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  [No.4087] 怪奇!?アンノーン人との遭遇 前編 投稿者:造花   投稿日:2018/10/10(Wed) 01:05:31   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


※語り手はガシャガシャと同じ人です。


 珍しいポケモンの捕獲。この手の任務をこなしているとハズれを引く事はよくある。例えば近海にゲンシカイオーガが出現した情報を調査してみれば、正体はゲンシカイオーガの姿を模倣したヨワシの群だったり、かつてカントー地方を脅かした規格外のゴースト「ブラックフォッグ」の再来かと思えば、今尚当時のトラウマを引きずる被害者たちの悪夢を再現して暴走したムシャーナだったり、酷いときは人間の言葉を喋るヤドランを発見しので、接触してみれば精巧なコスプレをしたプロの怪獣マニアだったり、ハズレを引く度に情報班の連中をしばき倒してやりたい衝動に駆られるが、どんな眉唾物でも当たりはあるので念のため調査しなければならない。

 例えば、こんな捕獲指令が舞い込んできた事もある。

『怪奇アンノーン人の脅威!我々の知らないうちにアンノーンと人間はすり変わっていた!?もしかしたら貴方自身も既に・・・?』そんな見出しのオカルト雑誌を上司から手渡され、調べてこいと言われた時は、ポケモンマフィアから足を洗うか真剣に悩んだ。

 本題に入る前に、そもそもアンノーン人とは何なのか解説しよう。あの受け取ったオカルト雑誌の特集記事によると何らかの原因で遺跡を追い出されたアンノーンの群が人間に寄生した状態の事を言うらしい。俺はてっきりビルドアップされた逞しい肉体を黒タイツと単眼の覆面で包み込んだ正体不明のボディアーティスト集団の事かと思ったが違うようだ。
 体長0.5mのアンノーンの群がどうやって人に寄生しているかと言えば、ポケモン特有の縮小能力を活用している。寄生する理由は諸説あるようだが、この雑誌一押しの有力説は人間の優れた想像力を求めているとの事らしい。
 アンノーンは単体では何も起こらないが、二匹以上並ぶと何かの力が芽生える習性がある。群るアンノーンは自分達の習性を理解しているが、力を最大限に発揮する頭・・・・・・理由や目的・意思・自我に欠ける為、人間を依代にするそうだ。そして依代になった人間「アンノーン人」は全能な神の如き力を思うがままに扱えるようになるらしい。
 三文小説みたいなゴシップ記事だと最初は馬鹿にして読んでいたが、情報班が他に寄越した資料の中には、この記事の信憑性を裏付ける事例があった。
 かつて美しい高原の町「グリーンフィールド」が何の前触れなく結晶に覆われた怪現象・通称「結晶塔事件」世間一般ではアンノーンの群が暴走して起きた事件として処理されたが、実際は一人の少女が意図せずアンノーンの群を使役して起きた事件である。当時の映像資料を目にして俺はようやく考えを改めた。
 しかし、こんな大層な力を持つアンノーン人がどこに潜伏しているのやら皆目見当がつかなかったが、今回に限って情報班の連中はすこぶる有能で、資料の中にはアンノーン人とされる人物の写真と地図がしっかり用意されてあった。
 信憑性が高くなるにつれて俺は頭を悩ませた。こんなヤツ等どうやって捕獲できるのやら。当時の俺は幹部候補生で、自由に使える部下なんて組織から支給されるポケモンぐらいしかいない。
 まったく下っ端はつらいよ。しかし上司から直々に任された以上体を張って何らかの成果を残さなければならない。俺は足りない知恵を振り絞って、アンノーン人がいるとされる現地に赴いた。
 そこは何てことのない地方都市の路地裏だった。結晶で覆い尽くされているとか、異次元の迷宮と化していたりなんかしておらず、とりあえずは一安心である。
 ターゲットが潜伏しているのは、黒煉瓦が積み上げられた洋風の建物で、正面には厳かな彫刻が施された両開きの黒い扉が客人を待ちかまえている。
 すぐ真上には、青白い不思議な炎を灯すランプと、紫色の看板が飾られており、控え目な文字で【Witch's store】という店名が記されていた。
 入り口の両脇にはアーチ型の大窓があり、窓際に取り付けられた一枚板の棚には、無数のジャック・オー・ランタンに紛れて、大小様々な南瓜のお化けのようなポケモン・バケッチャが潜んでおり、目が合うなり、南瓜部分の目を橙色に輝かせる。
 ゴシック調の外観は、周囲の建物と比べれば、少しばかり浮いているが、独特の洗練された雰囲気を漂わせていた。
 窓を覗き込もうとすると、突然、青白い炎を灯すシャンデリア・・・いざないポケモン・シャンデラが、窓の向こ側からすり抜けてやってきた。
 普通のポケモンには真似できないゴーストタイプ特有の悪戯だ。シャンデラは不可視の念動力で店の扉を開けながら、黄色い円らな瞳を、横に細めながら弓の形をつくるように微笑んだ。
 何かと思えば、頭に灯る青白い炎を活発に揺らしながら、開けた扉を、ヒョコヒョコ出たり入ったり繰り返しては、こちらの顔色をうかがっている。どうやら、客を呼び込もうとしているようだ。
 随分と人懐っこいポケモンが出迎えてきたが油断大敵だ。俺が緊急脱出用のテレポート係りとして連れてきた「脱出王」のフーディンは、鋭い眼光を緩めることなく警戒心を強めている。
 こいつとは長い付き合いになるが、幾多の場数を踏んでるだけありヤバイ雰囲気をそれとなく察知できるのだ。いよいよアンノーン人の存在が現実味を帯びてきた気がした。
 覚悟を決めて店に入ると、店内は青白い幽玄な光に包み込まれていた。白と黒の市松模様の床が広がり、壁を一面を覆い隠す陳列棚や、展示用テーブルは、アンティークで統一されている。
 陳列された商品は、漢方薬やポケモンに持たせるような道具、アクセサリーや指輪・宝石、絵画や陶器・古美術品や古道具、レンガのように分厚い革装本、ポケモン象った異形の仮面など品物を見る限り骨董屋のようだ。
 座布団の上に鎮座するドデカい金の玉に、ハクリューの首回りに付いていそうな蒼玉、ドンファンの立派な牙にオドシシの奇妙な角、エアームドの羽根を加工した刀剣、ボスゴドラを丸々加工したような、重厚だが誰も着こなせそうにない甲冑。
何かしらの条約に触れそうな危険な品々の中には生きたポケモンも紛れ込んでおり、灯火が消えて眠りこける蝋燭ポケモン・ヒトモシや、鞘に収められたまま、幾つものベルトで封印された番いの刀剣ポケモン・ニダンギル、鏡の如き光沢を放つ生きた銅鏡・ドーミラー、硝子瓶に閉じ込められた真っ黒なガス状ポケモン・ゴーストは、硝子の壁に四本指を押し当てながら、怨めしそうにこちらを睨みつけている。
 一見、落ち着いた雰囲気だが、よく見渡せば奇妙な珍品が隅々まで用意されており、魔女の店と名乗るだけのオカルトな趣味は充実しているようだ。
 カウンターは店の奥側にあり、店番らしき少女が椅子に座りながら、接客そっちのけで、何やら物書きに勤しんでいる。アレが今回のターゲットであるアンノーン人らしい。
 赤毛を肩まで伸ばし、不健康そうな色白の顔に、玉虫色の不思議な瞳を宿しており、服装はシンプルというか地味で、飾り気のない黒い長袖の服は、いかにもオカルトマニアらしい格好だ。
 足音を立てながら近づくと、ようやく気がついた様子で「あらぁ、いらっしゃいませぇ」と、気の抜けた挨拶で歓迎してくれるが、来客にそれ以上の関心を示すことはなく、再び作業に没頭している。
 淡いクリーム色の用紙と睨めっこをしながら、七色の羽ペンを細々と動かし、見慣れない文字を書き連ねている。
 その文体は、古代文字と酷似した姿のシンボルポケモン・アンノーンそのものだ。
 まるで何かに取り憑かれているかのように、好奇の目にさらされていようとも、まるでお構いなしに、彼女はひたすらその奇妙な行為に熱中している。
 俺は思わず笑っちゃったよ。千載一遇のチャンスとはこの事だ。俺は油断しきっている完全に無防備な少女に話しかけた。

「なぁ欲しいものがあるんだが、ここにあるかな?」
「うーん・・・欲しいものってなぁに?」
「お前だよ」

 少女の七色に輝く瞳に映る俺は、目や鼻を後頭部に押し退けて、顔面丸々大きな穴が空いたかのような大口を開く怪物だ。
 豆鉄砲を食らったマメパトのような顔をする少女を、無貌の怪物は俺の体から離れながらあっという間に丸飲みにしてしまったかと思えば、全身を覆い尽くす黒い革製の拘束具に変貌する。
 こいつが俺の今回の切札「百面相」のメタモン。本来は人間の体に纏いつく変装専用の改造メタモンだが、使い方次第ではこのように相手を拘束してしまう事も容易にできてしまう対人特化のプロフェッショナルだ。
 さらにダメ押しのブースト、ポケモンの力を数倍に引き上げる合成薬物に対PSI能力に対抗するべく悪タイプ特有のエスパー抗体細胞をブレンドした特製の合成薬物が注入されている。並のポケモン程度では百面相の拘束は絶対に解けないだろう。しかし相手は並みでは済まされないイレギュラー。
 拘束を難なく解いてしまうのは時間の問題。だからこそ迅速に脱出する。脱出王のテレポート先は組織のポケモンバトル訓練施設。ポケモンの力(レベル)を人為的に操作(フラット化)する空間にアンノーン人を閉じ込めて、じっくり腰を据えて捕獲するのだ。

「脱出王!頼むぞ!!!」

 俺の号令を合図に脱出王は俺とターゲットを連れて瞬間移動を行うが、消え去ったのは脱出王だけで二度とこの場に戻ってくる事はなかった。
 脱出王はコードネーム通り脱出する事・テレポート能力に特化した改造フーディンだ。どんなにPSI能力が制限された空間だろうと問答無用に脱出してしまうのだが、今回は自慢のテレポート能力を駆使する前に、この場から追放されたらしい。

 残された俺にアンノーン人は囁いてきた。

「野蛮なヒトたちね」

 刹那、百面相は内側から突き破られた。孔から黒い羽虫のようなものが無数に湧いてで来るかと思えば、目を凝らして見るとそいつはミリサイズの小型アンノーンの群だ。
 そして百面相の穴は縦に大きく広がっていき、中からアンノーン人の少女が何事もなかったかのように脱出した。その顔の表面には無数の小型アンノーンが小魚のようにワラワラと泳いでいるようだ。空中を舞う小型アンノーンは彼女の周りで渦を巻くように滞空しており、無数の瞳は一様にギロリと俺を観察している。

「でも面白いわ」

 息を飲む俺をよそにアンノーン人は余裕そうな笑みを浮かべてきた。こっちは最悪の気分だと言うのにな。

「貴方たちのこと読みたいな」

 読むとは、この段階では意味が丸で分からなかったが、ただで読ませる物は持ち合わせちゃいない。プランA が失敗したなら次はプランBに移行するだけだ。

「ごちゃごちゃ煩いな。俺の指示に従わないなら爆発するぞ・・・!」

 俺はコートをめくり上げて、マルマイン仕込みの爆弾ベストをアンノーン人に見せつけた。


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