4th「心と夢を食らう者」

 

前回までのあらすじ:
 フェナスシティに到着したシクーとソウトは、突然スミレと遭遇。更にスミレを追ってきた、ガラの悪い数名の男達も現れ、そのまま戦闘へと突入。大体の敵を一掃できた3人だったが、いきなり全員が眠らされてしまう。……いや、誰にも気づかれずに薄目を開けるスミレを除いて。

 

「おーい、シクー。そっちの様子はどうだー?」

「『どうだー?』ったって、変化は無しだよ。ソウト」

「……そりゃそうだよなぁ。あ゛〜、なんで家族旅行に来た所で、こんな目に遭わなくちゃならないんだよ!」

 シクーとソウトの、壁越しに話す声が響く。

「オイコラ! 静かにしやがれ!」

 そしてすぐさま、見張りの男が2人に向かって怒鳴った。
 ……シクーとソウトは、隣同士の牢に入れられ、閉じこめられている。ミカンやスミレも含めた4人は、全員が1人1部屋ずつの牢に入れられている形だ。ポケモンも寝ている間に取り上げられ、ボールにロックをかけられた状態で牢の外にある机に置かれている。これでは、手の出しようがない。

「(でも、寝ている間にどこまで連れてこられたんだろう。姉ちゃんも油断してて気づいた時には牢に入れられてたって、さっき隣の壁の向こうから言ってたし。とにかく今は、助けが来るかチャンスが来るまで、大人しくしてるしかないだろうなぁ〜)」

 シクーの考え通り、今のところジタバタしても何とかなる状況ではない。こういう時は、じっとしていて体力を温存しておく事こそ大事なのだ。

 

 こちらも、同じ事を考えているのか?
 ある意味この事件の発端である(?)自称ソウトの婚約者スミレもまた、牢の中で1人じっとしていた。

「(あ〜あ。せっかくソウトを追ってココまで来たのに、何でこんな事にならなくっちゃいけないのよ。もっとも、逃げようと思えばいくらでもチャンスはあったけどさ。私には『眠らせる攻撃は効かない』から)」

 

 

 

 そして当然その頃……行方不明となったシクーやソウト、ミカンを探す、ソウジ達の姿があった。

「なんでも、ソウト達と同じ位の年齢の子供を数人連れて行った、怪しい奴等を見たっていう報告がありました。そいつ等は、北西の方角へ向かったんだとか」

「北西というと、アゲトビレッジの方じゃな。わし等は引き続きフェナス周辺を探すから、ソウジさんはアゲトへ向かってくれるかのぅ?」

「お義父さんも、無理はしないでください。必ずソウト達は、俺が見つけ出します」

「うむ……。アゲトビレッジは、徒歩で行ける距離ではない。レンタルバイクに乗って行きなさい。それにしても、ソウト達は無事じゃろうか。せっかく久々に来たと思ったら、こんな事になってしまうとは……」

 

 オーレ地方は、ゴツゴツした岩が転がる砂漠の地域。町を出れば、舗装された道など全く無く、また町と町との距離も大きい。普通に歩いて、別の町まで行けるようにはなってないのだ。そこでオーレ地方では、バイクと地図をレンタルさせてもらえる店が各地にある。
(実際のポケモンコロシアムのゲーム内には、レンタルなんてありません。主人公所有のバイク(?)を駆使して移動してますので……)

 

 ……かくしてソウジは、レンタルバイクを駆ってアゲトビレッジまでやって来た。

「まっ、あれでいてソウト達はタフだからな。無事だとは思うが、放っておくのも目覚めがわりぃ。にしても、本当にこっちに連れてかれたのか?」

 アゲトビレッジ。
 ここはオーレ地方中、もっとも緑に溢れる山村。フェナスシティのような人工的に水で美しくデザインされた町に対し、アゲトビレッジは大自然の中の村そのもの。もともとオーレ地方の北西端部は、この地域の中でも数少ない非砂漠地帯である。そこに作られたアゲトビレッジなる村は、カントーなどにある田舎町と、何ら変わりのない様相をしていた。ただ、山の中腹に作られただけあって、全体的に起伏の激しい村ではあるが。

「よう、そこのアンタ! この辺じゃ見かけない人だが、旅行者か?」

 そこへ、通りすがりのソウジに声をかけてくる者がいた。

「ん、まぁそうだが。実は、どっかに行っちまった息子達を探してるんだ。12歳の男の子が2人と、18歳の女の子が1人。この辺で、見かけなかったか?」

「さぁなぁ……。ただ、アゲトビレッジと言えば『聖なるほこら』が有名だ。ひょっとしたら息子さん達も、そこに行ったんじゃないか?」

「聖なるほこら?」

「あぁ。幻のポケモン:セレビィを祭ったほこらが、この村の奥にある。ちょうどそこの、滝が落ちているそばに洞窟があってな。そこを抜けていくと、聖なるほこらがあるんだ」

 ソウジに話す男は、村の中にあった滝の方を指さし説明した。

「何かを救おうとする心を持てば、運がよければ森の神セレビィの加護を得られるという伝説さえある。行ってみたらどうだ?」

「あ、あぁ……どうも」

 ソウジは男に一礼をし、言われた通り滝の方へと向かってみる。だが、もしソウト達がアゲトビレッジに来てるとすれば、それは誰かに連れ去られたからに他ならない。本当にソウト達が、聖なるほこらに行っている可能性などあるのだろうか?

「……う〜ん」

 心の奥底ではそう思いつつも、ソウジの足は自然と聖なるほこらへ向かっていった。

 

 

 

 滝壺のそばにある洞窟。
 その洞窟を少し進んで、抜けた先。
 ……数多くの木々の合間から日の光が漏れるように差し込む中で、神秘的な雰囲気をした聖なるほこらは、ひっそりとそこに存在しているのをソウジは見た。

「ほ〜う、これが聖なるほこらか。あのセレビィが出るって伝説は、本当なのかねぇ」

「本当ですよ……そこの、あなた」

「!」

 不意に、背後から人の声と気配がした。

「(な、何だ? 後ろから人が来ていたなんて、全然気づかなかったぞ!)」

 振り返ったソウジの目に入ったのは、1人の中年男性。そいつは、薄ら笑みを浮かべながら、ソウジに近づいてきた。

「私、新羅(シラギ)と申します。以後、お見知りおきを」

「あ、あぁ……。ところで、あんたは12歳位の男の子や、18歳位の女の子を見なかったか? 俺の子供達なんだが、ちょっと行方不明でな」

 シラギと名乗る男は、ニヤッとしながら更にソウジに近寄る。

「(……? 何だ、コイツ)」

「ククク……なるほど。息子と娘がいなくなって、探していると。しかしおたく、それならなんでこんな所にいるんです?」

「何でって、だから子供達を探しに……」

「嘘ですねぇ、そりゃ」

「何!?」

 シラギの言葉に、ソウジは怪訝そうな表情を浮かべた。

「シラギさん……だっけか? 俺は別に、嘘なんかついちゃいねぇぞ」

「それは、おたくが自覚してないだけでしょう」

「むっ……」

「おたくは、分かっているはずだ。行方不明の子供達は、恐らく人に連れ去られたのだと。連れ去られた子供が、こんな所にいる可能性は極めて薄いと。それなのに、おたくは何故ここに来てるんですか? セレビィのいる、聖なるほこらに」

「……何が言いたいんだ、シラギさん」

「その腰につけた、モンスターボールを見たところ、おたくもポケモントレーナーのはしくれ。ならば当然、セレビィという超レアな幻のポケモンには興味が沸きますよねぇ?」

「あぁ!? 何が言いたいと聞いてるんだ!!」

 さすがにソウジも、そこで怒鳴りだした。
 だが、シラギは口調を変えずに言葉を続ける。

「おたくは、個人の興味で聖なるほこらに来た。セレビィに、興味が沸いて。……そう、探すべき子供達を探さず、観光気分が優先してここへ来た。ココへ子供達を探しに来たなんてのは、単なる口実に過ぎない。そうなのでしょう?」

「……気に食わねぇ言い方だな。まるで俺が、俺の子供をぞんざいに扱ってるみてぇじゃねぇか」

「だって、そうでしょう? 子供がさらわれた可能性があるなら、まず子供を探す事を最優先にするのが親の務め。おたくは、それを怠ったんだ。自分の子供達より、幻のポケモン:セレビィを優先したんだ。あぁ、おたくの子供達はなんてかわいそう」

「いい加減にしやがれッッ!! 不愉快だ。俺は忙しいんでな、もう行くぞ!!」

 めいっぱいの大声を叫ぶソウジ。シラギが立ってそこに存在しているのを無視し、先程通った洞窟へ足を入れかける。だが……

「クックックッ……。何だかんだ言って焦りながら、怒鳴り散らす所を見ると、やっぱり図星なんじゃないですか? おたく、随分と冷たい親御さんなんですなぁ。たった1匹のポケモンの為だけに、もしかしたら一刻を争うのかも知れない子供さん達を見殺しにしたも同然じゃあないですか」

「ぐっ……てめぇッッ!!」

 さすがに、ソウジもキレてきた。怒りを露わに、シラギの方を振り返る。だが、その直後……ソウジの頭の中に、何かが入り込むような……大きな不快感と違和感が、一気に心の中へと入り込むような気がした。そして、ソウジはその場で足を折って座り込む。

「!!?」

「クックックッ……」

「(ぐああ!! な、なんだこれは……。まるで心の中が、食い破られてるような……!? シラギ……コイツは一体……ぐあああ!!)」

 ……そのまま、ソウジはうずくまって動かなくなってしまう。
 シラギは唇の両端をよりいっそう釣り上げて、スタスタ歩き始めた。

「ククッ。やはり感情の乱れた時こそが、一番の美味を味わえる瞬間ですなぁ。人の心と夢を食らうは、私にとってはこの上ない快楽。あなたの心、食わせていただきましたよ」

 その男……シラギは、ソウジを放置したまま聖なるほこらの前から去っていった。

 

 

 

「ぐはぁっっ!!」

 ズドーンッッ!!

「!! な、何だ!?」

 牢の中で寝そべっていたシクーは、いきなり聞こえた爆音に飛び起きる。そして直後に見たのは、この牢を監視していた男が気絶している姿。どうやら爆音と共に聞こえた声は、コイツの物だったらしい。とは言え、なんでまた気絶をしたのだろうか? この答えは、すぐに知る事となる。

「……やぁ、シクー君。どうやら無事みたいだね」

「え゛! き、君は確か……ショウ?」

「覚えてて嬉しいよ」

 現れたのは、オーレ地方に来る昨晩に現れた少年ショウ。何故かシクーとミカンの名を知っていたこのショウが、何故また今現れたのか。シクーの頭は、ますます混乱するばかりであった。

「とにかく、見張りは僕のポケモンが撃破した。シクー君、この隙に脱出するんだ。いつ、ゴロツキ達がここに戻ってくるかは分からないからね」

 状況はのみこめないが、どうやらショウはシクー達を助けてくれる様子。ここは色々考えている時間もないし、とりあえずシクーは頷いて答えた。

 

 

 

 ……私は、ハッと気が付いた。

 突然ピンチに見舞われたソウジさん。
 捕まってしまったシクー君達と、それを助けに来たショウ君。
 そして、相変わらず謎の多いスミレちゃん。

 のめりこんで読みふけっている内に、外は真っ暗だ!

「マイちゃん、閉館の時間よ。正確には、もう過ぎてるけど」

 ご、ごめんなさ〜い!!
 ……声をかけてきたホノカさんにそう答え、私はシクー君やソウト君の今後がとても気になりながらも、この本を元の場所に返して図書館を後にした。こりゃ明日も、朝一番でここに来なくっちゃなぁ。

 

 続く

 

 なかなかスピーディに書いてるだけあって、もう折り返し地点まで到達しました。相変わらず行き当たりバッタリなストーリー構成で、実は数話で終わる番外編の割には、最後までの大筋を考えてなかったりしました。とりあえずココまで来て、ようやく最終回の構想がぼんやりと浮かんできましたよ。問題が第5話と最終話。この2つは密が濃くなりそうで、1話に収まるかどうか結構不安です。

 とりあえず次回、第5話「禁じられし存在」も、お楽しみに!