第三章「歌姫冒険記」
(全27話の総集編)

 

 

 

・歌の少女と癒の少女

 

 GR団大幹部カンザキと戦い抜いたムキルは、病院で眠り続けていた。
 そうとは知らず、一方でランはドル達と言い争いになる。

「……ですから、私1人でムキルを探すんです!」

 彼女は、ムキル以外の人を信じようとはしなかった。
 例えそれが、ムキルの仲間達であろうとも……。
 結局、ランは1人で飛び出してしまう。
 しかし、そんな彼女に黒い影が忍び寄っていた。

 

 クリスがポケモンリーグを制覇してから、7年経った現在。
 カントー地方のジムは、12に増えていた。
 ただしジムは12あっても、バッジを8つ集めればポケモンリーグに挑戦できるというのは変わらない。

 そんな12のジムの中の、1ヶ所のジムリーダーを務めるのがナツキである。
 彼女は歌が大好きで、公園などで口ずさんでいると町の人達が勝手に集まって来てしまうほど人気があった。
 ナツキ自身も、抜群のスタイルと可愛らしい顔立ちを併せ持った美少女である。
 ナツキはすっかり、彼女の住むクチバシティにてアイドル的存在になっていたのだ。

 そんなナツキはある日、クチバジムリーダーを務めるキララという少女に出会う。
 2人のジムリーダーは、共に『タマゴ育成師』と呼ばれるを目指す者同士だった事が分かる。

「奇遇ですわね。良かったら、一緒に試験会場のあるセキチクへ行きませんか? 私は、明日の朝に出発するつもりなのですよ。」

「もちろん、OKよ。よろしく、ナツキちゃん。」

「キララちゃん、こちらこそ宜しくお願いしますわ♪」

 ところでジムリーダーの中には、自身が不思議な力を持つ者も存在する。
 過去、ヤマブキジムリーダーだった予知能力のナツメ、エンジュジムリーダーだった千里眼のマツバ等が当てはまる。
 キララもまた、ポケモンの傷を癒す不思議な能力を持つジムリーダーだった。
 (ポケスペのイエローに近いモンだと思ってください(ぇ))
 歌と癒……2人のジムリーダーの少女は、すっかり意気投合したのである。

 

 その日の夕方、預かっていたムキルの手持ちポケモンの内の1匹が体調を悪くさせる。
 未知なる病にかかったのは、ハネッコだった。
 どうもハネッコは、ポケルスのような微小な生命体が付着した事で何らかの悪状態を発症したらしい。

「私達はこれを、仮に『悪性ポケルス』と呼ぶ事に致しました。」

 ナツキとその祖父ガンテツは、ポケモンセンターの人からハネッコの状態を聞いていた。
 症状は思った以上に深刻で、放っておけば命に関わるのだという。

「悪性ポケルスじゃと!? 一体、普通のポケルスとどう違うと言うんや?」

「まず、普通のポケルスは感染してもポケモンの体自体に悪影響が出る事はありませんし、数日で自然に完治します。……ですが、悪性ポケルスは先程言った通り、強い毒性がある事が判明しました。それに、自然完治はまずありえないでしょう。」

「…………。」

「それともう1つ、伝染能力がほとんど無いのです。」

「伝染……!? そう言えばポケルスとは、他のポケモンに次々と移って行くものじゃと聞いていたが……。」

「せめてもの救いと言うべきでしょうか……。毒性は強いのですが、悪性ポケルスは他のポケモンには、ほとんど伝染しないようです。ボールにしまっておけば、より確実でしょう。」

 しかし、肝心のトレーナーであるムキルも目を覚まさない状態。
 ナツキは決心する……自分がハネッコの治療法を探し出すという事を。

 

 

 

・Mr.イシハラとルイ

 

 タマゴ育成師。
 それはポケモンのタマゴを産ませて、繁殖させる技術を得た者に与えられる称号だ。
 今ではこれをプロとしている者も多く、試験をパスする事により資格が与えられる。
 ナツキとキララはこれを目標とし、一時ジムを休業させて、試験会場のあるセキチクシティを目指す事になった。

「それではお爺様、そろそろ出発いたしますね。」

 2人は意気揚々と、クチバシティを出発した。
 そしてナツキには、もう1つの目的も存在する。
 ハネッコの治療法を探し出すというものだ。

 

 Mr.イシハラという、『ポケモンカードGB』や『ポケモンカードGB2』に登場していた人物がいる(ぇ)。
 まぁ、その辺はさておき……。

 とりあえず彼の家が、12番道路に存在していた。
 イシハラはポケモン関係の書物を数多く手がけた人物で、その知識量もかなりのものだという。
 博識な彼なら、ハネッコの治療法について何か分かるかも知れないというアドバイスを受けていたナツキは、セキチクを目指す途中で立ち寄る事にしたのであった。

「……おや、君達は?」

 家を訪ねると、Mr.イシハラらしき人の良さそうな男性が顔を出す。
 ナツキはすぐに、口を開いた。

「あ、あの!! 治してください! ハネッコが病気なので……友達の子なんです!!」

「……え゙???」

「ナツキちゃん、落ちついて落ちついて……。(汗)」

 まぁ唐突にあれこれ言われても、理解できない訳で……。
 口をパクパクさせて慌しく喋るナツキを、とりあずキララは抑えさせる事にした。

 改めて事情を説明すると、イシハラは快く協力を引き受けてくれた。
 しかし膨大な書物は、書いた本人であるイシハラも全て把握している訳ではないのだという。
 ナツキとキララはイシハラの家の書庫に案内され、そこで情報収集をしてみる事に。

「ルイさん、入りますよ?」

 書庫には先客がおり、ルイという名の女性が本を読む姿があった。
 ナツキが悪性ポケルスの事を話していると、彼女も興味を示して来る。

「悪性ポケルスって、聞かない名称だけど、一体何なのかしら? 私にも少し、教えてくださる?」

「あ、いえ……。実はこのハネッコが、原因不明の病気を発症してしまって……。」

 ナツキはルイに、ハネッコの病状の事を説明した。
 一通り聞くと、彼女は帰る事にした様子。

「病気、治ると良いわね。」

「あ、はい。ありがとうございますわ!」

「ふふっ。じゃあ、私はこれで……。」

 そう言って、振り返り立ち去るルイ。
 だが、そんな彼女の口元には、不審な笑みが浮かべられていた。

「悪性ポケルスね。……面白そうだわ!」

 

 その夜はセキチクシティまでの距離もまだ長い事もあり、イシハラの言葉に甘えて泊まらせてもらう事になった。
 ナツキがクチバにいた時のように歌を歌っていると、そっとキララが近づいて来る。

「さすがにクチバの歌姫って呼ばれるだけあって、綺麗な歌声だったわよ♪」

「歌うのは、趣味みたいなものでして……。浜辺で歌っていたら、いつの間にか町の人が沢山集まり出してしまったのが始まりなんですわ。……けど、そんなに綺麗でしょうか?」

「もちろんよ。だって、ほら。」

 キララは、病のハネッコが入っているボールをナツキに見せる。
 苦しい様子を見せる事もあるハネッコが、その時は実に気持ちよさそうな眠りについていた。

「病気で苦しんでいたハネッコが、こんなに気持ち良さそうに眠るなんて……ナツキちゃんの歌声が、綺麗な証拠よ。」

「……そうですか? なんかちょっと、照れくさいですわ♪」

「病気のポケモンは、私の能力でも治せないから……。このハネッコには、ナツキちゃんが必要なのよ。」

 キララは、ポケモンに対して傷を癒す特殊能力者だ。
 しかし美しい歌声を持つナツキには、自分とはまた別の癒しの力があるのだと信じていた。

「ナツキちゃんの、幼馴染のポケモン……だったわよね。その幼馴染って、ひょっとしてナツキちゃんのボーイフレンド?」

「え!? ち、ち、違いますよ! 第一、再会したのは、ついこの間ですし……! ですから、そういうんじゃ無いんですっ!!」

「なんか慌ててる姿を見ると、怪しいわよ〜♪ まさか、片思い?」

「違いますってば……もう〜……。」

 少々、膨れっ面になるナツキ。

「……ですけど、やっぱり幼馴染ですから……。生きてて、良かったです♪」

「生きてて良かった???」

 つい先日まで祖父共々、脳内で勝手にムキルを殺してナツキ(爆)。

 

 そんなムキルと、先日熾烈な戦い繰り広げた男……GR団大幹部カンザキ。
 意外にも彼は、彼女等の泊まるイシハラの家のすぐ近くに立っていた。
 とある1人の『仲間』を待ちながら……。

「……来たか。遅いぞ、ルイ!」

 彼が待っていたのは、昼間にナツキ達も会ったあの女性……ルイだった。
 彼女の正体は、2人いるGR団大幹部の内のもう1人だったのである。

「面白い情報が入ったわよ。……『悪性ポケルス』。私ちょっと、これについて調べて見たいから……悪いけど、今日はこの辺でさようなら!」

「……あいつ、また遊ぶ気だな?」

 用件だけ済ましてから、再び去り行くルイ。
 カンザキはやれやれと言った様子で、彼女の後姿を見送るのだった。

 

 その夜、寝ていたナツキとキララは、突如として出現した謎のドガースに襲撃を受ける。
 いち早く気づいたキララは、すぐにナツキを起こそうとするが……。

「ナツキちゃん、起きて!!」

「……ZZZ……。」

「……ダメだわ。(泣)」

 仕方なくキララはポッポを、次いでピカチュウやメリープも繰り出し、1人で応戦に望む。
 しかし、ドガースはなおも攻めて来る。
 ……が、その時!

「マンタイン♀、翼で打つ!」

 バシッ!
 ナツキの声と共にボールからマンタインが飛び出し、ドガースを撃破したのだった。

「……! あ、ありがとう、ナツキちゃ……」

「……スヤスヤ……。」

「ね、寝言!!?(大汗)」

 

 

 

・激闘のサイレンスブリッジ

 

 ナツキの防衛反応(?)によって倒されたドガースは、ルイの元に逃げていた。
 どうやら、彼女のポケモンだったらしい。

「あら、ドガース。大分、酷くやられたわね……。悪性ポケルスになっているポケモン……興味あるから、是非とも手に入れてみたかったけど……。まぁ、次に成し得れば済む事だわ。」

 

 翌日。
 ナツキは「よく寝た」と言わんばかりの様子で、目を覚ましていた。

「ふわぁ……おはようございます……。なんか散らかってますけど、何かあったんですか?」

「ううん、別に気にしないで……。(結局、あんな騒動があったのに、全く起きなかったわね……。(汗))」

 ……そんなノリ(?)で、ナツキとキララはイシハラの家を後にする。
 そしてイシハラは、引き続き悪性ポケルスの調査をしてくれて、何か分かれば連絡をくれるとの事だった。

 セキチクシティを目指す途中にある13番道路は、別名サイレンスブリッジ。
 そこで昼食休憩を取る2人だったが、再び危機が迫っていた。
 辺り一面が霧に覆われ、そこへマタドガスと共に現れたのはルイ。
 彼女はナツキ達に、自分がGR団大幹部の1人である事を告げる。

「これは、私のマタドガスが噴出している、毒の霧『ポイズンミスト』よ。毒性は薄いけど5分もすると、段々手足が痺れてくるわ。」

「……え゙!?」

「まぁ、安心しなさいな。命を奪うような毒じゃないし、よっぽど長時間吸っていない限りは麻痺するだけよ♪」

 楽しげに話すルイは、更に目的を述べた。
 彼女は悪性ポケルスがポケモンにどのような影響を与えるのか興味を示し、それを手に入れに来たのだという。

「そのハネッコの病気を治したいのでしょ? 私達GR団が、そのハネッコの悪性ポケルスを研究すれば、治療法が見つかるかもよ?」

「……え?」

 一瞬、ナツキは揺さぶられる。
 しかしキララの声で、すぐに考えを改めた。

「ナツキちゃん、騙されちゃダメ! そのハネッコを、GR団に渡したりなんかしたら、2度と戻って来ないわ。そのハネッコの病気は、ナツキちゃんが治してあげなくっちゃいけないんだから!」

「……なら、仕方ないわね。力ずくででも、奪い取るわよ。ドガース♀!」

 いきなり大爆発を放たれ、キララは海に落ちてしまう。
 ナツキも霧の影響で非常に視界が悪く、2〜3m先すらよく見えない程だった。
 風攻撃で吹き飛ばそうとしても、全く変化は見られない。

「『ポイズンミスト』は、その名の通り毒の霧。ガスや煙は外からの風で簡単に吹き飛ばせるでしょうけど、広範囲に渡って均等な濃度を保っている霧には無意味。いくら霧の中で空気の流れを起こしても、霧内部で空気がかき混ざるだけ。霧自体は吹き飛ばせないわ。」

 ポイズンミストの効果で、ナツキは徐々に手足が痺れてくる。
 完全に動けなくなる前に霧から脱出せねば勝機はない。
 だが逃げてみても、迷路状に作られたサイレンスブリッジをこの視界で突っ切るのは不可能に近かった。

「言われた通り、手足が痺れてきてしまいましたわ……。『ポイズンミスト』で動きと視界を奪い、更にサイレンスブリッジ特有の地形を利用して、『逃げにくい場』を作ったという訳なのですね……。」

 ルイは難無く追いついて来る。
 ナツキはポリゴンのトライアタックで迎撃するが、霧が煙幕の役割も果たしてヒットしなかった。
 やはり逃げるしかないナツキであったが……ドンッ!

「いてっ!!」

 突然、誰かにぶつかる。
 彼の名はクロロ……そう、第二章でムキルと共にカントーへやって来た元ジョウトの支配人である。
 本人曰く遊び旅(?)をしていたが突然の霧に巻き込まれたとの事で、ナツキは事情を説明。
 何にしてもポイズンミストをどうにかしなければならず、急きょ2人は共闘する事になるのであった。

「あのマタドガスは自分の噴出した毒霧の流れを読んで、相手の動きや攻撃を見極めてるんだ。道理でこっちの攻撃が全く当たらないで、敵は的確な攻撃をしてくるわけだ……。」

 エーフィを繰り出し攻撃させても一向に命中せず、逆に敵の攻撃は受けてしまうクロロ。
 そんな状況から、彼は敵の力を分析する。

「……では、ますます勝機は無いのでしょうか?」

「いや、もう1つのカラクリを見破れば、あるいは……。」

「もう1つのカラクリ……ですか?」

「変だと思わないか? マタドガスに毒が効かないのは分かるが、ルイ本人にも毒が効いてる様子が無い。あいつは、防毒マスクとか着けてる訳じゃなかったんだろ?」

「あ!」

「よし……。ここは1つ、賭けに出てみるか。」

 ナツキとクロロは、2人がかりで攻撃に転じる。
 ポイズンミストの状況下でも戦えるポケモンを各々繰り出し、反撃に出たのだ。

「鋼ポケモンのハッサムには毒は効かない。だから、ハッサムを予め繰り出しておいて、敵本体を探させていたんだ。」

「それと、私のポリゴンもです。私のポリゴンのロックオンを利用して、何とか見つける事が出来ましたわ。」

 しかし突然の反撃にも、ルイは動じない。
 とはいえナツキ達も考え無しに攻撃に出たのではなく、本来の目的はルイの側まで立ち入る事だった。
 そこの空気を吸い込むと、少しずつポイズンミストによる体の麻痺が治ってくる。

「……やっぱりな。この辺の霧だけは毒の霧ではなく、解毒の霧だったんだ。ルイ自身は毒の霧の中にいても平然としていたから、ひょっとしたらルイとマタドガスの周囲だけは、毒の霧ではなく解毒の霧を発生させていたんじゃないかと思ったんだが……見事、正解だったようだ。」

 更に、海からあがったキララも戦闘に加わる。
 3人同時攻撃により、ようやくルイのマタドガスは戦闘不能となったのだった。

「……私のマタドガスが負けるなんて、正直驚いたわ。でも私の手持ちポケモンは、まだ沢山あるけどね。」

「え゙!!?」

「でも……この頑張りに免じて、今日はこれぐらいにしてあげるわ。けれども、これで終わりだとは思わない事ね。それじゃ、今日の所はこの辺で、ごきげんよう。」

 ルイは、バリヤードを繰り出す。
 それがテレポートを使った事により、ルイはバリヤードと共に姿を消すのだった。

 

 

 

・試験に潜む影

 

 どうにかセキチクシティに到着したナツキとキララ。
 いよいよタマゴ育生師の資格を得る為、試験を受ける事になった。
 筆記試験を通過した2人は、続いて実技試験へ挑戦。
 それは時間内に、サファリゾーンのポケモン達からタマゴを産ませ、更に孵化させた状態にまでもっていくという内容だった。

「ここからは、別行動にしましょう。必ず2人で一緒に、合格致しましょうね♪」

「もちろん!」

 ナツキとキララは各々の試験合格へ向けて、サファリゾーンへと突入していく。
 だがそんな試験に紛れ込む、GR団員の姿も……。
 ルイがハネッコ強奪を命じて派遣した、GR超念団だった。

 

 GR超念団の主要団員ヨウスケとケビンは、サファリゾーンに1人でいるナツキを発見。
 しかしナツキは無防備にも、疲れて眠りこけていた(爆)。
 ヨウスケとケビンにとっては、ハネッコを手に入れる絶好のチャンス……だったハズだが?

「ヨウスケさん、盗らないんっスか?」

「……だから、何で自分でやらないんだ?」

「ぼ、僕は……そんな、女の子の寝込みを襲うような趣味、持ってないっス。」

「何!? 僕なら、それをやってもおかしくないって言うのか!?」

「そ、そうじゃ無いっスけど……。どっちかが、やらなくちゃならないじゃ無いっスか!」

「だから、ケビンがやりなよ。第一、単純にボールを奪うだけだろ?」

「単純だったら、ヨウスケさんがやれば良いじゃないっスか!」

「だって……胸に抱きかかえてるんだぞ……?」

「……そうっスね……。」

 意外と有効な防御手段だった(ぇ)。

「ZZZ……。」

「……起きないっスねぇ……。」

「……起きないなぁ……。」

 そうこうしている内にキララが、たまたまその場にやって来た。
 ナツキに変な事をしようとしていたのだと思い込んだキララは問い詰めるが、誤解されそうになったヨウスケは「決して怪しい者じゃ……」と弁解を図る。

「じゃあ、あなた達は何者よ?」

「何者って、GR団っス。」

「GR団!? 怪しい以前に、敵じゃない!!」

「……あ゙、そうっスね。(汗)」

 そんな訳で、戦闘は始まった。
 ところが、こんな変な調子のヨウスケとケビンが、実は想像以上の実力者である事を、キララは身を以って知る事になる……。

 

 

 

・最強のGR団

 

 9つあるGR団の中でも、最強の戦力を誇ると言われるGR超念団。
 その主要団員たるヨウスケとケビンに対し、キララ1人では苦戦は免れなかった。
 ケビンはエビワラー、ヨウスケはスリープで攻め立てる。

「このスリープは、100m先の標的をも眠らせるほど、遠距離の催眠術に長けている。遠隔催眠と呼ばれる物さ。さぁ、続いてサイコキネシス!」

「つ、強いわ。パワーのケビンと、トリッキーなヨウスケ……。この2人相手じゃ、とても対抗できない……。」

 しかし、そこへ思わぬ助っ人が現れた。
 オーダイルを連れたかつてのポケモンリーグ制覇者、クリスである。

「怪我は無かった?」

「ク、クリスさん!!」

 現在のクリスの地位は、ポケモンリーグ四天王の1人。
 試験会場に勝手に入ってる辺り不法侵入なんじゃないか、という疑問は置いといて……。
 ヨウスケとケビンのコンビネーションはクリスでも少々手こずったが、やはり四天王の力は強かった。
 キララも善戦し、どうにか難を乗り切ったのである……けどナツキは始終寝たまま(ぁ)。

 その後、ナツキとキララはよくもまぁと言うか、無事に試験に合格を果たす。
 何気にナツキも、残り時間の内にトゲピーを孵化させる事に成功したのだ。
 ところが……最強のGR団たるGR超念団は、再び新たな動きを見せようとしていた。
 次はルイの遊び半分な任務ではなく、カンザキが与えた本格的な作戦の下で、である。

 

 その夜、イシハラから電話がかかって来る。
 悪性ポケルスの情報が何か分かったらしいとの事だったが、実際に電話で話して来たのは……?

『もしもし〜? 2人とも、お元気かしら?』

「……え゙。ル、ルイ!!? なんでそこにいるのですか?」

『なんでって、初めてあなた達がMr.イシハラの家に来た時もいたでしょ?』

「あ、そうですわね……。」

 あっけなく納得してしまうナツキちゃん。

『あ、言っておくけどMr.イシハラ本人は、GR団とは何の関わりも無いわよ♪』

「それで、その……。悪性ポケルスについてなんですけれど……。」

『分かってる、ちゃんと調べておいたわよ。実は悪性ポケルスの治療法自体や、詳しいデータは見つからなかったんだけれど……1つだけ、前例が見つかったの。』

 ルイによると、過去にも悪性ポケルスに感染したポケモンがいたのだという。
 それは何と、現ポケモンリーグのチャンピオンの手持ちポケモンなのだ。
 しかもそのポケモンは、病を完治させて今も元気に生きているらしい。
 ナツキの心に自然と希望が沸き起こるが、現チャンピオンに会うには条件が必要だった。

『お忘れになって? そこへ行くには、バッジを8つ集めないといけないのよ? それと何でも最近、セキエイ高原の方が結構忙しいらしいから、電話も当分つながらないらしいわ。』

 ポケモンリーグでは現在、GR団捜索に乗り出している関係で多忙を極め、連絡も取れない状況らしい。
 それでも何もしない訳にはいかない……そう考えたナツキは、セキエイを目指す事に決めたのである。

 

 一方、クチバの病院でようやくムキルは目を覚ましていた。
 ナツキは電話を受けて、トキワシティで合流しようという話になると、まずはマサラ行きの船へと乗る。
 そこでクロロと再会し、とにかく遊び人的な彼はセキエイ行きに興味を持ち、ついで(?)に協力してくれる事に。
 更にミズキとも出会い、実は彼女がナツキと生き別れた姉妹であった事が発覚するなど、まぁ色々あった(待て待て)。

 そんなこんなで(爆)、とりあえずマサラタウンに到着したナツキ達。
 彼女等はオーキド博士に相談し、ポケモン研究最高権威でもある彼の権限で、特別にセキエイに行かせてもらえるようにと直筆サイン入りの手紙を書いてもらった。

 その頃ムキルはディグダの穴経由でトキワに向かっていたが、GR団員グレースにまたも襲撃を受ける。
 だがそこへ、かつてのアカデミー同級生3人であるレネレス、ラセツ、ミルトと出会い、グレースを撃破し共にトキワシティへと向かうのだった。

 

 かくして一同は、ユウとシホのいるトキワジムにて集結した。

 ナツキ、キララ、ミズキ、クロロ……ムキル、ラセツ、ミルト、レネレス、ユウ、シホ……。
 なんとまぁ、人の多い事(ぇ)。
 だがそこへ、ついに再動したGR超念団が、団長である老婆を中心にやって来たのである。

「さぁ、トキワシティ到着じゃ。皆、気を引き締めてかかるんじゃぞ!」

 かつてモリノを始めGR草森団を壊滅させた者達への攻撃が、いよいよ本格的に始まったのだ。
 カンザキの命令で派遣された彼等が、いよいよ最強のGR団としての力を発揮し始める。

「今回の目的は、元アカデミー生でGR草森団を潰した事に関係がある奴等を捕らえる事。ではまず下っ端どもから、特攻して行くのじゃ!」

 飛行船でやって来た彼等は、総人数も多かった。
 しかし、こちらとて数々の敵を倒して来た経験を持つ。
 ユウとシホが切り込み隊長として、敵陣に攻め入った。

「行くで〜、うちとユウちゃんの最強タッグに敵は無いんや! ピカ君、10万ボルトや!」

「ムウマ♀、呪い発動!!」

 ムキルの双子の妹ユウと、アカデミー時代のパートナートレーナーだったシホ。
 2人のコンビネーションで下っ端はどうにか押し返してゆく。
 ところがムキル達の前に、マミと名乗る老婆が主要団員を引き連れ出現する。

「ワレこそ、GR超念団を率いる団長マミじゃ。ヌシらもなかなかの使い手のようじゃが、ワレ等は最強最高のGR団じゃ。ヌシらに勝機は無い。大人しく降伏するのが得策じゃぞ。」

「けっ。お前等に降伏するなんて、癪に触るから嫌だね!!」

 トキワシティを舞台に……。
 ムキル達vsGR超念団の戦いの幕が、切って落とされた。

 

 

 

・四天王戦

 

 その頃ナツキは、チャンピオンロードへと向かっていた。
 実はナツキ達とムキル達、2つのチームに分かれて行動しようという作戦になっていたのだ。
 ムキル達はトキワシティを守る為、GR超念団との戦いに挑む。
 そしてナツキはキララ、クロロ、ミズキと共に、ハネッコを守り、かつ治療法を求めてセキエイへ向かう事にしたのである。

「何ィ!? 何でここを、通してくれねぇんだよ!!」

 ……で、なんか知らんがそこにいたのは、GR草森団戦でも協力してくれた自称正義の旅人兄弟、フェイとジン。
 2人はとある目的でチャンピオンロードに入ろうとしていたが、やはり足止めをくらっていたらしい。
 この兄弟もナツキと共にチャンピオンロードに入れてもらう代わりに、まずは彼女に協力してくれる事になった。

「さて、早速何か来そうだぞ。」

「……え?」

 オーキド博士の手紙を見せて、チャンピオンロードに入った6人。
 しかしフェイがこの警戒の声を出した途端、数多くの屈強な野生ポケモンが襲いかかった。

「……仕方ありませんわね。一気に駆け抜けましょう!」

 さすがにポケモンリーグへ続く最難関道路はダテではない。
 迫り来る次々の攻撃をくぐりぬけ、6人は一丸となってセキエイを目指す。

「マンタイン♀、滝登りを!」

 

 ……やがて、ようやくチャンピオンロードを抜けたナツキ達。
 とうとうポケモンリーグの総本部、セキエイにまでやって来たのである。

「お邪魔……します。」

「え? あ、あなたは……!!」

 そう言って現れたのは、四天王の1人クリスだった。
 早速ナツキは事情を説明する為、ハネッコを彼女に見せる。

「……!! ちょっと良く見せて!! こ、この症状……間違い無いわ。悪性ポケルスに感染してるじゃないの!」

「!! クリスさん、悪性ポケルスを知ってるんですか!? 現在のポケモンリーグのチャンピオンの人が、悪性ポケルスを完治させた草ポケモンを持っていると聞いて、ここまで来たんです。チャンピオンに会えば、きっと悪性ポケルスの治療法が分かると思って……。」

「そうだったの……。」

 クリスはハネッコを受け取ると、何かを考え奥へと引っ込む。
 ナツキ達には、ポケモンを回復させてから来るようにと告げて……。
 そして追いかける彼女等にクリスが言ったのは、驚くべき事。

「チャンピオンに会いたいのなら、この私を倒して行きなさい。」

「!!?」

「私だけじゃないわ。チャンピオンの部屋に行くには私達、四天王を倒さなければならないの。どんな理由であってもね。」

「え、えぇ!? ちょ、ちょっとクリスさん……。」

「それなりの特別ルールは用意してあげるわ。あなた達、6人いるのよね。四天王は4人だから、6人で力を合わせて戦うのよ。ただし勝負自体は、1対1だけどね。」

 それは、クリスの課した試練だった。
 ナツキ、キララ、クロロ、ミズキ、フェイ、ジン……6人は全員、この勝ち抜き戦に臨む事となる。

「さぁ、始めるわよ。まずは、ウツボット♀!」

「こちらは、ポリゴンです!」

 初戦は、ナツキvsクリスの戦いとなる。
 ナツキとてジムリーダーの実力を持ってはいるが、さすがに四天王ともなるとクリスは格が違う。

「ウツボット、葉っぱカッター!」

 葉っぱカッターやソーラービームといった、激しい攻撃を次々行うクリス。
 当然ナツキは苦戦を強いられ、ポリゴン、ポッポ、トゲピーと次々繰り出すが歯が立たない。
 クリスはヨルノズクにより、空中戦も制したのである。

「ヨルノズク、そのまま急降下して攻撃よ!」

「っっ!! ……今度は、マンタイン♀!」

「なら、こっちも相棒を出させてもらうわ。オーダイル♀!!」

 四天王クリスの力は、圧倒的だった。
 切り裂くでテッポウオも敗れ、噛み砕くでマンタインも窮地に陥る。

「はぁ……はぁ……!」

「まだ、諦めないわけ?」

「もちろんですわ。マンタイン、眠って体力回復です。」

 しかし、寝言による攻撃もオーダイルは的確に対処。
 マンタインには、とても勝つすべが見つからない。

「さぁ、どうするの? まだ続けるなら、相手するけど……。このままマンタインを切り裂いたら、間違い無くオーダイルの勝ちだわ。」

「諦めませんわ……私は、絶対に……!」

「強いのね……。ナツキちゃん、今のジョウト地方が危険区域なのは知ってるわよね。」

「え!?」

 不意に全く無関係な話題を振られて、ナツキは戸惑う。

「7年前のコガネ大噴火以来、ジョウト地方は魔の地域と化してしまった。その時、私はジョウト地方にいたの。町の危機を救う為に。でも私はその時、強大さに圧倒されて、諦めてしまった。それが原因で『コガネ大噴火』が起こり、今のジョウト地方があるの。ジョウトが危険区域になったのは、私のせいでもあるのよ!」

「!」

「そして……今も私は、たまに思い返すのよ。あの時、私がしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんじゃないかってね。ナツキちゃんなら、どうする? 私は自分自身にあの時、どうしてれば良かったかって、ずっと考えていたんだけど、考えても考えても、私の心はすっきりしないの。あなたなら、どうする?」

「……クリスさんは、ずっとそれを考えていたのですか?」

「えぇ。7年間、ずっと……」

「私だったら、まだ諦めませんわ。」

「え?」

「今のジョウトは危険区域でも、これからがあるじゃないですか! クリスさんだって昔は諦めてしまったのかも知れませんけど、これからジョウトを元通りにして行けば良いじゃないですか!」

「……!」

「無謀な事でしょうけれど……私は諦めたくはありません。もちろん、今のこのバトルもですわ!!」

 まるでナツキの心に同調するかのように、マンタインに力が入る。
 そして全力による一撃を放ち、オーダイルを吹っ飛ばしたのだった。

「!!」

 それでも、オーダイルはダウンこそしなかったが……クリスはボールに戻した。
 つまりそれは、バトル終了を表す。

「クリス……さん???」

「ナツキちゃん、私が7年間考えていた事の答え、今見つかったわ。と言うより、あなたに教えられた。一概には言えないけど……過去を悔やむより、今と未来を見据える。その方が、よっぽど大事だったのね。いいわ、この勝負、ナツキちゃんの勝ちよ。」

「クリスさん……。」

「さぁ、先へ行きなさい。まだ四天王は、3人も残ってるんだから。」

 

 

 

・トキワ防衛戦

 

 トキワシティでは、相変わらずユウとシホのタッグがGR団下っ端を抑えていた。
 しかしムキル、ラセツ、ミルト、レネレスに、GR超念団主要団員が襲い掛かる。

「さぁ、ちょ〜強い私が相手してあげるんだから、光栄に思いなさいよ〜! サイコキネシス!!」

「げっ!!」

 最初に現れたのは、GR草森団戦の時にもいた仮面のGR団員4号を務めていた少女ミワ。
 相変わらず「ちょ〜ちょ〜」やかましい口調の彼女には、レネレスがまず挑む。
 だがさすが最強のGR団の一角だけあり、かつてのアカデミー三強の1人レネレスでさえ苦戦を強いられた。

「何ィ!? あの女、つえぇ!!」

 見ていたラセツも、思わず驚嘆の声をあげる。

「強いんじゃないわよ。私は、ちょ〜強いの!!」

「……強いのは認めるが、あのちょ〜ちょ〜口調は何とかならんのか。」

 しかしレネレスとて、負けてばかりではない。
 一瞬の隙をついて、反撃に出る。

「ゴルダック! ちょ〜強力ハイドロポンプをぶつけちゃって!」

「……!! 墓穴を掘ったな……スターミー、波乗り!」

「!?」

「ランターン、スパークを放て!」

 ハイドロポンプと波乗りがぶつかり合い、周囲が水で覆われた瞬間の電気攻撃。
 一気に広範囲に及ぶ電撃で、ミワのポケモンを全滅させたのだった。

「やれやれ……まずは、ミワが敗れたようじゃな。」

 戦いを見ていた老婆……団長、マミが呟いた。
 その隣には、マミの娘リョウコの姿もある。

「……お次は……あの2人ですか?」

「あぁ。すでに、戦闘準備もさせてあるからのう。リョウコや、おヌシも今の内に準備をしておくとよいじゃろう。」

「……はい。」

 一方、敗れたミワは……

「も〜、何よ!? ちょ〜最悪! ちょ〜うざったい! ちょ〜嫌な奴!」

「お前は、凄くうるさい……(汗)。」

「何よ、ちょ〜バカ!!」

 ムキルとミワはとことん合わないようで、完全な口喧嘩状態になっていた(ぇ)。
 そこへやって来たのは、以前ナツキを襲ったケビンとヨウスケの2人組。

「ミワちゃん、少し落ちつくっス……。」

「やめとけ。相手にするだけ無駄だ……。」

 ムキル側はレネレスに続き、今回はラセツとミルトが戦闘に出る。

「まずは小手調べだ。ガーディ♂、ヒトカゲ♂、行け!」

「行っくわよ〜、メル(メリープ♂)、フィーネ(エーフィ♀)!」

 ところが、油断が命取りだった。
 ケビンとヨウスケの実力は本来かなりのもので、ラセツとミルトのポケモンを次々蹴散らして行く。

「なんだと!?」

「え〜何で〜!?」

 当然、相手の速攻に焦るラセツとミルト。
 ……とはいえ、彼等も負けてばかりではなかった。

「!! ガルーラとスリーパーが……やられたっスか!?」

「あの瞬間、ヒトカゲの切り裂くとガーディの噛みつくだけは、しっかり決めさせてもらってたぜ。俺のスピードを、ナメんなよ。」

「……なるほど、少しはできるようっスね!」

 そして、ミルトの方も……。

「メル(メリープ♂)とフィーネ(エーフィ♀)が負けちゃった・・・。」

「…………。とぼけるなよ、そっちだって僕のガルーラ♂とスリーパー♂に、しっかり電磁波とメロメロを浴びせていたじゃないか。」

「あっ♪ バレた?」

 ラセツvsケビン、ミルトvsヨウスケで戦いは続くが、レネレスも残った戦力で加勢に入る。
 やはりGR超念団の主要団員は強かったが、かろうじて勝利を収めたのだった。
 ところが……その場からは、いつの間にかムキルの姿が消えている。

「……どうにも良い感じ……じゃねぇな。」

 彼は別の場所で1人、敵と対峙していた。

「あ〜ら。どうして分かるの?」

「目を見りゃ、一目瞭然だ。」

「ふ〜ん……そうっ!」

 ウインディを仕向けて、ムキルを攻撃する少女……。
 それはなんと、あのランだった。
 ガーディを進化させたウインディ、更にはハクリューも繰り出し、強烈なパワーでムキルを追い込む。

「……なんだ、あの女の子。す、すげぇかわいい子じゃねぇか! おい、ムキル!! さっきのナツキって子と言い、なんでお前の周りは超かわいい女の子ばかりいやがるんだ?」

「知るかッ!!(怒)」

 途中で合流したラセツの言葉には、もちろん余裕もないのでそう返すムキルだったが……。
 ランの実力は、格段に上がっている。
 天使のキッスと悪魔のキッスを操るルージュラも現れ、ムキルは防戦一方になっていた。

「……ラン。」

「……ずっと昔……私が物心ついた時、私には母さんも父さんもいなかった。話した事あったわよね、ムキル。私は捨てられたのよ……実の親に。」

ムキル「!」

「その後も大切な人、好きな人に裏切られ続けた……。ジョウト地方の時に、みんな話したでしょ? 私は裏切られ続けて生きて来た。だからその分、自分とは直接関係無くても、悪い事や悪い人が大嫌いになった。当然、自分を捨てた親も恨んだわよ。」

「……ラン、お前……」

「そして……私を拾ってくれた、GR超念団の団長マミ様にまで騙された。GR団は正義の組織だと偽って教えこまれ、良いように利用されてたわ。」

「それは、今も……」

「ううん。今、私がここにいるのは自分の意思よ。ムキル、あなたに復讐する為ににね!」

「!!」

「私は最初、ムキルを利用するつもりだったけど……ムキルに私の心の内を明かした時、初めて気づいたのよ。ムキルが、産まれて初めて出会えた、心から信用できる人だって。……なのに!」

「……!?」

「なのに……今度は、あなたにまで裏切られた……。」

「!! 俺は、別に……」

「私はずっと、ただ1人で寂しかったのに……なんで助けてくれなかったのよ! ジョウト地方から帰って来た時、ムキルとはぐれて、私はずっとあなたを探してたのよ。なのに、何で私の前に現われてくれなかったのよ!!?」

 無論ムキルは、ランを裏切ったつもりはない。
 むしろ、理不尽な事を言っているのはランだった。
 それでもランにとっては辛い事に他ならなかったようで、ムキルもその事を理解していた。

「ごめん……そうだよな。1人で寂しかったのに、俺は助けてやれなかったんだよな。俺もランとはぐれた時、『その内また会える』なんてタカをくくってた。それが余計に、まずかったんだよな。」

「今更、遅いわよ!」

「…………。ラン、俺はいい加減な事を言ってるつもりはない。今から俺は、お前を助けてみせる!」

「……無理よ。私より弱い奴が、私を助けられるわけ無いじゃないのよ!!」

 ランは新たに覚えたオリジナルの必殺技、スパイラルショットで最後の攻撃に入る。
 だがムキルは機転を働かせ、見事その技を打ち破ったのだった。

「ラン……。」

「……負けちゃった……。でも、嬉しかった……。」

「え?」

「私の暴走を止めてくれた事……。ムキルが私を止めてくれなかったら……私、ずっと止まらなかったと思うから……。」

「ごめん……ごめんね、ムキル……。私……どうかしてた……。」

「気にすんな。俺だって、悪かったな!」

 この時点で、GR超念団のほとんどの戦力は潰されてしまった事になる。
 マミとリョウコは引き際と悟り、ようやくトキワから手を引く。
 ムキルはランの心を再び救うと共に、仲間達と共にトキワを守り切ったのであった。

 

 一方、ナツキ達も進行を止めてはいない……。
 クリスとの戦いを終えた際に、ナツキのポッポはピジョンへと進化。

 四天王2人目の戦いでは、ジンが戦いを挑むが敗れ去る。
 相手はGR草森団戦にも少しだけ姿を見せた少女……最年少四天王ミチだった。
 弟の汚名を返上すべく、兄のフェイが挑んで辛くも戦いを制する。

 次なる四天王は、多種毒使いのラグ。
 金にがめつい様子のラグは、口では「ポケモンは金稼ぎの道具」と豪語する彼だが、その真意は決して言葉通りではなく、実は裏でポケモンに対する思いやりを持ったトレーナーである事をナツキは悟る。
 ラグ戦は元ジョウトの支配人『奇襲』のクロロが戦い、どうにか通過する事ができた。

 そして、最後の四天王の部屋……。

「久しぶりね……キユラ姉さん……。」

 そう言ったのは、キララだった。
 彼女……キユラは、キララの実の姉だったのである。

 

 

 

・2人の試練

 

 四天王戦最後の戦いは、キララとキユラの姉妹対決となった。
 自分より劣っているが故に、親からの愛情がより注がれていた事をうとましく思っていたキユラ。
 逆にキララは姉に劣っていた自分を変えるべく、キユラに立ち向かって行く。

「はいは〜い、ご苦労様♪」

 そこへ現れたのは、しつこくもGR団大幹部ルイだった。
 キユラは、キララとのバトルを中断する気はない。
 ナツキ側で残った戦力であるミズキが、ルイに挑む形となったが……。

「……はぁっ……はぁっ……!」

 不仲な姉妹同士の対決、そしてルイの放つポイズンミストを見た時……。
 ナツキの体に、ある異変が起きつつあった。

「お前がやったのか、ルイ!?」

「とんでもない。私はポイズンミストを出してるだけ。そのポイズンミストだって、徐々に手足が痺れてくる程度の弱い毒性しか持ってない事ぐらい、あなたも以前に体感して知っているはずでしょう?」

 クロロの問いに、ルイは平然と返した。
 実際、直接の原因はルイのポイズンミストなどではなかった。
 突然ナツキは、人が変わった様子でポケモンを操りルイを圧倒。

「目の前でハネッコを逃すのはもったいないけど……仕方ないわね。それでは皆さん、また会いましょ♪」

 こんな状態でもルイは、相変わらずマイペースだったが……。
 ナツキの方は、明らかに普段の彼女ではなかった。

「私は……一体……?」

「覚えてないの?」

 ……キララとキユラの戦いは、キララが姉よりも劣っていたと思っていた自分の能力を有効に活用し、キユラが勝ちを譲っていた。
 ほんのわずかだが姉に認められた事で、キララの試練はひとまず終わる。
 だが、少しの間とはいえ謎の異変を見せたナツキの試練は、これからだった。

 ……そして。
 現ポケモンリーグチャンピオンにして、悪性ポケルスを完治させたポケモンを持つ者。
 更に……ナツキの異変の秘密を知る存在でもあるその男が、ついに姿を見せた。

「その子は、『ジョウト恐怖後遺症』なんだ。」

 ナツキについて、そう述べる男。
 現ポケモンリーグのチャンピオンとは、かつてクリスとライバル同士でもあった、シルバーだったのである。

「……今更になって発症した原因は恐らく、キララvsキユラの激戦を見たからだろう。ナツキは幼い頃に生き別れとなった姉のミズキを、心の中で思っていた。だから姉に対しての執着心が、少なからず大きかったんだろう。」

「???」

「それなのに妹のキララを見下すようなキユラの言動と戦いを見ている内に、ナツキの心の中にあった乱れが表に現れた。しかも一度、これが覚醒してしまうと……そう簡単には治らない。」

 シルバーは淡々と、ナツキについての事を語り始める。
 しかしナツキ本人は、全く意味が分からない様子だ。

「説明するのが難しいし長引くから、簡単に言うが……一口に言えば、精神病の一種さ。まぁ、その内分かる。」

「あの……ちょっと待ってください。シルバーさん……でしたよね。ひょっとして、どこかでお会いした事ありませんか?」

 ナツキは、シルバーの顔にどこか見覚えがある様子。
 その質問についても、シルバーは実にあっけなくこう答える。

「…………。それも、その内分かる事だ。それより今は、ハネッコだろう?」

 確かに今、何よりも優先すべき事はハネッコだった。
 それにはナツキも同意する。

「最終試練だ。俺のメガニウムと君のマンタイン。どちらが勝るか、勝負だ!」

「……はい! マンタイン♀!!」

「これが最後だ。小手先の技は一切無用。全力で来い!」

 そして、ついにチャンピオン戦が始まる。
 お互いポケモン1匹ずつのみの、一騎打ちだ。

「メガニウム、葉っぱカッター!!」

「マンタイン、翼で打つです!!」

 シルバーのポケモンは、さすがに凄まじいパワーを誇っていた。
 それでもナツキのマンタインは、負けずにくらいついてゆく。
 彼女は見事な奇襲で、メガニウムに対して一撃を見舞ったが……そこで力尽きてしまった。

「え!?」

「……メガニウムは攻撃を受けると同時に、再び葉っぱカッターを放ったんだ。もっとも、1,2枚程度の葉しか撃つ暇がなかったようだが……それでマンタインは倒れた……と言う訳だ。」

「そんな……あそこまで裏をかいたのに、反撃されてたなんて……。ま、負け……ですか……?」

「……いや、俺はお前の気持ちを見たかっただけだ。」

「え、気持ち……?」

「お前がハネッコの為に、どこまで力を出せるか……そして、どこまでハネッコを大事に思ってるか……それを知りたかった。だが、お前は期待以上に善戦したさ。これなら、十分に合格だ。」

 シルバーは、ナツキにポケモンの入ったモンスターボールを手渡す。
 そのポケモンとは、他ならぬハネッコ。
 すでにハネッコは最初からシルバーの与えていた薬により、回復へと向かっていたのだ。

「今、お前が戦ったメガニウムこそ……正しく悪性ポケルスを完治させた奴だったのさ。先日、特効薬を完成させてもらった。お前がそいつをここへ連れて来た時、もちろんすぐに取り寄せたさ。さっき届いたそれをハネッコに与えたから、もう心配はいらない。」

「シルバーさん……。」

「まぁ、ついでと言う訳じゃないが……。その間に、お前達に試練を受けてもらったのさ。さっきも言ったように、お前の気持ちを確かめたかったからな。そして、どれ程の者達がお前に力を貸してくれているかという事も含めて……。さぁ、用が終わったらさっさと帰りな。そのハネッコは、誰かから借りてたって言ってただろ?」

「……はい♪」

 ナツキは協力してくれた仲間達、そしてシルバーに改めてお礼を述べる。
 そして帰路につくナツキ達だったが……シルバー心の奥で、まだ終わっていない事の1つを思っていた。
 確かに、ハネッコの病は治った。
 しかし彼は、まだ本人すら気づいていないであろうナツキを蝕む病の事を、密かに考えていたのである。

 

 To Be Continued   Next Final Chapter !!

 

<第三章−簡易キャラクター紹介>

・ナツキ
 本作品『ポケットモンスター・ザ・フューチャー』の第二主人公。
 抜群のスタイルと可愛らしい顔立ちを併せ持つ美少女で、ガンテツの孫娘でもある。
 ミラージュジムのジムリーダーを務める、ノーマル・飛行タイプのエキスパート。

・キララ
 クチバジムのジムリーダー。
 ポケモンの傷を癒す特殊能力を持ち、ナツキの親友となる。
 姉に対し、ある種のコンプレックスを抱いていた。

・マミ
 GR団中最強と言われる、GR超念団の団長。
 見た感じ老婆だが、ゲーム中で娘リョウコが見た感じかなり若い事を考えると、実年齢が結構謎……(汗)。

・リョウコ、ミワ、ケビン、ヨウスケ
 GR超念団の主要団員は4人いる。
 リョウコは団長マミの娘であり、将来団長の座を継ぐ事になっているらしい。
 ミワは第一章の戦いにも登場した、仮面のGR団員4号でもある。

・クリス、ラグ、キユラ
 第一章の戦いでも参加したミワも含めて、現ポケモンリーグ四天王。
 クリスはご存知、7年前にポケモンリーグを制覇した少女が成長したもの。
 キユラはキララの姉にあたる。

・シルバー
 7年前のクリスのライバルであり、当時ウツギ博士からチコリータを盗んだ犯人。
 後に改心して博士にメガニウムに成長したものを返しに行くが、逆に認められてそのまま所持している。
 また、ナツキと昔に関わりがあったようだが……?