3rd「水に恵まれた町」
前回までのあらすじ:
ソウトの生まれ故郷であるオーレ地方フェナスシティに、一家で家族旅行しに行く事に。その途中、ソウトはスミレと名乗る少女と出会う。いきなり婚約者だなんて言ってきたスミレに、ソウトはひたすら混乱するばかりであった……(!)。
注意:
オーレ地方は外国(むしろアメリカ?)という説が濃厚ですが、この話の中ではシクーやソウトは、オーレ地方の人々と普通に話したりもします。……が、細かい事は気にしないでください(何)。
大抵の人は『砂漠』というと、辺り一面が砂だらけの世界を想像する事だろう。
……確かにココは、『砂漠』の地方。しかしその風景を見渡してみると、実際には砂地の上にゴツゴツした岩も数多く見られる。それは文字通り岩と呼べる大きさの物もあれば、山のように巨大な岩石もあり、谷のようになってる場所すら存在する。それはむしろ、砂だけの世界よりも殺風景に思える事だろう。野生ポケモンの姿など、どこにも見られない。
それが砂漠の土地、『オーレ地方』なのである。
オーレ地方フェナスシティ。
「なんだ。暑い地方だって聞いてたけど、案外ここは涼しいんじゃないの?」
その町は、あちこちから水が沸き立ち、人工の水路が町中に伸びている所だった。
シクーは到着したフェナスシティ内を見回して、正直な感想を述べる。
「……確かにシクーの言う通りだな。あれぇ、こんなに過ごしやすそうな所だっけか?」
「ソウト。お前が以前ココに住んでたのは、もう何年も昔だ。覚えて無くても、無理ないさ」
自分の故郷に驚くソウトに、父親ソウジが声をかけた。
「これならよかったじゃないか、ソウト。下手にカントー地方にいるよりも、水が豊かなこの町にいた方が、よっぽど涼めると思うよ」
「そ、そうだな……。よし、シクー! 早速、爺ちゃん達の家に行こうぜ」
「? 爺ちゃんって、ソウトの?」
確かにココは、ソウトの母親の実家もあるという事を言っていた。ソウトの両親の案内の元、一家はフェナスシティ内を歩いていく。やがて一件の家から2人の老人が出てくると、こちらへ向かってきた。
「おお! ソウト、待っておったぞ」
「おやまぁ、大きくなったねぇ〜」
どうやら、この2人がソウトの祖父と祖母らしい。
「おう、爺ちゃん! 婆ちゃん! 久しぶり♪」
成長した孫を見て、祖父母は笑顔で迎えた。つづいてソウトの両親も、口を開く。
「お父さん、お母さん。元気だった?」
「な〜に。わし等はまだまだ、娘に心配される程じゃないぞい。ソウジさんも、よく来なすったな。お変わり無い様子で」
「はははっ、子供が増えて賑やかになっただけですよ。……少しの間、お世話になります。お義父さん、お義母さん」
そして最後に、2人の老人はシクーとミカンに目をやる。
「……で、この2人が新しい家族の一員になったと言っていた、シクー君とミカンちゃんかぇ? なんだか本当に新しい孫が出来たみたいで、嬉しいねぇ」
「は、はじめまして……」
さすがに少し緊張気味に、シクーは挨拶をする。
「まぁ、そう構える事はないんじゃよ。もっとリラックスして、ゆっくりしていきなさい。もちろん、ミカンちゃんもな」
「あ、はい。シクー共々、よろしくお願いします」
……さて。
しばらく家で休憩をした後、シクーとソウト、それにミカンの3人は、改めてフェナスシティをまわってみる事にした。町を一歩出れば、それこそ殺風景な荒れ地が広がる中だというのに、フェナスシティ内は本当にすがすがしい空気でいっぱいである。
「ほんと、綺麗な所ですね。カントー地方でも、こんなに美しい所はそうそう無いですよ」
町のいたる所の水路を流れる水が、ある所では何本かが並んで流れ落ち、またある所では程よく水しぶきをあげ……。それらが生み出す、幻想的な情景。そしてそれをイメージして設計された、見事な作りの町。ミカンは心から、それらを堪能しているようだった。
「僕も、姉ちゃんと同じ事を思ったよ。それにカントーからは遥か遠くに離れた土地だって言うから、正直来る前は少し不安もあったりしたんだ。でも実際に来てみると、平和そうで落ち着いてる町だよね」
「まっ、仮にも俺の生まれ故郷だ。シクーやミカンさんに、そう言って貰えるのは嬉しいぜ」
3人はしばし、ゆったりと町中を見物してまわるのだった。
……ところがしばらく歩いた後に、どこからか女の子の声が聞こえてくる。
「キャー! 助けて〜!」
「!?」
何事かと思い、すぐさま声のした方へ顔を向ける一同。すると向こうの方から、女の子が1人こちらへ駆けてきてるのが見えた。彼女はソウトの方へやって来ると……そのまま、唐突に抱きつく!
「あ〜ん、ソウト〜! スミレちゃんピンチなの〜! 助けて〜♪」
「……お前かーッッ!!」
抱きついてきた少女スミレを、ソウトは必死に引きはがした。
「ソウト、彼女を自分の生まれ故郷にまで連れてきたの? なかなかやるね……」
「違うぞ、シクーっっ!! 大体お前、スミレとか言ったか? 一体、何者なんだお前は!!」
と、このソウトの発言が、墓穴を掘る事となる(?)。
「だ〜か〜ら〜♪ 何度も言った通り、ソウトの婚約者♪」
「違うだろー、明らかに!! てゆーか誤解を招く発言を、いつでもどこでも言うんじゃねぇ!! ある意味で、ルウ達よりもこえぇ!!」
しかしそんな、めおと漫才(!?)をしているのも束の間。すぐさま、スミレがやって来た方から、幾人かの男達がやって来た。
「コラ待て、そこのアマ!」
「よくも、俺等の仲間を!」
ゾロゾロとやって来たそいつ等は、あっという間にスミレも含めた4人を取り囲む。
「ねぇソウト、コイツ等に追われてるの。助けて♪」
「その前にスミレ。まずお前、何かやったのか?」
「私は被害者よ。ちょっとばかりガラの悪い男に絡まれたから、スリープのサイコキネシスを10発、20発程度かまして、反撃しただけだもん」
「……スミレ。それはお前、ちょっと正当防衛の度が過ぎてないか……?」
呆れ気味なソウトをよそに、取り囲んでいた男達が前に出てくる。
「チッ、面倒くせぇ。コイツ等まとめて、痛めつけてやろうぜ」
すると男達は、一斉に腰につけていたモンスターボールに手をかけ、ポケモンを繰り出してきた。
「行け、ドンメル♂! マグニチュードだ!」
ズゴゴゴゴゴッ! 突如発生した揺れが、シクーとソウト達を襲う。しかも、かなり高威力のマグニチュードが発生したらしく、大きな衝撃に見舞われた。
「うわぁ!!」
「クッ!!」
持っていた小さな荷物が落ちて、地面の震動に呑まれていき……ベキベキ!
「……へ?」
シクーとソウトは、冷や汗を垂らしてその音を聞く。すかさず荷物を拾い上げるが、2人が中身を見ていると、当たっていて欲しくない予想が当たっていた。
「……ポケモン図鑑が……ヒビ入ってる……」
「……俺も……」
どうやら先程の音は、ポケモン図鑑に強い負荷がかかって壊れた音らしい。
「っだぁ〜!! どうすんだよ。俺もシクーも、旅行から帰ったら旅立ちなんだぞ。そんな時に壊れるなんて……修理に出す手間がかかるじゃねぇか!!」
「って、コラ。そこのガキっ! 俺達に襲われてるってのに、悠長に荷物の心配してるなんてムカつくじゃねぇか!」
「うるせ〜!! 俺は今、一気に機嫌が悪くなった。覚悟しろ、オラぁ!!」
絵にするなら、頭部にデカイ血筋の怒りマークが浮き上がってるような、ソウトの表情。すかさずサンドを繰り出すと、速攻で攻撃を指示。次の瞬間、敵全体の頭上より、無数の岩石が降り注いだ。
「やれぇ、サンド! 岩石封じの連射だッ!」
ズドドドドド!!
「わ゛ぁ〜ッッ!!」
怒れるソウトの攻撃により、敵の大半が倒れる。
「メノクラゲ♀、毒針!」
「ハガネール♀、アイアンテール!」
続いてシクーとミカンも参戦し、残った敵達も殲滅されていった。
……やがて、とりあえず一通りの敵は片づけられる。
「ふぅ……。大体、片づいたな」
「そんなに強い奴等じゃなかったね、ソウト。……ん……あれ……?」
「? どうした、シクー」
そう声をかけるのが早いか否か、突然にシクーはその場に倒れた。
「何!? お、おい……う……」
続いてソウトも、急にまぶたが重たくなってくる。そうか、シクーは眠らされたのか……と、状況を理解した頃には、すでにソウトは夢の中。近くにいたスミレと共に、折り重なるように眠りについてしまった。
「(いけない、油断しきってました……私とした事が……!)」
とうとうミカンまでもが睡魔に襲われ、その場に崩れる。
4人全員が眠りについたのを確認してから、新たに1人の男が物影から現れた。
「ふっ……どうにか、パラセクトのキノコの胞子に引っかかってくれたようだな。あまりに強いんで、正直うまく行くかどうか心配ではあったが」
「た、助かったぜ。助けに来てくれたのか」
倒された男達が、よろよろと立ち上がりながら、助けに来た男に話す。
「まぁな。コイツ等は連れて行こうぜ。生意気にも刃向かってきたガキ達には、少しお仕置きをしてやらねばな」
かくしてシクー、ソウト、ミカン、スミレの4人は、眠らされたまま男達に担がれ、連れて行かれてしまった。
ところが、ただ1人……
「…………」
ただ1人、スミレだけは、薄目を開けて様子をうかがっていた。
唯一眠らせられていない存在には誰も気づかず、彼等は4人をとある場所まで運んで行く事となる。
続く
次回は、第4話「心と夢を食らう者」。お楽しみに!!