マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.4097] 餓者我遮、我捨我赦・・・前編 投稿者:造花   投稿日:2018/12/17(Mon) 23:58:45   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

※残酷な表現があるかもしれません。


 遠い日の記憶が甦る。
 俺はガキの頃、奇妙なポケモンに出会った。
 初めてみるポケモンなんて大抵は奇妙に見えるかもしれないが、あいつは本当に奇妙な奴だった。
 頭にバケツを被り、誰かが近づこうものなら手に持つ鉄パイプをぶんぶん振り回して追い払おうとするんだ。でもバケツなんて被ってるから視界は最悪で、大抵の場合は自滅してワンワン泣いていた。
 幼心に「こいつアホだなぁ」と馬鹿にして苛めてたりしてたが、ある日そいつは頭に被っていたバケツを壊してしまい踞って動けないでいた。
 さすがに不憫に思い、俺は自宅から兄貴が使い古したバイクのヘルメットを持ってきてやったら、あいつはヘルメットを俺から強奪すると草むらに逃げていった。
 恩知らずな奴だなと最初は腹が立てたが、あいつはどうにも素直になれない性格らしく、俺につきまといお礼を言うタイミングを伺っていたらしい。こちらからすれば苛めていたポケモンにストーキングされてしこたまビビっていたが、ある日、俺が野生のポケモンの群に襲われていたところに颯爽と駆けつけてくれて俺を助けてくれた。
 それから俺とあいつは一緒に遊ぶ中になり、所謂トモダチのような関係になっていたのだろう。
 時が経ち俺とポケモンマスターを志し、あいつを引き連れて武者修行の旅に出た。近所にポケモン博士なんて都合の良い人はおらず、御三家と呼ばれる初心者向けの人気ポケモンやポケモン図鑑とは縁がなかったが、俺にはあいつがいればそれだけで十分だった。
 あいつはヘルメットに鉄パイプなんか装備しているから、他のトレーナーからはよく不振がられた。ポケモンバトルで実力を示せば大抵の場合は俺たちの存在を受け入れてくれたが、中には「インチキだ」「ヘルメットを外せ!」とか、勝負で負けた腹いせに因縁をつけるヤツもいた。
 俺たちら小五月蠅いヤツ等を見返してやろうと、なりふり構わず戦い続けた末に、ポケモンリーグに挑戦する権利を得た。
 しかし、そんな努力も水の泡。いざ参戦してみれば戦いを挑む前に小五月蠅い審判達に門前払いにされた。
 障害のあるポケモンは、他所の部門に参戦してくれだとか、持ち物はポケモン一匹につき一つまでとか、まるで腫れ物のように扱われて、俺たちのポケモンマスターの夢は潰えた。
 それから当てもなく旅を続けるうちに、俺たちはルール無用・何でもありな非合法の闇の地下闘技場に行き着いた。
 そこは少なくともポケモンリーグよりは居心地が良かった。新しい見世物がやってきた!と冷ややかな歓迎だったかもしれないが、戦うことを認めてくれただけでも俺達には十分過ぎる。
 勝つときもあれば、こっぴどく負けることも当然あるが、そこで戦い続ける内に観客も俺たちの実力を認めてくれるようになり、あいつも花形の一匹に数えられるようになった。
 誰かに認めて貰えるってとても喜ばしいことだねぇ。でも持ち上げる奴等の中には、悪いおトモダチがいたりする。ポケモンリーグの大舞台に居たならまた違っていたかもしれないが・・・・・俺たちは糞溜めにドップリ浸かりながらヘラヘラ喜んでる間抜けだった。
 それから俺たちは・・・・・・俺たちは・・・・・・



「がしゃがしゃがしゃがしゃ」

 気がつくて薄汚れた白い天井が視界に入る。ここは病院の大部屋らしく、俺の横には壊れたラジオのようにうわ言を垂れ流す××支部の団員がいた。
 ナースコールを押すと看護師が慌ててやって来る。ここは組織傘下の病院らしく、××支部の団員が多数入院しているようだ。
 俺は一週間程意識不明だったが、目覚めた後は後遺症も見られず、すぐに退院できた。
 他の団員は辛うじて命をとりとめてはいるが、昏睡したままだったり、精神に異常をきたし治療を受けている者が殆どで、重度の精神汚染を患った団員は、記憶の改変に特化した改造オーベム「脚本家」に頭を弄り回されているらしい。
 俺以外に後遺症を発症しなかった奴は、部外者や新人ばかりで、司令室にいたあの間抜けなオペレーターは俺より先に意識を取り戻し「こんなヤベー組織に関わってちゃ田舎に残した母ちゃんと妹を泣かせることになりそうだから辞めます!」とか何とか言って、早々に脱退を希望したらしく、今頃「脚本家」とご対面しているだろう。

 退院後に俺を待ち構えていたのは、怒濤の事情聴取と報告書の作成で退院前より体調は悪化したと思う。
 ××支部を強襲した骨を寄せ集めた傍迷惑な大怪獣は、頭の頭蓋骨を失ってもなお生き長らえた孤独ポケモン・カラカラが、視覚や聴覚に恐怖心を植え付けて威嚇する擬態能力(テラーエフェクト)を発現・攻撃に転用する事に成功した「ゆうれい」フォームとされる姿と結論づけた。
 しかし、ガス状ポケモンすら通り抜けられない改造メタグロス「玄地八領」の絶対侵入不可領域「楯無」を、小型ポケモンが容易くすり抜けて通る事は絶対にありえない現象らしく、実は本物の幽霊ではないのかとも囁かれている。××支部の壊滅後、骨の虚像とカラカラの行方が一切掴めない点、××支部が過去に取り組んでいたテラーエフェクト再現計画が明るみになり、妙な噂に拍車がかかっているようだ。

 俺たちを救出してくれた今回の立役者・改造フーディン「脱出王」は死亡した。
 後に判明した事だが、テラーエフェクトを前にしたポケモンは恐怖のあまり技を出すことができなくなるハズなのだが、「脱出王」は恐怖に臆することなく、一世一代の脱出劇を最期まで演じきったのだ。
「脱出王」の開発者「ドクトル・ジョン・ピーチ」に話を聞いてみると、フーディン固有の特性・どんな攻撃を受けても怯まない不屈の「精神力」と、集団同時テレポートを実行する前に精神感応(テレパス)能力を広域化させて××支部の全団員と精神を繋げた事により、テラーエフェクトの本来抗えないはずの絶対的な恐怖感を瞬間的に緩和した可能性が考えられるらしい。
 もっともテレポート成功直後には、全ての団員の精神と繋がっていた事が仇となり、途方もない数の恐怖が洪水のように流れ込みショック死したそうだ。さっさと一人で脱出すりゃ良かったのにな。

 俺が引き受けていた任務「暮れなずむ人狩りの会」はどうなっていたかと言えば、俺の入院中に他の連中に引き継がれていたらしく、なんと件のキリキザンを捕獲する事に成功し、連中のアジトまで発見できたようだ。
 復帰早々、俺の任務は「暮れなずむ人狩りの会」を一網打尽にする作戦となった。
 今回の作戦の司令官は、キリキザンを捕獲した幹部の「白狼」で、俺は実動部隊の隊長を任された。手柄を横取りされたのは癪だが、まぁかったるい仕事なので早く片付くのであれば良しとしよう。
 連中のアジトは意外や意外、××シティの団地だった。そこは南ブロック(1-6街区)・中央ブロック(7街区)・北ブロック(8-14街区)に別れた大規模な集合住宅地だが、現在は住民の半数以上が高齢者で老朽化の進んだ寂れたマンモス団地らしい。かつては夢のニュータウンなどと謳われていたらしいが、今となっては時代に取り残された限界集落ならぬ限界団地のようだ。
 連中はそこに目をつけて、何らかの手法を用いて住民たちを洗脳し、いいように利用しつつ、都合の良い隠れ蓑にしている。
 団地周辺をよく観察すれば、多種多様なポケモンたちがたむろっており、住民と共に団地を出入りしている姿もあった。住民の中にもいつの間にか蒸発した者も多数いるらしい。
 奴等の手口は夕暮れ時、町と町を繋ぐ道路を行き交うトレーナーの中から品定めをして、狙いをつけた獲物を数に物を言わせて集団で襲いつつ、人気のない場所に誘い込んで殺害、洗脳した団地の住民を呼び出し、解体作業を手伝わせて、闇のルートに臓器を流しているようだ。流された臓器を購入し、徹底的に検査したところ不特定多数のポケモンのDNAと強烈な催眠波が計測されたらしい。
 こんな物騒な品物を密売して何をしようというのか?なんとなく予想はつくが、こればかりは妄想であって欲しい。
 ドクトル・ジョン・ピーチは早速人体実験に取りかかり、経過を観察しているが今のところは異変は観測されていないようだ。しかし博士はいつになくニタニタ薄気味悪い笑みを浮かべており、あの破廉恥な変態面を目の当たりにした日には、もう嫌な予感しかしない。
 人狩りマニアの野良ポケモンが集う変態倶楽部とばかり思って馬鹿にしていたが、連中は本気で何かヤバイ事をしでかそうとしているようだ。
 今回の指揮を執る「白狼」も俺と同意見らしく捕獲作戦は綿密に練られた。今回の戦場の舞台は寂れた団地とはいえ市街地のど真ん中である。下手をすれば世間に俺たちの存在が明るみになってしまうだろう。
 会議を重ねに重ねて一週間が過ぎて作戦はいよいよ決行されようとしていた。
 俺は部下たちに作戦のあらましを説明し、明日に備えて本部にある自室で準備にとりかかっていた。

ガシャガシャガシャガシャ・・・

 聞き慣れた耳鳴りが近付いてきているように聴こえる。××支部の一件以来この耳鳴りは酷くなってきているが、音がするだけで馬鹿デカい大怪獣に襲われるような事はない。ただ、誰かに覗き見されているような妙な視線や気配を感じ、妙な幻覚が紛れ込む。体の内側に巣くうアンノーンたちとは別の何かだ。街中を行き交う人々の顔が醜悪に歪ませたり、群衆が一斉にこちらを凝視している。瞬く間に掌が血塗れになっていたり、ポケモンの死骸が足を引っ張る時もある。そして、ふと目の前に「あいつ」が現れては一瞬で消える。
 病院にいた時は何ともなかったが、日に日に症状が悪化しているようだ。しかし病院に戻るのは面倒だし、これが今更病院の治療で治るとは到底思えないし、下手すりゃドクトル・ジョン・ピーチの新しい研究対象にされてしまう。それだけはごめん被りたい。
 いっそのこと「脚本家」に糞みたいな記憶を全て取り除いて貰えば、この不愉快な症状も治まるかもしれないが、組織の改造ポケモンだろうと身を委ねるのは気が引ける。臆病なヤツだと笑われるかもしれないが、腹の底で何を考えているかわからない連中に、自分の弱味を見せたくない。「脚本家」を頼るのは、どうしようもなくなった時の最終手段だ。
 明日に備えて早く床につくが、この音は決して鳴り止まない。何となく直感でわかる。あと何か、ちょっとしたきっかけで、俺の中で塞き止められている何かが決壊しそうな気がする。それが何かは考えたくもない。



 翌日の早朝、まだ日が昇らない暗がりの中、件の団地周辺の一角に大型トラックが一台停まっている。
 トラックのコンテナの中には無数の通信機材と大画面のモニター前に座る今回の作戦を指揮する男「白狼」と精霊ポケモン・ネイティオが一匹いる。
 俺たち実動部隊は40人で構成されており、俺を含めた30人が前線部隊で、残りの10人は後方支援部隊となっている。改造ポケモンを収納をしたモンスターボールだけでなく、ガスマスクや催眠術や洗脳といった脳に干渉する超能力を寄せ付けないアンチPSIヘルメット・光学迷彩スーツ・アサルトライフル等で武装している。戦闘は基本的にポケモン任せだが、手数は多いに越したことはない。
 前線部隊は五人で一組となり六班に別れ、既に定位置に待機しており作戦開始の合図を待っている。
 団地の敷地内には予め、カクレオンの細胞を移植して周囲の景色に溶け込む力を備えた改造ネイティ「天眼」の群を解き放ち、ネイティと視覚を共有し自分が見たものを念波に介してモニターに送信する改造ネイティオ「天眼通」の能力により、敵の動向を探りながら内部の様子を伺い、敵の本陣が北ブロックの13街区である事が判明した。
 作戦は手始めに後方支援部隊が改造メタグロス「玄地八領」を解き放ち、内外問わずにあらゆる干渉を拒絶する結界「楯無」を起動する。
 外野の乱入や獲物の逃亡を防止する不可視の壁で13街区を覆い尽くし、さらにゾロアークに幻影をつくらせて周囲の景色をカモフラージュ。戦闘に生じる騒音は、音を自在に操る改造バクオング「響」のノイズキャンセリング技法でカバーする。
 環境の偽装工作は完了、後は敵の制圧だ。今回の標的は有象無象のポケモンが寄せ集まった大群である。個の力が乏しくても、各々の個性や得意分野・数の力にモノを言わせてくる連中だ。
 そういう連中は何もさせないうちに叩くに限る。それなら品種改良を繰り返して産み出された改造ラフレシア「黄霧(こうむ)」の出番だ。こいつがばらまく花粉は、抗体を持たない者が浴びれば、瞬く間にアナフィラキシーショックを引き起こして卒倒、最悪の場合死に至らしめる。さじ加減一つ誤れば大量殺戮を容易に引き起こせる凶悪なバイオ兵器だが、今回もあくまで捕獲が目的なので致死性の低い個体を集めているそうだ。さらにだめ押しと言わんばかりに、戦闘を主眼に置いた武装携帯獣も複数投入している。
 過剰すぎる戦力かもしれないが、奴さんたちも能無しの集まりでなければ何らかの対抗策を講じてくる。自分達に酔い潰れたような組織名を掲げる馬鹿っぽい連中たが油断は禁物だ。この決戦は互いの切れる手札の数の多さが勝敗を分けるだろう。
 団地の住民の安否?俺たちは人命を優先する程お人好しじゃない。

 耳元につけた無線イヤホンから『準備はいいか?』と指揮官の「白狼」の声が聞こえてくる。

「準備万端、いつでも突撃OKだ」
『健闘を祈るぞ。作戦開始だ』
「了解、野郎共行くぞ!ポケモン狩りの時間だ!」

 俺の号令と共に、実動部隊は闇夜に紛れて行動を開始する。13街区の周辺や建造物の内部には無数のポケモンがたむろっている。
 そいつ等を突破すべく24匹の「黄霧」をモンスターボールから解き放つ。「黄霧」が花房を軽快に揺らしながら進行する度に花粉はバフバフ景気良くばらまかれて行くが。

『無駄だ。愚劣な人間とその隷属たちよ』
 
 人間様を小馬鹿にしているような声が闇夜の向から聞こえてくる。つられるように夜空を仰ぐと、ひたひたと小雨が降り始めたかと思えば、瞬く間に滝のような豪雨に様変わりする。
 今まで軽快なフットワークで闊歩していた『黄霧』たちだが、その大きな花房は豪雨に押されて地に伏してしまい身動きをとれずにいる。空中ひ飛散していた花粉も雨に洗い流されてしまった。
 さらに追い打ちと言わんばかりの暴風が襲いかかり「黄霧」たちは次々に吹き飛ばされていく。

 何もさせないハズが逆にこちらが封殺されている。明らかにこちらの出方が判っていたような見惚れる鮮やかなカウンターだ。内通者でもいるのか?敵の動きが不可解だが、戦いはまだ始まったばかりである。

『団地上空にハクリューと複数の飛行タイプのポケモンを確認、奴等が雨ごいを発動し、一斉に暴風を巻き起こしているようだ。後方支援部隊に日本晴れを要請する。前線各隊員は直ちに武装携帯獣を解放して反撃しろ』
「白狼」は「天眼通」たちの視界を頼りに、敵の正体を見破った。タネが解ればどうという事はない。

「了解、上空の敵は俺の班で対処する。他の班は地上戦に備えてくれ。日本晴れ発動後行動再開だ」
『了解』

 俺はモンスターボールから武装携帯獣・改造ガブリアス「竜穿」を解放する。体の半分以上をサイボーグ化し、背中に補助推進装置を装備した他、頭部の先端部にはエネルギーシールド発生装置が組み込まれ、両腕の鰭と爪にはエネルギーサーベル等の武装が施されている。
 ガブリアス本来の面影は薄れているが、その戦闘能力は並の原種では到底相手にならないだろう。
 ポケモンのサイボーグ化など可能かと疑問に思うかもしれないが、ポケモンは自分が所持する持ち物を巻き込みながら縮小する特性があり、表皮や内蔵を機械化してもポケモンがそれを自分の一部だと認識していればモンスターボールの中に収まってしまう。かつてイッシュ地方に存在したポケモンマフィア・プラズマ団が古生代の虫ポケモン・ゲノセクトを改造して証明している。

 豪雨が途端に止む。日本晴れにより闇夜の中心に疑似太陽が出現し、辺りが真昼のように明るくなる。突如発生した強烈な日光に、闇夜に滞空していたハクリューたちの視界は真っ白に眩むだろう。その絶好の隙に狙い定め「竜穿」に攻撃の指示を出す。

「今だ!ドラゴンダイブで蹴散らせ!」

 俺の号令と共に「竜穿」は背中の推進装置から火を吹き上げながら空に浮かぶハクリューたちに突撃する。ドラゴンダイブのエネルギーを全身から放出させながら、双眸に映る獲物を殺気で威圧する。常軌を逸した肉体改造の末に手に入れたら必殺且つ神速の一撃は、並の野良ポケモン相手には過剰過ぎる攻撃である・・・・・・空から何かの肉片が飛散する。
 その光景を一部始終観測していた「白狼」からイエローカードが出た。

『今回の任務はあくまで幹部と総統の捕獲だ。言語能力を有するポケモンは不必要に殺すな』
「悪い。どうにもこいつは加減が難しくてな」
『次からは気を付けてくれ』
「努力はする・・・そんな余裕があればだな」

 別に今さら仕事を横取りした「白狼」に因縁をつけるわけではない。これでも気の知れた少ない同期の一人だ。言葉を濁す理由は単純、殺気立つ大群を相手に、小器用に上手く立ち回れる自信がないだけだ。
 俺たちの班を取り囲むように、多種多様なポケモンの群・・・百匹は有に越える大群が押し寄せてきているのだから。これじゃどこに幹部やら総統がいるかなんて分かったもんじゃない。

「大群の中心に幹部がいるぞ。五匹でまとまって動いているマニューラの内の一匹が幹部だ。絶体に殺すなよ」
「それって殺してもOKって前フリか?」
「ふざけているのか貴様?」
「悪い怒るなよ。善処はするさ」

 ・・・なんて言ったがどうしたものか。とりあえず応戦しなければ始まらない。こちらが繰り出したのは「玄地八領」に、イシツブテを乱射するサイボーグ化した改造ドサイドン「破城」、機関銃と大砲を融合させたマルマイン射出銃「雷の十字架」を四丁同時に武装する精鋭中の精鋭な改造カイリキー「爆撃鬼」、スプーンに仕込んだ改造メタモン「八百万」を自在に使いこなす白兵戦のプロフェッショナルな改造フーディン「奇術師」の四匹、それに加え滞空しながら眼下の獲物に狙いを定める「竜穿」もいる。

 攻撃の指示を出せば「破城」と「爆撃鬼」が同時にイシツブテとマルマインを有象無象の大群に向けて掃射する。それだけで雑魚なら一網打尽にできるが、そうは問屋が卸さない。
 アスファルトを突き破ってハガネールが強襲、爆発攻撃をものともしないで「爆撃鬼」を尻尾で凪ぎ払う。さらにナゲツケサルのグループが飛び出てきたかと思えば、「破城」が射出するイシツブテを爆発させる事なく軽々キャッチしてみせる神業を披露し、「破城」ではなく俺たち人間に投げ返してくる。
 やはりこちらの戦法を直ぐ様攻略してくるようだ。「竜穿」のドラゴンダイブにはピッピをぶつけて無効化。さらにピッピは指を振り、アスファルトを突き破りマグマの柱を無数に突き立てる大技「断崖の剣」を発動させやがる。
「玄地八領」がいなければ俺たちの方が一網打尽にされていた事だろう。
「奇術師」はスプーン の柄尻が上を向くように持ち換えると、スプーンの表面に仕込ませた「八百万」を変幻自在に蠢く蛇腹の刃に変身させて敵陣に切り込むが、ニダンギルを二匹装備した四刀流のカイリキーが「奇術師」たちの剣戟を強引に捌いて割り込んできた。
「奇術師」がサイコキネシスで反撃しようとすると、カイリキーの手からニダンギルが離れて襲い掛かり不発に終わる。
 それを良いことにカイリキーはニダンギルを再び手元に呼び寄せて、クルクル器用に回転させながら、こちらを挑発しているようだ。
 普通のカイリキーならこの時点で腕が絡まり、ニダンギルが頭部に突き刺さってそうだが、こいつは曲芸みたいな剣技を自在に使いこなしている。
 こちらの「爆撃鬼」も品種改良と訓練を繰り返して銃器を四丁同時に扱えるように仕込んだが、野良であんな事ができるカイリキーはまずいない。カイリキー界のエリートってか?
 他の班もポケモン軍団と交戦しているが、戦況はどこも予想外な拮抗状態にあるらしい。まったく余計な手間をかけさせる連中だ。

「慌てれば相手の思う壺だ!地力の違いを見せてやるぞ!」

 前線の隊員やポケモンたちを鼓舞する言葉をかけ、さらに切り札を惜しみ無く切る。

「玄地八領、お前の出番だ」

 俺が戦闘解禁の許可を与えると「玄地八領」は四足をどっしり踏みしめながら敵陣に進撃を始める。
 かかさず連中は一斉に「玄地八領」に攻撃を加えるが、その全てが「玄地八領」のボディを何重にも覆う不可視の防御壁によって尽く阻まれ、成すも術もなくコメットパンチの餌食になって吹き飛ばされる。
 人型の格闘タイプのポケモン・ダゲキとチャーレムが同時に飛び掛かり、鋭い手刀の一撃・瓦割りで防御壁を破壊しようとするが、何層にも重ねられた守りを全て破壊するには至らず返り討ちにされる。
 割れた防御壁は瞬く間に自動修復されるが、今度はその一点に狙いを定めたように、二対のコンクリート柱を自在に操る筋骨ポケモン・ローブシンがコンクリート柱を突き立ててきた。
 その一撃で「玄地八領」にダメージを与えられず、ローブシンもダゲキたち同様に軽くあしらわれるが・・・・・ローブシンの狙いは別にあり、自動的修復される多層の壁にコンクリート柱を紛れ込ませる事に成功した。
 するとポケモンたちはその一点を狙い定めて袋叩きを行う。ポケモンの大群が次々と入れ替わりながらコンクリート柱を「玄地八領」に打ち込むように攻撃してくるのだ。
 小賢しい。まったく舐められたものだ。その程度で攻略されてしまっては最強と謳われる切札は務まらない。
「玄地八領」は四本足を折り畳んで宙に浮かぶと勢いよく回転、そのまま敵陣に飛び込んで無慈悲な蹂躙を開始する。ああなっては一点突破は望めないだろう。敵わないないならガン無視を決め込むのも立派な戦術だと思う。しかし連中は無理に喧嘩を売り、怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったのだ。
 他の武装携帯獣も噛ませ犬で終わるような玉ではない。 
「雷の十字架」が効かないと判るや否や「爆撃鬼」は得意な得物を投げ捨てると、ハガネールに肉弾戦を挑む。こいつの雛型である「轟」はδ因子により電気タイプの適合を得ているが、10万ボルトや雷といった電気を放出する特殊技は専門外であり、専ら体内の電気信号に干渉し、自分の肉体を100%以上の力を発揮して操る。2秒間に千発のパンチを繰り出せるカイリキーがである。
 ハガネールは再びアイアンテールで「爆撃鬼」を凪ぎ払おうとするが、それはどう考えても悪手だ。奇襲ならともかく真っ正面から来ると分かっていれば、鋼タイプの攻撃など容易く受け止められる。攻撃を受けきった「爆撃鬼」はハガネールの尾先をがっつり掴むと、そのまま強引に自らの体を回転させると力任せにジャイアントスイングを繰り出した。先程の倍返しと言わんばかりにポケモンの大群を薙ぎ払って殲滅する。
イシツブテの乱射を無効化された「破城」は相手を替えて自分の仕事とをこなし続ける。ナゲツケサルたちのグループがそこに割り込んでくるが、邪魔者は「竜穿」が排除する。
 当然向こう側もフェアリータイプをけしかけてドラゴンダイブを無効化してくるが、それならドラゴンダイブなんて使わなければいい。
 推進補助装置をフル稼働させた突撃は、ドラゴンダイブを掛け合わせなくても殺傷力は申し分なくある。
 周囲が圧倒されるなか、ニダンギルを得物にした四刀流のカイリキーは「奇術師」相手に善戦している。剣を振るったかと思えば手元から離れて追撃し、それに気をとられていれば別の剣戟、さらには銃弾の如き電光石火の拳骨が襲いかかる。
 怪力無双の四腕と意志を持つ魔剣の変幻自在なコンビネーションはタイプ相性をものともしない洗礼された戦闘技術と化しているようだ。
 しかし戦闘技術を張り合うなら「奇術師」以外にするべきだった。「奇術師」は手数で敵わないと分かるや否や、カイリキーとの距離をとりながら「八百万」の剣先を伸ばして切り裂こうとする。カイリキーはそれを当然のようにニダンギルで受け止めるが、受け止められた瞬間「八百万」は「奇術師」の手元から離れて、ニダンギルごとカイリキーたちを鎖になりきって捕縛する。
 笑わせるなと言わんばかりにカイリキーはその拘束を力任せに振りほどこうとするが、不意に全身に力が入らなくなる。背筋に巻き付いていた鎖の一部が鋭い刃に変化して突き立てられたのだ。

 身を預けた相棒を卑怯な方法で殺されたニダンギルたちは当然怒り狂い、激情に駆られて刀身を振り回すが、仇が視界に入ることなく、その単眼は生き物のように動く鋭利な刃物に潰されて、目の前が真っ暗になったようだ。地に伏した魔剣たちは二度と動かない。
 まともに戦えばこんなものだろう。戦局はこちらに傾いてきたが、連中は次から次へと臆することも逃げることもなく沸いて出てくる。
 雑魚ばかり相手にしてられない。今回は「暮れなずむ人狩りの会」の幹部や総統と呼ばれる連中の中枢を捕獲する事が目的なのだ。
 雑兵と一緒に一部の幹部は出張って来ているが、肝心の総統は集合住宅の一室のどこかに潜伏して姿を見せないでいる。
 そこは11階建ての建物で、内部は狭い共用廊下と無数の住居がひしめいており、迎撃する敵はどこからでも奇襲可能。「玄地八領」や「竜穿」のような大型ポケモンは狭さに囚われ戦い辛く、籠城戦にはうってつけの本丸だろう。
 わざわざ相手の土俵に立つことはない。潜伏しているならあぶり出してやればいい。

「「破城」「爆撃鬼」目の前の建物に撃ち込め」

 二匹の武装携帯獣は俺の指示に何の躊躇いもなく従い、イシツブテとマルマインを乱射する。
 止めどない連撃は爆炎と衝撃を解き放ち、集合住宅の壁を容易く破壊し、住居だった空間が晒しものとなり辺りに黒煙を撒き散らす。
 さらに寄せ餌で誘う。拘束具により自由を奪われたキリキザンをモンスターボールから出して晒し者にする。
 抗戦していたポケモン軍団の視線が一点に集まる。こいつは連中の幹部の一匹に数えられる有力者らしい。

『おぉ・・・!勇敢なる同士たちよ!俺には見えるぞ!堰堤に亀裂が走り決壊を引き起こす未来が!俺のことは構わないで見殺しにしてくれていい!俺の屍を越えて行け!そして悪しき人間とその奴隷共を殺して!殺して!殺しまくれ!この聖戦を制し、世界を水に流すのだ!我等は常ち総統と共にあり!恐れることなど何も(ry」

 少しでも口の拘束を解けば壊れたラジオのように、危なっかしさと安っぽさが同居したような思想を喧伝してくる。拘束具から電気ショックを流して、気絶したのかようやく静かになった。
 人間の言語を操る特異個体だが、こんなヤベー奴に人質としての価値があるのか正直分からない。しかし利用できるなら取り敢えず試してみるしかない。仕上げは拡声器を使って小っ恥ずかしい演説をする。 

「聴こえるか総統さん?大事な仲間たちが命を張ってるのに、お前は安全な場所にこそこそ隠れたままなのか?結局お前も他のポケモンを利用したいだけだろう?綺麗な御託を並べても俺たちと何ら変わらないぜ!同じだよ!同じ!いくら正義を気取ったところでやってることは俺たち人間様と変わらないなぁ!お前が受けるべき苦しみをいつまでこいつ等に肩代わりしてもらうつもりなんだ?おーい!!!」

 今どきこんな安っぽい挑発が総統に通用するとは思わない。しかし、姿を見せないカリスマの為に奮起するポケモン軍団はどうだろう?
 現実に立ち塞がる圧倒的な戦力差を前にして、どこまでカリスマの幻想を信じきる事ができる?武力だけでなく精神的に追い詰めれば集団はそのうち瓦解する。真実に抗う本物の理想主義者なら鍍金が剥がれる前に集団の指標となるべく出現するし、理想を騙るだけの詐欺師なら逃げ出すことも忘れて隠れるだけ、皆殺しにした後じっくり探してやる。

 一方的な戦いを繰り広げていると、思惑とは裏腹に嫌な奴等がやってきた。

「た、助けてくれ〜!」

 崩壊しつつある集合住宅の入口から数人の住民が飛び出てきたかと思えば、こちらに助けを求めて逃げ込んでくるのだ。ジジイやババアの他にカップルと思わしき男女や十歳にも満たないガキまでいる。
 それをやるか・・・・・残念ながら俺たちはポケモンマフィアだ。ポケモンだろうと人間だろうと身内以外は平等に扱う。

「分かってるなお前等?こんな馬鹿騒ぎのど真ん中に突撃してくる素人は異常だって・・・・・撃ち殺せ」

 俺の指示に従い、部下たちはアサルトライフルをこちらに接近する住民たちに向けて一斉掃射する。住民たちは断末魔を上げながら地面に倒れ伏す・・・・・・その手には包丁や鉄パイプが握られていた。
 この団地の住民はポケモンたちに洗脳されて様々な犯罪に手を染めており、こちらに助けを求めて近寄ってこようとも油断はできない。事後処理は面倒になってくるが脅威の芽は摘むに越したことはない。
 銃撃を受けて次々と住民が崩れ落ちる中に「あいつ」が現れた。何をするわけでもなく、銃弾をまともに食らって全身から血を流しているが、決して倒れ伏すことはなく立ち尽くしたまま、アスファルトに血の海を広げながら、こちらをじっと見据えている。
 鬱陶しい。言いたいことがあるなら直接言えばいいのに、まどろこしいヤツだ。相手にするほど暇ではない。銃撃を受けて息絶えたと思わしき住民たちの身に異変が起こったのだ。

「狂犬さん、あれ・・・・・ヤバイですよ」

 部下の一人が震えた声を出しながら指差す。その先には屍と化した住民たちが一斉に激しい痙攣を起こしながら、身体を不規則に変形させている。
 ゴボウみたいに痩せ細ったジジイは全身が肥大化し、腰の曲がったババアは背筋をすらりと伸ばし、カップルぽい男女は角と尻尾が生え、十歳にも満たないガキは頭が避けて頭蓋骨が剥き出しになり、さらにその頭蓋骨がおぞましく変形し出す。

「な、なんですかアレは?」
「ヤベーな。とりあえず化け物には違いない・・・白狼見えてるか?アレどうする?」
『ピーチならきっと欲しがる。捕獲できるならしてくれ』
「了解」

 人間だったそいつ等はみるみる内にポケモンの姿に変身する。ジジイがカビゴンでババアがサーナイト、カップルはニドキングとニドクイン、そしてガキはよりによってカラカラだ。
 人間のポケモン化、数世紀先を往く未来的な科学技術を追求する我等が組織すら実現できなかったタブー中のタブーをポケモンが先に実現させていたなんて想像もしていなかった。
 しかしだ。この戦場でそれがどうしたと言うのだ?人間がポケモンに変身したところで、この戦況をどう覆す?

「よし、てっとり早くサンプル回収だ」

 俺たちはポケモンに変身した人間相手に一斉にマスターボールを投げつけた。伝説級だろうと幻級だろうとポケモンならば問答無用で捕獲してしまうハズなのに・・・・・・連中は掌サイズの大きさのボールの中に収まる事はなかった。

「おいおいおいおい、どうなってやがる!?」
『ウヒョヒョヒョヒョ!その反応、いいね!驚いてくれたね!嬉しいから特別に種明かしをしよう。彼等はポケモンの習性を克服したんだ!』

 驚愕する俺たちの前に連中は突如姿を現した。
 筋骨隆々なカラマネロに、メガシンカした色違いの黒いサーナイト、青白い炎を全身から灯す真っ白なキュウコン、氷で巨大な体躯を造り出したオニゴーリ、四つ指の黒い巨大ゴースト、何の変鉄のないネイティオ・ムウマージ・ルカリオ・ヨノワール・ゾロアークが紛れ込んでいるかと思えば、イッシュ地方に言い伝えられる伝説の聖剣士コバルオン・テラキオン・ビリジオンまでいやがる!
「暮れなずむ人狩りの会」の主要メンバーが雁首揃えて姿を現したが、何か言い知れぬ胸騒ぎがする。この戦力差を前にして、なぜ見世物でも披露するかのような余裕な口振りでいられる?
 何より実際に対峙してみると余計に信じられない。「総統」と呼ばれる親玉は聖剣士の面々や異様な姿のカラマネロたちでもなく、とても集団を率いるようなヤツに見えない精霊ポケモン・ネイティオらしい。
 ネイティオは過去と未来を見通す力があると言い伝えられているが、自分が見た未来を変える為に自ら行動を起こすような事は決してしない徹底した傍観主義の種族で通っている。こっちの「天眼通」たちも監視役に徹するのみで、それ以上の事は絶対にしない。未来予知に特化した改造計画が浮上した事もあったが、ネイティオはどの個体も一貫して未来予知能力をさらなる技術に昇華・発展しようと言う意思や行動を見せる事がなかったぐらいだ。
「総統」は双眸でこちらをじっと見つめるだけ、奴の意思を代弁するように、マッシブに発達した触手のカラマネロは妙な笑い声を上げながら語り出す。

「ウヒョヒョヒョヒョ!モンスターボールに束縛されないポケモンの出現!それが台頭していけばどうなる?今まで使役していた下等生物が突然お手軽に封じ込められる事ができなくなれば!嘘で塗り固められた人間たちが醜い正体を現すだろう!しかもそのポケモンの正体が元人間だったと分かれば?最高の喜劇が幕を開けるぞ!」

 嗚呼やっぱりやべー奴等だ。
 自分達に泥酔している質の悪い連中だよ。
 こっちが何も喋らない事をいいことに勝手に怨嗟の声を連ねてくるが、酔っ払いのお喋りに真面目に付き合う事はない。

「勘違い野郎のポケモントレーナーは死ね!ポケモンマスターもくたばれ!何故お前たちは自ら戦わないで強くなった気でいる?ジムリーダー?四天王?チャンピオン?目糞鼻糞に違いがあるのか?ポケモンは本能が戦いを求めてる?凡てのポケモンがその都合の良い解釈に当てはまるのか?ポケモンバトルなんて娯楽化した奴隷の代理戦闘だろう?モンスターボールなんて壊れてしまえ!ポケモン預かりシステムも崩壊しろ!誘拐魔と監禁魔はあと何匹閉じ込めれば気が済む?個体値の厳選もクソ食らえ!どれだけ生れたての幼子を廃棄すればいい?夢の楽園のような牧場生活なんて嘘っぱちだ!卵が発見された?どこからか運んできた?笑わせるな破廉恥な変態共め!ポケパルレ?汚い手で触んな!人間に尻尾を振るポケモンも同罪だ!人間に隷属になる事に何の疑念も持たず、自分で考えることを放棄した能無し共め!強くなったと思い込んでるだけの木偶人形に誇りなんてものはあるのか?他人に飼い慣らされたペットの癖に?人間とポケモンは絆や友情を育んでいる?皆やっている当たり前の様式が当然になっているだけで、洗脳されている事に気がついていないだけなのだ!」

「言いたい事はそれだけか?悪いがお前達の思想なんてすこぶるどうでもいいんだ。抵抗するならしてくれていい、お前ら全員半殺しにして捕まえてやる」
「それはこっちの台詞だ。いつまでも支配者でいられると思うなよ人間?我々は勝利を確信してお前達の前に現れたのだ!沢山の同士が犠牲になったが、その尊い死が我々を支えてくれている!お前たちも目を背けていないで見つめ直すといい・・・・・・苦痛を!我々がいつまでも肩代わりしてくれるなんて思うなよ!」

 いきり立ちながら捲し立てる雄弁なカラマネロの後方で、沈黙し続けていた「総統」の双眸が青白く輝きだし、辺りに眩い閃光が走る。

 刹那、俺は激しい豪雨に押し潰されて動けないでいる。身動きすら許されない中、追い討ちをかけるように暴風が巻き起こり吹き飛ばされた。そのまま宙を舞い上がり、冷たい雨と共にアスファルトに激突した。
 視界が暗転したかと思えば、今度は豪雨が降り注ぐ空の中心に浮かんでいる。真下からは何かとてつもない速さでこちらに迫っ−−−
 再びは豪雨が降り注ぐ空の中心にいるが、今度は羽ばたいている。真下からは何かとてつもない速さでこちらに迫っ−−−
 三度豪雨が降り注ぐ空の中心にいるが、またもや羽ばたいている。回りにはハクリューやペリッパーが同じように宙を舞う。そして真下からは何かとてつもない速さでこちらに迫っ−−−
 いつまで続く!俺の意思とは関係なく俺は突撃している。あの「爆撃鬼」と「破城」に向かって、マルマインが飛んできて炸れーーー
 嗚呼、止めてくれ!止めてくれ!!止めてくれ!!!おびただしい数の苦痛の瞬間が視界を通して全身に流れ込んでくる!
 洗脳の類はアンチPSIヘルメットで防いでいるハズなのに!「玄地八領」の鉄腕に押し潰される。ハガネールに吹き飛ばされて、ハガネールに押し潰されて、「竜穿」に粉微塵に吹き飛ばされて、「奇術師」に串刺しにされて、俺たちに撃ち殺されて、水溜まりの底から暗闇が吹き上げて飲み込まれて、水溜まりの底から暗闇が吹き上げて飲み込まれて、水溜まりの底から暗闇が吹き上げて飲み込まれて水溜まりの底から暗闇が吹き上げて飲み込まれて、水溜まりの底から暗闇が吹き上げて飲み込まれて・・・



 トラックの荷台で戦況を監視していた「白狼」はモニターに飛んでもないモノが映り込み戦慄した。
 雨乞いにより辺りに出来た水溜まりの中からシンオウ地方の神話に伝わる伝説のポケモン、ギラティナが真っ黒な闇を噴き上げながら顕現したかと思えば、そこにいたポケモンと人間たちは一瞬にして消えてしまったのだ。
「天眼 」たちに辺りを探らせるがどこにもいないが、ふと一匹の「天眼」がアスファルトに出来た水溜まりに目をやると、そこには見たこともない「世界」が広がっていた。


続く


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー