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  [No.4182] 合戦の裏で〜落ち葉とお嬢と悪の組織ボス風グリレ味〜 投稿者:焼き肉   投稿日:2021/11/27(Sat) 10:51:10   7clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:グリレ】 【バトル(書くの頑張った)】 【きん(の)たま】 【臨時タッグ】 【名もなきしたっぱ達の叫び

 pkマスの悪の組織編と第一部最終章やべーぞ!!って興奮した腐が怪文書一万字引っ提げて空気読まずに投稿します。みんなpkマスやろうぜ! 今はシステム改修入ったから、スタミナ消費もデイリーも一瞬で終わって快適だし……(なお容量食いっぷり)運営と性癖が合えば楽しいと思う。私は楽しい。とこれまた空気読まずにわめきたかっただけとも言う。

 ※グリレがデキててサカキがレを狙う変態なギャグラブバトルです。




 なんやかやでクソデカきん(の)たま取り合う秋の運動会的な、ポケモン合戦の両方の陣営に入れてもらえなかったグリレは、両陣営引っ掻き回し役として帆走し、祭りの盛り上がりに一役買っていた。以上、あらすじ!

 そういうアレなので、二人は救護班なんかもやっていた。先ほどもレッドがミニきずぐすりを疲れ果てたバディーズに分けてあげて、グリーンが告白寸前の男にスペシャルアップを上げて告白特攻を上げてあげたばかりである。ちなみに見事成功していた。

「すみません、手間をかけさせてしまって……」
「あー、気にすんな気にすんな、足見せてみ」

 ベンチに腰掛けて、右足の草履と足袋を脱いだエリカの足をグリーンはちょっと失敬。応急処置に手早く包帯を巻いてやって、元通りに草履を履かせてやる。そのくらいはエリカ一人でも大丈夫とは思うのだが、あまり動かさないほうがいいだろうし。自然と尽してしまいたくなるオーラもあった。お嬢様ってそういうもんなのだろうか?

「これでよしっと。とはいえしばらくはじっとしてた方がいいな。オレらで送ってくよ」
「ありがとうございます。合戦相手のバディの攻撃がこっちにまで飛んできたので、避けようとしたら転んで、足を捻ってしまって……」
「……」

 エリカの袴の端に付いた砂埃を、レッドもそっと払ってやった。

「誰だそんなノーコンやらかしたやつは」
「そうですわね、職業柄、初心者トレーナーの方をジムで預かる事も多いのですけど。そこまでノーコンな方は珍しいですわね」
「……」

 レッドはノーコメント。

「誰がノーコメントきめるしかないノーコン野郎だって?」

 エリートトレーナーの男と女がつかつかと歩み寄り、会話の横やりを入れる。

「あ、あの方達ですわ! エリートトレーナーとは思えないほどのノーコン」
「やべえな。エリートの恥じゃん」
「……」

 ドン引きのグリーンとエリカ。無言で「最低」と視線で責めるレッド。

「違うわい!」
「失礼な事言わないでよ!」

 男女は一斉に服を脱ぎ捨てた。現れるのは、黒づくめの装束二人。ロケット団員のしたっぱだ。

「わざとトレーナーの方を狙ってやったのさ! 全ては我らサカキ様の為、大きなきんのたまの為に!」
「……?」
「えっなに。こいつらホントキンタマ好きだなって? 前も強制的に五人も抜かされた後、キンタマ見せつけられて無理矢理入れるとか言い出したって? 改めて聞くとやべーな、通報案件だろ」
「まあ! 犯罪集団なだけならまだしも、はしたなく見境までなかったのですね!」

 悪意ある無言を悪意ある超訳が言葉にし、お嬢様を憤らせる。

「お前ら変態もほどほどにしとけよ。常軌を脱してる時点でもう変態なのに、下品路線でも変態とかどうしようもねえだろ。お嬢様の前だぞ」
「濡れ衣だ! その情報にはそもそも悪意があるぞ!」
「なんだ。バレてるってよ、レッド」
「……!」

 ニヤニヤ笑いのグリーンに、揃えて小憎たらしい、口の端だけを上げる笑いのレッド。レア笑顔。レアリティで言うと星5くらいレア。

「畜生ニヤニヤ笑いしやがって! こちとらわけのわからない帽子のガキのせいで、再結成して即組織は半壊状態! だからこうして活動資金を稼ぐため、せっせと大きなキンタマを女子供から盗み出そうと苦心しているというのに……!」
「外道ですわね」
「クズじゃん。あと、それ多分コイツの事な」

 肩をなれなれしく引き寄せ、レッドを指さす。ついでにほっぺをプニ。ポッと親友の触れた指先から、秋風の冷たさに対抗するようにレッドの頬が熱くなる。仲良し同士の微笑ましい関係だが。したっぱ女は「なんかムカつく!」と怒り。したっぱ男はいとけない帽子の少年の顔をまじまじと見るなり、震えあがった。

「や、やめてくれぇ! もうキョダイマックスカビゴンでせっかく作ったアジトを叩き潰すのは! 仲間と俺を潰すのは! もうアジトを! 建物を! 仲間をオレを! ハムみたいに潰されるのは嫌だ! いやだあああああ!!!!」
「ちょっと! どうしたの!」
「殺られる前に殺れ! 行けっ、ゴローン!」

 したっぱ男が投げたボールから出て来たのは、ボールと同じく丸いポケモン。

「死なば諸共!じばく!」
「ゲッ!」
「……!」

 レッドの腰のボールが自動的に転がり出て、中からカビゴンの巨体が飛び出し、ゴローンに突貫をかます。グリーンとレッドは、反射的に座ったままだったエリカの前に出た。

 爆風。
 
「ペッ、うへえ、砂埃が口に入りやがった!」
「……」

 レッドも同じように顔をしかめ、顔についた砂やら木くずやらを振り払った。

「帽子に木の枝乗っかってんぞ」
「……!」
「へいへいどういたしまして」

 レッドの帽子を払い、焦げて気絶しているゴローンを見おろして。グリーンは吐き捨てた。

「バトルでもねえ不意打ちで自爆させてよお、おめえら本当クズだな」
「うるせえ! コロされる前に殺ってやる! もうキョダイマックスは! ペラペラハムになった仲間とオレのガレキ和えは! ゴメンだ!」
「お前何したんだよ、いや予想はつくけどよ」
「……」

 レッドは笑顔で誤魔化したが、そんなもので誤魔化されるのはグリーンだけである。

「みんな出てこい!この赤い帽子の悪魔を全員でぶっ飛ばすぞ!」

 恐慌したっぱの遠吠えで、ぞろぞろとそっくりな黒ずくめ集団が現れ、ポケモンを繰り出す。それらの一部を、毛皮を焦がしたまま険しい顔になったカビゴンが、のしかかって一瞬で潰し倒す。

「ひいー!!! ハムが、ハムの再来だああ!!! みんな死んじまう! うわあああああ!!!」
「ちょっと、しっかりしなさい! 別に誰も死んでなかったでしょう!」

 したっぱの一人はトラウマを呼び起こされ、完全に戦意を喪失していたが。ロケット団はゾロゾロとやって来る。

「ちょっと面倒な事になって来たな……おいレッド、お前エリカ連れて避難しろ」
「……!」
「大丈夫だっての。オレさまを誰だと思ってんだ? 今のエリカだとバトルの参加は厳しいし、安全なとこ連れてったら戻って来て手伝ってくれよ……ま、それまでには一掃してると思うけどな?」

 グリーンの放ったボールからプテラが飛び出し、既にボールの中で装填準備がなされていたらしいはかいこうせんがロケット団の一角へ解き放った。今にもやな感じぃ〜とでも言いそうに、彼方へと吹き飛ばす。

「今日は引っ掻き回し役だから、リザードンも連れて来てるだろ。乗せてもらえ」
「……!」

 一つ頷き。カビゴンに時間稼ぎをしてもらいながら、リザードンを出す。

「リザードンのが二人以上運ぶには向いてるからな……わーってるって! お前もリザードンに負けねえバディだっつーの」

 対抗意識で鼻息荒く抗議するプテラを撫でるグリーンに、レッドはそっと音もなく近寄って。

 優しそうな横顔に、キスを贈った。

 グリーン、硬直。その間にレッドはリザードンに乗って、あらあら……と目をまん丸くして一部始終を見ていたエリカの手を取り、後ろに乗せてやる。カビゴンも回収する。

 グリーンは固まったまま、視界の端に帽子の影を見るだけで、

「……頑張って」

 と口の動きだけで言うのを感じた。赤い竜が飛んで行くのを見送って、

「うおおお!! やるぞプテラ! 絶対レッド戻ってくるまでにコイツらぶっ飛ばすぞ! もちろん見返すため! 見返すためな!」

 乗っかったバディを、プテラは鼻息一つで迎える。どう見ても大半は嬉しいから張り切ってるだけだろう。と呆れるように。そんな相棒の気持ちは伝わっているのか、グリーンは一つ苦笑して。

「いいか、プテラ。お前の武器はリザードンよりも大きくて、そこに在るだけで威圧を与える獰猛さだ。存分に暴れようぜ!」

 岩色の背中に乗って、グリーンは敵陣に突っ込む。元より人と生きる時間の違ったポケモンは、乗り方もあまり先人の指南がなく、ピジョットよりも力強く、癖のある飛行だ。だが、今の自分の実力ならやれる。行ける。

 危なげなく古代ポケモンの背中に乗りながら、グリーンはウジャウジャロケット団の集団ど真ん中頭上、はかいこうせんの指示を出した。

 〇

 黄色に赤に染まる木々の間を駆けるその飛行は、まるで大きな赤い落ち葉が、自分の意志で飛ぶかのよう。その上に黄葉色の着物の少女と、紅葉色の服の少年が乗っている。少年の方は熟練のパートナー相手ゆえか、風を切って進むリザードンに身を任せて危なげなく乗っているが、エリカの方はそうもいかない。飛行持ちの草ポケはエリカには馴染みが薄く、ポケモンに乗って飛翔する体験はあまりない。だからグリーンには少し悪いと思いつつも、遠慮がちにレッドへ掴まっていたのだが。

「……もっとしっかり掴まって!」

 注意されてしまった。無口なレッドが声に出すほどだ、ここは大人しくしたがってしがみつく、と。

「キャッ!」

 後ろからロケット団の追っ手の攻撃が来るのを、リザードンがアクロバティック飛行で避けた。上下が一瞬、逆さまになる。オニドリルのドリルくちばしが木々に突き刺さって遠ざかるのがチラリと見えた。コレをやるから掴まっていろと言ったのだろう。後方でグリーンが足止めしてくれているから、追っ手の数は少ないが、この無茶な避けゲーをもっと大きな数でやられていたらと思うとたまらない。

 ──無茶を致しますわね!

 エリカは思う。ロケット団相手に誰にも、親密な親友にも連絡を取らなかった少年だ。今回も自分を無事に送り届けるだけじゃ済まない、無茶をやらかすような気がする。思った矢先で今度はいきなり急降下! ひらひらの袴やらなんやらが上に引っぱられる。傍から見れば令嬢と翼竜操る少年、まるで逃避行のようにすら見えたろう。いや全く、エリカ当人はそれどころではないし、レッドも自分を無事に助ける以上の事は頭にないであろう。だからこそグリーンも心配したのだと、エリカは思う。自分よりも強いからこそ、無茶が効いてしまう。

 さらにガクン、と高度が下がった。今度は意図的でない。墜落する飛行機のような、流れに抵抗してしきれないような。予測の出来ない事故じみた操縦不能の理不尽な動き。放り出されそうになったのをレッドに引き寄せられたところで結局、リザードンから転がり落ちる。

 ○

 背中から落ちてエリカのクッションになったレッドは、その感触を味わうことなくエリカを起き上がらせ、自身も立ち上がった。あちこちついてしまった秋色落ち葉達を払い、落っこちた帽子を拾う。

「まるでお嬢様を守る騎士のようだな? レッド」

 深く被った帽子の先、見えたのは憎き宿敵。土を食ってしまったのを出すついで、唾を吐く。

「サカキ……!」

 穏やかな顔を険しくゆがめて睨むエリカを、レッドは手で制して背中に庇った。お嬢に呼び捨てられた男は、背後にミュウツーを従えている。リザードンが墜落したのは、コイツの念力のせいだろう。

「それでこそ我が部下……いや、後妻に相応しい!」

 レッドは粗大ゴミでも見るような冷たい目になった。サカキは気にした様子もない。

「アジトを何個も何個も破壊され、部下と共に何度もカビゴンのキョダイマックスで潰されペラペラの紙と化しながら目覚めたのだ、お前をものにすれば我が野望叶う日も近いだろうと」

 レッドは遠い目をした。グリーンは大丈夫かな。グリーンなら平気とは思うけど。

「断るという目だな。予想はしていた」

 パチン。サカキが器用に指を鳴らすと、そりゃあもうウジャウジャ、ウジャウジャとロケット団の追加おかわりが来る。食べたくないなあ、こんな奴らとのバトルは。グリーンとバトルがしたいな。起き上がったリザードンが、エリカをかばうレッドを庇うように前に立つ。グリーンのどこまでも喰らいついてくる、好戦的で真っ直ぐな目を正面から睨み返しながらバトルがしたいな。ボールからカビゴンを出しながら、レッドは思う。バディストーンと相棒との波長を合わせる兼ね合いで、リザードンとカビゴンしか連れていなかったのは痛手だったかもしれない。

「レッドさん、わたくしも戦いますわ。この数では、いくらあなたでも……」

 未だ足をかばうお嬢様に、レッドはためらいがちに頷いた。

 〇

 一人厄介な役目を引き受けて残ったグリーンは、むしろ絶好調であった。メガシンカしたプテラのはかいこうせんは現実の秋の森の中、悪夢のようにロケット団の下っぱ共をぶっ飛ばしていたし。ショルダーバッグの中のポリゴンフォンにはめたバディストーンは、キラキラ絆に輝いていた。

「ふ、フフフ……」

 倒れ伏したロケット団の一人が笑う。

「な〜にがおかしいってんだ? ああん? ライバルの祝福のキスをウケたオレさまは今や世界最強だぜ!」

 まーた調子こいて……メガプテラは呆れながらも、毒ガスを吐いてきたドガースをげんしのちからでぶっ飛ばす。ピジョットがやつあたりみたいに敵をエアスラッシュでぶっ飛ばし、カメックスが生温甘ったるいのを流すようにドロポンを背中のキャノンから吐いた。

「そのライバルも、今やサカキさまの手に堕ちている事だろう」
「はあ? レッドがあんなのに負けるわけがあるか。この前のはお前らの親分がトレーナーとして負けたようなもんだろうが。親分持ち上げんのはいいがテキトーな事言うなテキトーな事」
「フッ……確かにオレ達はお前のライバルとやらより弱いかもしれん。レッドとかいう、限定衣装着たイケメン元王様来るまで多分炎最強アタッカーだった奴に比べればレベル1のコイキング、いやはねる事すら知らんコイキングレベルだろう……だがしかし!」

 ドロポンの流れ弾でビッショビショになりながら、ロケット団下っぱがカッ! と目を見開く。

「リザードンの速攻でも、カビゴンの耐久でも倒しきれない、この前よりもウジャウジャ寄ってたかっての総力戦ならどうかな?」
「なっ……」

 メッチャクチャ調子来いてたグリーンもコレにはようやく青ざめた。コイツらが束になっても敵わないレッドが、この前組織半壊に留まり壊滅まで至らなかったのは、戦うカビゴンと指示するレッドの気力体力がジリ貧で尽きたせいである。だからこそ頭数を減らしてエリカを逃がすため[[rb:殿 > しんがり]]を引き受けたのに、まだいるだと! 好きな奴にカッコいいとこ見せたかったもあるが、そういう複雑なライバル心はさておき。ハッキリ言って、ここに関してはグリーンも(果てはレッドやエリカさえも)サカキの悪のカリスマ性をまだまだ見くびっていたと認める他はない。しかしグリーンも成長したとはいえまだまだ少年である。自分の見通しが甘かった事、親友と旧知の知り合いのジムリーダー女子を危機に陥れてしまった事の憤りは、どこかで吐き出さなくてはやっていけない。

「そっ、」

 グリーンを乗せたメガプテラは、そっ、だけで主人が何をやって欲しいかわかった。バディとこんなに心が通じるのは、メガプテラとしても喜びであり。その辺飛んで回りたいくらいだ──。もう皆で暴れまわって、ロケット団のほとんどがひんしだが。

「それを、」

 いけ好かねえ赤いトカゲのトレーナーの事でキレてるのがよく解るというのは、メガプテラも面白くないところではある。

「早く言え────────ッッ!!!!」

 通じた喜びと、どうだ赤トカゲ。おれさまだって相棒の気持ちくらい、言葉交わさなくてもわかるんだぞという誇りを優先し。メガプテラは、長舌なロケット団のしたっぱを、はかいこうせんで真っ黒焦げにした。

 〇

 頑強な防御と体力で前線に立って攻撃を一身に受けつつ敵を薙ぎ払うのを忘れなかったカビゴンも、とうとう何もかもを忘却したように、クロスに組んだ腕を解いて膝をついた。まだまだ気力は負けていないというように一人立っているサカキとミュウツーを睨みつけていたが。通じているレッド相手に、HPがゼロであるのを隠せるわけもなく。ボールに戻された。

「ラフレシア、ありがとう。ゆっくり休んで」

 したっぱの残りをしびれさせ再起不能にしたところで声をかけられ、ラフレシアも大きな花についた汚れを振り払いもせずにすわりこんだ。ボールに戻したバディを気遣うエリカだが、座り込んでしまいたいのは彼女のほうだろう。集団相手の戦闘では、自分の方も走り回らなくてならず、負傷していた足への負担も大きい。無論レッドとて彼女を放っておいたわけもない。しかしカバーするにも限界はある。それはカビゴンの代わりにレッドの前に立つリザードンとて、同じだ。

 防御の脆いリザードンが、カビゴンが倒れてなお立っていられるのは、先に倒れたカビゴンが自身の耐久全部を使っての防衛に徹したからである。そこからなんとかレッドとの旧知の絆と気力をつなぎ合わせ、首の皮一枚で立っているだけだ。

 レッドはリザードンの傷だらけの背中に向けて視線と想いを向けた。ブルル、とリザードンがいななく。そんな事出来るか!

 ──お願い。いや、やれ!

普段のレッドのそれは、あくまでもポケモンに対するお願いであり。彼らが最適な動きでもって、最善のバトルをするための指示である。あえてそれをレッドは冷たく、命令の視線でリザードンを後ろから睨み、想いを込めた。悲しいかな、リザードンはレッドが冷たい目線で述べる理由が理解出来てしまった。リザードンと手負いのトレーナーを気づかっての事なのだと。

「キャッ!」

 リザードンがエリカを抱え上げ、強引に背中に乗せて飛びあがる。あの足では、リザードンに飛ばれたら飛び降りての抵抗も出来まい。

「レッドさん!」

 エリカは袖を振り乱し、レッドに向かって片腕を伸ばす。当然届くはずもなく。彼の相棒とお嬢様は少年一人を残し、飛び去った。サカキの狙いはレッドである。エリカ達だけ逃がせば、深追いされることもなく安全だろう。

「ククク……自ら二人きりになりたがるとは……抵抗していた割に、我が配下兼妻になる事に、本当は乗り気なんじゃないのか?」

 異様にポジティブな発言に、レッドはゾオーッと背筋を震わせた。今は亡きポケモンタワーなんかよりよっぽどホラーだった。思わず後ずさる。倒れ伏していたロケット団員たちが踏まれ、「ふぎゅう」と鳴く。同じようにロケット団員たちを踏んで「うべっ」とか鳴かせながら、サカキも同じ歩数だけにじり寄る。

「こちらの世界にもいる私の息子にも紹介しないとな。兄弟のような義理の母親を」

 息子いるのかよ。それもぼくと兄弟くらいになる年齢の。ドン引きだよ。そんなような事、ロケット団のしたっぱから昔聞いた気もするけど。後ずさり、滲み寄り。嫌な共同作業で、死屍累々ロケット団員達を踏み。「あべっ」「ぐえっ」「ぐはっ」「ああ〜ん♡♡もっと踏んで♡」「おごっ!そこはシャレにならない!」不気味なドレミファソラシドを奏でた後。痺れを切らしたサカキがミュウツーに手振りだけで指示をした。

「……!」

 念力で身体を拘束され、レッドは動けない! 汚い、流石悪の組織汚い!

「こうなってしまえば、カントー最強トレーナーもただの子どもだな。今までてこずらせてくれたぶん、存分に可愛がってやるとするか……フフフフ、はーっはっはハハハ!!!!」

 最高潮の寒気に鳥肌さえ立てながら、レッドがなおもサカキを睨みつけると──。

「モンジャラー!!!!」

 ロケット団員たちの陰になって、見えないところに転がっていたボールからモンジャラが飛び出し、どくどくの奇襲をかけた! 予想外の不意打ちにミュウツーは毒状態になり、ゲホゴホと咳をしながら、レッドの拘束を強制解除させられる。それを見逃さないレッドではない。身軽な跳躍で、己を助けたモンジャラの背後にまわる。

「ほお……? さっきのジムリーダーのポケモンか? 用意周到だな」

 サカキの推測通りである。先日のロケット団の事件を鑑みるに、今回もレッドは誰かを助けるためなら、また一人無茶をするのではないか。と勘ぐっていたエリカは、一日がかりの競技の交代要員に連れて来ていたモンジャラを敢えて隠して温存していた。先ほど手を伸ばした時に、こっそり袖からボールを落として去ったのである。一瞬の事であり、その時既に山盛り倒れていたロケット団員達の群れに紛れ、息をひそめていたため誰も見咎める事はなかったが。

「……まとわりつく!」

 レッドの指示でモンジャラの体を覆う蔦が伸び、ミュウツーの身体を縛り上げる! ミュウツーも当然、即座に念力で引きちぎるが、何にでも寄生する蔦の性質を持つ植物ポケモンが操る、虫タイプの合わせ技である。そう簡単には引きちぎれない。

「流石はジムリーダーのポケモン。どくどく、まとわりつくでジワジワ相手を嬲り、戦闘不能に持っていく型か。だがしかし、私とミュウツーの絆と速攻性に、即席バディーズが勝てると思うのか?」
「……ッ! すいとる!」

 まとわりつくが解ける前に追い打ちをかけるため、モンジャラに追加の指示を出しながらレッドは臍を噛む。レッドがなんの言葉も発さず、バトル中ポケモンに指示が出せる理由。それはポケモンとレッドが無条件に揃えば出来る、練習のいらない簡単手品ではない。長く共にいる手持ちポケモンだから、それだけ通じているというだけなのだ。先ほどからレッドがモンジャラに対して、普通に指示を出しているのがその証左。手品には修練が要る。即席バディーズとてジムリーダーのポケモンと伝説のトレーナー。並の相手なら十分太刀打ち可能だが、相手はサカキだ。
 
 ねんりきの重ねがけでまとわりつくを解いたミュウツーが、蔦の残骸をバラバラと落としながら、両腕を振りかぶる形でエネルギーを溜め始める。影の球体──シャドーボールが飛んでくるのを、レッドはどくどく指示で相殺! 爆ぜる。周囲にどくどくとシャドーボールの飛沫が飛び、倒れたロケット団の何人かに流れ弾。「アオッ!」「げっ!」「ひでブゥ!」南無三。(ネット用語ニュアンス)

 
「抵抗はやめろ。多大な犠牲を払ったが、我がロケット団の反映の為には仕方のない犠牲だ。お前さえ手に入れれば、我が部下たちも草場の影で祝賀パーティだ」

 周囲のロケット団したっぱ達が喚き出す。「死んでないですよ!」「ヤダよ変態上司の変態結婚に、あの世でもパーティ開いて歓迎とか」「そこまでの敬意払えねえよ」しかしこの場の二人と二匹、誰も聞いていない。効果は無いようだ……。

 ミュウツーのサイコキネシスが、モンジャラにサイコパワーでダメージを与えながら、本人の意思を無視して身体を持ち上げ、大地に叩きつけた。その攻撃を機に、サカキの胸ポケットのバディストーンと共鳴したミュウツーが光に包まれ、より小回りの効く戦闘特化体型に変身した。長い尾っぽは頭部に吸収。まるで戦のため髪を纏めた戦士のよう。

 ツタの鎧で武装したモンジャラも負けていなかった。自主的に周囲の草からエネルギーを吸い取り、伸ばしたツタを杖に立ち上がる。かつてタマムシで熱い死闘を繰り広げたポケモンの主人のため、何よりも本来の主人のエリカのため!

「……まとわりつく!」

 レッドの指示に従い、モンジャラが切れても拘束し続けるツタを再びミュウツーに巻きつける。なかなか彼もわかっているじゃないか。そうさあたしはテクニシャン。まとわりついて、毒食わせて、吸えるだけ吸い尽くしてやるさ!

「……すいとる!」
「サイコブレイク」

 言葉少なな彼の言葉に「全身全力の」を勝手につけて。モンジャラは念動力のダメージを受けつつ持ち上げられながらミュウツーのエネルギーを吸い取った。メガミュウツーYの赤く目つきの悪い顔がうっとおしげに歪む。通常進化もせずメガシンカもない、優秀とはいえ本来の相棒トレーナーでもないモンジャラが、一匹でこんな化け物に太刀打ちは不可能だ。それは当然、モンジャラ本人が一番良く理解していた。だからこそ。少しでも不快に顔歪め、体力削り落とされろと呪いを込めて。寄生植物の性質持つポケモンは、吸ったのだ。

 少し受けるだけで気が遠くなる破壊の波動を受け、モンジャラは今度こそ倒れた。レッドが走り寄って大きな球体状の身体を抱き起こすが、ツタ一本動かす気力も残っていないのは、誰の目にも明らかだ。

「頼みの草の騎士もわたしとミュウツーにかかれば、斬られる定めの城のイバラ。自らが騎士のような勇猛なきみも、今度こそ万策尽きたな」

 しかしレッドの目は曇っていない。まだ、まだだと言わずも語る。

 ──ねえグリーン。

 奮闘してくれたモンジャラを抱きしめながら。レッドはこの場にいない、流石に察しの良い親友でも伝わらないであろう想いを心に綴る。

 ──どうもぼくって人に頼るのが苦手みたい。ロケット団調査はまだしもさ。この前女の子達にカビゴンのご飯探すの手伝ってもらう時すら、カビゴン大食いで大変だから悪いな。ってありがたいより先に考えちゃってさ。わかってるんだ、本当は。ぼくがなんの他意もなく旅の中で人を助けた時みたいに。手を差し出してくれる人達だって、こんなのどうとも思ってない、頼っていいって。

 ──それでも頼るのが苦手で、誰かと遠慮なく張り合ってる方が気楽なのってきっと変なんだよね。だからさ、そんなぼくが一人で本当に本当にどうしようもなくなった時──。

「勝ち筋見えてる時でも、悪事の時は周囲に気を配ったほうがいいぜぇ? サカキよう?」
「何!?」

 ──来てくれるのって君だと思うんだよね、グリーン。

 プテラのはかいこうせんがメガミュウツーをサカキごと横からぶっ飛ばし、空いたレッドの前方に相棒を降ろした。

「うげ、まじでロケット団の死体だらけじゃん。大人げねえなあ。レッドもここまで人数いたら一人じゃ無理だよなあ。だから言ったろ? オレに言えってさ」

 優雅に岩の恐竜から降り立った親友は、世界で一番強くてすごく見えた。「死んでねえ」「だーかーらー!俺らを勝手に殺すな!」外野のロケット団の声も、二人見つめ合う少年達には聞こえない。

「さーてと。パシオじゃあ反則だが……正式試合でもねえし相手は悪党。遠慮はいらねえよなあ?」

 グリーンはボールからピジョットとカメックスを出し、三体全員に指示を出す。はかいこうせんにハイドロカノン、メガシンカしてのぼうふう。

 プテラのメガシンカはとっくに解除していたが、立て続けはポケモンと心を繋げるグリーンもちと疲れる。先程の殿戦闘の疲れも相まって、一瞬頭がクラリとした。が、レッドもこの場にいないエリカも、エリカのモンジャラも限界まで頑張ったらしいのに、ここで自分だけ挫けるわけにもいくまい。来る途中エリカから連絡を貰っていたので、大体の事情は理解している。全くコイツは無茶ばかりして。

「仲間と親友いたぶってくれた礼はたっぷり返すぜ?」
「フッ……こっちは一匹といえど、この前貴様らが束になっても勝てなかったのを忘れたか?」

 メガミュウツーがシャドーボールのエネルギーを溜めようとする──が、空中で体制を崩した! グリーンはニヤリと笑う。

「ありゃまあ……そこの勇敢な草ポケモンのバインドは、流石のメガミュウツーY様も痛えみたいだなあ?」

 サイコブレイクの波動で解除されたはずのまとわりつくのツタの一部は、執念のようにミュウツーの脚にくっついていた。忌々しげにミュウツーが引きちぎろうとするが、拍子にゲホゲホッ、と咳き込む。

「毒も食らってるみてぇだなあ?さすがエリカのモンジャラとレッド。即席コンビでも食いついていくぜ、おーこわ」

 レッドとモンジャラの方を見ると、してやったりな四つの目と目が合う。などとやっているうち、三匹全員が最大出力の大技装填が完了する。水とひこうと、岩に染まった破壊エネルギー。動けば動くだけダメージを受ける、毒とバインドに絡まれながら。なおもサイコパワーをためて攻撃に移ろうとするミュウツーに、グリーンは切なそうに目を細めた。

「ポケモンに罪はない……けど、バディーズは一蓮托生だ。悪いな、ミュウツー」

 三タイプのポケモンの攻撃が放たれ、サカキ達は数十人くらいの部下を巻き込んで、パシオの島の端っこまでぶっ飛ばされた。

 〇

 かぽーん。ししおどしの鳴き声。ここはパシオのエリカの和風豪邸。お嬢様は、宿泊施設も規模がでかい。グリーンとレッドは事の次第を報告すべく、巻き込まれる形になってしまったエリカのところにやって来ていた。

「この子も大活躍だったみたいで……誇らしいですわ」

 傍らのモンジャラの頭を撫でてやりながら、エリカは微笑む。ツル状ポケモンも、先日組んだ臨時の相棒のレッドに向かって微笑む。レッドも「また組んでみたいね」と言う風に笑って、エリカの点ててくれた抹茶を飲み──「にがー!」という顔になった。エリカは笑って、甘いまんじゅうの皿をレッド達に差し出す。今日は友人達しかいないので、本格作法はお休みだ。

「てかサカキレッドの事狙ってたの?ドン引きなんだけど。コイツがそんな簡単に誰かのもんになるかよ」

 面白くなさそうにまんじゅうを持ったグリーンの手から、横に座ったレッドがガブッとかっさらう。カビゴンじゃねえんだぞ! と怒られ。モゴモゴしている両側の頬を押されているレッドの口の中は、さぞかし甘いのだろう。

「大丈夫ですよ、レッドさん、それはもう嫌そうでしたから」
「マジかよ?」
「ええ、ええ。グリーンさんじゃなくても全部わかるくらいに」
「ふ、ふーん……そっか。そうかあ」

 ニコニコしながら抱きつかれ刑を受けるレッドをニマニマ抱きしめるグリーンは、はたと思いついて笑うのを止める。

「いやあんな規模で狙われまくったら、いくらレッドでも危ねえだろ。コイツは最強でも無敵じゃねえし」

 こないだのように心配が杞憂で、隠れられる余裕がいつでもあれば、こっちは胃に穴くらいはいくらでも開けてやるが。勝つ前に死なない程度に。

「そうですわねえ、まあ、そこは──」

 ちゅどーん! かぽーん、かぽーんと一定のリズムを奏でていたししおどしが吹き飛んだ。美しい庭園にクレーターを作って現れたのは──サカキとミュウツー。

「フハハハハ! 見つけたぞ、レッド! 今度こそ貴様を我が物にしてやる!」

 レッドがやな顔する前に、グリーンが嫌悪の顔になった。遅れて抱っこされたレッドもしかめっ面。

「ゲエ! その声はオレのライバル狙ってるド変態少年趣味の、息子にボロカス愚痴愚痴言われてるサカキ!」
「待て、後者は聞き捨てならんぞ」
「この前特訓に付き合った時にシルバーが言ってたぞー。『別の世界でもクソ親父』『身内の恥』『別世界くらいもう少しまともでいろ』まだ聞くか?」
「ゴフッ!」

 サカキは血反吐を吐いた。その隙にグリーンがレッドを抱きかかえ、放り投げたボールから飛び出たピジョットに飛び乗る。

「バーカバーカ、ポケモンに血も涙もねえ人でなしダメ親父〜! お前なんかに親友渡してたまるか、バーカアーホドジマヌケ〜! お前自身がデベソー!」

 このごろ大人びて来たグリーンにしては、ものすごく幼稚で大人気がない。自分で点てた抹茶を飲みながら、エリカは思う。これはミュウツーの扱いに怒っているのと、もう一つの理由は──言うだけ野暮か。

「……今度こそは一緒だからな」
「……!」

 グリーンの決意表明に応えるように、レッドは彼の背中に掴まる。一足早い初雪のようにふわりと羽根を散らしつつ、二人はピジョットに乗って飛び去っていった。サカキもミュウツーのサイコパワーで空を飛んで、後を追う。

 エリカも加勢に追いかけようか迷ってから、まだ足が痛むのを思い出して止めた。それに──。

「グリーンさんもいるし大丈夫でしょう」

 さっき言いそびれた言葉を、自分とモンジャラしかいない部屋で、エリカは言いきった。

「今度はお邪魔虫もいないから、離れる心配もないでしょうし」

 二人が食べそびれた甘いまんじゅうの残りを、モンジャラがツタを伸ばしてパクリと食べた。


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