前編「ポケットモンスター恐怖症」
辺りは真っ暗で、とても静かな空間……。そんな中で漂うかのように、1人の少女がそこにいた。髪にアクセサリーを身につけた、割と可愛らしい女の子だったが、真っ暗闇の中にいるからなのか、不安げな表情で何も喋らなかった。
「……。」
しばらくは静かなままだったが、やがて男の声が聞こえて来る。口調が声の感じからして、声を出したのは老人のようだった。
「……ん、何じゃ?」
「え?」
思わず少女は、恐る恐る聞き返す。
「すまんが、時計を見てくれぬか? 今、何時じゃ?」
「えっと……朝6時です……。」
これまた恐る恐る、少女は時間を答える。それにしても、こんな真っ暗で時計も見れないような状況なのに、どうして時間が分かるのかは謎……。
「ナヌ、6時じゃと!? いかん、寝過ごしたわい!!」
「ろ、6時で寝過ごした事になるんですかッ?」
汗をかきながら、少女は尋ねた。どうやら、老人の朝は早いらしい(爆)。
「いやぁ、スマンスマン。ところで、君は男の子かな? 女の子かな?」
「女の子です!(怒)」
声聞いて分からんのか、コイツは!!? ……とでも言いたげな勢いで、少女は言った。しかし一時的に強気になったこの少女の勢いも、次の瞬間には再び元の弱気になってしまう。突然、電灯がついたかのように周囲が明るくなったからだ。
「きゃっ!?」
「ふむ、女の子じゃな。ところで、君の名前は?」
「キャ―――ッッ!!」
少女は、思いっきり大声で悲鳴を叫びまくる。だが、彼女の目の前に現れた1人の老人は、無視して話を続ける(爆)。
「わしの名前はオーキド、ポケモンに関する研究をしておる。これから君は、ポケモンの世界を歩く事になるじゃろう。これから、ドキドキワクワクな一大スペクタクル……とまでは行かんかも知れぬが、それなりの冒険をする事になるじゃろう。」
「……は、はぁ???」
訳の分からない事を言う老人……オーキドに、少女は首を傾げずにはいられなかった。
「では、後程また会おう。ひとまず、サラバじゃ!」
……ここは、ポケモンの住む世界。ポケモンと言うのは、この世界に住む様々な不思議な生き物の事である。少女が住んでいたのは、そんな世界にあるジョウト地方のワカバタウンと呼ばれる小さな小さな町だった。
「……ゆ、夢? 変な夢〜(泣)。」
ハァ〜……と、その少女は目を覚まして早々ため息をつく。彼女は、このワカバタウンに住む少女なのだった。現在、11歳になったばかり。
「あ〜あ、なんだか意味不明な夢だったわね。昨日、オーキド博士の出演してたテレビ番組を見たから、それが夢になっちゃったのね、多分……。」
少女は朝起きると、すぐさま着替えを始めた。お気に入りのワンピースを身につけて、これまたお気に入りのアクセサリーの髪止めを着ける。そして顔を洗って、家の食卓へとやって来た。
パンとバターと、それからサラダが盛られた皿が置いてあるテーブルの前にやって来ると、少女は自分の席に腰を下ろした。
「あら、おはよう。」
「お母さん、おはよ〜。」
少女は母親に挨拶をされ、すぐに返事をするように挨拶を返した。
「ねぇ、アンタさっき凄い悲鳴言ってなかった? ちょっとだけ心配になっちゃったわよ。でも、また夢を見て叫んだんじゃないかって思ったけどね(爆)。」
「……え゛。(汗)」
少女が住むワカバタウンは、周囲に豊かな緑がある、自然に囲まれた町だった。家を出ると少女は、青々と広がる大空の下で朝日を浴びながら、美味しい空気をたっぷり吸いながら伸びをする。
「……ふぅ。さてと、今日はどこへ遊びに行こうかな♪」
などと考えながら、少女は軽いステップで歩き出した。……が、ドガシャッ!!
「!!?」
少女は前方不注意で、置いてあった自転車を倒してしまった(爆)。
「イタタ……(泣)。もう、何なのよ〜? この自転車は一体……?」
よく見ると、それは今までに見た事の無いような型の自転車だった。つまり、この町の人の持つ自転車だとは考えにくい。次のような考えが少女の頭に浮かぶのに、そう時間はかからなかった。
「だれか……旅をしてる人が、この自転車に乗ってワカバタウンに訪れたのかな?」
数多くのポケモンが住むこの世界において、旅をする者は決して少なくない。ポケモンを自分の仲間として連れて、各地を歩き回って旅をするポケモントレーナー……。そんな人が、この自転車に乗ってワカバタウンにやって来たのだろう。
「ポケモン……かぁ。そんなに、いいものなのかなぁ?」
何気なく少女が足元に目をやると、1個のボールが転がっている。今ぶつかった衝撃で、この自転車のカゴに入れてあった物が落ちたのだろうか? 少女は不思議そうな表情をしながら、ボールを拾い上げた。
「……何、これ?」
カチッ! たまたま拾ってボールをつかんだ拍子に、何かスイッチのような物を押してしまった。そしてスイッチが押される音がしたかと思うと、いきなりボールが割れるように開いて、中から『何か』が飛び出す!
「!!?」
少女は、その『何か』を見た瞬間……表情が凍りつき、そして大声で悲鳴をあげてしまった。
「キャ―――ッッ!!」
「ど、どうした!?」
その直後、悲鳴を聞いた1人の少年が、少女の元に駆けつけて来た。少女はすぐ少年に気づいたが、この町では見た事の無い顔だった。恐らくは、この町に訪れていた旅のポケモントレーナー……。ひょっとしたら、この自転車の持ち主かも知れない。
「あッ……あッ……。」
さて、少女はと言うと今にも泣き出しそうな顔をしている。手足も震え、ビクビクと脅えた表情だ。少年は、すぐに少女に声をかけた。
「ねぇ、君……大丈夫?」
「あッ……あッ……。」
「君、名前は?」
とりあえず、少年は彼女の名前を尋ねる。すると……
「……キャ―――ッッ!!」
……悲鳴をあげられた(爆)。
「な゛……!! 名前を聞いたんだけど……?」
「キャ―――ッッ!!」
「うわっ……ちょ、ちょっと!!?」
名前を聞くたびに叫ばれて、少年はあたふたと慌てだす。
「ま、待ってよ!! 別に、ナンパしようってんじゃないんだから(爆)。ただ、ちょっと名前を聞いただけだろ?」
「キャ―――ッッ!!」
やっぱり、少女は悲鳴をあげる。
「う゛……。」
少年は、どうしていいか分からなくなってしまった。
「……よ。」
ところが次に少女が口にしたのは、いたって穏やかな口調で言った1文字……『よ』。
「……はぁ?」
意味が分からなくなり、少年はもう1度尋ねてみる。すると、ようやく意味を理解出来た。
「キャ―――ッッ!! ……よ、私の名前……。」
「え゛。名前が……キャー?」
「そう。私、『キャア』って言うの。」
「……あ、そうなんだ。キャアちゃん、ね(汗)。」
「あ、あなたは?」
「僕は、『レクト』。よろしく♪」
爽やかな微笑みと共に、少年レクトは、少女キャアに自己紹介をした。
「ところで、この自転車は君の?」
と、尋ねたのはレクトの方。これを聞いてキャアは、意外そうな表情を見せた。
「あれ? 私、こんな自転車持ってないわよ。この町の人の物でも無さそうだし。あなたのじゃないの?」
「僕は違うさ。じゃあ、コイツもひょっとして君のじゃないの?」
レクトが言ったのは、側で呆然とたたずんでいた1匹のポケットモンスター。ケーシィと言う、キツネのような表情を持つエスパータイプのポケモンだった。実はこのケーシィこそが、先程キャアが拾ったボールがたまたま開いて、中から出て来た『何か』の正体である。
「……あッ。」
「え゛。」
「キャ―――ッッ!!」
キャアは、再び大声で叫び声をあげた。もちろん、レクトは大慌て。
「ちょ、ちょっと待ってってば!!」
とりあえずレクトは、すぐさまケーシィをボールに戻した。
「ふぅ……。それにしても、なんでそんな悲鳴をあげるの? ただのケーシィじゃないか。」
「……恐いから。」
「恐い?」
「私、ポケモンが恐いの。苦手なのよ! だって、ポケモンって火を吐くんでしょ? 毒も持ってるんでしょ? おまけに、すっごく鋭い牙も生えてるんでしょ? ……怪獣じゃない!!」
「オイオイ(汗)。落ちついてよ。確かに、そういうポケモンもいるさ。だけど、全部が全部毒を持ってたり、大きな角を生やしてる訳じゃないんだよ。」
「……ッッ!! お、大きな角まで生えてるの!!?」
「(あ゛、しまった。(汗))」
レクトは自分の発言を『失敗した……』と、思わず後悔した。と言うのも、レクトは実はポケモンが大好きな少年だった。小さい頃からポケモントレーナーになるのを憧れ、幼くして貰った1匹のポケモンと一緒に育ち、そして旅立った程である。
それだけにポケモン嫌いな人にも、是非ともポケモンの良さを分かってもらいたいと考えたりするのだ。そこでレクトは、ふと妙案を思いつく。
「そ、そうだ。ここは、ワカバタウン! あの有名な、ウツギ博士の暮らす町じゃないか!」
ウツギ博士とは、ポケモン研究者の1人である。このワカバタウンは、実はウツギ博士の自宅と研究所がある町なのだ。もちろんワカバタウンに住むキャアも当然それは知っているし、何度か顔を見た事もあるのだが……。
「なぁ、キャアちゃん。これから、ウツギ博士の家に行ってみないか?」
「えぇ!! な、何で?」
「いいから! キャアちゃんだってポケモンの事を知れば、きっとポケモンが好きになるからさ。ほら!」
そう言ってレクトは、キャアの腕を引っ張った。もちろん、キャアは抵抗する。
「や、やだよ〜!」
「そんな事言わないで、頼むからさ。じゃあ、ジュースおごってあげるから……。」
「……行くッ!!」
『ジュース』の単語に反応し、キャアは目を輝かせて答えた。もちろんレクトにとっても、ここまで効果覿面とは思ってなかったらしい。
「そ、そう……じゃあ、行こうか。さぁ、早く!」
と、レクトはキャアを急かして手を取り、引っ張った。キャアは初めて男の子に手を握られ……
「……あ……。」
ちょっぴり、顔を赤く染めたのだった。
……さて、2人が去った後。その場に残されたのは、自転車とケーシィ入りのモンスターボール。そこへ、自転車の持ち主である少年がやって来た。鋭い目つきの、冷たい感じの少年である。
「……。自転車の位置が、ややズレてる。ケーシィ、何かあったのか?」
自転車の持ち主はカゴに入っているモンスターボールを手に取ると、スイッチを入れて中からケーシィを外へ出した。そして宙に浮かんだままのケーシィの頭に、手の平を当てる。
「……なるほど。どっかの誰かが、僕の自転車にぶつかって来たのか。」
なんとケーシィの頭に手を当てただけで、先程のキャア達の様子を知る事が出来たかのような事を、その少年は言ったのだった。
「使えるかも知れないな、その子供達。」
続く
この小説は3話で完結する短編の物語です。どうか、最後までお付き合いくださいませ♪ 小説の感想、コメント等を大募集します! 質問、誤字等の間違い発見の報告等も受付中です。
中編「ポケットモンスターの選択」
前回までのあらすじ:
ワカバタウンに住む少女:キャアは、ポケットモンスターが苦手な女の子だった。彼女に出会った少年レクトは、彼自身がポケモン好きな事からキャアにもポケモンを好きになって貰おうと思い、彼女をウツギ博士のポケモン研究所へ連れて行く事にしたのだった。しかしその頃、キャアとレクトの動向を知った謎の少年が……?
ウツギ博士のポケモン研究所。それは緑豊かなワカバタウンに構えられた、比較的小さな研究所だった。ウツギ博士と言うと、今ポケモン研究界ではかなり注目された人物である。それだけに研究所が意外にも小柄だった事に、レクトは少々驚いたようだ。
「へぇ……ココが、あの有名なウツギ博士の研究所なのか。よし、キャアちゃん。早速、入ってみよう。もしかしたら、ポケモンを貰えるかも知れないよ?」
明るい口調で、レクトは言った。しかし逆にキャアはと言うと、ちょっと逃げ腰に近いような体勢で、あまり乗り気じゃない口調で話す。
「えぇ!? 私……ポケモンなんて、欲しくないんだけどなぁ……。」
「まぁまぁ、いいじゃないか。ささっ、早く入ろうよ!」
そこでレクトは、まず呼び鈴を鳴らす。ピンポ〜ン……と、ごく普通の家のチャイム音と同じ音が鳴り響いた。
「……。」
ところが、それからいくら待っても返事が帰って来ない。レクトは、留守かと思って首を傾げた。しかしキャアが、ドアノブを回してみると……。
「……あれ、レクト君。鍵、かかってないよ?」
「へ? ……ほんとだ、何でだろうね。」
恐る恐る、2人は研究所内へと足を踏み入れてみた。すると……
「……おわぁッッ!!?」
突如、部屋の奥から男の人の声が聞こえた。そして次の瞬間、声のした方向から1匹の鳥ポケモンが飛んで来る。あれは……オニスズメと呼ばれるポケモンだ。
「うわっ、わぁ〜!!?」
オニスズメは、まっすぐレクトに向かって来た。そして……ガンッ!! なんとオニスズメは、レクトの頭に激突してしまう。
「キャッ、レクト君!?」
「痛ッ!!」
しかしオニスズメは、どうやらレクトを攻撃しようと突っ込んで来た訳では無く、誤ってぶつかってしまったようだ。なぜならオニスズメもまた、レクトに頭をぶつけて目を回してしまったからである。当然、それはレクトも同じ……。結果、レクトとオニスズメはフラつきながら倒れて気絶してしまった。
「あ……あぁ……。」
その様子を、蒼ざめたまま硬直して見つめるキャア。そして更に、部屋の奥から誰かがやって来た。白衣を身に纏った男の人で、何かを喋りながら来たようである。
「やれやれ、観察してたオニスズメが突然暴れ出して、大変な目に遭ったなぁ。……おや、君は?」
男の人は、研究所の入口に立っているキャアを見つけて、話しかけて来た。
「……キャ―――ッッ!!」
キャアは、ありったけの大声で悲鳴をあげて答えた(爆)。
「うわっ……ちょ、ちょっと!! そんな大声、いきなり出さないでくれよ。……ん? って、男の子と僕のオニスズメも倒れてる!! 君、一体何がココであったんだい!?」
男の人は、気絶したレクトとオニスズメも見て、更に慌てる。もちろん、キャアに悲鳴をあげられただけでも慌てた訳だが。
「あ……その……。」
「と言うより、君は一体誰!?」
「キャ―――ッッ!!」
……それから10分程経って、レクトは目を覚ました。彼は研究所内のベッドの上で、寝かされてたようだ。
「……ん?」
「あ、目を覚ました♪ レクト君、大丈夫?」
目覚めると、キャアの明るい言葉が耳に入って来た。そして続いて、先程の白衣を着た男の人も話しかける。
「いやぁ……ごめんごめん。僕のオニスズメのせいで、大変な目に遭わせちゃったみたいだね。僕は、ここでポケモンの研究をしているウツギだよ。」
「え、じゃああなたがウツギ博士!?」
「うん、そうだよ。ところで、君は?」
「僕は、レクトって言います。ウツギ博士に会ってみたくて、ココに来た訳なんですけどね。」
「そうだったのか……。いやぁ、連れの女の子に事情を聞こうと思ったんだけどさ。とりあえず名前を聞いてみたんだが、どうしても悲鳴しかあげないんだよ。」
「え゛。」
それを聞いてレクトは、側できょとんとしているキャアに話しかけた。
「……名前を名乗る時、キャアちゃんって必ず大声出すの?」
「うん、癖なの♪」
……嫌な癖だった……(爆)。
「あの、ウツギ博士。」
とりあえずレクトはベッドから起きあがり、ウツギ博士に話しかけた。とりあえず当初の目的である、『キャアにポケモンの事を知ってもらって好きになってもらう』と言う事を、忘れた訳ではないらしい。
「実は、この女の子……キャアちゃんって言うんですけど、ポケモンの事があまり好きじゃないらしくって。ウツギ博士にポケモンの話をしてもらえば、少しはポケモンに興味を持ってくれるんじゃないかと思って、連れて来たんです。」
「そうだったのか。よし、分かった。レクト君とキャアちゃんに、僕のポケモンの研究について話してあげよう。」
こうして、ウツギ博士のポケモンに関する研究の話が始まった。
……それから、早30分が経過する。ウツギ博士は、専門用語ばかりで作られた文章をグダグダ30分も言い続けていて、キャアはもちろんレクトにとっても、ちっとも楽しくなかった……。
「……レクト君。私、全然つまらないんだけど(汗)。」
「僕もだよ、キャアちゃん……。」
困り果てたレクトが、ウツギ博士に話しかける。
「あの……博士、そろそろいいです(汗)。」
「……ん、そうかい?」
レクトに言われ、ウツギ博士は話を途中で止めた。するとウツギ博士は、別の話題を持って来る。
「あ、そうだ。実は今、とっても珍しいポケモンが手元にあるんだよ。良かったら、2人に見せてあげよう。何なら、キャアちゃんはポケモンを持ってないようだから、1匹プレゼントしてあげてもいいよ。」
「え、私にポケモンを……?」
驚いた様子で、キャアは聞き返す。
「うん、ちょっとこっちに来てごらん。」
博士に案内されて、やって来た部屋には1つの机があった。そして机の上には、3つのモンスターボールが入っている。ボールの中には、それぞれ違う種類のポケモンが入っているようだ。
「……っっ!! ウツギ博士、これってヒノアラシ、ワニノコ、チコリータじゃないですか!?」
真っ先にボールに入っているポケモンの種類が分かったレクトは、博士に向かって言った。
「うん、そうだよ。よく知ってるね。」
驚くレクトに対し、ウツギ博士は明るく答える。一方キャアはと言うと、何の事なのかサッパリ分かっていないらしく、レクトに尋ねた。
「ねぇ、それって何なの?」
「キャアちゃん、ここにいる3匹は凄く珍しいレアなポケモンなんだよ。そんなポケモンを貰えるなんて、キャアちゃんは羨ましいなぁ!」
「ちょっと、レクト君! 私、ポケモンを貰うってまだ決めた訳じゃ……。」
「いいじゃないか、キャアちゃん。友達が増えるって思えばいいんだよ。」
「友達……かぁ。う〜ん、それなら貰っても良いかなぁ?」
ちょっと悩んだようだが、キャアはポケモンを貰う事にしたらしい。そこでウツギ博士は、早速その3匹のポケモン達をボールから外へと出した。
「ヒノアラシは炎タイプのポケモン、ワニノコは水タイプのポケモン、チコリータは草タイプのポケモンなんだよ。どれか好きなポケモンを、1匹だけキャアちゃんにあげるよ。」
博士がそう言うと、キャアは3匹のポケモンをじっと見つめる。すると3匹の内の1匹が、キャアにゆっくり近づいて来た。それは、ワニノコと呼ばれるポケモンだった。
「(おっ……あのワニノコ、キャアちゃんが気に入ったのかな?)」
レクトは、すぐにワニノコの仕草から気持ちを察した。しかし、キャアはと言うと……
「キャ―――ッッ!!」
……またまた悲鳴をあげたのだった……。
「ど、どうかしたのかい……キャアちゃん?」
「博士〜、あのワニノコが私を襲おうと近づいて来る〜……。」
ワニノコに指をさして、キャアは涙目で訴えた。ワニノコは『ガーン!!』と言うような表情を見せると、いじけて部屋の隅へと行ってしまった。
「あちゃあ……。あのさ、キャアちゃん。別にあのワニノコは、キャアちゃんを襲おうとした訳じゃないんだよ。」
と、レクトがキャアに教える。しかしキャアは、首を横に振る一方。
「だってだって〜! 大体ワニノコってポケモン、鋭そうな牙がズラリと並んでるし、口をあんぐり開けて来て、噛み付いて来そうじゃない!」
「う゛……そりゃまぁ、ワニノコってそう言うポケモンだからなぁ。」
「どうせ貰うんだったら、もっと大人しそうなのがいいなぁ。ヒノアラシやチコリータって言うポケモンみたいに♪」
多少ポケモンに興味が沸いて来たのか、キャアはヒノアラシとチコリータを見てニッコリ微笑むようになった。それはそれで大いに結構な事なのだが、未だ部屋の隅でいじけているワニノコを見ると、ちょっと不憫にも思ったりするレクトでもあった。
「まぁ、今すぐに選ぶ必要は無いよ。キャアちゃん。」
と、そこへ博士が話す。
「一番最初のポケモンなんだから、じっくり考えて選択すると良いよ。後々、後悔しないようにもね。さっきレクト君の言ったように、この3匹はなかなか手に入らない貴重なポケモンなんだ。だから特に、慎重に選ぶといいよ。」
「あ、はい。」
それを聞いて、キャアはニッコリ笑って頷いた。
……それからキャアとレクトは、とりあえずウツギ博士の研究所を出た。
「レクト君、私は今日は家に帰って考える事にするわ。ヒノアラシとチコリータ、どっちを選ぶかをね♪」
「(もはやキャアちゃんにとって、ワニノコは選択肢には無いのか……。(汗))」
「レクト君は、これからどうする?」
「え、僕? そうだなぁ……もう少し、ワカバタウンにいようかな?」
そのような会話をしながら、2人は歩いていた。しかし途中、後ろから1人の少年に呼びとめられる。
「ちょっと……そこの君達。」
「え?」
振りかえると、そこにはレクトやキャアより少し年上らしい少年が立っていた。冷たい雰囲気の目つきをした、少年である……!
続く
後編「ポケットモンスター決断!」
前回までのあらすじ:
キャアはウツギ博士に、ポケモンを貰う事になった。ワニノコは嫌だったので(爆)、ヒノアラシかチコリータかで悩むキャア。ところがレクトと帰る途中、冷たい眼差しをした少年に出くわした!
「レクア!!?」
その姿を見たレクトが、声を荒げて言った。
「へぇ、なんだ。男の子の方はレクトだったのか。」
「レ、レクト君……この子を知ってるの?」
キャアはレクトに尋ねた。
「僕の兄だよ。」
レクトは、そう答える。一方でレクアは、自分の話を進めた。
「自転車を倒した女の子と、そこに来た男の子がいた。……そういう情報をケーシィからテレパシーで聞いたから、誰かと思ったんだけどね。」
「じゃあ……あなたがあの自転車の持ち主だったの……?」
恐る恐る話すキャアに対し、レクアはゆっくりうなずいた。
「さて、本題に入ろうか。今すぐ、僕とポケモンの勝負をしてもらおう。」
「はぁ!? いきなり何だよ。」
レクトが反論する。
「バトルは別に構わないが、もう時間も遅い。また明日にでも……。」
「……駄目だ。」
レクアがそう言った瞬間、そばにいたケーシィが突然念力を放った。レクトとキャアは、同時に吹っ飛ばされる。
「キャ―――ッッ!!」
「うわぁ!?」
何とか体制を立て直したレクトは、すぐにレクアを睨みつけて叫んだ。
「何だっていうんだ、オイ!!」
「レクト、お前のポケモンを早く出せ。そっちの、悲鳴がやけにうるさい女もだ。あの新人にはやけに甘いウツギ博士の事だから、まだトレーナーになってないのならば何かいいポケモンでも貰ったハズだろ? 2人まとめてかかって来い。」
「私、悲鳴うるさくないもん!」
……いや、うるさいです(爆)。
「それに、まだポケモン貰ってないわよ。明日、改めてポケモンを貰いに行く予定なんだから。」
「なんだ、そうか。まぁ、だったらレクトだけでもかかって来い。あの、強力なポケモンを出して来い!」
「クッ……。」
レクトは自分の兄を睨みつけながら、モンスターボールからポケモンを繰り出す。現われたのは、エーフィという種類のポケモンだ。
「そう、それだ。」
レクアは指をさし、レクトのエーフィに向かって言った。
「お前の強いポケモン。本当に、あの時は失敗したよなぁ。初めてのポケモンを親父から貰う時、お前はイーブイ、僕はキャタピーを貰った。僕もあの時はポケモンに関しちゃ無知だったからね。キャタピーが、あんなに弱いポケモンだなんて知らなかったよ。」
「どういう事???」
キャアが、あえて首をつっこむ発言をする。
「つまり、僕は初めて貰うポケモンの選択に失敗したのさ。レクトのように強いポケモンを選んでおけば、苦労せずに済んだのにね。」
「お前……あのキャタピーはどうしたんだ?」
睨みつけたまま、レクトは尋ねた。それに対し、レクアは冷ややかに言い返す。
「あんな虫ケラ、とっくに野生に逃がしたよ。本当に使えなかったからな。そして代わりに、僕はこのケーシィを見つけて捕らえた。……強いポケモンだ、成長して進化すれば最高のポケモンに育つ。」
「ポケモンの強さが、そのままトレーナーの強さにつながる訳じゃないんだぞ!」
「いや、お前は強いポケモンを選択したから苦労しなかった。僕は弱いポケモンを選択したから苦労した。最初の選択が、全てを分けたんだ。だが、今度は僕も選択を誤らなかった。」
自分の横にいるケーシィを見て、レクアは続ける。
「今度は、強いポケモンを……このケーシィを選んで捕まえた。これは、この選択が正しかった事を証明する為の、ケーシィの力試しさ。ある程度の実力を持つトレーナーのポケモンに対して、ぜひ実戦してみたかったからな。お前は丁度いい実戦相手だ!」
再びケーシィが念力を発射する。油断していたエーフィは対応が遅れ、ケーシィの念力に押しきられて跳ね飛ばされた。
「ああ!!」
キャアが思わず声をあげる。しかしレクアは、すでに次の攻撃に出る気でいた。
「さぁ、トドメだ!!」
……と、その時! 突然何かが、ケーシィの体に噛み付く。ガブリ!!
「!!?」
それは、なんとウツギ博士の研究所にいたワニノコだった。どうやらあの後、研究所を抜け出しキャア達の後をついてきていたようだ。そしてキャア達の危機だと察し、敵に攻撃を加えたのである。
「ケーシィ!! そんな……バカな!!」
ケーシィは、ワニノコの一撃でダウンしていた。レクアは信じられない気持ちを目いっぱい表すように、声を荒げていた。
「こんな事が……!! 今回は、僕はポケモンの選択を謝らなかったはずだ。それなのに!!」
「レクア……いや、兄さん。」
そんなレクアに、レクトはそっと話しかける。
「兄さんのポケモンの選択は、間違ってないよ。キャタピーを選んだ時も、そのケーシィを選んで捕まえた時も。ただ、間違ってるとすれば、自分の捕まえたポケモンの力をすぐ見限った事だ。」
「何!?」
「どのポケモンを選択するかに、間違いなんてありはしない。肝心なのは、その後なんだよ!」
「……チッ!」
レクアはケーシィをボールの中に回収すると、バツの悪そうな表情でその場を後にして行った。
「レクト君……。」
それからしばらくして、キャアはそっとレクトに声をかけた。
「大丈夫、いつか兄さんも分かってくれるさ。あれでも一応、僕の兄だからね。」
軽く微笑んで、レクトはキャアに話す。
「自分の思い通りにならないと気が済まない……そんな所があるのは困るけど、それでも兄さんはポケモンの事が好きなんだよ、本当は。僕もそれを、よく知っている。だから、いつかきっと理解してくれると思う。」
「そっか……。弟のレクト君がそう言うなら、きっとそうなんだね。」
ふと、キャアは自分の元に近づいて来る何かに気づく。それは、先程のワニノコだった。
「……うふふ♪ 強いね、あなた。」
キャアは、ワニノコの頭をそっと撫でた。これには、キャアに懐いてたワニノコも嬉しそうだ。
「レクト君の言う通りだよね。どのポケモンに選択するかに、間違いなんてない。肝心なのは、その後……!」
……翌日。
キャアはレクトと共に、ウツギ博士の研究所に来た。そして彼女もまた、初めて貰うポケモンの選択をする時が来たのである。ウツギ博士は、早速話を切り出した。
「やあ、キャアちゃん。さぁ、どのポケモンを貰うか決めたかな?」
キャアは、どれにするか……貰うポケモンを決断した!
「やっぱり、あなたにするわね。ワニノコ♪」
完