僕は今、ハクタイシティのとある家の前にいた。
 持っているメモに書かれた地図を見て、間違いがないことを今一度だけ確認する。
 ……うん、やっぱりここでいいみたいだ。

 ピンポーン!

「はーい!」

 女の子の声が聞こえて、ガチャっと玄関のドアが開く。
 家の中から顔を出したのは、緑色の長い三つ編み髪が印象深い、綺麗な女の子。

「あ。モミ、こんにちは……」

「いらっしゃい、コウキさん」

 互いの名を呼び合ってから、僕は彼女に家の中へと招かれる。
 正直、女の子の家へ遊びに来るなんて経験そんなにないから、ちょっと緊張するけど……。

「! あ、雪……」

 家に入る寸前、僕は空から舞い降りる白い氷の粉達に目がついた。
 それを聞いて、モミもすぐに空を見上げる。

「わぁ、本当ね」

 今日は、12月24日。
 丁度、ホワイトクリスマスという訳だ……。

「さっ、そこにいたら冷えるわ。早く中に入りましょ」

 

 

 

クリスマスの木

 

 

 

 モミと出会ったのは旅の途中、ハクタイの森入口に差し掛かった時だった。
 木の下で静かに佇む彼女は、僕の姿を見てそっと声をかけてきたのである。

「初めまして。あたしの名前はモミ。あなたは……?」

 旅の途中で様々な人と出会うのは、よくある事だ。
 僕は自分の名を、すぐに答えてあげた。

「コウキさんって名前なんだ。ねえコウキさん、お願いがあるの!」

 大人しそうでありながらも、明るく積極的な喋り方で話すモミ。

「この森を抜けたいけれど、あたし一人じゃ心細いの。ギンガ団とかいう怪しい人が、うろついてるって聞いたし……」

 確かにその頃、あちこちでギンガ団の事件は頻発していた。
 彼女が何故ここにいて、森を抜けようとしているのかは知らなかったが、心配する気持ちはよく分かる。

「旅は道連れっていうでしょ。ね! 一緒に行きましょうよ!」

 それは僕も異存なかった。
 ……ところが、このまま森に入るには、ポケモンの状態やアイテムの残数が厳しかった事に気づく。

「あれ、戻るの? じゃ、あたし、ここで待ってますね」

 僕はモミに事情を話してから、慌ててソノオタウンへと引き返した。
 自分でもかっこ悪いと思ったけど……とにかく、急いで彼女の元へ戻ってこようとした。

「あっ! コウキさん! あたし、待っていたんだから!」

 しばらく待たせてしまったものの、僕が戻った時、モミは変わらず木の下で待っていてくれた。
 この時は僕自身も、彼女と一緒に森を抜けたいと思っていたのだ。
 1人だと不安という気持ちも無かった訳じゃないけど、それより何よりこの人と一緒に進みたかった。
 旅の中、一緒に行こうと声をかけてくれた人は初めてだったし、もしかしたら彼女そのものに惹かれてたのかも知れない……。

「じゃ、一緒に森を抜けましょう」

 と、こうして僕は、モミと共にハクタイの森奥へと入って行く。

「あたしのポケモン、回復は得意なんだけど、攻撃は苦手なのよね……」

 モミが持っていたのは、ラッキーだった。
 実際、途中でのバトルを終えるたびに回復してくれて、凄く助かった。

「コウキさんと一緒に戦うのって、ワクワクする! あなたが何をするのか分かれば、凄いコンビネーションになるわ!」

 僕は、ちょっぴり照れてしまう。
 僕も、同じ気持ちだったのだ。
 ポケモンと力を合わせて戦うのはいつもの事だけど、他のトレーナーとっていうのは更に心が躍った。
 それとも……協力し合う相手がモミだったから、余計に心が躍ったのだろうか?

 

 

 

 この、初めての出会いの時から、彼女の雰囲気に魅力を感じていた。
 そんな彼女が今日、家でクリスマスパーティをやるから来ないかと、誘ってくれた。
 個人的に思うモミの魅力とは、まさにそんなところ。
 一見大人しそうなのに、ここぞという時にはとても積極的な姿勢を見せるのだ。

「あれ? 他にも人が来るとかって訳じゃないんだ?」

 モミの家の中を見た僕は、思ってたよりもこじんまりとした準備のみがされてた事に気づいた。
 少なくとも、大人数で賑わうような準備ではない。
 もちろん文句があった訳ではないのだけれど、まさか来るのが僕1人だけだとは思ってなかった。

「えっ……あ、うん……。コウキさんは、賑やかな方がよかった?」

 心配そうな面持ちで尋ねられたので、僕はすぐさま否定する。

「いや、そんな事ないよ! ただ……ちょっと意外に思っただけだから」

 しかし、本当にこの家の中には、僕とモミ以外に人の気配を感じない。
 つまり、2人っきりということなのか!?
 それはそれで、ますます緊張してしまう……。

「実は、コウキさんに見てほしいものがあるの」

 不意にモミは、そう述べる。

「ちょっと……来てくれる?」

 僕はきょとんとしたまま頷き、彼女が案内する先について行った。
 やがて……辿り着いたのは、家の庭に面しているベランダのある部屋。

「あの木。何ていう名前か、知ってる?」

「…………。樅ノ木(もみのき)?」

 クリスマスツリーとしても用いられる事で有名な、マツ科の常緑高木である。

「あたり! よく知ってますね」

 急に元気の良い口調になって、モミは言った。

「あの樅ノ木、実はあたしが小さい頃に植えてもらったの。あたしと同じ名前で、一緒に育った木なのよね」

「ふぅん。じゃあ、クリスマスになると、飾り付けしたりとかもするんだ?」

「……うん」

 ところがそこで、モミの声のトーンが落ちてしまう。
 まるで、どこか寂しそうに……。

「本当に簡単な飾り付けだけだったけど、でも楽しかった。お父さんやお母さんと一緒にする、毎年の楽しみだったの」

「……え?」

「けど、だんだんお父さんもお母さんも、仕事が忙しくなっていってね。ここ何年かは、一緒のクリスマスを過ごした記憶がないわ」

 そこまで聞いて、僕はようやく悟った。
 モミが、どうしてそんなに寂しそうな顔をしているのか、その理由(わけ)を。

「今日もね。仕事で帰ってこないんだって。出張で、どっちも2〜3日家に帰って来ないなんて事、いつもだから……」

 前々から僕が気になっていたのは、モミが何歳なのかという事だ。
 かと言って、女の子に年齢をストレートに尋ねるのは失礼だし……。

 モミは見た目かなり大人びいていたし、最初はいくらか年上なのだろうと感じていた。
 だけど、彼女の言葉使いや言動を見ていると、どうもそこまで歳は離れていないのではないかとも思えてくる。
 実際、彼女との会話の中で、ついモミを呼び捨てにしてしまっている自分がいる。
 外見とは裏腹に、話をしている限りで彼女が年上には見えづらい部分があるのだ。

「友達を呼んでも良かったんだけど……何となく、誘いづらかったの。けど、コウキさんなら誘える気がして……」

「!」

 僕は、ちょっぴりドキっとした。
 改めてモミの方を見ると、彼女は穏やかな表情でこちらに視線を向けている。

「……迷惑じゃ、なかった?」

「い、いや。そんな事は全然ないよ!」

「そっか。……ありがと」

 そこでモミは、にっこりと微笑んだ。

 実の所、僕は今年のクリスマスは誰とも過ごす予定などなかった。
 それは恋人がいないからという事だけではなく、家族ともという意味も含めて。
 ポケモンを貰って、旅立って……必然的に、家に帰る機会が極端に減った。
 クリスマスだからってだけで、わざわざ家に帰る気にはなれなかったのが正直な話である。

 でも、モミの話を聞いてたら、ちょっと自己嫌悪に陥ってしまった。
 モミは望んでも、家族と一緒のクリスマスを過ごせずにいたのに……。
 僕が家族とクリスマスを過ごしたからって、モミの家族がどうにかなる訳ではないだろう。
 ただ、彼女にとってはそれ程の想いがこもった一日を、疎かに考えていた自分に罪悪感を覚えたのだ。

「……ねぇ、モミ」

 モミの気持ちを、少しでも満たしてあげる事ができれば……。
 僕は、そんな想いを抱いた。

「少し、2人であの木を飾り付けしてみない?」

「え? でも、雪が降ってるし……。コウキさんが風邪でもひいたら……」

「大丈夫だよ。風邪ひかない位に、木にもあまり負担かけないよう少しだけにしてさ。やろうよ!」

「…………。うん、やろう……やりましょ!」

 モミの表情が、一気に明るくなった。

「一緒にやってくれる? コウキさん」

「先に言い出したのは、僕だよ」

 そう言って、僕らは共に笑ってしまった。

「じゃあ、飾り持ってくるわね」

「うん」

 彼女は、早速部屋の棚へと向かっていく。
 しかし途中で足を止め、こう話した。

「……コウキさん。本当に、ありがとう」

「え……」

「やっぱり……コウキさんと一緒って、ワクワクする!」

「……!!」

 また僕は、ドキっとしてしまう。
 モミの顔がかすかに赤かったので、余計に……。

「……あ。もしかしてコウキさん、あたしが何歳か分かってないの?」

「へ?」

「たまに、いるみたいなの。あたし、時々歳を誤解されてるみたいでね」

 唐突な振りに、僕は変な声をあげるだけしかできず。
 モミはというと僕の目の前に戻って来て、耳元でそっと囁く。

「…………。え゛!?」

 そこで告げられた数字が、予想してたよりも更に小さかった事に、僕は驚くばかりだった。

 

 終わり

 

 ポケットモンスター(ダイヤモンド・パール)で一番好きなキャラが、モミです(笑)。
 つかダイパ、ポケモンシリーズの中でも特に、旅の途中で出会う女の子に印象的なキャラ多過ぎないか?(ぇ)

 そんなこんなで、今回はコウモミ(コウキ×モミ)をお送りしました。
 ゲーム中、ハクタイの森をクリアしてから延々と書きたいと思ってたCPです。
 同時にゲーム中は、彼女の次の登場がないのか、ひたすら探し続けてました(ぁ)。
 ポケモンリーグ付近で、さすがに諦めかけましたが……今ではいつでも彼女に会えます(オイ)。

 この話では、モミは実年齢が見た目よりもかなり低いという、勝手な設定というか妄想というかで執筆(爆)。
 つーかモミ、歳がサッパリ予想つかなくて悩んだという。−−;
 今回語られたモミの印象は、ほぼ僕が感じたその通りのものと思って結構です(年齢以外に関しても)。
 見た目は大人っぽいんですが、言動がそこまで主人公より年上過ぎるようにも思えず……。

 この難題(?)、とりあえずメッセンジャーでよく話すメンバーにも相談しました(何)。
 結果、「大人っぽい外見だが実年齢は主人公と大差なしor同じ」という事で収拾(ぇ)。
 アニメやポケスペでの登場まで待って、それ参考にする手も考えましたが、いつになるか分からないし。−−;
 だいす けんさん曰く、「アニメはミカンの前例があるからアテにならない」との事でしたから(待て)。

 悩んだと言えば主人公♂の名前、コウキとダイヤどちらにするかについても(どうでもいい)。
 結局、モミに合わせて和名っぽいコウキの方を選びました。
 あとモミって、多分ハクタイシティに住んでると見ていいんですよね?(謎)

 モミの口調ですが、実はゲーム中のセリフメモが取ってあります。
 ていうか、取ってもらいました。だいすさんに(爆)。
 ダイヤ先にクリアして、パールが丁度ハクタイに差し掛かってたらしいので都合よく(僕はパールのみ所持)。
 今回の話を書くに当たってかなりこのメモを使いましたので、本当にありがとうございました。
 ……余談ですが、マイのセリフメモも自分で書き留めてあります(ぁ)。