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  [No.4177] 炎の中の暗夜行路 投稿者:空色代吉   投稿日:2021/07/16(Fri) 01:19:21   13clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



 故郷に帰る途中に訪れたカロスの地にて、伝説のポケモンであるファイヤーが目撃された。
 その知らせを聞いたボクは、迷わずスケジュールを変更することを決める。
 動機は単純にファイヤーをゲットしたい……ではなく。
 ボクはただ手合わせしたかったんだ。
 あるいはファイヤーと戦うことで、過去の因縁を振り切りたかったのかもしれない。

 ボクは昔、カントー地方でとある陰謀に巻き込まれ、色々と苦い思いをした。
 その思い出話は割愛するけど、その中心にはファイヤーがいたことだけは添えておく。

 カントーの騒動から月日はだいぶ経っていた。
 心の中にあった爪痕は、「こんなこともあったよね」で済ませることもできた。
 でもこの湧き上がるような衝動には、逆らいたくなかった。
 逆らうべきじゃないと思った。

 事前に作戦を練り、カロスの地でファイヤーを追いかける日々。
 そして、ついにたどり着く……。

「やあ。久しぶり……であっているかな」

 深い夜。岩山地帯にファイヤーは居た。休息をとっていたのだろうか。羽を休め、その炎の翼で岩場を明るく照らしていた。
 ボクの存在に気づき、視線を向けるファイヤー。細い嘴を閉じたまま、じっと見つめてくる。それから目を閉じ、ボクを脅威と認めず無視して休み続けようとする。
 だがボクは、ファイヤーにそれをさせない。

「カントーでは世話になったね」

 その一言で、ファイヤーの様子が変わった。
 睨みつけてくるファイヤー。その素振りで分かった。ボクが過去に出逢った同一個体だと。
 キミはボクのことなど覚えていないのかもしれない。
 だけど、ボクはキミのことをまだ忘れられない。

「手合わせ、願えるかな」

 燃え上がる翼を広げ、夜空を赤く染め上げるファイヤー。その『プレッシャー』に飲まれかけるも、ボクはモンスターボールからポケモンを出した。
 光と共に現れたのは深緑のフードを被り、薄茶色の翼をもつポケモン、ジュナイパー。

 炎・飛行タイプのファイヤーに対し草・ゴーストタイプのジュナイパー。
 相性は圧倒的に不利。炎も飛行も弱点だし、ジュナイパーの得意な草技がファイヤーにほとんど通じないと言ってもいい。
 
 一発でもまともにくらえば致命傷になる。だからこそ、攻撃をどうくらわないかが肝心だった。

 ジュナイパーの名を呼ぶ。『プレッシャー』に押しつぶされまいと声を上げるジュナイパー。
 ファイヤーがボクらを戦闘相手だと認め、戦いが始まった。


◆ ◇ ◆


「まずは『かげぬい』っ!」

 ジュナイパーが素早く構える。
 熟練した動作で翼にフードのツルをかけ弓にし、羽の矢を放った。
 その矢先は揺らめくファイヤーの影を射抜く。
 影を縫われたファイヤーは、もう逃げることはかなわない。

 ファイヤーが苛立たしそうに両翼を一薙ぎ、『ほのおのうず』でジュナイパーを閉じ込める。

「勢いに飲まれるな! キミなら脱出できる!」

 多少かすりこそすれ、渦巻く火炎の牢獄の中からジュナイパーは転がり抜け出す。
 この脱出はジュナイパーがゴーストタイプを持っていたからできた芸当だった。

「そのまま『ゴーストダイブ』……!」

 地面の影にダイブし、火の粉から身を守りつつ攻撃のチャンスを伺うジュナイパー。
 しかしその一撃は当たらなかった……なぜなら忍び寄る一撃をファイヤーが『そらをとぶ』で回避し、天高く舞い上がっていたからだ。

 影を縫われて逃げることは出来ずにいるとはいえ、空中に退避すれば一方的にファイヤーのアドバンテージは高い。
 けれど、すでにそのパターン想定されていた。

 対策は打っていた。
 この瞬間こそを、ボクたちは狙っていた。

「――――『うちおとす』」

 ジュナイパーが矢の先に隠し持っていた小石を付けた。
 それから両足で踏ん張りをきかせ、空飛ぶファイヤーを狙撃。撃ち落す。
 この技は岩タイプの技。炎にも、飛行にも効果は絶大だ。対ファイヤー対策の打てる最大の手といってもいい。
 あえて攻撃のタイミングまで猶予ある『ゴーストダイブ』は『そらをとぶ』を誘発させるための、選択だった。

 撃ち落されたファイヤーが羽ばたくことをせず真っ逆さまに地面に落下していく。
 しかし緊張は解けない。
 あまりにも素直過ぎる落下。
 その行動に、違和感を覚える。

「違う、これは……!」

 結論から言うと、『うちおとす』は決定打にならなかった。
 ファイヤーは『うちおとす』直前から、羽ばたきを止めていた。
 空飛ぶことを中断し、自らの羽を休めながら落下していた。

 『はねやすめ』をしながら、ファイヤーは攻撃をしのいでいた。

 ……この『はねやすめ』と言う技には、おおきく二つの特徴がある。
 体力を回復する効果と、自身の“飛行タイプを消す”ことのできる効果だ。
 ファイヤーは自らの弱点の一つを消し、こちらの狙っていた『うちおとす』を耐えきっていた……。

 落下直前でひと羽ばたきし、着地するファイヤー。
 ファイヤーの狙いすました『はねやすめ』により、こちらの『うちおとす』で大ダメージを狙う作戦は通用しなくなった。
 その上『プレッシャー』の特性をもつファイヤーに長期戦は圧倒的不利。
 ジュナイパーも困惑し始め、熱気で呼吸が乱れていく。
 その燃え上がる重圧は悪夢のような過去を彷彿させる。

 あの時はいろんな意味で負けていった。
 また敵わない、まだ届かないのかもしれない。
 けど、
 ボクは、
 ボクらは!
 断ち切るために、吹っ切れるためにここに来た!

 だからその炎、克服してやる!!
 
「このまま燃やさせてたまるか――――『とぎすます』!」

 息を吐き出し、精神を研ぎ澄まさせる。相手の急所に、狙いをつける。
 ジュナイパーの視線に気づいたファイヤーが、両脚で大地を掴み、構える。

(こいっ)

 ファイヤーは空に逃げることをせずにボクたちに狙いを定め、『もえつきる』勢いで自身のまとった炎を全て集約しぶつけてきた!

「行くよ」

 ジュナイパーとボクは腕を正面で交差させ、指揮者のように両手を挙げた。
 飛び立つジュナイパーの背後に分身した影矢が現れる。
 影の矢の雨と共にファイヤーに突っ込むジュナイパーに、ボクは全力をもって、技名を叫んだ。


「『シャドーアローズストライク』!!!!」


 影の閃光たちと紅蓮の炎がぶつかり合う。
 黒と紅のエネルギーが、混ざり合い、弾けた。


 ジュナイパーの影の矢は、ファイヤーの急所を……射抜く直前に燃え尽きていた。
 最後に堂々と立っていたのは、ファイヤーだった。
 『かげぬい』の効果が切れ、飛び去って行くファイヤーと、倒れたジュナイパー。
 その両方にボクはお礼を言った。

「……ありがとう」

 まだまだ、ファイヤーにも過去にも打ち勝つことは出来なかった。
 でも、何かしら変化の予兆はつかめるような気がしていた。
 去っていく熱気、思い出したように吹く夜風の中。
 ボクたちは進んでいく。
 過去を引きずりながら、暗夜行路を進んでいく。





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 ポケモンバトル書きあい大会、カントーのファイヤー対ジュナイパーで参加させていただきました!
 普段あまり伝説のポケモン扱わないので楽しかったです。
 ボクっ娘こと彼女たちの苦難は続く。

 技構成
 ジュナイパー 特性:しんりょく 持ち物ジュナイパーZ
 かげぬい(シャドーアローズストライク)、ゴーストダイブ、うちおとす、とぎすます

 ファイヤー 特性:プレッシャー 持ち物なし。
 ほのおのうず、そらをとぶ、はねやすめ、もえつきる

 読んでくださり、主催してくださりありがとうございました!