夢越え橋から眺めた景色 「そこにはね、何も無かったの」 彼女は言う。 「殺風景とか、質素とか。そういう意味じゃなくてね、本当に、何も無かったの」 何も無かった。 何も無かった。 何も無かった、なんて、本当に有り得るのかな。 僕はその言葉を聞いて、少しだけ、疑問に思う。 全ての場所には、何かが在って然るべきだと。 全ての人間にも、何かが有って然るべきだと。 だから何も無い場所なんて、本当に存在するのかな。 「それって、謎の場所?」 僕は尋ねる。 最近、都市伝説の一つとして蔓延っている、噂の一つ。 曰く、ポケモンリーグの一層。 そこにある扉が、何処かと繋がっている、という話。 水や鏡は、霊界との繋がりを円滑にするらしい。そして、動物――ポケモンも同様に――は、霊に対して敏感であると、そういう話もある。 そういう条件が、整ってしまっているからなのか。はたまた、ただの偶然なのか。 その、一人目の四天王の部屋。 そこで波に乗る――もっとも、水なんて無いのだけれど――ことで、『謎の場所』とされる異空間に、放り出される。 「謎の場所?」 だけど、彼女は首肯しない。 逆に、問い返してきた。 「謎の場所って、なあに?」 それは、呼び方を知らないという意味ではなかった。 存在そのものを、知らない。 そういった部類の疑問。 「謎の場所って、何だかおかしな名前ね」 だからつまり、彼女が言う『何も無い場所』とは、『謎の場所』では無くて、もっと別の――別ですら無く、唯一無二の。 虚である場所。 何も無い場所。 「謎の場所なんて言っても、存在しているのなら、謎ですら無いんじゃない?」 「じゃあ、謎の場所じゃないなら、何なのさ」 別に、苛立っているわけじゃあなかったけれど。 僕ら少年が求める、特別性――噂で持ちきりである『謎の場所』を、鼻で笑えてしまうような体験を、彼女はしたと言う。 それが少し、鼻につく。 「いいよ、僕をそこに連れてってよ。自分で確かめるから」 「そこに何も無い場所が存在していることは、もう私が証明しているけど」 「違うよ、別に、存在を疑ってるわけじゃない」 彼女は、嘘をつかない。 嘘という選択肢を、知らない。 だから、彼女がそう言うのなら、何も無い場所は、存在するのだろう。 だけれど、それが『謎の場所』と比べて、本当に何も無い場所なのか。 僕は知りたい。 「じゃあ、私がどうやって行ったかは話すけど……私は、もう二度と行きたくないな」 彼女は言う。 知り合って、日が浅い関係。だけど、旧知の仲のように、お互い言いたいことを言い合っている。 だから、彼女が行きたくないと言うのなら、それもまた、尊重すべきだろう。 「だったら、一人で行ってくるよ」 何も無い場所。 無の場所。 それが謎の場所と比べて、どれくらい殺風景な場所なのか。 是が非でも、確かめておきたい。 「でも、手前くらいまでは、付き合ってよ。経験者がいた方が、色々、やりやすいだろうし」 彼女は頷く。 「とは言っても、歩いていく場所とかじゃないんだけどね」 とにもかくにも、『謎の場所』と『無の場所』を、見比べるなら、僕ほどの適任者はいないだろうし。 『謎の場所』に行った、唯一の生き証人としての僕は。 僕らは、レポートを書く。 レポートとは、自分の行動を書き留めておくために必要な、日記みたいなものだ。 まあそれがどうと言うわけじゃあ無いんだけれど、僕は現在、空き時間に、レポートを書いていた。 ――何月何日、彼女と喫茶店に行った。とか、そんな感じで。 僕と彼女は、現在、ズイタウンの北にある喫茶店で、雑談に興じていた。 彼女は物珍しそうに、店内や、店員、客。全てのものを、観察している。 一概に、恥ずかしいと言ってしまって差し支えの無い行動だったけれど、僕は別に気にしなかった。 「へー……すごい、お洒落なんだね」 「お洒落って……こういう言い方はあまり褒められたもんじゃ無いけど、レストランとかに比べたら、殺風景なもんだよ。席だって少ないし」 「うん、そうね。私も一つレストランを知っているけれど、それに比べると狭いかも」 シンオウ地方の浜辺にあるレストラン。ホテルの付近に建てられていて、客席の数がとても多い店。 二人組みの――今の僕達のような――客が多くいるため、よくダブルバトルの会場としても使われている。僕も様々な目的でそこに足を運んだが、そこに比べたら、本当に、この喫茶店は天と地ほどの差がある。 「お待たせしましたー、モーモーミルクでーす」 言いながら、従業員が二人分のミルクを持ってきた。本当は紅茶とか飲みたいところだけれど、この喫茶店において、モーモーミルク以外の選択肢は無いので、仕方が無い。 「わあすごい、こんなものが飲めるんだね」 「飲めるんだねって……レストランに行ったこと、あるんでしょ? だったらもっとちゃんとしたもの頼んでるんじゃないの?」 「うん? ああ、そっか、言い方が変だったかな。レストランには行ったけど、注文はしてないの」 ? 言っている意味がよく分からないが、特に追求もしないでおく。彼女が変なことを口走るのは、今に始まったことじゃ無い。 彼女はグラスを手に取ると、ミルクを美味しそうに飲み始めた。本当に、初めての味覚であると言わんばかりに、美味しそうに。 僕はそれを見て、不思議な気持ちになる。 「……何も、初めて飲み物を飲んだってわけじゃ無いんだから、その大袈裟な反応やめたら?」 「そうだね……でも、これを飲んだのは初めてだから」 モーモーミルクを飲むのが始めて……か。 ――まあ、そういう人もいるか。別に、自分の常識を人に押し付けるつもりなんて、さらさら無いわけだし。彼女が飲んだことがなくて、それが珍しいというのなら、それでいいのかもしれない。 と、言うより。 僕が随分と――世界のことを知りすぎただけか。 知らないことなど、何も無いというほどに。 ポケモン図鑑、四百九十匹、完全登録。 そして、公には認められていない、新種のポケモンも、二匹捕獲した。 それこそがまさに――『謎の場所』が僕にもたらした、幸運であったわけだけれど。 とにかく僕は、この世界に関して、様々なことを知っている。 しかしそれも、シンオウ地方に限り、である。カントー、ジョウト、ホウエンと言った他の地方には足を踏み入れたことすら無い。しかし、ポケモンを捕獲するという観点で言えば、シンオウ地方に存在しているだけで、他の地方のポケモンをゲットすることは、容易いのだ。 それに、今は世界中と、通信交換が出来る時代。 自分のホームで事足りるなら、都会に足を伸ばす必要も無いと、僕は思う。 「ふー、ごちそうさま」 既に一杯飲み終えたらしい。よほど美味しかったんだろう。 「気に入ったんなら、僕のも飲んでいいよ」 「ほんと?」 「うん。僕は、何度も飲んでるから」 それこそ、冒険に出てから、何度も。 ――ナナカマド博士。 シンオウ地方でトップクラスの技術と知識を持つ彼にポケモンを貰ってから――一年と、二ヶ月か。 たったそれだけの時間で、僕はこの世界を知り尽くし、頂点に立ってしまった。 無論、井の中の蛙という意味合いでは無く、完全なる頂点に。 ポケモンリーグに挑戦し、四天王を破り、殿堂入りをした。 自らの手で捕獲したり、通信交換をしたりして、全国図鑑を完成させた。 バトルタワーと呼ばれる、ポケモンバトルの最高峰においても、タワータイクーンを二度破り、その後も連勝を続け、前代未聞の百連勝を達成した。 ポケモンバトルを極めた後は、ポケモンコンテストに手を出した。そこでも、努力の末、マスターランクに、見事優勝した。 地上を制覇した僕は、最後に地下通路と呼ばれる、シンオウ地方の地下に展開された巨大通路において、他のトレーナーが持つフラッグを奪取し続け、天下を取った。 ――そして、地下通路の地層も粗方掘り終えてしまい、何もすることが無くなってしまった僕は、地下通路から地上へと戻った。 そこで、彼女と出会った。 「あ、はじめまして!」 と、初対面で、彼女は言った。 最初、この地方の名前すら言えなかった彼女は、その後の会話の中で、カントー地方出身ということが分かった(もっとも、カントーという地方名を言うことは無かったけれど)。 「私、ちゃんと女の子なんだねー」 なんて、意味不明な発言をしたり、 「ポケッチって言うの? これすごい便利だね」 とか、時代遅れなセリフを吐いたり。 だけど僕は、特にやることも無かったからか、彼女の雰囲気に惹かれてしまったからか、現在、行動を共にしていた。 まだポケモンリーグを目指していた頃、何度か他人と行動を共にすることはあったけれど、まさか自分から声をかけるようになるとは、思わなかった。 「ごちそうさまー」 「ん、もう終わったの?」 「うん、ありがとう」 二杯目のミルクを飲み終わったようだ。さて……それじゃ、僕は回想から現実に目を向け――本題に入ることにする。 「で、その――何も無い場所、のことだけど」 「うん」 「そこに行ったのって、一度きりなんでしょ?」 「そうだよ。その場所から出て来て、まだ一週間経ってないかな」 僕と出会ったのが二日前だから――それより二、三日前に、シンオウ地方に来たってことかな。 「その前は、カントーにいたんだよね」 「うん。カントーって名前だって知らなかったけどね。セキエイ高原があるところだよ」 セキエイ高原はジョウト地方とカントー地方が挟んでいるから、それがカントー地方であることは断言は出来ないけれど――ジョウト地方に多く生息するポケモンのことをよく知らないってことは、カントー出身ってことでよさそうだ。 まったく……人間にも、何処から来たのか調べられる図鑑が欲しい。 「そこで何してたら、何も無い場所に行ったの?」 「んー……っと。普通に冒険してて、四天王を倒して、あとはポケモン一杯捕まえてたかなあ。私、ポケモン図鑑だって完成させたんだから」 自慢気に、彼女はそう言う。 「……今持ってるポケモン、何だっけ」 「えーっと……ポッチャマだっけ」 「うん、ポッチャマだね。ポッチャマって何に進化するか、知ってる?」 「んーん、知らない。でも、ゼニガメみたいなものなんだよね」 また不可思議な発言。 僕が知識豊富だから良いようなものだけれど……見方を変えれば、ただの不思議ちゃんだ。 確かにゼニガメやワニノコと同様に、希少種で三段進化のポケモンではあるけれど。 「それで、ポケモン図鑑を完成って言ってたけどさ、何匹集めたの?」 「えっと、百五十匹」 それはあまりに、少ない。 現在認可されているポケモンは、四百九十匹。三分の一にも満たない数のポケモンを捕まえただけで、図鑑を完成させた? それは随分と、笑えない冗談だ。 本当に――何処か、記憶を歪めてしまったのかもしれない。 「今、ポケモン図鑑持ってる?」 「うん、持ってるよ。すごいね、シンオウ図鑑って言うんだよね」 「機能を追加すれば全国版にも出来るんだけど……全国図鑑になると、四百九十匹まで登録出来るんだよ」 「え……全部で百五十匹じゃないの?」 「それはシンオウ図鑑までの話。ほら、ちょっとこれ見てみてよ」 僕はバッグからポケモン図鑑を取り出して、彼女に手渡す。 「わ、すごい、全部埋まってる」 「カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウって順に並んでるらしいよ。あとは、進化系列が見つかった順……かな。とにかく、四百九十匹は、確実にいるわけ」 「わ、すごい、伝説御三家……ミュウツーもいるんだー……え! ミュウまでいる! ミュウって実在したんだあ……」 彼女は興奮している様子だ。 確かに……ミュウに関しては、僕も噂しか知らなかった。ミュウや、セレビィや、マナフィ。伝説と言うよりは、『幻』と称される彼らをゲットするのは簡単な話では無かったけれど……それも根気と技術と熱意があれば、不可能では無かった。 僕は興奮気味の彼女からポケモン図鑑を取り上げて、話を再開する。 「とにかく、百五十匹で図鑑完成ってのは、ちょっと信じられない話なんだよ。四天王を倒したってのは、まあ実力さえあれば出来るだろうから信じられるとしても――カントーはポケモン研究が一番盛んな地域だから、図鑑が時代遅れしてるってのは、疑う余地がありすぎるよ」 「うーん……確かに、君には分からないかもしれないね。でも、本当なんだよ? 建物だって、こんなに綺麗じゃ無かったし」 「まあ、建物の装飾って点じゃあシンオウは優れている部類らしいけれど……とにかく、疑っているわけじゃ無いんだけれど、その、何も無い場所ってとこに行って、僕の記憶もおかしくなっちゃうって言うんなら、あんまり行きたくないんだ」 「ん、それは大丈夫だよ。確かに忘れてることはいっぱいあるけど……記憶が混ざってるってことは無いの。でも、知らないことは、沢山あるかな」 「それは、忘れてるってことじゃなくて?」 「うん。最初から知らないこと」 確かに……嘘をつく人じゃないし。 いくら僕でも、それくらいを見分けることは出来る。 だから、彼女が言っていることが本当なのだとして――それを現実と照らし合わせるのなら。 何も無い場所。 空虚。 空白。 空洞。 何をも、無くしてしまうのだろうか。 全てを、無くしてしまうのだとして。 では彼女は、何故またここにいるのか。 それはやはり、僕が行って、確認するしか無いのだろうか。 「……ま、いいか。他にやることも、無いんだから」 「やること、無いの?」 「うん。もう僕、ほとんどやること――って言うより、夢としてたものを、叶えちゃったから」 「夢?」 「殿堂入りとか、図鑑完成とか。それらが終わった後は、とにかく強いポケモンを育てた。けど、それも終わっちゃったよ。たまに、顔も見たことの無い人と、通信対戦とかやったりしたけど――それでも、僕は負けなかったからね」 「ふーん、強いんだね」 「強すぎるのも、考え物だよ」 レベルが十に満たないポッチャマ一匹しか持っていない彼女には、分からない悩みだろうけど。 「私も友達の間じゃすっごい強かったんだよ」 「内輪だけでしょ。世の中には強い人がいっぱいいるんだから」 「むぅ……」 不満気な彼女を、微笑ましく見つめる。 少し、羨ましいという気もするけれど。 これからあの、心踊る冒険に出られるなんて。 「……とにかく、僕は、その場所に行きたいんだよ」 なんとか彼女への羨望を押し止めて、本題へと、話を戻す。 「うん、そうだったね」 「どうやって、そこに行ったの?」 「どうやって、ってわけじゃ無いけど。他に何もすることが無くなって、気づいたら、そこにいたの」 「いたって意識はあるの?」 「んーん。でも、今このシンオウ地方? ってとこに来たら、ああ、こんなに長い間、私は漂流してたんだって」 空白を漂っていた……ということか。 漆黒を歩いている……というのが、謎の場所に到達した僕の感想だったけれど。 夢のような――ものなんだろうか。 夢が覚めて、初めて思い出すというような。 「とにかく、何もすることが無くなればいいの?」 「うん。何かやり残したことって、ある?」 「分からない。個人的には、何もすることは無いんじゃないかって思ってる」 「そっか……それなら、多分、いつか迎えが来るよ。本当は、私のレポートがあれば見せてあげたいんだけど……持ってないみたいだし」 「レポート……レポートね。それがあれば、どういう状況で何も無い場所に放り出されたか、分かりそうなものだけどね」 「うん。でも、大丈夫。行きたいって思わなくても、そのうち行けちゃうからさ」 「なるほどね。とりあえず、そういうことなら、することが無くなるまで、ぶらぶらしてみるよ」 やることが無くなるまで……なんて言っても、既にやることなんて、存在していないけれど。 「そうだね」 強いて言えば、彼女と言葉を交わすくらい。 彼女と一緒に行動して、彼女と一緒に冒険に出て。 知らないことを教えて、戦術を指南して。 ……それで? それは……本当に彼女のためになることなのか、否か。 一から十まで手を出して。それで彼女は大丈夫なのか、とか。 僕はそれで、楽しいだろうけど。 だけど―― 「ずっと僕と一緒にいると、駄目なのかもしれないな」 「? 何が?」 「ポッチャマ、全然育ってないでしょ」 僕が一緒にいることで、ほとんど、敵と遭遇すること自体少なくなってしまって。 トレーナーと目を合わせることも、無くなってしまって。 彼女のポッチャマは、レベルが十にも満たない。 「んー……それもそうかも」 「それなら、レベル上げに適したところまで、送ろうか。空飛べばすぐだし」 「あ、うん。お願いしようかなあ。実は、この辺のポケモンって強すぎる気がしてたんだあ」 「うん……あんまり、世話焼くのも、良くないんだろうね」 言いながら、僕は席を立つ。 彼女も、それに続く。 「戦闘が終わる度に回復させてたんじゃ、戦術も戦略も、育たないだろうし」 独り言のように言って。 そのまま喫茶店を出る。 「それじゃ……フタバタウンまで飛ぶけど、そこでいい?」 フタバタウン。 僕の故郷。 せっかくだし、母さんに顔を見せるのも、いいかもしれない。とか、そんなことを思って選んだ。 「うん、お願いしまーす」 「それじゃ、行こうか」 僕はプテラを繰り出して、彼女を背中に乗せる。 そして、その後ろから、僕も乗り込む。 「じゃ、フタバタウンへ」 そうして、静かに、プテラは飛び立つ。 「ただいま」 なんて、ありきたりなセリフを吐いて、家に帰ってきた。 「あらお帰り。随分長い間冒険してたのねえ」 暢気に言う、母さん。 一年間も会ってなかったというのに。 「うん。色々してきたからね。ま、たまには母さんに顔を見せようかなと思って」 だけど、それだけ言って、僕は二階にある自分の部屋へと向かった。 久しぶりの対面だけれど、あまり感動的ってわけじゃあないし。家族仲が悪いってわけじゃあないけれど、特別良いってわけでもないし。 顔を見せられたなら、それでいい。 それよりも、彼女の言葉。 ――彼女は、付近の草むらへ向かった。 ここなら大丈夫だから、とか、そんなことを言いながら。 だから僕は、機会があればまた出会えるだろうとか、そんなことを思って、彼女と別れた。 別れ際に、彼女は言う。 「また会おうね」 「あ、うん。僕は、多分……家にいるから」 「うん。じゃ、またね。……あ、最後に一個聞いていい?」 「なに?」 「君って、何歳?」 「十歳だけど……」 「ふうん。私、君の二倍も生きてるんだあ」 とか。あまり変わらないような容姿のくせして、彼女はそんなことを言った。 最後の最後まで、分けのわからない人だった。 だけど、不思議と、その言葉が、僕の中で意味を持ってしまった。 僕は部屋に戻って、机の上でレポートを書く。 『僕の二倍生きている、不思議な女性と出会った。そして、彼女と別れた』 僕はしっかりと、書き残して。 久しぶりに、自分のベッドに、身体を沈めた。 「……ん」 最初の町に歩を進めた。 見るもの全てが、新しい。 技術の進歩を、感じずにはいられない。 そこら中の景色を、まるで初めて見たと言わんばかりに、僕は観察する。 シンオウ地方とは大違いだ。なんて、そんなことを想像しながら。 そんな行為が、あまりに彼女に似すぎていたから。僕は『無の場所』の存在を、理解した。 「さて……今のポケモン図鑑ってやつは、何匹まで増幅しているんだろう」 今の僕には、ポケモン図鑑を全部埋める根気なんて存在していないだろうけれど。 千匹とかいても、有り得ない話じゃ無さそうだ。
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