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  [No.4142] 丁と半 投稿者:焼き肉   投稿日:2019/12/29(Sun) 16:14:03   26clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ファイアレッド】 【グリーン】 【ギャンブラーのケンキチ

一応初代からやってて本当に今更なんですが、今更になってグリーンさんとレッドさんにめっちゃくちゃハマってしまって毎日が楽しいです。これまた今更やってるんですが、ファイアレッドのエンドロール演出すごく良かったなあ……ポケモンソードはとっくに買っていて、ファイアレッド一通りやったらやろうと思ったのにピカブイやりたい欲がすごいです。というわけでグリーン+レッド(出てこないけど)っぽいギャンブラーのケンキチさんとグリーンさんの話です。





 ワシは今まで一度も勝ったことがない、というケンキチと名乗ったギャンブラーとのポケモン勝負に、当然のようにグリーンは勝った。
 
「強いなあボウズ」

 負けたくせにへらへらと笑うその顔。グリーンは気に入らなかった。
 
「……負けたのに諦めた顔で笑ってんの、ダメ人間っぽいぞ、じーさん」
「ハッハッハ、言ってくれる。まあこの年まで負け続き、それでギャンブルなんてどうしようもないもんがやめられんから、否定もできんわな」
 
 言いながらサイコロ二つを片手でもてあそぶ動作だけは年季が入って様になっていて、それもまたグリーンの言うダメ人間っぽい。
 
「勝負は時の運だ……そう思わないと落ち込むよ」
「それで今まで勝ったことないんだから、世話ねーぜ」
「流石に勝ったことくらいはあるぞ? ギャンブルじゃなくてポケモン勝負の話だが」
「なんだよー、後出しじゃんけんとかずっりいの」
「反則でも勝ちは勝ち。作戦と言ってくれ」

 誇らしげに手持ちのガーディとロコンを撫でるケンキチは、自己申告よりはベテラントレーナーの顔だ。
 
「本業ダメでもポケモン勝負はわからない。だからポケモンは面白い」

 クゥン、コーンと親愛を込めて鳴くロコンとガーディに頬を緩ませながら、ケンキチは問う。

「ボウズも負け続けでも諦められない、そういうもんがあるんじゃあないのか?」
「……」

 赤い帽子に赤い上着の、同じ日に旅立った幼なじみがグリーンの頭に浮かぶ。
 これまで何度もポケモン勝負を挑んでは負け続けている。
 オレが弱いわけじゃない。だが結果は結果。
 口の減らないグリーンが、ケンキチにそんなに負け続けてんならやめちまえば、とまでは言えなかった理由。

「強いボウズのこれからの幸運を祈って、運試しといこうか。丁半って知ってるか? サイコロを二つツボや皿に入れて振って、出た数の合計数が丁──ちょうど2で割り切れる偶数か、半──2で割り切れねえ奇数かを選んで賭ける、技術もなんもいらねえ、カントー古来からあるシンプルなバクチだ」
「……サイコロか振る人間に、仕掛けでも入ってなきゃそうだろーな」
「ハッハッハ、素人の割に鋭いじゃないかボウズ。だがまあ、それをワシがやってたら負け続けでここまで来んよ」

 笑いながら小さなツボとサイコロを用意する手つきと、賭け事を前に楽しそうな様子には、自分自身にしか誇れないプライドがあった。

「どっちにしろ今回はお互い掛け金なし、イカサマなんぞをする必要もなしだ。ボウズ、どっちに賭ける?」
「……じゃあ、丁」
「ならワシは半だな」

 小さなツボにサイコロを入れ、ツボの口を抑えながらカラカラ振って地面に逆さに置く。
 一連の動作が高速移動をしたポケモンみたいにすばやく、グリーンは目で追い切ることが出来なかった。

「さあて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 ケンキチがツボを退けた先にあったのは、二つそろいの四の目。

「また負けた! ボウズの勝ちだ! 喜べ!」
「へっへーん、これくらい楽勝」
「まあギャンブルで勝ったことのないワシに勝てたところで、ご利益があるかは怪しいがなあ」
「意味ねーじゃねえか!」
「ついでに言うと四と四の目というのも不吉だな」
「おい!」

 さっき一連の動作をちょっとカッコイイと思って損した、とグリーンは思う。やっぱりギャンブルのやりすぎでちょっと変になってるただのジジイだコイツは。

「……だからせめて、丁半の丁の数のように──どんな結果が出ても、ボウズが割り切れるように祈っとるよ」
「っ!」

 好きな物を楽しむ子どもの顔と、結果を受け止められる大人の顔が混ざったような表情で言われて、グリーンはとっさに言葉が返せなかった。
 こんな変なジジイにこれ以上関わっているヒマはない、とばかりに背を向ける。

「オレは老いぼれたじーさんとは違う! 絶対に勝って、アイツも! じーさんもみんなみんな!認めさせてやる!」
「ハッハッハ、がんばれえボウズ!」
「……じーさんも! バクチはほどほどにしとけよ!」
 
 肩を怒らせて去っていくグリーンは、結局最後までケンキチにやめろとまでは言えなかった。

「若いなあ」

 少年が去った後、ケンキチは呟き、

「ワシもまだまだ青いか」

 去っていく勝者の検討を称えるように、ウオーンコーンと吠えていたロコンとガーディを撫でた。
 


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