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  [No.4071] 明け色のチェイサー外伝 大音量と静かなる闘い 投稿者:空色代吉   投稿日:2018/02/15(Thu) 21:12:44   111clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 私の名前はガーベラ。自警団〈エレメンツ〉の団員です。私の所属する組織〈エレメンツ〉は、このヒンメル地方で起こる様々なトラブルに対処するべく日夜奔走しています。
 私の上司のソテツさんは、現場に赴くことが多い方なので特に忙しそうです。私はそのソテツさんの補佐もしています。ソテツさんとは師弟関係でもあるのもあり、多分現状では私が一番ソテツさんと一緒に行動していると思われます。
 そう……補佐であり弟子であるからこそ、彼の体調が、分かってしまうのです。
 いえ、誰にでもわかるくらいには、ソテツさんは今にも寝不足で倒れそうでした。

「ガーちゃーん……オイラはもう駄目なようだー……あとは任せたー……」
「ガーちゃんじゃありません。ガーベラです。しっかりしてくださいソテツさん。溜まっている相談はあと一件だけですので……あと私に掴まっていてください。落っこちたらシャレになりません」
「お言葉に甘えるよ……」

 大きな葉っぱの被膜を持つ首長のポケモン、トロピウスの背にに二人乗りをして空飛んで現地に向かっていると、後ろのソテツさんが珍しく弱音を吐きます。今週ソテツさんは寝る暇があまりありませんでした。寝ようとしても不規則な休眠は机に突っ伏していたり、椅子で寝ようとして失敗していたり……など姿勢の悪い状態で寝ていました。現在は二徹さんです。本当は今回の依頼も私だけで対処できればいいのですが……まだ一人で向かうには自信がなく、大変申し訳ないのですがソテツさんについてきてもらっているという感じです。自分の未熟さに情けなくなりますが、へこんでばかりもいられません。気を引き締めてその場所へ向かいます。
 問題の起こっている谷間に到着する直前、じゃらじゃらとした何かを鳴らす音を集めたような騒音が辺りに響き渡ります。空にまで響くその大きな音に、私とソテツさんも顔をしかめます。

「この音が……例の」
「いやー、確かにこれはキツイねー……」

 今回の相談は、谷間の近くの村からの住民から持ち掛けられたものでした。
 先程のじゃらじゃらとした音が、谷間の方から昼夜問わず頻繁に大音量で鳴り響いていて困っているとのこと。つまりは「五月蠅いからなんとかしてくれ」という事案でした。

 谷間を進んでいくと、眼下に騒音のらしき原因ポケモンとポケモントレーナーとその手持ちポケモンの姿が。
 ポケモンは予想通り、大量のじゃらじゃらしたうろこを身に着けたドラゴン・かくとうタイプのポケモン。ジャラランガ。ジャラランガのトレーナーは、赤茶の髪を後ろで縛った少年でした。やはりといいますか……少年はジャラランガに技の特訓をさせていました。
 こちらの存在に気付いた少年とジャラランガは技の練習を中断し、物珍しそうな顔で私達を出迎えました。

「こんにちはー、オレたち以外のトレーナーが来るなんて、珍しいな! オレはヒエン! こっちはジャラランガ、姉ちゃんたちは?」
「こんにちは。私はガーベラです。こちらはトロピウスと、ソテツさんです」
「やーよろしくー……」

 ひらひらと手を振るソテツさんを見たヒエン君は口をあんぐり開けていました。

「ソテツ!? あの〈エレメンツ〉『五属性』の一人のソテツさん!? なんでまたこんなところに!?」
「キミに会いに来たんだよー……」
「オレに会いに?! うおおお……オレの名もそこまで轟いていたとは」
「轟いていたのは、貴方のジャラランガの技の音です……」
「? どういうこと、ガー姉ちゃん」
「ガー姉ちゃんじゃありません! ガーベラです! ……まったく、もう。ヒエン君。貴方のジャラランガが出す音が、近所迷惑になっていると苦情がありました。場所を移動するなり、自粛をしてもらいたいのですが」

 要求を言うと、ヒエン君は明らかに納得のいっていない渋い顔をします。

「なんでだ? ポケモンの技の練習で騒がしくなるのは当たり前じゃないか、それをするなって言われても……ここの場所見つけるのにも、結構苦労したのに」
「まったくするなと言いたいわけではありません……せめて夜間だけでも、控えてもらえませんか?」

 私の提案に、彼は譲りがたい理由を述べました。

「オレたちはもっと強くなりたいんだ……そのためには技を磨きたいんだ……頼むよガーベラ姉ちゃん、ソテツさん……『ポケモン保護区制度』なんてものがある限り、オレらはオレらで強くなるしかないんだよ……」

 『ポケモン保護区制度』
 それはヒンメル地方のポケモンの生態を護るために近隣の国々が押し付けてきた、ポケモン捕獲に対する制限。この制度で苦しんでいるトレーナーが山ほどいるのは知っていました。ポケモンを捕まえる機会が少ない以上、強くなるためには今いる自分とポケモンたちだけで強くならなければいけないのが、現状。
 それでもヒエン君はジャラランガと強くなろうとしている。私たちのしていることはその邪魔でしかないのは、分かってはいても苦しいものでした。
 でも、安眠できない村の人たちのことを考え……結局私は、頭を下げてお願いしました。

 ヒエン君は「仕方ないか」とこぼした後、ある条件付きで説得に応じてくださいました。

「頭を上げてって――――じゃあさ、ポケモンバトルしてくれよ。経験は多い方がいいし、一度〈エレメンツ〉がどれほどの実力なのかって、知っておきたいし」

 〈エレメンツ〉の実力を知りたい。その言葉の中にはソテツさんへの指名は含まれていませんでした。ヒエン君はソテツさんの体調を気遣ってくれたのでしょう。
 ヒエン君、本当はソテツさんとバトルしたかったはず。私にその代役が務まるのか。不安がこみ上げてきます。ですが、ここは引けない。引くわけにはいかないのです。

「……ソテツさんは、休んでいてください」
「大丈夫? とは、言わないさ――――任せた」
「任されました」

 ヒエン君の妥協してくれた恩に報いるために、私はトロピウスをソテツさんに預けて、別のモンスターボールを握りしめました。

「私が相手です、ヒエン君。ルールはシングルバトルの1対1。いいですね?」
「いいよ……ありがとう。ガー姉ちゃん」
「それはこちらの台詞です。そして、ガー姉ちゃんじゃありません、ガーベラです」
「……こだわるね」
「こだわりますとも」
「まあ、いっか――――ジャラランガ! 久々のバトルだ! 気合入れていくぞ!」

 じゃらん、とうろこを鳴らし咆哮するジャラランガに対し、私はモンスターボールを上空へ放り投げます。ボールが開き、光と共に現れたのは、草・毒タイプのマスクをつけた花の化身、ロズレイド。

「お願いします……ロズレイド!」

 バトルはあまり得意ではありませんが……私の持てるものをぶつけるために、彼の持てるものを受け止めるために、私達はバトルを始めました。


**************************


「先手はもらいます! ロズレイド、『ヘドロばくだん』!」

 花束のような腕をスイングさせて、毒爆弾を飛ばすロズレイド。放物線を描いたその毒爆弾は――ジャラランガに届く前に“何か壁のようなもの”にぶつかりはじけて霧散した。

「へへっ、効かないよ! ジャラランガ、『ドラゴンクロー』でお返しだ!」
「爆弾系無効化特性……『ぼうだん』ですか。ならっ、『グラスフィールド』!」

 ロズレイドを中心に広がる草の大地『グラスフィールド』が、駆けてくるジャラランガの足元にまで及び、ツタが足に絡まる。

「足場を悪くしてくるかー、構わず突っ込めジャラランガ!」
「かわしてくださいロズレイドっ!」

 ジャラランガはツタを引きちぎりながらロズレイドへなお接近。ロズレイドに竜爪を使い連続で切り裂いた。ロズレイドはかすり傷を負っていく。が、微々たるものだがロズレイドの傷口がどんどん回復していく。それは、かすり傷程度では押し切れない回復スピードだった。

「『グラスフィールド』の回復効果か! 確かにかわされ続けたら、決定打がなければ押し切れないね……でも、回復はジャラランガもするし、ダメージを与えられないのはそっちもじゃない?」
「それはどうですかね」

 カーベラの言葉に、ヒエンはジャラランガの様子がおかしいことに気づく。
 眉間にしわを寄せ、少し息苦しそうなジャラランガ。ジャラランガの体力は、毒で削られていたのだ。毒を仕掛けたのは、ロズレイドの特性。

「しまった『どくのトゲ』か」
「ふふ、タイムリミットが出来てしまいましたね。しかしゆっくりしている暇は与えませんよ! ロズレイド、タネをお見舞いです……!」

 ロズレイドが花束のから“タネ”を射出して、ジャラランガに埋め込む。

(まずい、『やどりぎのタネ』! 時間が経てば経つほど、タネにジャラランガの体力が吸い取られる!)
「さて、この布陣をどう切り抜けますかヒエン君?」

 ヒエンは動揺していたが、時間をかけるだけジャラランガが不利になる事実を飲み込んでいだ。両手で頬を叩き、瞬時に冷静さを取り戻したヒエンは、ジャラランガへ次の一手を指示する。

「いくっきゃ、ない。やるっきゃ、ない! ――――ジャラランガ! 今こそ特訓の成果を見せる時だ!」

 ヒエンの声に、ジャラランガが応える。ヒエンは両腕を交差し、右腕につけた『Zリング』に力を籠め始めた。

「まさか……ロズレイド、踏ん張りをきかせて耐える準備を!」
「いくぞジャラランガ!!」

 『Zリング』から出される己のゼンリョクエネルギーをその身に纏ったヒエンは、半円を両腕で描かせてから、その握り拳を正面に突き出す。右足を一歩後ろに引いてから、ドラゴンの口を連想させるようにヒエンは腕を、拳を、今にも噛みつく竜の如く開き構えた!

「これがオレたちの魂のZ技……っ!!」

 ヒエンの全力の動作から放たれるエネルギー波を受け取ったジャラランガは、儀式のような雄々しい舞いを始める……じゃらん、じゃらん、と鳴り響くジャラランガのうろこがだんだん早くなる舞いに合わせて小刻みに震えていき、やがてそのバラバラだった音は一つとなり超爆音波となりロズレイドに襲いかかる――!

「喰らえっ! 『ブレイジングソウルビート』おおおお!!!!」

 ヒエンとジャラランガ。ふたりの咆哮がガーベラとロズレイドを飲み込んだ。
 圧力となった音の塊に押しつぶされそうになるロズレイド。だが、ロズレイドはその猛攻を耐えきる!
 音の嵐が過ぎ去り、静けさが戻るころ。にらみ合う形だったジャラランガとロズレイドが体勢を立て直す。

「なんとか、しのぎ切りましたか」
「いいやまだだね! ブレイジングソウルビートの追加効果、オールアップ!」
「なっ」

 ガーベラが驚くのも束の間。ヒエンの合図に呼応して、ジャラランガの周囲に五色の光が溢れる。

「攻撃、防御、特攻、特防、素早さ、全部能力上昇ですか。なかなかにえげつない……『ギガドレイン』で体力を奪いますよ、ロズレイド」
「させないよ! 『ドレインパンチ』で迎え撃て、ジャラランガ!」

 再びの接近戦。ロズレイドの放つ光がジャラランガの体力を吸い取る。ジャラランガの放つ拳がロズレイドの体力をかすめ取る。お互いいまひとつ相手の体力を削れない。しかし毒のダメージや、フィールドの草タイプ技の『ギガドレイン』の威力が上がる効果などによって次第に二体の体力の差が離れていく。

「まだ、まだだ。もう一発。もう一発『ドレインパンチ』……!」

 そして『グラスフィールド』も消滅し、とうとうジャラランガの体力が尽きようとしていた。少し距離を取るロズレイドを見据えながら、ジャラランガは両手と片膝を地につける。
 その様子を見たガーベラは、宣言する。

「そろそろ、決着ですね。ロズレイド、最後の攻撃の準備を」

 その余裕をもった言葉に、ヒエンは同意した。

「そうだね。最後の攻撃をしよう――――オレたちの勝ちだ!」

 宣言返しを合図に、クラウチングスタートでロズレイドめがけて今までで一番早く走るジャラランガ。ヒエンが拳を突き出して、ジャラランガの技名を叫ぶ。

「『きしかいせい』の一手、喰らえ!!!」

 『きしかいせい』とは、ダメージを受けていれば受けているほど威力の上がる技である。ヒエンとジャラランガに残された、ガーベラのロズレイドを倒す唯一の手だった。毒のダメージと『ギガドレイン』の威力を見極め、『ドレインパンチ』で残りの体力を調整。そして今の瞬間がベストタイミングであった。
 決まれば、ヒエンとジャラランガの勝ち……だった。

「いいえ」

 ガーベラの素早く短い否定が終わると同時に、爆発がジャラランガを襲う。
 目を見開くヒエン。倒れるジャラランガの向こうに、花束の右腕をガンマンのように突き出したロズレイドの姿をとらえる。
 謎の爆発にヒエンは混乱した。しかしどんなに考えても『ヘドロばくだん』の爆発以外にはありえない。けれども弾丸系の技はジャラランガの特性『ぼうだん』によってダメージは通らないはず。
 そう、『ぼうだん』の特性が発動しさえすれば。ヒエンとジャラランガは勝っていた。つまりはジャラランガの特性を不発にする技を喰らっていた可能性が出てくるということだ。

(いつ、どのタイミングでそれが起きた?)

 ジャラランガに駆け寄り頭を悩ませるヒエンの視界の端に、ジャラランガの身体から芽が出ているタネが映り込む。
 そして彼は天を仰ぎ見て、理解した。

「ああああ……あれ……あれ『なやみのタネ』だったのかああああ……!」
「正解です。フェイントは成功していたようですね。そして、私たちの勝ちです」

 ヒエンは、眠り状態にならなくなる『ふみん』に特性を一時的に“上書き”する技『なやみのタネ』と、体力を少しずつ奪う技『やどりぎのタネ』と誤認していた。いや、ガーベラに誘導させられていたのだ。

「ごめんよジャラランガ。毒でジャラランガの体力減っていたのと、『グラスフィールド』の回復効果とかで『なやみのタネ』をわかりにくくしていたのかー……でも、それにしてはロズレイド元気じゃなかったガー姉ちゃん?」
「ガー姉ちゃんじゃありません。ガーベラです……ああそれはですね。ロズレイドに持たせてあるこの持ち物ですよ」

 ガーベラの指示で、ロズレイドが黒くてどろっとした何かを取り出す。予想外の形状の持ち物にヒエンは一歩引く。

「何これ」
「『くろいヘドロ』と言って、毒タイプ以外が持つと苦しむことになりますが、逆に毒タイプが持つとじわじわ体力を回復してくれる代物です」
「へえー、だから、ロズレイドの回復力が、上がっていたんだね」
「そういうことです。お疲れ様です、ロズレイド」

 くろいヘドロをしまうロズレイドと、それを手伝うガーベラを見るヒエンはジャラランガを撫でる。それから彼は、ガーベラの戦い方を思い返していた。思い返し終わった後、ヒエンは素直な感想をガーベラに伝える。

「ガーベラさん、あんなに静かにロズレイドを戦わせられるなんて、すごいよ。オレ、強力な技には強烈な音がつきものだ、強くなるにはより大きな音を出すぐらいじゃないと駄目だって思っていた……でも、そういう静かなバトルスタイルもあるんだね」
「いえいえ……でも、バトルスタイルはポケモンにもよりますし、ジャラランガは音を使いこなすスタイルでもあります。でも、戦い方と強くなる方法は一つでは、ないのかもしれませんね」
「だね。オレもジャラランガも技の威力を上げるだけじゃなくて、音を鳴らすだけじゃなくてもっと戦法とかいろいろ見直してみるよ。そのことに気づけただけでも、バトルして良かった! ありがと!」

 ストレートな物言いのヒエンにガーベラは一瞬反応が遅れる。最初はヒエンの対戦相手が自分でいいのだろうか、ふさわしいのかと悩んでいたガーベラは、ヒエンに自分が相手で良かったと言ってもらえて戸惑いもしたが、嬉しかったのだ。その嬉しさを噛みしめ、ガーベラは礼を返す。

「こちらこそ……ヒエン君、お互い強くなりましょう。そしてまたいずれ、バトルしましょうね」
「分かった! その時はガー姉ちゃんもソテツさんも万全の体調で来てくれよな? オレは二人とバトルしたいからさ」
「はい。ソテツさんにもよく言い聞かせておきますね」
「やった! ってー、そういやソテツさん大丈夫かな」
「おそらくは、大丈夫だと思います。ほら」

 ガーベラの指差す方には、トロピウスの背中にもたれかかるようにして寝ているソテツの姿が。

「『ブレイジングソウルビート』近くで聞いていたはずなんだけど、よく眠れるなあ」
「そこはほら、耳栓渡しておきました。あとはトロピウスのフルーティーな香りに包まれて熟睡コースです」
「もうちょっと寝かせてあげようか」
「ですね。では、おやつにトロピウスの首についてるきのみ食べますか? 甘くて美味しいですよ」
「いいの、やったっ」

 そうして二人は、きのみを食べながら、午後の昼下がりを談笑して過ごした。
 二徹だったソテツが目を覚ましたのは、夕時だったという。


**************************

あとがき

バトル描写書き合い会といいつつ長編で連載中の明け色のチェイサー短編で描きたかった話とうまく融和できそうだったので、書いてしまいました。

以下、今回のジャラランガとロズレイドの構成です。

ジャラランガ♂ 特性ぼうだん アイテム ジャラランガZ
スケルスノイズ(ブレイジングソウルビート) ドラゴンクロー ドレインパンチ きしかいせい

ロズレイド♀ 特性どくのトゲ アイテム くろいヘドロ
ヘドロばくだん なやみのタネ グラスフィールド ギガドレイン


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