1st「ナースエイドの少女」

 

 ポケモンセンター。
 ここには毎日、多くの人達が利用しにやってくる。
 それ故、ここは年中無休の24時間営業だ。

「はい、次の人どうぞ♪」

 看護婦のような姿をした女性の明るい声に呼ばれ……1人1人、自分のポケモン達の入ったモンスターボールを順番に差し出す。そして女性が預かったボールを特別な機械にセットしスイッチを入れると、しばらく機械音が周囲に響いた後に、ボールに入っていたポケモン達の怪我が完治するのである。

「はい、みんな元気になりましたよ。それでは、預かったポケモンをお返ししますね。」

「ありがとうございます。うわぁ、本当にポケモンの傷が治ってる。凄いや!」

 ポケモンの持ち主である少年のトレーナーが、返してもらったボールの中にいるポケモンを見て感嘆の声をあげた。

「うふふ、そんなに驚かれるとは思わなかったわ。」

 看護婦姿の女性は、口に手を当ててクスクス笑う。

「ひょっとして、ポケモンセンターを利用するのは初めてなの?」

「あ、はい……実はポケモントレーナーになったばかりなんです。」

「それなら、珍しく感じても無理ないわね。」

「そうなんですよ。僕はてっきり、もっと包帯ぐるぐるミイラ状態になって帰って来るのかと思ってましたし(!!)。僕のポケモンはニックネームを『ミイ』ってつけてたんですけど、『ミイラ〜』に改名しなきゃいけないかなぁと、さっきっから考えてた所でしたし。」

「そ、それはそれで大変そうね……。」

「へへへへっ♪」

 笑い事じゃないってば……。

「そう。でも、いくらすぐ傷が治るからって、あまりポケモン達に無茶させないよう気をつけてね。」

「それは分かってますよ。だけど、本当にあっという間にポケモンの傷が完治しちゃうんですね。」

「大抵のケガなら、ね。普通にポケモンバトルをやって受けた傷程度なら、すぐにでも直せちゃうわ。まぁ、それというのもセンターに設置されてる、このポケモンの傷を治す機械のおかげなんだけどね。」

 このポケモンセンターは、基本的に必要な経費や従業員の給料は、国から支給されている。もちろん回復機の費用・維持費も同様だ。故にポケモンセンターは人からお金を取らず、基本的には無料でサービスを行ってくれる。これは、子供でも簡単に利用できる為のシステムなのだ。

 

 

 

「はい、次の人どうぞ♪」

 ポケモンセンターの受付をする看護婦姿の女性が、次の人を呼ぶ。

「お! 次は俺の番だな。」

 次もまた、男の子のポケモントレーナーだった。年齢は、11〜12歳ぐらいだろう。ところが、その時。……トゥルルルル!

「あら、電話だわ。」

 ポケモンセンターに備え付けてある電話が、鳴り始めたのである。すると看護婦姿の女性は、少し離れた所にいた女の子を呼んだ。

「ねえー! ちょっと電話に出るから、受付をお願いできるかしら?」

「あ、はい。今行きます♪」

 少年のポケモントレーナーと、ほぼ同じ位の歳である女の子が呼ばれ、そこへやってきた。彼女もまた、子供サイズの看護婦の服を着用している。

「(わっ……メチャクチャかわいい子が来た。こんな子、島にはいないぜ!?)」

 その少女に、思わず少年のトレーナーは見とれてしまった。そんな事にも気づかず、看護婦姿の少女は明るい声で丁寧に話す。

「それでは、ポケモンをお預かりします……あの、よろしいですか?」

 ぼーっとしてる少年の顔をうかがいながら、女の子は尋ねた。少年もそれに気づき、慌ててポケモンの入ったボールを渡す。

「あ、あぁ!! えーっと、ちょっと待っててくれ。」

 慌てて少年がボールを渡すと、女の子はすぐに手際よく機械にボールをセットしていく。

「では、少々お待ちください。じきにポケモンの回復が終わりますから♪」

「お、おう……。えっと、君もこのポケモンセンターで働いてるのか?」

「いえ、働いてるというか……私は、ボランティアでナースエイドをしてるんですの。」

「ナースエイド?」

 少年が首をかしげて尋ねる。

「看護婦助手と言いますか……つまり、ここの仕事を助手みたいな形で手伝わせてもらっているのですよ。ちょうど、人手不足だったようなので。ここは私が住む町ですし、何かお役に立てる事があればと思って、始めさせていただいたのです。」

「へぇ、なんか偉いんだな。」

「いえいえ、そんな事は……あ! もう回復が完了したみたいですわ。」

 機械からポケモンの入ったモンスターボールを取り出し、少年に返す。

「それでは、どうぞ。」

「ありがとうな。また来るよ!」

「何が『また来るよ』、よ!?」

 突然、また別の女の子の声が、少年の後ろから聞こえてきた。それはもう鋭く突き刺さるような勢いの声で、少年は思いっきりビクついた。

「え゛……お前、何でココに?」

 恐る恐る後ろを向きながら、少年が言う。

「私がココにいちゃ、悪いっていうの? 大体アンタのお使いに私も付き添って、わざわざグレン島からクチバシティまで一緒に来てあげたのよ? なのに勝手にどこか行っちゃうし、ポケモンセンターの女の子にデレーってしてるし。」

「いや、俺は町の奴にポケモンバトルを挑まれたから、仕方なくバトルをしに広場に行ってただけで、そこでポケモンがケガしたからポケモンセンターに来ただけでな……。それにお使いだって、母さんに頼まれた訳で俺も来たくて来た訳じゃない。第一、勝手についてきたのはそっちだろ?」

「へぇ〜……なるほど。アンタの態度、十分に分かったわ。いい度胸ね♪」

「え゛。」

 少女の目つきが一気に冷たくなり、少年は思わず後ずさり。そして、すぐさま言い訳を始めた。

「いや、その……か、勝手にいなくなった事は謝るって! けどな、ここの女の子に見とれてた訳じゃないぞ。ただあまりに可愛い女の子を見つけたから、帰ったら島の友達にも教えてやろうと思ってだな……。」

「それ、言い訳してるつもり? ちょっとこっち来なさい、ソウト!! 話は後で、たっぷり聞いてあげるから!!」

「わ゛ー!! ちょ、ちょっと待て!! マジ勘弁!! マドカ、落ち着けって……わ゛ー!!」

 こうして彼は引きずられて、ポケモンセンターを後にするのだった。

「では、またご利用くださいませ♪」

 そんな恐ろしい(?)状況を目の当たりにしたのにも関わらず、ナースエイドの女の子は至って冷静にそう言った。というか、恐ろしい状況だと分かってないだけなのかも……。

 

 

 

 ……やがて、さっき電話に出に行ったセンター受付をしていた看護婦の女性も、そこへ戻ってきた。

「遅くなってごめんなさい、電話が長引いちゃって。」

「いえ。」

 全く気にしてる様子もなく、ナースエイドの女の子は言った。

「じゃあ、もう人が来るピークの時間も過ぎた事だし、今日は帰ってもいいわよ。お疲れ様、ナツキちゃん。」

「分かりましたわ。では、また明日。」

 那月(ナツキ)……それがこの、お手伝いでナースエイドを務める、お嬢様口調を話す美少女の名前である。

 

 続く

 

 『ナースエイド』って言うのは、看護婦の手伝いをする人の事を指す……らしいです(何)。なんとなく調べたら乗ってた言葉なので、それを今回の小説のタイトル&ネタに採用(オイ)。それでは、第2章も是非お楽しみに♪