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[No.2102] 遅れたメール 投稿者:白色野菜  投稿日:2011/12/06(Tue) 23:56:24   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……まだ、悩んでるの?」

「黙って!いま、ここまで!喉の所まで来てるから!!」

親の敵を見るような形相で、少女…と、形容するには苦しい娘(17才)がグラスメールを睨み付けている。
その気迫はさながら鬼のようで、彼女の背後の景色は陽炎のように揺らいで見える程である。

「そう言って一週間前から一字も進んで無いじゃない。
彼氏、もう三日前に旅に出ちゃったわよ?なのに今さら、お別れメールって……。」
「彼氏じゃないし!!ただの幼馴染み!」
「はいはい、ご馳走さま。それと、手。」
「えっ………ああぁっ!!」
娘が慌てて、反論のさいに握りしめてしまった手紙を広げてシワを伸ばす作業にはいる。
が、手遅れなのは一目瞭然。

「何枚目?それで失敗。」
「……二。」
「二十枚?」
「…………に、丸を一個足した数。」
「……まさか、三桁いってるとは。よくそんなお金あるわね。」
「大会で稼いでるから………。」
言いにくそうに呟いた、娘。
この馬鹿さかげんで、この地域一番のポケモントレーナーであると言うのだから、世も末だ。

「早くちゃっちゃと書いちゃいなさいよ。結局見送りもいてないんでしょう?」
我が主は視線を娘に向けながら、私の頭を撫でる。
暖かい手に安心感を覚えつつ、私も娘をみる。

「だって、手紙できてなかったし…そもそも………急すぎ………。」
娘は何やらもごもごと口のなかで言いながら、恥ずかしそうに縮こまり、しわくちゃなグラスメールを端から千切っていく。

「あのねぇ………今日出さないなら、私が彼氏君に今のあんたの状態伝えるわよ?」
「えっ?きょ、今日?!まってもう手紙は可愛いの無いし、グラスメールこれで最後だしっ!!」
「今、此処で、書きなさい。じゃなきゃ、ずっと出さないでしょ?」
さすが我が主。
なかなかの迫力である。……口調は。
姿は…どうみても小学生なのだがこれでも17才である。

「うぅーー、わかったよ!書けばいいんでしょ?!書けば!!」
鞄からもう一枚便箋を取り出すと、塵となったグラスメールを机から払い落とす。
深呼吸をした後、娘はやけくそ気味にペンを走らせる。

主はその様子を満足げに眺めていた。








「『非常食のカンパンあげるから生きて帰ってきなさい!』……て、あいつは俺が何処の秘境に行くと思ってるんだ?」
ポケモンセンターで、メールを受け取った青年が呟いたのはまた別の話。










【山無し落ち無し】【破れたメールは後にスタッフが美味しく頂きました】【好きにしていいのよ】

手紙ってドツボに嵌まると書けないよねってそれだけの話です。