2nd「急患」

 

前回までのあらすじ:
 クチバシティのポケモンセンターで、ナースエイドとして手伝いをしている少女ナツキ。彼女はとても可愛い外見をしていて、初めて訪れた少年も思わず見とれるほどだった(何)。

 

 クチバシティに住む少女ナツキは最近、毎日のようにクチバのポケモンセンターへ手伝いをしに通っていた。
 ここには毎日、沢山の傷ついたポケモンが連れられて来る。もっとも、それは大抵機械ですぐ治る程度の傷しか負っていないポケモンばかりだが。

「はい、これでもう大丈夫ですよ。」

 センターの受付をする看護婦の女性が、傷を治す為に預かったポケモンの機械での治療を終えて、持ち主に手渡す。

「それでは、次の人どうぞ。」

 普段の作業は、この繰り返し。一見ヒマそうな様子ではあるが、そんな中でもナツキは自ら進んで一生懸命に手伝いの仕事をこなしていた。

「あの〜、これはどこへ運べばよろしいですか?」

 ナツキが、看護婦の女性に尋ねる。

「あぁ、それは向こうの部屋へ運んでくれるかしら、ナツキちゃん。」

「分かりましたわ♪」

 ニッコリ微笑んで、ナツキは言われたとおりの作業をこなしていった。

 

 

 

 ……やがて、休憩時間になる。ナツキは一緒に働いていた看護婦の女性と一緒に、昼食を取る事になった。もちろんこの間も、別の看護婦の女性が交代して仕事をしてくれているのだ。

「それにしても、ナツキちゃんは偉いわね。」

 ナツキと一緒に働いている看護婦の女性がそう言い、ナツキは意外そうな顔で聞き返す。

「え……私が、ですか?」

「だってナツキちゃん、自分の意思で自ら進んでポケモンセンターの手伝いとして、ナースエイドになりに来たでしょ? しかも、ボランティア同然で。」

「は、はい。」

「それって、十分に偉い事だと私は思うわ。ナツキちゃんも、少しくらい自覚してもいいんじゃないの?」

「そうですか……? 私はただポケモンの事について詳しい知識を持ちたくて、ポケモンの体を治すポケモンセンターのような所で働いてみたら、少しは色々な事を知る事ができると思っただけですわ。偉いだなんて、そんな……」

「まぁ、いずれにしても私達はナツキちゃんのおかげで凄く助かってるのよ。ナツキちゃんさえよければ、これからも宜しくね。」

「……はい、分かりましたわ♪」

 

 

 

 ……ところで、ナツキがポケモンセンターで働き始めてからというもの、センターの利用者が急増した。理由は……

「また、凄い行列ができちゃってるわね(汗)。」

 看護婦の女性が見る目の前に、ポケモントレーナーの男の子達の行列ができていた。
 ナツキは、クチバシティの町中でも評判になってるほどの美少女。色白の肌で、とてもかわいらしい顔をしていて、子供ながらにスタイル抜群。しかも性格も優しくおっとりしたタイプで、自分がここまで評判のある美少女なのに常に謙虚で、嫌味っぽくなる所は1つもない。男の子にはもちろん、女の子にもかわいいと人気があった。

「お待たせしました、準備が手間取っちゃって……って、また今日は随分と行列ができてますわね。」

 そんな人気の張本人であるナツキが、そこへやって来る。彼女は、この行列が自分のせいだとは全く自覚が無い。

「ナツキちゃん、今日は特に忙しくなりそうね。」

「そ、そうですわね。どうしたのでしょうか、一体?」

「……。本当に自覚無いのね。」

 無邪気な様子のナツキに、一緒に働く看護婦の女性は思わず苦笑い。

「(み〜んな、ナツキちゃんに会いに来てるのよね。今まではポケモンのHPがギリギリになるまでポケモンセンターに来なかった子達も、ちょっとのダメージですぐにポケモンセンターに来るようになったみたいだし。まぁ、ケガは早期治療をするに越した事はないから、それはそれでいい事なんだけれど。)」

 しかし、ナツキはそんな事など全く分かっていない。そこで看護婦の女性は、1つだけナツキに忠告する事にした。

「ナツキちゃん。」

「はい。何でしょうか?」

「くれぐれも、変な男には気をつけなさいね(爆)。」

「は、はぁ……???」

 きょとんとした表情で、ナツキは首をかしげる。看護婦の女性はナツキに対して心配事はほとんど無かったが、唯一不安なのがそれだった……。

「よく分からないですけど……分かりましたわ。」

「そ、そう……。」

「では、早速仕事を始めますわね♪」

「えぇ、お願いね。」

 いつもと変わらぬ調子のナツキを見ていて、看護婦の女性は再び苦笑い。そして、こう思った。

「(ほんとナツキちゃんは無邪気でいい子だけど、どこかポケ〜っとしてる所があるから、妙な奴にちょっかい出されないよう気をつけてほしいわね。)」

 事実、看護婦姿になってナースエイドとして働くナツキの様を、行列で並ぶ男の子トレーナー達はほとんどがデレ〜っとした表情で彼女を見つめている。今のナツキは正に『白衣の天使』……もとい、『白衣の女神』だった(何)。

 

 

 

 それから約1〜2時間ほど、ナツキと看護婦の女性は2人でポケモンセンターの仕事をし続けた。

「あ、ナツキちゃん。悪いけど人が少なくなってきたから、ちょっとだけ1人で仕事をしててくれる?」

「え、私1人でですか……?」

「用があって、どうしても出かけなくちゃならないの。できるだけすぐ帰ってくるから、お願いできないかしら?」

 ナツキはこの頼みに、全く嫌な顔をする様子も無く承諾した。

「分かりましたわ。」

「ごめんね、何かあったら電話で連絡をちょうだい。と言っても、出かけるのは10分程度だけれど。」

「はい♪」

 こうして、ナツキはしばらく1人で仕事をする事となった。ところが、看護婦の女性が出かけてから、ほんの数分後……。

「あら?」

 ドタドタと、荒っぽい足音が聞こえてきた。その直後、体中どろだらけの少年が飛び込んでくる。

「ハァハァ……た、助けて……!!」

「ど、どうしたんですか!?」

 その尋常ならない様子に、さすがにナツキも驚く。彼の腕の中には、あちこちに傷を負って、ぐったりとした1匹のオオタチ♂の姿があった。それがかなりの重傷だった事は、誰が見ても一目で分かる。

「お願いだから……僕のポケモンを……早く……。」

「は、はい。では、早くこちらへ!」

 ナツキはすぐにオオタチをボールに戻してもらい、そのボールを回復機にセットした。そしてスイッチを入れてみるのだが、しかし傷が治る様子は無かった。

「そんな、どうして!?」

 ナツキの顔はだんだん青ざめていき、ボールの中にいるオオタチの様子を見つめ続ける。しかし、いくら機械にかけても回復しない。

「オオタチ……しっかりしてくれ……。あ、あの……看護婦さん……。」

「え? は、はい!?」

 不安げな表情で、少年はナツキに言う。ナツキは一瞬ビクっとして、返事をした。

「看護婦さん……僕のオオタチ……治るんですか……ハァハァ……。」

「機械じゃ全く治る様子もないですし、ひょっとしたら機械じゃ治せない傷なのかも知れませんわ!」

「えぇ!? そ……そんな……。じゃあ……ハァハァ……別の方法で早く……。」

「そ、そう言われても……。」

 ナツキは医療についての専門知識など持っていない。しかも今ここにいるのは、彼女1人だけだった。ナツキは大きな不安と、そして恐怖を感じてしまう。

「私、どうすれば……どうすれば……。」

 そうつぶやいたところで、無情にも返事はどこからも返ってくるはずが無かった。

 

 続く