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  [No.4093] 怪奇!?アンノーン人との遭遇 後編 投稿者:造花   投稿日:2018/10/24(Wed) 19:06:17   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 
 アンノーン人の動きが止まるが、その上っ面には相変わらず薄ら笑いを浮かべており、店内に何百何千もの小型アンノーンをはべらかせながら招かれざる客の出方をうかがっている。

 俺がコートの下に身に付けていた爆弾ベスト「神風チョッキ」は爆発の性能に一点特化した12匹の改造マルマインと機械仕掛けのブービートラップ爆弾が仕掛けられた二重の爆発装置だ。マルマインの爆発を無力化すれば、それに反応して機械仕掛けの爆弾が起動し、爆弾が無力化されれば、それに反応してマルマインたちが一斉に起爆する。
 まぁ・・・そりゃこんな易い虚仮威し、嗤われても仕方がない。プランBのBはburst finish(爆発オチ)のBである。「百面相」の拘束が破れた時点で当時の俺が切れる手段はこれしかなかった。人間に寄生するアンノーンの群を一匹ずつモンスターボールで捕獲なんてしてられない。
 精一杯虚勢を張ってるが捕獲任務は失敗である。だが最悪記録を残せれば劣兵としては上出来だ。俺の団服には超小型監視カメラが内蔵されており、現場の映像は本部のお偉いさんたちに生中継で配信されている。後はどこまで未知の脅威から情報を引き出せるか、俺の足掻きにかかっている。
 こんな命を張った大舞台、ポケモンマフィアの下っ端のクズの最期にしちゃ上出来過ぎるくらいの大往生だ。命が惜しくないと言えば嘘になるが、流れに流され流れ着いた先の顛末、ヘタレて終わるくらいなら、馬鹿みたく自惚れて手前を鼓舞してた方が格好もつくし気分も良い。そうでもしなきゃこんな絶体絶命のピンチなんて立ち回れやしない。
 こっちのそんな気を知ってか知らずか、アンノーン人は首をかしげながら質問してきた。

「指示って何?」
「百面相・・・そのメタモンの拘束を受け入れて無抵抗のままでいろ。さもないとこの店がドカンと吹き飛ぶ事になるからな。俺やお前だけじゃない。この店の中にいるお前の大切なお友だち全員が、お前が抵抗した途端に死ぬ」
「試してみせてよ」
「はぁ?」
「爆発してみせて」
「・・・・・・」
「早く爆発してよ爆発」

 1分も経たずしてプランBは最終局面に達した。笑い話じゃない。こっちは至って真剣だ。こうもあっさりと命を張り合えるのは奴等が向こう見ずなのではなく、爆発を無力化できる手段があるからだろう。
 それを察したかは知らないが、耳に忍ばせたワイヤレスイヤホンから「爆発しろ」と上司から指示がでた。マルマインが大爆発する時の気持ちはきっとこういう気持ちなんだろうと俺はそのとき理解できたかもしれない。俺がヘタレて起爆スイッチを押さなくても上司はもう1つの起爆スイッチを握っている。つまりヤるしかないのだ。

 覚悟を決めた瞬間、俺の回りに無数の小型アンノーンがワラワラとより集まりながら旋回している事に気がついた。よくみると「D」「A」「M」「P」の四種しかおらず、バラバラに浮遊しているのではなく「DAMP」と四組で並びながら飛び回っている。この古代文字が意味する言葉は恐らく「湿り気」だろう。
 湿り気とはポケモンの特性の1つであり、爆発系の技を使用不可能にするフィールド効果とされている。

 まさかそれで終わりなのか?「湿り気」を再現しただけで、うち等の携帯獣化学兵器を攻略した気でいるのか?

 俺は絶望したよ。物語の結末を先にネタバレされたような小さな絶望感だが、時が刻むにつれてそれは肥大していく。神風チョッキに組み込まれた改造マルマインの特性は、あらゆる特性の効果を無視して攻撃できる「かたやぶり」に書き換えられているのだから。
 結局俺は馬鹿みたく覚悟を決めていたつもりでいたが、心のどこかでアンノーン人の未知の力に期待していたのだ。期待するのは勝手だが当てにするのはお門違いだってのにな。
 本当に追い詰められた人間がどうなるか知ってるか?他の連中は知らないが俺は笑わずにはいられなかたね。

 自棄糞に笑いながら起爆スイッチを押したよ。
 すると目の前が真っ白になった。
 そこからは走馬灯ってヤツなのかな。脳裏にこれまで歩んできた人生・・・・・・なんて呼べる立派なものじゃない。自分以外の生物の尊厳を無茶苦茶に踏み躙る悪行の数々が暴かれるように写し出された。自分で言うのも何だが俺は救いようのないクズである。これじゃまるで地獄の閻魔様に裁かれる前の罪人だ。ガキの頃はもっとマシな思い出もあったハズだが、その記憶にたどり着くよりも前に「あの音」が聞こえてきた。

 気がつくと周りは真っ暗闇で、俺の足元には赤黒い血の海が広がっている。こんな記憶は存在しない。走馬灯に何かが割り込んで来ているのか、そいつはガシャガシャと音をたてながら暗闇の底から忍び寄ってくる。姿は見えない。ただガシャガシャと音を鳴らすだけ、四方八方からその音が聞こえてく。
 音の正体は分からないが、ただ本能が警報を鳴らし逃げるように指示を仰ぐ・・・・・・と言うよりも居たたまれない気持ちが俺を駆り立てたのかもしれない。
 音から必死に逃げていたら、いつの間にやら暗闇の中に一筋の光が見えてきた。俺はその光に向かって全力疾走していると、光の向こう側から救世主が現れた。
 そいつは「ときわたりポケモン・セレビィ」決して人の前には現れない幻のポケモンが、俺みたいなクズの前に現れた。
 ありえない。そう、ありえないのだ。セレビィの回りには小型のアンノーンがまとわりついており、つまり、俺はアンノーン人の手の平で踊らされていたらしい。
 再び目の前が真っ白になったかと思えば、俺は何事もなく【witch's store】の中にいた。目の前には皮膚に小型アンノーンを泳がせる受付の少女「アンノーン人」とセレビィがいるが、セレビィは瞬く間に光に包まれ姿を消した。

 ポケモンの具現化、グリーンフィールドの結晶塔事件でアンノーンの群が見せた力の一端が、この場で再現されたようだ。

「あなたたちって、とても酷いことをする人たちなのね」

 俺や隠しカメラ越しのお偉いさんたちの事も読み終えたアンノーン人は、酷く残念そうな失望したような顔でこちらを見つめていた。
 アンノーン人にとって「読む」とは、人の記憶を覗き見する事のようだ。まったく良い趣味をしてやがる。ワイヤレスイヤホンからは耳障りな悲鳴が聞こえており、遠く離れた安全な場所にいる相手にもお構いなしに能力を使えるらしい。隠しカメラも黒幕も全てが筒抜けだった。
 今回は相手が悪すぎたとしか言いようがない。生物としての格が違いすぎたのだ。アンノーン人と対峙する俺は文字通りまな板のちっぽけなコイキングだろう。
 しかし、そんなちっぽけなコイキングは始末される事なく何故か生き延びている。本部の司令室は何をされたか知らないが今だ混乱しており、機能不全に陥っているのにだ。
 これはどういう事かと思えば、どうやらアンノーン人は俺に興味があるらしく対話を求めているらしい。

「なぜ俺だけ無事なんだ?本部の連中に何をした?」
「あなたと一対一で話したかったから外野の人たちには一端退場してもらったわ」
「一対一ねぇ・・・」

 俺は辺りをワザとらしく辺りを見渡した。小型アンノーンの群は俺の周りを取り囲み、こちらを凝視している。【witch's store】の店内は市松模様の床しか見えない。

「私は皆で皆は私、それが私たちの在り方なの」

 アンノーン人は相変わらず肌の表面に小型アンノーンの群をワラワラ泳がせながら語りかけてくる。マジマジと見ると悪寒がしてくる光景である。

「よく分からんが、それは・・・ひょっとしてアレか?アイアントやミツハニーみたいな社会性のあるポケモン、群を成せばまるで一つ生物であるかのように行動するアレ・・・・・・確か超個体だったかな?」
「そんな感じかな。さらに言えば私たちは一つの意識を共有しているの」
「一つ意識って言うのは・・・・・・その子の事か?」

 アンノーンの群が我が物顔で泳ぎ回る体の宿主の少女は不快な表情ひとつする事なく微笑んでいる。
 上司から渡されたオカルト雑誌の特集記事を思い返すと、それらしい内容が書かれていた。
【アンノーンは単体では何も起こらないが、二匹以上並ぶと何かの力が芽生える習性がある。群るアンノーンは自分達の習性を理解しているが、力を最大限に発揮する頭・・・・・・理由や目的・意思・自我に欠ける為、人間を依代にする。依代になった人間は神の如き全能な力を思うがままに扱えるようになる】

「そう。彼女は私たちの協力者にして私たちの一員。彼女の協力がなければ私たちは私を維持できない。あなたが読んでいた『月刊どんと来い!ネイティオ神の未来予知』の内容は概ね正解ね」
「マジかよ」

 俺はアンノーン人にお墨付きを貰ったオカルトゴシップ雑誌の底知れぬ情報収集力に戦慄を覚えたが・・・それよりも何よりも、しれっと人の頭の中を勝手に覗き見するのも止めて欲しい。

「ごめんなさい。つい癖で」
「平謝りはいらん。所でそろそろ本題に入らないか?」

 御託はいらんから早く用件を言えと心の中で毒突くと、出歯亀野郎は悪びれる様子もなく顔をムスッとさせて睨んでくる。

「私たちは貴方の辿る運命を最後まで読みたいの。だから貴方の体に少し移ってもいいかしら?」
「は?」
「あなたの体に私たちを数百匹ほど移住させたいの」
「止めろ馬鹿」

 まな板のコイキングだって訳のわからん事をされそうになれば、体当たりくらいしたくなる。

「運命は避けられないけど、正しい道に導ける力にはなれるかもしれないわ」
「いや待てよ待て!お前たちだけで勝手に話を進めるな!まず運命って何だ!」
「決して逃れる事のできない死の運命」
「はぁ!?」
「貴方は私たちが知り得ない存在に命を狙われているの」
「おいおいおいおい待ってくれ・・・頭が痛くなってきたな」

 何をどうしたらこんな話になるのか、アンノーン人の一方通行な会話に俺の頭はとうとうオーバーヒートした。何から突っ込めばいいのか俺にはもう分からない。お手上げだよ。だが、これだけは決して譲れない確固たる決意はある。
 表皮だけでは飽きたらず、眼球だろうとアンノーンを遊泳させるヤツにはなりたくない。世界的人気を誇るマスコット生物の愉快な仲間たちだろうと、この生理的な嫌悪感は誤魔化せない。

「それなら貴方もアンノーン人になってみる?」
「いや無理だろ」
「貴方の望むままに力を扱えたとしても?」
「その決して逃れる事のできない死の運命も塗り替える事ができるなら考えてもいいが」
「嫌よ。私たちはそれが見たいの」
「喧嘩売ってんのか?」
「大丈夫!運命を迎える前なら貴方は思うがままに力を使えるわ」
「・・・・・・頭の中でだろ?いい加減、人を小馬鹿にしてんじゃねえぞ」

 アンノーンの群の依代になった人間は神の如き全能の力を得られるだか何だか知らないが、そんな見え透いた甘言を真に受けるほど馬鹿ではない。結晶塔事件の少女Aはアンノーンに完全に乗っ取られる前に救出されたらしいが、俺の目の前の少女はどうだ?全身にアンノーンをはべらかせて何故正気でいられる?

「彼女とはお互いに納得し合える正統な契約を結んでいるわ。洗脳とか支配とか貴方が妄想しているような物騒な手段は使っていません」
「何か急に言葉が尖ってきてない?」
「あなたに調子を合わせたつもりでしたが」
「そう、まぁいいや。俺は頭の中の空想の世界に閉じ込められるのはゴメンなだけさ」

 これは俺の見立てだが、アンノーン人は宿主の記憶や思考・性格・趣味嗜好などを模倣しているように思えた。10代の少女が全知全能の神の力を得たとして、こんな寂れた雑貨屋でおままごとみたいな遊びをするのか?胡散臭くて嗤えてくる。
会話の節々で「私たち」という人称を使うあたり、肉体の主導権は宿主ではなくアンノーンたちにあるのだろう。 私たちに少女が含まれているとして、少女が納得して肉体の主導権を明渡す正統な契約なんて、頭の中で都合の良い幻想を24時間ぶっ通しで放映して、そこから絶対に抜け出したくないと思わせる環境下に置いているのだろう。何でこんなに予想がつくかって、俺たちも似たような事をしているからである。綺麗事や美辞麗句を並べようが薬浸けは薬浸けだ。やってる事は俺たちと何ら変わらない。
 こちらの邪推を察したのか、アンノーン人は小さく溜め息を吐くが・・・クソ真面目にレスポンスしてくれる。

「彼女がこの関係を望んでいると言っても貴方は決して聴いてくれませんね。私たちが貴方たちと同じと言うのなら、私という存在は貴方たちと私たちの立場が入れ替わっただけの事なのに」
「お前たちが俺たちの立場なら受け入れられるか?今まで当たり前だった支配者と従者の関係が逆転して仕方のない事だと簡単に納得できるヤツなんていないだろ」
「私たちは決して一方的に支配などしていません・・・が、首なしの悪意とこれ以上言い争う気はありません」
「は?分かるように話せ」
「水掛け論は好きですか?」
「無駄な事は嫌いだな」
「なら貴方とこれ以上話すことありませんね。しかし私たちは貴方の事を観測したい気持ちは譲れません」

 何やら雲行きが怪しくなってきた。話し合いで解決しないとなれば、残された選択肢は一つしかないだろう。俺もよくやる十八番の常套手段だ。お高くとまった独善家の底は探れてきたが、調子に乗って煽りすぎたらしい。

「結局力ずくじゃねーか!!」

俺が怒鳴り散らしたところで浸入は止められない。俺の周りを囲んでいた小型アンノーンたちは一斉に飛びかかってくる。俺は両腕を振り回して振り払おうとするが、アンノーンたちは衣服に触れた瞬間ペタリと貼りつき、服から肌へと伝いながら、人の身体を我が物顔でまさぐるように動き回る。全身の触覚が阿鼻叫喚して言葉にならない叫び声をあげた。床を転げ回りながら、まとわりつくアンノーンを潰そうとするが、連中は意に返す事なく蠢き続ける。自棄になって神風チョッキのスイッチを入れるが、既に無効化済みらしく自爆する事すら許されない。

「大丈夫、次期に馴染むわ」
「大丈夫じゃねーよ!ぶっ殺すぞ畜生!!」
「落ち着いて、恐いのは分かるけど、私たちは決して貴方を支配したりはしないわ。それを今から証明してあげる」
「あ〜〜〜〜〜〜!!そういう問題じゃない!!それ以前の問題だ馬鹿野郎!!!」

 思い付く限りの罵詈雑言を吐き捨ててるうちに、アンノーンの群は俺の体内に収まりこんでしまった。口腔・鼻腔・眼窩の隙間・肛門etc.から遠慮無しに入り込んできたのだ。身体中を這いずり回られる不快感は消え失せたが、アンノーンごときに陵辱された不愉快極まる異様な体験は、そう簡単に払拭できない。
 辺りを取り囲んでいたアンノーンの群はいつの間にか消え失せ【witch's store】の店内が視界に入る。アンノーン人は相変わらず肌身に同胞を泳がせており気色悪い。

「これで満足か?アンノーン人さんよ」
「ひとまずわね」
「人の運命がどうたらこうたら出鱈目言って、結局は俺の身体が欲しかっただけじゃないのか?」

「こんな風にいとも容易く実力行使ができるのに、わざわざ見え透いた嘘をつく理由があるかしら?」

 アンノーン人にしては珍しく筋の通る事を言う。相変わらず微笑みの相を崩す事はなく、小型アンノーンの群を全身にはべらかせている事もあり、人間味はまるで感じられない。そこに宿主の本当の表情は決して現れないだろう。

「私たちは貴方の運命を観測する事が第一目的なの。極力貴方に干渉する事はないから安心して」
「私生活丸々監視される俺の羞恥心に対する補償とかはないのか」
「あるにはあるけど、それは私たちにその身を完全に委ねる事になるからオススメはできまないわ。現実的な力の行使については論外。貴方のような性根の腐った悪党に私たちの力を使わせる訳にはいかないの」

 勝手に契約内容を捲し立てた上に罵倒までしてきやがる。まぁそんなもんだろうと予想はしていたから憤慨するような事はない。寧ろその傍若無人な振舞いに呆れ果て憧れすら覚えてくる。アレのように力を思いのままに行使できる事こそ、我等が組織の最終目標なのだろう。

「一番酷い悪党がよく言う」
「貴方たちと一緒にしないで、私たちは穏やかで細やかに暮らせればそれでいいの」
「伝説級のポケモンを自在に具現化できる力があるのにかよ?望めば世界征服だって朝飯前だろうに?」
「それに何の意味があるのかしら?太陽の温かさを風の心地よさを肌身に感じれて、空の透き通る青さを見えて、大地を力一杯駆け巡れて、海や湖を泳ぎ回れて、ふかふかの暖かいベットの中で安眠できて、美味しいご馳走をお腹一杯食べたり、友達をつくって一緒に遊んだり共感したり、気になった事を自由に探求する事の方が楽しいわ」

 アンノーン人は「お前たちとは絶対に違う」と自信満々に言いたげな憎たらしい満面の笑みを浮かべると、バイバイと手を振り出した。
 すると【witch's store】の内装がぐにゃぐにゃ揺らぎ始め途端、空間に無数の目が出現しパチパチと瞬きを繰り返す。それはこの短時間の間に嫌と言うほど見てきた奴等、アンノーンたちの眼だ。
 どうやら【witch's store】そのものがアンノーン人が具現化した空想の世界だったらしい。怪奇趣味に溢れた商品は形が崩れて霧散していき、店内は目映い光に包まれた。

 閉じていた目を見開くと、辺りは地方都市の寂れた路地裏に様変わり。ゾロアークに化かされたような気分になったが、俺の掌には「O」のアンノーンが泳いでいた。アンノーンの群に身体を寄生された以上、俺の現実は本物なのかアンノーンの群によるまやかしなのか判別する事は難しい。本当の現実と頭の中で思い込んでいるだけで、実は身体を乗っ取られている事は十分にあり得るだろう。
 そんな事を勘ぐっていると口の中から「A」のアンノーンが飛び出してきてギロリと睨み付けてくる。どうやら怒っているらしい。
 さらに左目がもぞもぞするかと思えば何かが頬を伝い掌に這い寄る。見てみれば「KEEP PROMISE」と連なるアンノーンが一斉にこちらを睨み付けている。

「さっそく破ってんじゃねーか」とぼやくと、契約内容を思い出した小型アンノーンは慌てて人の鼻腔に逃げ込んだ。この現実が蝴蝶の夢でない事はひとまず分かったが、酷く不快な気分はどうやっても拭えない。

 本部とは通信が途絶えてたまま、ワイヤレスイヤホンマイク・隠しカメラはご丁寧に全て破壊されていた。本部に帰還して記録を確認したが音声も映像も全て使い物にならないノイズや乱れが紛れ込みアンノーン人のデータを欠片も残せなかった。任務は記録上失敗に終わり、アンノーン人は我が組織のブラックリスト(捕獲不能特定携帯獣)入りを果たし、現在もその動向を探り捕獲方法を模索しているが、未だに結果は出せていないようだ。
 俺の身の上に起こった事は組織には秘密にしている。これが組織にばれたら、俺をモデルにした解体新書の一冊や二冊躊躇いなく作るだろう。任務終了後身体の隅々まで調べ尽くされた時は胆が冷えたが、アンノーンは上手いこと隠れてくれて難を逃れる事ができた。

 ところで体内にアンノーンの群を飼う俺は、アンノーン人となったのだろうか?全知全能と持て囃される噂の力は使えず、あのダメ出し以来アンノーンたちは俺の体内から飛び出てくる事はなくなったが、ときどき身体の内側で何かが蠢いているのを感じる。あのアンノーン人は絶対に違うと断言しそうだが、他のアンノーン人はどう思うのだろうか?

 こいつ等が観測したがるような死の運命は未だ訪れていないが、あの走馬灯の中で聞こえた奇妙な音は日に日に近づいてきている。




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