◆一九八五年、二月十日◆
 ヤマブキシティに本社を置く、シルフビル。本日はそのビルを乗っ取っていたロケット団を追放した。これは既に決着がついているので、この後に影響することは少ないと思われる。
 しかし、ロケット団のボスである『サカキ』については今後戦うこともあると思うので、調査が必要である。これは各自で調べて欲しい。
 同日、前日に勝負を受けた、ライバル(グリーン。マサラタウン出身で、オーキド博士の助手。オーキド博士については一九八二年、十二月二十二日の記述が詳しい)から再戦を受けた。
 手持ちのポケモンはピジョット、ガーディ、タマタマ、フーディン、カメックスの五体だったので、ここに記しておく。
 今後も対戦する可能性があるので、それに合わせてパーティの調整を行っておきたいところだ。
 また、これからヤマブキジムへと挑戦するつもりなので、これを見た『レッド』は、そのように行動して欲しい。ヤマブキジムに存在するジムトレーナーは全て倒してあるので、残りはジムリーダーだけである。
 尚、それからの行動については、自由にしてもらって構わない。
 百三十二代目、レッド。


「……なるほど」
 僕はレポートを読み終えて、ポケモンセンターの椅子から立ち上がった。
 どうやら前代の『レッド』は、ヤマブキジムに突入する寸前でレポートをまとめ、この世界を引退していったようだ。
 僕はレポートと同封されていた六つのモンスターボールを腰につけて、早速そのヤマブキジムとやらに向かうことにした。
 ジムリーダーのナツメを倒すのだ。
 僕はヤマブキジムに向かう道中、『レッド』のレポートを再読しておく。どういう人格なのか知っておく必要があるのだ。
 何人もの『レッド』が書き連ねてきたこの『レポート』も、随分な厚さになっている。
 同じ容姿で同じ背格好でなければ、『レッド』として行動出来ない世の中である。僕らはそのように作られて、少年から成長してしまう前までに行動をし終え、潮時になったらレポートを書いて引退するよう、命令を受けていた。僕も例外ではない。
 まあ、そんな使われて捨てられる僕の人生も、そういうものだと割り切っているので、あまり感慨は無いのだけれど。別に役目が終わったら死するわけでもないのだから。
 僕はヤマブキジムに行って、とある人物になれなれしく声をかけられた。が、一九八三年のレポートに、ジムにはこのような人が付き物だと記してあったので、無言で頷いておく。
 ナツメに対峙するまでには何度かワープしなければならないようだ。が、そのワープ装置の道順も既に図となってレポートに書かれていたので、迷うことなく辿り着けた。
 レポートに書かれた通りにワープし続けること数回。僕はストレートの髪の毛が美しい『ナツメ』に出会い、早速勝負をしかけることにする。
 とは言っても、直接的に会話をしてはならない。これは『レッド』の掟だからだ。
「さて……ほんじゃ、倒そうかな」
 僕はナツメに聞こえないようにひとりごちて、モンスターボールを放った。


 ◆一九八五年、四月九日◆
 ヤマブキジムのジムリーダー、ナツメを倒し、ゴールドバッヂを取得。同時に技マシン46、サイコウェーブも取得したので、レポートに同封しておく。
 今後、これを引き継ぐ『レッド』には、自由に手持ちのエスパータイプに技マシンを使ってもらって構わない。
 今後の進路であるが、これからセキチクシティを経由し、海を渡って『双子島』を目指してもらいたい。その後の行動については、自由にしてもらって構わない。
 百三十三代目、レッド。


「……なるほど」
 僕はレポートを読み終えて、ポケモンセンターの椅子から立ち上がった。
 どうやら前代の『レッド』は、ヤマブキジムに突入した直後でレポートをまとめ、この世界を引退していったようだ。
 僕はレポートと同封されていた六つのモンスターボールを腰につけて、早速その双子島とやらに向かうことにした。
『そらをとぶ』でセキチクシティに飛び、『なみのり』で海へと乗り出す。初めてのことだが、レポートに様々なことが記されているので、恐怖は無い。
 セキチクシティから数分、優雅に波に乗っていたが、突然海パンを穿いた男性に声をかけられた。
 一九八三年のレポートによると、目が合って声をかけられることは、戦闘を仕掛ける合図のようだ。
「そこのお前、勝負だ!」
「……」
 無口キャラ、ということで僕は喋らないように心がける。これは『レッド』に共通する掟らしい。
 僕は出来るだけ、僕の代で物語を進めて起きたかった。だから、自分の成長が進んでしまう前に双子島を目指し、あわよくばその後も進めてしまいたい。
 こんな海パン野郎、構ってる暇は無いんだ。


 ◆一九八五年、四月十日◆
『レッド』に勝負をしかけた。
『レッド』は順調に『レッド』を受け継いでいるようで、一安心した。ポケモンも実によく育っていた。懐かしい面々に会えて、少し嬉しい気持ちもある。
 次回から私は山男の任務に移るので、次に『海パン野郎』を引き継ぐ人間には、『レッド』を発見し次第、勝負をしかけるようにしてほしい。
 ……まあ、過去の自分と同じ容姿をしているのだから、すぐにわかると思うが。
 百三十二代目、レッド。