「ソウト! 姉ちゃん!」

 ショウのおかげで牢を脱出したシクーが、両隣の牢へと向かう。突然のショウの爆撃にソウトも驚いていたようだが、無事に牢の外へと救出。ミカンも同様に助けて合流できた。これでシクー、ソウト、ミカンの3人は助かった訳だが……。

「ありゃ?」

 ソウトが妙な声をあげたので、ショウが不思議そうに尋ねる。

「どうかしたのかい、ソウト君?」

「つーか、むしろお前こそ誰? まぁ、それはいいとして……」

 いや、よくは無い気がするのだが……。
 ソウトが見ていたのは、ソウトの更に隣の牢。そこに入っていたハズの人物がおらず、ソウトは不思議がっていたのである。

「スミレが……牢の中にいないぞ???」

 

 

 

5th「禁じられし存在」

 

前回までのあらすじ:
 連れ去られたシクー、ソウト、ミカンと、スミレの4人。牢に閉じこめられてしまった彼等だったが、突然に現れたショウの爆撃によって敵はダウン。シクー達は無事、助け出された。一方で彼等を捜すソウジは、アゲトビレッジに来ていた。そこで遭遇したシラギと名乗る男に、心を食われてしまう……!?

 

「マイちゃん、おはよう。今日もよく来たわね」

 今日も私は、ホノカさんが館長を務める図書館にやってきた。挨拶してくれたホノカさんへ、私からも挨拶をして返すと、早速『ポケットモンスター・ジェネレーション』を手に取る。

「今日もゆっくりしていきなさい」

 ホノカさんに言われなくても、最初っからそのつもりなので♪
 ……さて、物語もいよいよ大詰めが近いみたい。今日中に全部読み切っちゃえるかな。私ははやる気持ちを抑えつつも、昨日の続きのページを開いた。この後にシクー君とソウト君を待ち受けるのは、一体どんな事だろう?

 

 

 

 ショウがシクー達の元へ現れる、少し前。スミレの元に、1人の男が現れていた。ポケモンのテレポートという技を応用して、突然にスミレの目の前に出現したのである。もっとも、スミレは冷静にその様子を見ているだけだったが。

「……パパ」

 現れた人物は、先程ソウジの前に現れていた『シラギ』と名乗る男。スミレの言葉は、明らかに彼に向けられていた。

「元気そうだな、スミレよ。だが、何故こんな所でじっとしているのだ? お前の力ならば、自力で脱出できるものを」

「パパこそ何やってるのよ、こんな所で。相変わらず獲物でも探してるっての?」

 スミレの問いに、笑い声を漏らしながらシラギは答える。

「それが我が一族である事の証だからな……ククク。そういえば先程、観光客を1人食ってきた。心なしか、この隣をさっき覗いた時にいた小僧に、似ていたような気がするがな」

「……! パパ、ソウトには手を出さないでよね」

「案ずるな。大事な娘が狙う獲物を、横取りしたりなどはせん。それよりスミレ、いつまでこんな所にいるつもりだ。私が外まで連れて行くから、一緒に来なさい」

「…………。そうね」

 

 

 

 それからしばらく後、シクー達はショウの助けで牢を脱出。外へと出ると、そこには一面の砂漠地帯が広がっていた。大きな岩石の壁にぽっかり空いた、1つの洞穴……そこからシクー達は出てきたのである。

「バイク……なのかな、コレ? いくつか、とめてあるね」

 シクーの言葉通り、バイクらしき乗り物がそこには数台並んでいた。どうやらシクー達を連れ去ったゴロツキ達が、使用しているものらしい。

「だったらコレ等、貰っていっちまおうぜ」

「え゛。ソウト、そんな事していいのかな?」

「だってシクー、徒歩で近くの町まで行けるか? 四方八方、砂漠地帯がずっと広がってるばかりだぜ? こいつは正当防衛ならぬ、正当盗難だ!」

「……んなのあるの……?」

 とはいえ、確かに他に方法は無い。わざわざゴロツキ達が帰ってくるのを待つのも、脱走する側としてはバカバカしいので、話はすぐ決まった。シクー、ソウト、ミカンの3人が、バイクに乗り込む。バイクと一口に言っても、よく知られている二輪車などとは大分違う。通常のバイクよりも遥かに大型で、超強力なターボエンジンを搭載した、オーレ地方ならではの特殊バイクである。

「ショウ君は、乗らないのですか?」

 1人、その場で立ったままでいるショウに、ミカンは声をかけた。

「いや、僕はここで一旦別れますよ。また会う事もあるかも知れませんけどね、ミカンさん」

「……ショウ君、あなたは何故このオーレ地方に? それに私やシクーの名を、あなたは知っていました。あなたは一体、何者なのですか? そして、あなたの目的は……?」

 ミカンの質問は、謎めいたショウの行動を見てれば当然抱くべき疑問だった。ショウはしばし黙ったままでいるが、やがてシクーの方へと顔を向ける。

「シクー君。君のお姉さんは、優しいかい?」

「へ?」

 虚をつかれたように、不意な質問を受けてシクーは目を丸くした。

「ま、まぁ……優しいよ、姉ちゃんは。でもショウ、それが一体?」

「僕にも、姉がいるんだね。でも、とても優しい姉を持っている君の事が、僕はちょっと羨ましく思った。先日、君に声をかけた理由は本当にそれだけさ。君達姉弟と、少しばかり話がしたかったんだよ。まぁ、名前を勝手に調べさせて貰った事については、悪かったと思っているけどね」

「ショウ……」

「だから本当に、深い意味は無いのさ。とにかく今回の所は、これでさらばだ。アディオス、シクー君」

 と、そう言い残してショウは去って行った。結局、不思議な雰囲気と謎を残したままだ。

「よく分からないが、あいつは俺達を助けてくれたんだから味方だよな? シクー」

「た、たぶん」

 

 

 

 とりあえず3人は、バイクに乗って最寄りの町村を目指した。シクーの得意なダウジングを使えば、目指すべき所がどこにあるかはすぐに分かり、彼等の乗ったバイクはまっすぐその方向へと走行。やがて、シクーが握るダウジングマシンの二対の棒が示す方角に、村は見えてきた。

 

 ……ほどなくして、3人は村へ到着。そこは先程ソウジが訪れた、アゲトビレッジだった。

「割とすぐ近くに人の住む村があって、よかったですね」

「ん? あっちで、何か騒ぎになってない?」

 ふとシクーが気づき、指をさした方向には滝が流れている所があった。たしかにその周辺から、ざわざわと人々の騒ぎ声がする。不思議に思いながらも、3人は騒ぎの聞こえてくる方へと向かう事に。……だが、そこで騒ぎの対象となっていたのは……。

「お、親父!」

 ソウトが、驚いて父親の名を呼んだ。そこには確かに、ソウトの父親ソウジの姿があったのである。だが、目が虚ろで反応はなく、まるで魂が抜かれたように座り込んだまま。どう見ても、明らかに異常をきたしているのが分かった。

「オイ、どうしたんだよ!! 何かあったのかッ!?」

「…………」

 ソウジからの反応は、やはり皆無。

「一体……これは、どうしてしまったのでしょうか?」

 ミカンも、不安げな面持ちで様子を見ていた。それはシクーや、騒ぎを聞いて集まっていた人々とて同じ事である。
 そんな中、群のようになっていた民衆達の間から、1人だけ前に出てきてソウジに歩み寄る者がいた。

「! あ、あんたは……?」

 寄ってきたのは、体格のよい大男。ソウトは多少警戒して大男に声を発したが、見た所こちらに危害を加えるような様子は見られなかった。大男はソウジをしばし眺めると、うなるような声でこう口にする。

「ううむ。これはやはり、あの者達の……?」

「ど、どういう事だ? あんた、親父をこんなんにした奴が誰なのか、見当がついてるのかよ?」

「…………。君の名は?」

 不意に大男が、ソウトに名前を尋ねた。

「名前? ソ、ソウトだけどよ……」

「ソウト君か。とりあえず君の父親を助ける事にしよう。幸いにも、たまたま知り合いに助ける為のアイテムを持つ者がいる。今から地図を渡すから、それに従って知り合いの元へ行くとよいだろう。先に電話して話をつけておくから、そのアイテムを貰ってくるといい」

「!! それで、親父は助かるのか?」

「あぁ。慌てる必要がある訳でもないが、早く元の状態に戻してあげるのがいいだろうからな」

 大男はうなずきながら、ソウトにそう教えた。しかしその大男に歩み寄り、声をかける者が1人……。ミカンである。

「ちょっと待ってくださいませんか? あなたは一体、何者です?」

「申し遅れたが、わしの名はギンザル。ここから南に行った所にパイラタウンと呼ばれる町があるのだが、そこの町長をしている者だ」

「はぁ……。それで、ギンザルさんはこの症状が一体何なのか、分かったという事なのですか?」

 ミカンの言う『この症状』とはもちろん、今のソウジの魂が抜けたような状態の事を指す。

「そうだ。これは、病などの類ではない。明らかに何者かが、故意に彼の精神を攻撃したものなのだ。そして、そんな事を成せる一族が、このオーレ地方には存在していた事がある。『禁じられし存在』としてな」

「禁じられし存在……!」

「うむ。即ち、人の『心と夢を食らう一族』。その生き残りが、この男の心を食らったとしか思えん」

 ギンザルと名乗る大男の話を聞いて、ソウトの頭にふと、何かがよぎる。

「(夢……?)」

 夢。その言葉から連想した存在とは、スミレの事であった。

「(スミレは確か、『夢』がどうとか言ってたし……いや、待て! それ以前にやっぱ俺、スミレに会う前から見た事があった気がする。まさか……夢の中で!?)」

 ギンザルの話と、スミレ……。よくよく考えてみれば、単にたまたま『夢』という単語が共通したにすぎず、即座にこの2つを結びつける事は早計だ。しかし、何故だろうか。ソウトは、どうしてもスミレと結びついた構図が頭から離れない。まるで、直感がソウトに伝えているかのようだ。

「それで、ギンザルさん。その、『心と夢を食らう一族』というのもまだ、どういうものなのか分からないのですが……。とりあえずギンザルさんの言う通り、この地図の示した所におられる人から、アイテムを貰ってくれば良い訳ですね?」

 一方でミカンは、ギンザルとの会話を続ける。

「あぁ。実はかつて、ポケモンの心を閉ざさせる事で、戦闘マシーンのように扱おうと企む組織があってな。何匹ものポケモンが被害にあったが、そうやって心に傷を負って閉ざしてしまったポケモンを救う際にも、そのアイテムは大きな効果をもたらしてくれた。精神に関する、それも人によって故意に与えられた症状であるなら、人であろうとも同様にそれで確実に治せるハズだ」

「……分かりました。早速、向かってみる事にします」

「アイテムを受け取ったら、この場所に戻ってきなさい。なかなか遠い場所だから、往復するまでに結構な時間がかかってしまうかも知れないがな。一応わしが彼の様子は見ておくから、その間に行ってくるといい」

「はい。シクー、ソウト君、行きましょう」

 ミカンの言葉に、シクーもソウトも頷いた。

 

 

 

 同じ頃、とあるゴロツキ集団がたむろしている場所があった。例の、シクーやソウト達をさらった者達である。彼等は酒場のような雰囲気のショップから外へと出てきた所で、仲間達と何か話をしている様子だった。

「何ィ! 牢を破って、脱走されただと?」

 眉をよせて、ゴロツキの1人が言葉を口にする。どうやらシクー達が脱走した事を、今この場で伝えられているようだ。

「は、はい。どうも、誰かが助けに来たらしくて……。ガキ共は全員、脱走した模様です」

「っカ〜、情けねぇな。まぁいい、放っておけ。どっちみち俺等は、別に人質とって身代金でも請求しようとしてた訳じゃあないんだ。ちょっとかっこわりぃってだけで終わりさ」

「(まさかバイクまで奪われた、とは言いづらいなぁ〜……)」

 報告する男がためらっている内に、話を聞いていた方の男が帰ろうとする。しかしその目の前に、不気味な男が立っていた。

「…………」

「あん? なんだ、このオッサンは。邪魔だ邪魔、とっととうせな!」

 不気味な男に、見下すような態度でゴロツキの男は言う。だが不気味な男は立ちふさがったまま、どこうとはしない。それどころかニヤッと笑みを浮かべると、全く臆す様子もなく口を開いた。

「ククク……最近の若造は、目上の者に対する口の利き方がなってないようですなぁ。この私……『心と夢を食らう一族』の末裔シラギに対してその態度、おたくら無知にも程がありすぎますねぇ。どうなったって知りませんよ? この私を怒らせるとね……!」

「はぁ〜? 何言ってんだ、このオッサン。おい、お前等。ちょっと痛めつけてやれ。俺等がどういう存在か、身に染み込ませて教えてやろうぜ!」

 ゴロツキ達は、数人でシラギ1人と取り囲んだ。普通に見れば、多勢に無勢とよべる状況である。だがシラギは、全く怖じ気づく様子など見せない。

「やれやれ。ケンカっ早いのも困りものですなぁ、おたくら。我々『心と夢を食らう一族』は、禁じられし存在。ではなぜ『禁じられし』なのか、分かりませんか?」

 シラギは、こう言葉を続けた。

「心を食らうという、危険な存在だからですよ……!」

 

 

 

 ……そして、それからしばらく後。
 シクー、ソウト、ミカンの3人が、地図を参考にして辿り着いた場所。それが、ココだった。

「町外れのスタンド。どうやらここで、間違い無いみたいだよ」

 オーレ地方の砂漠地帯の中、ぽつんと存在する機関車のような形の建物。それがこの、町外れのスタンドだった。と言っても実はここ、アゲトビレッジやパイラタウンからはかなり離れた場所にあって、むしろソウトの出身地である水の町フェナスシティに近い。
 一応この機関車型の建物の中は店になっており、雰囲気的には酒場に近いが飲み物としてはソフトドリンク等も扱っており、むしろ喫茶店という感覚に近い。たまに、オーレ地方としてはレアなアイテムが置かれてたりする事もあるんだとか何とか。

「お! お前達が、ギンザルの言ってた子達だな?」

 そこへ、建物の中から店のマスターが外に出てきた。

「連絡ならギンザルからすでに届いてるから、大体の事情なら分かってるぜ。これが、その例のアイテムなんだが……」

「って、うわ!」

「何ですか、一体……?」

 店のマスターの言葉を中断させたのは、シクーとミカンの声だった。彼等が、そんな声をあげたのには理由がある。この町外れのスタンド周辺に、何人もの男達が倒れているのを見たからだ。店から出てきたマスターも最初は気づかなかったが、シクー達の声ですぐに理解した。

「こ、こいつは一体……? うちの店の前で、一体何があったんだ。特に大きな音もしなかったハズだが?」

「てゆーか、シクー。それと、ミカンさんも。コイツ等の顔、見てみろよ」

 ソウトに言われてシクーとミカンは、倒れている男達の顔を見ていった。

「!! この方々は全員、私達をさらったあのゴロツキ達ではありませんか」

「そしてみんな、目がうつろで魂が抜けたみたいになってる……。まさか、同一犯!?」

「多分お前の言う通りだぜ、シクー。親父をやった奴が、ここでも派手にやらかしたって訳だ」

 この状況に、しばし呆然とする一同。やがてハッと何かを思い立ったのは、スタンドのマスター。何か、アイテムをこちらへ差し出してくる。

「と、とにかく、これを持っていくといい。『時の笛』だ」

「時の笛……? これが、ギンザルさんの言っていたアイテム?」

「アゲトビレッジにあるセレビィの祠で、こいつを吹くんだ。幻のポケモン:セレビィが力を貸してくれるって話だぜ。ギンザルから話は聞いたかも知れないが、以前ポケモンの心を閉ざそうとする連中がいてな。奴等の被害に遭ったポケモンも、この笛でたちどころに回復したって噂だ。
 時の笛は本来貴重品で、しかも1度セレビィを呼ぶと笛は自然に崩れ去ってしまうと言う伝説のある代物。手放すのは正直名残惜しいが、こいつがあれば親父さんを元通りにできるって事だからな。まぁ、遠慮せずに受け取りな」

 マスターは時の笛を、ソウトへ手渡した。

「……ありがとよ。よし、急いでまたアゲトビレッジに戻ろうぜ」

 ところが、その時……!

「……ソウト……」

「何!?」

 不意に聞こえた声に、ソウトは後ろを振り返った。しかし、誰の姿もそこにはない。

「ソウト、どうかした?」

 不思議そうな面持ちで、シクーが尋ねてくる。

「い、いや……何でも」

 そう答えはするソウト。しかし、一瞬幻聴かと思ったりもしたのだが、どうしても今の声が不思議と気になった。明らかに、聞き覚えのある声だったからだ。

「(間違いない。今、俺の名を呼んだ声は……スミレ……!)」

 

 続く

 

 残す所、あと2話となりました。ここで、ちょっと解説を入れます。

 

・町外れのスタンド
 ポケモンコロシアムのゲーム内では、一番最初に訪れるのがココです。ポケジェネでは、割と後半にやって来ましたが。ここのマスターは、オーレ地方で唯一モンスターボールを売ってくれます。実際のゲームでは、時の笛は置いてないのであしからず。ただオーレ地方では、モンスターボールも珍しいらしいのでね……。

 

・ポケモンの心を閉ざして戦闘マシーン化を企む組織
 ポケコロやった人なら分かってるでしょうが、シャドー団の事です。ダークポケモンを生み出し、戦わせていた組織ですね。もっともポケジェネ内では、すでにシャドー団は壊滅してます。作中には登場しませんので注意。

 

・時の笛
 シャドー団によってダークポケモンとされてしまったポケモンは、次第に心の扉を開かせていき、最後にアゲトビレッジのセレビィのほこらで浄化(?)。普通のポケモンに戻してあげられます。心の扉を開くには、一緒に旅したり戦ったりなどしなければならず、時間がかかります。しかし時の笛は、使えば一発でダークポケモンから元のポケモンに戻るのです。今回の物語では、ソウジを元に戻す為に使う事となります。

 

 次回は、第6話「ラルガタワー」。ぜひ、お楽しみに。