6th「非道なトレーナー達」
前回までのあらすじ:
クチバシティのポケモンセンターに看護助手(ナースエイド)としてボランティア的に働いていた、美少女ナツキ。そんな中で、ポケモンが酷い怪我を負ってポケモンセンターに担ぎ込まれる出来事が多発。ナツキは不安を覚えるが、自分の成すべき仕事も懸命にこなすのだった。
先日、ポケモンセンターに運ばれてきた重傷のポポッコも何とか退院。ポポッコのトレーナーである女の子は、ナツキやセンターの人達にお礼を言って、旅を再開したらしい。その様子を、ナツキ達が見送る。
「今度も無事に終わって、よかったですわ♪」
すっかり元気を取り戻したナツキは、ニッコリ微笑み言った。その、あまりに可愛らしい彼女の笑顔に、通りすがりの周囲の男の子達は目が釘付けになる……。
「でも、気になるわね。」
と、センターの看護婦が呟く。
「この前のオオタチにしても、今回のポポッコにしても、通常のポケモンバトルで負う怪我の範囲を大きく超えてしまっていた。いったい、何故こんな事に……。」
「……そうでしたわね。」
看護婦の言った事については、ナツキも前々から気がかりになっていた。
「(しかもポポッコは、トレーナーが目を離したわずかな時間の間に、あんな酷い怪我を負ってしまっていたと聞きましたわ。どうして、こんな事に……。)」
いてもたってもいられず、ナツキはある事を思い立つ。そして、側に立っていた看護婦に話しかけた。
「あの……」
「ん? なあに、ナツキちゃん。」
「申し訳ございませんけど……明日はナースエイドの仕事を、休ませていただいても宜しいでしょうか?」
「え、そりゃ構わないけれど。ナツキちゃん、何か用事でもできたの?」
「はい、ちょっと……。」
翌日、休暇をもらったナツキは、人目を忍ぶかのようにコッソリ外出した。彼女の目的地は、これと言って特にない。ただ、今日は町中を一通り歩き回ってみるつもりらしい。
「ひょっとしたら、怪我の原因になるような物が町中にあるのかも知れませんわ。今までこんな事って無かったから、あまり信じられませんけれど……。」
そう、ナツキは怪我の原因になりそうな物を調査してみようと思い付いたのだ。
何か原因になる物が存在するかも……そんな考えの元で。
ただ、ナツキは独り言でも言ってるように、そんな物があるとは少し信じられなかった。しかし、頭にもう1つ浮かんでいた『恐ろしい可能性』に比べれば彼女の中では信憑性はまだ高かったし、その『恐ろしい可能性』という物をとても信じられる気もしなかった。だからこそ、ナツキは『町中に重傷を負うような原因が存在する』という自分の考えの信憑性を、無意識の内に強くしていたのかも知れない。
……ナツキはまず、ポポッコが重傷を負ったというフレンドリーショップの近くに来てみた。あのポポッコは、トレーナーの少女が買い物をする際にポポッコ1匹にして遊ばせ、その間に重傷を負ったと聞いていた。そこでナツキは、まずココに危険が潜んでいるのではないかと思ったのだ。
「う〜ん、やっぱりこれといって危険な物は無さそうですわね。」
口元に手を当てて、ナツキはそう言う。
大体、ここは店の前だけあって人通りも多い。何かしらの重大な危険が潜んでいたなら、ポケモンよりも人の方が怪我を負い易いだろう。もちろんここ最近、そんなニュースや噂は流れてない。
「……あら? こっちに道があるみたいですわね。」
たまたまナツキが見つけたのは、フレンドリーショップの裏手から続く道だった。人通りの多いこの辺り一帯において、唯一人目につきにくい場所のようだ。
「ちょ、ちょっと薄暗くって怖い感じですわ……。」
両手を胸の前で丸めて、ちょっぴり怯えるような仕草をするナツキ。
「この先には、何があるのでしょうか? もしこの道に危険が潜んでいるとすれば、人が気づきにくくても無理ないハズですわ。」
そして同時に、ここなら人目につかず、もう1つの『恐ろしい可能性』というのも実行されやすい。、
「……ッ!!」
ハッと思い直したナツキは、即座にぶるぶると首を左右に振る。
いずれにせよ、ここまで来てナツキは後にも引けない。恐る恐る……ナツキは、その暗がりの道を歩き出した。
両手から建物の壁で挟まれているこの道では、歩くたびに足音が壁から跳ね返るので恐怖をより増大させる。それでもナツキは、ゴクリと唾を飲みつつも、一歩一歩ゆっくり歩き進んで行った。
「……あ!」
やがて、ナツキの目の前に何かが見えた。
一面に広がる青色が、ゆらゆらと波打つ光景……海である。
「わぁ〜、綺麗な海ですわ♪ この道から、こんな所に出られるだなんて思ってもみませんでしたわね。」
彼女の心の中から、一気に恐怖は拭い去られたようだった。……が、その直後!
「……ッ!! あ、あれは一体!?」
その時、ナツキの目には信じられない光景が入ってきた。1匹のポケモンを痛めつける、3人の少年少女達の光景が!!
「ま、まさか……。」
この瞬間、ナツキは自分の頭の中に浮かんでいた、もう1つの『恐ろしい可能性』を肯定せずにはいられなかった。それはつまり、『ポケモンを故意に傷つけた残忍な者達が存在するかも知れない』という事だった!!
「そ、そんな、まさか……信じられませんわ。でも……クッ!!」
ナツキはいてもたってもいられず、走り出した。言うまでもなく、ナツキはポケモンの事が大好きだ。そんなポケモンを故意に、無理矢理に傷つけようとする人がいるなど、彼女は信じたくなかった。しかし現に目の前に、そんな者達がいる。これではナツキも、それを信じない訳にもいかなかった。それはナツキにとって、深い哀しみである事に他ならない。
「やめて……やめてくださいッ!!」
ポケモンを痛めつける少年少女と、痛めつけられている1匹のポケモンの間に、ナツキは強引に割り込んだ。下手すれば自分が傷つく可能性も十分にあったが、それすらかえりみず……。幸い、ナツキに気づいた3人の少年少女達は攻撃の手を止めた。
「ハァ……ハァ……。」
息切れをしてうつむくナツキに、3人の内の1人が冷たく言い放つ。
「あぁ? 何だ、テメーは。」
「なんで……なんで、こんな事してるんですかッ!?」
キッと睨み返して、ナツキは叫ぶ。その眼差しは、若干だが涙目混じりである。
「いや、このポケモンが言う事を聞かねぇからさ。ちょっと痛めつけてやっただけだよ。せっかく、この水ポケモンに乗って海にこれでも撒き散らしてみようかなと思ったのによ。」
そう言って少年がナツキに見せたのは、どす黒い液体の入ったビニール袋。もちろんナツキは、それが何なのかを訪ねる。
「い、一体何なんですか、それは?」
「毒。」
「……ッ!!? なんて……事を……」
ナツキは、背筋がゾッとした。同時に、驚愕していた。そんなおぞましい事を自ら進んで、全くためらいもなさそうな様子で行おうとしてる人物が、目の前にいたのだから当然の反応である。
「俺達もポケモントレーナーだが、たまたま波乗りが使える奴が手持ちにいなくてね。偶然見かけたコイツに乗ろうとしたら、拒否されたんだよ。」
「あなた……ッ!! 一体、何のつもりなのです!?」
普段は穏便なナツキも、さすがに怒ったようだ。だが、相手は態度を変えない。
「俺達が何してようと、お前には関係無いだろ。いいから、どけよ。」
もちろん、そう言われて素直に動けるようなナツキではなかった。
続く
さて、次回で遂に物語完結です!! とうとう非道なトレーナー達と接触した、美少女ナースエイド:ナツキの運命は……? どうぞお楽しみに♪