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[No.2138] 雪国ポケモンの憂欝 投稿者:リナ  投稿日:2011/12/23(Fri) 11:57:11   97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 第一印象は最悪でしたわ。

 ポケモンのことなんてこれっぽっちも知らない、つい最近やっとおしめがとれたような小娘――そんな感じ。あなたはその身体には大きすぎるダッフルコートに赤い手袋を着けて、寒さで頬を真っ赤にしながら、パパに手を引かれてワタクシの住んでいた雪山のふもとにやってきましたわね。どうしてこのワタクシがあんな「へなちょこボール」で捕まってしまったのか、今思うと不思議でなりません。そのまま町まで連れられて、"晴れて"あなたの家族となったワタクシは、ずっと心の中で思い描いていた自由な未来が音を立てて崩れ落ちてしまった気がして、それはもう茫然としていましたわ。

 この辺りの冬は人間には堪えるのでしょうけど、ワタクシ暑いのは苦手ですの。これ以上暖房の設定温度を上げるのは止めてくださる? 全くあなたは案の定、ポケモンについては何ひとつ知らない素人でしたわね。いくらワタクシでもかき氷だけで生活できるわけなくてよ。だからってこんな熱いコンソメスープ、飲めるわけないじゃない! チゲ鍋?! 冗談もいい加減にして。あなたのお父様がすぐに図鑑を買ってきてくれたから、ワタクシも一命を取り留めましたわ。いかにあなたの育て方が間違っていたか、お分かりになって?

 それからというもの、あなたは真冬だというのに自分の部屋の暖房を切って、窓を開け放って生活してくれましたわね。ご飯もちゃんと冷ましてから持ってきてくれましたし、だんだんとワタクシの好みの味も分かってくれましたわ。

 あなたは部屋の中だというのにいつものダッフルコートを着て、赤い手袋を着けて、ガタガタ震えながらワタクシの頭を撫でて「つめたい!」とはしゃいでましたわね。唇――青くなってますわ。お母様がお叱りになるのも当り前です。なにもそこまでしてなんて言ってませんわ。あなたの方が身体を壊してしまいますのに、なんて馬鹿な子。

 お母様に叱られて、渋々窓を閉めるあなたを見ていたワタクシは目を疑いましたわ。お母様が部屋から出たのを見計らって、すぐにまた窓を開けてしまったのですもの。外は雪が降っていて、部屋の中にも吹き込んでいましたわ。そしてあなたはというと、叱られたせいで潤んでいる目を擦りながらワタクシの方を振り返って「あつくない?」なんて。

 どうして泣いているのに、そんなにも満面の笑顔を見せますの。
 
 あなたはいくつか冬を越えて、みるみるうちに背が伸びて、いつの間にかワタクシの方があなたを見上げるまでになりましたわ。

 中学生のあなたは、時々学校の帰り道に少ないお小遣いでアイスクリームを二本買って、いつもワタクシに一本くださいましたわ。特にあの、中にあずきの入った白いアイスクリームは他のものより少し値が張るけれど、ワタクシたちの一番のお気に入りでしたから、月に一回だけと決めて楽しみにしていましたわね。今でもあの絶妙な甘さを、ワタクシの舌が覚えています。

 高校生になったあなたは少しお父様やお母様に対する言葉づかいが悪くなって、化粧も覚えて、中学生の頃とはがらりと印象が変わりましたわ。勉強に恋愛、他にも色んなことに日々悩んでいるあなたの背中を見て、ワタクシはどうしていいものやら気を揉んでいた記憶があります。アイスクリームを卒業したかわりに、あなたは携帯電話の画面に毎日噛り付いていました。ワタクシとしても、あの頃はそれなりに寂しかったような気がしますわ――い、いえ、別にそんなこともなかった気がします。ええ。

 高校を出てからのあなたは、自分のことでずっと迷っていました――少なくともワタクシにはそう見えましたわ。アルバイトをしながら、色々なものに手を出して、また手放して、また別のものに興味を持って、また捨てて、飽きっぽくて続かない自分の性格を嘆いていましたわね。ワタクシは何かして差し上げようにも、結局できることはそばにいることだけでした。

 あれから数年が経ちました。あなたはひとつの決断をしましたわ。全くあなたらしい、今一つぱっとしない顔で。

 まだ、あなたは迷っているのですか? もしそうでしたら、あまり考えすぎないのも一つの手かもしれませんわ。

 なぜかって? それはもちろん、あなたが白いドレスにこうして身を包んでいるのは、あの日ワタクシがあの「へなちょこボール」で捕まってしまったのと、全く同じことだからです。

 全く、ワタクシはユキメノコとして実に不自由な生き方をしてきましたわ。これも全部あなたのせいです。
 この責任は、これからもずっとあなたが負っていることを決してお忘れなく。

「ねえゾーイ、あたしホントにこのままあの人と幸せになれるのかなぁ?」

 そんなこと知りませんわ。全くこんな年になってもまだうだうだ言って。見てて腹が立ちますわ。

 うまくいくかどうかなんて、そんなものあなたたち次第です。

 どちらにせよ、ワタクシはずっとあなたのそばにいますから。



 ――ほら! 結婚式なんだから、もっとしゃんとなさい!

【めのこーめのこーめのこー】