マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.4110] 小さな星の花を君に 投稿者:空色代吉   投稿日:2019/03/04(Mon) 19:30:58   87clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 私の管理する庭園に、エルレイドとサーナイトを連れた夫婦が来ていたのを憶えている。
 夫婦とポケモンたちは、ある常緑小高木樹に咲いた花を眺め歓談していた。
 小さなオレンジ色の夜空の星を連想させる花。その花は独特のいい香りを放っていて、アロマなどでも好まれるものだった。私も好きな花だ。
 微笑ましく思っていると、奥さんが私を見つけて尋ねてくる。

「あの、すみません。この花の名前を知っていますか? 星みたいで綺麗だなって思って、知りたくて……」

 ……ネームプレートがちゃんとかかっていなかったか、直さねば。
 同じ印象を持ってくれた嬉しさに笑みを浮かべ、彼女の質問に答える。すると彼女はその名前を愛しむように口にし、礼を言って夫のもとへ戻って行った。

 この時に名前を教えた花にまつわるエピソードは、もう少しだけ続く。


* * *


 数年後。

 庭園の裏へと続く林を、慎重に進む男とエルレイドの姿があった。
 周りを警戒し歩みを進めていくふたり。しばらくするとエルレイドが2つの“感情”の存在に気づき、男の腕をつかむ。

「……どこにいる?」

 男が小声で聞くと、エルレイドは前方斜め上を見上げる。それらは鬱蒼とした木々の上にて、男たちの動きを伺っているようだった。

「見つかってしまったか“庭師”に」

 “庭師”とは、庭園の管理をしている、あるポケモントレーナーの通り名であった。
 庭園の守護者である“庭師”は、庭の植物を奪おうとするものに容赦はない。発見されたが最後、最悪切り刻まれるという噂を男とエルレイドは聞いていた。
 一時撤退の意思を確認し合い、引こうとするふたり――しかし先程まで前方に居たはずの“庭師”たちの気配が、気をそらした次の時、既にふたりの背後に回り込んでいた――

「早い?! エルレイド!」

 振り向きざまにまずふたりが見たのは小柄な女性の姿。そして、ふたりののど元に突きつけられた『リーフブレード』の刃。それからその新緑の両手の刃を構えるジュカインの姿だった。

 女性は何とも言えない表情で、男とエルレイドに尋ねる。

「奥方とサーナイトは元気か? 旦那さん」

 男とエルレイドには“庭師”たちに見覚えはなかった。むしろ何故相方たちのことを知っているのかということに面を喰らっていた。警戒心を削がれた男は目を伏せ、“庭師”の問いに答える。

「……ふたりとも去年亡くなったよ。俺たちを残して」
「そうか、失礼した。して、何故このようなところに」
「花を、妻とサーナイトの墓に花を供えたくていただきに来た……いや、それだけじゃねえな」

 男は一息吐いた後、理由の全貌を明かす。

「息子に、名前の由来になった花をやりたかったんだ。昔みんなで見たあの花をあげてやりたかった」

 彼の白状に“庭師”は質問を重ねる。

「あんた、名前は」
「ヴィクトル」
「奥さんは」
「ステラ」
「息子さんは」
「オリヴィエ」
「なるほど。花と星で、あの小さな星の花の名前か……」
「さすが“庭師”。名前だけで分かるのか」
「わかるとも。しかしオリヴィエなら他でも手に入れる手段はあるだろう? 捕まったらどうするんだ。関心はしないね」
「ああ。ああ。でもあいつに欲しいとねだられた時、ここの花じゃないとダメな気がしたんだ――だから俺は捕まらない」

 男……ヴィクトルが言い切ると同時に、会話中じわじわと伸ばしていたエルレイドの手が彼に触れる。
 瞬間、彼らの姿が“庭師”とジュカインの後方へとワープしていた。
 “庭師”もジュカインもたいして驚くような素振りも見せず、背を向けたままヴィクトルとエルレイドに威圧をかける。
 動けば切るぞ、と言わんばかりにジュカインは両刃を輝かせ、“庭師”は言葉をゆっくり紡ぐ。

「『テレポート』……障害物の多い中よくやるね。危なっかしくて見ていられない――――オーケー、提案だ」

 提案という単語に呼吸のタイミングを掴み損ねていたヴィクトルは大きく息を吸う。そして次の“庭師”の言葉を待った。

「私としても、戦いの余波で庭園がめちゃくちゃになることだけは避けたい。だから提案だ、ヴィクトル。私たちとあんたたちで賭け試合をしよう。条件は……あんたたちが勝ったらオリヴィエの花枝をやる。私たちが勝ったら大人しく息子さんを連れて庭園に連れてきな」
「それは……」
「それでいいかい? というかいいね? 断ったら……切り刻むよ?」
「あ、ああ!」

 ヴィクトルの返事を聞いた“庭師”は仕方なさげに笑った。その笑顔の内の感情にエルレイドは少し萎縮していが、自らを鼓舞するために両手で頬を軽く叩いた


* * *。


「審判はいない。どちらかが負けを認めるまでだ。言っとくけど手加減はしないから、全力でかかってきな――――試合開始だ」

 “庭師”の言葉を皮切りに、ジュカインとエルレイドはお互いを目指して直進した。それから二人と二体は、お互いがほぼ同じ構えを取っていることに気づく。
 だからといって、お互いともそこで引く理由はなかった。
 二人の指示を出す声が、被る。

「「『つばめがえし!!』」」

 まず切り下ろす二体の腕の刃が交わる。次に切り上げる返し刃が交わり火ぶたは切って落とされた。

「畳みかけな、ジュカイン」
「そのまま応戦だ、エルレイド!」

 バックステップで距離を取り合った後、『リーフブレード』を携えて再びエルレイドに突撃するジュカイン。エルレイドは『つばめがえし』の構えのまま降り注ぐ新緑の斬撃をひとつ、またひとつさばいていく。一見完璧な防衛のように見えたが、押されているのはエルレイドの方だった。ジュカインの攻撃の速さに意識を持っていかれ、対応するのに精一杯だった。

「っ、距離を取れ『テレポート』」

 ヴィクトルの判断は早かった。近距離戦から遠距離戦へと誘導させるために、エルレイドに『テレポート』を使わせる。しかし、距離を取るということは、相手のジュカインもまた自由に動ける時間が確保できるということでもあった……。
 エルレイドがテレポートで木の上までたどり着いた時、ジュカインは姿を暗ましていた。

「どこだ……?」
「ここからが正念場だよ、お二人さん……いくよジュカイン!」

 “庭師”が髪留めを取り、その飾りに付いていたキーストーンを胸元に掲げ口上を述べる。
 危機を察知したヴィクトルとエルレイドは、目視と感情の探知を利用してジュカインを捜していく。

「我ら“葉”の印を預かる守護者……其の深緑の生命力を以てして、すべてを切り刻む! メガシンカ!!」

 “庭師”の背後の草陰へと集まり爆発するエネルギー。
 ふたりがその地点に居たジュカインの姿を捕らえた時、メガシンカを終え鋭さをました姿へと変化したメガジュカインは……既に鋭利な尾をエルレイドに向けていた。

「来るぞエルレイド! 『サイコカッター』で切り抜けてくれ!」
「……『リーフストーム』!」

 尾の先端から発射された鋭い葉の塊が、空気の渦を逆巻きながらエルレイドに向かい飛ぶ。
 エルレイドが放った念動力で圧縮された刃が葉の塊の端の方に当たり、間一髪塊の軌道を上へとそらした。

「上手い!」
「いやまだだね。嵐ってものは、降り注ぐものだ。そう、こんな風に」

 “庭師”が指をはじくと上空へ向かっていた葉の塊が弾けた。吹きすさぶ風を纏った鋭利な葉の雨が辺り一帯に突き刺さる。
 葉の刃の雨を一身に受けてしまったエルレイドの身体は、バランスを崩し地面に叩きつけられる。

「エルレイドっ!!」

 エルレイドに駆け寄るヴィクトル。なんとか立ち上がるエルレイド。今の一撃は直撃ではないとはいえ大きかった。
 『リーフストーム』は放てば放つほど特攻が大きく下がる技。けれど手を緩める彼女達ではなかった。
 ジュカインの尾に、再度葉が生え始める……。
 このままでは今度こそあの『リーフストーム』の直撃をエルレイドは受けることになる。
 ヴィクトルはエルレイドに確認を取る。

「エルレイド、まだ行けるか?」

 エルレイドが大きく頷くのを見て、彼も腹を括った。
 自身の身に着けていたチョーカーの飾りの中のキーストーンを掴むヴィクトル。
 エルレイドもメガストーンを握りしめ、構える。

「己の限界を超えろ、メガシンカ……すべては守るべき光の為に!!」

 白いマントと鋭い兜から騎士を連想させる姿へとメガシンカしたエルレイド、否メガエルレイドは、その両足で地をしっかりと踏みしめた。
 メガジュカインの二度目の『リーフストーム』が、発射される。逆巻く嵐の塊がメガエルレイドへ直進する。
 防ぐのは、難しい。弾いても、範囲が広がってしまう。『テレポート』で避けたとしても、範囲外には逃れられない。
 どん詰まりの中で、彼らは選択をする。

「螺旋の『サイコカッター』!」

 メガエルレイドの両腕から放たれた螺旋を描き回転する『サイコカッター』が、『リーフストーム』の回転とぶつかり合い、勢いを相殺した。
 舞い落ちる木の葉の中を突っ切り突進するメガエルレイド。
 メガエルレイドが大技を仕掛けてくると予想した“庭師”とメガジュカインは、相手の出方を見極める。
 お互いの斬撃が当たる間合いに、入った――――

「『みきり』だ」
「『インファイト』ぉ!!」

 ――――仕掛けたのはメガエルレイドの『インファイト』。メガジュカインの懐に潜り込んで、拳を連打。だが、襲いかかる複数の拳をメガジュカインはすべて見切り、的確にかわし、いなしていく。

「まだだ、エルレイドもう一度!」
「こちらもだ」

 一切の守りを捨て、再び『インファイト』を行うメガエルレイド。それに対して二度目の『みきり』で対処するメガジュカイン。しかし徐々にその攻撃も、その回避や防御も疲労からかだんだんスピードが下がっていく……。
 息が荒くなっていく二体を見て、3度目はないとヴィクトルも“庭師”も感じていた。
 このぶつかり合いは、次の行動次第で決着がつく。そう全員が察していた。
 メガエルレイドの『インファイト』の最後の拳が振り切り、大きな隙が生まれる。
 その瞬間を“庭師”とメガジュカインは見逃さない。
 “庭師”の指示の前からメガジュカインは既にその構えに移行していた。
 指示と同時にメガジュカインの『リーフブレード』が、振り下ろされる……直前。

ヴィクトルの指示がメガエルレイドに伝わっていた。

「伸ばせえっ!!!」

 エルレイドの肘についている刀が、試合開始からこの瞬間まで伸ばされていなかった刀身がここにきて伸ばされ、『リーフブレード』を弾き、メガジュカインの意表を突く。
 その決着の瞬間、メガジュカインと“庭師”は効果など抜きに、一時だけ怯んでしまった。
 まったく怯まない精神力と紅い双眼をもって相手を見据え、伸ばしてない方の刀を淡々と切り上げるメガエルレイドに、怯んでしまっていた……。

 『つばめがえし』と叫ぶ男の声が、森の中にこだました。



* * *


「……で、母ちゃんもジュカインも負けちゃったの?」

 あの出来事からしばらく。機会があったので息子にこんなエピソードがあったのだよと、私は話していた。
 今まで語った話の流れから、息子が少し残念そうに聞いてくる。会話に合わせてくれているだけかもしれないが、少々嬉しくもあった。

「負けたよ。悔しかったねえ。約束通り、オリヴィエの花枝を渡してやったさ。でもそれだけじゃ気が済まないからね……」
「な、なにをしたのさ」
「一回そのヴィクトルの家を訪ねて、ジュカインにも手伝ってもらってね、庭に苗木を植えて行ったのさ。その息子さんが成長した時いつでも花を眺められたらいいなと思ってね。上手く育っているかは知らんがね」
「おおう。思い切ったことを。そういえばオリヴィエ君とやらには会えたのかい?」
「ちらっとだけね。ラルトスを抱っこしていたよ。ラルトスはあのサーナイトとエルレイドに、オリヴィエ君はヴィクトルとステラさんに似ていたよ。将来はどっちに進化させるかは知らないけど、手合わせすることがあったら……敵討ち頼むよ、あんたたち」
「荷が重いなあ」
「頼んだよ」

 面倒くさそうにする息子に、念を押しつつ、私は今日も庭園の手入れに行く。
 手入れをするのは見てもらってこそのモノだと思うから。
 見てもらってこそ花は綺麗になれると思うから。
 いずれ訪れる来客者の為に今日も頑張ることにした。




あとがき

 今回の技構成は

ジュカイン つばめがえし リーフブレード リーフストーム みきり
エルレイド つばめがえし テレポート サイコカッター インファイト

 でした。あまりからめ手や特性を生かしきれなかった……。でも『せいしんりょく』だけはねじ込みました。
 今回も第三視点から書いたので、なかなか心理描写を入れるのは難しいなと感じました。
 ヴィクトルの口上の「すべては守るべき光の為に」の光は、星。ステラさんとサーナイト、オリヴィエ君とラルトスのことを指しています。
 オリヴィエ君のラルトスがどっちに進化するかは、今回はご想像にお任せする、ということで締めくくります。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー