1st「物語は突然に」

 

 私の名前は真衣(マイ)。読書が大好きな、11歳の女の子よ。
 ……実は私、最近とっても大好きな本があるの。それは私の町にある小さな図書館に置いてある本で、今一番のお気に入りの本。人気が無いのか、私以外は誰も読んでないみたいなんだけど、私は毎日その図書館に通って読んでるって訳。

 その本のタイトルは……『ポケットモンスター アークジェネレーション!!』。
 あぁ、別名『アークジェネ ポケットモンスター!!』でもあるらしいの。なんでタイトル、2つもあるのかしらね?

 

 (特に理由はありません……ホントの話)

 

「あら、マイちゃん。今日もいらっしゃい!」

「!」

 図書館に入ると、女の人が声をかけてきた。この図書館の館長をしてる、ホノカさん。
 私がホノカさんに挨拶すると、すぐさま戸棚から本を取り出してきてくれた。そう言えば今日は、アクジェネの新しい本を取り寄せてくれるって言ってたっけ。

「はい。マイちゃんの為に、この本をとっといておいたわよ」

 あ、ありがとうございます! ……と、私はすぐにお礼を言った。

「いいの、いいの。この図書館、滅多に人が来ないんだし。マイちゃんが唯一の常連さんなんだから、これぐらいしてあげないとね」

 私は、すぐにホノカさんから本を受け取る。
 その本のタイトルは、こう書かれていた。

 『ポケットモンスター ジェネレーション!!』

 ……あれ???

「あぁ、それね。普段のアクジェネの、番外編みたいなお話らしいの。でも基本的には、いつもと同じよ。シクー君とソウト君がおりなす、冒険の物語。今日もゆっくり、読んでらっしゃいな」

「……!」

 へぇ、番外編かぁ。
 本を持って私は椅子に座ると、早速その本のページを開き始めた……。

 

 

 

 ここは、カントー地方グレンタウンと呼ばれる町。

「あぢ〜ッッ!!」

 そこで、あまりの気温に悶えている1人の少年の姿があった。スポーツ刈りをした、12歳の男の子である。
 ……彼の近くに、もう1人の少年もいた。黒眼黒髪で、フード付きの洋服を着ている、同い年の男の子だ。

「確かに……今日は蒸し暑いよね、ソウト」

 フード付きの洋服を着ている少年が、スポーツ刈りの少年……想人(ソウト)に言った。

「全くだぜ、シクー。電気代がかかるからって、クーラーの使用は制限されるし、ホントどうにかしてほしいよな」

 ソウトも、フード付きの洋服を着た少年……詩空(シクー)に愚痴をこぼす。
 この2人は、同じ家に住んでるものの兄弟ではない。いや、実の兄弟のように仲はいいものの、訳あってシクーがソウトの家に置かせてもらっている関係だ。もっともソウトの両親は、シクーもまた本当の子供同然のように、親切に接してくれている。今ではココは、まごう事無くシクーの自宅でもあるのだ。

「全く、だらしねぇなぁ」

 そう言いながら来たのは、30代の男の人。彼はソウトの父親、想路(ソウジ)である。

「……親父。どうかしたのか?」

「おうよ、ソウト。それに、シクーも。……お前等2人は、もうすぐ旅立つ決心を固めたんだろ?」

 そう、実はシクーとソウト、近々ポケモントレーナーとしての修行の旅に出る予定なのだ。
 多くの子供は、シクー達ぐらいの歳になるとトレーナー修行の旅に出る。特に実力を伸ばす者は、ポケモンジムを制覇しポケモンリーグを本気で狙う人さえいるという。

「あぁ、俺もシクーもそのつもりだけど。それが、どうかしたのか?」

「実はな。お前等が旅立つ前に、記念として家族旅行に行こうという計画があるんだ」

「……いや、親父……」

 少々げんなり気味に、ソウトは言う。

「ん? 嬉しくないのか?」

「俺達もうすぐ旅するんだから、今更どっか旅行に行ってどうすんだよ。旅すりゃ、あっちこっち行く事になるんだし」

「そう、かたい事言うな♪ せっかくの機会じゃないか」

 どうやらソウジは、これをほぼ決定事項だと言いたいらしい。

「…………。で、親父は一体どこに行くつもりで、旅行って言ってるんだ? どうせなら、涼しいところがいいぜ」

「あぁ。その事なんだが、どうせ家族で行くならソウトの故郷へでも行こうかと思ってだな」

「余計、暑いトコじゃねーかッッ!!」

 と、ソウトが怒鳴った。
 それまで話を聞いていたシクーは、不思議そうにソウトに尋ねてみる。

「余計に暑いって、ソウトの故郷って何処なの?」

「オーレ地方っつーところだ。あの辺は砂漠地帯でな、一年中夏みたいなモンだぜ」

「……え゛」

 ソウトの話を聞き、シクーもちょっぴり嫌そうな表情を見せる。

「と言う訳でだな、シクーとソウト。明日出発の予定だから、今の内に準備しとけよ」

「いや待て、親父ッ! なんでそんな、唐突なんだよ!」

「何でって、お前等が旅立つ前に旅行に行くんだから、早くしないと時間がねぇだろ?」

「…………」

 かくして、反論の余地すら与えられず、オーレ地方行きが決定したのであった。

 

 

 

 その夜。
 月下の中、シクーは姉と2人で散歩をしていた。姉の名はミカン。以前、ジョウト地方アサギシティでジムリーダーをしていた経歴を持つ女性である。

「あのさ、姉ちゃん。ポケモントレーナーが旅する上で、気を付けなくっちゃいけない事って何かあるのかな?」

 シクーが、何気なくミカンに尋ねた。

「うふふっ♪ やっぱりシクーは、旅をするとなると少し不安になるのですか?」

「そりゃあ、初めての事だからさ。ポケモントレーナーとして、旅するだなんて」

「そうですね。最初は確かにそう思うかも知れませんけど、そのうち慣れてしまうものですよ。私が言いたいのは、とにかく体には気をつけてほしいという事だけです」

 優しく微笑みかけながら、ミカンはシクーに言う。
 ……そこへ、背後からゆっくり忍び寄る影の存在に、ミカンははっと気づく。

「!! 誰ですか!?」

「……え?」

 突然に口調を変えたミカンに、シクーは少し呆気にとられる。が、すぐさまその意味を悟り、シクーはミカンと共に後ろを振り向いた。そこには確かに、何者かの影が立っていた。しかも身長からして、シクーと歳の差も無さそうな少年である。

「驚かして、すみません。ミカンさん」

 現れた少年の黒い影が、そう言葉を発する。

「……何故、私の名前を?」

「いえ、僕は怪しい者じゃないですよ。って、思いっきり怪しいって思ってます? お2人共」

 シクーとミカンは、容赦なく頷いた。

「…………。ま、まぁ……しょうがないか……」

「ひょっとして……ちょっと、ショックだった?」

「ちょっとだけね、シクー君」

 少年はシクーの言葉に、そう返事をする。どうやらミカンのみならず、シクーの名前も知ってるらしい。そりゃ、怪しいと思われるのも無理ないが。その少年は、それなりに礼儀正しく挨拶をしてくる。

「とりあえず、こんばんは。ミカンさん、それにシクー君。僕の名前は照(ショウ)。今日のところは、本当に挨拶をする為に来ただけですので。もっとも、近い内にまたお会いするかも知れませんけどね」

「…………」

「では、今日はこの辺で」

「この辺でって、もう帰る訳ッ!?」

 一体何しに来たんだ、とでもツッコミを入れたそうに、シクーはショウに対し言った。

「今言った通り、今日は本当に挨拶をしに来ただけだからね。もうこんな時間だし、もっとゆっくり話がしたかったら、次の機会にまた喋らせてもらうよ。それじゃあアディオス、シクー君」

 ……そのまま、ショウは本当にシクーとミカンの前から去っていってしまう。

「な……何だったのでしょうね?」

「さぁ……?」

 呆然と立ったまま、シクーとミカンの抱いた疑問は、消える事が無かった。

 

 

 

「うふふっ。私好みのステキな男の子、見〜つけた♪」

「……は?」

 一方その頃、こちらでもまた、全く意味不明かつ不可思議な出会いが行われていた。

「(……な、なんか頭がぼーっとして……ここ、どこだ……?)」

「はじめまして。あなたの名前は?」

「俺……の名前……? ソウト……」

「私は菫(スミレ)。よろしくね♪」

 ウインクしながら、その少女はソウトに言った。

「……よ、よろしく……」

 寝ぼけた様子で、頭がぼーっとしているソウト。彼は無意識に、スミレの言葉を繰り返し口にしているらしい。
 そんなソウトを見て……スミレは、いかにも「しめしめ♪」と言いたげな表情で、こう話を続けた。

「ソウトって、私のタイプなのよね〜♪」

「……タイプ……?」

「ソウトは、私の事どう思う?」

「……どう……思う……」

「私の事、かわいい?」

「……かわいい……」

 何度も繰り返すが、今のソウトは頭がぼーっとしていて意識がほとんど無い。単に相手の言葉を、オウム返しの如く返しているに過ぎない。それをスミレも分かっているようだが、あえて分かってない素振り(?)で話を続けるのだった。

「本当に、私をかわいいって言ってくれるのね! きゃー、嬉しい〜♪」

「……うれ……しい……」

「じゃあ、ソウト。私と、付き合ってくれる?」

「……付き合って……くれる……」

「私と、付き合うのね?」

「……付き合う……」

「やった〜♪ じゃあ、私と……結婚……」

「……結婚……」

「……する?」

「……する……」

「きゃ〜♪ どうしよ〜♪」

 なんか唐突に話がとんでもない方向へ飛んだ(!)。哀れ、ソウトに自覚は無し。スミレもあまりにわざとらしく、ひたすら話を先に進める。もはや獲物ソウトに、逃れる術は無しか。

「約束だからね、ソウト。私達は、もう婚約者よ♪」

「……こんにゃく……」

「ガクっ。婚約よ、『こ・ん・や・く』! ほら、繰り返して!」

「……こ……ん……やく……」

「そうそう。それじゃ、また今度会いましょ♪ 次の時は、現実で……」

 

 

 

 そこで、ソウトの目が覚めた。

「……ん?」

 寝ぼけまなこをこすりながら、ソウトはムクリと布団から起き上がる。朝の日差しが、部屋へと差し込んでいるのが分かった。

「ふわぁ〜。なんか変な夢見た気がするけど、なんだったか覚えてないな……。まぁ、いっか……」

 何事も無かったように、ソウトは立ち上がって着替えをし始めた。もはや今見た夢の事など、どうでもいいようである。だが、これを軽く考えたのが命取り。その事実を、この時のソウトはまだ知らなかった。

 

 

 

 あ゛……もうこんな時間だッ。

「マイちゃん。そろそろ閉館の時間なんだけど、いいかしら?」

 私が時間に気づいた直後、館長のホノカさんに声をかけられた。
 しょうがないから、今日はここまで。私は本を戻すと、図書館を出て帰路につく。

 

 ……それにしても……
 シクー君の前に現れた、謎の少年ショウ。
 ソウト君の夢に現れた、謎の少女スミレ。

 一体……何者なんだろう? 明日、また続きを読むのが楽しみだな♪

 

 続く

 

 なんだか、のっけから意味不明な展開ですみません(汗)。この話は、アクジェネの第2部と第3部の間に展開されてる、番外編的な話です。シクーとソウトのもう1つの冒険物語、次回もお楽しみに♪