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  [No.4132] この素晴らしい世界の未来はシルフカンパニーの提供でお送りします 1 投稿者:造花   投稿日:2019/09/03(Tue) 20:59:14   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



オリジナルなガバガバ設定がてんこ盛りなので注意。後編は気が向いたら。バトル描写がメインだからヘーキヘーキ(すっとぼけ)



 シルフカンパニー、社長室。
 黒を基調としたいモダンなインテリアは、室内に厳かな雰囲気をつくりだしている。
 白いテーブルクロスが敷かれた豪奢な会議テーブルには、シルフカンパニー現社長にして最高経営者を勤める壮年の男性、黒いスーツを着こなすオールバックの強面風の装いに人の良さそうな笑顔を貼り付けたノアール・バカラ氏と、彼の腹心たちが並んでいる。白・青・赤、各々の色を自分のイメージカラーだと主張するかのような身なりをした三名の男女だ。

「計画は滞りなく進んでいるようだね」

 ノアールの発言に白服姿ののっぺりとしたポーカーフェイスの男が応える。

「あぁ、カントー地方を中心に活動していた主要なポケモンマフィアは全て支配下に置いた。不穏な動きがあればいつでも粛清できるよう手筈も踏んでいる」
「順調そうでなにより、この調子で不穏分子に首輪を繋げていこう。引き続き任せるよアイスバーグ君。インフィニティの機能拡張の進展はどうなっているかなアマクニ君?」

 名前を呼ばれた青髪の研究服姿の青年は、セールスマンのように自分の成果をまくし立てる。

「喜んでくださぁい社長、良い知らせばかりですよ!何とメタモルパッチはついにメガシンカの領域に突入できました!インフィニティを専用のボックスに数時間保管する事でエネルギーを充填、ポケットフューチャーにこの拡張アイテム・カリスマメガアクター七色ペラップくんを繋げて放出すればあら不思議!?インフィニティがメガシンカしちゃうんです!!我々の科学の力がメガシンカで重要とされるポケモンとトレーナーの絆のファクターを紐解いたのですよ!!!さらにさらにZ技やダイマックスもーーー」

 声量が徐々に上がり、たまらず赤いスーツ姿の女性が口を挟む。

「アマクニ君、落ち着いて」
「あぁ、ごめんなさいセイコさん。つい興奮しちゃってね」
「それより何だ?カリスマメガアクター七色ペラップ君だと?」
「僕の趣味ですが何か問題でも?」
「ネーミングが無駄に長いし何より変だ。我々の計画を世間に知らしめるとき笑われてしまう」
「相変わらずお堅いですねアイスバーグさんは、ユーモアの精神は大切ですよ。それに「成れ」ば誰にも馬鹿にされない。そうでしょう社長?」

「そうだねアマクニ君。でも私としてももう少し覚えやすい名前にして欲しいな。名前を言い間違えそうだよ」
「はぁ・・・つまらないですねぇ。これはカラマネロパワーの出番だ」
「止めてください」
「馬鹿な事で乱用するな」
「嫌だなぁジョークですよジョーク、ハハハハハハハハハハハ!」

 ★

 これはそう遠くない未来のお話。

 町を行き交う人々は、長方形の小型携帯トレーナーサポートアイテム・ポケットフューチャーを、必ずと言っていいほど持ち歩いている。
 ポケットフューチャーはPDAにワイヤレス通信・通話機能・ホロキャスターは勿論、ポケモン預かりシステム・オンラインポケモンセンターサービス・ポケモン図鑑など、ポケモントレーナーが求めるツールを完備しており、今や世界中にシェアを広げるシルフカンパニーの大ヒット商品である。
 ポケモンは身体を収縮させる固有の能力を持ち、肉体のデータ化もその一端である。今まではポケモンセンターに配備された専用のパソコンを通じて、ポケモン預かりシステムのボックスに、所持しきれないポケモンを預けて管理していたが、今の時代は誰もがゲットしたポケモンをその場でポケモン預かりシステムに送れるだけでなく、どんな場所でもどんな時でもボックスに預けたポケモンをポケットフューチャーを通じてその場に呼び寄せられる事ができるようになったのだ。
 今やモンスターボールはポケモン捕獲専用のアイテムとなり、大多数のトレーナーがポケットフューチャーで手軽にポケモンを出し入れして管理するようになった。
 シルフカンパニーがポケモン預かりシステムやポケモンセンターを事実上掌握する事を不安視する声も一部では挙がっていたが、シルフは過去にポケモンマフィア・ロケット団による本社占拠事件の被害を受けて以来、ポケモンの研究やポケモントレーナーを支援する慈善事業を積極的に取り組むようになり、企業信用度・好感度は極めて高く、世間はシルフの新事業を概ね歓迎・期待していた。
 ポケットフューチャーの開発者にして現シルフカンパニー社長兼最高経営責任者ノアール・バカラ氏の清廉潔白な人柄も相まり、彼等の本懐は悟られる事はなかった。

 数年前のシルフ本社占拠事件は人々の記憶から風化されつつあるが、彼等には今でも昨日の出来事のように思い出せる。ポケモンリーグや警察から見離された絶望的な状況下、理不尽と暴力で支配された摩天楼に、たった一人の勇敢な少年が駆けつけてくれた有り難い僥倖を。
 もしあの時、単身でポケモンマフィアに挑む出鱈目なヒーローが現れていなければ、どうなっていただろうか?あの日以来シルフカンパニーは変わった。表面的には微々たる変化かもしれないが、内側に決して色褪せることのないドス黒い決意を潜めるようになった。

 某月某日、その日何が起こったのか人々の記憶からは既に忘れ去られていた。少年少女は相変わらずポケモンマスタードリームに踊らされ、先細りの冒険を能天気に突き進み、行き場を失った者は徒党を組みポケモンマフィアへと成り変わり社会に牙を剥くようになる。
 かつてロケット団によって蝕まれていたカントー地方は、ロケット団の解散を期に平穏が訪れるような事はなく、今までロケット団が取り仕切っていた縄張り・資金源を引き継ぐ後継団体、或いはそれを奪い取ろうとする新興勢力や古参組織が争うようになり、治安は悪化の一途を辿っていた。
 有名どころを挙げれば、暴走族・カントーポケモン連合を前身に、多数の元ロケット団が流れ込み勢力拡大・凶悪化したポケモンライドギャング「クラッシュ団」、新世界と神の創造を教義に掲げ、ロケット団に所属していた科学者を多数引き込み、ポケモンの違法改造を繰り返す新興宗教団体「掌の神」、ロケット団との抗争に破れ長年辛酸を舐め続けてきたが、ロケット団の解散を皮切りに勢力を盛り返してきたカントー地方古参のポケモンヤクザ「黄河 尚武會」、異国から流れ着いたならず者たちの寄せ集め集団だが、なりふり構わない過激派中の過激派、かつてのロケット団と比肩される勢いを持つポケモンマフィア「ブラックサンズ」

 その時「掌の神」と「ブラックサンズ」は、タマムシシティのゲームセンター地下・旧ロケット団アジト・現掌の神のアジト内で抗争を繰り広げようとしていた。
 黒い太陽のロゴマークを旗標にする無法者たち「ブラックサンズ」の構成員たちは、地下へと続く階段へと雪崩れ込み、内部を制圧しようとポケットフューチャーから各々のポケモンを繰り出す。
 白装束姿の「掌の神」の構成員も応戦するべくポケットフューチャーからポケモンをくり出し、ポケモンの代理戦闘が幕を開けようとしていた。
ポケットフューチャーの上部右先端に小さなレンズパーツが組み込まれており、そこから放つ赤いレーザービームを媒介に、ポケモンを出し入れるするのだが・・・突如その場にいた誰もが予想だにしない事態が発生する。1匹2匹3匹4匹5匹6匹30匹100匹・・・ポケットフューチャーから彼等個人が所持する数を越えた多種多様なポケモンの群が次々と解き放たれる。
 ポケットフューチャーは預かりボックスから直接ポケモンを呼び寄せる性質上、悪用を防ぐ為に一度にポケモンを呼び出せる数は六匹までと制限されているが、彼等が所持するポケットフューチャーは壊れたプリンターが用紙を止めどなく吐き出すかのように、無数のポケモンを展開し続ける。
 ポケモンの群は一様に瞳を赤く輝かせており普通の状態ではない。「ブラックサンズ」「掌の神」共にいきなり出現したポケモンの群に声をかけるが、ポケモンはまるで聞く耳を持たずに制止している。命令や罵声を浴びせてもどこ吹く風、まるで彼等の事が眼中にないような態度だ。
 ポケモンマフィアたちが困惑して動けない中ポケットフューチャーに内臓されたホロキャスター機能が一斉に起動する。ホログラム映像に映し出されたのは気障な白スーツ姿の冷徹な顔つきの男、シルフカンパニー総務二課の課長にして社内外のトラブルを秘密裏に処理する社長直属の特命社員クレイン・アイスバーグである。当然この場にいる無法者たちは突然現れた彼が何者なのか見当もつかない。
 もっとも彼はそんな回りの反応など心底どうでも良く、事務的な態度で淡々と、状況を飲み込めず狼狽するポケモンマフィアたちに宣言する。

「お前たちは完全に包囲されている。抵抗すれば容赦しない」

 掌の神・ブラックサンズ共々、何もできずに動けない。ポケットフューチャーから自分のポケモンを呼び出そうにも反応せず、異様な様子のポケモン軍団に対抗する手段を失った彼等は降伏するしかないだろう。
 
「これからお前たちは我々の兵隊になってもらう。拒否権はない」

 アイスバーグが冷酷に吐き捨てると、ホログラム映像が途絶えると同時にポケットフューチャーから新たなポケモンが出てきたかと思えば、掌の神のアジトは赤い閃光に呑み込まれた。
 地下で何が起こったのか?スロットマシンのけばけばしい電子音は、何もかもかき消しながら延々と垂れ流される。誰も異変に気がつく事はなく、大当りを夢見て熱中しているだけ。

 ★

 現在ポケットフューチャーは、先進国での普及率の平均値が90%を越える世界的大ヒットアイテムとなり、町中で見かけない事の方が少なくなってきた。
 ポケットフューチャーの普及と共に先進国での犯罪率は激減、ポケモンマフィアと呼ばれる無法者の集まりは人々の前から忽然と蒸発したが、社会の腫れ物がいなくなる事に大多数の人々は気にも止めなかった。
 しかし、国際警察だけは世界中の信頼を寄せる大企業の裏の顔を見逃さす事はなく、水面下で進む恐ろしい計画を阻止しようとしていた。

 ヤマブキシティ・シルフカンパニー本社、社員に変装した男二人は、証拠を求めて社内を探索している。
 一人は国際警察のエリート捜査官にして変装の達人、コードネーム・ハンサムは、赤いスーツを自然に着こなすノアールお気に入りの美人秘書クレナイ・セイコに変装しており社内を我が物顔で大胆不敵に物色していた。
 もう一人の男は、七三分けの髪型に伊達眼鏡をかけた平社員風の出立ちで、ハンサムの後に続く。彼はハンサムが協力を要請したとっておきの用心棒である。
 シルフの研究ラボに潜入した二人は、ノアールに匹敵する重要参考人にして、要注意危険人物としてマークされているシルフカンパニー研究部門プロジェクトリーダー、アマクニ・アオイと接触した。

「これはこれはごきげんよう!今日も麗しいですねセイコさん!何かご用ですか?デートのお誘いならいつでも大歓迎なんですけどねぇ!ハハ!」

 青髪の青年は下劣な表情を浮かべながら軽口を叩くが、ハンサムの正体は気がついていないようだ。

「ふざけないで、計画の進展はどうなっているのかしら?」
「順調順調!ニッポン国中のポケモンは洗脳ウィルスで掌握済み。クーデターはいつでも引き起こせますよ!世界各国のポケモンも問題なくウィルスを仕込んでる最中です!」
「・・・・・・っ!?」

 アマクニの口から飛び出てくる狂気の計画は、国際警察が把握しているよりもずっと進展しており、ハンサムは思わず戦慄する。
シルフカンパニーは安価な価格、或いは無料で最新のトレーナーアイテム・ポケットフューチャーを世界中に供給していた。その善意の裏側で、世界中のポケモンをポケットフューチャーの預かりシステムを介して、ポケモンに作用する特殊なコンピューターウィルスを感染させて洗脳、ポケットフューチャーを利用するポケモントレーナーたちを無力化すると同時に、洗脳ポケモン軍団で世界の国々を制圧しようとする大胆不敵な野望を秘めていたのだ。

「???どうしたのセイコさん?そういえば何か今日はいつもよりも少しだけ厚化粧ですね?体調でも悪いのかな?」
「ほっといてくれる」
「これは失敬、ところで後ろの彼は誰?」
「新入りの秘書です」
「へー、やぁ新人君!僕はアマクニ・アオイ、シルフカンパニーの中枢を担う技術開発担当です!よろしくね!」
「・・・・・・」
「えぇ・・・ガン無視ですか?酷くない?」
「この子、人見知りで無口なの」
「それって秘書勤まるのかい?」
「まぁ、秘書とは名ばかりの特命社員ですので」
「あぁ、所謂アイスバーグさん枠だ。どうりでね!納得したよ納得!」
「それはどういう意味だ?」

 刃物のように鋭い声がハンサムたちの背中を突き刺す。刹那、ラボの室温がみるみるうちに下がり出し、吐息が白く染まる。
 振り向けば、生気を感じさせない人形じみた顔つきをした白服の男、シルフカンパニー内外で暗躍する仕事人クレイン・アイスバーグと、真っ赤なレディーススーツ姿の妙齢の女性クレナイ・セイコがいる。

「げげっ!アイスバーグさんに・・・ダブルセイコさんっ!?」
「気をつけてアマクニ君!彼等は国際警察の潜入捜査官よ!」
「ばれたなら仕方ない!」

 本物のクレナイ・セイコと遭遇したハンサムは即座に次善の策を打つ。全身に纏りつかせていたメタモンの変身を解除させると、新たな姿に変身させる。
 ハンサムは自分たちの正体がバレた時の為、メタモンには即座に別の姿に変身して対抗できるよう、協力者が所持する手持ちポケモンの姿を一匹だけ記憶させていた。
 メタモンの体はみるみるうちに膨れ上がり巨大な肉壁・・・否、居眠りポケモン・カビゴンに変身すると、アイスバーグたちの前に通せんぼするかのように立ち塞がる。対するアイスバーグはポケットフューチャーをメタモンに向ける。

「失せろ」

 刹那、ポケットフューチャーから赤いレーザービームが照射される。赤い光源の中から何かが肥大しながら飛び出てくる。そいつは1mはある巨大な氷柱となり、次々とカビゴン化したメタモンにぶつかっていく。
 メタモンはカビゴン特有の厚い脂肪で覆われトランポリンのような腹で、氷柱を次々と受け止めては跳ね返し、ダメージらしいダメージは受けていない。しかし氷柱たちの本当の攻撃はこれからである。
 弾き返された氷柱はむくりと起き上がり縦に浮遊する。その全貌をよくみれば氷柱と言うよりは、ソフトクリームのように見える。巨大な氷柱の正体は氷雪ポケモン・バニリッチとブリザードポケモン・バイバニラの群だった。バニリッチたちは次々とカビゴン化したメタモンに肉薄する。
「払い除けろ!」と危険を察知したハンサムがメタモンに指示を出すが、もう遅い。

「絶対零度」アイスバーグの指示を受けたバニリッチたちは、氷の肉体から凍てつく冷気を一斉に解き放ち、瞬く間にカビゴン化したメタモンを氷漬けにして戦闘不能に追い込む。
 しかし、その瞬間、ラボ内に稲妻の如き閃光が縦横無尽に駆け巡り、バニリッチたちを強襲、氷の身体を粉砕しながら蹂躙、瞬く間に群れを始末したかと思えば、雷を纏う何かはアイスバーグの死角に回り込んで突撃する。
 アイスバーグは顔色一つ変えない。シルフの汚れ仕事を一身に引き受けてきた男は、奇襲に対する対応は手慣れていた。
 稲妻がアイスバーグに衝突する寸前、突如虚空に部厚い氷壁が発生、雷の如き強襲を跳ね退ける。
 氷壁の正体は、結晶ポケモン・フリージオだ。アイスバーグは常にいざという時の為、フリージオを水蒸気化させて追従させている。護衛や奇襲様々な面で彼をサポートする付き合いの長い相棒と呼べる存在である。
 それ故に今まで無表情を貫いていたアイスバーグは僅かに顔色を曇らせる。フリージオはたった一度の攻撃を防いだだけで粉々に砕け散り戦闘不能に陥ったのだ。
 フリージオは物理的な攻撃には脆い性質があるが、それでもアイスバーグは自身のボディガード役として鍛え上げ信頼を寄せていた。
 稲光の奇襲を仕掛けてきたポケモンは相当な手練である。その正体を目の当たりにしたアイスバーグは目を見開き動揺する。

「ピカァ!!」

 姿を現したのは、頬の赤い電気袋から電気をほとばしらせながら身を屈めて威嚇行動を行う電気ネズミポケモン・ピカチュウだ。見た目は可愛らしいマスコットのようなポケモンだが、あの電光石火の身のこなしと一撃の破壊力は、相当な場数を踏んできたレベルの高さを示している。
 この抜き差しならない状況で、敢えて愛玩向けの未進化ポケモンを采配する胆力を持つポケモントレーナーをアイスバーグは知っている。彼だけではない。そのピカチュウを目にした瞬間、クレナイとアマクニもアイスバーグと同じ事を考えていた。

「まさか君がやって来るとはな」

 ハンサムが戦闘不能状態のメタモンをモンスターボールに回収する。その隣で青年は伊達眼鏡を外しながら七三分けのヘアスタイルを解くように掻き上げる。いつも愛用しているキャップ帽子は被っていないが、その勇ましい英雄の顔立ちを、この場にいるシルフ社員たちは決して忘れてはいない。

「・・・・・・」

 多くは語らない無口な人物だ。しかし、その双眸には力強い意志が宿っており、不言実行でポケモンリーグを制覇・ロケット団の悪事を単身で暴き解散に追い込んだ生ける伝説。ポケモントレーナー・レッドが再びシルフカンパニー本社に姿を現した。
 しかし今回の彼は、国際警察の協力要請を受けて、水面下で途方もない大事を仕出かそうとするシルフカンパニーの野望を止めにきたのである。
 レッドは無言のまま、腰に着けたホルダーからモンスターボールを一つ取り出し、力強く握り締めてアイスバーグたちに突き出して見せる。
ポケットフューチャーとは別に、手持ちのポケモンを6匹だけモンスターボールに収納して持ち歩く、昔ながらのトレーナースタイルを愛好する者は現在でも少なくないが、彼もそのうちの一人だった。
 無言のまま、対立する意思表示をするレッドに対し、アイスバーグとクレナイは顔を見合わせ何かを確認し合うと、クレナイが一礼して前に出てきた。その表情はどこか憂いを帯びているように見える。

「レッド様ご無沙汰いたしております。お陰さまでシルフカンパニーは今日まで存続できました。あの時のレッド様の勇敢な行動の数々、非常に有り難く存じております。本日は国際警察の・・・ハンサム様と弊社の秘密を暴きに来られたと存じます。まことに恐縮ですが、弊社の計画を止める事は致しかねます。例えレッド様が立ちふさがろうとも・・・我々は止まりません」

 クレナイが語り終えるや否や、アイスバーグとアマクニは己のポケットフューチャーを前方にかざし、赤いレーザービームを照射、多種多様なポケモン軍団がラボ内をひしめくように占拠して、レッドたちを完全に包囲してみせた。異変を察知したピカチュウは高速移動でレッドの側に駆け寄り、主人を守ろうと健気に威嚇行動を示すが、ポケモン軍団は瞳を赤く輝かせるだけで意に介さない。

 追い詰められたハンサムは苦虫を噛むような表情を浮かべながら吠えた。

「こんな・・・ふざけるのもいい加減にしろ!皆が大切に育てたポケモンを身勝手な理由で洗脳して、操り人形のように扱き使う!なぜこんな卑怯な真似ができる!君たちシルフカンパニーの事を信用して期待を寄せる人々を平気で裏切れるんだ!?」

 ハンサムは普段のとぼけた様子から一変、珍しく怒りの感情を爆発させた。レッドは相変わらず沈黙を破る事はないが、その眼光は鋭さを増すばかり。
 憤りを露にする二人に対し、クレナイは怯む事なく毅然とした態度のまま、シルフカンパニー社長秘書の体裁を自分の言葉と共に吐き捨てる。

「裏切りですか・・・私はそうは思いません。例えば、もしも大切な人が過ちを犯そうとした時、それを止めようとするのは裏切りでしょうか?黙って見過ごすのが貴方の言う信頼なのですか?」
「そんなの止めるに決まっている!それが信頼関係だろう!んん!?何が言いたいんだ!?」
「我々は今の混沌とした世界の在り方を整備する為、全世界に同時クーデターを仕掛けるのです」
「世界のカオスを止める為に世界征服だと?ポケウッドの新作映画の話か?」
「荒唐無稽に聞こえますが、我々は本気です。19××年初等、災害級の力を秘めたポケモンの脅威から人類を守る為・・・等、様々な理由を建前に、世界各国はポケモントレーナーの育成に力を入れてきましたが、トレーナー育成だけに傾倒した世界各国の無軌道な愚民化政策がもたらしたものは新たな脅威の拡散です。我が社がモンスターボールを安価な価格で普及して以来、誰もが好きなポケモンをパートナーとして選び自由に持ち歩く事が許され、ポケモントレーナーのレベルも急激に高まりましたが、その一方で危険なポケモンを悪用する者が爆発的に増えてポケモンマフィアが世界中で台頭、さらに一握りの成功者以外は振るいにかけられ、挫折したポケモントレーナーが行き場を失い反社会勢力化は増加するばかり。我々は現状を憂い、国やポケモンリーグに法律の見直しを求めましたが、現状を維持したい彼等には聞き入れては貰えませんでした。世界中で、伝説のポケモンを悪用しようとするポケモンマフィアの野望を阻止するポケモントレーナーたちの英雄譚が持て囃されていますが、いつまで首の皮一枚で世界の平和を繋ぎ止める気でいるのか・・・・・・正気の沙汰じゃない。我々は原因の一端を造り出した者として、責任を果たさなければならないのです。いつまでも赤の他人に自分たちの尻拭いをさせる事はできません。ねぇハンサムさん、貴方はどう思いますか?」
「ぐぬぬ・・・しかし、だからといって君たちがポケモンたちにしている事はなんだ?君たちの目的は理解できる部分もあった。正直すごく耳が痛い、痛かったぞ!だがしかし、罪のないポケモンたちを無理矢理操るのは見過ごせない」

 クレナイの言葉に何故か動揺を隠せないハンサムだが、まだ折れるわけにはいかない言い分がある。どんな立派な正義を掲げようとも無関係な者を巻き込み利用しようとしている事は国際警察として・・・否、一人の人間として許せない。

「ハンサムさん、ここにいるポケモンよくみてよ」

 今まで静観していたアマクニが突如割って入ってきた。
 ハンサムは彼に言われた通り、自分達を包囲するポケモン軍団を見渡すが、その真意を読み解く事ができない。
 何も変な所はない。ミミッキュにゲッコウガ、タツベイ・ヒトカゲ・ダンバル・ヒポポタス・ヒトツキ・ギャラドス・アチャモ・ゴース・ガブリアス・ガルーラ・ナットレイ・キノガッサ・クチート・ヨーギラス・リオル・メラルバ・グライオン・ストライク・ヘラクロス・フシギダネ・エアームド・ロトム・カイリュー・グレッグル・・・他にも多くさんいるが、プロを志すようなポケモントレーナーではないハンサムには、彼等の大半が抱える問題を理解できないのだ。ハンサムの困惑する様子を察したアマクニは、頭を軽くかきむしりながら解説する。

「ここにいる大半のポケモンは生まれて間もなくボックスに預けられて、放置されたまま、ボックスから僕たちに間借りされている事にすら気づいて貰えない、孵化後放置ポケモンたちなんだよ」
「な、なんだって・・・!?」
「最近になってようやく社会問題として取り上げられてるよね?世界レベルで活躍するプロのポケモントレーナーたちはポケモンバトルの勝利を追求するあまり、より強いポケモンを厳選して育て、目に叶わなかった水準以下のポケモンは全てボックスに預けたまま放置してるってニュース。ボックスに預けられたポケモンは自分の肉体をデータ化して冬眠状態になるんだけど、それは倫理に反するんじゃないかって、でもそれを規制する法律は存在しないから、どんなに活動家の皆様が喚いても問題は解決されないまま、今日も世界中で生まれたてのベイビーが問答無用にボックスに詰め込まれてるのさ」
「ハンサムさん、ポケモンの洗脳は一時的な措置です。彼等は我々の人質であり抑止力、クーデターを起こす際、ポケモントレーナーを無力化する為の有効な手段の一つなのです。我々が洗脳しているだけの無実のポケモンたちを傷つける事はできないでしょう?でも・・・もしこの場にいるポケモンたちに自由な世界を約束して協力を要請すればどうなるでしょうね?もし積極的に協力してくれたら?ポケモントレーナーのメンツはどうなるかしら?ポケモンには知能の差はあれ、自我や感情は我々と同様に持ち合わせています。我々人間が所持する都合のいい暴力装置ではありません。ポケモンの解放・・・それも今回のクーデターの目的の一つなのです」

 クレナイたちは社会が抱える問題を後ろ楯にして、自分たちの主張を正論に仕立てあげているようだ。
 どこか抜けている所もあるが、ハンサムは国際警察の最前線で、様々な悪党と対決してきた男だ。本当に大切な事は決して見誤らない。

「・・・・・・今のは詭弁にしか聞こえないな。どのような大義名分・正義を掲げていようとも、何も知らないポケモンを自分の目的の為だけに勝手に利用するなんて事は断じて許されない。孵化放置ポケモンが紛れていると言ったな。彼等の境遇は不憫だ。だのに、なぜ追撃ちをかけるような真似をする?ポケモンは我々と同じ生き物だ。何かちょっとしたはずみで命を失うことだってあるんだぞ。私は君たちが引き起こすクーデターをこのまま見過ごす訳にはいかない!」

 息巻くハンサムに、クレナイは眉をひそめる。シルフの情報網から知り得たハンサムの人物像は、将来有望なポケモントレーナーにすり寄り、手柄を掠め取る小判鮫のような姑息な男だったが、実際に相対してみるとなかなかどうして、煮ても焼いても食えそうにない。
 ハンサムはクレナイたちにビシッと指を指しながら、さらにシルフの余罪を切り込むように畳み掛ける。

「シルフカンパニーの他の社員たちは?上層部は?君たちの野望を賛同しているのか?反対派はどうした?それに各国で行方を暗ましたポケモンマフィアたちは?君たちが関与している事は既に裏がとれているぞ」
「さて・・・何の事でしょう?」
「今更しらを切っても無駄だ。大人しく自首しろ」
「自首だと?笑わせるな」

 アイスバーグはわざとらしく周りを見渡して、洗脳したポケモン軍団がいる事をハンサムたちに改めて誇示する。

「一思いに始末する事もできるが、それは我々としても不本意だ。計画が成功するまでお前たちは監禁だ」
 アイスバーグはポケットフューチャーからハンサムたちを拘束するよう指示を出すと、ポケモン軍団一同はハンサムたちを狙いを定め、一斉に動き出そうとする。
 その瞬間、レッドは沈黙を破る代りに、今まで握りしめていたモンスターボールを床に投げつけて解放する。眩い閃光と共に、あらゆる諍い事を忘れさせて恍惚してしまいそうな・・・この世のものとは思えない心地よい花の香りが解き放たれ、ラボ内に充満する。
 中から現れたのは背中に大輪の赤い華を咲かせるカエルのような姿のポケモン・フシギバナである。
 フシギバナの花から発する香りは、戦う者の気持ちを宥めてしまう効果がある。シルフカンパニーとの戦いに備えて、最高のコンディションで整えらたレッドのフシギバナは、指令を帯びた洗脳ポケモン軍団を静止させるまでに香りの効能を極めていた。しかし、これはまだほんの挨拶代りに過ぎない。
 フシギバナは出現から息もつかぬうちに、大輪の花から睡眠作用のある花粉・眠り粉を大量に放出、無数の花弁と共にラボ中に撒き散らす。花粉を浴びたポケモンたちは昏睡状態に陥り、その場に次々と崩れ落ちていく。その脅威はポケモンだけにあらず。

「ワッハハハハハハ!ナイスタイミングだレッド君!!!これで・・・ぐがぁぁぁぁぁぁzzzZZZZZZ」

 高笑いをあげて眠り粉をまともに吸引したハンサムは瞬く間に昏睡してしまう。主人の危機を察したグレッグルはモンスターボールから勝手に飛び出て、毒突きのモーニングコールを独断決行。ハンサムは何事も無かったかのようにクールに飛び起きた。敵味方問わずに戦況は一変していくが、アイスバーグたちも黙ってそれを見過ごす訳もない。

「あのフシギバナを止めろ」

 アイスバーグが何かに指示を出すや否や、フシギバナは突然のたうち回り攻撃の手を緩める。

「バナァァァァァァアアアアアア!?」

 洗脳ポケモ軍団はほぼ無力化しているにも関わらず、何者からかフシギバナは謎の攻撃を受けている。素人目からはそう見えるだろう。

 現に謎の怪現象を前にしてハンサムは「てぇへんだ!なんじゃこりゃあ!!」と動揺するが、幾多のポケモン・トレーナーたちと対決してきたレッドは既に敵の正体を看破していた。
苦悶の表情を浮かべるフシギバナの影の中で、口を裂かしながら邪悪に嗤う何かが潜んでいる。
 レッドと目が合ったそいつは、大きな舌を出してあっかんべーでもするような挑発の素振りをする。刹那、影の中に潜む悪意に向かって容赦なく迅雷が落ちる。
 ピカチュウの疾風迅雷の一撃・ボルテッカーの直撃を受けたシャドウポケモン・ゲンガーはフシギバナの影の中から飛び出てくると床に踞ったまま沈黙してしまった。

「馬鹿な・・・!?」

 アイスバーグは動揺する。フリージオと双璧を為す虎の子の切り札・常に自分の影に潜伏させながら標的を人知れず呪い陥れる暗殺特化のゲンガーを、こうも簡単に正体を見破り、問答無用に葬られた事は今まで一度も無い。ポケモントレーナーとして格が違うのは重々承知していたが、これ程までとは想定外だった。
 呪いの拘束から解放されたフシギバナは意趣返しと言わんばかりに、青筋を立てながら無数の蔓を伸ばし、アイスバーグたちをグルグル巻きにして拘束してしまう。

「ウッソでしょ何これ!?アイスバーグさん他に何か潜ませてるどっきりジョーカー的な切り札ないの?」
「・・・・・・すまない、こうされては手も足も出ない」
「嗚呼、文字通りですね。ハハハハハハ」
「・・・・・・社長、申し訳ありません」

 圧倒的な優位な立場から一転、追い詰められたクレナイたちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるしかない。
 しかし、彼等はまだ敗北してはいない。監視カメラ越しに全てを見ていた彼は、床に落ちているポケットフューチャーを起動させて、ホログラム映像を浮上させる。
 現れたのは、黒い礼服姿の紳士・シルフカンパニー現社長ノアールだ。

『さすがはレッド君、見事な腕前ですね。アイスバーグ君たちもよくやってくれた。後は私が引き受けよう』

 ホログラム映像が途絶えると、ポケットフューチャーから何かが放出された。そいつは赤色と青色が不規則に混じり合う多角形の球体だ。全長はサッカーボールくらいの大きさで、ふわふわと浮遊している。
 何だあれは?そんな思考が巡る前に多角形の球体は一変、球体を構成する面が一斉に分離、謎の球体は新たな姿へと形を造り換わり、赤と青のツートンカラーもみるみるうちに山吹色に変色する。
そいつはハンサムにも見覚えがある。二本のスプーンを両手に握る立派な髭を蓄えた念力ポケモン・フーディンだ。
 フーディンに変身したそいつは、全身から青白い光を放ちながら両手のスプーンをグニャリと曲げて超能力・テレポートを発動、レッドたちは眠り伏すポケモンたちを残して研究ラボから姿を消す。

 テレポートの行く先は広大な競技場・ポケモンスタジアムだった。晴れ渡った空のもと、観客席には人っ子ひとり誰もおらず静寂が場を支配しているが、競技場の中心には誰かいる。ノアールとフーディンに、周りには蔓の拘束から逃げ延びたアイスバーグたちもいる。

「ここは・・・どこだ?」

 ハンサムとグレッグルは辺りをキョロキョロ見渡すが、今だに状況を飲み込めていない。そんな彼等にノアールは穏やかな口調で語りかける。
「シルフカンパニーが所有しているポケモンスタジアムだよ。今日はご覧の通り貸し切りさ」

「こんなところに連れてきて何をすると言うのだ?」
「野暮な事をききますねハンサムさん、ここはポケモンスタジアムですよ。何をするって・・・・・・やる事は1つしかないでしょう?」
 ノアールは朗らかな顔のまま、レッドをじっと見据える。それだけの事なのにピカチュウはレッドの前に出ると、赤い頬から火花を散らして威嚇行動を行う。

「相変わらず血気盛んなピカチュウだね」
「・・・・・・」
「君も相変わらず無口なままだ。しかし君はそのままでいいのかもしれないね。我々はあの日以来変わったよ。変わらずにはいられなかった」
「変化の行く先がこの世界への背信というのか?」

 ハンサムの横槍に、ノアールは否定することなく、落ち着いた様子のままに受け答える。

「そうですね。我々は、我々を信頼してくれた人々を裏切っているのかもしれない。しかし、例え世界の全てを敵に回そうとも今の世界のあり方だけは変えなければならないのです」
「なぜこんな急進的且つ過激な手段に出るのだ。シルフカンパニーならいくらでもやりようがあるんじゃないのか?」
「時間をかければいくらでも方法はありますよ。でもそれじゃあ駄目なのです。時間は止まってくれない。じっくり腰を据えて話し合いをしているうちに、世界の状勢は常に変化し続けます。我々は取り返しの付かない事が起こる前に先手を打たなければならないのです。もうこれ以上のんびりしてはいられない。ハンサムさんなら知っているでしょう?カロス地方でかつて暗躍していたフレア団の事を」

 フレア団の名を聞いた途端、今まで雄弁だったハンサムの口が重く閉ざされる。その様子を察したノアールは物思いに耽るように言葉を連ねていく。

「私はカロス地方出身でね。故郷にはとても尊敬していた友人がいた。彼は炎のように情熱的な人で高潔な理想を抱き、誰よりも優しく純粋な心の持ち主だった。争いのない世界を本気で作ろうとしていて、自ら率先して様々な慈善活動を取り組んでいたよ。でも思うような成果を得ることができず、そればかりか恩を仇で返すような目に合っていたらしくら少しずつ狂いはじめた。彼にとってこの世界はあまりにも混沌としていて醜すぎたのかもしれない。精神的に追い詰められた彼はフレア団を結成し、カロスに言い伝えられる最終兵器を自らの手で復活させて、世界を一掃しようとしたそうです。まぁその野望も失敗に終わり自滅しましたがね・・・・・・我々はこの事案を取り上げて世界各国の政府やポケモンリーグに抗議しましたが、聞き入れては貰えなかった。彼等は決まってこう言ったよ。ポケモンを所持する事を今更規制できない。規制してしまえばポケモンマフィアに対抗できる優秀な人材が育たないとね。彼が・・・・・・フラダリが狂うのも無理はない。もしかしたら彼は誰よりも正気だったのかもしれないとすら思えてくる」
「何を言い出すかと思えば・・・まさか貴方とフラダリに交友が合ったとはな」
「おや、以外でしたか?彼は道を誤り理想の果てに燃え尽きましたが、彼が残した火種は消えていなかった。彼に代り我々シルフカンパニーが争いのない世界を創造する。例え世界中を敵に回そうとも、モンスターボールを開発して万人にポケモンを所持する自由を与えた我々の責任を果たさなければならない。故に誰であろうと邪魔者は排除する」

 言葉を連ねる度にノアールの語気は強まり、朗らかな表情に潜めていた険しさを露にする。

「さて、御託だけを並べても何も始まらない。レッド君、ポケモンバトルをしよう。我々シルフカンパニーは君に挑戦したい。我々が勝てば洗脳ポケモン軍団を使ってクーデターを決行する。君が勝てばシルフ管轄のポケモンたちから洗脳ウィルスを取り除くと約束しよう」
「なに勝手な事を急に言い出すんだ!」
「何か不満ですかハンサムさん?貴方たちに有利な条件を提案したつもりですが・・・・・・貴方たちを問答無用で始末する事だって我々には出来るんですよ」

 ノアールが合図を送るかのように手を挙げると、スタジアムの観客席に無数の老若男女たちが雪崩れ込んできた。

「な、何だ彼等は・・・!?」
「我々の協力者とでも言っておきましょうか。私とレッド君はこれからポケモンバトルを始める。もし断れば・・・例えば、群集の中から恐ろしいモノが貴方たちの頭を狙って飛んでくるかもしれませんね。勿論やり方は他にも色々ありますよ」
「・・・っ!卑怯だな。ポケモンマフィアよりも酷い。ポケモンバトルも多勢に無勢でリンチでもする気なのか?」
「リンチ?・・・あぁ、洗脳したポケモンたちは使いません。彼等はあくまでトレーナー封じの副産物・虚仮威しの軍団です。多勢に無勢で制圧するには使えますが、ポケモンバトル向きじゃない。先程フシギバナ一匹に無力化されましたでしょう。我々の本命はこの子です。紹介しましょう。ポリゴン∞(インフィニティ)、元の姿に戻れ」

 ノアールが命じた瞬間、フーディンの姿に化けていたソイツは、身体を構成する多角形の面を表面に浮かび上がらせると、一瞬のうちに分離して再度、赤と青のツートンカラーが不規則に入り乱れる無機質な球体に変身する。

「ポリゴン∞だって?そいつがポケモンなのか?」
「はい、シルフカンパニーが開発した人工ポケモン・ポリゴンシリーズの最新バージョン、世間には存在を伏せているとっておきの秘蔵っ子です」  
「・・・秘蔵っ子と言う割には愛着のある姿には見えないが」
「鋭いですねハンサムさん、ポリゴン∞は愛玩用ではなく、現在の世界を支配する体制を打破する為にデザインされたポケモン兵器ですからね。我々の全てを注いだ秘密兵器が最強のポケモントレーナーと最強のポケモンたちに通用するのか、クーデターを始める前にテストできるのは有り難い僥倖です」

 ノアールが語り終えると、それに呼応するかのようにレッドとピカチュウたちは前に出る。

「レッド君、闘うつもりなのか?」ハンサムに問にレッドはただ頷くだけ。しかし、その顔は追い詰められた状況なのにも関わらず笑みを浮かべていた。

 彼はハンサムの要請を受けてシルフカンパニーに乗り込んだ。罪のないのポケモンたちがいいように操られている事が許せないという義憤もあったが、一番の理由は好奇心かもしれない。
 ピカチュウとフシギバナをモンスターボールに戻すと、腰のホルダーから別のモンスターボールを取り出して身構える。

「・・・・・・!」
「ありがとうレッド君。さぁ戦おう、世界の未来を賭けて対決だ」



 つづく


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