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  [No.4082] 制約のない 投稿者:逆行・まーむる   投稿日:2018/07/14(Sat) 10:52:43   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


<ご注意>
・この小説には、残酷な行為等の表現が具体的に、多数含まれます
・レーティングとしてはR18Gとなっております



prologue, 1 week ago.

 そのアブソルは必死に逃げていた。体は既に傷だらけで満身創痍の状態だった。
 走る速度も次第に遅くなっていった。追いつかれるのは時間の問題のように思えた。
 アブソルはなんとか自分を鼓舞して逃げ切ろうとした。だが。
(どうせ後一週間か……)
 そんなことを言う声が自信の胸から聞こえてきた。
 何かを思い出したアブソルは急に気持ちが折れ始める。疲れと痛みに呼応してその場に倒れてしまった。振り向くと見える位置まで追手はもう来ている。彼の命運はここで尽きた。
 早く意識を失いたかった。痛くないように殺されたかった。しかしこんなにボロボロであるにも関わらず、意外と意識はちゃんとしている。ここで諦めるのは甘えだ、ということなのだろうか。
 諦めるなと言われても、一度体を横にしてしまうと起き上がるのは容易ではない。多大なエネルギーがいるものだ。ポケモンバトルで例えるならばとっくに戦闘不能の状態を越えている彼には、流石にそこまでの力は残されていなかった。
 ようやく追手がアブソルの所まで来る。倒れてからここまでの時間は恐ろしい程ゆっくりに感じられた。
 彼の命を奪おうとする存在は横たわる彼の体を眺める。
 その男の隣には、一匹のポケモンがいる。
「よし、こいつを連れて行け」
 眼の前のアブソルが動けない状態であることを確認すると、男はパートナーのポケモンにそう命令した。
 大型であるそのポケモンはアブソルを乱暴に掴み自身の肩に乗せた。
 男と一匹のポケモンはアブソルを連れたまま村へと戻っていった。
 一先ず命は救われたと楽観できる程、アブソルは世間知らずではなかった。
 この後自分の身に何が起きるかは分かっている。
 村へと連れて行かれた後に自分は殺される。大勢の民衆の前に晒され、罵声を浴びせられながら焼かれるのだろう。自分の悲鳴を聞いた人間共は一斉に歓喜の声を上げるはずだ。
 人間達の『恨み』のはけ口に、自分はされるという訳だ。

 山を抜け、大川に架けられた橋を渡り、村へと辿り着いた。
 その村は長閑な村だった。
 建てられている家から少し貧しさは感じられるが、人々はそれなりに活き活きと暮らしていた。村の子どもたちは元気に川遊びをしている。市場に至ってはこれ以上ない賑わいを見せていた。不穏な空気はこれっぽっちも流れていなかった。
 アブソルを倒した男が村に戻ってきたとき、住民達はなるべくそっちを見ないようにしていた。
 アブソルの予想とは異なり、村の人達人たちが罵声を浴びせてきたり石をこっちへ投げつけてきたりはしなかった。 
 どちらかと言うと一般住民は「なるべく関わりたくない」という心理が働いているようだった。
「まいったなーここもう一杯かよ」
 男は自宅の倉庫を開けながらそう言った。倉庫の中は確かにクワやフィールドカートと言った農作業の道具で詰まっていた。他に、全く使われていない防災頭巾やリュックサックもあった。水を入れたペットボトルも数本置かれていた。
「人目につかない所に置いとかないとなあ。しゃあねえな、少し片付けるか」
男はしぶしぶ汚い倉庫の奥へと入り込んでいこうとしていた。
「おいおい貸してやるよ、俺んちの倉庫」
隣の家からこっちの庭の様子を覗いていた男がいた。その男の横には、小さな女の子がいた。
その女の子とアブソルは目が合っていた。無表情で傷ついたアブソルを見つめながら父親のズボンを叩いていた。
「俺んちの倉庫は空だ。ケモノ一匹ぐらい余裕で入る。その変わり、分け前いくらかくれよ」
「お前なあ、一匹ポケモン捕まえるのどれだけ大変か分かってんのか。アブソルは自分から人を襲わない分まだ楽だけどな」
「いいじゃねぇか。俺はポケモントレーナーじゃねぇし、お前みたいにじゃんじゃん捕まえてお金貰える奴が羨ましい」
「じゃんじゃん捕まえられる訳ないだろ……。まあいいや。明日の朝まで倉庫使わせてくれるんだな。ならいくらか金やるよ。例の場所にアブソル届けた後でな。いいかくれぐれも逃がすなよ」
 こうしてアブソルを連れた男は隣人の家の倉庫を使わせてもらうことになった。
 逃げ去る等という滑稽な事態が起きぬように、倉庫には鍵をしっかりとかける。更にはアブソルを縄で縛り付ける。
「ほんとに何もねえなこの中。大丈夫か」
 広々と空間の空いている場所に新聞紙を何枚かひいてその上についさっき気を失わせておいたアブソルを投げ捨てた。

 夜になってアブソルは目を覚ます。まだ自分は生きていることに気がつく。扉の隙間から微かに家内の光が漏れてきており、一応周りの様子は把握できた。ここが倉庫内であることと、自分は頑丈な縄で縛られていることに気がつく。
 自分が殺されるのはまた明日という訳か。人間達の会話を聞く限りどこかに届けられてそこで殺されるのだろう。殺すのならさっさと殺して欲しかった。
 この倉庫はぱっと見る限りそこまで頑丈そうには見えなかった。辻斬りで穴を開けて出口を作ることも可能はゼロとは言い切れない。自分を縛りつけるこの縄だってやってみれば引きちぎれるかもしれない。
 だがそんなことすれば家内にいる人間が何事かと来るだろう。再び気を失うまで痛めつけられるのは怖い。だがうまく行けば逃げられる可能性も、これまたゼロとは言い切れない。
 アブソルは相反する二つの気持ちで葛藤していた。
 どうせ後一週間で終わってしまうのだから藻掻いても仕方がないという気持ち。一秒でも長く生きられる望みがあるのなら最後まで粘るべきという気持ち。
 しかしありとあらゆる所に付けられた傷の痛みによって、除々に前者の方に気が振れていく。
 でも、それでもまだ、完全に振れ切れる所までは行っていなかった。
 一つだけやりたいことが残っていたから、彼はまだ諦められないでいた。しかし、それが成功する確率は圧倒的に低かった。もし成功したらそれは『革命』と呼んでも差し支えないものだった。
 静かな野望の火が酷く傷つけられた体の中に、しかし今もなお燃え尽きた灰とならずに燻っている。
 自分は英雄になれるんじゃないかという愚かな自信。人間から幾度となく散々な目に合わされて蓄積された恨み。それらがある限りその火は決して消えることはない。
 弱く、けれども確固として未だに燃えるその火は、彼をゆっくりとだが確実に押し上げた。そして、意を決して倉庫をぶち破ろうとしたそのときのことだった。
 倉庫の鍵をカチャカチャと開ける音が聞こえた。
 扉が開かれて中から出てきたのは、先程見たこの倉庫の持ち主である男とその娘だった。
「随分と傷つけられちゃってまあまあまあ。ひでえことするなあ全く」
 男はとぼけたような口調でそんなことを言う。
 その言葉にアブソルは反発を覚えていた。いや、お前たち人間が傷つけて捕まえたのだろう。酷いも何もお前たちがやったことだ。
 一方で少女の方は何も言わずやはりアブソルとじっと目を合わせていた。
「良かったな。お前助けてやるよ。この子が一アブソルのこと助けたいって言ったんだからな。そんな睨まないで感謝してやれよ」
 男はアブソルの縄をほどいてやり、倉庫から出してやった。この行為は明らかにあの隣人への裏切り行為である。分け前を貰えるどころか、損害賠償を請求されてもおかしくはない。
 縄をほどかれたアブソルへと少女と近づいていった。そして手に持った草をアブソルの側にそっと置いた。
「これ、秘密基地で見つけたの。食べて」
 訝しい表情で見つめながらも、言われた通りアブソルはその草を食べた。見た目は普通の雑草だったが、味がとんでもなく苦かった。アブソルは思わず吐き出しそうになったがなんとか全部食べ終えた。
 全部食べ終えたアブソルの体からみるみるうちに傷がなくなっていく。痛みも完全にどこかへ飛んでしまった。
 噂で聞いたことはあった。今食べた草は「ふっかつそう」と呼ばれるものだ。とても苦味が強いが食べるだけで瀕死状態からでさえも復活できる。 
 普段山に暮らしていてもほとんど見かけることのないふっかつそうを、その少女は持っていた。

 家の玄関を父親が開けた。家の中の様子が分かった。ぱっと見はごくごく平凡そうな家に見えた。
 玄関から見える階段の踏面の一つには、缶ジュースがたくさん入ったダンボールが置かれていた。
「おかえりー」
 母親と思わしき女性が、和室からスリッパを履いて出てくる。和室にはタンスが置かれていて、その上には何かが入ったダンボールがあった。
 母親はアブソルを見た瞬間それまでにこやかだった表情を急に変える。
「え……? なんで倉庫のアブソル連れ出してんの」
「百合がさ、助けたいって言うから助けたんだ。今日中にでも野生に返しにいくわ」
「……私はいいけど、あなた大丈夫なの。知らないわよ」
「後で土下座しとくよ。とりあえず中入れさせてやってくれ。たぶんこいつめっちゃ疲れてっから」
 部屋に入ると一人のおばあさんがいた。おばあさんは映りが悪くなっているテレビを何度もガンガンと叩いている。
「おい、またテレビ映らなくなっちまったよ」
「そのうち良くなるわよ。今は電波悪いから。あんま叩かないで。余計壊れちゃうよ」
 おばあさんは諦めてテレビを消してしまった。
 部屋の柱には幾つも亀裂が入っていた。家自体ももう古く、大きめの地震でも来たらすぐに倒れてしまいそうな雰囲気だった。冷蔵庫や本棚や食器棚と言った家具は色々あるが、それらは一つとして金具で固定されていたりはしない。冷蔵庫の上にはさっきのタンスと同様に、やはり何が入っているのか分からない箱が置かれていた。
 どうやらこの家は四人家族のようだった。家族全員がテーブルの前に座った。テーブルの上には料理が置かれていた。ホエルオーの大和煮と、キノコの炒めものと、味噌汁と、ごはんが、それぞれ一人ずつ分配されていた。
「はい百合、烏龍茶で良いでしょ。お父さんはこっちのコーヒーで」
 母親が階段に置いてあった缶ジュースを取ってきて皆に配った。
「どうする、アブソルに何食べさせる?」
「……何もねえな。しゃあない乾パンで良いだろ。そこの、テレビの横に置いてある奴」
「大丈夫これ? ちょっとまって埃が」
 母親は袋に付いていた埃をティッシュで拭いてから、乾パンを皿に盛り付けてアブソルに渡した。
「食べる? これも?」
 アブソルの眼の前に座っていた女の子はホエルオーの大和煮をアブソルの方に更に半分ほど乗せた。
 家族は黙々と食事をしていた。あまりにも静か過ぎたので父親が気まずさを感じてテレビを付けた。さっきと違ってテレビの映りはだいぶ良い。天気予報のアナウンサーがもう夏も終わりであることを伝えている。
 女の子は結局おかずが足りなくなって大和煮のたれをごはんにかけて食べていた。その様子を見てアブソルは少し申し訳なく感じたが、お腹が空いていたので彼も黙々と食べていた。
「この後どうする? アブソル野生に返すの」
「そうだな。夜中だったらこのへんは人気ないし、まあ大丈夫だろ。最悪一人、二人に見つかったとしても逃げられるだろうし。川沿い歩いていけば山まで道一本でいけるから、川沿いまでついていってそこから独りで帰ってもらおう」
「私も行く」
「百合は明日学校でしょ。駄目よ、早く寝ないと。授業中眠くなるよ」
「明日は避難訓練やって道徳の授業やって終わりだし大丈夫」
「午前中で終わりなの? だったら、うーん、まあいいか。お父さんと一緒に行ってきなさい」

 夜中の十二時に、父親と女の子とアブソルは、川沿いを歩いていた。
「じゃあこの辺までで良いか。じゃあな、気をつけて帰れよ」
 村から抜ける所で二人と一匹は別れることにした。
 少女は最後もまたアブソルの目をじっと見つめていた。そして一言こう言ったのだ。
「また会おうね」
 アブソルはしっかりと頷いてやった。
 去っていく二人の後ろ姿を見ながら、アブソルは、
(人間にも良い人がいるんだなあ)
 そんなことをうっかり考えてしまっていた。
 独りになったアブソルは誰もいない川沿いを静かにかけていく。この村の下流には立派なダムが存在しており、水が滝のごとく落ちる音が彼の足音をかき消してくれた。
 突然、彼の角が激しく傷んだ。
 思わず蹲る。何かに角を貫かれるような痛みだった。痛みは直ぐに収まったが違和感はいつまでも残っていた。  
 この種類の痛みは少し前にも受けた覚えがあった。
「この村が……」
 九月。季節は秋。ホウエン地方の片隅の、長閑な村。この村で近い将来何かが起こる。
 このアブソルの名は『リュート』と言った。リュートはこの村に降り注ぐとある『災い』を予言していた。
 ダムは貯水地に溜まった水を一定間隔で規則正しく落下させている。くすんだ緑色が水の表面を覆っていた。




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タイトル:制約のない
作:逆行・まーむる

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1 month ago.

 アブソルというポケモンは「天災の元凶」と言われ、人々から恨まれ憎まれ、拷問や虐殺なども定期的にされていた。だが真実は正反対で、アブソルには天災を起こす力はなく、変わりに災いをキャッチする能力が備わっていて、下心のない善意で人々に災いを知らせているだけである。
 その事は科学が跋扈し、迷信が駆逐された今となっては社会的常識になっており、中学入試で問題として出されることもある。また、仮に一国の司令塔たる面々が「アブソルのせいで地震が起きた」などと発言しようものなら、不祥事の範疇を遥かに越えた悪言となるだろう。
 だがその科学が浸透しきっていないこの時代では、アブソルの真実について知る者はほとんどいなかった。誰かの虚言が伝承となった方を人々は信じていた。
 たまに正しい事実を訴える者も居たが、直ぐに集中批判を浴びて沈下させられた。人々にとってアブソルの真実は不都合なものであり、受け入れたくないものだから浸透しなかった。出来ることなら災害は全てアブソルが引き起こしたということにしたかったのだ。
 人は理不尽には理由を求める。何かしらの悲劇が発生した場合、どこかに必ず原因がありそれを解決すれば、二度と同じ悲劇は起こらなくなると信じたくなる。
 最も原因として抜擢しやすい存在、それこそがアブソルというポケモンだった。
 アブソルが予知できる災いは多岐に渡る。
 地震や台風と言った自然の力であるものや、火事や工事事故などの人為的な理由によるもの。ただし怪我人が数人出るに留まるような災害はキャッチしない。例えば、地震であれば人死が起きない程度の規模のものはアブソルでも予知できない。
 災いが起こる約一ヶ月前から、アブソルの角は激しく痛むようになる。災いをキャッチするアブソルは、群れの中で一匹か二匹のみであることが多い。
 当日になるとアブソルはどの場所でどの災害が、いつ起こるのかをはっきりとキャッチする。災害が起こったときの情景が脳内を駆け巡るらしい。
 アブソルは直ぐ様その場所まで、一心不乱に駆け出す。辿り着いたらなるべく目立つ所で災いが来るまで吼え続ける。見る人から見たら、狂ったように。
 人々はそんなアブソルを見かけたら直ぐに避難を開始する。アブソルは時間に余裕を持って知らせに来るので、人々が逃げ遅れるということは少ないが、老人や怪我人は助からないことも多い。また誰も死ななかったとしても、作物や住宅への損害は防ぐことが出来ない。
 そして災いを知らせる役目を全うしたアブソルは、その災いに巻き込まれて死ぬことが多かった。
 だが、悲劇はそこで終わらない。
 憎しみの感情を抱いた人間は、アブソルの住処へ向かう。あの獣は私達の住処を荒らしたのだから、私達も彼らの住処を荒らしても良いだろう。そんな論理によって行いを正当化しつつ、彼らはアブソルを殺害する。もう二度と災いが起こりませんようにと祈りながら生き物を殺生する。
 しかし流石に全滅させるようなことはしなかった。まだ子供のアブソルには災いを齎す力はないと信じ、殺さずに但し拷問はした。そんな事で、今日まで多くのアブソルが犠牲になってきた。
 迷信を妄信的に信じる、そして実行力のある人間達の手によって、その時代では一般的なトレーナーでも、アブソルを捕まえてくるだけで報酬が貰える制度が導入されていた。殺さなくても捕まえるだけで良いというのが、自らの手を汚したくない人達にとって都合が良かった。
 しかしアブソル達の行動にはある疑問も浮かんでくる。
 ――災いが起きても知らせに行ったりせず、無視をしていれば良いのではないか。
 無視をすることが道徳的に良いか悪いかは関係ない。生死をかけた状況において道徳は意味をなさない。
 災いを知らせに行かなければ人間に勘違いされることはない。至極簡単なことのように思える。
 だが、実はアブソルは、行きたくなくても行ってしまうのだ。
 本人がどんなに拒んだとしても、アブソルという種族には『本能』がある。災いを知らせる者として先祖代々受け継がれた性質によって、本人の意識とは別物の、動物としての反射で動いてしまうのだ。
 だからアブソルは自らの死をこれまで避けることが出来ないでいた。
 アブソル達は、本当は人間の犠牲になんか絶対になりたくなかった。誰もが人間を憎んでいたし、自分達の愚かな本能もまた憎しみの対象だった。

 本日人間に殺されるかと思いきや別の人間達に助けられるという不思議な体験をしたリュートもまた、災いをキャッチしたアブソルのうちの一匹だった。
 リュートの母親と父親は、まだ幼い頃に殺されてしまった。
 リュートがまだ幼い頃。群れのアブソルの一匹が災いをキャッチした後に山狩りに来た人間達の手によって。
 その時はまだ、リュートは自分達アブソルが何故そこまで迫害されるのか知らない幼子だった。逃げるのよと優しく、しかし切羽詰まった声でリュートに話し掛ける母親。お父さんはどこに行くの? と逃げる母親とは正反対の方向に走っていく父親の姿を見て無垢に聞くリュート。
 母親が答える前に聞こえたのは、その父親の悲鳴だった。断末魔だった。
 逃げるのよ! と母親は再度強く言った。お父さんは! とリュートは叫んだ。母親は、一瞬の躊躇いを見せながらも、言った。人間によって殺されたのよ!
 リュートは訳も分からず走った。
 必死に、母親の背だけを追って走った。その間、どこをどうやって走ったのか、どれだけ走ったのか、隣に誰が居たのか、何を聞いたのか、どんな感情だったのか、リュートの記憶にはない。
 あるのは、空を駆ける鋼の肉体を持つ鳥が、自分と母親を見つけた所からだった。
 その硬質な翼が唐突に母親を空から切り裂いた。
 母親は悲鳴を上げた。その四肢の至る所に鈍色の翼が突き刺さり、リュートが身を寄せて温かみを感じていたその毛皮が赤に染まった。母親は崩れ落ち、そしてリュートに叫んだ。逃げなさい!
 リュートは走り続けて疲れ果てていた。けれども、言った。嫌だ!
 リュートは、それを思い返してしまう度に逃げれば良かったと心底後悔した。様々な長物を持った人間がそう時間の経たない内にやってきて、リュートと母親を強引に、そして無慈悲に引き離した。
 残虐な嗤いを浮かべた人間達の顔。リュートは幾ら叫ぼうとも、母親が幾ら叫ぼうとも、それはその人間の嗜虐をそそらせるだけだった。
 まず、土を耕す目的で作られたそれが、母親の体に勢い良く突き立てられた。耳をつんざく悲鳴が全身を襲った。それをうるさく思った人間の手によって鈍器が頭に叩きつけられた。そのアブソルの特徴である角に当たった。二度、三度、しかしそれは中々に折れず、人間は渋々というように、角度を変えてまた頭を叩いた。今度は頭に当たった。母親の悲鳴は息絶え絶えだった。
 内臓が抉られる頃には、母親はもう、静かになっていた。どこも見ていない虚ろな目をしていたのをリュートは今でも克明に覚えている。その顔が潰される瞬間も。そして明らかに死んだ後も、人々は幾許かの間、母親を半ば狂ったかのように憎しみを込めて叩き、潰し、引き裂いていた。肉体的な反応が様々な長物が叩きつけられる度に起こっていた。
 そして、母親がもう、生前の姿を全く留めなくなった頃に、その幾多の嗤いを浮かべた沢山の顔は、沢山の目はリュートに向いた。
 母親の血で濡れたその長物が、殺さないよう弱めに、しかし確実に痛みを、苦しみを与えるようにリュートの体を、幾度となく襲った。リュートの体は、母親の血で塗れ、その口には、特に血走った人間の手によってその母親の臓物を押し込まれていた。
 気を失ったリュートは、そして最後に母親の臓腑の上に放置された。
 気付いて、口に入っているものが、自分の身の下に敷かれているものが母親だったものだと気付いて、リュートは狂った。

 リュートは、とても両親を愛していた。健全に育ち、深く両親に愛されていた。だからこそ、母親が逃げろと言えども逃げなかった。そして誰よりも凄惨な拷問を受けた。
 リュートの人々に対する憎しみは誰よりも深かった。
 そんなリュートが災いをキャッチしたときは酷く苦しみ、悔しい感情で一杯になった。自分も人間達に恩恵を与え、その後死ぬことになってしまうのだろうか。そんな事は絶対に嫌だった。
 どんなアブソルでも災いをキャッチした場合、圧倒的な恐怖と戦いながら残り一ヶ月を送らないといけなくなる。もうすぐに死んでしまいたいと何度となく思う。どこかへと消えてしまった者もいる。発狂した者がいる。とにかくひどい有様を周囲に見せつける羽目になるのだ。
 リュートも例に漏れなかった。悔しくて悲しくて、夜中に思い切り泣いた。人間になんの報復もできないまま両親と同じように死んでいくなんて。
 アブソルの平均寿命は百才とポケモンの中でも上位に位置する長さである。
 だがただでさえ厳しい自然環境、更には殺害されてしまうこともあって、百才まで無事に生きることができるアブソルは殆ど居ない。
 自分が寿命で生を終えられるなんてリュートは全く期待していなかった。ある程度は殺されることを覚悟していたつもりだった。しかし、どうやらつもりだけだったようだ。
 死の宣告を実際に受けて見ると、こうも悲しく悔しく、発狂したい気持ちを必死に抑えないといけなくなる。

2 week ago.

 災いが訪れるまで後、二週間。リュートが人間に襲われ、そして助けられた日の一週間前。リュートは現実逃避をするべく、山を何の意味もなく虚ろな目で歩き回っていた。適当に歩き回っているだけのアブソルを見て他のポケモン達は訝しがっていた。
 そんな時の事だった。
 リュートは気付けば森の奥へと来てしまっていた。殆ど来た事の無い場所。引き返す頃にはもう夜になってしまう。貴重な残り僅かな一日を無駄にしてしまったと思いつつも、足は森の更に奥へ奥へと自ずと引っ張られていった。とにかく新しい風景を見続けて現実から目を逸し続けたいと思っていた。
 血のように真っ赤な夕焼けが山の斜面を照らす頃、リュートは小さな洞窟を見つけた。彼はその、現実から目を背けたいという思いからか、その洞窟の中にするりと入っていった。洞窟の中にはズバットやゴルバットと言った定番のポケモンすらもいなかった。この洞窟が異端な場所であると彼はすぐに気が付いた。
 しかし、洞窟は意外にもそこまで深くはなかった。すぐに行き止まりに直面した。何も面白いものがないように思われたが、その行き止まりの場所には見覚えがありすぎるものがあった。
 不自然な程に綺麗な長方形の形をしている岩があった。その中央には窪みがあり、そこにアブソルの角が置かれていた。それが古いものだとは一目でわかったが、鋭さと三日月のようなその形は変わらず保たれていた。
 周囲には花が添えられていた。また、少し距離を置いた場所には何故か一本の縄がバラバラに引き裂かれて置かれていた。
 刃のような形をした青い角。災いをキャッチするときに激しく痛む角。この角があるからいけないんだと思い、木にぶつけ続けたこともある角。
 なぜそれが、こんな場所にあるのだろう。
 何度木にぶつけても角が折れる事なんて無かった。母親の角も、人間に幾ら長物を叩きつけられようが折れる事は無かった。早々簡単に折れるものではない。
「あれアブソルじゃん。そんな所で何してるの?」
 自分のことを種族名で呼ぶ謎の声にリュートは咄嗟に振り向いた。そこにはナゾノクサがいた。
「あ、ごめん。つい気になってこの洞窟に入ってきてしまった」
「いや謝らなくていいよ。ここ、僕の家とかじゃないし。ここは誰でも自由に出入りオーケーだよ」
 取り敢えず、自分に危害を加えてくるようなポケモンではないようだ。この辺りで暮らしているポケモンだろうか。この角のことを何か知っているのかもしれない。
「あのちょっと聞きたいんだけど、この角ってなんでここにあるの? 大事そうな場所に置かれているけど」
 ナゾノクサはリュートを訝しい目で見つめていた。
「自分はこの辺りのこと、何も知らないんだ。教えてほしい」
「う、うん。いいけど。君の方が詳しいはずなんだけどなあ」 
 そう前置きしてナゾノクサはこの角の説明を始めた。この角は一体誰のもので、何故こんな場所にあるのか。祀られるというと少し大げさだが、何故こんな丁寧に整えられた上で置かれているのか。

 今もなおアブソルに対する人間の醜い仕打ちは続いているが昔は更に酷かった。今よりも災害に対する対策措置がなくて被害が大きくなるため、食い止めるべくアブソルを徹底的に虐殺した。
 しかし当然災害は一向に減らない。そこで人間は最終手段を計画した。その計画は、山全体を焼き払いこの辺りのアブソルを全滅させるというものだった。その時代でも既にポケモンを捕らえる技術が広まっていたので、ポケモンの力を借りて山を焼く事はそこまで難しくなかった。
 山を焼いた場合アブソルだけでなく他のポケモンも犠牲になることになる。計画を知った全てのポケモン達の群れが絶望に染まっていた。抵抗しようにも、人間の方が勢力は遥かに大きかった。
 そんな時、『災害』がやってきた。
 火山の噴火が起こったのだ。火口で爆発的な噴火が発生し、火砕流が一瞬にして村を飲み込んだ。勿論、大勢の人間が亡くなった。人々はもはや山を焼いている場合では無くなった。焼こうとしていた山とは勿論別の山であるが、まるで大規模な自然破壊を咎められたかのようだった。
 その後人間達はもう二度と、山を丸ごと焼くような無差別的は殺害行為は行わないと誓った。
 この災害であるが、他の災害とは一つ、違う点があった。この災害では予知したアブソルが人間達に向けて伝達をしなかったのだ。こんな事は初めてだった。
 アブソルが山から降りて来なかった為、人々は災害が来ることを知り得なかった。だから逃げ遅れ、死者が遥かに膨れ上がったのだ。
 災害を予知したのに知らせに行かなかったアブソルは『英雄』として讃えられた。唯一アブソルとしての本能に打ち勝った存在だった。
 今も尚、この山の英雄として称えられているアブソルの角はこの洞窟に置かれている。時折、森に住むポケモンがやってきて平和を祈る。人間達が再び暴走しませんようにと。角はとてもじゃないが祀られている格好には見えないが、ポケモン達なりに色々工夫がされていた。隣に置かれている縄は、アブソルが人間を捕らえるときに使っていた縄で、それを引き裂くことにより、運命の束縛から逃れた英雄の姿を表している。

 以上がナゾノクサの説明だった。
 リュートは食い入るようにこの話を聞いていた。気付けばナゾノクサに顔を至近距離まで近付けていて、ナゾノクサはそんなリュートに少し後退っていた。
 こんな事があったなんて知らなかった。
「本当かどうかは分からないよ。あくまでこんなことがあったかもねーってだけで。そもそもどの山が噴火したのかとかも今となっては不明だし」
 それでもリュートは、かつて生きていたアブソルが「本能に打ち勝った」という所に釘付けになっていた。そんな事が出来るなんて思ってもみなかった。
(あるいは、もしかしたら自分も)
「っていうか、なんでアブソルである君がこの話初耳で、僕みたいな雑草がこんな良く知ってるの? 親とかから教えてもらったこととかないの」
 リュートは、苦々し過ぎる思い出を抑えながら、少し間を置いて答えた。
「自分の親は僕が生まれて直ぐに別れた。だから教えてくれる人なんていなかったんだ」
「両親じゃなくてもさあ、こういう伝承を教えてくれる物知りのおじいちゃんとかってどの種族でも一匹はいるじゃん」
「どうだったかな。いなかったと思う」
「……噂には聞いていたけど、アブソルって本当に連帯感がないんだね。後世に伝えていくという発想もないのかい?」
「一匹狼だから、アブソルは」
「ふーん。みんな仲悪いんだ」
「仲は悪くないよ。仲間が死んだらみんな悲しむ。でもみんなで協力して何かを成し遂げはしない。それぞれが独立して暮らしているんだ」
「すれ違うときとかに挨拶ってする?」
「しない」
「それは仲が悪いんだよ」
「違うと思う。個人個人が自分と自分の家族のことだけ責任を持って、好きなように生きてるだけ」
「ああ、でも自由なのは羨ましいね」

 リュートはナゾノクサと少し話した後、そろそろ帰ることにした。もう夕焼けもとっくに過ぎていた。貴重な一日が終わってしまったが、彼は悲願していなかった。
「今日会ったばかりの自分なんかに色々教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。部外者の僕が言うのもアレだけど、残り少ない余生、思いっきり楽しんでね」
「僕は死なないよ」
「え?」
「僕は死なない」
 リュートはまるで自分に言い聞かせているかのように言った。その目には明らかに決意の炎が揺らめいていた。

 伝承。
 言葉を話せる生き物が会話や書物を通じて他者から他者へと話を伝えていくこと。往々にして伝えられる話は自分達に都合の良いものが多い。皆信じたい者を信じるから、都合の悪い話は広まっていくことはない。
 アブソルが災いを運んでくるという伝承は真っ平な嘘。では、アブソルが本能に打ち勝ちみんなを救ったという伝承は? こちらだって嘘かもしれない。
 それでもああいう風に具体的なエピソードが残され、角という遺品が残されているのを見ると、どうしても信用したくなってしまう。
 その伝承が微かでも希望を抱かせるものであるとすれば尚更である。
 リュートは考えていた。かつて本能に打ち勝ったアブソルがいるのなら、自分だって同じようにできる可能性があるのではないかと。
 それは傲慢な発想かもしれない。アブソルのみならずポケモン達を救った英雄と自分は並べると思っているのだ。
 だがリュートは「自分は選ばれた存在だ」という自信があった。
 自分はこれまで特に凄い事を成した事はない。見かけも同年齢のアブソルと変わりない。角が他のアブソルよりも大きいとか、角にいかがわしい模様が付いているとかなら「選ばれし者」という印象を抱かせるが、そんな特徴も持っていない。
 けれども彼には唯一の自負があった。
 それが、人間に対する恨みの感情の強さだった。
 あのアブソルがなぜ本能に打ち勝てたのかは分からない。しかし恐らく人間を恨んでいたからなのではないかと思う。恨みの感情が本能を掻き消したのだ。
(僕も同じように恨みの感情を武器にして戦えるはずだ!)
 災害を知らせに行かなければ、人間達に報いることができる。それだけでなく災いがアブソルのせいだという言い伝えに少しは疑問を持ってくれるかもしれない。そうなればアブソルは殺されなくなる。
 この日の夜中、リュートは自信に満ちあふれていた。自分こそが仲間を救う英雄だとうぬぼれた。仲間に称賛されている自分の姿を想像して一瞬だけニヤけた。
 だが朝目が覚めるとその自信は火に水を掛けられたようにくすぶっていた。うぬぼれていた夜中の自分を恥じた。何が英雄だ。下らない妄想に縋るな。
 その日の昼過ぎになるとまた自信が溢れてきた。そんなことを繰り返していた。彼の気持ちは両極端で揺れていた。

1 week ago.

 そんな揺れの中で、また一週間が経過した。
 この日リュートはとても不思議な体験をした。恨むべき存在だった人間に命を助けられた。あの家族は、一体何だったのだろう。
 助けられたと言えども、彼にとっては、悪夢のような出来事だった。
 今までは全人類を恨んでいたのに「人間にも良い人も悪い人もいる」という柔軟な考えを急に持つようになってしまった。
 こうなると「災いを知らせに行かないように自分を制する」という選択の善悪が、非常に難解なことになってしまった。
 あの家族のように良い人間もいるのに見捨ててしまって良いのだろうか。命を救われたのに恩を仇で返すようなことをしても良いのだろうか。
 かと言ってあの家族を救うために、自分の命と仲間達の命を犠牲にするのもおかしい話だ。
「リュート、お前はもう既に本能に侵食されている」
 相談してきたリュートにそう返したのはアブサだった。アブサは両親を喪い、狂ってしまったリュートが正気を取り戻せるまで、そして自立出来るようになるまで深く面倒を見てくれたアブソルだった。
 アブソルという種族は基本的に個人主義であり、自分は自分、他人は他人という行き方を皆がしている。だから身寄りのなくなった仲間をどうにかしてあげようという気持ちが起こらない者が多かった。そんな中、アブサのみが名乗りを上げた。積極性に動こうとしない周囲に悪態をつきながら、リュートの面倒を見る責任を引き受けたのだ。
 アブサは、この近辺に住むアブソルの中で種族の連帯を意識する唯一のアブソルと言っても良かった。
 アブサは前脚を巧みに使い、切り裂いた袋から乾パンを取り出して食べていた。
「それどこで手に入れたんですか」
「そんなもん決まっているだろう。キノコ狩りにきた連中から掻っ払ってきたんだよ」
「また盗んだんですか。よくやりますねえ」
 通常、アブソルという種族は人間を自分から襲ったりはしない。だがアブサだけは人間に対して積極的に爪を立て、食べ物を盗んだりしていた。襲った人間は証拠隠滅の為に地面に埋めていた。
「俺からしてみれば人間を襲ったりしない時点でもう本能に洗脳されてるんだよ」
「でも、キノコ狩りに来た人間はアブソルを殺したりはしないでしょう。何の罪もない相手ですよ」
「構わねえ。同じ人間だ。連帯責任。自業自得」
「…………」
「誰かの失態や誤ちに対しては種族みんなで責任を負っていくべきなんだ。アブソルだろうと人間だろうと同じことだ。大体、人間だって災いを運んだアブソル以外だろうとバンバン殺してんだろ」
「ま、まあ確かにそうですけど」
「それにだ。お前だって見て来たんだろ。例の家族の、災害に対する意識の低さを」
 全く貯めていない非常食。ちょっと大きい地震でも来たらすぐに壊れてしまいそうな家。壁に固定されていない家具。リュートは確かにあの家族の意識の低さ、だらしなさを見てきた。
でもだからこそ助けないと駄目だと思うのだけど。それに、災害対策ができないのは貧しさゆえなのかもしれない。生活に余裕のない状況では「もし」のことなんてとても考えられない。
「そういう奴らはすっかり安心しちゃってんだよ。俺らが知らせに行くから逃げ遅れる心配はないなって。でもそれって良くないことだよな。俺達に依存しちまっている。だからさ、一度ここらで痛い目に合わせてしまった方が良いんだよ」
「でもアブソルを殺そうとしている人間なんてほんの一部なんですよ。他の人達は善良かもしれないんです」
「いやだから、逆なんだよ。俺達を殺そうとしてない奴らこそ、見捨ててやるべきなんだ。積極的に自分から動こうともせず、適当にのほほんと生活している奴らにこそ、災害の怖さを教えてやるべきだ」
「…………」
「そうそう、向こうの崖から丁度村の学校が見えんじゃん」
「はい」
「あそこの学校で避難訓練やってたのを見たんだけどさ、酷かったぞ」
「児童達が半笑いで逃げてたんでしょ」
「そんなんじゃねぇ。もう根本から異常だあれは。先生がさ、アブソルの絵が描かれたお面被ってんだよ」
「え?」
「そしてその先生が校舎に向かって『地震が来たぞー!』ってメガホン使って叫ぶんだ。そしたら生徒達は校庭に防災頭巾被って避難するっていう流れ」
「僕達がいること前提になってるじゃないですか」
「そうなんだよ! おかしいだろ。学校ですらそんなことになってんだ。だからさあ、一回ここらで一発かましてやればいいんだよ」
 段々、アブサの考えにも一理あるとリュートは思えてきた。
 人間はアブソルの本質を見ようとしない。だったら自分だって人間の本質から目を背けても良いんじゃないか。連帯責任だった開き直っても良いんじゃないか。災害を恐れない人間のためにも、一度被害を被って貰うのもありなんじゃないか。
「まあそもそも出来るかどうか分からないんですけどね」
「いやできるさ、お前ならきっと。憎しみの力は誰よりも強いのは俺だって認めてる」
(人間に対して容赦のないアブサさんの方が適任かもしれないけどね……)
 そんな言葉をリュートは飲み込んだ。アブサの力強い言葉によって元気づけられたのは確かだった。
「分かりました。当日は頑張って、本能に打ち勝ってみせます!」
「やってみろ! 俺は信じて待ってるからな!」

the day.

 そしてついに、『災害』の日が訪れる。
 リュートはこの日、何もしなかった。いや、何一つとしてやる余裕なんてなかった。食事は全く喉を通らなかった。ただただ住居でじっと目を瞑っていた。
 自分を、アブソルを象徴する、頭から生えるこの曲刀のような角が災害をキャッチしたら、何がどうあろうとも村へと降りていってしまう。
 それを喰い止めようと、恐らくアブサが立ち塞がってくる。アブサにはくれぐれも何もしないで下さいと念を押しておいたが、それでもやって来るだろう。
 本能に支配されたアブソルは、周りの仲間、そして肉親をも薙ぎ倒してでも先へ進もうとする。どこかへと消えたアブソルも虚ろな目をして戻って来て、その日の前に発狂したアブソルも憑りつかれたように動き出して、例外なく本能に支配されて先へ進んだ。アブサが立ち塞がった場合、本能の赴くままに殺してしまうことになってしまう。それだけは絶対に避けないといけない。アブサに言わなければ良かったと彼は後悔した。そのアブサに相談したおかげでリュートは本日戦えるようになった訳だが。
 ふいに雨が降ってきた。ただしそれは、さらさらと優しい音を響かせるだけの小雨だった。だがリュートには分かっていた。この小雨は引き金なのだという事を。
 リュートはもうそろそろ『スタート』の合図がくると確信していた。
 そして、やはりその通りになった。

 ……。
 雨音が、次第に激しくなっていく。
 …………。
 雨の一粒一粒がおおきくなっていた。住居の木の洞でじっと目を閉じていたリュートの足を、腹を、流れる水が濡らしていった。
 ………………。

 あ…………だめ……。

 ……うん…………。

 …………そう……だ……。

 …………あ……れ……。

 ……あれ……うん。
 ……いや、あれ……なんで僕はまだ…………ここにいるのだろう……。
 …………そうだ、早くしないと駄目じゃないか。間に合わなくなるぞ。もうすぐ村中が洪水になってしまう。
 人間達はこの豪雨を軽視しているはずだ。それじゃ駄目だ! 大変なことになるんだ。一刻も早くそのことを伝えにいかないとみんな死んでしまう!
 みんなを救える『英雄』になれるのは僕しかいないんだ!
 ついこの前だって、僕の命を助けてくれた家族達がいたんだ。あの人達もちゃんと助けないと、このままじゃあ恩を返せないことになってしまう。
 とにかく急がないと。ぬかるみで転んだ。駄目だ駄目だ、こんな事に足を取られてちゃ。しっかり走らないと。岩の足場が見えた。迂回している暇は無い。慎重に、でも早く、なんとか転ばないように。
 越えた、よし。
 まだまだ先は長いぞ。
 走らなきゃ、僕しかいないんだから! 木の根を飛び越えて、草を掻き分けて!
 ん、誰かいる。
「――ト、お前は――――になるんじゃ―――」 
 何か喚いている。
 でも脚を止めている暇はない。
「――ッ!! ――を殺され―――出せッ!!」
 何か変なことを喚いているが、何を言っているのかさっぱり理解できない。ただ、それは僕の前に立ちはだかった。どうしてだろう。僕はこれから『英雄』になりに行くというのに。遊んでいる暇なんかないのに。
 仕方がない。殺してしまおう。みんなを救わないといけないときに邪魔をするなんてとんでもない悪だから、殺しても構わない。いや、殺すべきだ。
 かまいたち。
「ッ!! リュート! 目を覚ませ!」
 かまいたち。
「あぐっ!! う、駄目だ、リュート、リュート!」
 辻斬り。
「ぎゃあ!! ちくしょう、駄目だ、リュート、駄目だ、お前は、お前は、」
 でもそれはどかなかった。何でか攻撃してこないけれど、でもどいてくれない。
「いぐっ! リューヴドおおおああああっ! 目を覚ませえええええええええええええ」
 かまいたち。
「おべぇっ! だめ゛だっ!! お゛まえ゛ばっ!」
 かみつく。
「い゛い゛い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!! リ゛ュ゛ゥ゛ドオ゛オ゛オ゛オ゛ッ」
 辻斬り。
「ぎぃっ!! ……だ、め、だあ゛あ゛っ!」
 かまいたち。
「ヴぅ!! …………う゛……リュー、」
 かまいたち。
「ぎゃっ! ……………………。
 ……………………」
 やっとそいつは動かなくなった。僕は屍を飛び越えて先へと進んでいく。
 村が見えてきた。なんとか間に合いそうだ。どうにか僕は、みんなを救えそうだ。
 あれ?
 みんなを救う?
 みんなって誰のこと? いや分かる人間のこと。当たり前じゃない、か?
 あれ、いや、ちょっと待って。僕が本当に救わないといけないのって……人間? 本当に人間?
 僕は、誰にとっての英雄になろうとしていた?
「リュート、お前は英雄になるんじゃなかったのか!」
 誰かの声が耳に響いた。誰だったっけ、いや、でも、そうだ。僕はアブソル達の英雄になろうとしていたんだ。
 なんで英雄になろうとしていたんだっけ。そうだ人間が憎かったからだ。僕は母親と父親を殺されて、そして仲間も何匹も殺されて、そして。
「リュートッ!! 母親を殺された恨みを思い出せッ!!」
 ああ、ああ! そうだ、人間が憎くて憎くて、たまらなくて、他のみんなも同じ気持ちで、そんな現状に耐えきれなくなったんだ! だから、僕は、革命を起こそうとしていたんだ。
 ……。うん?
 あ、あ、あ、あ、あああああああああ!! あああああああああああ!! ああああああああああああああああああああああああああ!!!!
僕はさっきなんてことをやってしまったんだ!! アブサは僕を止めようと命懸けで必死にやってくれたのに! そんなアブサを僕は邪魔者扱いして惨たらしく攻撃してしまった! 何度も何度も! 最低だ僕は、なんて最低なんだ!

 リュートは気付けば足を止めていた。
 雨は横殴りに全てを叩きつけていた。しとしと、さらさら等という形容がまるで当てはまらない激しい滝のような雨が降り注ぐ。植物達にとっては恵みであるはずの水に、今や哀れな程厳しく痛めつけられている。外に出ていた天気の読めないポケモン達は急ぎ足でそれぞれの住居へと帰っていく。
 夕立、と呼ぶには激し過ぎる雨。今ではゲリラ豪雨と呼ばれるもので、大気の不安定により突発的に降る。予測することが大変難しい雨だ。
 リュートは息を切らしながらその場に倒れた。頭の中がまだ気持ち悪い。頭の中に虫が潜んでいてあちこち動き回っている感覚がしていた。
 危なかった。後もう少しで、本能に完璧に支配されてしまう所だった。
 リュートはまだ呼吸が落ち着いていなかったが、立ち上がってすぐにアブサの所へと足を翻した。彼は生きているだろうか。僕が殺してしまっていたらなんて謝れば良いのだろう。
 足は、次第に早くなり、そして不安の大きさを表すようにまた全力で走った。

 近付くに連れて濃い血の臭いがこの豪雨の中でも鼻に届いて、足元を流れる水に赤が混じっていた。
 しかしながら、幸いにしてアブサは生きていた。
 だが、もう手遅れかもしれなかった。目を逸らしたくなるほどに外傷は酷く、こひゅー、こひゅー、と掠れた音を出しながら、痛みに耐えるようにじっと体を動かさなかった。
「ごめん、僕のせいで、こんな目に」
「気に……するな。それ、より……良かったじゃ……ないか。おめ……でとう、お前は……勝ったん、だ」
「でも、アブサさんが」
「俺は……死な、ない、ぞ」
「いや……この状態じゃ……もう」
「リュート……俺の……背の方向、だ。木の傍……」
 喋れる事自体が奇跡のようなアブサの訴える声に、リュートは泣きながら示された場所を見た。そこには少し前にも見たことのある草があった。
「これって……」
「口に……はや、く」
 リュートはすぐさま、アブサにふっかつそうを食べさせた。みるみるうちにアブサの傷が治っていく。さっきまで本当に死ぬ寸前の状態だったのにもう起き上がれるようになった。
 それから、リュートはアブサに丁重に謝罪を繰り返した。
 アブサは、殺されかけたというのに、朗らかにリュートを許した。

 ひとまず落ち着いてから、リュートは次第に喜びが湧き上がってくるのを感じた。
 アブサを傷つけてしまったことはまだ胸が痛むが、これでもう完全に目的は達成された。自分は本能に打ち勝った。災害を知らせなかった。とうとうやった。
 これで、人間達に報復できた。
 だが。
 リュートはチラチラと村の方角を見ていた。
「あ、いや」
 気にならないと言い切ることは出来なかった。
「まだか。本能による支配は完全には抜けてないようだな」
「はい……」
「気になるなら、見てくるだけ見てくればいいんじゃないか」
「え? でもそんなことしたら、つい向かっちゃうかもしれないし」
「大丈夫だ。今更伝えに行った所で無駄なんだから、無意識のうちに向かってしまうなんてことはないだろう」

 豪雨は未だに止む気配が無かった。
 アブサと一旦別れ。リュートはゆっくりと山を降りていった。そして、村全体を一望できる崖に立った。
 下を向いていたリュートは恐る恐る顔を上げてみた。
「あ……」
 村の惨劇が、そこにはあった。

 この村にあるダムは川の下流よりの方に建設されていた。上流で広範囲に降り注いだ豪雨は一斉にダムの貯水池へ押し寄せた。
 更には、おびただしい流木までもが貯水池へ流れてきてしまった。森林環境の劣化が原因だった。
 その結果、最悪の結末を向かえた。
 流木はダム中央部のゲートに引っ掛かった。こうしてダムは放流機能を喪失し、水が貯水池から更に下流へ流せなくなった。
 貯水池に水が溜まっていくばかりで、吐き出すことを知らなくなったダムはいよいよ容量が足りなくなった。洪水はダムの上を越えて流れていく。
 そしてついに水圧に耐えきれなくなったダムは決壊した。ダム湖の水は濁流となって水しぶきを上げながら一気に村へと押し寄せた。
 家々が次々と水の勢いに敗北して崩れていく。日陰にひっそりと建つボロ家であろうが、広々とした庭を構えた代々受け継がれた立派な家だろうが、水勢には敵わずただの瓦礫となった。
 山に避難しようと必死に逃げる人々も、濁流の勢いに追いつかれ、飲み込まれてしまった。頑丈な建物の屋根の上に避難した人もいたが、嵩を増し続ける水流に飲み込まれて消えていった。
やがて村は完全に水に支配された。これまで水の恵みを受け続けてきたこの村は、かつてない大規模な水害に見舞われた。

 今も絶えず流れ続ける濁流を見ながらリュートは唖然としていた。
(なんてことを自分はしてしまったんだ!)
 リュートは激しく自分を責めた。英雄になれるだとか革命を起こすだとか悦に浸ってばかりでいた自分を恥じた。特にあのとき夜中に一瞬でもニヤけていた自分の姿が酷く滑稽で、馬鹿野郎で、自分が悪であると証明する決定的なものだと思った。
 最善の選択はアブソルも人間も救う方法を考えることだった。今更それに気付いた。片方しか救えないものだと考えて行動した自分は間違いなく問題だった。どっちも救う方法なんてない? いや捻り出せよ頑張って。
 こんなことしたって仕方がなかった。復讐は何も生まない。心優しいあの父親と少女もこの濁流に飲み込まれてしまったのだ。あのボロ家も勿論、もう何も見えなくなっていた。体をざくざくと抉るような罪悪感だけがいつまでも胸に叩きつけられるだけで、一滴の達成感すらない。
 そもそも自分が復讐したかったのはごくごく一部の人間のみだった。だってそもそも大半の庶民はアブソルを殺そうなんて考えていない。自分を痛めつけた、母親を惨殺した、気狂いだけだった。自分を見て目を逸らすような、そして勿論あの心の優しい父娘のような、ただ災害に怯えているだけの弱くて貧しい立場の人間まで巻き込むことはなかった。
 終わった後はもっともっと気持ち良くなれるものだと思っていた。災害が起きた村に対して「ざまあみろ」ってとても嫌味な顔で言ったり出来ると思っていたし、密かにそれを楽しみにしていた。
 リュートは自分を責めて責めて続けた。自分を責めることでしか、詫びる手段はないと思った。しかしどんなに自己嫌悪したって誰も生き返らないから、この行為は単なる自己満足に過ぎないのだ。けれど今となっては、それ以外の方法も見つからなかった。
 リュートは今自分が自己満足行為をやっている、ということを更に責め立てた。けれど、詫びるしか、謝るしか出来なかった。そして責め立て、謝り、責め立て、詫びた。それを延々と繰り返した。
 自分の行いが誰かの人生に多大な影響を与えてしまう、ということがこれほどまでに辛いとは。
 自分に対する嫌悪感と罪悪感で彼は死にたくなった。なんども岩に頭の角を叩きつけた。相変わらず全く折れる気配はしなかった。すると四肢を殴りつけた。すぐに前足から血が出た。その血が少しだけ罪悪感を薄めてくれたように思えたが、気休めでしかなかった。もう自分も、あの濁流の海に飛び込んでしまおうか。リュートはそんな事まで考えてしまっていた。
 だがそんな時、背後からものすごい数の気配を感じた。
 振り向くと大勢のアブソル達がこっちまで来ていた。遠くからだとまるで雪崩でも押し寄せてきたのかと思う程の数だった。アブサもその中には混じっていた。
 アブソル達はみんな崖の縁に立った。リュートは呆然としながらその様子を眺めていた。
「どうだ! 俺達の痛みってもんがこれで分かったか!」
「ふはははは。結局俺たちが知らせに行かなかったら、てめぇら何も出来ねえじゃねーか」
「ざまあみろとした言いようがないな!」
「俺達を散々殺して回ったバチがようやく当たったな!」
「自業自得だ!」
「むしろ良かったな人間! これからは災害対策を怠らないように気をつけろよ!」
 長年の悔しさから開放されたアブソル達は、本当に嬉しそうな表情をしていた。心の底から、何の曇りもない歓喜の表情で村に向かって罵倒を繰り返していた。
 ひとしきり叫んだ後リュートの周りに集まった。
「良くやったな」
「ありがとう」
「君は英雄だ」
「君のおかげで胸がすいたよ。本当に感謝しかない」
 リュートがアブソル達にとっての英雄になった事も、事実だった。
 その、称える言葉も彼の涙を誘うにはあまりにも十分過ぎた。リュートは泣きながらみんなの言葉にうんうんと頷いていた。その様子をアブサは遠くから静かに笑みを浮かべながら見ていた。
 罪悪感で胸が押し潰されそうになっていたのが、ずっと過去の事であるような気がした。すっかり気持ちは晴れてしまった。あの家族のことなんて完全に記憶から忘れ去られてしまっていた。
 リュートは、自分のやったことは何一つ間違っていなかったと確信した。そうだ、これで良かったのだ。これで……。
 ずきん、と頭が痛んだ。

*****

 新聞紙が敷かれているだけで何も入っていな倉庫が置かれて家には、四人の家族が暮らしていた。
 祖母は相変わらず映りの悪いテレビを叩いていた。
「もうこのテレビ駄目ね。新しいの買いましょうか」
「いいよ、買うの面倒くさいし、色々設定すんのも面倒だ」
 晩ごはんの支度をしている母親が呆れて溜息をつく。父親は最近機嫌が悪くて動きたくなくなってしまっていた。隣の家の男にこっぴどく怒られ、一発蹴りまで入れられたのだ。
 一方で百合はベランダから山の方をじっと眺めていた。最後の一本になってしまったオレンジジュースを飲み干して、溜息を付いた。みんなで遊んでいた秘密基地が誰かにめちゃくちゃに荒らされて、気持ちがブルーになっていた。
「あのアブソル、今どうしてるかなあ」
 外へ向かって百合はそう呟いた。この前避難訓練で先生がアブソル役をやっていたから、つい思い出してしまった。
 外では雨が、しとしと降っている。

*****

later.

 他のアブソル達が去った後もリュートは独り静かに村を眺めている。
 足がブルブルと震え出し、顔はニヤけている。突然地面を転がりながらぶつぶつと「やったぞ、やったぞ」と呟き出した。更にはゲラゲラと笑い声を上げ始める。尻尾が遊んでいるときのように揺れている。
 今度は立ち上がって何度もジャンプを始めた。途中着地に失敗して足を捻って転ぶ。体が泥に塗れて、それでもリュートは大声で嗤っていた。足も痛んだままだったが、今はそれすらも楽しかった。
 誰の目も気にせずに感情を体全体で思いっきり吐露した。
 興奮は際限を知らずに昂り続けていた。永遠に膨れ上がる達成感に耐えきれず、笑いながら地面をリズムカルに叩いた。びちゃんびちゃん、どちゃ、びちゃとのたうち回りながら、ぐちゃぐちゃなリズムを全身で演奏した。
「ははははははははは、あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!! いーっひっひっひ!! あははははははは!! はははははははははは、あは、あは、あは、いひ、あは、あは、あはあはははははははふふふふふっうふふふふふふふふっ! あーっはっはっはっはっは!!!! あーーっはっはっは!」
 今の自分の姿があまりにも滑稽なことに気がついて、最後にプっと噴き出した。
 息が苦しくなって、流石に笑い疲れて、リュートはのっそりと立ち上がった。一度痛みで足が滑って、どちゃ、と泥が跳ねた。しかし、リュートの体はもうとっくに泥塗れだった。そしてそんな事は全く気にする事ではなかった。
 立ち上がると、リュートは崖の縁に歩いて「ざまあみろ!」って思い切り叫んだ。その声はやまびことなって耳に跳ね返ってくるものだから、心地よくて仕方がなかった。
「ざまあみろ! ざまあみろ! ざまあみろ!! ははははははははは! あはははははははは!!」
 笑っている最中、突然、リュートの角が、あっけないような、そして悲鳴のような音を立てて根本から折れた。折れた角は崖から落ちていき、やがては濁流の中へと消えていった。
 雨は未だに降り続いている。
 濁流は人の営みをこれでもかと言う程に洗い流し、そしてどこかへと運び続けている。
 その中で一つの笑い声が、ずっと、ずっと響いていた。



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あとがき

こんにちは、逆行です。

このお話は私とまーむるさんの合作となっております。
私が要所要所飛ばしつつ一先ず書き上げ、その後まーむるさんがエピソードの追加及び加筆を行なっていくことで完成させました。

まーむるさんは容赦のないグロテスクな描写や異常な精神状態の描写を得意とする物書きさんですので、そちらはまーむるさんにお任せしました。「この部分はまーむるさんが書いてそう……こっちは逆行が書いてそう……」等と考えながら読んで頂くのも面白いかと思われます。

当初は短めのお話にする予定でしたが、だんだん熱が入ってしまったのと、大規模な水害が実際に発生して安易に書けなくなったこともあり、自分の担当部分だけで1万5千字を超えてしまいました。結果、まーむるさんの担当箇所が少なくなってしまいました。まーむるさんにはこの場を借りてお詫び申し上げます。それでもまーむるさんは少ない文字数でインパクトのある描写を重ねており、流石だなと思いました。

最後になりましたが『制約のない』をお読み頂きありがとうございます。またどこかでお会いしましょう。それでは!