・最終戦

 

 エンジュシティの戦いで、負傷した者、捕らわれてしまった者も多かった。
 ナツキは何事も無かったかのように目を覚ましたが、フェイのアドバイスでしばらくムキルはあの時の事を黙っておく事に。

 やがて、イブキがやって来る。
 敗れた彼女はわざと解放され、ナツキ達を本拠地へ誘い込む罠として、あえて情報を与えられていたのだ。
 もちろんイブキ自身もナツキ達も、罠である事は十分分かっている。
 だが捕らわれた多くの仲間達を助け、ジョウトの支配人の究極の超ポケモン復活を食い止める為には、本拠地に乗り込む以外に手は残されていなかった。

 

 ジョウトの支配人本拠地、伏魔殿。
 深手を負わずに済んだナツキ、ムキル、ユウの3人だけが、少数精鋭としてそこへの侵入を開始。
 思えばかつて、幼い頃ヒワダタウンに住んでいた3人組である。
 そして伏魔殿では、ジョウトの支配人・三幹部との最終戦が彼女らを待っていた。

「よく来たな。歓迎するぞ!」

 最初の相手は、飛行・虫のエキスパートという三幹部『竜巻のハヤト』。
 ピジョットを相棒とする彼に、まず立ち向かうのはムキルだった。
 彼の得意技『ツイスター』は、やはりムキルを苦戦させる。

「クッ!!」

「俺が『竜巻のハヤト』と呼ばれる所以が正にこれ。敵が1体だろうが100体だろうが、この大型竜巻を利用すれば敵の数など関係は無いのさ!」

 だがムキルも、そうやすやすとは負けなかった。
 見事に機転を利かせ、ハヤトの竜巻をしのいでいく。

「ふっ、ムキル君って言ったよね。素晴らしいよ、君は。僕が本気を出すに値する強さだ。」

「何!?」

「今は亡き俺の父親は、昔はキキョウジムのリーダーだった。俺の小さい頃からの憧れで、俺の目標でもあったさ。父さんからピジョン(今のピジョット)を貰い、次のキキョウジムリーダーを受け継いだ後も、目標は変わらなかった。」

「…………。」

「そして7年後の今、ジョウト地方は危険地帯となり、キキョウはおろかジョウト地方のほとんどの町のジムは崩壊。
かつてのジムリーダー達はバラバラになったが、俺はジョウトの支配人として更に修行を積む道を選んだ。ジョウトの支配人達は言うまでも無く、強者揃いだったからな。強い競い相手や修行相手がいれば、自分はもっと強くなれる思ったんだ。」

「それが、ジョウトの支配人になった理由……。」

「今となっては恐らく、俺は当時の父さんを遥かに上回る実力を持っているだろう。けど……まだ追いついていないんだ。」

「え?」

「俺が最強のトレーナーとして心の中で描いた、目標として来た『心の中の父さん』には、俺の実力はまだ届いていない。だからこうして、俺は自分を試すんだ。俺はどこまで強くなれるか、どれくらい強くなったのか……と言う事をな!!」

 そして、いよいよ本気となったハヤトが襲いかかる。

「やっぱり強いですわ。ハヤトは空中戦のエキスパートです。ですが……ムキル君には空を飛ぶポケモンがいないのですよね。」

 危惧するナツキだが、ムキルはハネッコでうまく風に乗って攻撃を捌く。
 強力なツイスターを逆利用してみせたのだ。
 だがハヤトの技は、その更に先へと進んでいた。
 放たれた2つのツイスターが重なり合い、威力が一気に倍化した竜巻がハネッコの動きを止める。

「!?」

「俺の切り札、『トルネード』だ。風に乗る事を得意とするハネッコで、ツイスターを逆に利用するという着眼点は良いが、俺に空中戦を挑んで勝てる奴などいない! ピジョット、電光石火だ!」

 ハネッコも倒され、ムキルは最後の捨て身手段をニドラン♀のクロニドにさせるしかなかった。
 クロニドの吹雪を全力放出し、風もまとめて敵ごと凍りつかせたのだ。
 そこへ赤ニドの雷を落とさせ、ついにハヤトを倒す!

「……み……見事だ……ムキル君……。」

「か、勝った……。」

 続いて現れたのは、三幹部『千里のマツバ』。
 彼は室内に仕掛けられたトラップで、ナツキとムキルを地下に落としてしまった。
 残されたムキルの双子の妹ユウが、相棒のムウマと共に戦いに挑む。

「ほう、君もゴースト系を使うのか。だが、俺には勝てまい。」

 室内の物体が、次々とゴーストの力で飛び交い、ユウに襲いかかる。

「俺の必殺技『ポルターガイスト』だ。俺は相手が女の子だからと言って、手加減は一切しない。降参するなら、今の内だぞ。」

「こ、降参なんてする訳ないでしょ!」

「どこに隠れようが、俺には通用しないのさ。俺の、見えない物を見通す超能力『千里眼』があればな。」

「!! 超能力!?」

「そうだ。俺は昔から、この千里眼を使いこなして来た。千里眼にかかれば、敵がどこに隠れているかを見抜く事など容易い。」

「そ……そんな……。」

「加えて千里眼は、あらゆる情報を俺に提供してくれる。敵の持つ大体の能力、足の速さ、動きのクセ。そう言った情報を元に、俺が攻撃標準を定め、こいつに教える。」

 それは、彼の相棒であるゲンガー。
 ポルターガイストは室内にいる無数のゴーストポケモン達によるものであり、このゲンガーが司令塔となって、ゴースト達にテレパシーで指令を与えているのだった。

「!? こ、こんなに沢山のゴーストポケモンが……。このポケモン、全部あなたの手持ちポケモンだって言うの!?」

「あぁ。こいつらは、ジョウト地方が危険地帯になる前からの付き合いだ。」

「……!」

「俺の一族は、ジョウト地方に伝わる伝説を守ると同時に、その伝説の謎を解くという使命を持っている。ジョウトが危険地帯と化してからは、俺はジョウトの支配人としてジョウト地方に残り、その使命をまっとうする事にしたんだ。こいつらと、一緒にな!」

 マツバのゴースト軍団は、なおもユウを苦しめる。
 だがユウは、どうにか相手の隙をついて司令塔となるゲンガーに攻撃を放った。
 しかしマツバも、そう簡単に倒せる相手ではない。

「クッ!! 『切り札』を使う時が来たか……!!」

 マツバのゲンガーが、強烈な一撃を放ってユウに凄まじい衝撃を与えたのだった。

「きゃあああああああ!!」

「俺の切り札、ゴースト軍団のパワーを全てゲンガーに結集させて放つ攻撃、『サイコホラー』。これで、終わりだ。」

「……ぐっ……お兄ちゃん……ナツキ……ちゃ……」

 

 一方その頃。
 クリスを始めとしたポケモンリーグ四天王、そしてチャンピオンのシルバーも、ジョウトに到着。
 伏魔殿に潜入し、仕掛けられた罠と戦っていた。
 シルバーは『隠蔽のカーミル』を撃破、更に奥へ進みユウがマツバに倒されていた場所へとやってくる。

「おい、大丈夫か?」

「……ん……。」

 シルバーに起こされたユウは、彼にもらった薬でポケモンも回復させる。
 そして改めて、マツバに戦いを挑んだ。

「……むっ。また来る気か?」

「さっきは負けちゃったけど……今度は負けないわよ!」

「ほう……。ならこちらも。」

 数では圧倒的に、マツバのが有利。
 そこでユウは、黒い眼差しと滅びの歌で対抗した。
 滅びの歌のタイムリミットまでマツバの攻撃をしのぎきれば、マツバのポケモンを全滅させられる。

「ムウマ、逃げて! 何としても、逃げまくるのよ!」

「無駄さ。俺の超能力『千里眼』は、相手の動き方をも見抜く力を持つ。俺にかかれば、そのムウマの動きを捉える事など簡単だ。そうすれば、攻撃を受けざるを得まい!」

 だが、動きを見切る事に能力を集中させていたマツバは、それの真偽を確かめる事についてを怠っていた。
 マツバの攻撃が当たったかと思われた時、それが影分身であった事が分かる。
 今度こそ本物のムウマを見つけ、サイコホラーを叩き込もうとするマツバだったが、ギリギリでタイムリミットに!

「ざ〜んね〜ん。時間切れよ!」

「!!?」

「……今回は、私の勝ちよ。」

 滅びの歌で、ゴースト達は全滅。
 ようやくユウも、マツバを撃破したのだった。

 

 マツバによって伏魔殿地下に落とされていたナツキとムキルは、GR団大幹部ルイと遭遇していた。
 ルイはジョウトの支配人から究極の超ポケモンを横取りすべく、ここに潜入していたのだ。
 しかしナツキの力に興味を示すルイは、彼女に襲いかかる。

「ど……毒ガス……!?」

「チッ……嫌な攻撃だぜ。どうする、ナツキ!?」

「…………。」

「……ナツキ?」

「いやっ……いやああああああっっ!!」

 ナツキは悲鳴をあげて、うずくまる。
 それも実は、ルイの思惑通りだった。

「(ふふっ……やっぱり、予想通りだわ。ナツキちゃんの暴走の引き金となるのに一番適しているのは、毒! ナツキちゃんと精神的にどんどん追い詰めて行く事も、ナツキちゃんの暴走をより早くさせて行く効果も持ってる。さぁ、その力を見せてもらうわよ!)」

 ところが、その時。
 戦いを終えて来たシルバーとユウが、その場にやってきた。

「大分遅れて、すまなかったが、約束通りジョウトに来た。もちろん、クリス達四天王も全員連れて来てるぞ。クリス達は、他の場所にいるはずだ。」

 シルバーが現れた事で、ナツキは平静を取り戻していた。
 彼女に対し、シルバーはこう話す。

「この子は、ある辛い過去を持っている。暴走状態になる原因も、そこにあるのさ。恐らく、ナツキ自身も記憶の奥底にしまいこんで、ほとんど忘れた状態になってるだろうがな。それを思い出させるのも酷だが、状況が状況なんでな。」

「『ジョウト恐怖後遺症』……。シルバーさん、ポケモンリーグでそうおっしゃってましたよわね。私、一体どうなってしまったのですか? ポケモンリーグの時は全く自覚が無かったのに、今は何が何なのか……。」

「…………。」

「私はポケモンリーグでの時も、こうなってしまっていたのですか? あの時は分からなくても、なぜか今なら分かる気がするのですわ。私、突然に恐ろしい行動をとってしまってるようで……。一体、どうすれば良いのですか!?」

「……理由は後で説明するが、その病気を治すには、お前自身が強くならなければならない。ジョウト恐怖後遺症とは、一種の精神病だ。もっとも、かなり特殊な奴だがな。これを克服するには……お前の心に巣食っている悪魔を抑えこむには……お前自身の心が強くならなければならないんだ。」

「……!」

「今は眼前の敵を倒せ。時間が無いんだろ? 後でしっかり、全てを説明してやる。」

「シルバーさん、ポケモンリーグで初めてお会いした時も思ったのですが、昔どこかで……?」

「…………。」

「…………。それも、後で聞きますね。分かりました、今はこのバトルを制します!」

 こうして、改めてルイの方へ向き直るナツキ。

「……ちぇっ、暴走したナツキちゃんの力を、実感しようと思ったのに。」

「私が暴走してしまったら、どうなるか分からないのですよ? 以前にポケモンリーグにあなたが来た時も、暴走した私の危険を察知して逃げたのでしょう? 私としても……そんなのは嫌です!」

「……まぁ良いけど、私は負けないわよ。究極の超ポケモンを手に入れる為に、わざわざココまで来たのだからね。マタドガス、行きなさい!」

「マンタイン♀、行きますわよ!」

 やはりGR団大幹部だけあり、ルイは強かった。
 だがナツキも負けず、得意技を次々と使いこなして応戦。
 毒を受けても眠るで回復し、寝言による攻撃でマタドガスに反撃した。

「……くっ!! ……ゆ、油断したわ。眠る+寝言の攻撃は、ナツキちゃんの得意技だったのよね。それにこの威力……」

「……はぁ……はぁ……!」

「……大した物だわ、ナツキちゃん。暴走なんてさせなくても、凄い力だこと……これじゃ勝てないわ。」

「ルイ……。」

「先に進みなさい。そして私の代わりに、究極の超ポケモンを見てくるといいわ。」

「…………。行きましょう。」

 ルイを退け、ナツキ、ムキル、ユウ、シルバーは更に奥へと進む。
 ここからが、本番戦だった。

 

 

 

・堕天使と悪魔

 

 ミカンは子供の頃から、孤児達を引き取り世話をしてきた。
 自分も両親がいないというのに健気なそんな様を見て、町の人達は『天使』のようだと話していたのだ。
 ……そして、今。
 18歳に成長した彼女の姿が、ジョウトの支配人・三幹部最強『鏡壁のミカン』としてそこにはあった。

「ほとんど全員倒されてしまいました。残っているのは、私とカリン様だけです。」

「ミカンとあたくしね……。『堕天使』と『悪魔』と言った所かしら?」

「…………。」

 ナツキ達はとうとう、伏魔殿ラストフロアに辿り着く。
 そしてこここそが、究極の超ポケモンが封印されし場所でもあった。
 封印を巡り、最後の戦いが幕を開ける。

 透明な羽の力で徐々に封印を解かれつつあった究極の超ポケモンは、うっすら姿が浮かび上がっていた。
 その姿は、ガラスのような体を持つ透き通った姿のルギア。
 封印はまだ完全に解かれていなかったが、透明ルギアの放つ風の衝撃波が、ナツキ達を襲っていた。

「究極の超ポケモン……透明ルギア。あなたを復活させるまでは、時間の問題。けれども、邪魔者もこの通り来ているのよ。封印を完全に解いて欲しかったら、あたくし達に協力しなさい。」

 カリンの言葉に、ルギアはにやりと笑みを浮かべていた。
 そしてムキルはというと、ミカンと対峙。

「私は仮にも、ジョウトの支配人・三幹部最強『鏡壁のミカン』です。対してムキル君、あなたの残り手持ちポケモンは大分手負いの様子ではありませんか。素直に降伏する方が、利口と言えます。」

「(確かにそうだ……。俺はハヤト戦で、ほとんど戦力が残ってねぇ!)」

「それでも戦うのであれば、私も容赦はしません。」

「……その前に、1つ教えてくれ。ミカンさんは何で、ジョウトの支配人になったんだ!?」

「!」

「ハヤトは、自分の父親を凌ぐ為……マツバは、ジョウトの伝説を追求しつつ守る為……そう言っていた。同じ元ジムリーダーで三幹部になったミカンさんにも、何か理由があるんじゃないのか?」

「……よろしいでしょう。どうせ最後ですし、お教えしてさしあげます。私は昔、両親を亡くしました。ですけど、私は決して1人ではありませんでした。なぜだか、分かりますか?」

「前にちらっと聞いたが……弟や妹がいたからか?」

「えぇ。ですけど、私は本当は一人っ子で姉妹も兄弟もいないのですよ。しかし、私には実の弟や妹のように、可愛がっている子達がいます。その子達も両親を亡くした孤児でして……私は昔から、その子達の面倒を見てきた訳ですよ。」

「……ミカンさん。」

「生活して行く上で、お金はどうしても必要なのです。実の弟や妹達のように可愛がってきた子達を養っていくには、なおさら。ですけど、ジョウトが危険地帯と化した時……当時、私に出来る事と言ったら、何があると思います? 何も無いのですよ。唯一残された道は、自分のトレーナーとしての腕を高め、ジョウトの支配人になる事ぐらい……」

「…………。」

「ジョウトの支配人になれば、当面の生活で困る事はありませんからね。そう……たとえ『堕天使』になろうとも、私はその道を選ぶ事にしたのですよ!! ですから私は、負けるわけにはいかないのです!! これが、私がジョウトの支配人になった理由です。さぁ、話は終わりにしましょう。参ります、ムキル君!」

「……っっ!!」

 こうして、ムキルvsミカンの戦いが始まる。
 一方で伏魔殿で激戦をしてきたシルバーはやや手負いで、ユウも戦えるポケモンが残っていない。
 最後はやはり、ナツキがカリンに挑むしかなかった。

「どうしても、復活させるつもりなのですか。」

「でなくば、最初っから究極の超ポケモンを復活させようとなんて考えないわよ。」

「私は、究極の超ポケモンの復活を阻止する為に来ました。出来れば話し合いで解決したかったのですが……」

「甘い事を言わないのよ。あたくしは、ジョウトの支配人の首領よ。戦いは避けられない、それは十分に理解してるはずではなくって?」

「……!」

 カリンのヤミカラスが、ナツキに襲い掛かる。
 同じ飛行ポケモンのピジョンで対抗するが、ジョウトの支配人首領の力は凄まじかった。

「どうしたの、その程度かしら?」

「……つ……強い……。」

 そしてシルバーとユウは、そんな彼女の様子をひたすら見守る。
 幸いシルバー曰く、ナツキに暴走の様子は見られないらしい。
 シルバーによると、ナツキの『ジョウト恐怖後遺症』というのは、恐怖心に過剰反応した結果なのだという。
 それを克服するには、彼女自身の心がそれに打ち勝つだけの強さを身につけるしかないのだった。

「今のナツキの心の強さを信じよう。彼女の精神力なら、カリンを打ち破る事は決して不可能じゃないさ。」

「ナツキちゃん……。」

 なおもカリンは、ナツキを追い詰めていく。
 彼女のヘルガーが持つ能力『悪い波動』が、より大きな力を生んでいたのだ。

「私のヘルガーは、1つの特殊能力を持っているのよ。それが『悪い波動』。このヘルガーが放出する不思議な波動は、闇を司る属性の攻撃力を、大幅にアップさせるの。私とあなたのパワーの違いは、ここにあったと言う訳。」

「……!!」

「そして……この悪魔の波動とも言うべき物の有効範囲は全て、言わば私のテリトリー。あなたのポケモンに最初から勝ち目は無いのよ。」

 確かに、ナツキのパートナーであるマンタインは成すすべ無く倒されつつあった。
 しかしそれでも、マンタインは死力を振り絞りカリンに挑む。
 すでにダウンしてもおかしくないハズのマンタインが向かってくる様子に、さすがのカリンも目を見張った。

 しかし、ナツキの敵はカリンだけではない。
 封印が解かれつつある究極の超ポケモン・ルギアもまた、全力ではないとはいえ攻撃をしかけてくる。
 ナツキは止まるように訴えるが、ルギアは構わずエアロブラストを放った。

「キャッ!?」

「何を止めろと言うのよ。まして、究極の超ポケモンに話かけて、それが通じると思っているの?」

「そんなのは分かりません……。けど、究極の超ポケモンの話は、私はただ力が強い事しか聞いていませんもの。悪魔だなんて呼ばれているけど、私はそれが本当に悪なのかを、まだ確かめた訳ではありませんわ。」

「…………。」

「ただ、それでもジョウトの支配人のポケモンとなってしまえば、恐ろしい被害を出してしまう……。たとえ無謀でも、私はそんな事になってほしくはありません。もう……暴れないで!」

 なおもルギアは、エアロブラストでナツキを威嚇。
 攻撃は、紙一重でナツキの体をかすめたのみだった……が、ナツキの度胸にカリンの方が驚いた。

「しょ、正気なの……? 偶然、今は当たらなかったけど、もし当たれば、あなたは……」

「恐い……でも、ここで逃げる訳には……いきませんわ……。」

「もう、遅いのよ。」

 立ち向かうナツキに対し、非情にそう宣告するカリン。
 事実、封印開放はもはや止められない所まで来つつあった。

 ルギアもまた、執拗に攻撃をし続ける。
 だがエアロブラストは今のところナツキに当たる事はなく、またナツキはルギアの様子に違和感を覚えていた。

「おかしいですわ。あのルギア、狙いが先程よりも鈍ってます。それに、威力もわずかずつではありますが、落ちている気が……。」

「……何ですって!?」

「まさか、封印前に力を発動し過ぎて、弱っているのでは!? だとしたら、いくら究極の超ポケモンと言っても、封印が解けかかっているこの不安定な状態では、体がもたないのでは!」

 しかしナツキの心配をよそに、ルギアは更にエアロブラストを放った。

「キャッ!? もう、やめてください。ルギア、これ以上暴れたら、あなた自身の体がもたないはずです。どうかこのまま大人しく、再び眠りについて……」

 

 

 

・最終決戦

 

 最初から戦力の残っていなかったムキルは、なおもミカン相手に苦戦していた。
 あらゆる攻撃を遮断する特殊能力『ダークヴェール』に加え、更にその上と言える能力まで使って来ていた。

「……オーロラヴェール。ハガネールに予め使う準備をさせていたので、ムキル君の攻撃にも対処する事が出来ました。オーロラヴェールと言ってもオーロラのように光輝くだけの事で、実際は鏡の役割を果たす銀幕を張って防御するのです。」

「鏡……だと!?」

「そうです。ハガネールの砂嵐の応用技なんですが……このハガネールは訓練によって、鉄紛を使った砂嵐を発生させる事が出来るようになりました。そしてその鉄紛には、相手の攻撃の全てをはね返す特殊な能力を備えさせてあります。」

「つまり、それがオーロラヴェール。この恐るべき鉄壁の防御力……間違い無く、ミカンさんの切り札か……!」

「えぇ、確かにこれは私の持つ、とっておきの技です。そして私の『鏡壁』の異名の由来は、ここから来ています。ジムリーダー時代、私は鉄壁防御を武器にしていた為、『鉄壁のミカン』と呼ばれていました。しかし今は、相手の攻撃を跳ね返す事の出来る、『鏡壁のミカン』なのです。」

 だが、ムキルとて勝負を諦めた訳ではない。
 ムキルのポケモンも、疲労状態とは思えない動きで最後の抵抗に臨む。
 彼らは総力を結集し、ミカンの鏡壁を打ち破りにかかったのだ。

 苦闘の末、ようやく勝負はついたかに見えたが……。
 究極の超ポケモンは、とうとう完全に封印が解かれてしまう。
 しかし封印が解かれる前に力を使い果たしていたルギアは、すぐには動けなかった。
 それを守るは、最後の砦たるカリン。
 ナツキは単身、カリンとのラストバトルに挑む。

「覚悟しなさい。悪い波動で強化された攻撃を、防ぐ手段は無いわ!」

 ジョウトの支配人首領カリンの力は、なおも強力だった。
 が、ナツキの力も徐々にカリンを脅かし始める。

「ラフレシア。眠り粉よ!」

「……それを、待っていましたわ。ピジョン、吹き飛ばし!」

「……え? !! し、しまった!?」

「今です。テッポウオ、波乗り!」

 相手の眠り粉を強風で跳ね返し、追撃を放つナツキ。
 無論カリンとてやられっぱなしで終わるハズもなかったが、ナツキとのそのポケモン達が放つ勢いは、とうとうカリンの反応速度すらも超え始める。

「そ、そんな……。」

「はぁ……はぁ……。」

「う、嘘よ! なぜ? なぜ、こんな力を出せるの? さっきまでのあなたとは、まるで違うわ。一体、何が……!?」

「そ、それは……。」

「あなたのポケモンが、あなたの心に同調している……!? ポケモンとあなたの心が1つになったからこそ、これ程までの力が出せるの?」

「それも、あると思います。私のポケモン達は、私を信頼してくれてると同時に、私の心に共感してくれている。だから、これ程の力が出せると思ってます。でも……それだけじゃありませんわ。」

「!?」

「私自身が、ムキル君や他の仲間達の心に共感し……同調して、力を高めているのです。今、私は1人で戦ってるわけではありません。ムキル君や、皆の心を受け継いで、皆と一緒に戦っているのです。自分の野望の為に戦っているあなたには、絶対に負けませんわ!!」

「……!! まだ……まだ、勝負は分からないわよ。あたくしの、最後のポケモン……ヘルガー♀! 悪い波動で攻撃能力を極限にまで高めなさい。」

「勝負を、一気に決めて来る気ですか!?」

「このまま戦ってたら、あたくしの負けだもの。本当は勝ち負けより、時間を稼ぐ事を目的としていたけど……とてもそんな余裕を、与えてくれそうには無いものね。」

「…………。」

「あたくしは、ジョウトの支配人の勢力を更に高める為に、透明ルギア……究極の超ポケモンを手に入れようとしていたわ。けど同時に、確かにあたくし自身の為でもあったと思うの。だから今だけは、究極の超ポケモンとか様々な事を頭の中から消して、このバトルにのみ集中するわ。そうする事で、ようやくあなたと対等な条件下で戦える。次で、決着よ!」

「私は……必ずあなたを止めてみせますわ。今の私になら、その力がありますもの。」

 カリン最後のポケモン……ヘルガーは、それまでとはケタ違いの力でナツキを襲った。
 ナツキもマンタインで、それに応戦。
 そして、決着はついた。
 とうとうナツキは、カリンを打ち倒したのだった。

 

 

 

・過去の記憶

 

 復活した究極の超ポケモンこと、透明ルギアを前にした決戦。
 制したのは、ナツキだった。

「お、終わった……。あたくしの……負け!? …………。ふっ、行きなさい。」

「え?」

「あたくしは、あなたに敗れた。ナツキ、あなたは究極の超ポケモンの復活を阻止する為に、戦っていたのでしょう? もはやあたくしには、あなたを止める力も権利も無い。好きにしなさい。」

 ナツキは、ルギアの前に立つ。
 力の使い過ぎで弱っていたルギアをどうするかは、ナツキに託されたのである。

「お願いです。究極の超ポケモン、透明ルギア! これ以上、暴れたりしないでください。再び、この地で眠りについてください!」

 ナツキは訴えるが、当然ルギアは彼女を睨み付けるばかり。
 そしてカリンも後ろから、ナツキに言う。

「無駄よ……恐らく、ルギアは再び封印を受ける気など全く無いわ。かと言って、あたくしもルギアを封印する方法なんて知らない。」

「…………。」

「となると、残る手は……ルギアが力を取り戻す前に、トドメを刺すと言う事だけ。でも、さすがにそれは出来ないのでしょう、ナツキちゃん? どうする気?」

「ど、どうすると……言われましても……。やっぱり……説得じゃ、無理なのでしょうか……?」

「それは、あなたの決める事よ。あなたは、あたくしに勝った。勝ったからには、あなたの意見を最優先にしてあげるわ。その代わり、勝った以上は責任を持ちなさい。」

 ……その時、ルギアは強引に力を開放し始めた。
 エアロブラストをそこら中に放ち、この地下部屋もろとも破壊しにかかったのである。

「……クッ!!」

「キャッ! あっ……きゃあああ!!」

 その時ナツキは、心の奥底から湧き上がる何かに恐怖する。
 自分が危機に陥った時に現れる、心の中の悪魔に。

「い、嫌……! 出て来ないでください!」

「……?」

「(私の恐怖が、シルバーさんの言っていた『ジョウト恐怖後遺症』の発作、すなわち感情と人格の激変を起こらせる引き金になっているって、シルバーさんはおっしゃってました。それを防ぐには、私の精神力しか……)」

 そしてついに、ナツキは過去の記憶を呼び覚ます。

 

 7年前、ナツキは一部の記憶を失っていたのだ。
 その記憶とは、ジョウト崩壊時の最中にいた時の記憶。
 ナツキはその時にシルバーと出会っており、彼に助けられていたのである。
 だが絶望的な状況の中、彼女は追い詰められていた。
 そしてその時、彼女の精神的な防衛反応として、ある種の暴走状態になっていたのだ。

 

 気づくとナツキは、伏魔殿の外に連れ出されていた。
 そこにはシルバーやムキル達、そしてカリンの姿もあった。
 ナツキは結局ルギアを止める事はできなかったが、同時にカリンもルギアを自分のポケモンにする機会を失っていたのだ。

 カリンは今回の事で、ジョウトの支配人首領を降りると言いその場を去る。
 残された究極の超ポケモンは、上空に停滞していた。
 それをナツキが止めようとしていた以上、彼女が今度こそルギアを止めなくてはならない。

「それにしても……ナツキ。お前は眠っている間、7年前の事を夢に見たって言ってたな?」

 シルバーの言葉に、ナツキは頷いた。

「はい、シルバーさん。それで……思い出しました。やっぱりシルバーさんとは、あの時にお会いしていたのですね。ジョウト地方が危険地帯となるキッカケになった、『コガネ大噴火』の時、ムキル君やお爺様とはぐれて、たた1人でウバメの森をさまよっていた幼い私を助けてくれた、命の恩人でしたのよね。あの後、お爺様と再会して、一緒にカントーへ避難する事も出来ましたし。」

「あの時、お前はとてつもない恐怖を味わっていたはず。その恐怖と、更にポケモンを狂暴化させる、特殊な火山性の毒ガスも混ざって、お前の心の中に悪魔が住みついた。まぁ、一種の防衛反応でもあったのだろうがな。とにかく、こうしてお前は暴走するようになってしまった。お前の別人格が、強大な力を持つ事になった。それが『ジョウト恐怖症』だ。」

「ジョウト……恐怖症……。」

「あの毒ガスは、ポケモンにこそ慢性的な影響を及ぼすが、人に対しては一時的な物だった。実際、あの時にジョウトから逃れて来た人の中には『ジョウト恐怖症』を発症した者もいたようだが、全て自然に元通りになったと言うしな。」

「確かに実際、私はポケモンリーグの時まで、あんな風に人格と感情が激変する事なんて、無かったのですよ。けれども、それがまた再発してしまったと言う事なのですか?」

「ああ……。だが、『ジョウト恐怖症』になった者の中で極少数名、何かのショックで後遺症を呼び起こし、同様の症状を再発させてしまう者が少なからずいたんだ。つまり、それこそが『ジョウト恐怖後遺症』。」

「何かの……ショック?」

「お前の場合恐らくは、ポケモンリーグの四天王戦で、キララとキユラの姉妹の仲を見たのが、そのショックとなったのだろう。お前自身は自覚が無かったかも知れないが、姉と長い間、生き別れになっていたんだったな。その事が、姉に対する特別な気持ちを生んでいた。」

「それで、ようやくお姉様と再会出来た時に、妹のキララちゃんに冷たく当たるキユラさんを見て、私の心が私の知らない間にショックを受けてしまった……と言う訳ですか。あの時、ちょうどルイが攻めて来てピンチになったりもしたので……。」

「あぁ。そう言った悪条件が重なり合って、再び心の中の悪魔が目覚めてしまったんだ。しかも一度目覚めた悪魔は、より次の機会で目覚めやすくなってしまっている。そんな不安定な心理状態で、お前はジョウト地方に来てピンチに陥った。そこで、またしても悪魔が目覚めてしまったと言う訳さ。」

「私……最後に一回、ルギアが伏魔殿の最深部を壊して生き埋めになりそうだった時に物凄い恐怖を感じて、そのショックでまたしても悪魔が出て来そうになったのです。でも……必死に、それを食いとめましたの。ですから、その時は私は暴走しませんでした。」

「そうか……。ジョウト恐怖症とその後遺症は、本来の人格では手に負えない恐怖が発生した時に、一種の防衛反応も相まって強い別人格の悪魔が呼び起こされる。だから逆に言えば、本人格が別人格の悪魔を精神面で上回った時、もう発生はしなくなるんだ。特に最終戦でのルイとのバトル、最終決戦のカリンとのバトル……。これらの戦いで、ナツキ自身の心が特に強くなったはず。心が強くなれば、自分の心の中に住む悪魔に打ち勝ち、二度と呼びおこさせないようにする事が出来る。今のお前は、『ジョウト恐怖後遺症』を完治させたと見て良いだろう。」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ。もう、何も心配する事は無いな。残る問題は……あいつだ。」

 上空を見上げ、シルバーは究極の超ポケモンの姿を再確認。
 残る戦力はわずかだったが、最後の最後に残っていたのが、ムキルの赤ニドとナツキのマンタインだった。
 飛行ポケモンを狩り、戦いは最後の空中戦へと進んで行く……。

 

 

 

・ファイナルコンフリクト

 

「撃墜されたら終わりだ。気をつけろよ、ナツキ。」

 最後の戦い……。
 ルギアは力も完全に戻らぬうちに、ムキルとナツキへ襲いかかった。
 全力ではないだけにチャンスと言えたかも知れないが、それでもルギアの力は想像を絶した。
 ルギアの放つ光線は、軽く山を消し飛ばし、大地をえぐるだけの力を見せ付ける。

「はぁっ……はぁっ……。何ていうか……物凄いですわね……。」

「こりゃ、やべぇぞ。とんでもないパワーだ、コイツ。」

「しかもまだ、フルパワーでは無いのですわよね……?」

「あぁ。こりゃ、フルパワーになったらますます止められないな。勝負をつけるなら、今の内しかない!」

「ですが……本当に、どうやって止めましょう?」

 しかし、観察力のあるナツキは相手の様子に気づく。
 ルギアは確かに凄まじいまでの力を振るってはいたが、完全でないだけに体に対する負担も大きかった。
 一見力強そうなその体が、小刻みに震えているのが見えたのだ。

「(そうですわ……あのルギアは、まだ完全復活した訳ではないんですもの。いくら究極の超ポケモンだからって、完全に力が戻ってないのにあれだけの攻撃をしかければ、とてつもない負担がかかるのでしょう……。)」

 だがルギアは、意地でもナツキ達を撃ち落そうと攻撃をしかける。

「(辛そう……。ルギア、あなたがそこまで無理をするのは、私達のせいなのですか? 私達が、あなたを追い詰めるから……)」

「ナツキ……。」

「……ムキル君、ルギアを気絶させましょう。戦って倒さなくては、止められませんわ。」

「!」

「私は、あのルギアがこれ以上苦しむ姿は見たくありませんわ。だから、すぐにでも止めてあげたいのです。戦う事でしか止められないのなら……私は、戦いますわ!」

「……!! あぁ!!」

 それまで、どうしても甘い気持ちを捨て切れずにいたナツキは、ようやく心を決める。
 雷による攻撃すら風で吹き飛ばすという恐ろしい相手だったが、2人は諦めなかった。
 絶妙のコンビネーションでルギアを翻弄し、相手の巨大さを逆手に取って懐に入り込む。
 そこから強力な一撃を加える……が、ルギアは強引に接近してきたナツキを振り払った。

「バカな! あの野郎、自分の周囲に風を起こしやがった。奴の懐は絶対に死角になってると思ったのに……ナツキ、危ねぇ!!」

「きゃあっ!!」

 バランスを崩したナツキに、容赦なくルギアのエアロブラストが叩き落された。
 ムキルの表情が強張る。

「ナツキー!! う、嘘……だろ?」

「ムキル……君……」

「……! ナツキ、無事だっ……」

 そう言いかけるムキルの目には、全身ボロボロで傷だらけのナツキがいた。
 彼女を乗せているピジョンもまた、いつ落ちてもおかしくない程に弱っている。
 そしてナツキは倒れかけるが、慌ててムキルがそれを支えた。

「……ムキル君。」

「え?」

「こんな時に……ごめんなさいね。でも……私……ムキル君の事が……好きでした……。」

「なッ!?」

「小さい頃、同じヒワダタウンで暮らしてた時から……私はムキル君の事が好きだったのです……。もちろん、最近になってムキル君に再会してからも……ですよ。」

「…………!」

「でも、ムキル君にはランちゃんがいますものね……。それは、よく分かってます。けど、せめて……それだけを伝えておきたかったので……その……。」

「……ナツキ……。その……ごめんな、俺……やっぱりランが……。」

「いいんです、別に……。最後の最後に、言っておきたかったから……話したかっただけですから……。」

「……最後じゃねぇさ。」

「え?」

「俺にはランがいる。ナツキには、ガンテツさんやミズキさんがいる。そして、他にもあんなに沢山の仲間がいる。皆、俺達の帰りを待ってるんだぜ。ちゃんと勝って、生きて帰ろうじゃねぇか!」

「ムキル君……。」

 それを聞いたナツキは、ぎゅっと拳を握りしめる。

「……行きましょう、ムキル君。ここまできたら、全力の強行突破で突っ込むしかありませんわ。」

「何!? た、たしかに……こうなったら、小手先の技は一切通用しねぇ。けど、それはいくらなんでも無謀だろ!」

 だがムキルの反論に、ナツキは絶体絶命のピンチにも関わらず、にっこり微笑み返す。

「けれど、私達に出来る事は、もうそれしか残されていませんわ。」

「……!!」

「ここまで来たのなら、私はその最後の一撃に賭けたいのです。もちろん、ムキル君に強要するつもりはありませんが、私は1人でもやりますわ。」

「んな事言われて、逃げる訳にもいかねぇだろ。ったく。」

「ここにいるのは、私達だけではありませんわ。皆さんの心が、ここにはありますから。」

「あぁ……その通りだな。」

 思わずムキルの方も、クスっと笑ってしまった。

「んじゃ、やるか!」

「はい。参りましょう!」

 2人は自分の相棒ポケモンと共に、今度こそ最後の突撃に出る。
 ルギアもまた力を振り絞ってのエアロブラストを放つが、やはり力は落ちていた。

「(やっぱりあのルギア、相当な負担が……! もう、限界なんですわ。きっと。)」

「よ、よし。チャンスは今しかねぇ!!」

「はい……!!」

 沢山の仲間達の意思を受け継いだ2人は意を決し、そのままルギアに突撃した。
 ドゴォッ!!

 

 ……気づくと、ナツキは宙に浮かんでいた。
 空を飛んでる訳ではない、しかし落ちている様子もない、本当に浮かんでいたのだ。
 そして彼女の眼前に、ルギアは現れる。

「……! ルギア!?」

 そこでナツキは、究極の超ポケモンであるそのガラスのような体についた、無数の傷跡を始めて見た。
 明らかに、彼女との戦いだけでついた傷ではない。

「この傷は……古い傷跡?」

 ナツキは、そっと傷跡に手を沿えてみた。すると、かすかにルギアの記憶に触れた気がした。

 大昔、悪魔のような力で恐れられたポケモン。
 そのあまりに強大すぎる力は、多くの人々からの攻撃を受けた。
 ルギアは何もしない……ただ一方的に攻撃を受け、退治の対象となったに過ぎない。
 とうとうルギアが反撃にでると、大昔の人々はついにルギアを封印してしまった。

 長年の眠りを与儀なくされたルギア……それこそが、このガラスのような透明で美しい姿を持つ、究極の超ポケモンの正体だった。

「あなたは悪くなかった、あなたは暴れたい訳ではなかった……! それでも、こんなに長い間ずっと封印され続けて、暗い地中に閉じ込められていたのですわね。あなたはただ、自由になりたかっただけ。……ごめんなさい。」

 自分もまた暴走状態になった経験を持つがゆえに、そう思えたのだろう。
 ナツキは、ルギアが自分のように暴走してほしくないと願ったのだ。

「お願いです、ルギア。もうこれ以上、暴れないでください。あなたが暴れたら私達も、そしてあなた自身も苦しむ事になってしまいます。強大な力を制御する事が簡単だとは思いませんけれど、でも私は今、初めて気づきました。あなたを再び、無理矢理に封印させる事は間違っている。
 ……けれどもその為には、あなたがあなた自身の力を制御できなければならないのです。私も経験がありますから、自分の暴走を抑える事は、容易でない事は十分に分かってます。しかし、今度はどこかで大人しく平和に暮らしてください。」

 そして、ルギアは初めて笑った気がした。
 ナツキの言葉を聞いて……。

「それが出来ればあなたは自由なのですよ。あなたの封印は、もう解かれたのですから……!」

 

 

 

 ナツキは、ベットの上で目を覚ました。
 寝かされていた彼女の周りには仲間達、そして四天王達によって助けだされた博士達の姿もあった。

「…………。(今の、ルギアとの会話は……夢だったのでしょうか?)」

 彼女は、どうやらまる2日も眠っていたらしい。
 今はカントーへ帰る船の中なのだという。

「何、あれだけの偉業を成し遂げたのじゃ。長く眠っても無理ないわい。」

「オーキド博士……。あら、何かを忘れているような?」

「ん?」

「!! そうですわ! ムキル君こそ、怪我は大丈夫なのですか!? それから、究極の超ポケモンはどうなったので!?」

 それを聞いて、いつもの事ながらとムキルは少し呆れる。

「……呑気だな、おい(汗)。俺はこの通り、ピンピンしてるぜ。んで、究極の超ポケモンは正直良くわからねぇ。最後に、俺とナツキで一撃を与えただろ? その後、物凄い光が発せられて目が眩んで、気づいたら俺もナツキも地上にいたんだ。究極の超ポケモンは、跡形も無くなっていた。」

「……そうだったのですか。」

「消滅したとは思えねぇけどな。でも、あいつが今も大暴れしてないって事は、あの最後の一撃で再び封印されたんじゃねぇか? 理屈は良く分からないけどな。でもまぁ、どっちにしても俺達の勝ちってわけだよ。」

「(きっと……封印されたわけではありませんわ。恐らくルギアは、自由になったのですね。でも、この事は黙っておいた方が良いかもしれませんわ。)」

 そんな事を考えながら、ナツキは窓の外を眺めていた。
 この時、ナツキ達が乗っている船の上空を、物凄いスピードでガラスのような透明度を持つ何かが、飛んで過ぎ去って行った事に、誰も気づく事はなかったという。

 

To Be Continued   Next PoketMonster ArchGeneration !!

 

 

 

 終わった!!
 ……疲れた。OTL
 もう2度と旧小説の総集編なんてやりたくないです(泣)。
 けど始めた以上、どうにかやり終える事ができました。
 この『ポケットモンスター・ザ・フューチャー』って、ルビサファ発売の遥か前に書いた奴なんですよね。
 一体何年前だ(汗)。

 ファイナルコンフリクトは、総集編じゃなくて本編の見た方がよかったかもだけどね。−−;
 どうせ2話だけだし。
 アニメ映画でメタグラードンなんてのがいましたが、今作のルギアはメタルギアとでも称すべきなのでしょうか。
 ……このネーミング、どこで切ればいいのか分からんぞ(滅)。

 えー、フューチャー完結してもまだ敵は残ってたりします。
 その辺はまたアクジェネの方で(ぇ)。
 ムキルとナツキも引き続き活躍しますので、どうかお楽しみに。

 最後に……。
 半端な終わり方で申し訳ありませんでした。OTL

 

 

 

<最終章−簡易キャラクター紹介>

・ジョウトの支配人メンバー
 隠蔽のカーミル、罠張のラッド、占術のアレス、反射のグザイ、幻影のシータ……etc。
 他にも魔剣のビズ、変装のリク、探求の偽オーキドが第二章以前から引き続いて登場。
 肩書きを特に考えなかったキャラ達も、結構いました。−−;

・シジマ
 タンバシティは本土とは海で隔絶されてる為、ジョウトで唯一危険地帯になっていない町。
 その町のジムリーダーとして、町を守るべくタンバに残っていたのが彼である。

・ハヤト
 ジョウトの支配人・三幹部の1人、竜巻のハヤト。
 三幹部ってのは、ポケスペのR団三幹部みたいなノリで作成してみた存在。
 第二章総集編のマツバの紹介でも書いたが、三幹部は全員が元ジョウトジムリーダー。
 ハヤトの『ツイスター』や『トルネード』も、やはりポケモンカードの技。
 追記しとくと、マツバの『ポルターガイスト』と『サイコホラー』も同様。

・ミカン
 ジョウトの支配人・三幹部の1人、鏡壁のミカン。
 アクジェネじゃもはやお馴染みの存在である姉ちゃんは、前作ではボスキャラだったとさ……。
 彼女がシクーの姉という設定も、フューチャー時代からすでに決まってました。
 つかシクーというのも名前だけなら、フューチャーのジョウトでの話の中でちらほら見かけられる。

・ルイ
 GR団大幹部の片割れ……ある意味、一番謎な人。
 ゲーム中でも謎だった。何、平然とMr.イシハラの家にいるのさ、あんたは(笑)。
 なので本小説でも、初登場がMr.イシハラの家。
 『ポイズンミスト』は、彼女がポケモンカードGB2のゲーム中で使うデッキ名(カード技でもあるか)。
 しかし、それは彼女が有する3つの力の内の1つに過ぎない……。

・カリン
 元四天王だった、ジョウトの支配人首領。
 やっぱり『悪い波動』の名はポケモンカードから。
 しかしこの名の能力を持つポケモンカード名は、『GR団のミュウツー』だったり……。
 本小説内じゃ、彼女はGR団ではありません。
 アクジェネでの彼女の出番は、多分無い。
 しかし彼女がいなくなっても、ジョウトの支配人という組織はなおも健在。
 むしろ、無音・特務隊となって更にタチが悪くなってるとかなってないとか……。
 とりあえず、アクジェネの続きを頑張ります。−−;