2nd「婚約者って何の事だ、オイ!?」

 

前回までのあらすじ:
 カントー地方グレンタウンに住む少年、シクーとソウト(彼等の冒険冒険物語はアクジェネが本編となってます)。
 突如、故郷へ里帰りしようと言い出した、ソウトの父親ソウジ。かくして急きょ、オーレ地方へと家族旅行が決まった訳だが……。その晩シクーとソウトは、謎めいた少年や少女と、不思議な出会いをするのであった。

 

「おはよう、マイちゃん。今日は早いわね」

「!」

 いつもの図書館に来ると、ホノカさんが声をかけてくれた。
 今日の私は、朝の開館時間にやって来た。ホノカさんへ挨拶を返してしてから、昨日と同じ本を取り、いつも座っている席へと腰をかける。

「…………」

 ……でも、昨日は気になるところで終わっちゃったのよね。シクー君の前に現れた、ショウって言う名前の男の子。それから、ソウト君の夢の中に出てきた、スミレって言う名前の女の子。一体、これからの話はどうなっていくんだろう……?

 

 

 

 カントー地方グレンタウン。
 その町に住むソウトの一家が、玄関先で集合していた。これから、家族旅行に出発する事になっているのである。行き先は、オーレ地方フェナスシティ。ソウトの生まれ故郷でもある場所だった。

「よ〜し、点呼!」

「家族旅行行く時に点呼を取る一家が、何処にいるんだ……親父」

 ちょっと呆れ顔をしたソウトが、父親ソウジに向かって言い放つ。
 その傍らで、ミカンとシクーの姉弟も会話をしている。

「それにしても、ソウトの生まれ故郷かぁ。姉ちゃん、一体どんなところかな?」

「オーレ地方フェナスシティは、水が沸き立つ美しい町だと聞きましたよ。楽しみですね、シクー」

 ……そして、一家のまとめ役(母親)が、みんなの前に立つ。

「それじゃあ船の時間もあるし、出発しましょう」

 

 

 

 ボー……! ボー……!
 その船は、音を立ててグレンの港を出港した。これより一家は、ひとまずカントー地方の首都(?)ヤマブキシティを目指す。そこの空港より、オーレ地方行きの飛行機に乗る予定なのだ。何しろオーレは、カントー地方から遥か遠くに離れた土地。飛行機を使う他に、行く手段は無い。

「ところでソウトの生まれ故郷って、何でまたそんなに遠い所なの?」

 潮の匂いが漂う中、船のデッキ上にいたシクーが、ソウトに質問をしていた。

「親父の出身地自体は、グレンタウンだぜ。ただ、親父がオーレ地方を旅をしてる時に、母ちゃんに出会ったらしくてな。結婚して、俺が産まれてしばらくは、そこで暮らしてたんだよ」

「ふ〜ん……」

「だからオーレ地方は、どっちかっつーと母ちゃんの実家がある訳だ。そんでもって、後に親父のかせいだポケモン大会の賞金をほぼ全てつぎこんで、グレンタウンに今の家を建てたらしいぞ。で、俺達家族はそこに引っ越してきた訳さ」

「ねぇ、ソウト。稼いだ賞金、本当に全部使っちゃった訳……?」

「……俺はそう聞いたぜ、シクー……。だったら、あんなバカでかい家建てずに、もうちょっと節約して普通サイズの一軒家でも建てりゃよかったのにな。もっともおかげで、ミカンさんやシクーが新たな家族の一員として住めるだけの家になってた訳だが」

「あははは、そうだね♪ ……あ、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるよ」

「おう」

 シクーはソウトを残し、船内へと向かって行った。
 ……1人残ったソウトは、少しの間ぼーっとして過ごす。

「さて……フェナスに行ったら、何するかな」

 そうしていると、ソウトの背後からそっと近づく者の気配が。ソウトもそれに気づくが、シクーだと思って話しかける。

「ん、シクーか? やけに早かったな」

「……私よ、ソウト♪」

 声は、女の子の物だった。そして彼女は、あろうことかソウトに背後から抱きついてくる。

「な゛ッ!!?」

 慌てふためくソウトは、じたばたしながら女の子の両腕をふりほどいた。そのまま振り向くと、そこに立っているのはソウトと同じ位の年齢である少女。見た感じ、結構かわいい顔立ちである。ソウトは少しドキっとするが、それにしたって唐突に後ろから抱きついてくるのはどうか……?

「(……あれ、気のせいか? この娘(こ)、どっかで会った記憶が……)」

「も〜う、照れちゃって♪ ソウトったら」

「!! 何っ!?」

 ソウトは、相手が自分の名を知っている事に驚いた。当然、すぐさまその事を少女に尋ねる。

「いや、オイ。何で俺の名前、知ってるんだよ? 俺、どっかで会ったか?」

「……覚えてないの?」

「わ、悪いけど……顔に見覚えはあるが、誰だったかは記憶にないんだ」

 頭をかきながら、ソウトは答える。
 すると少女は、再びソウトに抱きついてきた。ソウトは再びもがく。

「うふふっ♪」

「!!?」

 何しろソウトは、今まで同世代の女の子に抱きつかれた試しなど無い(!)。顔を真っ赤にして、再びじたばたし始めた。だが少女は、先程よりも力強く抱きしめてくる。今度は、そう簡単にはふりほどけない様子だ。

「私の名前はスミレ。忘れるなんて、酷いわ♪ あなたの婚約者じゃないの!」

「……はい〜ッッ!!?」

 ますますビックリしたソウトは、めいっぱいの力を用いて、スミレと名乗る少女の腕からどうにか逃れる。

「いや……ちょっと待て……。お前、今何っつった?」

「……婚約者」

「だぁ〜!! んなバカな話があるかッ!!」

 確かに、あまりにもスミレの言葉は突拍子もない。ちなみにソウトは、まだ12歳。どう考えても、スミレの言葉はおかしすぎる。それより何より、大体からしてソウトは、スミレが誰なのか知らないのだ。なのに、『婚約者』などという子供らしからぬ言葉を用いられたのだから……そりゃあ、驚愕に値する(!)。

「まぁ、覚えてなくっても無理ないわね。夢の中の事を、完全に覚えている人なんて数少ないもの」

「は? 夢?」

「何でもないわ、ソウト。また会いましょ♪」

 それだけ言って、スミレはさっさと立ち去った。あまりにも、数多くの謎を残したままで。

「い、一体……何だったんだ???」

「……おい、ソウト」

 シクーの押し殺したような声が、ふと後ろから聞こえてきたのは、そんな時だった。

「ん? シクー、戻ったか?」

「何だよ、今の女の子。やけに、イチャついてたじゃん」

「え゛」

 どうやら今の様子、偶然シクーにはバッチリ見られてしまったらしい。
 さすがに普段軽い性格のソウトも、ちょっぴり気まずそうな態度を見せる。

「い、いや……シクー……。今のはだな……」

「別に、言い訳なんてしなくていいよ。でもいいなぁ、彼女がいるなんてさ。僕も、羨ましいよ」

 それだけ言って、シクーはスタスタと歩いてどこかへ行ってしまう。「言い訳しなくていい」とは言うが、やはり半分は嫉妬の気持ちが入り交じっているようだ。

「って、オイ! 違うぞ、シクー!」

 ソウトはすかさず叫ぶが、今のシクーの耳には届いた様子は無い。かくしてソウトは1人、その場に残されてしまうのであった。

「……てゆーか、さっきの女……。婚約者って何の事だ、オイ!?」

 

 続く

 

 と言う訳で……ソウトの最後のセリフ=サブタイトル、としてみました(何)。

 

 今回なんか短めですね。なんと推敲(投稿前に見直しをして訂正等を施す事)も含めて、1時間もかからずに執筆してしまったので(汗)。あまりに急ぎすぎたような気もしますが、過ぎた事を気にしても仕方がないので、大目に見てください(コラコラ)。

 ……ところで……
 オーレ地方って、外国なんでしょうかね? 実はソウトの母親の実家がオーレ地方だというの、かなり成り行き任せで決まった設定なんです。が、もしオーレ地方が外国というなら、ソウトの母は外国人!? ソウトはハーフ!? う゛〜ん、イメージに合わん(オイ)。もっとも、外国に住んでる日本人とかだっているでしょうからね。あ、じゃあそういう事で♪ 思いっきり、行き当たりバッタリですな……。

 次回は、第3話「水に恵まれた町」。お楽しみに!