◇ ◇ ◇ GTSとその利益 グローバルトレードステーション。 アルファベット三文字で「GTS」と表記されるその施設は、世界各国のポケモントレーナー達が、実際に触れ合わずともポケモン交換をする事が出来る、未来的なシステムを導入した施設である。 利用費用は不要。ポケモンセンターと同じく、ポケモントレーナーであり、ポケモンを二匹以上持っているというだけで利用する事が出来るという、トレーナーにとってはとても便利な場所である。 ポケモンセンターなどの公共施設が、何故無料で提供されているのか。その疑問は多くのポケモントレーナー達を疑惑の渦に巻き込んだ問題であるが、しかし今となっては、それも当然の事として語られている。『ポケモンリーグが援助している』だとか、『ボランティアで成り立っている』とかいう諸説があるが、そんな事は誰も信じないし、恐らく誰も、興味を持たないのだろう。 「タダで使えれば、それでいい」 そんな意見が大半を占めるのだと思われるし、事実、ほぼ全てのトレーナーの考え方はその通りになっているのだろう。 だが、しかし。 考えてもみて欲しい。 何の利益も生まない施設が、施設たり得る事など、現実問題、有り得るのだろうか? グローバルトレードステーション。 GTS。 それほどの大それた施設が、無料で提供され、また利益を生まない事など、常識的に考えて、考えられないのだ。 必ず何処かに利益が生まれる。 利益が発生せず、利用者にのみ有益な施設などは、あってはならない。あってはならないし、むしろ、存在する事自体が、困難であるのだ。 では、何処で利益が発生するのか。 それを知るためには、まずはグローバルトレードシステムの実態を知らなければならない。 簡潔に説明しよう。 グローバルトレードシステムが行う事業は、主にポケモンの交換である。 主に、と書いた理由だが、この転送機を使う場合、一旦手放して転送機にポケモンを預けた時から、そのポケモンの主導権は宙を漂う事になる事が上げられる。 つまりは、ポケモントレーナーはそのポケモンの所有権を失うのである。 無論、そのポケモンが保存されているモンスターボールの親識別IDはそのままであるが、一時的な所有権放棄が成される。 それが何に繋がるのか。 『一人で通信交換が出来る』、という事である。 自分のポケモンと、自分のポケモンを。 しかしそれは、百円玉を百円で買うのとはわけが違う。何故ならポケモンの中には、通信交換によって進化するポケモンが数多く存在するからである。 つまりは、正規の通信交換以外にも、このような方法でグローバルトレードシステムは使われているということになる。 例えば通信交換をしてくれる友達のいない――言ってみれば、私のような人間だが――が、進化形のポケモンを手に入れたい時には、GTSでこういった裏技を使う事も、可能ではあるのだ。 では、その方法で利益は発生するだろうか。 一時的に所有権を放棄したとしても、最終的には自分の手元に戻ってくるのであるから、物理的な利益は得られないだろう。そのポケモンそのものを、GTSで引き取るわけでは無いのだから。 それに、一人で通信交換をする場合には短期間である場合が多いのだから、その期間他の誰かにポケモンを貸与する事も出来ない。 となると、この線は消えてくる。 やはり問題は、大規模な通信交換サービスにある。 世界中の人間と交換出来るという利点の他に、欲しいポケモンを指定出来、さらには指定した後は自動的にポケモン交換をしてくれるという所に、このサービスの利点は――このサービスによる生まれる利益はある。 つまりは、冒険の合間にポケモンを預け、思い出した時に確認してみれば、交換されている、という所に、このサービスの最大の特徴はあるのだ。 冒険の合間にポケモンを預けて。 思い出した時に確認してみる。 さて、ここに抜け目がある。 わかりやすく、クリーニングを例に出してみよう。 出したきり預けた事を忘れてしまったワイシャツやスーツ。それらを取りに行く事を忘れてしまったら、思い出すのはいつになるだろう。 果たして自分は、何を預けたのだろう。 そもそも本当に、預けたのだろうか。 いや、実はもう回収したのかもしれない。 それをクリーニング屋の店員に聞くのは、躊躇いがある。 いや待て、そもそも何処のクリーニング屋に……。 ――という、人間の不甲斐ない記憶力のせいで、こうした現象が起きる事が多々ある。 それをグローバルトレードシステムに置き換えると、どうだろう。 このシステムで要求されるポケモンは、伝説系ポケモンや貴重なポケモン。または、一般的なポケモンであっても高レベルなポケモンであるという場合が多い。 何故か。 皆楽をしたいのだ。 そして差し出されるポケモンは、そこらでとれる一般的なポケモンである場合が多く、レベルも低い。需要と供給は常に破綻しており、グローバルトレードシステムの転送機に預けられているポケモンは、総じて貴重では無いポケモンばかりと言う事になる。 嘆かわしい話では無いか。 自分は楽をして、他人のポケモンを手に入れようとする。それも貴重であり、強いポケモンを、だ。おこがましい。しかしそれを推奨しているのは、あくまでも施設側であるのだから、こちら側がポケモントレーナーを責める資格は無い。 ――のではあるが。 ここに問題点がある。 ポケモンを預け、それを忘れる。 すると、どうなるだろう。 そのポケモン達の行方は? 勝手に預けられたポケモン達は、親識別IDこそ残されてはいるが、その親識別IDが現在の持ち主と同じであるかどうかは定かではない。 だから施設側から、持ち主に呼びかけるという事は出来ない。 しかし転送機にポケモンが溜まれば溜まるほど、負担がかかるのは施設側である。 それを――――解決するために。 前置きをしておく。 これはあくまでも仮説だ。 仮説ではある。 しかし現実的な仮説として。 それらのポケモンを、屠殺する。 という方法で、ポケモンの数を減らしているのでは無いだろうか。 無論ポケモンを殺した所で、何の利益にもならない。 しかし、それが商品化の一歩手前だとすればどうだろう。 ポケモンを殺す事で、それが商品と成り得るのなら……? あくまで仮説であるが、一番有力な所では、『ふしぎなアメ』がそれに該当する。 次いで『どくどくだま』、『かえんだま』を筆頭とした、バトルタワーで入手する事が出来る商品だ。 ここで問題になってくるのは、バトルポイントを手に入れるためにはバトルタワーで連勝をする事だけなので、一切参加費用がかからないということ。 そうなると、施設側には一切の利益が還元されない。 しかしながら、こうも考えられる。 一昔前までは、『ふしぎなアメ』というアイテムは高級品であり、非売品であった。どころか、手に入れる事すらも容易では無く、入手経路すらも不明。もはや幻に近いアイテムであった。 にも関わらず、近年になって突然に入手方法が拡大したのは何故だろう。 また、こぞって新しいアイテムが生産されているのは何故だろう。 どくどくだま。 何のたまなのだろう。 かえんだま。 何のたまなのだろう。 たま、という事だろうか。 命。 たま。 パワーウエイト。リスト。ベルト。アンクル。レンズ。バンド。 それらの材料は何だろうか。 何故、部位ごとに効率よく能力を上げられるのだろうか。 それは、そういったポケモンを、材料に使っているからなのでは無いだろうか? 仮定にしては、中々に真に迫ったものであると、私は考えている。 そして、この考えから発展すると、ポケモンセンターにも利益を生み出せる要因はある。あのパソコンは、非常に怪しいものだ。逃がしたポケモンは、一体何処に行くのだろうか……等々。考えればキリの無い事ではあるが、抜け目はいくらでもある。 つまりは商品を作り、トレーナーから金銭を回収するという方法で、グローバルトレードステーションは利益を生み出していると思われる。 いかにも、全ての人間に平等を訴えかけるポケモンリーグらしい考え方では無いか。 決して誰も敵に回さない。 そして、誰にも気づかせない。 ――生命の成長の均等をはかっている。 そこで私は、今後グローバルトレードステーションの事を、GBTSと略称する事にする。 grow bal trade station. 中々洒落た風刺では無いだろうか。 無論、文法については専門では無いために、雰囲気だけに留めておく。 この仮説が、いずれ事実として日の目を見る事を祈って。 某月吉日。 逸れ研究員。 ◆なお、この文章は研究員の死後二年後に発表された、虚実だらけの論文である。(と、公式には発表されている)
|