注意:
 とある御方との約束で書いた、ポケスペって言う漫画のレッドとブルーという組み合わせでのカップリング小説です。
 これが嫌な方は戻る事をオススメします……今回の話は、僕の書いてる他の小説との関連性は一切ありませんし。
 なお、「こんなカップリング絶対ありえない」という苦情・文句・ツッコミ等は禁止。見たくない人は見ないでください、それだけです。

 ……あぁ。それと、実際の漫画のストーリー・設定とは若干違う所がある恐れもありますので、それもご了承くださいまし。

 

 

 

 『4日遅れのバレンタイン』

 

 

 

 カントー地方とジョウト地方。その、ちょうど境界線付近にそびえる、1つの山がある。
 数多くの高レベルなポケモン達が住まい、かなり手練れのトレーナーですら簡単には近寄らないと言われる地……シロガネ山。

「あ〜、もう! だんだん嫌になってきたわ」

 シロガネ山のふもとには、1件の建物が建っている。どこの町でも見かける、ポケモントレーナーにとっては無くてはならない施設だ。
 ここ……ポケモンセンターに、1人の少女が来ていた。身につけているのは、濃い紺色をしたワンピースに白の上着。そして、茶色のロングヘア。肩からは、黄色のショルダーバックを下げていた。年齢は、14、5歳といった所だろうか。センター内にいる客は彼女1人で、中はとても静かだった。

「ブルーさん。回復、済みましたよ」

「……あ。ありがと」

 不意に静寂をやぶったのは、ポケモンセンターを経営している看護婦さん。
 唯一、客そして来ていた少女は、『ブルー』という自分の名前を呼ばれて返事をする。そして、預けていたポケモン達のボールを受け取ると、それをスカートの腰辺りに装着させた。その様子を見ながら、ポケモンセンターの看護婦はブルーに尋ねる。

「ねぇ、あなたは何でまた、こんな所に?」

「え?」

 意表を突かれたような感じに、ブルーは感情のこもらない声を出した。

「見ての通り、このシロガネ山に来る人はほとんどいないわ。それだけ、ここの山を登ろうとするには力量が必要なの。大抵のトレーナーは、手出しできない位なんだから」

「……」

「それなのにブルーさんは、どうしてこの山を登ろうとしてるのか、ちょっと不思議でならなくってね。あぁ、もちろん答えたくないなら、無理に答えなくてもいいけれど」

「私も正直、こんな山を登りたいだなんて思ってないわ。山を登る途中で何度も手持ちポケモンが全滅しそうになって、そのたびこうやって戻ってきて……ハッキリ言って、嫌になって来た所」

 少し悲しそうな表情をして、ブルーは話した。

「だけど……」

 口を動かしながら、彼女は左手を下げていたショルダーバックにあてがう。いかにも、それが大事な物であると言いたげに。その様子を見て、看護婦もみなまで彼女の気持ちを理解した訳ではないが、何か深い事情があるのだろうと感覚的に悟った。

「……ブルーさん。ケガ、しないようにね」

 ブルーがポケモンセンターを出ると、シロガネ山が大きく構える姿が目に入る。それが彼女にとって、とてもとても大きな壁のように見えてならなかった。ここ数日、何度も越える事が出来なかった壁である。それでもなお、今また壁に挑戦しようとしている。だが、ブルーはこれまで何度も登山に失敗しいてた。

「今日こそ……今日こそ、登り切らないと。期限が、もう無い……!」

 ブルーは焦る気持ちを抑え込もうと、目を閉じ深呼吸をした。それからゆっくり目を開き、やがて一歩一歩その足を山へ向けて動かして行く。

「カメちゃん、いつでも外に出れるよう準備しててね。どこから、強い野生ポケモンが出てくるか分からないから」

 腰に付けたボールの中の1つ……カメックスが入ったモンスターボールに、ブルーはそっと話しかける。だが、敵の襲来は彼女の予想さえも上回る早さだった。突然、背後に気配を感じて、ブルーは振り返る。

「ヨーギラス……!」

 現れたポケモンの姿を確認し、相手の種類名を口にするブルー。ヨーギラスは相手の様子をうかがう事もなく、速攻で突っ込んできた。つまり逆に、ブルーに相手の様子をうかがわせる暇さえ与えないという訳である。だが、シロガネ山ではこれが普通。それだけ屈強なポケモン達が、群れを成して住んでいる所なのだ。1匹だけで出てきたヨーギラスなんて、全然マシな方。

「行くわよ、カメちゃん。ハイドロポンプ!」

 腰からボールを取り、投げつける。ボールが割れてカメックスが飛び出すと、両肩についた砲身から即座に水の弾丸が飛ぶ。ヨーギラスも回避しようと動いたが、かろうじてハイドロポンプは的中した。

「よし! その調子よ」

 ……が、油断するのは早かった。ここでは敵など、次から次へと出てくる。戦闘に勝利し気を抜いたブルーを、更に後ろからゴローンの群れが飛び出してきて、ブルーを襲撃する。

「……っっ!!?」

 ブルーは遅れながらも、慌てて別のボールを手に取り放つ。だが、今度は集団が相手だった。1匹なら隙をついた一撃で仕留められるが、集団で人海戦術の如く来られると、そうはいかない。ブルーの緊張感が、一気に増していった。

 

 

 

 それから、どれだけの時間が経っただろうか。ブルーはシロガネ山の中腹辺りまで到達していた。だが、体のあちこちに傷跡が出来ていて、彼女は膝をついて息切れをし続けていた。

「ハァ……ハァ……! うぅ、やっとここまで来たのに……。カメちゃん……?」

 彼女の側には、カメックスがたたずんでいる。このカメックスもまた、かなりズタボロにされていた。他のポケモンはブルーの腰についたボールに収まっていたが、実はこれまでの戦いで全員がほぼ戦闘不能。本当ならば、とっくに引き返していなければ危険な状況である。カメックスもそれを知ってか、ブルーの手を取り帰り道の方へと引っ張る。

「……カメちゃん……。帰れっているの……?」

 ブルーは、それを言ってから首を横に振った。

「駄目だよ……そんな。今日が……最後のチャンスなんだから……」

 そう、今日が最後のチャンス。ブルーは、そう念じ続けた。自分の心の中に、何度も何度も……。

「行かなきゃ……なんとしても……行か……な……」

 グラッと、世界が回るような気がした。否、それはブルーをめまい。それは、彼女の疲労がピークに達した合図。
 ……彼女は、その場で力尽きた……。

 

 

 

「もう、いくらなんでもムチャし過ぎよ!」

「……」

 シロガネ山ふもとのポケモンセンター。ブルーはベットの上で横になり、そのそばで看護婦が怒鳴っている。
 ブルーには、あれからの記憶が無い。気づいた時には、すでにここにいた。話によると、彼女のカメックスがたった1匹でブルーを背負い、ここまで連れてきてくれたんだとか。シロガネ山という危険な土地で無理をした事を看護婦に叱られていたが、ブルーは頭がぼーっとしていて、ほとんど耳に入らない。

「とにかく、もっと体を大事になさい。あなたのポケモン達だって、みんなあなたの事を心配しているはずよ」

「……ごめんなさい……」

「まぁ……とにかく今は、休む事ね。幸い大した傷も無いみたいだったけど、怪我が治るまでは外には出しませんからね」

 いつになく厳しい口調で言うと、看護婦は病室から出て行った。それを確認してから、ブルーは自分の寝るベットの近くにあった窓の、カーテンへと手をのばす。手につかんだカーテンを横にずらすと、外には夜の闇が広がっているのが確認できた。

「終わっちゃった……」

 ベットで横になったまま、か細い声でブルーは呟く。その悲しそうな瞳には、ほんの少しだけ雫が溜まっているようだった。

「どうしても、今日中に登りたかったのに。だから、あそこまで頑張って……。けど、間に合わなかった。もう、お終いね」

 

 

 

 ……それから、ブルーの傷は1日でほぼ完治。
 その日の朝、ブルーのカメックスは1匹でズンズンと歩いていた。

「ちょ、ちょっと! カメちゃん、どこ行くのよ? もう、帰るって言ってるのに……」

 カメックスを小走りで追いかけるブルー。彼女の方を振り返りながらカメックスは、山の頂上の方へ腕を向けて鳴いた。

「……え、登れっていうの?」

 ブルーの問いに、カメックスは頷く。

「だって……その日は過ぎちゃったもの。終わっちゃったのよ、もう。だから、帰るの。無駄骨に終わったけれど、しょうがないわ。今からじゃ、手遅れなんだから。ホントに、もう……いいのよ、このままでも。だって、しょうがないじゃない!」

 だがカメックスは、首を横に振ってブルーの腕を引っ張る。

「……手遅れじゃないって、言いたいの?」

 再び、カメックスは頷いた。

「カメちゃん……」

 ブルーは今一度、自分自身の心に聞いてみた。このままで、本当に満足か。
 ……否。その答えは、すぐに戻ってきた。そう、自分はまだ目的を達成していない。やりたかった事を、まだ実現していない。

「分かった……分かったわ、カメちゃん」

 ぎゅっと両手を拳にして握りしめ、笑顔でカメックスの顔を見上げた。

「私、行くわ。たとえ遅れてでも、きっとこの山を登り切ってみせる。そして……」

 と、そこで口ごもるが、次の言葉をブルーは元気よくカメックスに言った。

「……行こう、カメちゃん!」

 

 

 

 そして今、ブルーはようやくシロガネ山の山頂付近に来ていた。
 もちろん、あれからすぐにここまで到達した訳ではない。あれからも登山を失敗したりもして、結局予定よりも4日も遅れてしまっていた。それでも……ブルーはその日が過ぎてしまっていると分かっていても、あえて挑戦を続けてここまで来れたのである。

「……ぶるる。ちょっと、冷えるわね」

 現在、時刻は夜中。ブルーがいるのは、山にある森の中。山頂付近に来れたものの、ブルーはまだ目的を達成できていない。
 さすがに山の上ともなると、気温は低いようだ。ましてや、夜中ならばなおさら。ブルーは、もう少し厚着をすればよかったと少々後悔していた。今、一応たき火をして暖まっていたが、それも役不足に思える。

「どうにかして、暖まる方法は無いかしら。……あれ?」

 ふと、ブルーは何かに気づいた。草むらの向こうに、白いモヤモヤのような物が見えたのである。

「な、何? オバケ……じゃ、ないわよね?」

 恐る恐る、ブルーはモヤの方へと近づいていった。そっと草むらの向こうを覗くと、そこには白いモヤ……もとい、湯気がたちこめる、まるで池のようにお湯がたまった所があったのである。そう、温泉だ。

「わ〜♪ 湯加減、ちょうどいいじゃない」

 お湯に手を入れて、ブルーがその温泉の温度を確かめた。

「このままでいるのも寒いし……ちょっと、入ってみようかしら?」

 ブルーはそそくさと服を脱ぐと、それを綺麗にたたんでから湯に浸かる。やはりいい湯加減で、体の芯から暖まるようだ。
 ……そう言えば、聞いた事がある。シロガネ山に沸く温泉は非常に体によく、ケガ等の治療にも大きな効果を得られるという。……かつて、ブルーの『想い人』もここで治療した事があるというのを、その時ブルーはようやく思い出した。

「さ〜て、今日も疲れたからな。温泉でゆっくり休むか!」

「……!?」

 不意に、どこからか男の子の声が聞こえてくる。それも、ブルーがよく知る声……そう思った瞬間、草むらの向こうから少年が顔を出し、首まで温泉に浸かっていたブルーと見事に目が合う。

「……え゛」

「な゛っ!」

 みるみる顔が真っ赤になるブルー。相手も、そこにいた予想外の人物を見て動きが止まる。

「ブ、ブルー!? なんで、こ……」

「キャーっっ!! レッドのエッチーっっ!!」

 即座に叫ぶブルー。そして少年……レッドに向けて、すかさず両手でお湯を何度も何度もかけまくる。だが、大変なのがこの後だった。お湯をかけた方向には、たまたま先程ブルーがあたっていたたき火が位置しており、お湯はたき火にかかってしまったのだ。

「わ゛〜、バカ! この温泉の湯は、可燃性が強くて……」

「……え? え?」

 ゴオォォォッ!! たちまち、たき火の炎が巨大化し、周囲の木々を焼き始めた。実はこれが、シロガネ山温泉の湯が持つ特別な特徴。水のようにサラサラなのに、火がつくと大きく燃え上がってしまう所はまるで油の如く。故にこの温泉、火気厳禁なのだ。

「やばい! 火を消せ、水だ!」

「カ、カメちゃん出てきて! 早く早く!」

 かくして2人は、慌てて消火活動に回る。水ポケモンを繰り出し、しばし山火事の危機と戦い続けるのだった。

「ゼェ……ゼェ……」

「ハァ……ハァ……」

 ……やがて、ようやく2人は消火しきった。もはやどちらもヘトヘトで、体を休めるどころか余計に疲れがたまった模様。もちろんブルーは、すでに衣服は身につけている。

「……で、ブルー。お前、何でまたこんな所に来てるんだよ?」

 レッドが、最初に思い浮かんだ疑問をぶつけた。シロガネ山なんて滅多に人が寄りつく場所ではないので、当たり前と言えば当たり前である。だが、ブルーは不機嫌そうにレッドに言葉を返す。

「レッドが悪いのよ。こんな所に、いるもんだから……!」

「何だよ、それ……。俺は、ここでずっと修行を積んでるんだよ。前にケガの後遺症を治療しに、ここの温泉まで来てた事もあったけどな。このシロガネ山のポケモンは屈強なのばかりだから、俺にとっては修行のもってこいの場所だからな」

「……ふ〜ん。レッドって、ホントに元気だけが取り柄よね」

「悪かったな」

 ブルーに言われて、不機嫌そうに返すレッド。それからしばらく間を置いて、ブルーが自分のショルダーバックを手に取り、中から何かを取りだした。どうやら、包みになっている物のようだ。首を傾げて、レッドはそれを尋ねる。

「? ブルー、何だそれ?」

「……あげる」

「は?」

 突然に『くれる』と言われても、レッドには訳が分からない。だがブルーは、強引にレッドの手にそれを持たせた。

「お、おい!」

「差し入れだと思って、受け取って。……私、帰るわ」

「帰るって、待てよブルー! お前、一体何しに来たんだ?」

 こんな所まで、わざわざ差し入れを持ってくるだけなんて明らかにおかしい。レッドは別の何か目的があるのだろうと思ったが、ブルーは答えずにきびすを返す。そのまま歩いて行ってしまう様子をレッドは見て、本当にこれだけで帰ってしまうのかと思った。

「ブルー……?」

「……レッド」

 レッドが、ブルーの名前をもう1度だけ呼ぶ。するとブルーはふと足を止め、後ろを向いたままレッドを呼んだ。

「レッド。修行はいいけど……ケガ、しないでね」

「え? あ、あぁ」

 その会話を最後に、ブルーは結局それで帰ってしまうのだった。不思議そうな面持ちで、レッドはしばし呆然とする。やがてブルーに渡された包みが目にとまり、とりあえず開けてみる事に。するとレッドは、いくつかの黒い塊が入っているを見た。

「……チョコレート? それも、これって手作りじゃ……?」

 中に入ってた物を確認し、レッドは改めて驚いた。と同時に、一緒に添えられていた手紙の存在に気づく。もちろんレッドは、折りたたまれたそれを開いて、すぐに内容を読んでみる。

 

―――レッドへ

―――突然こんなプレゼントして、ビックリした?
―――でも……せっかく作ったんだから、ちゃんと食べてよね。
―――美味しいかどうかは、正直自信無いけれど。
―――本当は綺麗にラッピングして渡すべきなんだろうけど、そういうのってよく分からなくて……。
―――なんか雑な包みになっちゃって、悪かったわね。

―――……本当は、4日前までに渡したかったな。
―――遅れちゃったけど、これでも来るまでに苦労したわよ。
―――その気持ちだけでも、分かってね?

―――愛をこめて……    ☆ブルー☆

 

「今日は2月18日だから、4日前って……バレンタインか」

 レッドは、ようやくブルーの行動とその意図を理解した。そして、こう独り言を呟く。

「……1ヶ月弱したら、マサラタウンに帰らなきゃな」

 それは、『お返しの日』を想定しての言葉だった。

 

 おわり

 

 バレンタインより4日遅れて完成した小説です……。故に、ブルーがチョコを渡すのも4日遅れという方向性に(え゛)。

 ブルーの口調とか、正直自信ありません(汗)。ちなみに手紙の文章も適当に作った物ですが、最後の1行だけはポケスペ第2巻を参考にして書きました。「ぶるる」の言葉も、なぜかポケスペ第3巻より。
 シロガネ山の温泉についての設定は、ポケスペのをそのまま使いました。あれって、思いっきり山火事になりかねないよな(何)。ポケスペでは最終決戦後にレッドはゴールドと共にシロガネ山に修行しに行きますが、この話ではゴールドがいるのかどうかは謎です。とりあえずオジャマムシになりそうだったので、話の中には登場させず(爆)。

 まぁ……大体、そんなトコですね。