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  [No.4145] わたしたちだけが知っている 投稿者:焼き肉   投稿日:2020/01/20(Mon) 06:25:27   22clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ピカブイ】 【シンアユ】 【カラカラ

 ピカブイにハマってます。カラカラとガラガラ親子周りのアレンジがすごく好き。初代くらいシンプルな話なら初代くらいの味付けでいいと思うんですが、グリーンさんが成長していい先輩になってて、他の大人たちも頼りになって、世界が開けて優しくなってるピカブイだとこういうアレンジって大事だなあって思ったり……。




「ピッちゃん、サイコキネシス!」

 アユミの指示に従って、ロケット団のしたっぱが繰り出したゴルバットに、ピクシーのピッちゃんが強い念力を送る。タイプこそ不一致だが、エスパーと同じ不思議を操るフェアリータイプのピクシーなら、サイコキネシスくらいお手のものだ。

 レベル差と高いとくこうもあって、一撃でゴルバットが地に伏せる。無力化されたロケット団を放っておいて、次へと進む。今アユミは、シンと手分けしてシルフカンパニーのロケット団の制圧中だ。ボスを叩くのが一番手っ取り早いだろうが、進む先の障害となる相手は倒さねばならない。ちょうどまた黒ずくめの姿が見えたので、勝負を挑むべくボールを構える、と。

「ちょっとこっち見ないでよ! 目つきのわるいコに負けてもうポケモンの体力残ってないのよ!」

 泣きそうな顔で懇願されてしまった。いくら悪い奴とはいえ、アユミもすっかり戦意喪失している相手においうちをかけるような真似はしたくない。それはいいのだが。目つきのわるいコって誰だ。

 肩のピカチュウのピカットと顔を見合わせたら、ピカットがちょうど誰がの顔マネをして目を悪い感じにしていたのでわかった。シンだ。一緒にロケット団を制圧してるといったらシンしかいないのだがら当たり前なのだが、ロケット団の下っ端の女のシンの表現が聞き慣れなかったもので、認識が遅れてしまった。

 アユミの知るシンは良く笑うし良く驚くし良く目を輝かせる。ロケット団が言うような印象はあるけれども薄い。大人の世界、って感じのむつかしそうな資料が並んだ本棚や、パソコンが置いてある建物内を進んでいくと、シンと合流した。確かに顔を見ると白目が多くてキリッとした目だ。印象はちょっとグリーンに似ているかもしれないが、年上だけれど結構可愛い顔をしたグリーンよりもキリッ度が高い。

「こっちは大体片付いたと思うぞ。アユミの方はどうだ?」
「うん、わたしの通って来たところにいたロケット団はもう戦う気力残ってないと思う」

 状況確認をしていたら、後ろからドタドタとイラついた足音が聞こえて来た。

「テメエら! 好き勝手やってんじゃねえぞ! ガキだと思って容赦なんかしてやんねえからな!」

 仲間の仇討ちに燃えあがっているらしいロケット団のしたっぱが、ボールからアーボックを出す。威嚇する大蛇をむうっとにらみ返して腰のボールに手をやるが、シンが腕でそれを制した。

「アユミもここまで戦いっぱなしで疲れてるだろ? ここはオレに任せとけ」

 言ってシンはボールを投げる。出てきたのは骨を被った小さなポケモン。アユミがロケット団の地下アジトまで助けに行ったカラカラだ。

「その子……」
「うん、まだレベルも低かったからしばらく直接戦わせるのは控えてたんだけど……コイツも戦いたがってるから、そろそろ一度くらいはって」

 つまり実戦はこれが初めてということになるが、自分よりも大きな毒ヘビポケモンをにらみつけて骨を構えるカラカラは、なかなか様になっている。

「へっ、金にもなんねーチビこどくポケモンなんざ目じゃねえぜ! アーボック! まきつく!」

 ロケット団の勝手な物言いに、アユミも肩のピカチュウのピカットも憤りを覚えたが。それ以上に怒りに震えたのはカラカラ自身と──トレーナーのシンだった。

「そんなデカヘビにひるむな! お前の武器を信じろ! カラカラ、ホネこんぼう!」

 アーボックに締め付けられる前に、カラカラの手にした骨でのキツイ打撃がアーボックの頭に炸裂した。フラフラ身体を揺らして大蛇がひるむ。つかさずシンの指示が飛ぶ。

「そのまま押し切れ! ホネブーメラン!」

 カラカラが勢いよく骨を投げる。加速のついた骨はグルグルと円を描き、ひるんで動きが止まっていたのもあり、見事アーボックの身体に炸裂。巨体がぐらりと後ろに倒れて出来た道筋を通って、骨はあさっての方向に飛んで行く──と見せかけて、物理法則を無視してこちらに戻って来た。

 ヒットアンドアウェーに見せかけた即出戻り武器が、追い打ちの攻撃をアーボックに喰らわせる。見事な二回攻撃だった。風を切って、骨がカラカラの小さな手に収まる。

「……んのやろぉ! そんなチビに負けてんじゃねえぞ、アーボック! かみつく!」

 相性の悪い攻撃を続けて受けたのを何とか耐えたアーボックが、三度めの正直の反撃に出る。立派な顎での攻撃は避けきれず、カラカラの頭に尖った歯が食い込んだ。手痛いはずの攻撃だが、カラカラの身体はビクともしない。

 種族特有の頭の骨が、カラカラを致命的な攻撃から守っていた。

「ピカッ?」

 切ないメロディがアユミの元へ届いた。聞いたこともない音に、肩のピカットが長い二つの敏感な耳を震わせる。からん、からから、からん。からん。物悲しい旋律は、カラカラの方で発生していた。

 歌詞のない歌のような。否。歌よりも原始的で、直接心を刻み揺さぶるリズム。カラカラの骨の目の部分に、朝露のようにキラリと輝くものがにじんでいる。

 小さなポケモンは、戦いながら泣いていた。

「ホネこんぼう」

 シンの静かな指示はしかし的確で、ピッタリ喰いつかれた近距離からの打撃は、技の本来の命中率を高めて必中となる。今度こそ完全に、アーボックは倒れた。となりに立っているシンがシンじゃないみたいだ、とアユミはカラカラの歌の旋律に不安がったピカットを抱きしめてやりながら思う。

 普段は意識しない、シンの目の鋭さが際立っている。 

 浮足立ったロケット団がアーボックを戻してドガースを出すが、それすらもカラカラの硬い頭蓋骨でのずつきで打ち破られる。

 ──カラカラってこんなに強いポケモンだったっけ。

 アユミの疑問はもっともである。カラカラは本来、強いポケモンではない。哀しみに暮れるカラカラを狙う天敵達に本格的にやり返せるようになるのは、ガラガラに進化した後のことだ。そんな未熟なポケモンがしたっぱとはいえ、悪いやつに大立ち回りをしている。

 シンの指示も育て方も良いのだろうが、それ以上に──。

「カラカラ──『いかり』」

 カラカラ自身が、無力なのは嫌だと自身を奮い起こしているのだ。おそらく相手のドガースのが練度が高いはずだが──トレーナーのロケット団も含め、シンとカラカラに気迫で負けている。ドガースがヘドロこうげきで、どくガスで、カラカラの心を折りに来る。どくポケモンのどく攻撃でどく状態になった小さな体が傾ぐ。

 しかしカラカラは倒れない。毒を喰らえば喰らうほど感情任せの攻撃の威力は上がって行く。やがてドガースの身体がフラフラと床の方へ高度を下げはじめた。とどめの力任せの、頭と手に持った骨での怒気を込めた物理攻撃が、ドガースをひんしにする。

 じめんタイプらしい泥臭い立ち回りで戦ったカラカラの身体が今度こそ倒れる前に、シンが駆け寄って受け止めた。

「よくやったな、カラカラ。もうお前は弱くなんかないぞ」

 キュルウ、と鳴くカラカラを見るシンの目は、いつもの明るさに戻っている。さっきはカラカラと、母親のガラガラを想う心が反映されていたんだとわかっていても安心し、

「ドガース。じばく」
「っ!? ばちばちアクセル!!!!」

 とっさのアユミの指示に従ったピカットが腕から飛び出し、早撃ちの電気の弾丸となって、同じく指示に従って爆裂しようとしたドガースを、トレーナーのロケット団に向かって弾き飛ばした。 カラカラとシンを巻き込むはずだったドガースは、素早いピカチュウの動きとアユミの判断によってそれもかなわず、自分のトレーナーにぶつかって爆発する。

 激しい閃光。戻ってくる前に爆風で飛んできたピカットの身体をすんでのところでアユミが受け止め、シンはカラカラに覆いかぶさるようにして小さなポケモンを守る。煙と閃光が収まった時には、フロアの一角が丸焦げで、壁に大穴が空き、観葉植物や書類の入った本棚がめちゃくちゃになって倒れていた。

 その真ん中に横たわるロケット団と、黒焦げになってピクリとも動かないドガース。

「アユミ! やべえよ、あのドガース、どう見てもカラカラの攻撃でひんしだった! 元気な時ならともかく、そんな状態であんなじばくなんかしたら──!!」
「わたしがドガースを見てくる! シンはカラカラを!」

 黒焦げのポケモンに駆け寄って、リュックからげんきのかけらときずぐすりを取り出す。キラキラと輝くかけらの光を二つ分浴びて、動かなかったドガースがやっと目を開けてくれた。ホッとして効力の高いきずぐすりスプレーを吹き付けると、独特の臭いのガスが漂う。ドガースが臭うガスを出すのは元気が出た証拠である。まだ元気に宙を浮くとまではいかないが、ボールの中で休ませてやれば大丈夫だろう。ドガースをボールに入れ、傍らで心配そうに見守っていたピカットとハイタッチをする。

 正直に言えばいやだったけれども、一応動かないロケット団の様子も見ておいた。悪運が強いのか、心臓は動いているし、完全に伸びてはいるが致命的な外傷もないのでこっちはほっといても大丈夫だろう。  

 それより、不可抗力とはいえボロボロになった建物の方が気になる。シルフカンパニーに潜入する時、グリーンが力添えをしてくれた際「ロケット団を追い払い、会社の人達を守ってくれるのなら建物の損害は問わない」という約束事を取り付けてくれてはいたが。多少の罪悪感はある。

 治療して元気になったカラカラを連れて、シンがやってきた。

「ドガース大丈夫だったか?」
「うん、げんきのかけら一個使っても元気にならなかった時は焦ったけど……目も開けてくれて、ガスも出してたから休ませてあげれば元通り飛べるようにもなると思う」
「よかったー。ありがとな、アユミ。それにしても……しんっじらんねえ!」

 シンが壁を殴る。

「もう戦う気力残ってないの、カラカラだってわかってたから攻撃やめたのに……あんな、よりにもよってじばくなんかさせて……」
「……グリーンさんが『一人じゃ危ないから二人で』って言ってたのもわかるね」
 
 肩のピカットの頭を撫でて、先ほどの功績をねぎらいながらアユミは思う。普通のトレーナー同士のバトルではないのだ。卑怯を通り越して残忍で冷酷な奴も当たり前のようにいる。

 そんな酷い指示をしたやつはのんきに気絶しているのだから腹立たしい。

「……他のロケット団は手持ちがやられたら大人しくなったけどさ。コイツはほっといたらやべーんじゃね?」
「じゃあもう縛っちゃお! ちょうど使い終わって効き目なくなったあなぬけのヒモあるし!」
「いい考えだな! よーし、グルグル巻きだ!」
「ポケモン入ったボールも取っちゃお! ドガース達もオーキド博士に保護してもらった方がいいよ!」

 言いながらもういらないヒモで悪い奴を二人でグルグル巻きにした。身動きを取れなくしながら、シンの顔を見る。確かに目つきはちょっとキリッとしているかもしれない。しれないが──。

「……こんな卑怯なことばっかしてるから、人を見た目でしか判断できなくなるのよ! バカァ!」
「あ、アユミ?」
「なんでもない! シンは優しいってだけの話!」

 絶対に聞いていない伸びた男に怒鳴りながら、グルグル巻き作業を続ける。

 コイツは知らない。シンがカラカラと一緒に怒って悲しむことが出来るトレーナーだということを。悪い奴の手持ちだって気づかえる人だということを。

 でも大事なことは、アユミと、シンの周りの人と、カラカラを始めとするシンのポケモンが知っていればいいことなのだ。