行った。

「こちら、位置についた」
「OK、行くよ」
 ナルツィサの声から少しして、木の枝葉が擦れる音と共に何かが地面に落ちてきたようだった、急いでその場所に駆けつけて、やや疲れたケンホロウを見つけると、カゲマサは素早くクナイを投擲する。
 クナイは軽々と避けられてしまったが、元から当たるとは思っておらず、その注意を引くのが目的だったので問題は無い。クナイを投げる前に枝の上に待機していたゲンジが、木の上から枝の隙間を縫うようにして、獲物を狙い撃つ。ゲンジの放った[れいとうビーム]が急所の羽に命中し、翼から先に見る見るうちに凍り付いていった。
「よし」
『上手くいったな』
 カゲマサはここでの狩りの作法はよく分からなかったが、とりあえず殺さないように絞めて落とした上で、持っていたハーネスでグルグルに縛り上げて、持っていたボールの中に押し込めて収納することにした。

「お見事」
「いや、貴方のおかげだ」
「そんなことはないさ」
 それぞれが獲物を見つけるまでの隙間の時間で、カゲマサはナルツィサといろいろな話をした。
 長らく疑問だった、その服装の趣味について尋ねてみたところ。
 男児よりも女児の乳幼児の生存率が高いことから、この地では昔から男児に女児の服装をさせ、女と扱うことで死神の目から逃れようとすることがあるそうだ。ナルツィサの幼い頃から病弱であったため、長らく女児の格好で生活していた。幼い頃は本気で自分は女だと思い込んでいたそうで可愛らしい服を自ら進んで選んでいたそうで、そんな生活があまりに長かったために、辞め時がなく、ずるずると今に至ったらしい。

 メランクトーン家は元々は地主だった。自分の土地で取れた物を商品作物として市場に売り、貨幣の運用により大きな財を成した。その金で子女を学ばせて官職につかせ、いわば貴族身分をお金で買ったという新興貴族である。
 対して、アルビノウァーヌス家は帯剣貴族と呼ばれる由緒正しい家柄であり、当主は子爵の地位を賜っている。歴史や功績から鑑みれば伯爵を賜ってもおかしくは無いが、高貴は血を嫌い、血を浴びる騎士は下の地位に追いやられるため、血生臭い剣を振るい続ける限り、冷遇されやすい事情がある。
 騎士上がりの爵位として言えば子爵は最高位であり、ナルツィサ曰く「伯爵に近い子爵」らしい。
 そんなアルビノウァーヌス家は常に貧乏と戦っていた、先ほどの領地に対して耕作に適した土地が少ないこともあるが、山を抱えるアルビノウァーヌス領は田舎街で、年々発展していく都市部への人や富の流出があった。封建制度も衰退気味で、台頭する新興貴族の影響で帯剣貴族はやや落ち目となり、このまま行けば家の存続も危ぶまれる事態になっていた。
 そこで思いついたのは領内の新興貴族メランクトーン家と縁戚関係を結び、新興貴族の財産を得るという手段だった。両家の奥方の妊娠がほぼ同時期に発覚した時に、アルビノウァーヌス家の当主は、まだ妊婦だったメランクトーン家の奥方を乳母として雇い入れて、あわよくば生まれたその二人が将来婚姻できればいいと画策した。
 その企みは二人の性別が同じであったために水の泡と化したが、そうして生まれたフィオラケスとナルツィサは乳兄弟として幼い頃から共に育てられたそうだ。乳兄弟の場合、乳母の子はそのまま従者になるのが普通だが、そういうことにならず幼馴染ということになった。
「クズィー、今回の依頼だけど、驚いただろう?」
「ああ、驚いた。一体何を依頼されるのだろうかと思っていたら、狩りを手伝ってくれとは……」
 
 報酬は昨日のうちに貰っていたため不満は無い。またカゲマサは自給自足して森で食糧を調達する生活をしており狩猟には多少の覚えがあるので、不慣れというわけではなった。
「私は、フィオは先日のリベンジ決闘でも申し込むんじゃないかと思ったよ」
「その可能性は捨てきれぬと、その準備もしていた」
「勝てそう?」
「そうだな…… 手加減ができないのが辛いか」
「どういうこと?」
「前回の戦いは、相手がゲッコウガというポケモンを知らないことを利用して短期決着を狙ったために勝てたようなもので、相手がやりたいことをやる前に叩いたが、もう次はそういうわけにもいかないだろう。また、あの時はスタジアムの狭さというオンバーンにとって不利な場であった、このような広い場所で戦うと勝てないだろう。明らかに地力で負けているから、相手は牽制のつもりでもこちらは全力で対処しないと押し負けてしまう。できれば多少の手加減ができるくらいの余裕が欲しい」
「なら、どう攻める?」
「なんとか気配を消して、懐に潜り込む策を考えるしかないな」
「ふーん」
 ナルツィサは真顔になり、その回答に詮索はせず、話題を切り替える。
「今回、クズィーをここに誘ったのはいろいろと事情があってね。ベーメンブルクの一件以降、周りの諸侯達の間で不穏な動きが見え隠れしている。形式上は反乱は鎮圧されて王国の勝利という形に終わったが、新教徒の不満は未だに燻ったままになっている」
「うむ」
 カゲマサは先日のベーメンブルクの戦いに参戦した。その際に一度は降参したが、それを無効にして再戦して勝利し、民衆軍を勝利に導いた。
 だがその後、王国を束ねる帝国本邦から『あの降参は有効である』という達しが下ったことで一転し、王国側の勝利に覆ってしまった。さらにこの一件は王国内での内乱に留まらず、その上の帝国の本軍までもが介入して圧力を加えてきた、これ以上逆らうと帝国軍が直々に戦うと脅してきたのだ。
 民衆軍はさすがに帝国軍相手では勝ち目はないため、相手の言うことを聞くしかなくなってしまった、新教徒諸侯の領地が大幅に削られ、国内の新教徒への締め付けが更に強まるという不本意な結果に終わってしまった。
 カゲマサは日之本にいた頃より祖霊土地神を信仰しており、旧教徒でも新教徒でもないため、この宗教対立のどちらかに肩入れをする気はなかった。そのため速やかに身を隠して行方を眩ませた、不用意に居座れば帝国軍に命を狙われかねず、民衆軍に担ぎ上げられるのも断じて避けたかった。あくまでも、何も持たない影なのだ。
「いくらでもやりようのある流れではあったけど、信仰の違いという非常にデリケートな問題に対する回答としては、いささか強引だった」
「そうだな、まさかこんなことになるとは思わなかった」
 戦った当事者だったカゲマサとしては、降参の取り下げは流石に無茶だったという自覚はあったわけで、取り下げも止む無しと考えていたが。喧嘩両成敗ということで新教徒に寛容だった頃に戻し、お互いに折り合いがつくだろう思っていたところ、この結末は予想外であった。
 いくらベーメンブルク王が皇帝の名家の血筋だからと言って、自治の独立が認められている一地方に対してこのような必要以上の干渉してくるのはあまりに不可解だ。おそらくは何かの影がそこに渦巻いているのでは、とカゲマサは感じ取っていた。
「フィオや私たちにとって幸いなことは、このアルビノウァーヌス家の領地は中心から外れていて、戦場になるということはないことだね」
 アルビノウァーヌス領は帝国中心部よりもカロス国境との距離の方が近い、帝国から派兵通知が届いても理由を付けて拒んでも構わないため、何者かが領土を横断するようなことが無い限りは、戦争に巻き込まれることはない。
「一応……ありうるとすればカロスとの戦争になる場合か」
「いやしかし、いくら帝国とカロスの仲が悪いと言えど、今回は宗教対立である以上は手出しをしてくることは無いだろう」
「カロスは帝国と同じ旧教国だからな、援軍くらいは送ってきそうだが、カロスもカロスで国内に問題を抱えている。うかつに手を出せばカロス国内の宗教対立の火種を誘うことになるから静観するだろう。余計な首をつっこんで火傷したくはない」
「まあ、カロスが攻めてくるなんてバカなことはありえないだろう」
「ありえんな」
 なおこの後、宗教戦争だったにも関わらず旧教国が味方のはずの旧教国に攻め込むという“ありえないバカなこと”が本当に起こるのだが、この時点の二人にはそんなこと全く予想もつかなかった。

「御存じの通り、アルビノウァーヌス家は古くからある武家貴族で、領地も辺境にあり、あまり社交界での交流は無い方だ。古くからの繋がりでそれなり情報は流れてくるが、有事の際にもその身と剣一つで解決していたこともあり、他を頼るようなことがなかった。今の状況はしばらくは静観できるが、少々心もとないところがある」
「なるほど、そういうことだったのか」
「お、理解が早くて助かるね」
 アルビノウァーヌス家は武闘派で名を馳せた反面、細かい工作が苦手であり、フィオラケス・アルビノウァーヌスは裏方で動ける隠密のカゲマサと今のうちに接触しておき、今後のいざという時に裏方で行動できる存在と繋がりを持とうとしていたのだ。
 ただ、何も起きてない今の状況では正式な仕事の依頼は何もない。かと言って、ただ会うだけでというわけにも行かない。そのため、とりあえず趣味の遊びに誘うことになったのだ。
「世間一般的には、お茶会やパーティを開いて、それに招いたりするけど、フィオはそういうガラじゃないし、クズィーもそういうの好きじゃないだろう?」
「ああ、こういう狩りの方が気楽でいいな」
 剣を交えて負かした因縁のある相手に突然呼ばれて食事なんか出されたら、間違いなく罠と考え、毒が盛られていることを警戒する。
 それはどう考えても悪手だ。
「……まあ、そういうわけだけど、依頼主と手先の関係ではなく手軽に会って話ができるように、私個人的としてはクズィーとフィオが仲良くなってほしいと思っているんだ」
 ナルツィサはまっすぐ前を向きながら言葉を続ける。
「あいつ、友達いないから」
「ぐふ……」
 不意に言われたその言葉が何故だかツボに入り、思わず吹き出してしまった。
「こんな時代にも関わらず、騎士の修行なんか始めるくらいすごくマジメでさぁ。なのにいろいろと誤解されやすいんだよなぁ」
「…………」
 そのいろいろな誤解はほとんどナルツィサの仕業であることを、カゲマサは知っていたが、黙っておくことにした。
 私事ではこのような女の装いをするナルツィサだが、公の場では一転してしっかりして、商政を引っ張る新興貴族の一角として名を馳せている、また法の知識にもについて研究する学者でもあり教会からの信頼も厚い。「こんな品格公正な男が、あのようなことをするわけがない、あの変人フィオラケスの趣味に付き合わされているのだ」というのが世間からの評価となっている。
 人たらしで世渡り上手で、良く思われやすいナルツィサの奇行の原因は、フィオラケスであると、とばっちりで濡れ衣を着せられているということになる。
「まあ、良ければ仲良くしてやってほしい」
「あ、ああ」
「……聞き捨てならないぞ、どういうことだナル」
「!? ってフィオ、いつから聞いていたんだ」
「一番最初からだ」
 突然聞こえてきたフィオラケスの発言に驚くナルツィサ。こうした狩りの最中はニャオニクスを用いたチャットネットワークは繋ぎっぱなしのため、ここまでの会話がダダ漏れだったようだ。
「友達がいないから仲良くしてくれだなんて心外だ。 ……いや、まあそうかもしれないが、ナルには言われたくないな」
「どういう意味だ、それ」
「……あー」
『主は黙ってろ』
「そうだな」
 とりあえず何か言おうとしていたところをゲンジに止められたので、その場では大人しく二人の会話を黙って聞くことにした。


 充分な獲物を得られたとのことで、日が傾き始める頃に狩りを終えて、屋敷へと帰還した。
 本日の獲物はフィオラケス自らの手でナイフをふるって解体し、血抜きと乾燥などの処理を済ます。ポケモンの皮膚は極めて硬く、高い再生能力も持っている。吊し上げて血抜きを済ませたビーダルを、屠殺台に並べて、硬い皮膚を目掛けて両手で短刀を突き刺す、刺さったら瞬時に筋にそって引き裂き、毛皮を剥がしとる。ビーダルの毛皮は水を弾き、極めて保温性が高いため、市場では高く売れる。作物が育ちにくいアルビノウァーヌス領においては貴重な収入源となっている。また、真冬の雪が積もる川の中で生活できるビーダルの肉は極めて脂身が多いため、ここでは貴重なエネルギー源でもあった。
 今日はカゲマサがいたために特別に量が多い、時間が経つとそれだけ劣化していくため、秒単位でいかに早く処理を済ますかがカギであり、フィオラケスは一心不乱にナイフを突き刺しては次々と屠殺加工処理を行っていく。カゲマサは鬼気迫る顔で向かい合うフィオラケスの後ろ姿を驚きの表情で見つめていた。ポケモンの身体は固いため、人力で解体するにはとてつもない馬鹿力が必要なのだ。
 そこに、ドレスを脱いでジャケットに手を通し、簡単に着替えて来たナルツィサが現れた。
「フィオ〜 例の件だけど、進めていいか?」
「構わない。是非進めてくれ」
「OK じゃあ、クズィー、こっちに来てくれ」
 ナルツィサはカゲマサを手招きして、屋敷の奥へと案内する。
 通された部屋は、壁の棚にはたくさんの書物が収められ、机と椅子がいくつか並ぶ、執務室だった。
 ナルツィサは大きな机の引き出しから一枚の羊皮紙とインクを取り出すと、ペンを片手にナルツィサは言う。
「協定を結ぼう」
「協定……?」
 ナルツィサは羊皮紙の上をペンを走らせながら、その内容について細かく説明をする。
「アルビノウァーヌス家―クズイ氏間において、不可侵として互いに社会的危害を加えることを禁じる。及び友好協定として以下の提供を行う」
 なるほどそういう話が始まるのか、と察してカゲマサは立ちながらその内容を聞く。
 今は忙しいフィオラケスに代わって、乳兄弟であるナルツィサが代理で協定を結ぼうということらしい。
「クズイ氏。フィオラケス・アルビノウァーヌスからの連絡手段を確保する。ただし依頼の拒否権は認めるとする」
 これは今回の依頼のように『いつ届くのか分からず、届かないかもしれない不確定な連絡手段』ではなく、呼んだらすぐに来るようなホットラインを作って欲しいということだ。ただ断ってもよく、強制力はないようで、これに関してはカゲマサは問題ない。
「対して、フィオラケス・アルビノウァーヌスより対価として提供することは3つ。まず、アルビノウァーヌス領からカロス国境を越える際の、関の通行手形を発行」
「ふむ」
 カゲマサのかつての里の仲間達はカロスにいる、凱旋帰郷というわけでは無いが、いつかはカロスに挨拶しに戻ろうと思っていた。前回のようにまた密入国をしようかと目論んでいたが、それならばその手間は省けそうだ。
「アルビノウァーヌス家所有の一般書架への出入りの許可。そのためにクズィーには屋敷の臨時掃除人として登録しておくよ」
「書架か」
 本が貴重品であるこの時代に、貴族が所有する本を読む機会が得られるのは嬉しい。情報集めもだいぶ楽になりそうだ。
「そして、私が所有している婦女服をいくつか寄与する」
「……?!」
 これは…… 正直あまり認めたくはないが、大変有り難いことだった。
 平民の娘服や貴族の紳士服なら容易だが、貴婦人服は極めて入手が難しい、さらに服はすべてオーダーメイドで、女性のラインぴったりに採寸されて作られているため、仮に手に入れても男の体では着ることはできないだろう。
 多少の調整は必要になるが男性の体に合わせて作られた女性服が手に入るとすれば、変装潜入の選択肢はぐっと多くなる。……まあ、着たくはないが、選択肢は多いに越したことは無い。
「そんなところでどうだ?」
「……契約の反故について聞きたい」
「これは契約ではなく協定だ、好きに反故にするといい。が」
 脅しか凄みか、ナルツィサの琥珀色の瞳が鋭く光る。
「不可侵を破り、然るべき対処を行うことになる」
「そうか」
 協定が破棄されればそれまで通りの、敵かもしれない関係に戻ることになるだけで、違約金があるわけではない。連絡手段の確保は、確実に届くように複数用意することになるが、これに関してはさほど苦ではない。三つの対価に関してはどれもカゲマサにとって嬉しいものであり、むしろ貰いすぎではないかと心配にはなったが。関の手形も書架も許可を出すだけであって、婦人服はようするに彼が着なくなった服の在庫処分ということで、彼らは全く金を払ってないということになる。全体的に見ればカゲマサにとって有利な条件であった、なにより貴族の後ろ盾に近いものが得られるのは嬉しい。
 この程度であれば口約束で済ませても構わないとは思ったが、断る理由というものは無かったので、羊皮紙にサインして、カゲマサは執務室を後にした。

「それにしても……」
 ずいぶんと踏みこんだ内容の協定だった。その内容からして、よほどカゲマサは気に入られていたようだった。
 ……しかしどうもおかしい、今日の狩りの最中にずっと話していたナルツィサから信頼されていたのならばまだ分かるが、あれはフィオラケス・アルビノウァーヌスとの契りなのだ、今日の狩りでフィオラケスはカゲマサとほとんど会話を交わしてないし、そこまで信頼される理由も分からない。いくら代理とはいえ彼の独断で結べるような内容ではないはずだ。そんな会話……あれ、かい、わ?
「まさか…… あの狩りの間の会話を、全部聞かれて、それで」
『主、まさか今になって気付いたのか』
「……うかつなことを口を滑らせてなかっただろうか」
『む、間抜にも再戦時の戦略について聞き出されていた他に在ったか……?』
「…………」
 どこまでがナルツィサの掌の上なのかは分からないが、奇抜な姿で近づいて人の心に寄ってくるナルツィサはとんだ食わせ者だったようで、「ナルツィサには気を付けろ」という言葉もしっかりと胸に刻まないといけないとカゲマサは思い知った。


 その日の晩御飯はスープをふるまわれた。
 野菜はくたくたになるまで煮込んだ後、灰汁を捨てて、味をすべて殺した野菜のカスのようなものを鍋に投入し、ビーダルの生肉をブリーの実のジャムで漬け込み、柔らかくなったものを薪火で焼いて、それも鍋に投入する。
 最後に小麦を練って叩いて切って少し乾燥させて作った太めのパスタも鍋に投入して、煮込んでスープを作った。
 食後にナルツィサは「この料理、クズィーの故郷ではどう言うんだ、漢字で書いてくれ」とカゲマサにせびってきた。本来の料理とはとても似ても似つかぬような気がしていたが、カゲマサは少し悩んだ末に彼の服に墨で書いてあげた。

 鍋焼饂飩(なべやきうどん) と



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Q:アルビノウァーヌス領って?
設定上はカロス地方レンリタウンから西に山を越えたあたりです。オンバーンの生息地の山を所有しており、その麓を含めた一帯を領土としているので広さだけはあります。メランクトーン家の土地はその中にあります。貴族の土地の所有ルールはよく分からないので適当にボカしたいです。

Q:乳兄弟って?
A:高貴な家では、子育てのような雑務をすべきではない、より栄養価の高い母乳で育てるべきだと乳母を雇うのですが、乳が出るためには同時期に子を出産している必要があるので乳母にも子がいます。この子供と乳母の子は兄弟同然で育てられ、乳兄弟という間柄になります。
だいたいの場合はそのまま主人と従者の関係になり、乳母の子はお付きのお世話係になることが多いです。義理の兄弟のため、乳兄弟同士の結婚は禁じられている場所もあります。

Q:帝国って?
A:神聖ローマ帝国をモチーフにしてます。神聖ローマ帝国は国の集まりに過ぎず、国王の中で選挙を行って、選ばれた王が国王と皇帝を兼任します(選帝侯)。むやみに導入すると話が複雑になるので、時代執筆時はこの帝国設定を全く考えてませんでした。
ベーメンのあの国王は皇帝ではありません。今の皇帝はウィーンあたりにいて、帝国の中心部はそこにあるイメージでいます。

Q:フィオナルの街遊びはどこでやってるの?
A:二人ともガッツリ馬(ギャロップ)に乗れるので、当時の貴族では考えられないくらい行動範囲が広いです。領内で遊ぶだけなら「またあの子息は……」と苦笑いされるだけで済むのに、帝国中の市街地(ベーメンブルクなど)を渡り歩くので知らない男がナルに騙されてトラウマを植え付けられる事態が起こります。

Q:ナルはなぜ執務室に出入りできるの?
A:フィオは字が下手なので自分の書類仕事をすべてナルに任せており、ナルが代筆してます。なおナルは、婦人服はすべてフィオラケスの名前で発注しております。

Q:ナルが前半と後半でキャラが違う……。
A:公私を使い分ける人で、表の顔は貴族の実務を一手に担うイケメンという設定なので。同じ人が喋っているように頑張りましたが、もっとうまくかき分けがしたいです。

Q:なぜクズィーと呼ぶの?
A:ビジネスパートナーとして扱っているので苗字で呼んでいます。