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2. 列車で帰宅
カケルは鳥ポケモンが大好きだ。そして乗りものも大好きだ。
トレーナーの移動手段は徒歩、自転車、自動車、ポケモンそのもの、その他、多岐に渡る。その中で移動手段に鉄道を使うことを殊の外カケルは好んだ。
カケルはいわゆる乗り鉄だった。電車に乗っている時間が幸せなタイプの人種だった。実を言うと旅に出た理由の半分くらいはたくさん電車に乗れそうだったから、だ。トレーナー、それもデビューしたばかりのビギナーは割引率が高くてお得なのだ。お金が無くなれば辿り着いた町でのアルバイトやバトルで旅費を稼ぐ。また電車に乗る。そうやってカケルは旅をしていた。
もちろん鳥ポケモンが好きなのも本当だ。時々、鳥ポケモンと鉄道のどっちが好きなんだと言われたが、ラーメンとハンバーガーを出されたらどっちも食べるだろう、というのがカケルの答えだった。トレーナーとして鳥ポケモンを所有し、これを育てる。移動手段は主に電車。それがカケルのポリシーだった。
電車で山奥や僻地へ行くほどに乗り換えで待たされる。カケルが捕まえた鳥ポケモンはそうやって電車を待っている時に捕まえたのが主だった。駅弁を盗ろうと襲ってきたオニスズメ、すっかり暗くなった終電の終着駅に現れたホーホー、駅のホームの端っこで佇んでいたネイティ――彼いわく線路が結んだ縁である。
待ち時間はポケモンバトルにもなった。暇を持て余した駅員や電車待ちトレーナーが勝負を仕掛けてくるのだ。時には駅長と呼ばれてマスコット化した地元のポケモンが仕掛けてくることもあった。たま、と名付けられた駅長のペルシアンが勝負を仕掛けてきたのは記憶に新しい。
そんなカケルであるからして、帰宅手段は当然鉄道になった。数年前に自動改札が導入されたばかりのローカル駅でデリバードが描かれたICカード、デリカにお金をチャージし、ホームで鳥達と戯れて待つこと小一時間、彼らは電車に乗り込んだ。
車窓が木々や田園の風景を流していく。お客の少ないローカル線では席が向かい合せのことが多い。カケルはボックス席で靴を脱いで足を伸ばすと鳥ポケモン達と共に乗車を楽しんだ。都市部へ向かうにつれ、乗り込む客が多くなってくると、彼は仕方なく鳥達をボールにしまった。膝にアルノー一羽を乗せて座るカケルの座席を揺らしながら、列車はジョウトの中心を目指した。
二回ほどの乗り換えをした後に車窓の風景に高い建物が混じるようになった。だんだんとその大きさが巨大になっていく。そして車窓の風景はついにトンネルの闇に浮かぶ等間隔のライトになった。電車の通行より建物や道路が優先される地域に入って、列車が地下に潜ったのである。
「イッシュにはバトルサブウェイっていう地下鉄があるんだって。いつか行きたいね」
肩の上で狭そうにしているアルノーにカケルは百回目くらいになる台詞を言った。
「黄金中央(こがねちゆうおう)、黄金中央」
車掌が次の停車駅を告げた。
カケルの実家はジョウト地方の大都市、コガネシティにある。ポケモンジムあり、デパートあり、ラジオ局あり、ゲームコーナーあり、オクタン焼きあり。ありとあらゆるものが揃って、現在も発展し続けている街だ。近々、カントー地方のヤマブキシティ行きのリニアも開通予定だった。カケルは自動改札をデリカの入ったパスケースで撫ぜると、複雑な迷路のように枝分かれしたホワイティコガネの地下街を抜けて地上に出る。地上はすっかり夜で、ネオンライトに照らされた街の喧騒が目に飛び込んできた。
喧騒を抜けて住宅街に出る。そこはいくつもの巨大マンションが立ち並ぶコガネシティのベッドタウンだった。カケルはそのマンションの一つに入っていき、オートロックのパスワードに「0017」と入力する。自動扉がサーッと開いた。そうしてエレベーターに乗ったカケルは自宅階のボタンを押したのだった。