3rd「決心」

 

前回までのあらすじ:
 ポケモンセンターの看護婦助手、ナースエイドとして働く11〜12歳程度の美少女である、ナツキ。彼女が働き始めた事で客(?)は倍増していた……。ある日、ポケモンセンターの看護婦が不在でナツキが1人仕事をしている時、急患のポケモンが運ばれてくる。傷の度合いからして機械だけでは到底治せそうにないポケモンに、ナツキは戸惑うしかなかった。

 

「しばらく入院が必要だけど、もう大丈夫よ。」

「はい、ありがとうございました。」

 頭を下げてお礼をいう少年、そして彼の前に立っているのは1人の看護婦。その様子を、少し離れた所から見つめる少女の姿があった。ナツキである。

「じゃあ、また明日来ます。入院したのは僕のオオタチなんだから、トレーナーがちゃんとお見舞いに来なくちゃいけないだろうし。」

「そうね。いつでも、時間がある時にいらっしゃい。」

 看護婦にそう言われ、少年は今日の所は帰る事にしたようだった。
 ポケモンセンターの出口へ向かう途中、少年は椅子に座っているナツキの目の前を通り過ぎる。少年はナツキに対しても、微笑みかけながら頭を下げた。そして、そのまま外へ出て行くのだった。

「ハァ……。」

 その様子を見届けた後、ナツキは思わずため息をついてしまった。そこへ、看護婦がそっと近づく。

「落ち込んでちゃダメよ、ナツキちゃん。」

 看護婦は優しくナツキに声をかけるが、彼女の曇った表情は晴れない。

「でも、私……何の役にも立てませんでしたわ。酷い怪我のオオタチが運ばれてきて、私はどうする事も……。」

「ナツキちゃん……。」

 看護婦は、そのままナツキの隣に座った。

「私の方こそ、ごめんなさいね。ナツキちゃんを1人残して出て行っちゃって、不安だったでしょ?」

「はい……。でも、すぐに帰ってきてくれて助かりましたわ。」

 ナツキが急患のオオタチを預かった後、すぐに看護婦が帰ってきてくれて、オオタチの治療をしてくれた。簡単な怪我は機械を使って治せても、酷い怪我となると人の手でしか治せないのだ。結果、オオタチは入院する事にこそなったが命に別状はなかった。ただ、ナツキは何1つ手伝う事が出来ずにいたのである。

「……あの……。」

 しばらく無言が続いたが、ナツキはふと口を開く。

「……え、何?」

 看護婦はナツキの小さな小さな声に気づいて、隣に座るナツキの方を向いた。

「……。」

「……? ナツキちゃん、どうしたの?」

「ごめんなさい……私、しばらく仕事休んでもいいですか?」

「え!?」

 ナツキの言葉に少々ビックリする看護婦。ナツキがそこまで落ち込んでしまったのかと思い、看護婦は慌てて言葉を返す。

「ナ、ナツキちゃん! そんな、1人で責任感じちゃダメよ。あのオオタチだって何とか無事だったんだし、今回の責任はむしろ私の方にあるんだから。そこまで落ち込んで、仕事を止めちゃおうなんて考えなくても……。」

「そ、そうじゃないんです。」

「え?」

「……。」

「……ナツキちゃん?」

「そうじゃなくって……私は、もうちょっと勉強した方がいいかなって思ったんです。このまま止めて終わりにするなんて、もっと無責任である事は私も分かってますわ。だから、ちょっとだけ時間が欲しいんです。その、上手く言えませんけど……もう今回みたいな事にはならないよう頑張ってみたいんです。だから……」

 ナツキの言いたい事が何となく分かった看護婦は、優しく微笑んでみせた。

「分かったわ、ナツキちゃん。元々、ナツキちゃんはボランティア同然でナースエイドとして働きに来てもらってたんだから、私達は今までとても助かってたのよ。そんなナツキちゃんが新しい決心をしたのなら、それを止める理由も権利も私には無いわよ。」

「……。」

「だから、ナツキちゃん。頑張ってらっしゃい! また戻ってくるのを待ってるから。」

 看護婦の優しい言葉に、ナツキは思わず涙ぐんでしまう。それでもナツキは看護婦に笑って見せて、お礼を言った。

「はい……ありがとうございます!」

 

 

 

 ……数日後。とある図書館にて。

「あら、ナツキちゃん?」

 ポケモンセンターの看護婦は、今日は私服姿でそこにいた。そして、椅子に座って何かの本を読んでるナツキの姿を発見する。

「……あ、こんにちは。」

 声をかけられたナツキは、すぐに挨拶をした。

「ナツキちゃん……ひょっとして今、勉強してたの?」

「は、はい。とりあえず図書館に来て、ポケモンの体についての本を読んでみたんですけど……。」

「それで、調子はどう?」

「……サッパリですわ……。」

 ナツキはガックリした態度で、答えた。

「あらら……。まぁ、こういうのは難しい事が多すぎるもの。いきなりじゃ無理ないわ。」

「やっぱり甘すぎますわよね。ちょっと勉強しただけで一人前になれるなら、誰も苦労はしませんし……。」

「それはそうだけど、まずは頑張ろうとする意思が重要なのよ。その点では、ナツキちゃんは合格だわ。」

「はぁ……。」

「ナツキちゃんは、将来ポケモンの看護婦になりたいの?」

「そこまでは自分でも分からないですけど、ただ……少なくとも、この前みたいな事にはなりたくないって思ったんです。とにかく、その一心で図書館へ勉強しに来てみましたわ。でも、元々私も頭がいい方じゃないので、難しい知識の勉強とかになると全然なんです……。」

「そっか。まぁ、いきなり将来の事とかと結び付けられても困るわよね。」

「ご、ごめんなさい……。」

「いいのよ。それじゃあ、私がもっと易しい本を貸してあげるわよ。」

「え、本当ですか? お願いしますわ!!」

 ナツキの表情に、ちょっぴり明るさが戻った。それを見て、思わず看護婦も微笑む。

「うふふ♪ じゃあ、ナツキちゃん。今から私の家に来る?」

「はい、すみません。ありがとうございます♪」

 看護婦の好意に、ナツキはペコリとお辞儀をした。すると看護婦は、思い出したようにもう1つ、ある事を告げる。

「あ、そうだわ。ナツキちゃんに1つ、いいお知らせがあるの。例のオオタチね、今日退院したのよ。」

「本当ですか? よかったですわ!」

「えぇ。トレーナーの男の子、ナツキちゃんにもお礼を言ってたわよ。」

「……あの、そう言えば気になってた事があるんですけど。オオタチの怪我、一体何によるものだったんですか?」

 ナツキは、ふと思った事を看護婦に質問してみた。

「え? さ、さぁ……。」

「そうですか。いえ、普通のポケモンバトルでは、なかなかあそこまでの怪我を負ったりしないような気がしましたので……。」

 言われてみれば確かにそうだと、看護婦はその時気づいた。あの時はナツキの事が心配だったので、そっちの方にまでは気がまわっておらず、結局トレーナーの男の子にも聞き忘れてしまっていた。が、冷静に考えてみると機械で治せない程度の怪我を負う事は、普通では滅多にない。あるとすれば、何かの事故にまきこまれたからか、もしくは……。

 

 続く

 

 結局、ナツキはオオタチには何も出来なかったようです。まぁ、現実はなかなか厳しいという事で(何)。それでもナツキは、このように頑張ってます。という訳で、続きもお楽しみに!(謎)